IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第59話 あの死神を撃て!(前編)

遠くで渦巻く大きな雲を尻目にIS学園の領域から一目散に離脱した紅椿は空を貫く赤い彗星となっていた。

IS学園を目指す際は日本政府が電波妨害の影響で発令した緊急配備の範囲に気を付けて進んだが、帰路となる今は離脱を最優先として警戒網は無視している。

日本政府が紅椿の妨害に動くより早く領域からでなければ取り返しのつかない事態を招く恐れがある。

後ろ髪引かれる思いが無いと言えば嘘になる。一夏の叫びが届いていたも関わらず箒は意図的に振り払ったのだから。

残してきた一夏やユウが気にならないはずもなのだが、あの篠ノ之 束が自ら失態を表明した以上、構っている余裕はない。例え鈴音や千冬に恨みを買い、一夏と対話を本心で望んでいようともだ。

ブルーディスティニーと紅椿が二機揃って離脱すれば当然ながらIS学園側からも日本政府側からも追手が掛かるのは明白だが、ブルーと紅椿が別行動を取れば優先されるのは死神と称されるブルーだ。

束への道筋を辿るのであれば本来優先すべきは紅椿であるが、戦力を二分化して対処出来る程に蒼い死神をIS学園は甘く見ていない。

故に、箒が取る手段は日本政府が紅椿に対し行動を開始する前に領空を突破するしかない。黒と青が立ち塞がろうともだ。

 

視線の先、ハイパーセンサーが捉えているシュヴァルツェア・レーゲンとブルーティアーズの二機。銀の福音の際には共闘したが、あくまで目的が一致した為の一時的なものだ。

勢い任せに無視して突破する手もあるが、狙撃特化型のブルーティアーズがいる以上避けた方が良い選択肢だろう。

おまけに箒は存ぜぬ事だが、今のブルーティアーズは紅椿に負けないだけの速度を有しているのだから逃げの一手は悪手に他ならず、勝敗はともかく束の立場を考慮すれば問答無用で攻撃するのも好ましくない。

結果的に箒は目の前のIS二機相手に行動らしい行動も取れず、十メートル前後の距離で速度を落とし止まるしかなかった。

 

「止まってくれて何よりだ。銀の福音との戦い以来だな、篠ノ之 箒」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「ほぅ、名前を憶えてくれているとは光栄だな」

 

二機のIS、それも代表候補生二人となれば戦闘経験が決して多いとは言えない箒が正面突破を試みるには少々苦しいと言うのもあるが、箒はこの二人を無碍に扱えない。

一夏と繋がりのある実力者は束とユウがピックアップしており、千冬を除けばラウラはその筆頭だ。ブルーに懸命に食い下がったセシリアやシャルロットも同様だが、生身での戦闘能力も考慮し純粋な戦力で考えれば当然の対象。

この場に立ち塞がるのが日本政府側のISであれば違う形になったかもしれないが、ラウラとセシリアとなれば一考を案じる理由としては十分だ。

 

「止まってくれたと言う事は戦う意思はないと考えて良いか? こちらとしても出来れば力尽くは避けたいが」

「何の用だ?」

 

二対一の状況と言えど箒は臨戦態勢を解いていない。それはラウラ達も同じだが、箒には急ぐ理由がある。

 

「簡単な事だ、お前達の目的が知りたい。都合よく一人になってくれたからな、卑怯とは言ってくれるなよ?」

「…………」

 

ラウラの問い掛けに対する反論はない。ブルーの行動を鑑みれば待ち伏せされたから卑怯と罵れるはずもなく、高圧的なラウラの態度も口上にて相手の逃げ道を塞いだ上で情報を引き出す話術の一つと言えなくもない。

 

「IS学園に手を貸してくれた事は一人の生徒として素直に感謝するがな」

 

それは混じりっ気のないラウラの本心であるが、眼帯で隠れていない片目から放たれる鋭利な刃物のような視線は箒の言動を一瞬たりとも見逃すまいと張り巡らされている。

箒から言葉はなく、セシリアは口を挟まない。傍から見ればラウラの一人問答だが、代表候補生の言葉は国の言葉と取られてもおかしくなく、箒の言葉はテロリストの言葉とされても文句は言えない。この場における三人の言葉は公式の場におけるものでないにしても、軽くはない。

押し問答と言ってしまえばそれまでだが、生憎と箒はラウラの質問に対する答えを持っておらず、純粋に一夏やIS学園を守る為に助っ人に参じたまでだ。

 

不意に箒が視線をズラす、向ける先は太平洋の遥か先、ハイパーセンサーでも捉えるのが困難な水平線の一部で光が煌めく。

 

「今何か……。まさかっ!」

「篠ノ之 箒?」

「いえ、ラウラさん、少し待って下さい」

 

箒の視線の先を追ったセシリアのブリリアント・クリアランスが異変を捉えており閉じていた口を開く。

 

「これは、戦闘光? いえ、海中での爆発光でしょうか」

「見えるのか!?」

「流石に少し距離がありますから、何となく程度ですわ」

 

食い付く箒に答えたセシリアの言葉は箒に覚悟を促すに十分だった。姉からの非常事態宣言と太平洋で行われているであろう様相から辿り着く答えは限られてくる。

元々ハイパーセンサーは宇宙での活動を視野に入れて設計されているが、今では大気圏内での使用が前提だ。沖合の遥か先まで認識するのは容易ではない。

だからこそ決断には覚悟が必要で、箒には失策を恐れる必要もある。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前の質問に答えられるかどうかは分からんが、ついて来ると良い。答えはきっとそこにある」

「なに?」

「行きましょうラウラさん。行かねばならない気がします」

 

ブリリアント・クリアランスの千里眼が水平線の先に何を見ているのかを知る術はないが、その性能を疑う余地はない。

視線を固定したままセシリアが同行を促したとなればラウラにこれ以上問答を続ける理由はなかった。

 

「分かった。行け、篠ノ之 箒、我々は勝手に後を追わせてもらう」

「あぁ」

 

頷いた箒が紅椿の展開装甲を稼働させ加速に入る。同じくブルーティアーズも宙を蹴り噴き上げたブーストが最速領域に一瞬で到達する。

 

「ふむ、仕切ったつもりだが、この姿ではどうにも締まらんな」

 

そう呟くラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは大型化した体躯をワイヤーで固定されブルーティアーズに引きずられるように牽引されているのだから無理もない。

 

 

 

唯一の第四世代機である紅椿と第三世代最速と言って良いパッケージを装着したブルーティアーズ。

二機の最速が太平洋上空を貫いた先で目の当りにしたのは時折光る海面と時間差で小さく爆ぜ上がる水飛沫。

ブリリアント・クリアランスは別としてもハイパーセンサーと箒の直感で気付いた異変の正体に遭遇したのだ。

濁った海中の様子は空から詳細は把握出来ないが、箒の中に膨らむ嫌な予感は今も胸を圧迫し続けている。

 

「姉さん! ここにいるんですか!!」

≪やぁ、箒ちゃん。良い所に来てくれたね、自分で何とかするつもりだったんだけど……。まぁいいや、こっちの位置を転送するから左後方に向かって雨月を撃ち込んで≫

「了解です!」

 

僅かに遅れて海域に到着したセシリアとラウラが箒の会話から何が起こっているのか感じ取るには十分過ぎる。放たれる雨月の閃光が直線の軌跡を描き海を貫き飛沫を上げる。

 

「ラウラさん!」

「分かっている!」

 

ワイヤーを解除すると同時にパンツァー・カノニーアの両肩、突出した二門のレールカノンが轟音を上げて海中を穿つ。

続くセシリアも大型化したレーザーライフル、スターダスト・シューターを構え姿の見えぬ敵に向かい引き金を引く。

レーザーが水中に対し効果的な武器ではないと承知しているが、構わずに撃ち込む。

海中で起こっている未知の戦闘行為を想像し肝を冷やしはしたが、こちらの味方が第四世代機と天災だとすれば、怖い物はないと言っても過言ではなく、ラウラとセシリアはこの場において姿見えぬ敵に脅威を感じてはいなかった。

事実、僅か数秒の斉射にも関わらず≪オッケーオッケー、もう良いよ。撃ち方止め≫と海中の束よりストップ宣言が一方的に送られてくる。

ほぼ同時に海中から浮かび上がって来る人参色の大型潜水艦、あの日、銀の福音との戦いに割って入った束や蒼い死神の母艦と見られるもの。

 

≪参った参った、こっちは攻撃手段が無いって言うのに問答無用で撃って来るもんだからさ、デコイが尽きた時はどうしようかと思ったよ。次は攻撃手段も用意しておかないとね。機雷? やっぱり魚雷かな?≫

 

そして、やはりあの時と同じく潜水艦の前部甲板が水をかき分けながら大きく左右に開く。

今回はISさえ格納できる医療カプセルは姿を見せておらず、代わりにエプロンドレス姿の篠ノ之 束が姿を見せる。

 

「ありがとね箒ちゃん、降りておいでよ。ドイツのチビっちゃいのとイギリスの金髪はどうする? 助けてくれたお礼にお茶位なら出してあげるよ?」

 

口角を上げて笑う束、ラウラとセシリアはあの篠ノ之 束からの誘いに千載一遇のチャンスが転がり込んできたと実感するが、同時にいつの間にか死神との契約書が手の中に握らされていると冷や汗を感じずにはいられなかった。

 

「と、所で金髪とは私の事ですの? 随分と大雑把に分類された気が致しますわ」

 

 

 

 

紅椿の離脱したIS学園上空で睨みを利かせているブルーディスティニー。この場を支配しているのは間違いなく赤い光を放つ瞳の死神だ。

世界各国の優れたIS乗りと激闘を繰り広げた経験を持つ千冬でさえ肌を刺す重圧(プレッシャー)と張り裂けそうな緊張感が全身を捉えて離さない。

今すぐにでも膝をついて眠りに落ちたい、この場から逃げ出したいと思っているのは一人や二人ではないだろう。

それでもこの場にいる戦士達に引き下がるつもりは毛頭なく、無理にでも奮い立たせた視線で気丈にも死神を見据えている。

千冬の内心としては一夏が落とされた怒りも確かに渦巻いているが、蒼い死神が束とつながり本当の意味で敵ではないと確信に近いレベルで理解しているのだから複雑だ。

もしかしたら敵ではないのかもしれないと頭の片隅で思い始めている鈴音や裏事情に独自の情報網を持つ楯無も抱える事情はそれぞれだが、相手が対話に応じるつもりがなく、こちらも引き下がれないのであれば衝突する以外に道はない。

 

全方位を囲まれているユウは一夏に受けた一撃の衝撃が残る腕に感じる痺れと重みを確かめながら「やはり姉弟だな」とISだからこそ感じる感想を浮かべてた。

EXAMこそ使わなかったがユウの中で一夏に対する評価は決して低くない。戦いに対する覚悟や経験値でこそ実戦経験者と雲泥の差はあるが、敵と相対した際に踏み込む勇気は時として勝利を呼び込む鍵となる。

かつて月下の夜に蒼い死神と遭遇し、戦い退けたユウは勇気と無謀が紙一重である事を知っている。あの場で一夏が取った判断は無謀ではあるが、IS学園側にブルーは敵だと改めて認識させた英断だ。

ブルーがIS学園に対して行う三度目の乱入。一夏と刃を交えるのも三度目であり、何れも一夏が疲弊した場での戦いだったが、現状でユウが一対多を呑んでいるように卑怯だと糾弾される言われはない。

むしろ今回の目的はIS学園の守りであり敵対する意図はなく、束側に不測の事態が発生しなければ逃走の算段はあったのだ。

結果的にそれは叶わなかったが、実戦におけるイレギュラーは致し方ない。先に述べた月下の出撃を思い出せば不運を嘆くにはまだ早い。

思わず吐きたくなる溜息を飲み込み、戦意は途切れさせない。何処からか「さぁて、生本番と行きますか」と下品な台詞が聞こえたような気もするが、被りを振ってユウは忘れる事にする。

既にEXAMは発動しており周囲のISから発せられる戦う意志が指向性を持って迫って来ている。

両腕のシールドはそのままにマシンガンを量子格納、両手にビームサーベルを展開。ビームライフルはシールドの内側にマウントしておくのも忘れない。

残る武装はバルカンとハンドグレネード、支援の無い状態では少々心許ないと言えなくもないが、切り開く為には戦うしかない。

各々が思惑を孕みながらも、火蓋が切って落ちるのを止める者はいないのだから。

 

先手は千冬。

打鉄乗りや楯無も動こうとしていたが、両者が呆気に取られる程の神速を持ってブルーに接敵した千冬の高速移動は芸術の域に達している。

繰り出されたのは瞬時加速ではない、一零停止と呼ばれるISの基礎から成り立つ高速移動の挙動の一つ。ISの基本は言うまでもなく移動と攻撃。その間に入る停止に重点においた一連の動作の概念の一種と言っても良い。

一と零、動と静、動いているか止まっているか。停止と銘打ってはいるが、言ってしまえば急発進と急停止だ。

爆発的なエネルギーを消費し圧倒的な加速力と突破力を得る瞬時加速程の攻撃力に恩恵はないが、高速移動の極限に到達した者が扱う一零停止は擬似的な瞬間移動と変わらない。

簪や一夏は瞬時加速を洗礼する事で予備動作を極力省いたが、一零停止は瞬時加速のように排出したエネルギーを吸い込んで爆発させているわけではない。本当の意味で予備動作を必要としないのだ。

 

「どっちも立派に化物よ」

 

機を狙い突貫しようとしていた鈴音が思わず漏らす。

何せ国家代表である楯無でさえ気付けなかった千冬の強襲をブルーは正面から受け止めているのだ。

鈍く輝く銀色の打鉄の近接ブレードを桃色に輝く二本のビームサーベルを交え、世界最強の放つ最速の一撃を防いでいた。

 

「これで二度目だな」

 

眼前でブルーに刃を突き立てる千冬の言葉に「何が」と聞く必要はない。

周囲を囲まれた状態にも関わらず射撃武器を収めビームサーベルを両手に展開したのは初手が千冬との斬り合いになると予測出来ていたからに過ぎない。

以前千冬と切り合った際に世界最強の名が偽りではないとユウも実感しており、MSとISの違いを教え込まれたからだ。

正面から刃を交えてぶつかる千冬の視線には敵意や闘志だけでなく真意を探ろうとする意図が見て取れる。

が、EXAMの赤い光は容赦なく千冬の視界を赤く塗り替え飲み込まんと無機質な輝きを放っている。

 

「簡単にやれると思うなよ!」

 

赤く溶け合う視線から千冬は更に前進、両手で握り込んだ刃でブルーを押し込む。

その姿は先程一夏の刃をシールドで押し返したブルーの行為をやり返しているようにも思えるのは気のせいではないだろう。

僅かに開く二機の距離、その隙間を見逃す周囲ではない。

 

「邪魔するぜ、ブリュンヒルデ!」

「貴女の腕を疑うわけではありませんが、アレと戦う理由は我々にもある」

 

横合いから前衛三機、後衛三機の連携で突っ込んだのは打鉄乗り、面子も機体性能も違うが銀の福音さえ仕留めた近接と射撃を織り交ぜた火力重視の突撃隊形。

銀の福音の時と違うのは一方向からの突撃ではなく包囲した三方向からの時間差突撃である事。

 

「……遅い」

 

ユウの声は外に漏れず、呟かれた言葉は誰にも聞こえない。

数に限りのあるISでコンビネーションを実戦レベルにまで昇華させる事は並大抵ではなく、後方からのライフル射撃と近接ブレードを構えた六機連携は決して未熟ではない。

実戦経験と言う意味においては打鉄乗りは千冬をも上回るかもしれないが、ユウは更にその上を行く。

遠目から見れば横合いからの不意打ちは完璧な形であるが、EXAMが戦場全体を掌握している以上、簡単に虚はつけない。

そういう意味では学年別トーナメント時の一夏の奇策は見事であったと言っても良いのだろう。

 

三方向から一斉に突っ込む打鉄の連携は完璧だ。僅かに時間差を作り完全な同期を取らない事で相手に間合いを読ませない工夫もなされている。

それは結局の所、一対一が超スピードで展開されるに過ぎず、射撃はシールドで防ぎながら一機目の前衛をビームサーベルでいなし、二機目を蹴り飛ばす。

前二人が一瞬で弾かれ三機目に浮かんだ動揺をEXAMもユウも見逃さず、避けるのでも倒すのでもなく受け止めその頭を掴み上げ、打鉄自身を盾とする。

殺到する弾丸が三機目の打鉄に集中し悲鳴を上げる間すら許されない。三機目の打鉄乗りが失われそうになる意識で最後に見たのはビームサーベルを振りかぶる死神の姿。

鮮烈に輝く赤い瞳を前に戦場を駆け抜けた経験のある女戦士の戦意が折れる。

 

「なっ」「くそっ!」

 

自信を持って繰り出した攻撃を軽く捌かれた前衛の二機が即座に反転した時には頭を掴まれていた打鉄が無造作に投げ捨てられる光景。

 

「射撃を止めて、味方に当たるわ!」

 

最後尾で最大火力を誇るクアッド・ファランクスを展開している山田先生は射撃体勢を維持しているが、状況的に止む無しと判断した後衛の打鉄乗り達は射撃を中断、戦線に加わる為に近接ブレードを展開する。

声を上げた楯無が蒼流旋を構え突貫、対複合装甲用の超振動薙刀である夢現を構えた簪が逆サイドに回り、上空からは千冬が大上段から刃を構え目標を斬撃領域に収めている。更に真下から刀刃仕様の双天牙月を構えた鈴音が甲龍のフォルムも手伝い弾丸のように駆け上っていく。

打鉄乗り達の体勢は未だ整っていないが、四機のISによる前後上下からの攻撃に死角はないと思われるが、僅かに視線を巡らせたブルーは足元にグレネードを一つ投げ落とす。

 

「そんなもんに当たんないわよ!」

 

軽く身を反らす鈴音にグレネードは当たらないが、上空のブルーはシールドにマウントしてあったビームライフルをグレネードを投げると同時に構えている。

本来は量子格納を持つISに外部武装をマウントする必要性はないのだが、MS乗りとしての習慣が根強く残るユウは高速切替の取得を困難と割り切っていた。

高速接近するISがいるにも関わらず、無駄のない動作でライフルを取り出し構える事が出来たのだから、ユウの判断は正しかったと言える。

銃口が煌めくと同時に射出させた光線の狙いは甲龍ではなく、その横。すれ違いざまのグレネードを撃ち抜く。

 

「え?」

 

意図を理解した瞬間には真横から襲い来る爆発と閃光に甲龍が弾き飛ばされる。

ダウンサイズし威力が低下していると言っても篠ノ之 束が作った対IS用のグレネードだ。直撃でなくとも荒れ狂う暴風は言葉にするまでもない猛威を振るう。

落下し、二度ほど地面を跳ねた後、EXAMを目の当りにして戦意を失い地面に降り立っていた三年生のラファール・リヴァイヴが甲龍を受け止める。

 

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です、あんにゃろう」

 

苦しげに顔を歪めながらも双天牙月を支えに立ち上がる鈴音が視線を上げた先では異なる方向から責め立てる三機のISとそれをシールドとビームサーベルで捌くブルーの姿。

正面から大型ランスを用いて力尽くで押し込んでいるミステリアス・レイディの遠近両立武器、蒼流旋はガトリング砲を内蔵した回転衝角でありビームサーベルだろうがシールドだろうが防がれる度に唸り声と共に敵を削り取る攻撃力を有しているのだが、単純な馬力勝負では押し負ける結果になり楯無が想定している程の成果は上がっていない。

位置的には背後を取った簪も同様だ。振動する刃を持つ薙刀である夢現は打鉄弐式の基本装備の中にある唯一の近接武器、射程距離も振動して破壊力を増す構造も姉の装備と似通っている辺り血筋を感じる所だ。元々薙刀の取り扱いには長けており、長い獲物を自在に振り回しているがシールドの壁を突破出来ずにいた。以前戦った際は打鉄であり、今は専用機になり基本性能も大幅に上昇しているにも関わらずだ。

もう一機、ブルーの更に上空からの奇襲から流れるような連撃に派生した千冬の動きは流石の一言だ。間合いの長い更識姉妹との連携を心掛け大振りな攻撃こそしていないが、二連、三連、六連と細かな斬撃を繰り出している。

楯無が大きくランスを突き出せば残る二機は手数で責め立てブルーの退路を阻み、簪が勢いを乗せた薙刀を薙ぎ払えば残る二機が上下から挟み込み、千冬が必殺の一撃を叩き込むのであれば僅かに距離を取り牽制の姿勢に入る。

個々の戦闘能力も言わずもがなだが、即席のチームとしては文句なしの出来栄え。

何れも決定打には至っていないが一夏の与えた一撃も無駄ではなく繰り返され蓄積されていくダメージがブルーのシールドに小さな亀裂を作っているのを三人は見逃していない。

が、それ以上に三人の顔色は焦りの色合いが濃く出ている。

 

空中戦が基本のISにおいて上下の空間は重要だ、本来人間が反応出来る位置ではない上下からの攻撃もISであればありえるのだが、挟撃となれば人間の対処出来るレベルを大きく超える。

が、EXAMの恩恵もあるが、ユウは宇宙空間での戦闘経験も後押しとなり上下左右全方位に神経を巡らせるのが当たり前になっていた。

打鉄乗りの連携も、三人の攻勢も、沈黙を貫く蒼い死神に有効に働いてはいないのは一目瞭然。

数の優位性と遠近の両立、一見すればとてつもなく有利なIS学園側の立場、あの蒼い死神の堅牢な守りに一部とは言え傷を与えているのだから上々と言えなくもない。

それでもだ、ISの性能、搭乗者の技量も関係ない。赤い視線が向けられる度に数に意味など無いと囁かれている気がしてならない。

未来を見透かす目がなくとも、一機ずつ落とされていく悪夢が脳裏を過って仕方がなかった。

 

(打鉄乗りも加えた全機同時に、いえ、即席でこれ以上人数を増やせば同士討ちになる。どうする、どうすればいいの?)

(今は勢いで誤魔化しているが余力があるとは言い難い。このままでは何れ……。世界最強が聞いて呆れる)

 

頭の中で戦況を組み立てる楯無と千冬の思考は何れも勝機が薄いと結論付けている。

たった二本のビームサーベル。その二本が作り上げる間合いがとてつもなく遠い。

状況は有利、それは揺るがないが内心の不安を払拭する材料を世界最強も学園最強も持ち合わせていなかった。




箒側とユウ側でそれぞれまとめた話にしようかとも思いましたが、区切りが良かったので並列で行こうと思います。
一零停止について独自で解釈。瞬時加速の劣化版ですがエネルギーを消費せずに隙が少ない、移動術の一種としています。

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