IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

56 / 128
第56話 策謀の宙域

IS学園における安全神話の瓦解した運命の日と銘打っても大げさではないその日、彼女はいつものように目を覚ました。

彼女、五反田 蘭の朝は早い。夏休みであろうとも生活のリズムは変わらず、目指すべき進学先で必要とされるISについても学ぶ内容が多々あり、在籍している中学校の仕事も疎かにはしていない。

ISを学ぶ少女には大きく分け二種類があり、軍事力としてISを必要とする者と競技として華々しく空を舞う夢を見る者だ。

更識や軍事と競技の両方を学ぶ特殊な事情を持つ者もいるが、蘭の場合は完全な後者。大歓声の中で空を飛び回る世の花形とも呼べる競技としてのISに憧れている一人の少女。

同じように夢見る少女は世界中におり、軍事力としてのISを知る少女の方が稀なのだ。今年のIS学園一年生に特殊な人間が集まっているに過ぎない。

 

「……あれ?」

 

最初に感じた違和感は寝ぼけ眼で手に取った携帯電話。目覚まし時計を止めた後に自然に手にした携帯電話の電波状態を示すアンテナマークが最低ラインを行ったり来たりしている。

建物の中で電波状況が悪くなる場合はあるが、怪奇現象のように電波が乱れている。この時、日本全土が不安定な電波帯にあると寝起きの蘭は知る由もない。

 

 

 

妹と違い兄、五反田 弾の朝は早いとは言い難い。

実家が飲食店経営であり、手伝いや食事の兼ね合いで昼過ぎまで寝る日はあまりないが、用事もなく早起きをする性格はしていない。

だが、その日の朝は早かった。用事があったわけではなく、本当に偶然早く目が覚めたに過ぎない。それは何かを知らせる胸騒ぎだったのかもしれない。とは後の弾の考えだ。

ともかく弾はその日は早くに目が覚め二度寝する気分にもならず食堂となっている自宅一階へ歩みを進めるのだった。

飲食店経営と言っても喫茶店のように朝から繁盛する店ではない。本番は昼から夜にかけての営業だ。朝は仕込みの時間であり早朝ともなれば当然ながら営業時間外だ。

一度外を経由する造りの食堂に足を運んだ弾は仕込みをする祖父にして店主、五反田 厳の姿を確認。齢八十を越えるとは思えない筋肉隆々の肉体は孫の身として若干引く程に逞しい。

 

「弾か、早いな」

「おはよー」

 

五反田家の朝食は食堂ならではと言うべきか少々特殊だ。

その日もいつも通り自分で白米を炊飯器から用意し納豆と味噌汁を拝借。何を取ったのかを祖父に報告し客席を兼ねている食卓につく。

夏休み期間とあり弾が毎日朝食を取るわけではないが、食べる時にしっかり食べるが信条なのは家柄が関係しているのかもしれない。

妹と同じく本当に何気なく日常の動作の途中で異変に気付く。何気なくテレビを付けたはいいが、映像が異常に乱れ音も途切れ途切れとなっている。

五反田食堂の一角、天井から吊り下げられる形で鎮座している古いテレビはあくまで客の暇つぶし用であり、画質が重要視されるものではない。

身内である以上それは良く分かっているが、映像が出るまでたっぷり時間を掛けた後、映った早朝のニュース番組はモザイクをかき乱したようにぐちゃぐちゃだ。

 

「ついに寿命か?」

 

旧式のテレビ故に弾がそう思うのも無理はないのだが、断片的に聞こえて来る音声を繋ぎ合わせ、辛うじて聞き取れた「IS学園」の言葉が脳内に不安の一石を投じていた。

思い出したように取り出した携帯から一夏をコールしてみるが繋がらず、試しに自宅に掛けても同じ。ネットにさえ繋がらない。ほぼ直感だけにも関わらず、この段階で弾は異変が起きていると結論付けていた。

一夏が誘拐され暴力の前に砕けた心を見てしまった過去が唐突に脳裏に過り、どうしようもない嫌な予感が胸を掻き毟る。

 

「あれ、早いね。何か携帯が繋がらないんだけど、お兄は?」

 

弾を追うように食堂に姿を見せた妹の蘭だが、険しい弾の表情に「?」を頭上に浮かべている。

 

「お兄?」

 

上手く映らないテレビに視線を固定したまま弾は耳を傾けている。

断片的に聞こえて来るのは「IS」「電波」「落ち着いて」「安全」良く分からない内容だが安全を促しているのであれば逆の事態が起こっていると想像は難しくない。

一夏や鈴音が割と直情的な性格をしているのと同様、二人と親友の間柄である弾も思いたてば行動に移さねば気が済まないタイプだ。

 

「ちょっと出て来る」

 

半ば走るように弾は駆け出し店を飛び出す。食事途中で抜け出した為、後ろから厳が怒声を上げているが弾には聞こえていない。

 

日本政府は交通にも影響を与えている電波妨害は深刻だと捉えているが、ミサイル攻撃は全てIS学園を目指しており一先ずは国として安全な状態であると判断していた。

IS学園より安全な地が無いとされている以上、その判断自体は間違っておらず、全国の警察や軍関係者に非常線を指示しているだけで対策としては十分だった。

実はこの時、既にある程度通信は復帰していた。テレビは暫くすれば正常に戻ると思われ、電話に関しても不安定になった電波帯の余波で回線が混乱し電波が乱れているだけに過ぎない。

警察等が使う特殊な回線は既に復帰しており、弾の家のすぐ近くにも警察が待機している状態だった。早朝であり近隣住民に対し危機を煽る真似はせず、パトカーのパトランプも消灯させ非常時に備え待機している。

異変に気付いた弾が異常なのだと言ってしまえばそれまでだが、血相を変え駆け寄る一般市民に警察が簡単に事情を説明するのは当たり前の流れだった。

と言っても警察も詳細が分かっているわけではなく「電波妨害が引き起こされている」「IS学園が攻撃に晒されている」「安定しつつあるので落ち着いて下さい」警察の説明を要約すればそれだけだ。恐らくテレビでも同じような事を言っていたのだろう。

 

「一夏、お前も戦ってるのか……?」

 

鈴音と違い弾には直接友人を助ける術はない。

 

「負けんなよ」

 

届くかは分からないが出来るのは祈るだけ。

見上げた視線の先、肉眼で捉える事の出来ない高高度をミサイルが飛んでいる等と弾にも警察にも想像出来ていない。

 

 

 

 

IS学園に通う生徒達でもISに対する姿勢は様々だ。

蘭の思考と同じく競技として夢見る者やラウラのように軍事力として捉えている者、或いはファッション感覚で学ぶ者。各々が目標とする形は違うにしてもISを学ぶ為に進学先として選んだに違いはない。

当然ながら先に挙げた蘭のように入学前から学ぶ事を前提とし準備していた生徒が殆どだ、そんな面子から見れば一夏はヒヨっ子に他ならい。

千冬の関係や入学が決まったとなり独学で学んでいた期間は確かにあるが事前にIS学園を目指していた生徒達とは雲泥の差が生じるのが当たり前で、異議を挟む余地はない。

奇しくも一夏の周囲を取り囲んだのが実力の保証された代表候補生達であった事、本人の意図とは別に押し付けられる姉の名が織斑 一夏に対する評価が正当とは言い難いものにしてしまっていた。

だが、一年一組の面々や代表候補生たる少女達は知っている。

織斑 一夏は現状に甘んじて立ち止まっているだけの男ではないと。ブルーティアーズのビットを避ける為に、クラス代表達を相手に一撃を与える為に、代表候補生と立ち回る為に、積み重ねられた努力は一夏を裏切らない。

命を賭ける戦場に一夏の覚悟が伴うとは未だ思えないが、ISを使った移動と剣術。この二つに関して言うなれば一夏の実力は決して見劣りするものではない。

今この場においては射線軸を意識する必要も、相手の挙動を注視する必要もない。IS同士の戦いではなく、向かってくるミサイルを切り落とすだけならば、これ以上ない程に輝ける。

 

「うぉぉおお!!」

 

一閃、二閃、疲れの見え始めているIS乗りの弾幕の隙間を縫い飛来するミサイルを一夏が切り捨てる。

その様に驚嘆しているのは円陣を組むIS部隊の反対側で同じようにミサイルを切り捨てている千冬だけではない。教師も生徒も打鉄乗りでさえもが男の重ねてきた努力が開花する瞬間を目の当りにしていた。

 

「一年坊主に負けるなよ!」

「当たり前よ!」

 

結果的に二年、三年の生徒達は後輩の、しかもこの時代の男に活躍の場を持っていかれてなるものかと気力を高める。

移動にエネルギーは当然必要であるが、白式最大の特徴である零落白夜を使う必要はない。射撃武器も必要としないなら弾薬を気にする必要さえない。縦横無尽に駆け巡り剣閃が軌跡を描いていく。

ISを纏っているとは言え盾も持たずにミサイルに突貫していく様子は恐るべき胆力と評価して良いだろう。

しかし、剣で捌く範囲には限りがあり、エネルギーも考慮すれば無理はきかない。一夏と千冬の剣は最終防衛ラインに他ならないのだ。

当然ながら一夏達に全て頼るわけにはいかない。物量を押し返すに剣だけでは持ちこたえられはしないのだ。かつての白騎士にさえ優秀な射撃武器があった事からもそれは明らかだ。

 

「そろそろ、限界かしらねっ!」

 

最初から出ずっぱりであったミステリアス・レイディのエネルギー残量がレッドゾーンに到達しナノマシンの維持が難しくなる。

苦悶を浮かべる楯無の言葉とほぼ同時、下方から荷電粒子砲の光が空を貫きミサイルの一部を消し飛ばす、補給を済ませた強襲型の極みである打鉄弐式が飛来してきていた。

ミステリアス・レイディの立ち位置に代わり春雷と山嵐をスタンバイさせた状態で手にしたライフルを放ちつつ円陣に加わる。

 

「姉さん、補給に戻って」

「任せたわ」

 

パチンとウインクを飛ばして淑女が下降を開始。下りながらも周囲の様子を確認する事を忘れない。

空を舞う二機の騎士に鼓舞されて他のISも高い士気を維持してはいるが積る消耗を無視は出来ない。

全周囲に射撃を続けているラファール・リヴァイヴと打鉄。被弾こそしていないが、精神的疲れによりコントロールが安定しない者も出始めている。

一発でもミサイルが学園に落ちれば敗北と千冬も楯無も考えているが、同時に一機でもISを落とされればIS学園の安全性に疑いを落とす事になる。

ISによって守られていたIS学園がISをうまく使えずに防衛に苦戦を強いられているのが現状だ。世界最強と学園最強、二つの支柱がもし学園に残っていなかったらと思うと背筋が凍らずにいられなかった。

だが、状況は決して絶望だけではない。

迎撃、補給、交代、苦しい戦局が続いてはいるが繰り返せば何れ終わりは来る。未だ第十波は本格的に到達していないが、確かに光明を感じ取れてはいる。

勿論、それらの希望は現段階で確認出来ている第十波で攻撃が終わりだった時に限られるのは皆が分かっている事だ。実戦において常に最悪を想定するのは常だが、奮い立つ為に考えない事も必要なのだ。

 

≪第九波の消化率九割を確認、引き続き第十波に備えて下さい≫

 

喜報と悲報、告げられた虚の言葉は八百ものミサイルを捌いた喜びと更に八百のミサイルが向かってきている焦燥感を煽るもの。

世界最強が共に空にいる事実が気力を奮い立たせてくれているが、弾薬も体力も有限である以上、目に見えない気力で賄えるのは一時の奮戦に他ならない。

それでも、誰一人この場に諦めている者はいない。

 

「あと少しなんだ、負けるもんか」

「前を見て、単純に的に当てるだけよ。授業より簡単でしょう?」

「学生や教師が踏ん張ってるのに、プロが負けられるかよ!」

 

生徒、教師、打鉄乗り、歯を食いしばり銃を握る手に力を込める。早く終わってほしいと願うのではない、自分達の力で耐え凌ぎ終わらせる意思を途切れさせはしない。再び視界を覆い隠そうと迫りくるミサイルに向け再びトリガーを引き絞る。

一発たりとも通さない。勝利条件は変わっておらず、一夏と千冬が奮戦するならば射撃武器を使い圧倒的優位性を持つ自分達が少しでも数を減らすのだと、弾幕が再び空に展開される。

 

「左、弾幕が薄いぞ!」

「お姉さんにお任せってね!」

 

打鉄乗りの叱咤に補給を済ませたミステリアス・レイディが急浮上。水のヴェールを展開しつつガトリング砲を放つ。

爆破したミサイルの後ろから迫る別のミサイルを三年生が駆るラファール・リヴァイヴがライフルで狙い撃つ。手前を撃ち落としても油断しない構図が確かに出来上がっていた。

 

あと一手。

気力も実力も申し分なく、必要なのは戦線を維持させる体力。

状況の打破を求める為に楯無と千冬が思い描いている共通の考えは「あと一手何かあれば」と言うもの。

 

そして、それは訪れる。

赤い閃光が豪炎を伴い包囲網の一角を焼き払う。

 

「え?」

 

気付いた一夏が視線を向けた先に炎を上げる龍がいた。

望んでいた一手の到着に「よしっ」と小さく楯無が拳を握る。

夏休み期間の生徒に学園に戻るよう指示をする事は通常はありえないのだが、出撃前に投じた石は申し分ないタイミングで波紋を呼び寄せた。一夏を通して四人の代表候補生に取られた連絡は千冬も黙認している。

戦火に包まれた状況で一機の専用機の存在がいかに大きいかを改めて言うまでもないだろう。それが鍵となる存在の友人であるなら尚更だ。

 

「鈴か!」

「お待たせ、一夏」

「来てくれたんだな」

「約束したでしょ? 一夏のピンチには絶対駆けつけるってね!」

 

その身に宿るのは力であり、その胸に宿っている友との誓いは色褪せていない。

仮に専用機持ちの立場が鈴音ではなく弾であったとしても同じように一夏の力になっているに違いない。

強く握られる二刀一刃の双天牙月が二振り。従来の青龍刀仕様と刀刃仕様の二種類を左右に各々投擲。飛翔する斬撃は意思を持つ牙となり円を描きミサイルを砕く。

その間にも四つに増えた龍の顎が四方に豪炎を放ち、大型化した龍咆が雄叫びを上げる。

 

「中国代表候補生、凰 鈴音、これより戦線に加わります」

 

投げ飛ばし戻ってきた二つの双天牙月を受け取る鈴音の背後で砕かれたミサイル群が爆炎を上げた。

 

専用機、その言葉の持つ意味は重い。

数に限りのあるISの中で汎用性を捨てて個人に特化させる。競技用で考えるなら専用機でなければ世界大会の上位を狙うのは難しいが、軍事力として捉えた場合は話が変わる。

搭乗者に何かあった場合に専用機であればすぐに代えがきかないのだから当たり前だ。

もし戦時であった場合、毒、狙撃、不意打ち、いかなる方法であれ搭乗者が致命傷を負ってしまえば専用機は意味を成さなくなる。

基本的に専用機持ちは専用機を常備しており、非常時には緊急展開こそされるがメンテナンスや補給、一時的にでもISを手放す場面は探せば見つかるものだ。

だからこそ専用機持ちに敗北は許されず、軍力、武力として見るのであれば尚のこと。

甲龍一号機、量産型にして専用機を持つ鈴音はある意味で矛盾の術中にいると言っても間違いではないが、専用機乗りに課せられている条件は同じ。強さこそが必須なのだ。

そして、鈴音はその条件をものともせずクリアしている。他の代表候補生、或いは国家代表にも言える事だが、一夏でさえ輝きを増しているこの空域における専用機持ちは文句なしに強いと断言していい。

 

「さぁ、暴れるわよ、甲龍!」

 

円陣を組む射撃部隊に加わる事はせず、一夏や千冬と同じ遊撃の位置に鈴音も入るが、他の二人とは違うのは甲龍には龍咆はあると言う事。

射撃角度を選ばず、より広範囲に攻撃出来るようにと機能増幅攻撃特化パッケージ崩山が持つ最大の特徴である拡散衝撃砲が一帯を焼き払う。

 

 

 

 

時を同じくしてIS学園に急接近するISが二機。ブルーディスティニーと紅椿。

鈴音より早く行動を開始しており本当であれば到着はもう少し早い予定だったが、彼等には鈴音と違い隠密を有する必要があった。

途中で頭上を行くミサイルを落とす事も出来たが、それをしてしまえばステルス状態で行動している意味がなくなる。

国家テロリストとして指定されているブルーは日本国領内で必要以上に目立つわけにはいかない。故に、日本の警備に引っ掛からないよう慎重を喫してIS学園を目指していた。

逆に言ってしまえばIS学園の領内に入ってしまえば国家が介入する可能性は低くなる。

 

「ユウさん、IS学園領内に入りました。一夏達が戦っています」

「確認した」

 

ユウの音声は箒にしか聞こえず、万一にも声から搭乗者が男であると割り出される心配はない。

ステルスが働いており必要以上に近づかなければ気付かれる心配はないが、ここから先はある意味で賭けだ。

IS学園がブルーを敵とみなした場合はここまで来た意味もなく台無しになってしまう。

が、ユウはさしてその心配をしていなかった。

 

「本当に行くのですね?」

 

束の予想では勝率は八割、決して悪い数字ではない。

それでもこの戦いに介入する理由は、より勝率を確かなものにする為だとユウは言っていたが、出張れば新たな火種を注ぐ要素にもなりかねない事を箒は危惧している。

 

「あぁ、万一にも今IS学園を失うわけにはいかない。突入するぞ、口火を任せる」

「……了解です、私だって一夏を失いたくはありません」

 

半ば分かっていた答えに箒は頷きを返し二刀を抜く。

目標は頭上を飛び交うミサイル群であり攻撃すると同時に二機の存在はIS学園に知れ渡る事になる。

 

「行くぞ、紅椿……。今行くぞ、一夏!」

 

 

 

 

前触れもなくレーダーに現れた蒼と紅のシグナルにコントロールルームの布仏姉妹が目を丸くする。それが何を意味するのか望遠カメラを使うまでもなく理解する。

 

≪き、緊急! 接近するIS二機を確認、シグナルはブルーとレッド!≫

 

スピーカーから流れた虚の声に一瞬だけ新しいミサイル情報かと畏怖するものの内容を聞いて別の意味で驚く結果になる。

楯無や千冬が事実確認を行う前に、強大なエネルギー反応が戦場を薙ぎ払った。

 

「切り裂けぇぇえ!!」

 

声の発生源を確認するより早くミサイル群を文字通り切り裂く帯状のエネルギーの斬撃が走る。連鎖的に発生する爆発の中を二機のISが疾駆しIS学園とミサイル群の一角に割って入る。

その紅と蒼の姿に空域にいる全員が思わず思考回路を停止させるのも無理はないが、いち早く復帰した千冬が叱責の声を上げる。

 

「射撃を止めるな! 今はIS学園の防衛が最優先だ!!」

 

ハッと息を飲んだ全員が再度弾幕を貼り直す。簪との確執を抱えている楯無ですら現段階で現れた乱入者に敵対出来る状況ではないと瞬時に頭を切り替えていた。

舌打ちを漏らす打鉄乗り達の視線が乱入者、蒼い死神を睨み付けているが当のブルーはIS学園に背を向けたままミサイルと対峙し見向きもしていない。

蒼い死神の背後、打鉄乗りの視線から庇うように寄り添う箒が感情を押し殺した表情で二刀を構える。必要とあらばIS学園と敵対してでもユウを守る、箒にはその覚悟が既に備わっている。

 

「敵を間違えるな」

 

小さく聞こえたユウの声に箒は頷きを返しミサイルへ視線を移す。

いや、ユウが見ているのは正確にはミサイルではない。その奥で未だに姿を見せない傲慢なる敵を見据えている。

深い群青色をした堅牢な装甲、無機質に輝く瞳は本当に戦うべき悪意を見逃さない。

IS学園と蒼い死神。再び遭遇した彼等の出会いが戦乱を加速させていく。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。