IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第1章 哀戦士
第5話 対外折衝


IS学園一年一組。新入生を迎えた最初の一日目。

その話題は言うまでもなく世界で初めてISに乗る事の出来る男性が独占していた。

 

織斑 一夏。

その名前は一躍して世界中を飛び交っていた。

 

針のむしろとは正にこの事か。

教室、あるいは廊下から突き刺さる視線、視線、視線。

HRが始まる前から一夏は時間が経過するのを今か今かと待ち侘びていた。

中学時代の男友達からは羨ましがられ、女友達には何故か肘鉄や膝蹴りを貰う始末。

この状況を羨ましいと言っていた男連中は今度殴る。そう心に決めた一夏は視線から逃れる為に机に突っ伏すしかなかった。

 

HRの開始と同時に一年一組の副担任である山田 真耶が教室に現れる。

教室に入った瞬間に集まった視線に戸惑いを見せた影響か教壇のちょっとした段差で躓いた。

その瞬間、ほぼ女子高であるこの学園での彼女の立ち位置は決定したと言っていい。

大きめの眼鏡の位置を直しながら、赤くなったおでこを擦る。

身体の一部。要するに胸の大きさが見た目に比べ主張激しいものの、その仕草は愛玩動物を思わせる。

童顔女教師いける! と誰かの心の声が聞こえたような気がしない事もない。

 

「えっと、皆さん始めまして一年一組副担任の山田 真耶です。担任の先生は少し遅れていますので、もう少し待って下さいね」

 

何とも言えない空気が教室を包む。

見ず知らずの人間が大半の教室。本来なら居ないはずの男の存在。

愛玩動物のような教師は目の前で転んだ事実に対し何事も無かったかのように進行している。

笑うべきなのだろうか、突っ込むべきなのだろうか。

この空気をどうすればいいのか、誰にも見当がついていなかった。

 

「と、とりあえず自己紹介でもしましょうか! そうしましょう!」

 

なんとかこの空気を打破すべく、山田先生の出した答えは自己紹介だった。

本来であれば担任を踏まえて行うはずなのだが、山田先生にもこの空気は限界だったようだ。

 

出席番号の都合もあり一夏の番は案外早くやってきた。

こういうものは早めに済ますのが吉なのか、ギリギリまで後の方がいいのか。

そんなどうでもいい事を考えていた一夏は「織斑君?」と山田先生に呼ばれる声にハッとして立ち上がった。

 

「自己紹介、お願いできますか?」

「は、はい!」

 

一番前の席であった事もありクルリと反転。教室を見渡すような視界になる。

思わずたじろぐ程に全身に視線が突き刺さるのが分かる。

 

「お、織斑 一夏です。ISに関して素人ではありますが、精一杯学びたいと思いますので宜しくご教授お願いします!」

 

勢い良く頭を下げて無難に収めた。と本人的には思っている。

小さな拍手が起こり、若干熱意が空回りしたような気がしなくもないが反応は悪くない。

本音を言うならば黄色い声援を送りたい者もいたようだが、周囲の空気がまだクラスに馴染んでいない事もあり遠慮したようだ。

一番後ろの席。教室全体を見渡せる場所で見ていたセシリア・オルコットは「違う、彼ではない」と小さく呟いていた。

 

「全く、その挨拶は教師にするべきだろうが」

 

何時の間にそこに居たのか教室の前の扉を背にした格好で担任教師。織斑 千冬が立っていた。

黒の上下スーツにスラリとした長身。男前と揶揄しても違和感の無いような美女だった。

 

「千冬姉」「馬鹿もの、織斑先生だ」

 

その後の教室は酷い有様だった。

伝説とも言えるIS乗りにしてISの世界大会モンド・グロッソの初代チャンピオン。

通称ブリュンヒルデの登場に沸き上がり、世界初の男性IS乗りがその弟となれば尚の事である。

HRはそのまま有耶無耶になり、休憩を挟む事なく一時限目に突入するのであった。

良くも悪くもこの騒動でクラスの空気は一気に軽くなり、先ほどまで見ず知らずの他人であった隣人がクラスメイトになった瞬間だった。

 

「さて諸君、改めて入学おめでとう。君達がISがどういうものかと言う事を理解し立派な搭乗者になって卒業してくれる日を楽しみにしている」

 

入学初日から卒業の話を持ち出す教師は少なくないが、IS学園に置いての意味合いは少々異なってくる。

世界最強であるIS、兵器としての意味を理解していれば卒業とは即ち一流の戦士と言う意味に他ならない。

故に千冬は"ISがどういうものか"と言う言葉を含んだのだが、その意図に気付けた者は何人いるだろうか。

 

「それと、授業に入る前にクラス代表を決めねばならん。まだ人となりは分からんと思うが立候補はいるか? 自薦、他薦は問わんぞ」

 

「はい! 織斑君がいいと思います」

「私もそう思います!」

「異議なし!」

 

一部から声が上がるとその波紋は教室全体に広がった。

 

「え、えぇ!?」

 

当然ながら当の本人である一夏からすれば想定外に他ならない。

ISの知識も技術も遅れていると自負しているのだ。

学ぶ意欲はあるが、未熟な自分が代表を務める姿を想像する事が出来なかった。

しかしながら、本人の意思とは無関係に周囲は織斑コールに近い状態になりつつあった。

 

と、そんな喧騒を断ち切るように席を立ち上がった者がいる。

金髪の令嬢。セシリアだ。

 

「皆さん、少し宜しいですか?」

 

教師も二人も含めクラスの視線が自分に集まったのを確認して、セシリアは言葉を紡ぐ。

 

「まずは織斑先生。私は立候補を致します。続いて皆さん、織斑さんを推薦されていますが、その意味を理解されていますか?」

 

自薦の言葉に頷きを返した千冬が「ほぅ」と小さく感心した様子を山田先生は見逃さなかった。

 

「意味ってどういう事? オルコットさんがクラス代表でもいいけど、折角男子がいるんだよ?」

 

セシリアはイギリスの代表候補生。

代表候補生とは読んで字の如く。国の代表見習いのような存在だ。

存在は稀少であると同時に、発言そのものが国の発言と取られる事も珍しくない。

言うなれば国が厳選したエリートである。

故にセシリアがクラス代表になってもクラスメイトは文句は言うまい。

だが、この場には国家代表候補生よりも更に希少価値の高い男がいるのだ。

ならばそちらを推す声があっても無理の無い事だろう。

 

「いえ、男性だからと言う理由では織斑さんが苦労なさるのではないかと思いまして。クラス代表にもなれば公衆の面前に立つ事もありますのよ? そこにIS初心者とも言うべき彼に立てと仰るおつもりですか?」

 

これ以上ない程の正論。

熱を帯びていたクラスが静まっていくのが分かる。

 

「そ、それはそうなんだけど」

 

最初に一夏を推した女生徒が勢いを削がれ俯いてしまう。

 

「ですから織斑さん、私と模擬戦をしませんこと?」

「え?」

 

自分に対する評価が低い事は理解していた一夏。

初心者と面を向かって言われるのは面白くないが現段階では事実なのでその言葉を受け止めていた。

そんな所に不意をつく、戦おうと言う言葉が投げ掛けれた事に疑問符を浮かべてしまう。

 

「一方的な否定だけでは織斑さんも面白くないでしょう。何よりこれでは私が口だけでクラス代表を奪うみたいではありませんか。ですから、実際に戦い私の力を示しましょう。織斑さんに強くなりたいと言う思いがあるのなら、私を踏み台にする位の心意気があっても宜しいのでは?」

 

最後のはわざとらしい程の挑発。

それを分かった上で売り言葉を買い取った一夏も立ち上がる。

 

「分かったよ、クラス代表ってのは別にしても、言われっぱなしってのは嫌だもんな。全力で相手になるよ」

 

ふわりと優美に微笑んだセシリアは一夏の前まで出向き手を差し出す。

二人の握手は正々堂々と戦おうと言う意思決定に他ならなかった。

 

「完膚なきまでに叩き潰す所存ですので、そのおつもりで」

「うげ、代表候補生なんだろ? 初心者に情けってのは無いのかよ」

「あら? 手加減をお望みですか? それなら少し優しくしてあげますわよ?」

「冗談だよ、逆に俺が圧勝しても知らないからな」

「期待していますわ」

 

周囲から拍手が沸きあがる。

セシリアの正論に周囲の空気が静まり返っていた状況を再度セシリアの言葉で盛り返した。

 

「良し、ならば一週間後に織斑とオルコットで模擬戦を行う。その結果で再度クラス代表を問う。それでいいな?」

「「はい!」」

 

クラスが一丸となって模擬戦によるクラス代表選出が決定した。




セシリア&一夏の性格微変。性格改変のタブがいるようになるかもしれない。
それと箒ですが、クラスどころかIS学園に居ません。後に登場します。

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