IS ~THE BLUE DESTINY~ 作:ライスバーガー
絶対に生きて帰れ。
第11独立機械化混成部隊、通称モルモット隊の一員であるサマナ・フュリスがグリプス戦役以降、将校となり士官達に示した訓示である。
基本に忠実で手堅いMSの操縦技術はお手本として優秀で多くの新兵を送り出している。
彼の鍛えた士官達は揃って生存率が高く、モルモットと揶揄された部隊を生き抜いたからこその成果。何よりも生き残る重要性を熟知している。
ユウのようなエースと呼ばれる人間ですら自身よりも機体を優先されていた場合があるのが残酷な戦争の現実だ。
同隊のユウ・カジマ、フィリップ・ヒューズの腕前と比較され未熟と思われがちなサマナであるが、激動の一年戦争を始め戦乱の世を生き抜いた彼を弱者と侮る事等出来るはずがない。
サマナの言葉を借りて箒を送り出したユウ。
その様子を確認していた束の視線は移り変わる複数の投影ディスプレイから離れてはいないが、妹の門出を見守っている。
あえて箒には伝えていないが、実は束はミサイル発射体勢に入っている潜水艦以外の工作兵の心配をそれほどしてはいなかった。
亡国機業について不明点は多いが、現段階で日本に対し壊滅的な打撃を与える意味が無いからだ。
白式や専用機を欲するだけであれば日本政府ではなくIS学園を脅迫して無理矢理奪う手もある中で、態々銀の福音と戦わざる得ない状況を作ったと考えるのが自然だ。
ならば目的は何か、犯人側の視点に立てば自ずと答えは見えてくる。
「バーサーカーシステムね、気に入らないなぁ」
銀の福音の頭部パーツに組み込まれたバグシステムによって機体を掌握しナターシャに打ち込まれている薬品により搭乗者の精神を汚染する。相互作用にてISと搭乗者を強制的に乗っ取り、暴走させるシステム。
海中で睡眠状態に陥っていた状況からもある程度操作が可能で目的に応じた指向性すら持たせていると考えられる。
ISと搭乗者を結び付けている事からも同調率の高い組み合わせの方が効率的に働くシステムなのだと思われるが、くーの経緯を踏まえれば同調率が低くとも強制は出来るのだろう。
銀の福音とバーサーカーシステムのデータ取得、可能であれば専用機を奪う。そう考えれば今回の事件を紐解くのは難しくはない。厄介なのは分かっていても簡単に手が出せない状況だ。
一夏が初めてISを動かした時と同じく束はISコアに直接干渉も可能だが、独立稼働状態で既に自意識を確率している専用機ともなれば、コアへアクセスしてシステムを書き換える作業は容易ではない。
EXAMが戦闘における限定空間でしかコアネットワークに干渉出来ないのも同様の理由、ISコアを遠距離において制圧するのは難しいのだ。
言い換えれば相手を捕縛しコアが手元にある状態であれば書き換えは不可能ではない。
後ろから投影ディスプレイを見ていたユウが大空へ上昇していくISを見て一度頷く。
「問題なしの絶好調だよ。ブルーを除いて現行ISを凌駕する最新にして最強に不備は無いよ。箒ちゃん次第だけど、その辺は信じてるしね。デビュー戦の相手が軍用ISってのは油断ならないとは思うけどさ」
唐突に専用機を与えられた状況であれば力に溺れ自惚れても無理はないのだが、専用機であろうとも経験に裏づけされた強大な存在の前には意味を成さないとユウが実践して見せた。
訓練として自らも経験し第三者視点でもブルーの戦いを見てきた箒は十分に理解している。
既に空に舞い上がっている箒が心配でないと言えば嘘になるが、篠ノ之 束の妹と言うだけで狙われる理由は十分だ。
保護プログラムの関係上日本政府が手を出すとは考え難いが、亡国機業が箒を狙う可能性もある。
束が手を回しあらゆるデータから姿を消しているとは言え、箒の存在が明るみに出れば高確率で戦いに巻き込まれるだろう。
ならいっそ乗り手として経験を積む方が良い。束と共に歩むにしても一夏に寄り添うにしても無力ではいられないのだ。
「さてと、ユウ君も準備はいいかい?」
「いつでも」
まとめたデータを詰め込んで束が立ち上がり外出用にコンパクトタイプとなった我輩は猫であるを背負う。
付き従うくーも大きめのリュックを手に隣に並び、ブルーを展開したユウが揃い準備は整った。
「それじゃ、私達も行こうか」
◆
朝日の照り返す海上を五機のISが飛翔しているが何れも顔付きは険しい。
本来であれば戦いのプロである二人が先導する予定だったが現状では参戦出来ず、学生のみでの編成だ。気張るなと言うのは難しい。
「確認するぞ、前衛は私と鈴が勤める。セシリアは後方から射撃に専念。ビットの使用は任せるが最初は温存して様子を見ろ。シャルロットは状況に応じて前衛のフォローを中心に頼む。織斑は最後尾だ、分かっているな?」
先頭を飛ぶラウラが後方を確認しつつ声を掛ける。今の所は仮想司令室である旅館とも通信が繋がっているが、想定される戦闘領域はご丁寧に電波妨害が働いており暫くすれば連絡はつかなくなる。
蒼い死神に遅れを取ったと言っても現場の細かい指示はIS部隊の隊長を務めているラウラが適しているのは言うまでもない。
「分かってる。最後尾で待機してチャンスがあれば突っ込む、だろ」
「そうだ、広域殲滅型相手に迂闊に飛び込めば蜂の巣にされるからな。我々だけで制圧が出来るのが理想だがな」
機体性能と本人の戦闘スタイルを考えれば一夏の攻撃力は一年生チームでも抜群だ、と言っても実戦経験の少ない一夏に先陣を切らせる愚か者の集まりではない。
それでも最強の一撃である零落白夜が決まれば相手が軍用であろうが死神であろうがISである以上勝利が転がり込んで来るのは皆が理解している。勝利の鍵を握るのは一夏だと。
「ま、一夏の出番は無いかもしれないけどね」
明るく振舞おうと鈴音が笑いながら言えばシャルロットとセシリアも意図を理解し笑みを浮かべる。
真剣に戦力分析をするのと、現実を直視して暗くなるのとは別だ。勝つしかない戦いであろうとも気負いすぎて本来の実力を発揮出来なければ意味が無い。
援軍も望めない戦場に赴くには心許ない戦力だが、全力を賭すしかないのだ。
「お喋りは終わりだ……。目標を確認した」
ラウラの言葉に全員が視線を上げる。
「目標が視認領域に入る。皆、いけるな?」
「当然」「任せて」「了解ですわ」「おう!」
順に鈴音、シャルロット、セシリア、一夏が応じ、各武装のセーフティを解除、戦闘態勢に入る。
電波妨害領域に入り戦闘空間での通信は可能だが、本部たる旅館への連絡が途絶えた。
ハイパーセンサーが捉えている銀の福音が大空で待っていたと言わんばかりに銀色の輝く翼を広げている。
「交戦開始!」
前衛を勤めるラウラが正面から突っ込み並走していた鈴音が回り込むように反対側を目指し加速。
代わりにシャルロットがラウラに並びライフルを展開。後方から射撃を開始したセシリアに合わせ射線を揃える。
牽制のつもりで放たれた初撃ではあるが、身を捻り余裕を持って銀の福音は回避。旋回しつつ上昇する姿は戦闘中でなければ見惚れているであろう程に美しい。
「La──!」
それが銀の福音の出す音なのか、搭乗者の叫びなのか分からないが、甲高い音と共に光弾が放たれ、開戦の歌が鳴り響く。
照準を付けずにレールカノンを撃ち追従するラウラは予め越界の瞳を発動しており十分に対処は出来るが、思わずたじろぐ光量が広がった。
銀の福音の持つ特殊兵装、背面に翼のように装備されている大型スラスターであり広域射撃武器である銀の鐘が物量任せの射撃を開始する。
片翼に十八門、両翼合わせて三十六もの砲門が一斉に雄叫びを上げ、高密度に圧縮されたエネルギーの塊が五機のISと大海原を情け容赦なく撃ち貫く。
光弾の一つ一つは小型の羽に似た形状をしているが、海面や弾丸同士がぶつかる度に破砕音を響かせる炸裂弾だ。
「な、なんて数ですの!」
通常複数砲門からの同時射撃は連射の効かない場合が多いが、銀の鐘は違う。同時に放たれる弾丸の数も連射速度も尋常ではない。
悲鳴を上げて緊急回避に入ったセシリア。最初からビットを展開し思考を割いていれば回避は間に合わなかっただろう。
銀の福音を中心にして怒涛の如く溢れる光の弾雨が視界もセンサーも埋め尽くす程の弾幕を張り巡らせる。
圧倒的な物量が的確に狙って放たれ、小型ながらも爆発するのだから油断など出来るはずがない。
同じ射撃特化の機体と言えブルーティアーズとは違い過ぎる。実際に目の当たりにすれば冗談だろうと一笑したくなってくる。
前線では進路が確保出来ずAICやワイヤーブレードを防御に回すラウラと必死に飛びまわり回避に専念する鈴音。
唯一追加武装であるガーデン・カーテンを搭載して来たシャルロットが防御特性を活かし耐え忍んでいるが、何れも他者を気遣う余裕は無いと見て取れる。
「最初からこれでは気が重くなりますわ、ねっ!」
距離がある為か前に詰めている三人よりは集弾の少ないセシリアが幾つかの光弾を避けながらスターライトMkⅢを、今尚弾丸を吐き出し続けている銀の福音に向ける。
「La?」
照準を合わせると同時に引鉄を絞るが僅かに響いた疑問形の甲高い音と共に銀の福音の視線がセシリアを捉える。
射撃が来るのを見透かしていたのかその場から急速離脱。ハイパーセンサーが一拍置いて行かれる速度で銀の福音は加速、更に高度を上げていく。
攻撃特性から銀の鐘は武器に違いは無いが、本質は高出力の多方向推進装置だ。瞬時加速に匹敵する出力を有していながら進行方向を選ばない。
高速機動と広域射撃、両立させてこその広域殲滅型だ、戦場で出会う恐ろしさは想像に難しくない。
肉体的にも演算的にも卓越した搭乗者でなければ到底乗りこなせない。白式以上にピーキーな機体と言っても良いのかもしれない。
が、そこまで圧倒的な戦闘力を誇る機体が制御を失い暴走していると言われている状態に代表候補生たる彼女達が疑問を覚えないはずがない。
暴走し自我を失っている状態にしては戦い方に淀みが無い。
「本当に意識無いんでしょうねっ!」
眼前に迫った光弾を双天牙月の刃で軌道を逸らした鈴音が見上げた先では楽しげに全身を回転させながら光弾を降らせる銀の福音。
時折「La── La──」と聞こえる歌声は小波のように響いては消えていく。
ナターシャ・ファイルスは非常に優秀なIS乗りだ。特に銀の福音との同調率は群を抜いており専属となるのも当然の成績。
彼女と共に飛び続けた銀の福音は想定外の介入により搭乗者諸共意識を奪われ機体制御から離れているが、染み付いた感覚が抜けているわけではない。
踊るように、歌うように、無邪気な子供のように空を舞っている。それが望む望まないに関わらずだ。
現段階でセシリア達には分かるはずも無いが、バーサーカーシステムによって強制的な戦いを余儀なくされてはいるが、銀の福音の武力はナターシャと培ってきた経験の具現そのものだった。
搭乗者の意識が無いと言う前提条件に疑問を浮かべる程に、違和感を感じられなかった。
「どちらにしろ、このままではマズイな。多少無茶でも突っ込むぞ!」
数と勢いにおいて優位であっても長期戦で削られれば不利になるのは明白。
一対多を覆す戦局を本領としている相手から勝機を引き寄せるのは難しいと実感する。
ラウラの喝に無言の肯定を返し、溢れかえる弾雨を少しでも多く引き受けようとシャルロットが突貫を開始。実体とエネルギーの両方のシールドを持つガーデン・カーテンを前面に押し出し防御姿勢で射線を集める。
遠目の間合いから銀の福音を目指し鈴音が別方向に飛び、シャルロットの盾を巧く利用しラウラも銀の福音を目指す。
現状位置から動かないのはセシリアと一夏だ。
射撃による牽制と注視を続けるセシリアに降り注ぐ光弾は彼女の眼前で雪片弐型を振るう一夏が叩き落している。
「織斑さん、私は少々ビットに専念致しますので、ガードをお任せしても宜しいですか?」
「任せろ、指一本触れさせねえ!」
「頼もしい限りですわ」
一層の気合を込めて雪片弐型を正眼に構える。
気をつけなくてはいけないのは光弾を迂闊に受けたり切ったりしてはいけない事。叩き落したり弾いて逸らすには問題ないが、光弾を止めてしまえば爆発が襲ってくる。
攻撃特化とは裏腹に防御に定評のある一夏の背に隠れたセシリアは大きく深呼吸。クリアにした脳内で広げたフィールドにビットの軌道をイメージに乗せる。
「お行きなさい、ブルーティアーズ」
冷静に頭を落ち着かせ、ビットの操作に思考を割く。
攻撃比率が少なくとも撃ち込まれている弾の数は有耶無耶に出来るレベルではない。
切り札である一夏がリタイアする事態は避ける為にも三人の突破口を開く援護の為、ビットが宙を駆ける。
接近を試みる三機のIS。当然ながら中心に近付けば弾幕の密度は濃くなる。
致命傷こそ無いが多少は被弾しており、ラウラは肩のレールカノンをパージしており少しでも愛機のサイズを小さくして被弾率を下げている。
合宿で使用予定であった砲戦仕様の追加装備を持ってこなくて良かったと思わずにいられない。
ラウラを庇うように前面にシールドを展開しているシャルロットのガーデン・カーテンの被弾率は全機中で最も高く損傷も馬鹿に出来ないレベルになってきている。
「修理したばっかりなのに、ゴメンっ!」
技術者泣かせの台詞と行動。四枚の密集させていたシールドを大きく広げ、ラウラが突っ込むスペースを強引に押し開く。
「ラウラっ!」
突撃を慣行するラウラとシャルロットの反対側。被弾しながらも瞬時加速も交えて目指した銀の福音の更に上を鈴音は陣取る。
「後ろから、いや、上から? どっちでもいいか、失礼するわよ!」
弾幕を乗り切り駆け抜けた空の上で反転。頭上から空気を圧縮した不可視の衝撃砲。龍の咆哮が轟く。
頭上から龍の気配を感じた銀の福音が視線を上げた僅かの間。ワイヤーブレードを前方で密集隊形に組んだラウラが一気に間合いを詰める。
飛来してきたブルーティアーズのビットがラウラの周囲で射撃を繰り返しながら突撃役を守る小さな弾幕を作り上げている。
AICを起動。慣性を停止させる対ISとして最強クラスの特殊兵装が標的を捉えようとシュヴァルツェア・レーゲンの手が向けられる。
捕まえたと五人が確信する。
「La──!!」
否。
機体特性から近距離が苦手と踏んでいた銀の福音が停止結界に捕まる直前に取った行動は前進。
銀の鐘の射撃を中断し瞬時加速に匹敵する加速を持って頭からラウラに突っ込む。
「なにっ!?」
鈍い音と共に持っていかれそうになる意識を繋ぎとめる事には成功するが、停止結界による捕縛は失敗。
弾幕が止まった事で鈴音とシャルロットが援護に入ろうとするが、前傾姿勢のままラウラに密接し首に手を回した銀の福音がシュヴァルツェア・レーゲンの全身を抱き締める方が早い。背面の翼が包み込むようにラウラの小柄な身体を覆い隠す。
「La──!!」
再び放たれた光弾の嵐が零距離一斉射を持ってラウラを穿った。
「がっ!!」
短い悲鳴。砲門との距離を無くす抱擁姿勢からの密着射撃。一瞬で攻守が入れ替わった瞬間だ。
シールドエネルギーごと今度は意識を奪われたラウラが装甲の弾けたシュヴァルツェア・レーゲンと共に力なく海面に落ちていく。
「こんのぉ!!」
シャルロットが落下するラウラを視認、受け止める為に加速すると同時に上空から鈴音が掛け声と共に双天牙月を振りかざし打ち下ろしに掛かる。
眼下のシャルロット達に対するフレンドリーファイアを警戒しての近接行動だったが、背面から振り下ろされた刃は銀の福音には届かず、振り向かれる事なく放たれた光弾の波に鈴音が飲み込まれる。
光弾は鈴音を捉えただけで止まらず、全方位に対し射撃を再開。ブルーティアーズのビットが主人の下に戻る事なく砕かれ、ラウラを抱えたシャルロットの眼前に光の奔流が迫る。
「ぉぉおお!!」
割って入るのは純白の騎士。
零落白夜を発動させ光の弾雨に突っ込み、切り払う。あらゆるエネルギーを切り裂く零落白夜であれば銀の鐘であろうとも関係ない。
だが、形状はあくまで刃に過ぎず、眼前に掲げ薙ぎ払えば正面の弾丸を消し去る事は出来るが、他方向からの射撃を止めるには至らず全身を弾雨が襲う。
「くそっ!」
何とかシャルロットとラウラに対する射撃を防ぐ事は成功するが、零落白夜と全身に被弾した影響でエネルギーが削り取られている。
白式の反則染みた力の裏にある最大のデメリット。燃費の悪さが如実に現れていた。
「悪い、決められなかった」
仲間を守る為に咄嗟に突っ込んだ一夏の選択をこの場にいる者が責められるはずもない。
しかし、零落白夜が失敗に終わり、恐らく二撃目は通らない。作戦失敗と言う文言が重く圧し掛かってくる。
「辛気臭い顔しないの。アンタの行動は間違ってないわよ」
油断なく雪片弐型を構えたままシャルロット達を庇うように立つ一夏の隣に鈴音が並ぶ。
甲龍の装甲は焼け落ち、龍砲の砲身とも言うべき非固定浮遊部位が一つしか残っていない。
「俺がもっと早く判断していればっ」
「それは違うよ。実戦で零落白夜を二度も使える状況は来ない。その一回を有効に使ってくれたから僕達は無事なんだ。ありがとう一夏」
ラウラを抱き締めるシャルロットが作戦失敗の宣言とも取れる台詞を告げる。
仮に一夏がもっと早くに零落白夜を使い突っ込んでいたとしても結果は同じだっただろう。
銀の鐘を止めなければ零落白夜は当たらない。その為にラウラ達が突っ込んだのだ。あと一歩届かなかったのは誰かのミスではない。
むしろ二人を助ける為に零落白夜を使えたと喜ぶべきだろう。
「とにかく、アンタ達は逃げなさい。少しでも時間を稼ぐから」
双天牙月を構え直し鈴音が頭上の銀の福音を睨みつける。無論、一人を残し退散など許容するはずがない。
共に一夏も並ぶと、銀の福音は戦闘続行を喜ぶように翼を広げ直す。
「来るっ!」「やってやるさ!」
「La──!!」
放たれる光弾。朝日よりも強い閃光が海面に反射し一同の視界を奪う。
最初に気付いたのは一番遠い位置に居たセシリアだった。
微かな耳鳴りのような音に違和感を覚え、戦闘中にも関わらず敵から視線を外し空を見上げる。
空が鳴き、雲を貫き、大気を切り裂いて、地表を目指す彗星の如き衝撃と共に空を紅の軌跡が疾駆する。
眼前に迫ってくる光の激流を前に成す術の無い満身創痍とも言うべき一夏達だが、接近してくるソレに気付く。
鈴音も気付き、シャルロットや苦悶の表情で意識を取り戻したラウラも気付く。自我を失い暴走しているはずの銀の福音もソレを感じ取り意識する。
唐突に目の前に迫った光が霧散する。
一夏達と銀の福音の間に空から落ちるように割り込んだソレは真紅の刃を体現した姿。光弾の嵐を切り裂き、霧散した光の粒子が反射して煌き輝く全身は雄々しく美しい。
陽光を全身に受け、一夏達を背に庇うソレは二刀を構え現れた。射抜くように見据えた視線に揺るぎは無い。
「篠ノ之 箒、紅椿……。推して参る!」
舞い降りたのは真紅の華。
束ねた長い黒い髪、強い意思の宿る瞳、凛とした佇まい。その身は一振りの日本刀の如く。
タイトルがいつもと違う感じですが、Loreleiの海の前編的な感じです。
福音戦と言えば新装備ですが、今の所はガーデン・カーテンしか出ていません。
そして、あの子がついに参戦です。