IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第4話 戦いは誰のために

蒼い死神事件。

IS関係者の中で都市伝説のように語り継がれる事になる事件の裏側であり真相。

 

「それでユウ君。ブルーの調子はどうだった?」

「悪くない」

「もっと詳しく!」

 

ユウ・カジマと篠ノ之 束が暮らす世界地図から隠れた島。

二人の会話が示す通り、蒼い死神事件はこの二人の仕業だ。

ラボに乱雑に置かれたソファーに寝そべった束と愛機の戦闘データを見直しているユウ。

不真面目と真面目を現したような二人の雑談ではあるが、その内容は雑談と呼ぶには些か問題がある。

 

「挙動の繊細や小回りはやはりISの方が上だな。第二世代型と言う割には良く動く」

「それは当然だよ、ブルーは第二世代と言う殻を被った規格外だからね」

 

ブルーディスティニー。通称ブルー。

蒼い死神と呼ばれたMSを束が天災的な技術を持ってISとして復元した代物。

欧州連合の演習に乱入しIS十二機を寄せ付けなかった化物。

確認されている武装はビームサーベル、マシンガン、胸部バルカンとたったそれだけの武装を持って世界最強の兵器を鎮圧して見せた。

圧倒的な機動力と攻撃力だけではない。そこには搭乗者の培われた経験と確かな腕があった。

 

「だが、攻撃と防御で言うならMSには到底及ばない」

「そりゃそうだよ! 戦争の為に造られたMSと一緒にしないでよ、そもそも規格が違うんだから。何なのさMSのあの馬鹿げた出力やら頑丈な装甲やら」

「ISの製作者が言えた言葉か」

 

攻撃と防御と言う面で言うなればMSとISでは比較にならない。

いくらISを強化しようとも元々戦争の為に造られ、人殺しを前提としたMSに比べる事自体がおこがましい。

宇宙世紀における一年戦争初期に開発されたMSですら数々の失敗を元に数え切れない程の研究者が様々なMSV(モビルスーツバリエーション)を開発したのだから歴史が違いすぎる。

この世界の研究者がどれだけ頑張ろうにも真にISを理解している人間が束一人しかいない以上、それは仕方の無い事とも言える。

 

「それにしてもユウ君。使ってない武装があるね? なんで?」

「あんな所でミサイルなど使えん」

 

蒼い死神事件における行動目的はブルーの性能テストと対ISの経験を積む事。

対象に存在をアピールし敵として君臨する為に軍の一部を焼き払いはしたが、何れもコックピットへの直撃は避けていた。

車両も戦闘機も小破から大破まで様々ではあったが、奇跡的な事に死者は一人も出なかった。

最もこの結果はユウの功績と言うよりは連合軍の手腕による所が大きい。

実際の戦闘を考慮して組まれていた布陣であった事もあり、救助活動が迅速だったのだ。

しかし、あの場所でミサイルを使うという事はそれは間違いなく殺す為の攻撃になってしまう。

 

「出来ればテストはして欲しかったんだけどな」

「結果的に人を殺す事になったとしても、望んで人を殺す狂人になるつもりはない」

 

ユウは人を殺す事を心得ている。

戦争経験者、軍人としての経歴を考えれば当たり前の事ではあるが、人を殺したいわけではない。

中にはそういう連中もいるだろうが、それは軍の中でも一握りの異端に過ぎないのだ。

戦いにおいて死者が出るのは当たり前の事だと認識はしているが、死者が出ないに越した事はないし、救える命は救いたいとも思う。

蒼い死神事件において死者がでなかったのは先に述べた通り奇跡的な幸いではあったが、仮に死者が出たとしてもユウは目的を遂行していただろう。

戦う為の力を持つならば、戦う為の覚悟が必要になる。それは殺す覚悟でもあり、殺される覚悟でもある。

ISに関わる以上、命を賭す覚悟をするべきなのだ。

 

「絶対防御を否定されてるような気もするけど、あの場にはIS以外もあったし仕方ないか」

「博士、絶対防御は確かに優れた機能だと思うが過信は良くない」

「どういう事かな?」

「万が一発動しなかったら搭乗者は簡単に死ぬと言う事だ」

「そんな事はありえない。と言いたい所なんだけど、MSで戦争を生き抜いた人の言葉だからね、肝に銘じておくよ」

 

寝そべった体勢のまま空中に投影したブルーの情報を確認しながら束は頷きを返した。

この世界においての技術レベルは宇宙世紀に遠く及ばない。

だが、天災と呼ばれる束は別格と言っていい。

何せジェガンのデータボックスとユウの言葉から宇宙世紀の兵器をISに転化して再現してみせたのだから。

かつてのユウの愛機であるブルーディスティニー1号機。

宇宙世紀の一年戦争時代における最強の一角と言っても過言ではないMS。

陸戦型ガンダムをベースにしながらもEXAMと呼ばれる特殊システムを搭載した実験機。

ユウが搭乗していた時を再現する為にジム頭まで再現されている有様だ。

MSとしての外見だけではない、そのスペックさえも限りなくISで再現されていた。

機動力や防御力も当然の事ながら機体にはマグネットコーティングまで類似的にではあるが施されていた。

単一仕様能力(ワンオフアビリティ)とも異なるシステムとしてEXAMまで搭載されている。

 

「しかしアレだね! MSには色々あるのは分かったけど、ブルー、と言うよりEXAMを考えた人は頭がおかしいね! 勿論、褒め言葉だよ!」

 

EXAMシステム。

その本質は戦場における人の脳波から殺気を識別し敵の位置や状況を瞬間的に搭乗者に理解させるシステム。

宇宙世紀におけるNT(ニュータイプ)と呼ばれる存在と戦う為に擬似的なNTを作り上げるシステム。

瞬間的に戦闘力を高めるシステムと言ってもいいだろう。

欧州連合において混乱する戦場の渦巻く意識の中からその力を完全に引き出した辺りは流石はユウと言うべきだろうか。

また搭載されている武装に関しても天災はほぼ再現してみせていた。

マシンガンや胸部バルカンなどの実弾兵器はサイズこそ小型になっているがMSの時と威力はほぼ変わらないと言う化物仕様。

ビームサーベルに至っては絶大の一言だ。

ISの装備の中には相手シールドを無効化するチートのような武器も存在するが、ブルーのビームサーベルは凝縮されたエネルギーの塊。

ただ単純に攻撃力が高いだけなのだ。唯一使われなかった有線式ミサイルの威力など想像もしたくない。

 

「所でユウ君」

 

投影ディスプレイを操作していたユウは声色の変わった束の言葉に操作を中断し振り返る。

ソファーの上に座りなおしていた束はニタリと笑っていた。

この笑みは良くない。経験からユウは既にその事を学んでいる。

 

「面白いものを見せてあげるよ」

 

そう言って束が空中のディスプレイに新しい画面を投影する。

 

 

≪世界初の男性IS搭乗者 織斑 一夏≫

 

 

ニュース番組と思しき番組にはそう銘打たれた特集記事が放送されていた。

その映像を見たユウは眉間に皺を寄せ、ディスプレイから束に視線を戻す。

 

ISは女性しか動かす事は出来ないと言うのは世界の共通常識だ。

ユウの場合はそもそもの概念が違う。束が自身の手によってユウ専用に造り上げたのがブルーなのだ。

ISは女性にしか動かせない、しかしユウ専用で動くISはある。

ブルーとは即ちISでありながらISの常識には囚われないIS。

ISのようでISではないIS。と意味の分からない存在なのだ。

ブルーに対する講釈を束が以前ユウに述べた事はあるが、科学者ではないユウには正直理解できなかった。

分かった事はブルーは少々特殊で自分にしか動かせないISだと言う事だ。

それが分かればそれで十分だとユウは判断していた。

が、今回のニュースは違う。

純粋にISを動かせる男性が登場したと言うのだ。

 

「博士、何か手を打ったな?」

「さって、どうかなぁ?」

 

溜息交じりにユウは被りを振る。

 

「織斑 一夏か。以前言っていた線の内側の人間か」

「そっ、だからユウ君にはいっくんの力になってあげて欲しいんだよ」

「俺もIS学園に入学しろとでも言うつもりか?」

「それも面白そうなんだけどね、でも違うよ」

 

ニヤリからニチャリと音がしそうな笑み。益々嫌な予感が拭えない。

 

「ユウ君にはやって欲しい事があるんだよ」

「それは博士の目的に必要な事か?」

「勿論、いつか来る日の為にね」

「ならば従おう」

 

 

ユウ・カジマがこの世界に落ちて来て、一年が経過しようとしている。

そして舞台は激動を告げるIS学園に移る事になる。

 

 

 

 

第0章 ガンダム大地に立つ 完




今回の話で分かると思いますが2話と3話の間は時間が飛んでいます。
今回でプロローグになる0章完。次回からはIS学園編に突入します。
ユウの口調はいかがでしょう。作者のイメージではこんな感じです。

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