IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第3話 戦慄のブルー

世は正にIS時代と言うべき昨今。

IS発祥の地であり最強の居る国、日本。

ISも含め圧倒的な武力を誇る大国アメリカ。

それらに対抗する為にも世界各国は軍事強化に努めていた。

ISの軍事利用は条約により禁じられているが、世の中はそんなに簡単ではない。

見えざる隙間を利用する事は至極当然と言えた。

 

欧州連合もその一つ。

巨大な荒野に欧州連合の代表格である四ヶ国の軍事力が結集していた。

その中には当然のようにISも含まれる。

ドイツのレーゲン型、フランスのラファール型、イギリスのティアーズ型、イタリアのテンペスタ型。

一国辺りISが三機。合計で十二機。

それらから距離を置いて数多の戦闘車両に戦闘機。歩兵も含めれば戦争を始めるかの如き武力が四方に集まっていた。

互いの技術力を確認、提供しあう事を目的とした欧州連合軍事演習。

中央に位置しているIS十二機がその存在感をありありと示していた。

ドイツのレーゲン型のみ黒く着色されており、他は全てグレーに統一されている。

何れも専用機ではなく、量産や本格的な開発を前提においた試作機だ。

既にフランスのラファール型は量産され各国に配備されてはいるが、その他の国も各々の特色を持つ機体を有している。

この場において、試作機である理由を説明する必要を各国は求めていない。

技術提供と言うものの、自国の技術を簡単に明け渡すはずが無いからだ。

連合と言う名の腹の探り合い。ある意味で当たり前の光景だ。

 

≪IS十二機による飛行演習から始める。各位宜しく頼む≫

 

連合の指揮官は場合によって異なるが、今回はイタリア軍の指揮車より指示が飛ぶ。

同時にISを装着しているうら若き乙女達が空に舞い上がった。

何れも見事な編成飛行を見せ、歩兵部隊から賞賛の息が漏れる。

 

ISが世界最強に躍り出た事で軍事関係には大きな変化が訪れた。

今まで多くの艦や戦闘機が切り開いてきた血路をISは単機で塗り替える事が出来るのだから当然だ。

それが原因で職を追われた者も数多くいる。

しかし、世界はそれを良しとしなかった。

無論、ISを軽んじる事は出来ない。

単純戦力と言う事に置いてはISは間違いなく最強であり抜きん出ている。

女性と男性が戦争をすれば女性が圧勝するとまで言われている。女尊男卑の典型的な考えだ。

その考えに各国軍事関係者は否定的だった。

ISが全機結集し現存戦力と総力戦でもすればISが圧勝するかもしれない。男性では女性に勝てないのかもしれない。

が、搭乗者は女性のみ。それも殆どが軍事経験の無い人間だ。

当然ながら人の死を間近で見た事のある者は殆ど居ないはずだ。

そんな人間がISに搭載されている超感覚機関であるハイパーセンサーで死を視認して正気を保てるはずがない。

ISは兵器としては有能だが、万能な機械ではない。

搭乗者が人間である以上は精神状態も生理的な現象も加味しなければ戦いは成り立たない。

IS搭乗者の何人が戦争と言う事実を認識して戦う事が出来ると言うのか。

女尊男卑の考え方は世間一般では当たり前だが、少し考えればその考えは成り立たないと分かるはずだ。

簡単な戦力の図式だけでは世界は成り立たない。

 

≪続けて最大推進力の演習に入れ≫

 

指揮官の言葉に従い十二機が縦一列に並ぶ。

先頭からテンペスタ、レーゲン、ティアーズ、ラファールと最大速度で上空を大きく旋回。演習の場を一周して中央に降り立つ。

 

≪次は射撃演習に入る、その場で待機≫

 

一糸乱れぬとはこの事だろうか。

超スピードでの編成飛行の後、音もなく自然に着陸しその場で待機。

ドイツ軍レーゲン型一番機に搭乗しているラウラ・ボーデヴィッヒ少佐は他国の搭乗者の実力を見直していた。

ISをファッション感覚で乗る人間の多い世の中だが、少なくとも演習参加者は違った。

見ず知らずの人間と息をを合わせ飛行する事の難しさを彼女は良く分かっている。

各国が演習に参加させるだけの実力は十二分にあると判断できた。

 

≪良し、それでは……ッ!? 警告! ロックされているぞ!!≫

 

指揮官の声が響いた直後、イタリア軍の一角で爆発が起こる。

地響きと共に指揮車の一部が炎上。砂塵が舞い上がる。

 

同時に各国の戦闘車両や戦闘機、ISを含む全ての命令系統の最上位に警告音とメッセージが流れる。

十二機のISのハイパーセンサーにも赤字にてWARNINGの文字が表示されていた。

 

「何だ! 何が起きた!」

「指揮車がやられた!? 行くぞ!」

 

イタリア軍テンペスタ型三機が一気に飛び上がる。

その間にも連鎖的な爆発が次々と起こり、待機状態にあった車両や戦闘機が破壊され炎上していく。

荒野の一角が突如として赤黒い炎を上げて燃え上がっていた。

 

「何なんですの!?」

「くっ、動くな! 現状の確認が最優先だ!」

 

イギリス軍ティアーズ型三番機に搭乗したセシリア・オルコットの悲鳴に近い声にラウラが答える。

自国の軍での爆発を確認して飛翔したテンペスタ以外の九機は荒野の中央で次の指示を待つ。

即座に各国より指示と現状が飛び込んでくる。

 

≪未確認ISによる襲撃を確認。イタリア軍半壊。テンペスタ型三機無力化。各国は軍事行動に移れ≫

 

送られてきた指示は開戦を告げるものに他ならなかった。

 

「各機連携を取れ! 油断できる相手ではないぞ!」

「「了解!」」

 

ラウラの声に八人が応じる。

この時、ラウラも含めた九人全員の脳裏に驚愕が浮かび上がっていた。

連合の一角が襲われた。それはまだいい、ありえない事ではない。

問題なのは襲撃の直後に飛翔したテンペスタ型三機が一瞬で沈黙した事だ。余りにも早すぎる。

ハイパーセンサーが直ぐに彼女達を捉える。

三機は各所が破壊され、地面に引き摺り落とされた状態で絶対防御が発動し沈黙している。

 

レーゲン型とラファール型が前に出てティアーズ型が空高くに舞い上がる。

砂塵で状況が不鮮明であるが、各ISにすぐに情報が送られる。信じられない一言。

 

≪敵は単機! 繰り返す、敵は単機!≫

 

イタリア軍とて唯でやられるわけではない。

相手がISであろうとも歩兵も含め動ける戦力で応戦に転じる。

が、未確認ISはそれらにまるで興味を示さず、全てを無視した。

指揮車や戦闘車両、戦闘機を一部だけ破壊し、戦場の中央、ISの元へと強襲する。

 

セシリアを初めとするティアーズ型三機は上空から未確認ISを完全に捉えていた。

 

敵は深い蒼の全身装甲。

スマートなデザインの盾を持ち、地上を滑空するようにホバーしている。

赤い二つの眼が不気味な程に鈍く輝いていた。

燃えるイタリア軍を背景に真っ直ぐに九機のISの元へ向かっている。

 

≪目標をターゲット1と呼称。撃破、可能であれば捕縛しろ!≫

 

目標を射程圏内で補足。ティアーズ型三機による一斉射撃が開始される。

狙撃型レーザーライフルによる高速射撃。

狙い済ました的確な攻撃をターゲット1は顔を上げる事すらせずに半歩の範囲で回避する。

 

回避行動に無駄が無い。

ほぼ直線動作のままラファール三機が接敵する。

三機によるマシンガンとショットガンの近距離弾幕。

舞い上がる砂塵の奥から赤い光が現れると瞬く間に三機は肉薄される。

その手に握られた桃色のビームサーベルが一瞬で二機を切り捨てる。

残る一機は高速切替(ラピッドスイッチ)により近距離武装を取り出すが、

それよりも早くターゲット1の胸部から放たれたバルカン砲がラファールを襲い、気がついた時にはサーベルで切り捨てられていた。

上空からは絶え間なくティアーズ型三機の射撃が降り注いでいるが、何れも命中しない。

 

「何故当たりませんの!」

 

三機の射撃は正確無比だ。

連合参加の十二機の中でもその腕は間違いなくトップクラス。

故に当たらない。正確すぎる攻撃は容易に看破される。

相手搭乗者が歴戦の勇士であるならば尚の事だ。

 

「ならば!」

 

レーゲン型三機が面による射撃攻撃ではなく線による攻撃を慣行する。

縦に三機が並んでの連続攻撃。黒い三機のISが連なる星となり突撃する。

何故かその攻撃を見たターゲット1が笑ったような気がするのは気のせいだろうか。

 

最前衛の位置で近距離攻撃を行うラウラに対しターゲット1はサーベルを量子格納。

入れ替わるようにマシンガンを出現させ、胸部バルカンと共に一斉射。

ラウラは後ろの二人に託す為にそのまま突撃するが、ターゲット1は頭上に飛び、一番機の頭を踏み付ける。

 

「ふきゃ!」

 

思いの他可愛らしい悲鳴を上げて、一番機が地に伏せる。

 

「わ、私を踏み台にしただと!?」

 

そのままターゲット1はマシンガンを乱射しながら二番機と三番機の間に降り立つ。

着地とほぼ同時。マシンガンから入れ替わったサーベルによって二機は一閃で切り伏せられた。

 

「くっ!」

 

立ち上がろうとする一番機の眼前にマシンガンの銃口が狙いを付けている。

 

「お前は一体何なんだ!」

 

発射。ラウラは抵抗する事すら許されずにその意識を奪い取られた。

ターゲット1は砂塵の舞う荒野の真ん中で今度はハッキリと見上げた。

頭上にはティアーズ型三機。

連合並びにティアーズ型三機にはとある思いがあった。

ターゲット1は一度も飛んでいない。ジャンプはしているが浮遊はしていないのだ。

陸戦特化型だと判断するには十分だった。

 

司令部は爆撃する事も視野に入れるが、ISがある地上を爆撃する事は危険が伴う。

絶対防御があるとはいえ衝撃を相殺できるわけではないからだ。

 

状況的にもティアーズ型三機による制圧しかないのだが、ティアーズ型三機で手に負える相手ではない事も明白。

それも完全な形であればともかく、演習の為の試作機なのだ。

武装は愚か、シールドエネルギーすら微量にしか積んでいない機体で勝てるとは思えなかった。

セシリアは内心でせめてブルーティアーズであればと愛機に想いを馳せるが、仮にブルーティアーズがあったとしても勝てるビジョンを思い描く事が出来なかった。

逆に言えば空にいる限りは安全。

一瞬ではあるが、ティアーズ型三機の搭乗者はそう考えてしまった。

その瞬間。ターゲット1の赤い眼がより一層強く輝いた。

 

「え?」

 

セシリアが気がついた時には隣にいたはずの二番機がビームサーベルで叩き落されていた。

 

「散開!!」

 

一番機からの声がやけにゆっくり聞こえた気がする。

既にターゲット1は赤い軌跡を描きながら移動し、セシリアの腹部をサーベルで一閃していた。

一瞬でシールドエネルギーが0になる。

シールドエネルギーが微量とはいえ通常ではありえない。

直撃したとは言え、一撃で全て持っていかれた。馬鹿げた威力だ。

 

一瞬で絶対防御が発動したセシリアは思考を停止して落下する事しか出来なかった。

唯一出来たのは視線を動かしティアーズ型一番機が同様に撃破される光景を確認する事だけだった。

ターゲット1は飛べないのではない。飛ぶ必要すらなかったのだと思い知らされた。

 

連合は総力戦を決意するが、IS十二機を瞬く間に無力化したターゲット1はその後、何もする事なく撤退した。

 

 

 

「蒼い死神」

 

誰が呟いたのか、戦場に残る者達は去り行く死神を見届ける事しか出来なかった。


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