IS ~THE BLUE DESTINY~ 作:ライスバーガー
ブルーディスティニーには束の施したステルスシステムが搭載されている。
あらゆる情報から欺瞞する機能を有しており、現在の束の拠点たる孤島に施されているものにこそ劣るが世界トップクラスのシステム。
正し、その効果は戦闘時には発揮できず、あくまで移動時や待機時に置ける補助的な役割だ。
便利なシステムではあるが当然ながらステルスではアリーナのエネルギーフィールドを突破は出来ない。
ブルーであれば火力で押し切る事も不可能ではないが、不意打ちが望ましい今回の作戦にはそぐわない。
ステルスの効果もあってか地上を監視している警備員やIS学園の全域をカバーするように巡回している教員のラファール・リヴァイヴの一機たりともIS学園に飛来するブルーに気付いてはいなかった。
≪アリーナのエネルギーフィールドが何で出来てるか知ってるかい? アレはISのシールドエネルギーを流用してるんだよ。要するに束さんに取っては壁であって壁ではないって事だね!≫
通信から聞こえるのは声だけだと言うのに胸を張っている姿が容易に想像できるがその姿とは反面してユウは味方ながらに恐ろしいと思わざるえない。
IS学園を含めあらゆる情報は束の前に意味を成さない。アナログ的な手法であれば別だが、電子的な要素が加われば束は島から出ずとも全てを掌握できる。
アリーナ全域を覆うエネルギーフィールドは戦闘の余波を外に漏らさないようドーム状に包み込むように覆われ鉄壁を誇るが、束にしてみれば一部に穴を開けるなど造作も無く、アリーナのモニタールームが異変に気付かないよう情報改変も忘れていない。
故に、ユウは何の苦労もせずアリーナの上空からアッサリと侵入を果していた。
一夏達の戦いが始まり、程なくしてユウは行動を開始する。
ブルーに搭載されている最大火力、有線式ミサイルを起動しシュヴァルツェア・レーゲンに狙いを定める。
戦闘行動に入りステルスが解除され、偶然にも鈴音がブルーを発見するが、既に手遅れだ。
ミサイルはラウラに向けて放たれ、直撃はさせず空中で起爆。轟音と爆煙がアリーナ全域を震わせた。
「博士、状況は?」
≪アリーナのエネルギーフィールドは掌握したよ。通信も電光掲示板も遮断完了。光信号や紙媒体で連絡を取られたらアウトだけど、そこまで心配しなくても良いよね?≫
「問題ない、そうなる前に決着をつけよう」
世界で最も安全とされる場所であるIS学園が最も危険な戦場に移り変わろうとしていた。
非常時にはシェルターとして外敵から身を守る役割も果すアリーナのエネルギーフィールドが内にいる者を逃がさない檻となる。
連絡手段さえも奪われた今、アリーナの中に残された四機のISはブルーと戦う以外に道は残されていない。
「全力で抵抗してみせろ」
──EXAM System Stand By
ユウの意思に応じて、ブルーがEXAMを起動。緑の眼が血塗れた真紅に変わる。
既に先制攻撃は放たれている。それもIS競技の真っ只中に突然乱入しての攻撃だ。それが褒められたものとはユウも思ってはいないが、これから行われるのは試合ではなく戦闘行為だ。
戦闘中であろうが、戦闘後であろうが、敵は待ってくれない。かつて、ユウがブルーと初めて出会った時がそうであったように。
遠い昔の思い出でありながら決して忘れ無い日、あの月下の出撃を思い出しながらユウは戦う意思を研ぎ澄ます。
「行くぞ、ブルー」
何が起こったのか分からない。一夏の心情はそう表現するしかなかった。
突如として爆発が起こり視界を煙が覆い隠し白式が警告を発し続けている。
ハイパーセンサーは視界が覆われようともISを認識して対象位置を知らせてくれるが、目と言う情報源が失われるのは言い知れない恐怖があった。
≪一夏!≫
≪鈴? 何がどうなってるんだ!?≫
≪無事ね? いい良く聞くのよ? って、ちょっとアンタ!≫
≪鈴!? 鈴!!≫
短い叫びの後にプライベート・チャネルが切れ鈴音は呼び掛けに応じなくなる。
視界を覆い隠していた煙は数秒で落ち着きを取り戻し、一夏はアリーナの全貌を把握するが、思わず息を飲まざる得なかった。
甲龍と打鉄が刃を振り乱しながら蒼い死神に攻撃を仕掛けている。牽制や様子見を交えた小手先の攻撃ではなく全力で叩きのめす攻撃に専念していた。
「鈴!」
「待て、落ち着け織斑」
慌てて加勢に向かおうとする一夏にラウラが待ったを掛ける。
位置的には一夏の少し上だが、様子がおかしく前後左右にふらふらと漂うように浮かんでいるだけだ。
白式のハイパーセンサーがすぐにシュヴァルツェア・レーゲンの状況を分析、スラスターやバランサーの破損による動作不良と教えてくれる。
「見ての通りだ、上手く動けん。下まで連れて行ってくれ」
「でもっ」
「落ち着けと言ったぞ? 何故か分からんがモニタールームと通信が繋がらん。この状況を打破するには四機のISが協力するしかない。アレが何か分かっているのだろう?」
緊迫した状況だからこそ冷静に、新兵を窘めるようにゆっくりと言葉を選び、大丈夫だと、落ち着けと言い聞かせる。
言葉と共に貫く瞳が語りかけて来て一夏も頷きを返す。肩を貸してラウラを下まで誘導していく。
鈴音も簪もアレの正体には恐らく気付いているが、この場においてアレと戦闘経験があるのはラウラと一夏しかおらず、状況については誰よりも分かるはずだ。
「私はこの場で援護射撃に専念する、生憎と停止結界の間合いではないのでな。時間が経てば学園が何かしろ対処するはずだが、状況は見ての通りだ、我々でやれる事をする。出来るな?」
「やってみるさ」
「良い子だ、行け!」
ラウラに言われ白式は急上昇を開始する。
「情けない、私ともあろう者がこのざまか。だが…… 侮るなよ蒼い死神!」
ミサイルの衝撃でスラスターを含め駆動部が破損し機動力が著しく低下してしまっている。
この状況では自分が役に立てないと承知しているからこその選択。近距離から中距離戦闘における万能武装であるブレードワイヤーを展開し周囲の地面に突き立てる。
機体を固定し右肩の大型レールカノンの照準を定める為に自身を一台の砲台に見立てる。
「新兵だけに任せるわけにはいかんさ、足掻くぞ、シュヴァルツェア・レーゲン」
アリーナ内で想定外の戦闘が始まっていた頃、モニタールームでは千冬の指示の下、教員達が行動を開始していた。
蒼い死神が出現した直後に放たれた一撃でラウラは行動不能に陥り、簪と鈴音が対処しているのを確認している。
「システムがこちらのコントロールを受け付けません!」
教員の一人がコンソールを叩きながら叫び、状況が最悪であると伝える。
アリーナのエネルギーフィールドのコントロールが奪われ、物理的な扉も全てがロックされてしまっている。
扉に関しては破壊すれば出入り可能だが、厄介なのはエネルギーフィールドだ。完全に掌握されてしまっており、アリーナ内に立ち入りが出来なくなってしまっていた。
更に通信障害まで起きておりアリーナ内の四機に連絡が付かない。
非常事態と判断し専用機を持つセシリアとシャルロットだけを観客席に残し、生徒達は非常用の地下シェルターに移動させている。
地上で戦闘が行われている場所の地下への避難が必ずしも正解とは言えないが、アリーナ地下シェルターは有事の際に爆撃されても耐えると言われ強固さでは学園随一を誇る。
以前のアリーナ乱入事件とは事情が異なり、全学年がISを使用するトーナメント戦の真っ只中だ、自由に使えるISの予備機が無い。警備を兼ねて巡回している教員のISすら最低限の数でしかないのだ。
この状況下で外に生徒達を避難させる方が危険だと判断された結果だ。
「コンロトールの奪取を続けろ、手を緩めるなよ。……束、これはお前の仕業なのか?」
千冬は知らず拳を固く握り締め、後半の声は聞き取れない小さな呟きを漏らし「悪いようにはしない」と書かれていたメールの内容を思い出す。
蒼い死神と束との関連性に確証があるわけではないが、この状況で繋がりを否定する方が難しい。
束と千冬は親友だ。時が経とうともそれは変わらない。だが、弟が意味も分からず暴力を振るわれる様子を見届けろと言われ「はいそうですか」と納得は出来ない。
「織斑先生」
落ち着いた顔色の山田先生が握られたままの千冬の拳に手を重ねる。
いつも千冬の後ろに控えているのは後輩であり同僚。世界の頂点に立った千冬の影に霞んではいるが、日本が誇る歴代屈指のIS乗り。
「落ち着いて下さい、とにかく出来る事をしましょう?」
「あぁ、そうだな」
「そうだ、コーヒー飲みますか?」
「貰おう」
フッと表情を緩めた千冬に山田先生がコーヒーを差し出すが、口に含んだ後に思いっきり咽る。
「ごほっ、かはっ、真耶!」
「あ、あれ? なななんで、塩が置いてあるんですか!?」
「私に聞くな、だが、ありがとう、落ち着く事は出来た」
動揺しているのは千冬だけではない、山田先生も同じく混乱の渦中にいた。塩と砂糖を間違える凡ミスをやらかす程に。
「最善をつくすとしよう」
「はい!」
「これが終わったらお仕置きだ」
「え!?」
(信じて良いんだな、束)
生徒達の戦いを見守りながら世界最強は今度は自分の意思で拳を握り直した。
上空では先制攻撃を仕掛けてきた蒼い死神に対し打鉄と甲龍が左右から挟み込み猛攻撃を仕掛けていた。
近接戦闘に優れた二機のISではあるが、シールドとビームサーベルを展開し防御に徹する死神に決定打は浴びせられない。
ラウラに攻撃が仕掛けられた直後、簪は躊躇う素振りを見せずにバズーカの照準を鈴音から変更し死神を射撃、同時に薙刀を構え突貫。
一夏に連絡を取っていた鈴音がその様子を見て二つに分けていた双天牙月を一つに組み立て簪を追い加速。戦線に加わった。
「良い判断だが、若いな、動きが素直すぎる」
小さなユウの声はブルーから外には漏れず、遥か遠くで見守る束達にだけに響く。
試合中に未確認機が出現し戦闘に乱入。共通の敵を認識し攻撃に移った二人の代表候補生、並びに戦闘続行不可能と判断し援護射撃の為に降下したラウラをユウは良い判断だと評価を下していた。
可能であれば一度コンタクトを試みるべきだが、外部と通信が出来ない状況で味方が撃たれているのだ、未確認機を敵と判断するのは正しい。
二ヶ国の代表候補生、二機のISに囲まれながらも既に起動されたEXAMが鋭敏に敵意を感知し反応速度を何倍にも跳ね上げて行く。
「くらえぇぇ!!」
鈴音が叫び、龍が咆える。
狙いは足止め、無言でも放てる龍砲を態々大声を上げて撃つ鈴音の真意にユウは気付いている。
眼下から真っ直ぐに飛来してくる白式が明確な意思を持って突っ込んで来ている様子を既にEXAMもユウも感知している。
だが、ユウはあえてこの攻撃を受ける選択をする。
龍の咆哮に合わせるように簪が一旦飛び退き、瞬間的に空気が爆ぜた。
視認できない圧縮された空気の弾丸が嵐となりシールドを構えたブルーを捉える。
次の瞬間には雪片弐型を大上段に構えた一夏が間合いを詰め零落白夜を発動。衝撃砲が乱れた中心点を切り裂いた。
鈍い音と確かな手応え、爆散する蒼い装甲と黒煙。
「油断するなぁ!!」
近くに居た三人ではなく地表からハイパーセンサーで見ていたラウラが叫ぶ。
爆散したのは本体ではない、零落白夜を帯びた光り輝く刃が直撃する寸前で切り離されたシールドだ。
いなすでも受け止めるでもなく、零落白夜と言う最強の剣の威力を確認する為に破壊させたのだ。
ユウは知らねばならなかった、ブルーに対抗しうる攻撃力がどれほどのものかを。
舞い上がった煙の奥から二つの赤い光が首をもたげる蛇のように睨みつけて来る。
「ぐぁっ!?」
気がついた時には蒼い拳が白式の腹部にめり込んでおり、衝撃が内臓を通して全身に響き渡る。
拳による打撃から流れるような肘討ちが一夏の鳩尾を抉り、反対側の掌が顎を持ち上げるように放たれ、連続で打ち込まれた打撃に意識が刈り取られる。
救助に動こうとした鈴音だが、死神は白式の腕を掴み遠心力を加えて投げ飛ばす。軌道上にいる鈴音が受け止めるべく両手を広げるが、その顔から血の気が引くのが分かった。
勢い良く飛んでくる白式の向こう、こちらを見下ろす死神がその手にマシンガンを展開し銃口を向けているからだ。
「くっ!」
受け止めねば一夏が落ちる。受けても撃たれる。
「守るって、決めたのよ!」
簪もラウラも間に合わない、火を迸らせた銃口に対し鈴音は一夏を抱き締め、位置を入れ替える。
ISの防御力があろうとも衝撃は防ぎようが無いと知っていながら、自らの背中を盾に銃弾を受け止める。
「っ、ぁぁあああ!!」
悲痛な叫びを上げながらも抱き締めた相棒は離さない。
その手から双天牙月が力なく零れ落ちた。
「やめて!」「やめろ!」
その銃撃を止めようと簪が薙刀を振るい、射線軸上に鈴音がおり狙いを付けられないラウラは少しでも死神の気を逸らそうと見当違いの箇所にレールカノンを放つ。
二機のISの介入によりブルーは射撃を中断、落ちる二機には興味が無いと言わんばかりに距離を取る。簪が追撃に入り、視野の開けたラウラも射撃に入った。
追撃に移る簪は銃器ではなく薙刀での近接攻撃を選択、位置情報を確認しつつラウラの射線が常にブルーを捉えられるようにアリーナを駆ける。
攻撃をしては距離を取る、ヒット&アウェイを繰り返しながらブルーに取り付かれないよう最新の注意を払う。
「貴方がどれだけ強くてもヒーローじゃない!」
蒼い死神の強さ、絶対的強者の姿は簪に取って憧れであり、夢だ。
だが、その挙動を許容するわけにはいかない。その姿は死神であり、暴力だ。決して英雄の姿ではない。
強者が弱者を守る、それが必ずしも美徳ではないと簪は知っているが、強者が弱者に対し一方的な暴力を振るう姿を正義と認めるわけにはいかない。
地上に落下してきた鈴音と一夏の様子をハイパーセンサーで確認したラウラは一先ずは安堵の息を吐く。
気絶はしているがシールドエネルギーに残量はあり、無事だとISが教えてくれている。落下しつつも鈴音が気を失う直前まで甲龍を操作し浮力を得ようとしていたのが大きいのだろう。
一番実戦経験があるはずなのに真っ先に行動が制限され、愛機最大の特徴とも言うべき停止結界を使えない距離で戦わざる得ない状況にラウラは奥歯を噛み締めていた。
既に眼帯は取り外され切り札と言うべき
ラウラの射撃の腕が悪いわけではない、戦場に充満している意識を認識しているEXAMが攻撃に宿る敵意を識別しているだけだ。
強者でえあればある程、狙いが正確であればある程、EXAMは鋭敏に感知し搭乗者であるユウにフィードバックする。
例え擬似ハイパーセンサーと呼ばれ超高速戦闘や射撃視野が数倍に跳ね上がる越界の瞳があろうとも戦闘状態を維持しているブルーとユウには通じない。
≪織斑! 織斑! くそ、起きろ! お前しかいないんだ!≫
地上にて鈴音に抱き締められたまま気絶する一夏をラウラはプライベート・チャネルで何度も呼び掛けを続ける。
二人の身を案じてと言うのもあるが、この状況を打破できる可能性は零落白夜しかないからだ。
呼び掛けに応じないならいっそレールカノンで撃ってみるかと危険な思考が頭を過ぎったが実行する余裕は無い。上空で戦う簪のフォローの手を緩めるわけにはいかないからだ。
簪の近接とラウラの射撃、どちらかが欠ければ瞬く間に落とされると容易に想像は出来る。
一夏を落とした時とは違い、ブルーはその手にビームサーベルを展開しており簪の薙刀と刃を交えている。
簪は長時間刃を交えれば押し返されるのが分かっており、攻撃が当たろうと当たるまいとすぐに離脱しブルーが反撃し辛いよう動いていた。
何よりも簪が離脱するタイミングに合わせて地上から寸分違わぬ射撃が襲い掛かっており、ブルーと言えど自由に動けてはいなかった。
しかし、その方法では時間は稼げても決め手にはならない。この状況を打破する方法を二人は持ち合わせていなかった。
時間にしては僅か数分足らずだが、簪とラウラの体感時間はとてつもなく長く感じる程の集中力。
打っては離脱を繰り返し、死神の間合いに最大限の注意を払い続ける。舞い踊るような華麗さはなく、泥臭くも必死に活路を見出す動きに恥も外聞も無い。
二人ともが多量の汗を流しながらも死神の挙動から目を離さず、全力で動き続ける。
だが、二人とも人間であり、ISに取って唯一無二と言ってもいい弱点だ。
本当に一瞬の出来事だった。
簪が離脱する一瞬だけ息を吐いた時、ラウラが一夏へ呼び掛けの一秒にも満たない照準のズレ。刹那的に訪れた瞬間。
離脱する薙刀の柄を掴み、死神が手元に引き寄せる。
「っ!?」
驚いた表情をそのままに蒼い手が簪の頭を掴み上げた。
「簪っ!!」
ラウラの声も射撃も最早届かない。
頭を締め付けられ射線軸に向けられ打鉄を盾代わりにされる。
「ひ、卑怯者」
辛うじて絞り出した簪の声にユウは内心で顔を顰める。ユウとて気分の良い戦いではないのは重々承知の上だ。
それでも、彼女達は知らねばならない。世の中には卑怯と言う言葉では生温い程の外道がいると。目の前で起こっている悪夢など現実の恐怖に比べれば足元にも及ばないと。
打鉄を盾にしたまま高度を下げたブルーはその手にビームサーベルを構える。
「やめろぉ!!」
青褪めたラウラの何度目かの叫びは無情なまでに打ち砕かれる。
出力を最低限に抑えたビームサーベルの刀身をビームナイフの如く小さくし腹部付近で一気に出力を上げる。
杭打ち機の如く突出したエネルギーの奔流が打鉄のシールドエネルギーを喰らい尽くす。
絶対防御が発動し命にこそ別状はないが、身体を貫かれる錯覚に耐えかねて簪はその強靭な意識をついに手放した。
「このっ! このぉ!! 砕けなさいな!」
「何で、何で壊れないのさ!」
簪が成す統べなく投げ捨てられた時を同じくして、アリーナの観客席でエネルギーフィールドに攻撃を仕掛けているセシリアとシャルロット。
同じ箇所にスターライトMkⅢとビットによる射撃を繰り返し、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの最大火力装備である六九口径パイルバンカー 通称
いかにエネルギーフィールドが強固と言えどIS二機による一点特化攻撃だ、多少のダメージは通る。
しかし、小さく走った亀裂と穴は瞬く間に見えざる力により修正され、何事も無かったように元に戻ってしまう。
その裏で天災がリアルタイムで補強修正しているなど知る良しも無い二人の目の前で次々に同級生が落とされていく。
ISがあっても守れない、ISの力では倒せない現実が立ち塞がる。
小さく身動きする気配を鈴音が腕の中で感じ取る。
簪が落とされた頃に辛うじて意識を取り戻したものの動ける状態ではないのは明白。
瞬間的に加わったダメージに甲龍の安全装置が働き搭乗者の生命活動を守る為に強制睡眠させようと働きかけていた。
それでも、まだ眠るわけにはいかない。後数秒で良い、鈴音には最後の仕事が残っている。
「起きた? 全く、世話掛けんじゃないわよ…… アンタの武器は分かってるわね? ゴメン、後、任せるわ」
声に出来たのか分からないが、伝わったと信じて鈴音は重たくなる瞼に逆らう事を止めた。
「鈴…… ごめんな、ありがとう」
思わず謝ってから「謝るな!」と怒られる自分を想像して一夏は表情を少しだけ緩める。
一夏自身のダメージはそれほど大きくはない。落下の衝撃も鈴音が庇ってくれている。
鈴音を静かに横たえ、白い騎士は立ち上がる。
死神の赤い瞳とラウラの金色の瞳が一夏の姿を捉えている。死神の表情は分からないが、ラウラは驚いたように目を見開き、微かな希望を手繰り寄せたと感じ取っていた。
簪も敗れ、鈴音も動けず、ラウラも戦える状態ではない。自分より強い皆が倒れ伏しており全身が震えを帯びる。
現実を直視する程に恐怖を実感し、鳴りそうになる歯を食いしばり、一夏は立ち上がり雪片弐型を正眼に構える。
ここで逃げ出すわけにはいかない。相棒が背中を守ってくれたのなら、今度は自分が答える番だ。
「俺が相手だ」
EXAM無双の話でした。成す統べなく皆がやられると言うのは余り良い気分ではないかもしれませんが、きっと必要になる話。
ブルーの呼び名がブルーだったり死神だったりしますが、ユウ側の表現の場合はブルー、学園側の場合は死神にしているつもりです。