IS ~THE BLUE DESTINY~ 作:ライスバーガー
IS学園を目指し海上を進むブルーの進路をディスプレイの光点で確認しながら箒は一息つく。
自分が飛ぶわけでもないのに飛行進路を確認してのオペレーションは緊張するものだ。箒自身はISを装着しての鍛錬は基礎レベルものしか行っておらず、島のステルス範囲の問題もあり余り高度を上げての飛行は行えていない。
シミュレーターではユウの指導もあり、自在に飛べるようにはなったが、未だに空を飛ぶ感覚を実感しているとは言い難かった。
男でなくとも空を飛ぶのに憧れを抱くもので、ユウが低空とは言え空を飛ぶ姿を羨ましいと思わずにいられなかった。
「結局、間に合わなかったかぁ」
我輩は猫である、が片付けた机でくーと一緒にお茶をしていた束が呟く。
その目の前には箒と同じく進路状況を示す光点があり、その横にはブルーのマシン状態が事細かに表示されていた。
そういえば先ほどは掃除の件で有耶無耶になってしまったが、何やら唸っていた様子であったのを思い出し箒は束に向き直り問うてみる。
「間に合わなかったとは?」
「ブルーの新装備だよ」
即答に思わず箒は目を見張る。
これまでの戦績、実際に打ち合ってブルーがどれほど規格外なのかは箒とて良く分かっている。
競技用のISとは比べるまでもなく、軍用ISとも異なった完全な戦争用であるブルーにまだ何か付け加えると言うのだろうか。
「今のブルーでは足りないのですか?」
「ううん、文句の付け所は無いと思うよ、私が作ったんだから完璧! と言うと語弊がありそうだけど、いや間違いじゃないんだけどね?」
「では、新装備と言うのは?」
「ドダイもその一種なんだけど、必要になると思わないかい?」
「それは、今のブルーでは負けると言う意味ですか?」
「質問が多いね、お姉ちゃん嬉しいよ! そうだねぇ、質問に答えるなら負けるとは微塵も思ってないよ? でもさ箒ちゃん考えてみてよ、ブルーは世界単位で異例な存在だよ、もし、万が一にも世界中が手を組んでブルーに対抗しようとしたら? 単純な戦闘行為においてはブルーの性能とユウ君の腕があれば心配はしてないけど、全軍を挙げて捕縛、もしくは撃破に乗り出してきたら? ISが無敵ではないのと同様にブルーだってユウ君が疲れれば動きは鈍くなるしエネルギーだって無限じゃない。そのイザという時を打ち破る"何か"が必要になると思わないかい?」
ISは無敵ではない。軍人であれば時として呪文のように言い聞かせる場合はあるが、束の口から出るとは箒も思っていなかった。
束の言う通り、ISは単機でぶつかり合う場合の戦闘力で言えば他戦力を寄せ付けない最強と呼べるものだが、乗っているのは人間だ。疲労も溜まるし食事や生理現象も付きまとい無敵とは言い難い。
「例えばそうだね、ビット兵器のように全身のパーツをバラバラにして全方位対応型のオールレンジ攻撃だったり、外部からエネルギー供給を得て超大火力キャノンを展開したり、ビームを跳ね返す装甲や曲げるバリア、残像で分身を作る機能なんてのはどうだろう」
「ま、待って下さい! 言ってる意味は分かりませんが、とんでもない事を口走っているのは分かります!」
連続で飛び出した明らかに規格外であろう武装の数々に箒が慌てて待ったを掛ける。
「今のは冗談だけどね?」
「ほ、本当ですか?」
「出来たら面白そうだとは思うけど、現実的に無理かな。今の所はジェガンに搭載されていたシールド内蔵のミサイルランチャーとハンドグレネード、後はビームライフルかな。後付武装になっちゃうから威力は競技用のISと同等位になるけどね。箒ちゃんは何か良い案はないかい?」
言われて箒は「ふむ」と顎に手をあて少々考える。
「……実体剣はどうでしょう? ビームサーベルでは零落白夜は止められないのでは?」
現在のブルーの兵装はシールド、バルカン、マシンガン、ミサイル、ビームサーベル。
弾数制限と威力の問題から限りのあるミサイルは別にしてもビームサーベルは威力が高く使用頻度の高い武器だ。
実際には拳やシールド、マシンガンで殴るなど戦い方は様々だが唯一の近接武器と言っても良い。
止める方法が数あると言えど零落白夜はブルーの装甲を貫く攻撃力を持つ数少ない存在だ。軽んじる事は出来ない。
零落白夜の特異性は言うまでもないが刃が届かねば意味はなく、エネルギーを纏っていない実体のある武器であれば受け止め可能だ。
逆に言うとエネルギーの塊であるビームサーベルでは止められず、雪片弐型と刃を交えたとしても零落白夜を発動されれば砕かれてしまう。それはブルーと言えど同じだ。
「確かにビームサーベルと零落白夜の相性は最悪なんだけど、ユウ君が実体剣はいらないって言うんだよね。あるにこした事はないと思うし、熱を帯びたヒートサーベルなんてどうだい! って言ったら珍しく露骨に嫌そうな顔をされたよ。まぁ、所詮小手先の問題で大局的な対策じゃないんだけどね。それより箒ちゃんいいのかい? 今回はこのままユウ君のモニターを続けると、ショッキングな映像を見る事になるかもしれないよ? お姉ちゃんは心を鬼にすると決めたのだよ!」
豊満な胸を張る束の隣では意味は分かっていないが、取り合えず束が満足そうなので小首を傾げながらも拍手を送るくーの姿。
「やーやー くーちゃん、どうもありがとう!」
「……私も心は決めています、一夏が這い上がってくれると信じると」
くーとハグを楽しんでいる束を他所に箒の呟きは小さく消えた。
◆
IS学園には複数のアリーナがあり、学年別トーナメントはほぼ全ての生徒が参加する為、複数のアリーナで学年別に実施されていた。
一年生はタッグ形式と言う事もあり、他学年より少しばかり進行が早くアリーナでは既に一回戦が一巡し二回戦目の準備が始まっている。
注目されているタッグは幾つかあるが、唯一の男性搭乗者である織斑 一夏と中国の代表候補生である凰 鈴音のタッグも見事に一回戦を突破していた。
鈴音が巧みにリードしているとは言え、一年生のこの時期であれば連携戦と呼ぶに相応しい戦いぶりだったと評価は上々だ。
最も、それ以上に注目を集めた戦いが一回戦で既に勃発していた。
一回戦で最も注目を集めた対戦はラウラ・ボーデヴィッヒと更識 簪のタッグとセシリア・オルコットとシャルロット・デュノアのタッグ。
四ヶ国の代表候補生による戦いは一回戦でぶつかるには勿体無い程の好カードとなり、事実上の決勝戦として近年稀に見る盛り上がりを見せた。
実戦で使用され高いレベルで纏まったドイツの第三世代機シュヴァルツェア・レーゲンを駆るラウラと第二世代でありながら高い汎用性を持つ愛すべき量産型のカスタム機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを駆るシャルロットは本国から届いたばかりの防御用パッケージであるガーデン・カーテンを装備した状態で望んだ。
黒と橙の二機のISは遠近での射撃の応酬に近接での打ち合いとアリーナ全域を舞台にして激しく砲火を広げる戦いを繰り広げた。
近接特化型の打鉄を駆る簪と射撃特化のブルーティアーズを駆るセシリアも一進一退の攻防と駆け引きを繰り返し、所狭しと駆け回っていた。
時折対戦相手を変えたり、互いの死角をカバーする連携を見せたりと競技用と言えど実戦さながらの装いは観客である同じ一年生達を魅了し、そのレベルの高さに絶望を植え付けた。
結果を言うなら、ラウラと簪が勝利を飾るのだが、互いに持てる技術を出し切った上での結果であり、四人ともが満足の行く終わり方と言えた。
「ガーデン・カーテンまで使ったのに負けた…… 怒られるかなぁ」
戦いそのものに異論のつけようはなかったが、企業の代表としての面も持ち合わせているシャルロットは少々顔色が宜しくない。
「元気を出して下さいな。不本意な結果に終わってしまいましたが、清々しい良い戦いだったではありませんか」
「それはそうなんだけど、ガーデン・カーテンをいきなり壊しちゃったのは不味かったかなぁ」
「ぶっつけ本番で新装備を試すシャルロットさんもどうかと思いますわ」
「仰る通りです」
不貞腐れた様子を見せるシャルロットを慰めながらもセシリアとて内心では悔しがっていた。
ラウラも簪も強敵と呼ぶに相応しく、負けはしたが試合内容は申し分ない内容だった。
ガーデン・カーテンが破損すると言う事態にはなったが修繕可能な状態であり、性能としては十分に引き出せたともいえるのだが、負けは負け、惜しみない称賛の拍手があろうとも悔しいものは悔しいのだ。
が、いつまでも落ち込んで入られない。一回戦が終われば二回戦が始まるのは道理。参加人数が多い事からも連戦は無いが、二回戦にも注目される戦いはある。
一夏と鈴音とラウラと簪の激突。この戦いは代表候補生としても友人としても見届けねばならない。
◆
「凰 鈴音、邪魔をすると言うのだな」
二回戦の中程、出番を向かえ空中で待機する四機のISが睨み合っている。
ラウラの先制口撃とも取れる言葉に呆れ顔を浮かべた鈴音が肩を竦めて見せた。
「邪魔って、タッグバトルなんだからあたしも加わるに決まってんでしょーが。それとも何、アンタ達は二人掛かりで一夏をボコりたいわけ? 代表候補生としての誇りはないの?」
「む、なるほど、言われてみればその通りか、失言だったな」
「そんなにアッサリ引かれると困るんだけどね」
苦笑を浮かべる鈴音であるが、ラウラの性格はシャルロットに聞いており友人の友人を無条件に嫌ったりはしない。
一夏に対して敵対するのであれば容赦しない心構えではあるが、それはそれで別の感情だ。
鈴音の隣では明らかに肩に力の入った一夏がラウラと簪を見据えており、その目は今にも闘志が燃え上がらんとしていた。
見かねてその背中をバシンと良い音を立てて鈴音が叩いてジト目で相棒を睨む。
「そんなに気負うなっての、半分背負ってあげるから気楽にしてなさい」
「悪い、ってか痛ぇ!」
「肩の力抜けたでしょ? 大丈夫よ、あたしもついてるし、アンタも強くなってる」
「おう、サンキュ」
鈴音が気合を入れなおす事で一夏の目から緊張と力みが消え自然体になっていた。
その様子を見ていたラウラは「ほぅ」と意外そうに目を見張る。簪は視線を彷徨わせており、思考の読めないどっちつかずの表情で成り行きを見守っている。
一回戦の様子は互いに見ており、どちらかと言えばラウラ達の方が武装も全て見せ手札を晒しきった状態だ。
セシリアとシャルロットと戦う際に全力を出し尽くしており、時間を置いていると言えど疲労が完全に引いたとも言えない。
トーナメントが始まるまでは厄介なのは鈴音だけだと思っていたが、その認識は改めるには至っており一週間で一夏の動きは随分と良くなっているとラウラは評価しているが、それでも取るに足らない相手だとも思っている。
「少しはマシになったようだが、叩き潰す事に変わりは無い、いいな簪?」
「……うん、織斑君は強くなってるけど、私達の方が強い」
自分達に対する過大評価でも相手に対する過小評価でもない。代表候補生として積み重ねてきた時間と実績に照らし合わせた純然たる事実。
鈴音が天才であろうとも一夏に天武の才があろうとも、経験は裏切らない。代表候補生たるものが多少強くなった程度の相手に遅れを取るわけにはいかないのだ。
ISの稼働時間の差は一夏では絶対に埋められない、ISに関わってきた時間は逆立ちしても揺るがない。
「戯言に耳を貸す必要はないわ。あたし達は負けない、そうでしょ?」
間も無く告げる試合開始の合図を前に鈴音は二人から目を逸らさないまま横にいる一夏に拳を向ける。
「おう、勝つさ!」
コツンと互いの拳をぶつけ合い、試合開始が告げられた。
白式に乗るようになり、一夏は様々な人達と出会い戦った。蒼い死神と言う脅威にも晒された。
授業でISについて教えてくれた教員達、基礎から訓練に付き合ってくれた友達に、背中を任せて良いと言ってくれた相棒がいて。
「恥はかかせられないだろ!」
試合開始と同時に瞬時加速。
その動きに一切の淀みはなく、ニヤリと笑った鈴音以外の誰もが刹那の間を見失う程に、完璧な瞬時加速。
「なっ!?」
前触れを感じず目の前に雪片弐型を構えた一夏が現れ、ラウラは咄嗟に右腕のプラズマ手刀を展開させ左手で支えながら防御する。
すぐに隣の簪が動こうとするが、行く手を鈴音が遮る。
「一夏は大人気みたいだけど、あたしを忘れて貰っちゃ困るのよね」
「……今の瞬時加速、教えたのは貴方?」
「そうよ?」
「成程、短所ではなく長所……」
「そういう事よ!」
双天牙月を構えて鈴音が突撃、簪の薙刀とぶつかり合った。
簪が気が付いた通り、鈴音は一週間を一夏の長所を伸ばす事に費やした。
ハッキリ言ってしまえば一夏は弱点だらけだ、移動や回避は様になってきたが、射撃に対する認識の甘さや空中での制動はお粗末なものだった。
時間があれば少しずつ短所を削るのが良いのだが、一週間と限られた時間しかなかった為、長所、主に瞬発力と攻撃力の特化に勤めた。
結果的に白式はより攻撃特化になってしまい、癖がより強くなってしまったが一夏らしく成長したと思えば良い。
瞬時加速は加速前に一旦自機からエネルギーを排出、そのエネルギーを取り込み爆発させ加速する技術だ。この一週間で鍛え上げた瞬時加速は前後動作を含め全てが洗礼されている。
排出も取り込みも姿勢制御さえも一切の無駄がなく、一陣の風の如く移動する。
その姿はクラス対抗戦の決勝戦、最後の一幕で簪が一夏に見せた瞬時加速に劣らない程に美しかった。
「貴様っ!」
「何度も壁にぶつかった甲斐があるってもんだ!」
零落白夜は発動させず、剣撃で一気に押し込む。
不意打ちこそ食らったがラウラとて腕に覚えのある代表候補生だ、すぐにプラズマ手刀と六本のワイヤーブレードを展開し一夏の進路を妨害し反撃に移る。
無数に迫り来るワイヤーブレードをいなし切り払いつつも肉薄した距離は離さない。射撃戦になれば不利になるのは見えいるのだから。
絶対の間合いを維持すれば相手は零落白夜を恐れて動きが鈍くなる。それは相手が強者であろうとも代わらないはずだ。
必殺の一撃は必殺であるべきとして今までのように零落白夜に頼った戦いはしないように一夏は心掛けていた。
「えぇぃ! しつこい!」
シュヴァルツェア・レーゲンには第三世代機特有の特殊兵装が搭載されている。
掲げられた手に連動するように停止結界が発動、掌握された空間内の全ての動作が制限され、制止する。猛攻を仕掛けていた一夏がピタリと空中で身動きが取れなくなった。
「ぐっ! これか!」
「ふん、一回戦を見ていたのに何も考えずに突っ込んだのが愚かだったな」
「そうでもないぜ?」
一回戦にてセシリアのビットやシャルロットの動きが停止結界で止められている様を一夏も鈴音も見ている。
何の対策も立てていないはずがなく、身動きの取れない空間の中で精一杯強がって笑って見せた。
次に来るのは強い衝撃、全身を打つような嵐が一夏とラウラを纏めて薙ぎ払った。
「なにっ!?」
叫びはラウラのもの。
すぐさま視線を送れば簪と打ち合っている鈴音の肩にある
空間を圧縮し目に見えない衝撃を砲弾として放つ衝撃砲は龍砲と名付けられた甲龍の持つ第三世代機特有の特殊兵装はその名の如く雄叫びを上げる。
見えない砲身はあらゆる角度に射出を可能としており、簪と打ち合いながらも鈴音は位置情報を頼りに一夏の周辺に不可視の衝撃砲をばら撒いた結果だった。
≪助かった、鈴!≫
≪油断しない! 悪いけど、何度も助ける余裕はないわよ!≫
プライベート・チャネルで短いやり取り、単純であるが連携戦において互いの状況を知るに適した手段。
試合開始前に予め停止結界の対策として決めていた方法ではあり、無論ダメージは一夏にも入るが停止結界で一方的に敗れるよりはマシだと判断した。
会話しながらも鈴音と簪の戦闘は続行しており、改めて相手の力量が高いと思い知らされる。
「そうか、初手にこちらに切り込んだ理由はそれか」
「鈴がボーデヴィッヒの相手をしたんじゃこの手は使えないからな」
「くくく、確かに少々見くびっていたようだ、自分のダメージを覚悟の上で停止結界を止めるとはな、だが同じ手は何度も通じんぞ」
タッグ戦であるにも関わらず作られている状況は一対一が二組の構図。
一回戦でもラウラやシャルロットが戦った時も攻守や対戦相手は切り替わっていたが、基本的には同じような構図であった。
そして、この状況こそが一夏と鈴音にとって好ましい環境。
プライベート・チャネルは敵側が用いている可能性もあり、あくまで補助的な役割に過ぎないが、例えこの日の為に訓練を重ね、連携練習に励んできた面々であろうとも、一夏と鈴音には培った時間がある。
一夏がISの稼動時間で代表候補生に勝てなくとも、一夏と鈴音が友として過ごした時間は本物だ。友人同士の歩幅が自然と合うように、互いの動きは手に取るように分かる。
しかし、今回の戦いにおいて先ほどの手はそう何度も許される方法ではなさそうだった。
双天牙月と薙刀、共に近接用の武器で打ち合っている鈴音と簪が一進一退の攻防を繰り広げている為だ。
先ほどは上手く龍砲を放てたが、次も同じように援護できるとは限らない。
舌打ちしそうな表情を見せる鈴音は双天牙月を二つに分け、二刀流を持って細かな動作で攻めては守るを繰り返している。
表情こそ読めないが簪もまた、同じように攻めと守りを切り替えつつ長い薙刀を自在に操り、戦局は膠着状態に陥っていた。
「……ねぇ」
「なによ?」
呼びかけは簪から。互いに動きを止めず、激しく打ち合いながら短く言葉を交わす。
「さっきの織斑君の瞬時加速は見事だった」
「本人に言ってあげなさいよ」
「でも…… 私の方が速い」
次の瞬間、振り払われた双天牙月が空を切り、簪の姿が視界から消えた。
「しまった!」
攻撃ではなく回避の為の瞬時加速。一夏の戦いを見ていれば忘れそうになるが、それも当たり前の技術だ。
瞬時加速は直進にしか動けない。正面に自分がおり視界で捉える上下左右の範囲にいないのならば、自ずと移動先は限られる。
ハイパーセンサーだけでは追いきれないと行動の先を予測し上を向く。直感的な問題か、視界の先に簪を捉える事に成功した。
簪は鈴音の遥か頭上でバズーカ砲を構え、照準を定めていた。
鈴音の目が見開かれる。
それは撃たれると感じたからではない。
頭上の簪の更に上の上、背中の向こう側の遥か上空、アリーナに張られたエネルギーフィールドの内側に"蒼"を見てしまったから。
直後、轟音がアリーナ全域に響き渡った。
前回の乱入時も同じような引きをしたなぁ。