IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第26話 銀色Horizon

アメリカに広がる荒野の地下深くに一般には公表されていない軍事基地がある。

基地中央、地上と繋がっている縦長のトンネルをゆっくりと降下してくる一機のIS。

銀のフレームに包まれた甲冑のような美しいフォルム、武装を持っておらず開発途中と見て取れる中途半端な状態。

現在アメリカが開発中の量産仕様の軍用ISであるシルバーシリーズの一号機、通称シルバーワン、搭乗者はナターシャ・ファイルス。

長い円柱に続くトンネルを抜け、ドーム状の広間に降り立ったシルバーワンに何人もの整備員が駆け寄って来る。

その中に一人、整備員とは異なりISスーツ姿の女性を確認しナターシャは控えめに手を振っていた。

 

「ったく、会いに来ると毎回空に居るなお前は」

「仕方ないじゃない、この子と飛ぶのは楽しいんだもの」

「で、どうなんだ?」

「とても素直で良い子よ、私の考えを汲んで飛んでくれるわ」

 

ISを解除、周囲の整備員に情報を転送しながらナターシャは続ける。

 

「早く自由に大空を飛びたいってずっと歌ってるわ」

「軍用なのにねぇ」

「軍用でも、よ。飛びたいと願うなら相棒として叶えてあげたいもの」

 

試験運用として軽く流す程度の飛行しか許されていない現状とは違う、ナターシャもシルバーワンも全力で空を飛びたいと切に願っていた。

量産型仕様ではあるが、シルバーシリーズは中国の甲龍シリーズとはコンセプトが少々異なる。甲龍シリーズが高い汎用性を目的にしたこれぞ量産型と言う典型であったのに対しシルバーシリーズは少数での運用を主観にした精鋭機。

現在開発されているのは指揮官機を含め五機、高速戦並びに広域殲滅を基本概念に置き少数でありながら艦隊に匹敵する火力を有する高性能機だ。

量産型と銘打ってはいるが、どちらかと言うと親衛隊機と言う方がしっくり来るかもしれない。

 

「にしても、これチームで運用する意味あんのか? 単機で十分じゃねーか」

 

ナターシャの友人にしてアメリカの国家代表であるイーリス・コーリングが投影ディスプレイに表示されるスペックを見ながら顔を顰めるのも無理は無い。

現在はテスト機として基本フレーム状態であるが、指揮官機であるシルバーワンはこれから装甲や専用装備が換装され初めて完成する。

その性能はカタログスペック上では第三世代機でもトップクラス、搭乗者であるナターシャの実力が加われば世界屈指の実力になると推測される。

単機による突破力、広範囲攻撃における殲滅力、速度に耐久性と全てが競技用のISと違う実戦仕様の高いレベルで纏まっている。

軍用ISと言う括りで言えば欧州連合のレーゲン型、ティアーズ型、ラファール型、テンペスタ型も軍務で使用されてはいるが、競技用と兼任されており完全な軍用と言うわけではない。中国の甲龍も同様だ。

アメリカが威信を掛けて作り上げている完全な軍用ISは同国の人間から見ても化物だった。

 

「単機でズバ抜けてるからこそ、フォローする妹達が必要なのよ」

「言ってる事は分かるけどよ、こいつらが編隊組んで来て見ろって、私なら逃げるね」

「奇遇ね、私もよ」

「おい」

 

隣からジト目で睨まれナターシャはころころと効果音がつきそうな可愛い笑みを浮かべる。

圧倒的な性能を誇ると言う事は万一にも敵に奪取されるような事態は避けねばならない。

互いのフォローもシリーズの役割であるが、それ以外にも広範囲レーダーとしての役割がある。

開発中のシルバーシリーズは指揮官機以外の四機も高い性能を誇るが、広域戦を目的にした場合に互いのレーダーをリンクさせより広範囲を認識できるように設計されている。

高度な演算を単機ではなく複数機で行い、効率的かつ確実な射撃を実現可能にしており、少数で艦隊さながらの殲滅力を誇る。実戦に投入される事態になればシルバーシリーズの後には焼け野原が広がるだろう。

 

「本当なら軍事に関係なく空を飛んで上げたいんだけどね」

「そればっかりはどうなるか分かんねーな」

「えぇ、でも大事にしてあげたいわ」

「良い子だからか?」

「そう、とっても良い子で可愛いのよ?」

「そーかい」

「妬いてるの?」

「なんでだよ!」

 

笑いながらナターシャは愛でるようにシルバーワンの銀のフレームを撫でる。

ISに意思のようなものがあるのは教科書レベルで知られている事だが、単一仕様能力を始め搭乗者との同調率も重要になる。

そんな中でナターシャとシルバーワンの同調率は特に秀でている。それは周囲で見ている整備員が記録する観測データからも明らかだ。

撫でただけにも関わらず、その瞬間にISが明らかに反応したのだ。まるで喜んでいるかのように数値が僅かながらに上昇した。

意思があるとするならば、ナターシャは間違いなく意思疎通が出来ており、アメリカ広しと言えどここまでの同調率を誇る記録は他になかった。

 

「この子を全力で飛ばしてあげる日が楽しみだわ」

「戦火じゃなけりゃいいんだけどな」

「そうならないようにしないとね」

 

ISの開発は各国が競い合っているが、現状では欧州が一歩リードしている状況だ。無論、束の存在を除いてではある。

アメリカもIS開発に力を注いではいるが、単純な戦力で言えばISに頼らずともアメリカは圧倒的武力を有している。

言うまでもなくISの優位性は十分に理解しており、競技用、軍事用共に開発を推し進めてはいるが、このご時勢に世界大戦に発展した場合でも敵対国のISの侵攻を防ぐだけの手立ては持ち合わせている。

如何にISが優れた兵器として運用できると言え、空を覆い隠す程の弾幕や地対空ミサイルの雨を凌ぐのは容易ではない。

先に挙げたシルバーシリーズにしてもそうだ、国土を焼き払うだけであれば爆撃機や大陸間弾道ミサイルを持ってすれば実行は可能なのだ。

当然ながらISの迎撃能力や耐久性、速度を持ってすれば通常兵器の弾幕を掻い潜り、本土を焼き払う事も可能だろう。

だが、かつての白騎士事件の時とは違う。今はISの性能を理解した上で戦略を立てる事が可能なのだ。搭乗者が人間であればやりようは幾らでもある。

欧州連合が黒いラファール・リヴァイヴに遅れを取った事実はあるが、対人戦闘を想定していた部隊であった事や自国の少女に動揺した事を加味すれば致し方ないとも言える。

実戦の結果において仮定の議論は意味を成さないが国として対ISを想定して望んでいたのであれば結果は大きく異なったものになるだろう。

異なる世界である宇宙世紀において地上におけるゲリラ戦での固定砲台(トーチカ)はMS相手に十分な脅威になっていた事からも通常兵器を侮るのは愚の骨頂だ。

ISが不要と言うわけではない。むしろ世界最強の軍事力を有しているからこそ必要になるものもある。

例えば大統領演説の後ろに美しい銀のISが揃い踏みでもすれば、それは世界に対する威光になりうる。

ナターシャやシルバーワンからしてみればプロパガンダに使われるのは本意ではないが軍人としては致し方なしと理解は示している。

 

「で、結局残りの搭乗者は決まったのか?」

 

シルバーワンを名残惜しそうに眺めた後でナターシャはイーリスを伴い移動を開始する。

軍事基地にも関わらず静寂が満ちているのはこの場所がシルバーシリーズの開発を主観にして規模の割りに働いている人員数が少ないからだ。

自分の足音が響く静かな廊下をナターシャは嫌いではなかったが、イーリスは逆に落ち着かないと苦言を呈していた。

 

「それが中々上手くいかなくてね、頭の固い軍人はあの子達が嫌うし、射撃特化で連携前提となると個性の強い乗り手とは合わないのよ」

「贅沢な悩みだな」

「いっそのことイーリが乗ってみる?」

「冗談だろ、私は殴り合う方が性に合ってるよ」

「残念、振られちゃったか。まぁ、あの子達は繊細だからイーリとは馬が合わないと思うけどね」

「どういうこった!」

「そのままの意味よ?」

「はぁ、でもま、乗り手を選ぶって意味では跳ねっ返り娘かもしれねーなぁ」

「何処かに居ないかしら、状況判断力があって広い視野を持ってる射撃の名手、個性が強過ぎず尚且つ頭の固くない若い娘が良いわね」

「注文が多いねぇ」

 

気心の知れた友人同士の会話ではあるが、その実は軍用ISの搭乗者探しと際どい話題だ。

可能であるなばら、戦火の空ではなく、自由の空を編隊飛行で飛んでみたいものだと思いを馳せる。

無論、それは希望的観測だとアメリカの軍に属する者であれば理解している。

アメリカと言う国は世界最強の武力を持ち、多数の同盟国や張り巡らされた情報網を持っており束と言う規格外を除外すれば間違いなく世界で群を抜いている。

当然ながら欧州やIS学園で起こっている異変についても情報を掴んでいるのだ。

何事もなくシルバーシリーズが空を飛べる日が来れば良いと思うのも事実だが、胸騒ぎを抑えきるには至らなかった。

 

 

 

 

ドイツから戻った束は「あーでもない」「こーでもない」と実際に口に出しながら唸りながら忙しそうに考え込んでいた。

普段は投影ディスプレイなど情報端末で処理する束ではあるが、今は紙ベースの資料に書き込んでは投げ捨てるを繰り返し、読み漁った書類を散らかしまくっていた。

何度も宙を舞う紙束を天井から大型アームの我輩は猫であるとエプロン姿のくーが主人に負けない位に慌しく掃除に明け暮れている。

祖国であり、自らの育った環境に触れたくーは何か吹っ切れたように甲斐甲斐しく束に尽くし、表情こそ明るいとは言い難いが健気な姿で働いていた。

束は熟考中でくーは動き回っていた為だろうか、我輩は猫である以外でラボに彼女が侵入した事に気付いていなかった。

 

「姉さん!」

「ひゃい!」

 

背後から聞こえた箒の怒声に飛び跳ねながら正座に移行する離れ技を見せて束が振り返る。

恐る恐ると言った様子で妹の顔色を窺う姉の姿がどんどん小さくなっているように思う。

 

「な、何かな? 箒ちゃん」

「ナツメだけでなく、くーにまで掃除をさせて情けないと思わないのですか? 少しは自分で片付けを覚えて下さい」

「え、えっと、申し訳ない」

 

世界中の誰が篠ノ之 束の怒られている姿を想像できると言うのか。

見る影もなく小さくなった束がしょんぼりと肩を下げて項垂れている。

 

「あ、あの箒さま、私はかまいませんので、束さまのお役にたちたいです」

「くーちゃん!」

 

思わずくーの細い身体を抱き締める束だが、箒の形相は変わらない。

 

「くー、覚えておくと良い、甘やかすのと手伝うのは別だ」

 

少女の援護を切り捨てる。

以前にも同様の注意を姉と我輩は猫であるに指摘したが、改善の傾向は見られていない。束は没頭すると他が見えなくなり、我輩は猫であるは束のサポートをする為に作られたのだから仕方がないとも言える。

箒もラボに来た当初は貰われた猫の如く、変わった生活環境に戸惑ったものだが、今は後輩の少女が出来た影響か堂々たるものだ。

今では生活も保護プログラムの頃からは一変しISについての知識を束に学び、学業は我輩は猫であるがディスプレイ表示で教鞭を振るっている。

体力面に関しても走り込みと素振りを島の周囲を活用し日課としており、中でも精力的に取り組んでいるのはユウとのIS訓練だった。

流石は束のラボと言うべきか、仮想空間におけるISのシミュレーターまで設置されており、ゲームセンター等とは無縁の生活をしていた箒にとっては新鮮だった。実戦を想定したISを装着しての訓練も行っており年頃の少女には厳しすぎる程だった。

その上で家事まで引き受けているとあって箒の一日は多忙を極めているが保護プログラムを受けていた頃よりも充実した日々を送っていた。

 

「あ! 箒ちゃん、良く見るとボロボロじゃないか! ユウ君だね! ちょっとお姉ちゃん怒ってくる!」

 

萎んでいた束が視線で箒の状況を確認して怒気を放つ。

愛しの妹がISスーツ姿で泥だらけになっていれば心配もすると言うものだ。

ユウの指導は決して行き過ぎとは言えないが容赦はない。

実機を使っての訓練は当然ながら手心を加えて貰えるが、シミュレーター訓練においては一切の妥協なく全力で叩き潰してくる。

何故シミュレーションの方が厳しいのか、以前箒は問うたが「シミュレーションで地獄を味わった経験がある」と返ってきた。

その言葉を聞いて箒も束も宇宙世紀ではユウも一兵士でしかないと認識せざるえなかった。ユウですら地獄を感じる宇宙世紀の戦争とはどれほどのものだったのか。ユウを上回る化物が闊歩しACEすら飲み込む激動の時代だったのだろうかと脅威を感じずにはいられなかった。

今回は実機での訓練であったが、打鉄を使い延々とブルーと近接攻撃を打ち合うのはISについて学び始めたばかりの箒にとってどれだけ過酷かは言うまでもないだろう。

 

当然ながら、論点のすり替えによる束の脱出作戦は失敗。

本気で口論すれば箒が束に勝てる要素はないが、日常的な背景であれば箒に分があった。

束は正座でくーにしがみ付いたまま説教を受ける珍妙な状態に陥ってしまう。

 

「あ、足を崩してもいいかな?」

「ダメです」

 

天災にも日常はあるのだと実感できる光景だった。

ガミガミと擬音の聞こえそうな勢いで、人間とはどうあるべきか、そもそも弛んでいる、くーを逃げ道に使うな、と道徳的な説教が続く中で不意に箒が足元に視線を送る。

 

「これは……?」

 

疑問の声を共に拾い上げた紙には見た事の無いISの設計図。

機体図面の横にスペックと思われる数値も詳細に記されており、綿密に作りこまれていると一目で分かった。

既存のISに比べ無骨なフォルムに武装が格納状態ではなく表立って装備されている。

設計図面の隣に大きく殴り書きでゴーレムと記載されているソレは赤字で大きな×が記されていた。

 

「ん? あぁ、それか、そんな所にあったんだね、ちゃんと廃棄しておかないと」

 

箒からの口撃が止まったタイミングで束が我輩は猫であるに指示を送り、アームが器用に紙をつまむとシュレッダーに放り込み、束以外に知る人のいないISの存在が抹消された。

が、音を立てて刻まれる紙にあった文言が箒の心を揺さぶってならない。試作型対IS用IS。その記述が気になって仕方なかった。

 

「姉さん、今のは?」

「十全たる束さんの数少ない、天文学的に見ても奇跡的に珍しい失敗作だよ」

「失敗作?」

「そう、暴力だけを追い求めた結果だよ、ユウ君に出会わなければあの子の力を使っていただろうね」

 

ゴーレムと呼ばれる無機質なISは無人機として束が設計していた禁忌の力。使われなくてすんだ狂気。

ISに無人機は存在せず、本来は有人でしか動かないはずだが、コアを自作しISの生みの親である束に常識と言う概念は通用しない。

一夏に対し遠隔操作でISを動かせると偽装した経験のある束からしてみれば無人機はそれほど難しい技術ではなく、擬似的なAIを使う方法や遠隔操作でISを強制的に動かす方法はあるのだ。

束はまるで世間話でもするかのように「利便性を追及するのであれば無人機程都合の良いものはない」と続けた。

それはそうだろう、何せ搭乗者に対する危険性がなく、配慮が必要ないのだ。どれだけ化物のような性能であっても搭乗者の身体を気遣う必要がない。

目標に対し感情を持たず任務を遂行できる人形であれば機体性能だけを追求出来る。

あの日、流星が落ちてこなければ起こったであろう武力介入がどのような結果になったかは分からないが、ゴーレムを使わずに済んだ現状は束一人では到底成し得なかった。箒の奪還もくーの救助も出来ている現状に文句などあろうはずがない。

 

「本音を言えば、無人機も悪くないと思うんだよ? 機能性、効率、どれをとっても間違いなく便利だもの、でもね、武器を使うのに自分の手を汚さないのは卑怯だと思わないかい?」

「ユウさんの手を借りておいてそれを言いますか」

「ふっふっふ、何を隠そう、お姉ちゃんは自分で戦うと弱いのだよ!」

 

言われずとも箒は十分に承知している。武闘派の千冬と頭脳派の束、昔から互いに異なる天才同士。

今は束の隣にいるのは千冬ではないが、無人機でもない。

物言わぬ人形に頼っていた可能性よりも、今の方が良いと思うのは箒も同感だった。

あえて言わないが、箒とて分かっているのだ。ユウの手が血で染まる場合は束自身が血で染まる気概なのだと。

 

「私は十全だけど人間だよ、争うのは人間で十分なんだ。無人機に頼るのはエレガントじゃないよ!」

 

最後は誤魔化すように束は笑う。

 

「姉妹談笑中の所悪いんだがな」

 

トントンと開きっぱなしの扉を叩きユウがラボに姿を見せる。

 

「博士、そろそろ時間だ」

「おっと、もうそんな時間だね!」

 

言われて立ち上がろうとした束の足が痺れ、倒れそうになったのをくーが必死に支える姿は微笑ましいと取るべきだろうか。

 

 

 

 

 

表示されるディスプレイのルートを確認していたユウの下にパタパタと足音を立てて くーが駆け寄ってくる。

お皿に乗せてあるのは自家製のパンに焼いた卵を挟んだだけの簡単なサンドウィッチ。

 

「あの、ユウさま、お食事まだですよね?」

「頂こう」

 

数回に分けて咀嚼してパンを喉に押し込み、ユウの手がくーの頭を優しく撫でる。

 

「帰って来たらまた用意してくれ」

「はい、あの、おいしくなかったですか?」

 

かけ込むように食べたのは出撃前であった為なのだが、くーは別の意味で捉えたようだ。

パンを作る勉強を始めたばかりの幼い少女の料理の腕前は絶賛できる程ではないが、下手ではない。

仮に下手であったとしてもユウや束が不味いと感想を口にはしないだろう。

 

「いや、知り合いのパン屋より美味かった」

「お知り合い?」

「気にするな」

 

軽く微笑んでからユウはブルーを展開する為にくーを下がらせる。

くーが離れたのを確認してからブルーを展開、カタパルトに移動する。

 

「ユウ君、今回の任務は分かってるね?」

「あぁ、問題ない」

 

くーとの一連のやり取りを微笑ましく見守っていた束に返事をしてブルーを稼働。ユウに呼応するように双眼に緑の光が灯る。

各部ブースターが連動し、ユウと束にそれぞれ必要な情報が転送される。

同時に島から伸びたガイドビーコンが色を宿し、道なき道がブルーの前を照らす。

 

「進路クリア、ブルーディスティニー発進どうぞ」

「了解、ユウ・カジマ、ブルーディスティニー出るぞ」

 

箒の声を確認し、一気に加速。

太平洋上の地図に映らない島から蒼い稲妻が疾駆を開始した。

 

ブルーディスティニー、蒼い運命、もしくは宿命を冠する死神であり稲妻。

その名を刻み込んだ欧州連合への乱入はブルーの仕上がりを確認し実戦での経験を積む事が目的だった。

箒の奪還はデュノア社の乱入もあり、必要最低限の戦闘行為だけで済んだ。

前回、IS学園への乱入は白式の仕上がりの確認とIS学園にブルーを知らしめる為だった。

欧州連合への二度目の介入はISを用いる悪意、束の最悪の予想が当たった場合の対策だった。

そして今回、ブルーは二度目のIS学園への武力介入を試みる。

 

黒いラファール・リヴァイヴを見て束は確信をしていた。既に世の中にはISを使った悪意が蔓延りつつある事を。

明確な組織であれば軍が対処すればいい話だ。欧州にもアメリカにもその準備はある。

だが、姿の見えない悪意は何処にでも潜んでいる。

束の友人、箒の幼馴染、千冬の弟、唯一の男性IS搭乗者。一夏が悪意に狙われる理由は十二分過ぎる。かつて誘拐された際に無事だったのが奇跡に近いのだ。

だからこそ、束は守るべきものを叩き潰す。

今回の出撃の目的は、一夏に実戦の恐怖を教える事。いや、叩き込む事だ。

一夏に白式を与えたのは束だが、白式は非常に稀有な存在だ。一夏自身や白式を狙う悪意がいつ行動を起こすか分からない。

結果的に一夏が挫折するにしろ、這い上がるにしろ、知っておく必要がある。

一夏自身がISに関わると決めた以上、本人が望む望まないに関わらず、巻き込まれる可能性があるのだと言う事を。




シルバーワンは言うまでもないかもしれませんがあの機体です。
他国との合同製作ではなくアメリカの単独製作で、甲龍同様少々設定が異なります。

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