IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第16話 BATTLE TACTICS

五月、クラス対抗戦の日を迎える。

今回の対抗戦は一年生八組のクラス代表がAブロックとBブロックに分かれバトルロワイヤル形式で戦い、勝ち進んだ二名が決勝戦を行う。

ルールに関しては毎年異なり、昨年は総当り、一昨年はトーナメントと都度催しは異なっている。

細かなルールは他組と相談されないように当日まで発表されておらず、今回はバトルロワイヤルのブロック戦形式が採用された。

先日の蒼い死神乱入を考慮しアリーナ周辺にはISを展開した教師が待機し警備員も増員の上で配備されている。

生徒会も観客席の一角に陣取っており学園最強も備えている。

 

尚、今回のブロック戦においてはISのシールドエネルギーは凡そ三分の一。

ISのエネルギーは個々によって総量は異なるが、イベント的な要素の高いこの戦いにおいて固体差が大きすぎては面白みがない。

決勝戦は別だがブロック戦においては全機が一定値で戦い、各代表のエネルギー残量の変動がアリーナの大型ディスプレイで確認できるようになっている。

エネルギーがゼロになれば敗北であるが、戦闘時間が一時間を経過しても決着がつかなかった場合は残量によって勝敗が決する。

本来であればマシンスペックも加味したハンデをつけるべきなのだが、今回の参加者の中では専用機は一夏の白式のみと言う事でハンデはつけられなかった。

女尊男卑と言う意味ではなく、純粋に実力において不要と判断された。

 

一組の控え室には千冬と山田先生、白式の最終調整に付き合ってくれている本音。

友人件戦術アドバイザーとしてセシリアとシャルロットが同席していた。

セシリアは廊下で何やら通信中で席を外しているが一夏にとって心強い面々と言える。

試合前に精神を集中させる為に椅子に座り目を瞑っていた一夏が一呼吸をして目を開く。

同時に部屋の外で秘匿回線にて通信していたセシリアが部屋に戻ってくる。

 

「お気になさらず、欧州でちょっとした軍事の動きがあるだけですわ」

「あ、僕にもさっき連絡あったよ」

「大丈夫なのか?」

「問題ありませんわ、ISの出動要請ではありませんから」

 

欧州連合と言う一種の武力に所属している二人は欧州連合が軍事力を行使する場合に連絡が来る。

非常召集が掛かる場合もあるが、殆どは連絡だけだ。

相手が武装集団であろうとも欧州連合の軍事力を持ってして敗北は考え難い。

ISを戦力としてカウントしなくとも軍事力としては並大抵ではないのだから。

 

「それよりも織斑さんと白式の準備は宜しくて?」

「大丈夫だよ~」

 

一回りは大きいような制服のぶかぶかの袖を振って白式を見ていた本音が伸び伸びと笑う。

 

「白式はぜっこーちょー。オリムーもぜっこーちょー?」

「おう、バッチリだ」

 

先日の蒼い死神乱入から話をするようになった本音は一夏の事をオリムーと呼ぶ。

当初は戸惑ったものの、小動物のような愛らしさのある本音の言動は次第に気にならなくなっていた。

本音に礼を良い、立ち上がると一夏は拳を握る。蒼い死神との戦い以降、一層の訓練に励んだ。

剣道場に通い竹刀を振るい、剣道部員達と打ち合った。

時間の許す限りセシリアとシャルロットとISの訓練も戦術議論も繰り返した。

 

「今回のルールではアレが出来るのは一回ですわね」

「そうだね、切り札を初手から切る事になるけど、ベストだと思うよ」

「分かった、やってみるよ」

 

セシリアとシャルロットの言葉に一夏も頷きを返す。

鬼ごっこを始め初歩ではあるが一年生の時期にしては早急すぎる事を多々学び自信が伺える。

 

「全く、入学間もないと言うのに色々教え込んだみたいだな?」

 

千冬が肩眉を上げてセシリアとシャルロットを睨む。

殺意こそないが威圧の込められた視線に思わず肩を竦めてしまう。

 

「も、申し訳ありません」

「つい白熱しちゃって」

「まぁいい、受け持ちのクラスがやる気になるのは大いに結構だからな、立場上私はアドバイスできんが、代表候補二人から最後にアドバイスは?」

 

セシリアとシャルロットが互いに視線を交換し一夏に向かい直る。

 

「今更アドバイスが必要とは思いませんが、少しだけ」

 

コホンと小さく咳払い。

真っ直ぐに一夏を見る目はクラス代表を決める模擬戦の時と変わらない正々堂々を誓った決意ある目。

淀みの無い澄んだ瞳に真剣な顔をした一夏が映り込む。

 

「全員が格上の相手ですが大丈夫ですわ。私達二人がお付き合いしたのです、負けるはずがありません。這い上がっておいでなさい、私達の舞台まで、共に踊れる日を楽しみにしております」

「セシリアは恥ずかしい事をするね」

「な、なんですって!?」

 

茶化すように言われてセシリアも自覚した。

正面から相手の肩を掴み見詰め合っての殺し文句紛いの台詞だ。一夏と言えど赤面を覚えずにいられない。

案の定横で見ていた山田先生は真っ赤に茹で上がっていた。

 

「こういうのは簡単で良いんだよ、気負わせても仕方ないんだから」

 

言ってシャルロットは手を高くあげる。

その意図を理解した一夏も同じ高さに手を掲げる。

 

「頑張って!」

 

高らかにハイタッチ音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

アリーナの四隅に四機のISが浮遊している。白式以外はラファール・リヴァイヴが三機。

抽選で決められた組み合わせは一組、二組、六組、八組によるバトルロワイヤル。

観客席では学生達がアリーナを見守る中、試合開始の合図を待っていた。

クラス対抗戦は同学年の指標目的であり生徒会や教師、警備を除けば外来の客も他学年も観客席にはいない。

その為、満員御礼と言うわけではなく場慣れしていない一年生達にとっては救いかもしれない。

 

「ふぅ」

 

救いと言っても緊張感がないわけではない。普通の生活では味わう事の無い視線の雨を気にするなと言う方が土台無理な話。

浮くという感覚になれたと言うよりは慣れさせられたと言うべき一夏が心を落ち着かせる為に大きく深呼吸を繰り返すのも当然だろう。

自分のクラスのクラス代表が出ていない大部分は男性搭乗者である一夏に視線を集中させている。

極力視線を気にしないように意識の外に追いやり、ハイパーセンサーが観客席を捉えようとするのを抑え込む。

アリーナにいる残り三機も一夏を注視している。何れも腕に覚えのあるクラス代表ではあるが国の代表候補生ではない。

専用機が一夏の白式しかない以上、厄介な相手と認識されていても無理はないだろう。

 

「大丈夫、やれるさ」

 

その呟きが聞こえたかのように試合開始十秒前が白式に送られカウントが始まった。

グッと歯を食いしばり、宙を蹴る準備をする。握った雪片弐型の感触を確かめながら三機のISを視界に捉える。

 

試合開始のブザーが鳴り響いた。

同時に宙を蹴り全力でブーストを吹かし瞬時加速に入る。目標は右側にいる八組のクラス代表。

白式がトップスピードに入り翼部から空気が摩擦で白い線となり二本の尾を引く。

セシリアやシャルロットに奇襲の際に声を上げては意味がないと注意を受けた。

それは蒼い死神が思っていた事と同じではあるが、一夏もそれを理解し無言で相手に一気に迫る。

 

「っ!?」

 

八組のクラス代表は専用機としての白式に注意はしていたが、相手は素人。そう侮っていた表情が驚愕に変わる。

注視していた事もあり即座に近接ブレードを展開。防御姿勢に入るが、直撃の瞬間に雪片弐型から淡い光が放たれる。

 

単一仕様能力 零落白夜 発動

 

一閃。

そう表現する以外に無い程の見事な抜き胴が八組のクラス代表のラファールを打ち抜いた。

防御を無視した一撃を浴びて強い衝撃と共にアリーナの壁にまで弾き飛ばされる。

激突し肺の空気を吐き出して驚きの表情のまま八組クラス代表は敗北を理解した。

アリーナの大画面に表示されている八組クラス代表の顔にLOSEの表示が貼り付けられる。

ざわついた空気と八組の落胆する声、一組の歓声がアリーナに広がるが集中を維持したままの一夏は何処か遠く音のように聞こえていた。

 

正に先手必勝一撃必殺。

一瞬の出来事に二組と六組のクラス代表は視線で共闘を意思表示。二機が並び立つように射撃姿勢に入る。

二組のクラス代表であるティナは大型のハンドガンを両手に、六組のクラス代表は回転式銃身を持つガトリング砲を展開。

二対一と言う状況を躊躇う事すらせずにトリガーを引く。

 

「くっ!」

 

即座に一夏は跳ねるように真上に回避運動を取る。

進路を塞ぐような弾丸を幾つか被弾しながらも細かく旋回を交えて上昇し二機の射程範囲から逃れる。

速攻を持って一機を落とす事に成功はしたが瞬時加速と零落白夜の使用し被弾を含め一夏のエネルギーも減っていた。

バトルロワイヤル形式は最後に残っていれば勝利なのだ。初手から積極的に攻める必要はない。

案の定、二組と六組は無言の共闘と言うバトルロワイヤルでは暗黙の了解に打って出た。

クラスの違う二人ではあるが、クラス代表を任される程だ、初見でも息の合った連携攻撃を見せている。

ティナの放つ二丁のハンドガンは一発一発は遅いが数多く弾丸を飛ばし、後方からガトリング砲で一夏の退避箇所を封じる六組のクラス代表。

完全に制空権を奪われ押し込まれつつあるのは誰の目でも明らかだった。

 

試合開始と共に瞬時加速と零落白夜を用いての一撃必殺。このパターンを教えたのはセシリアとシャルロットだ。

零落白夜は最強の攻撃力を持つが故に制約が多い。それを上手く活かす為には最初に零落白夜がどのようなものかを見せ付ける必要がある。

出来るだけ派手にあの一撃を()せつける必要があったのだ。

その甲斐あってか二機は測らずとも近接攻撃と言う選択肢を頭から捨てていた。

多様な武装を格納する事が出来るラファール・リヴァイヴを用い、二対一と有利な状況にも関わらず射撃に専念している。

回避に専念した場合の一夏の腕前はセシリアが身を持って証明している。

 

二種類の射撃の射程距離外まで移動し視線を眼下へ、共闘の意思を示した二機は互いに適正距離を保っている。

高機動戦の初歩と瞬時加速。初手における零落白夜、一夏の出せる手は出し切った。

完全な回避とはいかず被弾はしているが、ここまではセシリア達の予想通りだ。

二人の代表候補生が見越した通り、二人のクラス代表は零落白夜を警戒している。

訓練に付き合ってくれた二人の為、姉の名誉の為、敗北を糧に一歩を踏み出す為に。一夏は勝利を求む。

 

強く宙を蹴り滑空するように空を疾駆する。

エネルギー残量からも瞬時加速も零落白夜も使えない。

迎撃に撃ち出されるガトリング砲が目視では数え切れない物量の弾丸を吐き出す。

 

(オルコットさんの射撃より遅い!)

 

自分を鼓舞するように言い聞かせ、円を描くように加速し弾丸の雨を避け進む。

ISにとって基本である高機動戦は未だ得意とは言いがたい一夏ではあるが、ガトリング砲はビット兵器やショットガンのような面を覆う射撃ではない。

線による攻撃であるガトリングは小回りが利かず射線軸を意識すれば加速力に秀でる白式であれば回避は出来る。

 

「私を忘れて貰っちゃ困るけどね!」

 

中距離から二丁のハンドガンをクロスしてティナが迎撃に加わる。

雪片弐型を盾にして庇うが弾速よりも威力を重視しているであろう弾丸の衝撃が一夏の全身を圧迫するように打つ。

接近しつつ二丁を乱射するティナが一気に白式のシールドを削りに掛かる。

咄嗟に一夏が選んだのは盾にした雪片弐型ごと相手にぶつかる事だった。

銃撃に身を投げ出す恐怖は想像以上だったが、迷っている時間は無い。

この瞬間に出来る手として浮かんだ最善は皮肉にも蒼い死神と同じ戦闘パターン。

雪片弐型ごと強引にぶつかり衝撃で開いた空間を切り上げる。大きく弧を描いた斬撃がティナをかすめる。雪片弐型振り抜くと前に進みティナを蹴り飛ばす。

蹴った反動を利用して射線修正をしている六組クラス代表に突撃を仕掛ける。

 

ティナへの誤射を避け狙いを絞り込めなかった六組クラス代表は完全に意表を付かれていた。

あの場面であればティナへ追撃するであろうとした予測を裏切り白式が向かってきているからだ。

彼女がティナとの無言の共闘を捨て白式諸共撃ち払う事が出来ていれば一人勝ちだったが、そこまで割り切れなかったようだ。

結果的に重量のあるガトリングで対応は出来ず、一夏に接近を許した。

流石はクラス代表と言うべきだろうか、即座にガトリングを捨て機雷を展開させる。

機雷は本来は水中で潜水艦や艦隊の進路を妨害する為の接触型爆弾だが、IS用の空中仕様が施されたものだ。

指向性を持たせたものではなく、純粋に足止め目的の機雷を周囲にバラまく。

自分の周囲に展開させる場合は防御陣の役割を果すが、遠距離から撃たれれば連動して起爆する恐れがある。

白式には雪片弐型しか武器はない為に出来る防衛手段だった。

機雷はIS用武器としては小型で数を搭載する事は出来るが使い勝手が良いとは言えず玄人好みの武器と言える。

 

が、一夏は止まらない。

飛び込み面の要領で体重を乗せた一撃を正面から叩き込む。

当然周囲の機雷に接触、数多くの機雷が二機を包むように爆ぜるが雄叫びと共に一夏は打ち抜いた。

反射的に腕を交差させ頭を庇うが、防げたのは一撃目だけだった。

二、三、四、五と、面から小手、胴、面と繰り返し雪片弐型の乱撃が六組クラス代表を襲い力尽くで攻め立てる。

それは女尊男卑の時代で一般的に見る事の無くなった荒々しい男性の暴力だった。

撃破の余韻に浸る事もなく、一夏は視線を上げる。

見下ろすのは二丁のハンドガンを構えるティナ。その顔は勝利を求め獰猛な笑みが貼り付いていた。

 

流れは完全に一夏ではあるがアリーナの大画面が示す白式のエネルギーは残り二割を切っており、対するティナのラファール・リヴァイヴは八割は残っている。

切り札となる零落白夜はエネルギー割合からも使用は難しい。瞬時加速も同様だ。

勝利をもぎ取るには一撃必殺しかない。一夏が最も得意とし現状で最も難しい手段だった。




一年生八組はアニメでのクラス対抗戦のトーナメント表が八枠だった事を参考にしました。
原作にもあったかな? 私の見落としかもしれませんがこの作品では八組まであります。

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