IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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あけましておめでとうございます。今年もお付き合い頂ければ幸いに思います。


第14話 新しい絆

「もぅ、なんでこんなに広いの」

 

肩を落としてIS学園敷地内を歩くシャルロット。

日本政府に保護されデュノア社の打算も含めて転入の為に来園した所だ。

IS学園への転入は学力も技術レベルも相応なものが求められる。

政治的背景は別にしてもシャルロットは難関とも言うべき転入試験をトップクラスの成績で突破していた。

IS学園はあらゆる法的しがらみを受けないのだが裏では多数の国の思惑が入り乱れている。

同時に様々な国籍の生徒がいる事もあり学園内である程度生活ができる設備が整っている。

ISの運用を前提とした道路は広く作られ、校舎や寮、巨大なアリーナやプールを完備しているとなればその敷地は広大だ。

取り合えず校舎と思しき場所を目指して歩いていたシャルロットが疲れを見せても無理の無い事だった。

 

「いっそ飛んで行ったらダメかな、ダメだよね」

 

学園に在籍する前段階でのIS無断起動は下手をすれば国際問題に発展する可能性すらある。

ポケットから丁寧に折り畳まれた一枚の紙を取り出し目的地を再確認。

溜息を吐いて仕方ないと歩みを再開したシャルロットの前から小柄なツインテールの少女が近付いてくる。

下を向き少々イライラした様子であるが背に腹は変えられない。

 

「あの娘に道を聞こう」

 

相手の少女もシャルロットに気付き顔を上げ視線が交わった。

 

「えへへ」「あはは」

 

どちらからでもなく照れを含んだ渇いた笑みを浮かべる。

 

「「あの、IS学園の受付って何処ですか?」」

「「えっ?」」

 

シャルロット・デュノアと凰 鈴音がシンクロ状態で対面を果した瞬間だった。

 

 

 

 

 

春の陽気が降り注ぐ暖かい日。フランスと中国からの転校生は切磋琢磨し何とかIS学園の校舎に辿り着いた

簡単な説明を受け寮へと向かう途中で二人は改めてIS学園の広さを実感していた。

 

「にしても、本校舎一階総合事務受付って何よ。受付が何個もあるわけ?」

「そうだと思うよ。外来用とか」

「総合受付で全部済ませなさいよ」

「僕に言われても」

 

苦笑を浮かべるシャルロットと怒り心頭な鈴音。

改めて隣を歩く二人は互いを見据えて自己紹介を交わす。

 

「凰 鈴音よ。改めて宜しくね」

「シャルロット・デュノアだよ。こちらこそ宜しくね。凰さん」

「鈴でいいわよ」

 

握手を交わしながら互いに頭の中で相手の情報を再確認する。

 

(シャルロット・デュノア。デュノア社の娘にしてフランス代表候補生、ね)

(凰 鈴音。中国代表候補生で甲龍シリーズ一号機の搭乗者)

 

基本的な情報は筒抜けだろうと理解しながらも油断は出来ない。

代表候補生は非常に難しい立ち位置を求められるからだ。

 

「私の事知ってるわよね?」

 

緊張した状態を維持する事に嫌気が差したのか鈴音がシャルロットを覗き込む。

代表候補生はその国の顔と言ってもいい。

国にもよるが雑誌で特集される事やテレビで報道される事も多々ある。

逆に国家代表になれば情報規制レベルが格段に上がる。ISの世界大会に備え情報を漏らさない為にだ。

鈴音もシャルロットも、当然ながらセシリアも代表候補生としての責務は果している。

見世物の役目を担っていると理解している。

他国の代表候補生を調べるのは同じ立場として当然だった。

 

「えっと、名前位は」

「嘘ばっかり、代表候補生同士で知らないはずがないじゃない。そうでしょ?」

 

確認の意味か鈴音が見上げるように覗き込んだまま破顔した。

人懐っこい笑顔を浮かべ「にしし」と笑う鈴音の屈託の無い様子にシャルロットも警戒を解いた。

いや、警戒する意味を失ったと言っていい。

 

「そうだね、どうせバレてる事だし」

「そういう事よ、どうせ専用機の情報だったり代表候補生の実力を確かめて来いとか言われてんでしょ?」

「あはは、流石にそこまで暴露するのはどうかと思うよ?」

「気にする事ないわよ、嫌でも戦う事になるんだもの」

 

鈴音を知る者の多くは彼女を子猫と称する。

容姿や性格、細かな挙動を含めてその呼び名は間違っていない。

ただし、彼女を良く知る者は 獰猛な と付け加える事を忘れない。

鈴音の瞳の奥に光る爪に気付いたシャルロットはそう遠くない日に刃を交える事になると直感していた。

 

「その時は僕とラファールが相手になるよ」

「楽しみだわ、風が龍に届くかしらね」

 

闘争心を隠す事はせずに互いの立場を認識して二人は笑い合った。

戦争をしているわけではないのだ、代表候補生同士だからと敵である必要はない。

単純に腕を競い合う相手が強いに越したことはないのだ。

 

「ところで鈴、さっき受け付けで織斑 一夏について聞いてたよね?」

「うん、一組だって、シャルロットと同じクラスね」

「鈴は二組なんだよね。織斑君とは知り合いなの?」

「昔、ちょっとね」

 

隣の鈴音が懐かしむように遠い目をする。

その目はこの話題はここで終わりと言っているようでもあり踏み込んで欲しいようでもあった。

シャルロットは前者と取り過去を詮索する質問は重ねなかった。

 

「ISに触って間もないのにクラス代表なんて凄いね」

「珍しいから周りが推しただけなんじゃないの?」

「でも一組にはイギリス代表候補生のオルコットさんがいるしなぁ」

「あぁ、ブルーティアーズの」

「うん、彼女が珍しいってだけで代表を任せるかなって思ってさ」

「そればっかりは本人に聞いてみないと分からないわね」

「それもそうだね」

「ってか同じ組に代表候補二人って何よ」

「多分、僕もオルコットさんも欧州連合に関係あるからじゃないかな。非常時のスクランブル対策だと思うよ」

 

シャルロットが一組で鈴音が二組。代表候補生にして専用機持ちと言うのは他の生徒とは一線を成す存在だ。

既に一組にはセシリアがおり、専用機と言う意味では一夏も一組だ。

本来であれば同じ組に代表候補生や専用機持ちが固まる事はない。

今年の一年生に例外が多いと言うのもあるが異例と呼べる事態だった。

シャルロットが一組に入る理由として欧州連合を思い描くのも仕方ない。

各国の非常時における最大戦力である専用機持ちは緊急時に召集される場合がある。

その為に欧州連合の面々を固めたと考えても無理はなかった。

 

「あれが寮かな?」

「デカっ!」

 

受付で貰った地図を参照に出向いた先にあったIS学園の寮は校舎に負けずと巨大な建物だった。

二人一組の部屋で内装も一流ホテルに劣らないと言う事もあり外観からしても存在感をアピールしていた。

 

「さて、新しい生活の始まりね」

 

 

 

 

 

翌日、席に着くなり一夏の席を囲むように女生徒が群がった。

 

「織斑君聞いた?」

「転校生が来るって」

 

四月の入学時期早々に転校と言うイベントは似つかわしくない。

元々入学予定だったのが遅れていると言うのであれば別だが、話を聞く限りでは入学が遅れたわけではなさそうだ。

難関と呼ばれるIS学園へ入学ではなく遅れててでも来る理由があったと言う事だろうか。

 

「それも二人! 一組にフランス、二組に中国の代表候補生らしいよ」

「へー、代表候補生って事は強いのかな」

 

代表候補生といえば一組には既にセシリアがいる。

話に加わる為に一夏の隣にまで来ていたセシリアが微笑を浮かべていた。

 

「強さは代表候補生に求められる要素の一つですから」

 

既に一組に来るフランス代表候補生の情報を仕入れているセシリが肯定を示す。

 

「ですが織斑さん。気にしている余裕はありませんよ? クラス対抗戦も近いのですから」

「そうだよ! 優勝だよ、優勝!」

 

クラス対抗戦は各クラスの代表が腕を競うイベントだ。

本格的なISの学習が始まる前に実力を測る事とクラス間での交流が目的だ。

優勝商品は学食スイーツの半年フリーパスとなれば女子の燃料としては十分だ。

 

「やれるだけでは困りますわよ? 私の為にも勝って頂かないと」

「オルコットさんの為じゃなくて皆の為にね」

「優勝以外に興味ないよ」

「織斑君が勝つと私が幸せで皆も幸せなんだよ~」

 

クラス中で一夏の優勝への期待が高まる。

白式にて模擬戦と実戦を経験したが何れも勝利は得ていない。

着実に腕が上がっている事実を本人が自覚するには至らないのが現状だ。

周囲に何時の間にか女子が群がっているが流石に毎日この状態であれば一夏も慣れてくると言うものだ。

 

「頑張るさ。やるからには勝ちたいしな」

「やる気があるのは結構だがSHR(ショートホームルーム)を始める。席に着かんか」

 

何時の間にか教卓には千冬が立っておりその隣には苦笑気味の山田先生と転校生であるシャルロットの姿。

蜘蛛の子を散らすと形容するように群がっていた生徒達が自らの席に着いた。

 

「話題に出ていたようだから、改めて言うまでもないかもしれないが転校生だ」

 

視線で促されシャルロットが一歩前に出る。

 

「シャルロット・デュノアです。不慣れな事も多いですが皆さん宜しくお願いします」

 

にこやかな笑顔で告げたのは一見すると華奢な印象を受ける。

明るい金髪に中性的な顔立ち、礼儀を心得ている立ち振る舞いだった。

 

「わぁ、美人って言うか、なんていうか」

「男の娘?」

「誰よ、欲望に忠実なのは」

 

嫌味のない笑顔を浮かべているシャルロットは教室を見渡して一夏とセシリアを確認。

セシリアに向かって小さく手を振り、向けられた側もそれに応えた。

 

「オルコットさん知り合い?」

「えぇ、欧州で少々お付き合いがございまして」

 

同じ金髪同士が微笑むとそれはとても絵になる光景だった。

 

 

 

休み時間の度に一夏に群がっていた生徒達も転校してきたばかりのシャルロットに興味が行っている事もあり今日は少々平穏だった。

購買にて購入してきたISの雑誌を捲りながら蒼い死神の記事が無いか探してみる。

箝口令が敷かれている事を考えても載っていないだろうとは思いながらも探さずにいられない。

命の危機に瀕した事は過去にもあるが、実戦として武器を持って向き合ったのは始めてだ。気にするなと言う方が無理だろう。

実戦を思い出すだけで緊張が走るのが分かる。あの瞬間は恐ろしくも研ぎ澄まされていたのだと実感せざるえない。

 

「織斑君?」

 

考え事をしていた事もあり頁を捲った格好のままで一夏は固まっていた。

呼ばれた声に視線を上げると座席の目の前でシャルロットが一夏を覗き込んでいた。

 

「え? あ、あぁ、ごめん、考え事してた」

「それはいいんだけど…… 織斑君のえっち」

「えぇ!?」

 

慌てて視線を下げると雑誌の後ろの方で特集が組まれた頁を何も考えずに開いてしまっていた。

そこにはフランス代表候補生特集の頁。

フルカラーの頁には三人のフランス代表候補生が各々私服姿で恥じらい気味に微笑んでいた。

その内の一人が目の前の少女と同一だと理解すると一夏とて男だ。意識せずにはいられない。

 

「別に変な意味で見てたわけじゃ!」

「わ、分かってるよ、驚いただけ。でもその頁は部屋に戻ってからにして欲しいな」

「はぁ、何を焦っていますの、水着姿でもあるまいし」

 

同じく一夏の近くに来ていたセシリアが溜息を漏らす。

代表候補生は時として広告塔としての仕事もこなす。今回はシャルロットを含めたフランス代表候補の私服が披露されていた。

時に水着のオファーが来る場合もあり、人によっては披露する事もあるのだそうだ。

 

「私は水着はお断りしておりますわ」

「ぼ、僕もだよ! 水着なんて載せたこと無いよ」

 

思春期真っ盛りである一夏にしてみれば目の前で同級生に水着の話題などされては困るしかない。

話題の乗る事も出来ないし否定するのも変な話だ。

 

「えっと、代表候補生って大変なんだな。でもいいのか?」

「何がですの?」

「代表候補生って事は各国から注目されるわけだろ? 顔出しなんてしたら誘拐されたりする危険性は無いのかなって」

「勿論ありますわね。それを跳ね除ける事が出来なければ国の看板は背負えませんわ」

「そんなもんか」

 

セシリアの言葉に納得はするが何処か腑に落ちない。

他者の都合を一切考慮しない輩と言うのは確かに存在すると一夏は身をもって知っているから。

 

「そ、それより、これから宜しくね。織斑君」

「こっちこそ宜しく。ディノアさん」

「シャルロットでいいよ。デュノアの名前は色々な意味があるから」

「分かったよ、シャルロットさん」

「さんはいらない。名前気に入ってるんだ。フレンドリーに行こうよ」

「そっか、宜しくシャルロット」

「うん」

 

とても良い笑顔でシャルロットと一夏は握手を交わした。

 

 

 

 

 

「これで一組に専用機持ちが三人。代表候補生が二人ね」

 

生徒会室でシャルロットの資料に目を通していた生徒会長こと更識 楯無は溜息を隠そうともしない。

 

「欧州連合って裏付けがあるにしても、ちょっと作為的過ぎない?」

「仕方が無いのではないでしょうか」

「ちょい遅れでもう一人増えるのよ?」

「確かに過剰戦力だとは思いますが」

 

ISが世界最強の戦力である以上、例え学園だとしても専用機を一箇所に集中させるのは好ましいとは言えない。

専用機が勉学の中で目標になればいいが、他の生徒を萎縮させてしまう存在になってしまえば意味がなくなるからだ。

楯無に向かい合い応える布仏 虚も主の言葉に同意しながらも諦めている様子が見て取れる。

 

「クラス対抗戦はどう転ぶかしらね」

「織斑君の腕前は目を見張るものがありますが、勝機は薄いでしょう」

「あら辛口ね」

 

一夏以外のクラス代表は代表候補生であったりIS学園を夢見て学んできた生徒達だ。

少しISについて学んだ程度の一夏で勝負になるはずがない。それが専用機を持っていようともだ。

最も一夏がセシリアに最後まで喰らい付いた事もまた事実。

故に楯無は生徒会長として、学園最強として楽しげに笑うのだ。

 

「見せて貰おうかしら、男性搭乗者の実力とやらを」




甲龍が若干設定変更されておりますが詳細はまた後ほど。

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