IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第2話

「報告書は確認したな?」

「状況確認しました、目星はついていますか?」

「まだだ、がそう遠くへは行けないはずだ」

 

IS乗りの中でも上位者として名を馳せている人物がアメリカには二人いる。一人は国家代表、もう一人はシルバーシリーズの隊長を務めている者。

二人とも次の世代にその地位を譲るつもりはなく、彼女達曰く「自分より弱いのに譲っても意味がない」と有言実行を持て未だ現役を続けている。

ISの軍事使用は条例で禁止されているが防衛に関してはその限りではなく、発見された亡国機業の兵器工場跡地から消えた列車砲の捜索となれば広い目を持つISは有用な手段だ。

国家代表に加えアメリカの誇る精鋭部隊、新世代の量産型として少数ながら精鋭しか乗る事を許されてシルバーシリーズに対しても出撃が要請されている事からも状況の緊迫度合いは高い。

シルバーシリーズの隊長機、シルバーワンこと銀の福音は性能もさることながら、かつての戦争での活躍、更に搭乗者の人柄、アメリカの国鳥である白頭鷲を思わせるフォルムと非常に人気の高い機体である。

国家が絡む関係上ISバトルに参加する事は滅多にないが、稀にエキシビションマッチとして対戦カードが組まれる場合もあるが、太刀打ちできるのはドイツのシュヴァルツェ・ハーゼや引退した世界最強など一部しかいないのが実情だ。

だが、急遽舞い込んできた報告書により軍総指令は国家代表、並びにシルバーシリーズが必要だと判断した。

指令室では今尚飛び交う情報を整理し屈強な男達が頭を悩ませている所であるが、状況は好転の兆しを見せていない。

崩壊した亡国機業の残党や基地跡は度々発見されているが、行動を起こす前に鎮火しているのが殆どだ。

それらは各国の軍や警察組織が対処している結果であるが、今回は完全に後手に回ってしまっている。

何より行方知れずの兵器が本当に列車砲であるならば、発見できなかったので静観しますでは済まない。目的が何であれ砲身と砲弾の確保は最優先事項だ。

 

「シルバーの配備はどうしますか?」

「一機は大統領に、三機は主要都市に散らす。銀の福音には自由に飛び目になって貰う方が良いだろう」

「了解です、すぐに出撃します」

 

が、指令室から愛機の下へと向かおうとした彼女にストップの声が掛かる。

 

「今、緊急の連絡が来ました!」

「見つかったのか?」

「いえ、違います。ですが、そう取っても良いのではないかと思います」

 

頭を抱えていた男達の視線が部屋の中央にあるディスプレイに集まる。

映し出されたのはアメリカの地図の一部に×印のついた簡単な画像データ、差出人も分からなければ画像以外に情報はない。

一見すればテロリストの攻撃予告とも取れるが、その実これは逆に意味だ。

アメリカの軍指令室に匿名で割り込みを掛けた上で一方的にデータを送り付ける事の出来る人物がそうそう居て堪るものか。

ここにいる人間達はあの戦争でその実力をまざまざと見せ付けられ、その上で守らねばならない人物だと知ったのだ。

だからこそ、このデータは真実に値する。

 

「そういう事らしい」

「了解しました」

 

また借りが出来た、そう思いながらも笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

 

自由の国アメリカと言えば大都会のイメージが強いが、実の所そうではない場所の方が多い。

岩肌の作った芸術的な天然要塞や未知の領域とも呼べる広大な湿地帯や人間が手を付けていない樹海、それら大自然が都会のすぐ隣に当たり前のよう存在している。

ここもそんな天然の自然が織りなす場所の一つ。

乾いた風が渦巻く赤褐色の砂と岩の世界、都会から大凡二十キロの地点に自然とは不釣り合いな黒金の巨銃が咆哮を上げる時を待っていた。

全長約五十メートル、総重量は千トンを越える人の狂気が作り上げた最大最悪の兵器、八十センチ列車砲。

亡国機業は北極での決戦にこの武器を使わなかったのではない。使えなかったのだ。

破壊力は折り紙付きであるが、重すぎて取り回しが効かず、連射にも難点のある兵器は物量が優先されるあの戦場では不向きだった為だ。

その巨体を血走った眼で見上げているのはアサルトライフルを手にした軍服に身を包んだ男達。

圧倒的な鉄の包囲網は平和な時代に不釣り合いな恐怖を醸し出し、その時を待っていた。

 

「時は来た」

 

列車砲の前、片腕を失い長い時間が経っているであろう軍服の男が掠れた声で喉を震わせる。

 

「残り少ない同胞達よ、反逆の時は来た!」

 

最悪の予想と言うものは得てして当たるものだ。列車砲の左右に片膝を付いた姿勢で待機しているのは黒いラファール・リヴァイヴが二機。

搭乗者は年端もいかぬ少女であるが、両者の目には歪みながらも光が宿っている。

 

「スコール様と共に散る事の出来なかった亡霊達よ、今こそ我等が亡国機業の意思を継ぐ時だ! 歪んだ世界を我等の手で取り戻す!」

 

燻っていた残り火の数は二十にも満たない。

たったそれだけの数で列車砲や銃器、ISに至るまでを国の目を欺き用意した彼等は間違いなく亡霊と言えるだろう。

IS、女尊男卑、崩れ去った人生を取り戻さんとする者達の成れの果て、胸の内にあるのは復讐心だ。

片腕の兵士、車椅子の老兵、古傷を抱え北極の戦争に参加出来なかった亡霊の陽炎、酷く傲慢で己の利己的な考えを押し付ける事でしか前へ進むことの出来ない者達。

たった二十人、少女二人を加えた所で正面切って国と戦える戦力ではない。

故に彼等は慎重に慎重を重ね、古い人間の持つ諜報の網を使い、隠密に隠密を繰り返し今日の日に辿り着いた。

列車砲を少し移動してはレールの痕跡を消し、ダミー情報を散りばめながら首都を射程距離に収める地に運び込んだ。頼りの綱である砲弾の装填は既に済んである。

二人の少女は北極の戦争で両親を失った仲間の子供、世界が敵であると教え続けた結果が今だ。

瞳に宿る歪んだ光はバーサーカーシステムや薬物によるモノではない。狂気に染まった結果だ。

彼等に取ってあの戦争の結果であるスコールの敗北は意味を成していない。

この間違った世界に鉄槌を、それだけの為に残る人生の全てを捧げた。

 

「何故だ、何故我々が虐げられねばならぬ! 男であると言うだけで、かつて祖国の為に戦ったのは誰だ! 何故我らが女共に下に見られねばならない! 私の家族は私が軍人であると言うだけで虐げられ、ISがあるのだから引っ込めと石を投げられた! 何故それが許される! 何故だ、何故このような扱いを受けねばならなかった!」

 

男達の瞳に宿るのは狂気であると同時に正義を貫く熱い想いだ。

 

「受けた屈辱を晴らす! 世界をあるべき姿に戻す! 血の雨を降らし、愚かな連中に思い知らせてやるのだ! この世界は間違っていると!」

 

スコールやオータムが人間として認められるかと問われれば、答えは否だろう。

彼女達は自分の我儘を押し通し、世界を否定し、戦争と言う手段を選び負けたのだ。

この場にいる彼等は己が正義だと信じて疑わぬ者達だ。結果として死ぬ事になるとしても、我は此処にありを高々に歌う戦士達だ。

 

「始めるぞ、英霊達は必ず味方してくれる! 我等の怒りが世界を焼き尽くす業火となるのだ!」

「砲撃用意!」

 

声と共に列車砲から全員が距離を作り砲身が鉄の軋む音と共に持ちあがり射角を作り始める。

都市部まで距離はあるが、現役時代の列車砲の射程距離は三十キロを越える。

何万人もの人間の頭上に放たれる煉獄の炎は一撃で悪意の雨を降らせるだろう。

特別な日でも何でもない、あえて普通の日に放たれるからこそ意味がある。日常が唐突に崩れ去る恐怖を彼等は良く知っているのだから。

 

「放てぇえ!!!」

 

片腕の軍人が今にも擦り切れてしまいそうな声を張り上げ、空気を弾け飛ばす轟音が砲身から迸った。

十分に距離を取ったにも関わらず放たれた熱量が皮膚を焼くような感覚を覚えるが、それ以上に身体の内側から火種が燃え上がり砲弾に込められた怒りと悪意への願いが上回る。

彼等に同情の余地がないとは言えない。

ISの普及に伴い生活を追われ、世界から爪弾かれた者達がいるのも事実だろう。

言われなき非難によって家族を失った悲運もあるだろう。

ISはそれほどまでに圧倒的に、鮮烈に、人々の心を魅了し、時代に付いていけない者達を置いて行ってしまったのだ。時代は弱者に対し一切の容赦をしなかった。

彼等のような人間は世界中に数多く存在する。ISに、否、世界に塗り潰された犠牲者達。

 

しかし……。

 

迸った閃光が空中で砲弾を撃ち貫いた。

砲弾に込められた火薬が暴れ狂う灼熱の炎となり、空を焼き熱量が視界の全てを覆い隠し深紅に染め上げる。

 

「何だ?!」

 

亡霊達の視線が空の一点、砲弾を破壊した存在を見つける。

 

「クロエ・クロニクル、武力介入を開始します」

 

そこにいたのは暴れ狂う赤とは対照的な美しい蒼だった。


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