IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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ひっそりと番外編を投稿。
本編の後、あるかもしれない未来編。
本編に比べると文字数少な目(?)で、とりあえず三話程ありますので、順次投稿していきたいなと思います。


番外編 蒼を受け継ぐ者
第1話


世界は何も変わらない。

一つの戦争があったとしても我が身に降り掛かるものでもなければ国土が焼かれたわけでもない。

一部の人間に強い印象を植え付けたとしても人類全体の変革を促したとは言えないものだ。

では、あの戦争は無意味だったのか? 断じて否である。

例え世界中の人々が忘れてしまったとしても、その志を受け継ぐ者がいる限り、無意味であるはずがない。

 

 

 

 

少数の完全武装の男達が唯一の光源であるヘッドライトを便りに岩山の合間に造られた人工の建造物に踏み入る。

全身を迷彩柄の防弾装備で固め、携行を許された消音器付きのサブマシンガンをぽっかりと開いた闇の入口に向け警戒を最大レベルに引き上げる。

一歩、砂地からコンクリートの床に足を運べば冷たい感触が地面から伝わり、吹き上げる生暖かい風に宿った無機質な湿気が侵入者を迎え入れる。

暗視ゴーグルではなくヘッドライトを使うのは示威行為の意味もあるが、これから先に進む場所に何が潜んでいるかは分からない。

交戦する可能性に備えて銃器のセーフティを確認、男達は視線を短く合わせハンドサインと共に前進を開始した。

 

「思っていたよりも広いな」

「とにかく何か情報がないか探すぞ」

「了解です」

 

人里から離れ、滅多に人目に触れる事のない岩肌続く荒れ地の裂け目、電源の落ちた兵器工場、防衛装置がないとも限らない場所での探索任務は危険と隣り合わせだ。

のたうち回ったヘビのように乱雑するコード類に足を取られないよう注意しつつ、暗い部屋から敵が現れてもいいようにお互いの死角をカバーしあう位置取りを忘れない。

存在するかどうか分からない敵に対する警戒は愚か、味方の足音の変化さえも見逃さないのが訓練された兵士だ。

 

「クリア」「クリア」

 

声を掛けつつ進む彼等の目的は数年前に崩壊したテロリスト組織、亡国機業の残党を刈り取る事。

世界の裏に潜み、歴史の影と共に成長を続けて来た武器商人組織、その力は銃火器に留まらず潜水艦や空母、衛星にまで至り天災の技術の上澄みを掬い取り無人機や人を狂わせるシステムまで形にした存在だ。例え破棄された工場と言えど油断は許されない。

あの戦争の後、亡国機業は崩れ去った。戦争を仕掛ける前段階で意識統一の為にスコールが幹部を粛清した結果、抵抗は殆どなく各地に散らばっていた組織は瞬く間に瓦解した。

しかしながら、その爪痕は未だ深く刻み込まれており、この基地もその一つだ。

エネルギーが通っておらず警備もいない、防衛装置も警報も働かない無人の兵器工場跡地、発見されたのは最近だがこの基地はかつて亡国機業が使っていた場所だと判明している。

未確認の拠点の数は不明、世界に根付いた亡霊は陽炎となり今も息を潜めている。場合によってはISの出動要請も視野に入れる必要が出て来る。

無論、ただの思い過ごしであるならばそれに勝るものはない。彼等の行動は無駄足であればある程に世界の憂いは少なくなる。

だが、もし残党が反攻の機会を窺っているのであれば見逃すわけにはいかず、現在進行形の特殊部隊が踏み込む状況は珍しくない。

 

「隊長!」

 

天然の岩肌の隙間に造られ、入り口こそ狭かったが中に入ればISを展開しても余りある広大なスペース。

中を探索してものの数分で発見されたのはIS用の設備である。

人の出入りの形跡があるからこそ発見された場所ではあるものの、既に工場は破棄され稼働状態にない。

しかし、システムの一部に最近まで動力が通っていた記録が残されていた。

もし亡国機業の残党がISを所有しているのであれば危険性は語るまでもないだろう。

亡国機業最後の代表となったスコールが決起を促したISに怨みのある者が関与しているとすれば、ISの隠密性を持ってすれば自爆テロを慣行するだけでも驚異的な結果を残せる。

世界中の大部分の人間が目を逸らしている兵器として見たISの恐るべき可能性、彼等軍人はその事実を良く知っている。

が、基地の探索を進める上で素人の扱うISより恐ろしい事実を見付けてしまう。

 

「おいおいおいおい」

「冗談だろう」

「亡霊など所詮は過去のものだと思っていたが、これは……」

 

特殊部隊の男達が視線を巡らせる、開けた格納庫にあったであろうモノの形跡。

太い配管が頭上を巡り、足元に車輪を動かす為の巨大なレール、砲弾が格納されていたであろう弾装は戦車のとも違う、かなり広さのある部屋に違和感のある空間。

 

「詳細な情報は?」

「大部分は消されていますが、この格納庫を見れば想像は出来ます」

「余り聞きたくはないが、そうもいかんな、ここに何があったか分かるか?」

「恐らくではありますが、設備から考えて八十センチ口径……。列車砲だと思われます」

 

史上最大にして最悪の兵器の一つの存在を意味する報告。

設備内部を調べ続けている部下の情報統計に舌打ちしたくなる気持ちを無理矢理抑え込み眉間に皺を作るに留めた隊長を褒めても責められはすまい。

かつての戦艦大和の主砲が四十六センチ、異なる世界ではあるが陸戦型ガンダムのキャノン砲が百八十ミリ、即ち十八センチ。

無論、砲身の長さや触媒となる車軸、弾丸や火薬によって威力は左右されるが列車砲の指し示す数値は規格外の一言である。

後の歴史者は「何故作る前に誰も止めなかったのか」と疑問を呈している程だ。

彼等が語るべきは歴史や兵器の知識ではない。純然たる事実を報告する必要がある。

北極での決戦には導入されず、ここにあったと思われる消えた兵器、それはつまり何処かにあると言う事だ。かつて世界を震撼させた悪意を宿す化物が。

 

「大至急本部へ連絡だ」

 

蒼い死神が世界から姿を消し数年、世界に燻っていた残り火が再び燃え上がろうとしていた。

 

 

 

 

青い海と空の狭間、無限に広がる空間を何を考えるでもなく清々しいまでの青が広がる世界を自由に漂う事が彼女は好きだった。

稀に領空を無視してしまい説教を受けるが、基本的には彼女の存在は認識されない。

非常に高度なステルスシステムと権力者が踏み込みを躊躇う絶対的な強者が背後にいるからだ。

 

「気持ちいいねー」

 

小さな声は波の音と潮の香りに呑まれて消える。

姿を見せる魚の群れや渡り鳥との一期一会、雄大な自然を独り占めしているような感覚を贅沢に味わっているのはやや胸は小さく身長も大きくはないが、十人すれ違えば九人は振り返るであろう美少女である。

本人曰く義理の姉や母程ではないにしてももう少しスタイルを要求したいらしいが、その願いをどうやっても叶えられない友人もいる為に贅沢な望みは胸の奥底にしまい込んでいる。

頭部を覆う無機質なバイザーにより視線は追えないが、背中に伸びる白に近い美しい銀髪を靡かせて物理法則を無視して空中に浮かぶ彼女を妨げるものは何もない。

時折寝返りのようにくるくる回転し目に見える全てが青の世界に身を沈める。

広がる深い群青のような海と透き通りその先にある宇宙を感じさせる空を見飽きる事無く脳裏に焼き付け続ける。

彼女がどれだけ思いを馳せた所でもう二度と会う事の叶わない一機と一人を一番近くに感じられるのがこの海と空に挟まれた場所だった。

涙を流す時期も思い出に逃げ込む年齢でもないが、思い返す気持ちが消え去る事はない。命の恩人を、世界の変革に一翼を担った存在を。

例え世界中から忘れられたとしても、一握りの人間が蒼の存在を忘れない。忘れる事を許さない。

 

『MISSION』

 

誰にも邪魔されない青の世界で微睡を覚えていた彼女の前に小さな文字が踊る。

 

「うん?」

 

即座に提示された情報を確認。

送り主は愛すべき母であり、目的となる地は海の向こう側。

状況把握から行動までの時間はごく僅か、母の情報に間違いがあるとは思っておらず、愛機と一緒であればそれが実行可能な内容であると知っているからだ。

 

「よーし、いこっか!」

 

旧式の第二世代型IS、蒼いラファール・リヴァイヴが海と空の間を舞い上がる。

これは世界の改変を間近で眺め、神と呼ばれた存在を純粋に見詰め続けた少女が辿り着いた可能性の形である。




別の話も考えているのですが、一先ずは番外編にお付き合い頂けたらなと思います。

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