IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第117話 天使たちの昇天

「対空戦闘用意、万が一の場合は少しでも衛星を砕き影響を少なくするぞ。ミサイルが発射される事態になれば全力で撃ち落とせ」

 

巡洋艦や駆逐艦、空母も併せ攻撃能力を持つ戦艦の砲台が次々と空へ向けられ角度調整が施される。

北極に集った戦艦に響く声は一歩も引かず、被害を最小限に抑える為にも核ミサイルを自分達の上空で破壊する事になったとしても厭わない覚悟がある。

 

「君達に託さねばならない自分の無力さを呪うよ、頼んだぞ」

 

少女達が戦う時代を認めない。

その気持ちに嘘偽りはないが、今この場を任せる事が出来るのが彼女達であると言う事実からも目は逸らせない。

今まさに空へ駆け上る少年少女へ送られる言葉と敬礼、この場に集った大人達に出来るのは責任を取る事とせめてもの敬意を手向けとする事。

IS乗り達が諦めていない以上、彼等が諦める選択肢を選ぶはずがないのだ。

 

 

 

 

カーマン・ラインと呼ばれる海抜高度百キロより先の世界が一般的に宇宙と呼ばれる場所だ。

人工衛星は多々あれど高度は多岐に渡り、気象衛星であれば実際にはそこまでの高度はない。

だが、亡国機業の戦略衛星は国際宇宙ステーションなどと同じく確実に宇宙空間に存在しており、尚且つ秘匿を守り続けて来た代物。

宇宙空間からの飛来物は恐るべき脅威であるが、迎え撃つISが宇宙用装備をしていない以上は対応は大気圏内に限られてくる。

元々宇宙を目指し開発されたISではあるが、現在のISは大気圏内での使用が前提で作られており、成層圏での活動は想定されていない。

機体限界までの見極めを誤れば凍り付く危険性も分解の危険性も十二分に孕んでいるのが超高度だ。

 

 

──敵機接近、迎撃マイクロミサイル起動。

 

天を目指し光の矢となり雲を貫きならがISの向かう先、巨大な鉄の塊から電子音が小さく鳴る。

高速で落下する戦略衛星は進めば進むほどに加速を進め、大気圏突入時に不要なミサイル砲塔などを切り離しているが、それでも圧倒的な大きさは健在だ。

ISと二百メートルの塊の力関係で言えばISに軍配は上がるだろうが、それは同じ高度の条件で争った場合だ。

加速を続け威力を増し続ける衛星と押し留めるだけに専念しなければならないISとでは比重が異なる。

 

「目標確認、攻撃が来るぞ」

「射撃武器で本体を攻撃しないよう気を付けろ」

「取り付く事を最優先に考えなさい」

 

衛星から降り注ぐ小型ミサイルによる攻撃にラウラ、千冬、ナターシャが声を飛ばす。

元々が武器庫である以上は搭載されている火器を想定出来ないのは愚者の思考、宇宙から地上を攻撃できるのだから大気圏内で飛び交う敵機を見逃すはずがない。

 

「インターセプターッ!」

「ブレッド・スライサー展開、簪、フォローお願い!」

「任せて」

 

接近してくるミサイルを近接武器で薙ぎ払うのにプライドは必要ない。

最速かつ確実に武器を展開できる音声コールを行い近接武器を取り出し切り払うセシリアとシャルロット、二機の補助に入るのは近接戦闘であれば二人より高度な技術を持つ簪だ。

連鎖的に起こる爆発の中で先陣を切りミサイルを掻い潜ったのは前面にシールドを掲げ装甲の防御力だけで突破を図ったブルーディスティニー、それに続いたのは両手の刀でミサイルを切り払い駆け抜けた打鉄七刀。

人間と言う枠組みで言うならば長身の部類に入る千冬がISを装着しウイングを広げたとしても三メートルに届くかどうか、五メートルのゴーレムを巨体と表現するならば、目の前の二百メートルは壁としか言いようがないだろう。

それは抵抗が無意味だと語るかの如き鉄壁であるが、躊躇う素振りも見せずに刀を捨て両手を広げて正面から巨壁を受け止めブースターを再点火する。

 

「今更臆すると思うな、世界位救ってやる!」

 

その隣、同じく躊躇いを見せずに突っ込んだブルーが取り付く。

 

「っ!」

 

思い起こす記憶は幾つもある。

宇宙世紀における破壊の炎の代表格とも呼べるブリティッシュ作戦におけるコロニー落とし、第二次ネオジオン抗争におけるフィフスルナやアクシズ。

その後がどうなったのかユウには分からないが、あの時は確かに人々の心に光が溢れていたはずだ。世界が変わろうとも同じ人間の力を合わせるなら活路は開けるはずだ。

重力の影響を色濃く受け大気圏内で対処すると言う違いこそあるにしても、阻止限界点を越えた小惑星基地アクシズと比べればやれないはずはない。

 

「一夏っ!」「分かってる!」

 

続けて紅椿と白式が衛星に到達、蒸し返す熱量と正面から激突する。

ISの防御力があるにも関わらず、触れている指先が反り返る錯覚に陥る程の衝撃と正面から向かい合う。

 

「止まれぇぇええ!!」「ぉぉおおおお!!」

 

 

──速度減少確認、第二パルスエンジン始動。

 

 

「なにっ!?」

 

身体の中心から背中に圧し掛かる重量が何倍にも膨れ上がる。

重力に逆らい噴射しているブースターが悲鳴を上げるのも構わず、歯を食いしばりこれ以上の進行を食い止める為に余力を出し切る。

 

「お待たせ致しましたわ」

「行くよ!」

「負けるかァ!」

「遠慮はいらん、出し尽くすぞ!」

「当然っ!」

 

ブルーティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲン、打鉄弐式が取り付く。

大きな音と振動が再び両者の間を取り持ち均衡を作るが、取り付いたIS目掛けて衛星の表面から機銃が顔を覗かせる。

 

「くっ、こっちが撃てないのを良い事に!」

 

古来より戦争と言うのは攻めと守りでは戦い方が異なるものだが、衛星は守り主体にも関わらず攻めにも転じる事が出来る厄介な相手だ。

 

「やらせない!」

「こっちは任せなさい」

 

射撃の危険性を分かっているからこそ、一気に肉薄し自身の肉体を武器とし機銃を破壊するのは五体の銀天使の役割だ。

 

「ナターシャ、後ろはどうなっている!」

「ダメよ、迎撃用の装備が多すぎる、正面から押し返すしかないわ!」

「分かった、援護を頼む」

「任されましょう」

 

落ちて来る衛星の後ろにあるパルスエンジンが加速を促しているならば背面に回り込みエンジンを破壊してしまえば対処は格段に楽になるが、それを許さないからこその戦略衛星だ。

 

「シルバーは迎撃武装の対処を優先!」

「了解!」

 

言葉にすれば単純だが現実は甘く優しいものではない。

超高度は対空を重視したシルバーシリーズと言えど未知の世界だ。

空を自在に飛び回れるISと言えど、地面まで全く見通しの効かない高度で戦う事はない。

ましてやこの高さになれば見上げればそこに吸い込まれそうになる程に延々と続く仄暗い宇宙がある。

目の前にはこれまで戦ったことのない巨大な相手、背中を守ってくれていた戦闘機も大艦隊も届かないこの場所にいるのは数えられる仲間達だけだ。精神を強く保てなければ一瞬で戦意を奪われてしまう。

 

「急げよ、束」

 

 

 

 

≪ISと衛星、拮抗しています≫

 

聞こえて来る男の声を聞き流しながらナツメと束の指は戦略衛星の内部への侵入を試みている。

 

「細かなプロテクトが多いなぁ、雑魚のくせにっ!」

 

苛立ちを隠しきれないのは事態がそれだけ緊迫しているからだ。

一つ一つは束に取って造作もないプログラムの破片に過ぎなくとも数が多ければ時間が掛かる。

一つでも解読に失敗すればなし崩し的に溢れかえるのが0と1の電子の世界の在り方だ。

 

≪細かいものは回して下さい、こっちで対処します≫

≪進攻ルートは我々が確保します、博士は本命を叩いて下さい≫

≪迎撃システムは止められないか?≫

≪単調だが数が多すぎる、全部には手が回せないぞ≫

≪とにかくやれるだけやるぞ、ここからは俺達頭脳班の戦場だ≫

≪おうよ、博士が一分掛かるプログラムに俺なら十分掛かる≫

≪十人でかかりゃ一分だ≫

≪いいね、燃える展開だ、こういうの夢見てた≫

≪ちゃんと出張手当出るんだろうな?≫

≪どうにもここは汗臭くていけない、もっとエレガントにいけないものかね≫

≪うるさいよ! いいから黙って指を動かせ!≫

 

空中投影されているディスプレイに表示される進行速度が飛躍的に加速するのを見て一瞬指を止めそうになった束だが、すぐに被りを振って思い直す。

考えるまでもない、軍艦に彼等のような頭脳のスペシャリストがいるのは当たり前なのだ。

銃器を使った戦士だけが軍人ではない。ミサイルの迎撃システムやいち早く敵を発見するレーダー、深海を探るソナーを操るのは肉体派ではなく頭脳派、彼等の武器は目では見えない世界にある。

電脳世界の女王に世界各国の頭脳が集う、それは世界の知識の集合体だ。

 

「核ミサイルの対処に専念するから細かい作業は任せるよ」

 

機体の損傷具合から飛ぶ事が敵わず、EOS部隊と共に留守番をしている くーが笑みを深くする。

人生経験の薄い少女でさえ束が歪な存在でる事は分かっている、その上で自分を救ってくれた人が今世界を救う為に尽力し、自分だけの力でなく周囲を頼っている事実はどうしようもなく嬉しい光景に思えてならなかった。

 

 

 

 

落ちる力と押し返す力が拮抗する空は激動を繰り返す。

 

 

──抵抗確認、第三パルスエンジン始動。

 

 

「まだあるのかっ!」

 

全身に掛かる重みが更に増加し空中で踏ん張っていたIS達から悲鳴が上がる。

その中でも如実にダメージを表したのはシュヴァルツェア・レーゲンだ。背面のブースターに亀裂が走り、間接各部の装甲が剥がれ落ち始める。

 

「くそ、もう限界が来たか!」

 

現在のシュヴァルツェア・レーゲンはヴァルキリートレースシステムにより多大な反動を受け、姉妹機のパーツを使い継ぎ接ぎだらけの改修機。更にリミッター解除状態でエムと正面からぶつかり合い、ゴーレムとの連戦を経てこの場にいるのだ。

機体は既に限界を越えており、超高度にまで上がって来ただけでも称賛に値するだろう。

衛星を抑えていた腕部の装甲が重圧に耐えきれず大きく歪みを帯びた段階でラウラは衛星から離れる決断を下す。

 

「すまん、離脱する!」

 

これ以上踏み止まり、自機の爆発など惨事を招いては周りに迷惑を掛け衛星を加速させる最悪の結末を呼び込む恐れがあるからだ。

同時にラウラが離れた直後、ブルーティアーズのストライクガンナー部から大きな破壊音が響き崩壊を始め、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのブースターが高高度の大気圧力に耐え切れず砕け散る。

 

「ブルーティアーズ!」

「ラファールっ!」

 

限界を越えている機体はシュヴァルツェア・レーゲンだけではない。

束のリミッター解除は薬物的な一時的な効能に過ぎず、ゴーレムと互角以上に渡り合う為に無理矢理出力を上昇させていたものだ。

超出力での連戦に加え超高度での運用が重なれば機体が耐えられるはずはない。当然ながらその反応は他の機体でも同様に起こり始める。

 

「嘘っ、甲龍!」

「もう無理なの、打鉄弐式!」

 

ブースター変わりに使っていた龍咆が音を立てて焼け落ち甲龍が高度を維持できなくなるのと同じく、打鉄弐式の全身を覆う追加スラスターが悲鳴を上げて黒煙を立ち昇らせる。

機体が限界を迎える度に加わる重圧が増え、高度の下がる速度が上回っていく。

 

「シルバー! 交代するわよ、貴方達は下がりなさい!」

 

互いに頷き合い、甲龍の位置にティナのシルバーが入り、浮遊出来るだけでこの場に留まる意味はなく、残る一年生ズも降下を開始せざるを得ない。

 

「申し訳ありません」

「対して役に立てなくてゴメン!」

「一夏、あとお願い!」

「くっ、撤退します」

 

残る機体とて余裕がある訳ではない。

白式と紅椿は機体性能こそ最高峰であるが、搭乗者二人はISに乗って日が浅く未だ空中で踏ん張ると言う感覚に慣れているとは言い難く、シルバーシリーズも初の実戦を戦い抜き蓄積されたダメージは限界を迎えている。

 

「くぅぅう!!」

「これ以上はっ! まだなのかっ!」

 

悲鳴を切欠にするように打鉄七刀の関節から火が上がる。

 

「千冬姉! 下がってくれ、何とか持たせて見せる!」

「くそっ、すまん!」

 

五機のシルバーと白式と紅椿とブルーが同時に再度ブースターを吹かせるが、その時を待っていたように無情な宣告が鳴り響く。

 

 

──第四パルスエンジン始動。

 

 

「嘘だろ!?」

 

破壊するのではない、ただその場を維持する方が難しい事もある。

何時まで持たせれば良いのか分からない、途方もなく巨大な壁を相手に常に全力を出し続ける。それがどれだけ精神を削っているのか本人達も理解出来ていないだろう。

両手で支え切れず肩や全身を使い迫る衛星を抑え続けるものの、重く圧し掛かる鉄の塊が視界を奪い、心さえも浸食していく感覚は恐怖を助長し続ける。

 

「くそぉぉ!!」

 

 

 

 

「あと少し、あと少しなのに!」

 

衛星に組み込まれた防衛プログラムそのものは決して難しいものではない。

束を筆頭にこの場に集った電脳世界のスペシャリスト達からすれば拙いとは言わないまでも強敵と言う程のものではない。

ただ、構築されているプログラム量が圧倒的に多いのだ。

防衛プログラムを消して、回避して、強引に道を作り上げても後から後から新しいプログラムが立ち上がり進攻を阻み続けて来る。

 

≪高度が少しずつ下がって来ている、阻止限界点まで僅かです!≫

 

聞こえて来る緊迫感の混じる声は世界滅亡へのカウントダウンと変わらない。

 

「間に合わない……」

 

だが、あえて奇跡と呼ぶならば、それはこの日の為に繋がれて来たものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私ね、家族っていないんだ』

『同じだ、生まれてすぐ孤児院に捨てられてた』

『僕はお金の代わりに売られたんだけど、物心ついてたから辛かったなぁ』

『私も似たようなものです』

『拾ってくれた所が良い場所でさ、自給自足だけど生活出来てたから幸福な部類に入るのかもしれないわ』

『こっちは生まれも育ちも施設で人体実験の日々、慣れるものだ』

『みんな色々なんだねぇ』

『だな……』

『最低な人生だったけど、アレは楽しかったよね』

『うん、自分の意思じゃないし、悪い事してるって分かってても』

『空を飛ぶのは楽しかった』

『どうしようもなくクソッタレな人生だったけどよ、気持ちよかったなぁ』

『きっとこの子達も一緒だと思うよ』

『そうだね、楽しかった、楽しかったよ』

 

『ねぇ、みんな……』

 

 

 

 

「え?」

 

突如、天を貫いたのは十七本の黄金の光。

思わず振り向いた束の目に映り込んだのは自我を得て戦う事を放棄していたはずの十七体。

打鉄、甲龍、ラファール・リヴァイヴ、テンペスタ、奪われて狂気に歪んだ戦う為の人形に成り下がってしまったIS達。

 

「立って、立つのよ!」

「負けたままで悔しくないのかよ! 一方的にやらたままじゃ面白くないだろう!」

「貴方達のお母さんを助けるの!」

「嫌な事が一杯の世の中だけど、私達に生きて良いって言ってくれた人がいるんだよ!」

「助けに行こう、助けに行きたい! お願い、力を貸して!」

「僕達で明日を掴み取るんだ!」

「地球が終わるかどうかなんだ、やってみる価値はある!」

「死ぬ時は一緒に居てあげる、だけど今は一秒でも一緒に生きよう!」

 

それは少女達の命がもたらした叫びだったのかもしれない。

亡国機業が拉致した少女達がただの子供であったのなら絶望し壊れていたかもしれない。

しかし、彼女達は違う。どん底を経験し明日命があるかも分からない日々を生きて来た子供達だ。

生きたいと言う願いさえ拒絶され、薬で全身を支配され、燃え尽きるしかなかったはずの命を繋ぎ止めてくれた人がいる。

守ってくれた、戦わなくて良いと安らぎを与えてくれた人がいる。

でも、守られているだけで、眠っているだけで終わって良いはずがないと心が訴えかけている。

もう一度、今度は自分の意思で空を飛ぶ為に。

 

「起きて、アリス!」

 

望む者が諦めない限り、奇跡は起きる。

 

 

──ALICE System Stand By

 

 

天高くへ伸びた光と共に束が声を掛けるよりも早く十七機のISは一斉に飛び立った。

絢爛舞踏が味方と認識し与えていたエネルギーの残量が金色に輝く光の道を作り上げる。

 

「なっ!?」

 

瞬く間で雲を突き抜け超高度にまで駆け上がる。

途中で降下してくるラウラや千冬を次々に追い抜いて加速の果てに突っ込むように衛星に激突、そのまま全出力を解放する。

ISの操縦技術も何もあったものではない拙い少女達がなけなしの全力を出し尽くす。

 

「負ける、もんかぁあ!!」

「こんな石ころ一つ、私達で押し返してやる!」

「いっけぇぇえ!!!」

「ああああぁぁぁ!!」

「壊させるもんか、大好きになれるかもしれないんだ!」

「誰かの為じゃない、自分の為に戦うんだ!」

「行くよ、アリス!」

 

ブルーや紅椿の周囲に取り付いた黒ではなく金色に輝くISが押し返す。

溢れ出るエネルギーは死を撒き散らす衛星に引けを取らぬ程の巨光となり、地球最北端の超高度で勝利を掴めと輝き叫ぶ。

人類に降り注ぐ災厄に立ち向かう天使達の産声が高らかに鳴り響く。

 

 

 

≪高度持ち直しました!≫

≪博士、こっちはシステム解析完了です!≫

≪同じくルート確保出来ました≫

≪最後の一押しはお願いします≫

 

「…………全く、何なんだよ、皆してさ」

 

見上げる視線の先はどうしようもない程に美しい光に満ちている。

自分の領域の外にいる人間を断ち切り、全てを見下し唯我独尊を地で貫いて来た天災の目に映っているのは自分を母と呼ぶ子供達の姿。

生きたいと言う願い、明日を欲する希望、下らないと一蹴するのは簡単だ、篠ノ之 束と言う人間性を考えれば興味がないと切り捨てるのも難しくはない。にも関わらず優しく溢れる光を浴びるのは悪い気分ではなかった。

 

「これでおしまい」

 

最後に表示されたウインドウに出現したのはタイガーストライプに囲まれた如何にもな赤い光を放つボタン。

ゆっくりと押し込まれる事で最後に残された迎撃プログラムが束の手によって塗り替えられる。

 

≪……ミサイル発射システムの停止を確認しました≫


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