IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第114話 戦場の支配者

一対一で戦うならば千冬もブルーに劣っているとは言えない。

経験に基づいた数多の技術を駆使すればブルーとも渡り合える事は証明済みだ。

だが、純粋に破壊だけを目的としゴーレムを正面から叩き伏せるのであれば誰の舞台になるかは語るまでもない。

 

通常兵器を戦闘機や艦隊が引き受けていると言っても完全に無効化出来ている訳ではなく今尚銃弾は飛来を続けているが、分厚いシールドを構えたEOS部隊がいるならば、束の安全性は高まっている。

だが、EOSも空の王者も海の支配者たる大艦隊もISに負けない攻撃力と防御力を持つゴーレムと正面からぶつかれば粉砕されてしまう。対抗する力は宿命の名を持つ蒼だ。

銀世界を包む紅蓮の炎の中、圧倒的な存在感を放つ破壊の化身は縦横無尽に戦場を蹂躙する。

 

「……ッ!!」

 

向かってくるゴーレムの脚部にビームライフルを放ち足を砕き、五メートルもある巨体に飛び掛かり頭を掴み勢いそのまま氷の大地に叩き付ける。

反転し動こうとするゴーレムの首に最大出力にまで引き上げたビームサーベルを振り抜き分断。

転がった首と引き離された胴体から動力の一つであろうオイルが零れ落ちる姿は人間が乗っていないと分かっているからこそできる攻撃方法だ。

無機質な赤い視線を上げた先、群集と化した巨体が殺到する。

倒れ込むように伸ばされた極太の腕を蹴り上げ、胸部バルカンで強引に距離を作り、左右から迫った別の手をバックステップで回避。

鉢合わせた三機のゴーレムの不規則に並んだセンサーが一斉に温度のない視線でブルーを捉えるが、ゴーレム達の眼前に現れたのは炸裂寸前のグレネード、ISのシールドを剥ぎ取る程の大火力が轟音を上げて爆壊する。

発生した黒煙に沈む三機、その奥に揺らめく他のゴーレムに改めて照準を合わせ両手に展開したビームライフルとマシンガンのトリガーを引く、死神の放つ衝撃が一切の躊躇なく突き刺さる。

正面に集中させた火力の手応えを感じながらも、群がるゴーレムの突撃が病む気配はない。

右から巨大な柱のような剣を構えた大剣型、左から独楽のように回転した突撃型の接近。嫌な組み合わせに舌打ちを隠しきれない。

混戦になればなるほど行動が制限され単純化するゴーレムではあるが、先程までの多対多ではなく少数で突っ込んで来るのであれば戦い方も変わり攻防一体である独楽回転による攻撃も取れる。

両手にシールドを展開、大剣と独楽回転の衝撃を受け止める。

重圧が重なりブルーの各部間接が蒸気を上げ解き放たれたリミッターが唸り声を上げる。

ぶつかった大剣と独楽回転の衝撃がシールドを通り抜け両腕の装甲が悲鳴を上げるのも限界を突破した出力で弾き返す。

背面と脚部のブースターが足元の氷を解かす程の熱量となり暴れ狂う。

体勢を崩す二機を無視し、視線を上げたブルーの瞳に映り込むのは両腕をビーム砲とした遠距離砲撃型。

高火力の砲撃はフレンドリーファイアの危険性も孕むが、周囲に敵影が無ければ放つのを躊躇いはしないだろう。

しかし、遠距離戦になったからと言って慌てる必要はない。たかだか数十メートルの距離、むしろそこはMS乗りに取って近接の間合いだ。

 

「当てるっ!」

 

光の粒子が集束するゴーレムの腕の先端にビームライフルの軌跡が伸び銃口に直撃。

砲身である腕でビームライフルを吸い込み内部で膨れ上がったエネルギーが熱を膨張させ爆発、ゴーレム諸共周囲の空気が歪む程の熱量が爆散する。

正面から殴り合うだけが戦いではない、分厚い装甲の内側に衝撃を通せれば破壊出来る。それが分かっているなら戦う手段は見い出せる。

 

「…………」

 

巡らせる思考は自分が敵ならばどう動くかと言うもの。

相手はNTでもなければジオンの騎士でもない。

単純な思考回路しか持たない人形だからこそ、効率の良い戦い方を考えればそれがそのまま手の内だ。

 

グレネードが作った黒煙の濃度が下がり、その奥から再びゴーレム達が姿を見せる。

一年生ズやシルバーシリーズが戦場に散っており、機械人形を阻むのはブルーのみ。

だとすればゴーレムが取る手段は相も変わらず数による圧殺以外有り得ない。

迎え撃つ赤い瞳に呼応し左手にシールド、右手にビームサーベルを構え、群がる敵機と激突する。

肩からぶつかり互いの衝撃で装甲が散るのも構わず、シールド本来の使い方とは異なる鈍器として殴打に用いる。

僅かにでも体勢を崩せば瞬く間に氷の大地に蒼い墓標が立つ事になると分かっているからこそ、一切の躊躇はせずに切り捨てる。

リミッターの解除された状態で最大出力に引き上げたビームサーベルが禍々しくも美しい桃色の軌跡を生み出していく。

頑強な装甲を焼き切り、薄くなった関節部に突き立て、内部を掻き乱す、相手が無人だからこそ取れる手段によってゴーレムを破砕していく。

包囲しているゴーレムの数は目視では咄嗟に判断出来ない数に膨れ上がっているがブルーは一歩たりとも後退しない。

四方八方から伸ばされた巨大な腕がブルーの装甲を削り、背面に叩き付けられた拳がブースターに亀裂を作る事になろうとも踏み止まる。

一撃一撃がゴーレムを砕き、眼前のゴーレムから飛び散る油を全身に受けながら数で攻め込まれようとも堅牢な蒼は絶対防衛線を形成する。

 

一対多における絶望的な状況はこんなものではない。ここはまだユウに取って死地ではない。

胸部バルカンが残った弾を吐き出し続け、切り込んだビームサーベルがゴーレムの腕を弾き飛ばす。

殴り返されようが力任せに押し込まれようが強く踏み止まった瞳に敗北の未来は映っていない。

銀世界に映える群青色と深紅、その姿は返り血を浴びながらも命を喰らい続ける死神のものだ。

 

 

 

「一夏、頼む!!」

「任せろぉ!」

 

ブルーの上空、新たに出現した複数の砲撃型のゴーレムが一瞬で溶け消える。

北極の空高くに伸びた純白の光が戦場を斜めに切り裂いた。

装甲の有無も言わさずゴーレムを射線上から瞬間的に消し去る大火力、世界中を探してもそんな芸当が出来るのは一機しかいない。

巨大な砲身となった雪羅を構えた白式が放熱の音を上げながら自己主張を激しくしている。

 

「私達も手伝います!」

 

もう一機、黄金の光を放ちながらブルーに群がるゴーレムに切り込んだ箒の声。

大火力による砲撃は周囲へ被害を考慮せねばならず、集中力を要するが妨害してくる蜘蛛女がいなければ話は別だ。

何より絢爛舞踏が発動している状態であれば零落白夜を使ったエネルギーシールドの使用制限もないに等しく、白式が攻防共に最強の一角に名乗り上げるのに反論はないだろう。

ブルーは何も答えないが、紅椿と白式が隣に並ぶ事を許容している。

一夏に関してもそうだ、内心のわだがかまりが消えたとは言い難いが、この瞬間においてブルーへの敵対心を抑え込む自我はある。蒼と白と紅がようやく並び立つ時がやって来た。

 

 

 

「ミサイル接近! 弾幕抜けます!」

「総員対ショック!」

 

双胴の旗艦にミサイル群が迫り、管制からの報告に老親が声を荒げるが、遮る声がある。

 

「心配無用です」

「龍の牙が届きます」

 

老子の背後、金の龍紋の刺繍が施された黒いチャイナドレス姿の二人が成長した弟子を見守る視線を向けていた。

 

「はぁぁああああ!!」

 

海面を左右に割る程の水飛沫を上げて赤銅色の機体が高速で接近、二つの龍の雄叫びが左右に炎を撒き散らし、さながら舞い上がる蝶の装いだ。

水面を大きく蹴り、海に大きな波紋を作りながら飛び上った甲龍が龍咆の勢いを加速に用いて迫るミサイルの群れに飛翔、放たれた蹴りは大地から駆け上る竹林の如く。幾つもの爆発の連鎖を作り上げながら周囲のミサイルを弾き飛ばす。

舞い上がった海水と機体の放つ熱が混じり合い音を立てて蒸気が上がる。

背を向けたまま頭だけ管制室に向け小さくウインクを飛ばす少女は言うまでもなく凰 鈴音、中国代表候補生である。

飛び散った海水を浴びながら甲板で航空機を送り出している男達から歓声が上がる。

 

「騒いでないで機体上げて来い!」

「今なら代表候補生と一緒に飛べるぞ!」

「助けに来たのに助けられて満足してんじゃねーぞ!」

 

油塗れの野太い声と黄色い声援、異なるようでありながら同一の対象に届く歓声は代表候補生がアイドル紛いの扱いを受ける現実を実感する一幕だ。

 

 

別方向ではラウラがレールカノンを握り、簪が山嵐の弾幕を張っているが戦局は芳しくない。

対ISの戦闘力で言えば一年生でもトップレベルの二人であるが、ゴーレムに対し致命打を与える武装となれば難しい。

リミッター解除の影響で力負けこそしなくなったが、停止結界で止められるのは一体に限られ、山嵐では足止めが関の山と言えるだろう。

 

「不味いな、抜けられる」

 

眉間に皺を寄せたラウラの視線の先、二機の弾幕から突き抜けた一機のゴーレムが海への進行方向を取っている。

容認すれば艦隊に及ぶ被害は甚大で失われる命は少数では済まないだろう。

 

「簪! 春雷を!」

「でもっ!」

「織斑と鈴音に出来て私達に出来ない道理はない!」

「その理屈は嫌いじゃないけど!」

「構わん! 何とかなる!」

「……わかった」

 

打鉄弐式から伸びた二門の速射系荷電粒子砲がゴーレムではなくシュヴァルツェア・レーゲンを照準に収める。

最初こそ否定的な言葉を口にした簪であるが、内心で乗り気なのは秘めたるヒーローへの願望の表れだろう。

 

「行くよ」

「いつでも来い!」

 

放たれた光に合わせ瞬時加速が行われる。

放出したエネルギーを取り込み爆発させる瞬時加速の特性を利用した二機のISによる超高速攻撃。

一夏と鈴音が銀の福音に対し放った一撃をラウラと簪が再現して見せる。

注釈するならば銀の福音との戦いに簪は参戦していないのだが、合体攻撃の浪漫を何処からか聞きつけ技術を見取っていた。

一夏の必殺技として考案されたこの技術は非常にシンプルなものだが、タイミングが何より重要になる。

少しでもどちらかがズレれば砲撃が味方機に大ダメージを与えるか、先走ってしまいただの瞬時加速になってしまう。

だが、タッグマッチに合わせ鍛えていたのは一夏と鈴音だけではない。軍属のラウラが背を任せ、孤独であった簪が隣に並ぶ事を選んだ二人の息が合わぬはずがない。

 

「行けーっ!」「貰ったァ!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの背中でエネルギーの濁流が大きく爆ぜ、千冬に借り受けた爆発する刀を振り上げるのではなく突き立てた姿勢のまま突貫する。

一瞬だけ視界を奪った閃光が止み、視界に飛び込んできたのは頑強な装甲の腹部に突き刺さった刀が爆発し内部から崩壊を始めるゴーレムの姿。

 

「預かった刀を返せず申し訳ありません」

 

礼を持って敵を打ち倒してくれた刀と持ち主に感謝を述べる。

白式や紅椿の圧倒的な性能に比べると陰りがりであるが、一年生ズの成長著しい姿は誇るべきものと言って良いだろう。

 

 

 

蒼い死神、紅き彗星、白い流星、圧倒的な三機が中央を支配しつつある戦場は決定的に傾きつつあった。

オータムと言う二枚目の看板を失った事で亡霊側に最早立て直すだけの戦力がないのは明白だ。

ましてや氷の中に沈んでいる亡国機業の空母には各国精鋭部隊が突貫を開始している。落ちるのは時間の問題だ。

 

「一夏と箒がやったか、負けてはいられんな」

 

両手に刀を握りしめ、打鉄七刀を背負う世界最強の口元が歪む。

学園で厳しい一面を覗かせている千冬であるが、生徒には分別ある対応を心掛けている。

今年は一夏やラウラがいる影響か鬼としての部分が隠しきれていない事を本人が気付いているかどうかは別問題だ。

だが、その本質は束と同じ天才で、オータムに近い戦闘に対する疼きを抱えている。

絢爛舞踏の黄金の光は千冬が抱え込んでいるあらゆる欲求を解き放つに十分過ぎるものだった。

世界最強に輝いた千冬の剣は一撃離脱による高速戦闘術と零落白夜と言う必殺剣を用いた最速最強の剣。

銀世界に金色の光が満ちた状況は姉としても教師としても眠らせていた闘争本能を呼び起こすものだった。

 

「ぉぉぉおおおおお!!」

 

剣道における奇声は敵対する者に対する威圧や自分に対する鼓舞、気合いを込めて一撃の威力を高める意味合いが含まれる。

それを世界最強が放つとなれば敵は竦み慄き、味方は恐れと誇りを持って道を開く、唯我独尊に唯一無二の剣、何倍にも大きく膨れ上がる千冬の剣気は正しく王者の放つ覇気である。例え相手が無人であろうとも一切の容赦はしない。

人生色々は誰にでも言える事であるが、策謀があったとはいえ白騎士として国を守る刃を振るい、世界最強として時代の頂点に君臨した。

圧しかかる期待と戦い、家族を危険な目に合わせてしまった負い目を背負い、それでも姉として、教師として守る為に戦って来た枷が外れる時が来た。

生憎と零落白夜ではないが、瞬時加速は使いたい放題であり世界最強の必勝パターンが構築される。

ISと言う超兵器の放つ最大速度を瞬間的に作り出す瞬時加速中に再度瞬時加速に入り瞬時加速が切れるタイミングで更に瞬時加速、最早それは常人の理解の範疇の外側だ。

機体が空中分解してもおかしくない程の無理を効かせ、それでも尚も加速を繰り返す。

ブルーや白式と違い攻撃力や防御力でゴーレムを抜けなくとも打鉄七刀に搭載された無尽蔵の爆発する刀を使い捨てれば話は別だ。

一足駆ける度に速くなり、一太刀浴びせる度に爆発が残響を残す。

ISの在り方や兵器である否かなど、重要な事かもしれないし避ける事の出来ない道かもしれないが、それでもここからもう一度親友との日々を始める為に織斑 千冬は未来を切り開く。




戦闘回なので話的には進展が殆どないけれど、物語的には終わりは近い。
恐らくこれが年内最後の更新になると思います。
皆様、良いお年を。

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