IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第106話 約束の地に

打鉄七刀(セブンソード)は急ごしらえの即席機でありお世辞にも世界最強に相応し高性能機と言う訳ではないが、特殊性と言う意味では群を抜いている。

搭載されている試験運用大気圏対応ブースターはデュノア社が開発中のもので、将来的には人工衛星など宇宙規模でISを運用する為の試作段階のもの。

シャルロットが在学しているからこその機材提携と言え、爆発する推進力は理論上大気圏を突き抜けるだけの出力をえられるが現状では人間を使っての実験には踏み切れていない。

その追加ブースターが三機取り付けられているのだから日本から北極までの距離はさして問題になりえない。

ただし常に起こる爆発を背負って移動しており少しでもコントロールを仕損じれば大空の彼方へ弾き飛ばされるか真っ逆さまに海に墜落する羽目になる。

これがMSサイズであるなら安定性は増すがISサイズであればほんの少し風を読み違うだけで致命的になりかねない。

そのブースターを順番に使い、エネルギーが尽きればパージし軽量化と共に再加速を行っており超速度の中で都度狂う重量や風、重力の影響をほぼ直感で行っているのだから千冬の化物具合が良く分かると言うものだ。

 

「織斑 千冬」

 

三者三様の様子を見せているのは亡国機業側。

闘争本能を刺激された様子のオータム、これからの展開を考えているスコール、待望の相手の登場に笑みを浮かべるエム。

 

三人の思惑など千冬に取ってはどうでもいい事。

笑顔を浮かべている束の無事を確認し安堵の表情を浮かべたのも束の間、戦況を確認し己がなすべき事を再確認する。

念の為に一つだけ付け加えておくならば千冬は戦略家の類ではない。

個の戦闘に関しては世界最強の称号を持っており、過去の名声だと罵倒する者はおらず世界が認める純然たる事実であるが、あくまで一対一で正面から渡り合った場合に限る。

俗な言い方をすれば脳筋の部類であり戦術を使った戦争の流れを支配する側ではない。

教師としての知識とIS乗りとしての経験は持っているが、千冬が極めたのは近づいて斬る、ただそれだけのものだ。

 

「私の親友に手を出して、私を敵に回して、ただで済むと思っていないだろうな!」

 

故にこの叫びは自分の刃を振るう先を定める為のものに過ぎず、味方に対する鼓舞ではない。

正面から向けられた闘志はこの場にいる全員の背筋を這う程の気迫に満ちている。

歴戦の勇士であるオータムでさえ僅かに躊躇する叫びを聞いて尚、最初に行動を再開したのがスコールである辺りはやはり只者ではないと評価できるだろう。

 

目の前に急上昇し現れたゴーレムを毅然と見返しながら千冬は言い放つ。

 

「言葉が通じるとは思わんが一度だけ警告しておいてやる、私の前に立つなら容赦はせん」

 

当然ながら返事はない。

無言のまま両手を振り上げたゴーレムと腰に下げた剣を二本取り出した千冬が交錯する。

 

「はぁぁああ!!」

 

放たれるのはゴーレムの腕が振り落すのを押し返す程の速さを持った連撃。

ブルーや紅椿の性能が規格外過ぎて忘れがちだがゴーレムは強い。機体相性こそあるものの大きさはそのまま力になる暴力の世界だ。

シールドエネルギーこそないものの通常のISより大きく頑丈な装甲が生み出す攻撃力と防御力は圧倒的で、爆発する推進力も並のISでは相手にならない。

しかし、単純な力勝負でなく技量を交えればセシリア達が示した通り優れたIS乗りが劣る訳ではない。

息を吐かせぬ乱打は千冬の技量に合わさりゴーレムの動きを剣の衝撃だけで封殺してみせる。

硬すぎるゴーレムの装甲を敗れなくとも進攻を止める事は出来るのだが、武器の耐久力が伴わなければ意味はなく、ゴーレムの装甲を切り裂くより速く剣が砕け散る。

 

「次っ!」

 

が、千冬は一切の躊躇なく背中から三本目を抜き正面から叩き込む。

初撃でゴーレムを両断出来たのは大気圏を突破する程の超速度の恩恵があったからこその威力だ。

帰路を考慮せずブースターを使い切った以上、機体性能は打鉄でしかないのだから力勝負では分が悪い。

 

「流石だ、良い仕事をしてくれる」

 

否、それはあくまで乗り手が千冬ではない場合だ。

乗り手が世界最強で機体を用意したのがその腕前を良く知る後輩ならば話は変わる。

正面か叩き込んだ三本目が砕け破片が粒子となって空気中に散り、光を反射する。

 

次に千冬が取った行動は四本目を取り出すのではなくゴーレムに背を向ける事。

諦めたわけでも自殺志願でもない、瞳に宿っているのは勝利を確信したもの。

 

「木っ端微塵」

 

背面でゴーレムが爆散する。

山田先生が千冬に託したブレードはただの剣にあらず。刀身に小さな爆薬を仕込んだ特殊ブレードだ。

武装パターンの少ない打鉄が目くらまし等に使う武器で本来は攻撃に用いる物ではないのだが、使い方次第と言う所だろう。

初見ならともかくセシリアやブルーの戦闘データ、ラウラ達の報告を聞いていれば対策は練れる。

龍咆や山嵐の火力で装甲は抜けなくとも動きは封じられると証明され、狙撃で間接を狙えば破壊も出来ると既に知っているのだ。

そうなれば山田先生が対策を思いつかないはずがなく、千冬が実行できない道理はない。

砕けた刃に仕込まれた爆薬による全方位からの同時爆破攻撃、衝撃で動きを封じ間接の隙間から火力を送り込めば爆発の渦に対象を閉じ込め破壊せしめる威力を生み出せる。

難点はブレードを使い捨てにする点だが、弾薬を考慮する必要のある銃火器とは異なり爆薬が仕込まれていると言ってもブレードはブレードだ。容量にすればIS用武装の中で最も少ない部類に入る。

格納領域から新たに三本のブレードを取り出し再び装着すれば打鉄七刀は元の姿を取り戻す。

何本格納されているのかは分からないが少数でないのは目に見えて明らかだ。

世界の頂点、最強の名を持つ剣の実力は世代遅れの量産機であっても錆びつかない。

 

暴挙とも取れる戦い方に戦場の空気が一瞬凍り付く。

その手法であれば確かに勝てるが実行に移すには正面からゴーレムと殴り合う覚悟と実力が必要だ。

手数で圧倒する意味では銀の福音も同じと言えるが射程距離が異なる上に余程思い切りが良くなければ取れない戦い方にナターシャでさえ苦笑を浮かべるしかない。

 

 

最強の腕前を目の前で見たにも関わらず、果敢に接近戦を挑む者がいる。

イギリス製第三世代機、ティアーズ型最新モデル、サイレント・ゼフィルス。

射撃用のライフルでもビットでもなく、瞬く間に距離を詰めて振り抜くのは桃色に輝くナイフである。

至近距離でぶつかりあった刃と視線が交差する。

サイレント・ゼフィルスの頭部は狙撃用のバイザーが施され表情は良く分からないが、箒が学園祭で感じた違和感を千冬も即座に感じ取っていた。

 

「お前は……」

 

千冬の篠ノ之流は箒の儀礼としての剣術よりも古い殻を脱ぎ捨てた現代剣道としての一面が強く、違いは多々あるものの流派として根底が同じであれば太刀筋は自然と似通ってくる。

最短で切り掛かる動作、刃を通じて感じる力の流れ、些細ではあるがサイレント・ゼフィルスから感じるのは紛れもなく篠ノ之流だ。

いや、それだけではない。

バイザーから流れる黒髪もはっきと分からないが顔の造形も千冬には見覚えがあった。

 

「分かるだろう? 私は、お前だ!」

 

サイレント・ゼフィルスのバイザーが取り外され、エムが顔を曝け出す。

現れたのは千冬をダウンサイズした姿、篝火 ヒカルノが小さい織斑 千冬と称した少女。

 

ここに一つ仮定を上げたいと思う。

世界最強である千冬をコピーすればそれは強者となりえるか。

数多くの学者が検討した結果、ヴァルキリートレースシステムが証明した通り、千冬の挙動を真似るだけでも圧倒的な戦闘力を発揮する事が出来る。イコール、先の問いに対する答えはYESである。

千冬は束とは違う意味で人類の宝と呼べる。人外と称して良い程に規格外の存在である。

戦闘力と言う概念だけで言うならば個でありながら完成された生命体と言って過言ではない高みにいる人間。

軍隊や科学者がその存在を欲するのは無理のない話である。

仮に生死を問わず千冬を捉える事が出来たとしても人間を飼い殺す事が容認されるはずもない。

ましてや孤児などではなく相手は世界的な有名人、いなくなれば陰謀論が渦巻き世界が追い求める人物だ。

一般的に考えれば諦めるしかない題材であったとしても人権や倫理的な問題を度外視してでも求める輩は存在する。

結論として千冬の血液や体毛、遺伝子情報を解析しクローンを作ろうと企んだ者達がいた。その結果がエムシリーズと呼ばれる少女達である。

 

教育を前提に赤ん坊から始める人造生命体であれば試験管から作る技術は一定の水準に達しており、ラウラがその証拠と言えるが、人間をコピーするとなれば似ているようで異なるものだ。

エムシリーズに求められるたのは誕生と同時に兵器として利用する事。

様々な肉体パターンが作られ、そこに千冬の遺伝子を組み込む作業は繰り返されたが大半は失敗し命が芽吹く前に消えていった。短命所の騒ぎではなく生まれる事さえ出来なかったのだ。

唯一残ったのがナンバー12、実験体として大人ではなく子供の姿をした一人だけ。

 

「私のクローンか!」

 

脳筋と揶揄されたとて千冬は馬鹿ではない。

自分と同じ顔、同じ流派を使う少女の存在を直ぐに見抜く。

 

「私はお前を殺して私になる!」

 

千冬とエム、出会いが違えば姉妹になれたかもしれない二人が激突する。

 

空中で刃を交え始めた二人の強者を見据えてスコールが一人でほくそ笑む。

エムとスコールは行動を共にしているが互いに仲間として意識している訳ではない。利用し合い目的を達成する為の共犯者だ。

亡国機業の視点から見れば千冬が厄介な敵である事は言うに及ばず、対抗する手段として用意していたのがエムである。

力量を計る為にゴーレムをぶつけて確認したが近接戦闘しかできない打鉄が相手ならサイレント・ゼフィルスを駆るエムに勝機は十分ある。

スコールにしてみればどちらが勝とうが興味の無い話、エムが負けたとしても千冬が弱ってくれれば有難く刈り取るだけだ。

シルバーシリーズや千冬、紅椿の奮戦など想定以上の出来事が起こってはいるが現状で言えば亡国機業の優位性は損なわれていないのだ。

 

 

 

「いいねぇ! アイツと殴り合いてぇ!」

 

紅椿の二刀と五本の多脚アームで打ち合っているオータムがエムと斬り合う千冬を見て嬉しそうに声を弾ませる。

全体的な勝率を上げようと思えば各々が敵を打ち破るのが効率的だが、生憎とエムもオータムも全体的な戦局は見ていない。

 

「行かせると思うのか?」

 

当然その道を阻む箒が黙って通すはずもないのだが、内心で舌を打っているのが現状だ。

千冬の登場は箒に取っても喜ぶべきであるが周辺のゴーレムの数が減っている訳ではなく、センサー上では新たなバーサーカーが出現している事も確認している。

可能であればアラクネを破壊しブルーやシルバーと連携を図りたい所なのだがそう上手く戦場が転ぶはずもない。

 

「ハッ! お前も悪くはねぇけどなァ!」

 

機体性能と言う意味では紅椿は現存するIS最強だ。

二次移行した白式と比較すれば火力では劣るかもしれないが、展開装甲の万能性を考えれば一対一で負ける理由を探す方が難しい。

が、これは実戦であり相手は人殺しに抵抗を覚えない狂人だ。ましてや多少数が減ったとは言え五本腕の相手と戦闘した経験などあるはずもない。

図式としては攻めるアラクネの拳を紅椿が防ぐ構図が続いており、好転する気配は見いだせていない。

 

「同じ手は二度も食わねぇよ!」

 

破刃による攻撃を警戒するオータムが繰り出す拳は二刀を受け止めたり殴り返したりはせず、刃の側面からの打撃や剣筋を避ける事を重点に置いている。

要するに巧いのだ、戦いにおける本能が発達していると言ってもいいかもしれない。

正面からぶつかり合う剣道からすれば卑怯とも取れる戦い方だが、その理論が通じない事は理解している。

距離を取れば千冬かブルーに向かうであろうオータムを放置は出来ないからこそ箒は近距離での殴り合いに応じるしか手段はなかった。

 

が、この戦場における規格外は第四世代機や世界最強だけではない。

打ち合う両者の意識の外、横合いから飛来した光の塊がアラクネの腕の一つを破壊する。

 

「はぁ!?」

 

完全に予期していなかった攻撃にオータムが声を荒げ、箒も目を丸くする。

二人揃って光の来た方向へ視線を向ければゴーレムとバーサーカーの集団の中でビームライフルとビームサーベルを使い孤軍奮闘するブルーの姿。

 

「あそこから狙って来たってのか! マジで化物かよ!」

 

ブルーからの援護射撃で更に腕が減り、二対四になり士気を上げたのは言うまでもなく箒だ。

上空への視線も程々に斬撃がより強い軌跡を描き始める。

 

「上等だよ、まずはお前から叩き潰してやる!」

 

 

 

注釈をするならばユウは箒の援護を狙った訳ではなく、アラクネを破壊するつもりで放った一撃だった。

直前で突っ込んできた黒い甲龍に狙いが逸らされなければビームライフルの一撃はアラクネの中心に当たっていたはずだ。

二射目と思いもするがオータムが警戒してしまえば狙撃は難しく、周囲のゴーレムやバーサーカーがいる現状ではこれ以上は難しいと判断せざる得なかった。

この場において最も数のいるゴーレムとバーサーカーはユウや千冬の極端な戦闘力の影響で霞んでいるが、厄介な相手に違いはない。

リミッター解除状態のブルーであれば頑丈な装甲も太刀打ちできるが、数で攻め込まれれば対処は簡単ではない。

更に武器を破壊し戦闘力を著しく低下させたはずのバーサーカー達が倒れても向かってくるのだから堪ったものではない。

 

「……ッ!」

 

足元から追いすがって来る甲龍の龍咆を蹴り飛ばし破壊した上で地面に叩き落とすが、少女は憑りつかれたように何度でも立ち上がる。

バーサーカーシステムは少女達に限界を超えた肉体性能と痛みを与え続け敵を倒せと囁き続けている。

その様をEXAMを通じて聞いているからこそユウは敵を倒しながらも苦々しい思いをする事となっている。

ブルー最大火力である胸部ミサイルで薙ぎ払うと言う選択肢もあるが、ゴーレムはともかくバーサーカーの少女達にどのような影響を与えるか分からず、一機ずつ相手取る以外に手はなかった。

 

「…………来るか」

 

こちらが生きた人間である以上、戦闘の長期化と減らない敵に希望を見出すのは難しい。

しかしながらユウはEXAMがコアネットワークを経由し感じ取るのとは別に戦場の流れを感じ取っていた。

くーの奮戦、シルバーシリーズの参戦、各国による亡国機業掃討戦、世界最強の君臨。

世界は確かに動いており、その中心は間違いなく北極だ、激動を彩る者達が集まる気配はまだ終わっていない。

 

 

 

「いい加減しつこいってぇのぉ!!」

 

束の周囲を飛び回りながら強引に接近を試みるゴーレムに連射速度を高めたショットガンで迎え撃っているティナの口調が荒くなる。

祖国の為にと格好をつけるつもりはないが、扱える力があり、それを振るえる場面があるなら彼女達は迷わない。

ISで空飛ぶ事を夢見て励み、やっと辿り着いた境地なのだ、それが戦場であるとしても全力を尽くす理由は十分過ぎる。

 

「ちょ、離しなさいよ!」

 

シルバーシリーズの性能は第三世代の中でもトップクラス、搭乗者もアメリカが選りすぐりナターシャが鍛えた精鋭だ。

だが、一向に減らないだけでなく尚も増え続けているゴーレムとの戦闘に疲労の色は隠しきれず、ついにその足をゴーレムの巨大な腕が掴み上げた。

氷の大地に叩き付けられ衝撃に意識を持っていかれそうになる。

 

「ティナ!」

 

とは言えこちらにも味方はいる。

シルバーファイブのフォローに走ったシルバーフォーが二機の間に割って入りトリガーを引き、両者を引き剥がす。

 

「ありがと、助かった」

「油断しない、まだ来るよ」

「合点!」

 

二機の集中砲火がゴーレムを砕き危機を脱するものの、一機倒して二機増える。

数が減らない所か増えていく、悪夢のような光景が北極の至る所で繰り返されている。

 

「あーもぅ、お腹減った!」

「この状況でその台詞が出るならまだいけるわね」

「当たり前でしょ! 全部終わったら山ほどカキ氷食ってやる!」

「嘘でしょアンタ、暫く氷なんて見たくないわよ」

 

意気込む方向性が正しいかどうかはともかく、例え空元気であっても戦場で気力を失わない事は必要な要素で一種の才能だ。

 

「……へ?」

 

不意に氷の大地に影が落ち、ティナの声が上擦る。

シルバーファイブのセンサーが遅れてソレを感知する。

 

「センサー不良? 上!」

 

自分の視力がセンサーより先に異変に気付いた事に違和感を感じながらもティナは視線を上げる。

遥か上空、太陽と氷の大地の間の大空にソレはいた。改めて確認するまでもなく確信を得たティナの笑みが風に乗るのは必然だった。

 

 

 

異変に気付いたのは全員だ。

影の落ちた視界に疑問を感じスコールも見上げた先。

 

「ジャンボジェット?」

 

首を傾げるのも無理はない。

北極の上空、戦火の真っただ中に浮かんでいるのは巨大な旅客機だ。

 

≪やぁ諸君、頑張ってるかね?≫

 

空から鳴り響いたスピーカー音声、各ISのハイパーセンサーがコックピットをアップで捉え白衣の女を確認する。

 

「篝火 ヒカルノ?」

≪そうよ? この前はあんなに熱烈なアプローチをしてくれたのに寂しいリアクションね≫

 

スコールの疑問にヒカルノは肯定を返す。

 

「何の御用かしら、貴方の頭脳はもう必要ないのよ、貴方の出番は終わったの」

 

可能であればゴーレムやバーサーカーの開発に利用するつもりでヒカルノを誘拐しようとした過去を切って捨てる。

対するヒカルノは歪みつつあるが極上の笑顔で応じる。

 

≪おかしな事を言うのねぇ、私はまだ何もしてないじゃないの≫

「今更何をしに来たのか知らないけれど、そんな旅客機で観戦のつもりなら怪我じゃ済まないわよ」

≪あっはっは、そんな短絡的な思考回路だからアンタ達は阿呆なのよ≫

「死にたいならそれでいいわ、目障りよ」

 

攻撃宣言に呼応し氷の下に眠る空母から突き出た連装ミサイル砲が上空のジャンボジェットを照準に捉え火を噴く。

 

「フレア発射と同時に弾幕展開! 振り切って!」

 

旅客機の外観からは想像出来ない単語がスピーカーではなくコックピット内で飛び交い、胴体底部から放たれた熱源がミサイルを誘導し迎撃する。

 

「博士、余り挑発して貰っては困る」

「いやいや、艦長の腕前を信じてるからですよ」

 

機体の安全が確認され氷の大地から視線を外したヒカルノが笑顔を向けるのは隣、操縦桿を握る欧州連合海軍の巡洋艦艦長だ。

 

「それにしても、旅客機呼ばわりですか」

「まぁ、間違っちゃいないけどねぇ」

 

艦長と博士、二人の視線が楽しそうに交わり口元が歪む。

ニチャリと張り付いた笑みは危険信号以外何者でもない。

 

「それじゃ旅客機らしく積荷を下ろすとしましょうか」




もう一度だけ言わせて下さい。
ベタや王道は褒め言葉です。喜びます。

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