IS ~THE BLUE DESTINY~ 作:ライスバーガー
ISコアとはISのエネルギー媒体の一つであり成長する核であり量子格納を可能にするブラックボックスである。
篠ノ之 束が天災と、人類の智の頂点とされる所以、現在科学では辿り着けない知識の結晶体。
コアの解析には電子機器から脳科学、精神科医まで数多くの天才と呼ばれる人間が挑み、挫折を繰り返した。
漠然と分かったのは非常に高度な演算システム、それこそ人間の脳を思わせるレベルのものであると言う事。
ブルーディスティニー1号機をベースとしたISのようでISではないISみたいなモノであるブルーは白式以上の戦いの経歴を持つにも関わらず二次移行出来ないのだが、その理由はコアにある。
ISのコアは何故か女性しか認識せず、一夏だけが例外であると束も認めているがブルーはそもそも規格が異なる。
エネルギー媒体や量子格納と言う意味ではブルーもISと大差ないが、決定的に違うのは成長する要素を持ち合わせていないと言う事。
どれだけ経験を積もうがブルーは二次移行しない。束の手によって男女の識別も自己の意思も持たないただ兵器として生み出された唯一無二のモドキだからだ。
成長要素を取り除いたISモドキであれば男でも使えるのだが、それは束の求める形ではない。
「ISのコアは一言で言うと電子集合体なんだ」
束が唐突に紡ぎ出した言葉をユウは無言のまま聞き入れ先を促す。
「私はね、宇宙を旅する仲間が欲しかったんだ、多分」
交戦記録はともかくとして宇宙世紀の前線に立っていれば強化された人間を知る事にはなる。
彼等の全てが悲惨と言うつもりはないが、非業を背負うに違いはない。
「ちーちゃん以外に私と対等はいなかったからね。箒ちゃんといっくんは愛すべき存在だけど対等な立場で語れる人間とは違うし」
「仲間なら人間ではダメだったのか」
「うん? あぁ、あのドイツのチビっちゃいヤツみたいな? 造れるとは思うけど、アレは最初から育てないといけないしね」
要するに面倒くさい、と肩を竦めて見せる。
「人の体を持つIS、生体同期型って言うのも構想は練ってるんだけどね」
人付き合いを根本から否定しているが、束は寂しさを紛らわす為の人間が欲しいわけではなく可能性の広がりを見たかったに過ぎない。そこに人間の形をしている必要性はない。
ISは成長し搭乗者の意図を組み進化する。その様子は学習する子供そのものだがISであれば食事を取る必要も言語によるコミュニケーションも必要ない。
宇宙世紀の歴史を第二次ネオジオン抗争より先に進めればフォーミュラー計画において擬似人格コンピュータが登場する事になるが、それとも意味合いは異なって来る。
ISが脳と同じかそれ以上に複雑に絡まり合う電気信号の集合体であるなら人間の脳でさえ完璧に解析されていない以上、コアを解析できるはずもない。
宇宙世紀と言う未知は束に取って極上の甘味であり、好奇心の塊だった。
ユウと出会わなければ、宇宙世紀を知らなければ、束は好奇心を満たす為に狂っていたかもしれない、壊れていたのかもしれない。
だが、束は触れた。
自分自身が超人であると理解しているからこそ、知ってしまった。
宇宙世紀と言う禁忌の果実に等しい知識の宝庫の意味を。
MS、V計画、それらが一人の人間によってもたらされたものであると問われれば誰もが否と答えるだろう。
MSVを初めそこには数多くの天才が努力し、葛藤し、時に犠牲を払ってでも完成させてきた兵器の到達点、人型機動兵器、機動戦士と呼ぶべき存在の数々。
「コアを世界中に配布したのは私だし、それをどのように使うかも世界から隠れた私に文句を言う資格はないと思う。でもね、バーサーカーはダメだよ。アレは認められない」
「……そうだな」
「箒ちゃんも強くなったけど、アレの相手はさせたくない。銀の福音とは乗ってる人間が違い過ぎる。我儘だってのは分かってるけど、切り札が完成するまでの間、お願い」
頭は下げずとも言葉で伝えられる意味を理解出来ないユウではない。
ユウ・カジマは軍人であるが狂気に触れた経験と言う意味では宇宙世紀でも稀有な体験をした人物だろう。
開発者の狂気、犠牲となった少女の意思、騎士の怨念、人類の革新であり可能性の獣とも呼ばれる程に触れた感情は様々なものだ。
ブルーディスティニー、混迷の時代を生き抜き切り開いた運命の名を冠するMSは世界を超え、形を変えてISが作る宿命と対峙する。
束とユウ、異なる世界の二人の人間、二つの歴史と二つの兵器、ISとMS、近いようで全く別の物語が絡み合った世界。
決戦の地である北極へ出向く前の二人の会話である。
◆
出撃直前の会話を思い出しながらユウは正面のゴーレムと激突する。
大きさと数で勝ろうとも同士討ちを避けようとすれば正面からのぶつかり合いになるのは仕方ない。
瞳の色は未だ緑のまま、氷の甲板に踏み込んだ足跡が刻まれ前面に掲げたシールドで倍以上の体積で群がる巨躯を力任せに押し返す。
背面のブースターが短く咆え、ブルーを中心に四機のゴーレムが弾かれる。
背面、胸部、脚部の排熱部から蒸気が溢れ死神の放つ空気が心を持たない兵器に踏み込む躊躇を与える。
パワードスーツとして生まれ変わったブルーディスティニー、可能な限りMS時代を再現したスペックは異質の一言。
世代としては武装を取り揃えた第二世代に過ぎないにも関わらず、ISコアを通じて働きかけるEXAMシステムを搭載し、全身を包む装甲はISの中でも最硬を誇る。
主武装はブルーのマシンガンとビームサーベル、胸部バルカンに有線式ミサイルとシールド。
追加武装としてジェガンの短銃身型ビームライフル、ハンドグレネード、シールド内蔵二連装ミサイルランチャー。
羅列すれば武装こそ多く見えるが雪片弐型や
EXAMを除けば堅実と言って良いだろう。その実、他を寄せ付けない圧倒的な性能は前述した装甲とエネルギーの殆どを攻撃に費やしている偏った配分の結果。
何より裏付けされた経験値と戦場を知る搭乗者の腕の賜物だ。
戦場帰り、そんな言い回しすらも甘く感じる。何せユウはこの世界に落ちる直前まで命のやり取りをする戦場にいたのだ。
大軍勢がぶつかり合い、一瞬で命の散る戦場で持てる技術の全てを駆使して戦っていた。
そして知ったのだ、敵軍の人間であっても母なる大地の為に手を取り合えると。
この戦場が甘いとは言わない。
絶対防御が安全だとは思ってもいない。
IS同士の戦いは命を賭ける戦場に変わりない。
油断すれば死神の鎌は自分に向けられるだろう。
それでもだ。
「…………」
無言を貫くユウの視線は無機質な緑色の輝きを発しブルーを通してゴーレムを威圧する。
引き金を引く意味も知らない、他者の命を奪う行為が簡単なものであってはならない。
兵士は少年であろうが老兵であろうが、その覚悟を乗り越えて戦場に立つのだ。
軍人であり戦士であるからこそ、効率が良かろうとも感情なく人だけを殺す機械を認める訳にはいかない。
正面からブルーがゴーレムを押し返したのと同じく空中では紅椿が二刀で迎え撃っていた。
左右から来る柱のような大剣を空裂と雨月で受け止める。
「篠ノ之の剣を舐めるなァ!」
紅椿の背面から肩、腕に掛けての装甲が可変、最も流動的に動けるフォルムに移行する。
展開装甲を用いて力に対抗ではなく、受け流す形でゴーレムの大剣を捌く。
空中で身を翻し、舞い踊るように二柱の刃を受け流す。
儀礼から実戦に派生した篠ノ之流の基本は伝統舞踊の流れを受け継ぐもの、一刀一扇は攻防一体の必殺剣で千冬が世界を取った流派でもある。
箒の場合は舞踊としての篠ノ之の流派も会得しており剣の道しか知らない千冬とは少々異なると言える。
刃を受け流し、短い呼吸の後、ゴーレムが次撃を打ち込むより速く追撃が放たれる。
「篠ノ之古武術裏奥義、零拍子」
相手の一拍目よりも速く仕掛け、有無を言わさず切り散らす奥義は相手の守りも攻めも崩し去る速さの奥義。二刀から放たれる連撃が重厚な装甲を押し退ける。
千冬だけでなく一夏も元を正せば篠ノ之流だ。
が、箒の篠ノ之流は攻撃に特化した千冬や一夏とは趣の異なる儀礼の色が強く残るもの。
篠ノ之神社の巫女としての舞を担う役割もあり、その刃は一刀一扇を二刀で再現する舞踏術に近い。
ゴーレムの性能は今更問うまでもなく強く大きく厄介な相手ではあるが、篠ノ之流を完全に再現してみせる紅椿の性能はその非ではない。
二次移行した白式の絶大な攻撃力や灰色の鱗殻であれば正面から破壊も出来るだろう。山嵐や龍咆であれば装甲は抜けなくとも火力で封じ込める事も出来る。
では紅椿はどうか。現状で所持しているのは遠近距離攻撃可能な二振りの刀のみだが、第四世代として他のISにはない規格外のシステムである展開装甲はあらゆる状況を単機で可能にしている。
一にして百であり千であり万の役割を可能とする紅椿は攻撃をいなす流動的なものから瞬間的にエネルギーを解放する攻撃的なものにまで瞬時で切り替え可能だ。
それは量産機からの差別化を図る為に各国が第三世代の開発後期としているパッケージをその場で自在にコントロールできると言う事。
篠ノ之 束が篠ノ之 箒の為に作り上げた唯一無二の第四世代機は機体相性の問題などものともしない。
白式の機動力と攻撃力、ブルーティアーズの眼、ラファール・リヴァイヴや甲龍の汎用性、シュヴァルツェア・レーゲンやミステリアス・レイディの特殊性、打鉄弐式の強襲力。
それらをその場で組み替える事が許されているのが紅椿、単機としてならば最強の名を持つに相応しい存在。
実戦経験が箒に足りているとは言い難いが、束の為に戦うと覚悟を極め、束がそれに応えて調整したならば紅椿は常に最善のパフォーマンスを提供するだろう。
篠ノ之姉妹が二人揃って初めて紅椿は完全な形を迎える。
「もう決めたんだ、姉さんの敵を切り払うと」
もしかすると間違っているのは束で亡国機業が正しいのかもしれない。
全てを話してくれている訳でもない、全てを理解している訳でもない。
だとしても、もうあの時とは違う。
何も出来ず、崩壊する家族を繋ぎ止められなかった無力な少女はもういない。
束がいなければ戦う力も持たない箒だが、自分の意思で戦うと決めたのだ。
もしかするとその気持ちすらも誘導されたものかもしれないが、信じると決めた以上、そこに迷いは必要ない。
少なくとも束はくーを救い、銀の福音を助け、ミサイル襲撃を退ける手助けをし、世界を人質に取られ無視できるにも関わらず命を賭け金として差し出した。その心意気に応えるのだと既に決めている。
ただし、これは束に依存し思考を放棄する意味ではない。
共に進むと言う意思表示は並び立つと言う事、後ろに付き従うだけではない。
まずは決める、そしてやり通す。覚悟を刀に乗せたなら、篠ノ之箒と紅椿は一心同体、その身は既に刃なり。
「おーおー、やるねぇ、流石は死神と第四世代だ」
戦いたくてうずうずしている様子を隠しもしないオータムが笑みを深め拳を叩き合わせる。
視線を主人であるスコールに向けるが返って来るのは首を左右に振る否定の意。
「まだ駄目よ、ゴーレムで仕留められるならそれがベストなんだから」
「……足元を掬われなければいいがな」
エムの指摘に苦笑を浮かべるスコールは戦場を次の段階に移行させる。
「心配しなくても大丈夫よ、ここは私の戦場だもの。潜水艦の奇襲には少し驚かされたけどね」
おどけて見せながら指示を送ると小さな振動が足元から響く。
氷の地面を押し開き甲板の至る所から競り上がってきたのは氷の中の空母に備え付けられている速射砲。
「あ? そんな物きかねーだろ」
「意味なんてないに等しい攻撃でも優れた戦士であれば飛んでくる熱源に注意をせずにはいられないものよ」
短く指を鳴らした次の瞬間、一斉に砲火を上げた速射砲がブルーと紅椿に向け飛来する。
絶対防御を抜く威力はなく、ISを捉えられる速度でもない。
が、迫る砲撃をセンサーが捉え、視線を動かすのは優秀であればある程に自然な行動だ。
ほんの一瞬、短く気を取られた瞬間にブルーと紅椿に四機ずつのゴーレムが殺到する。
「くっ」
シールドとビームサーベルにより肉薄したゴーレムを受け止める事に成功はするが、行為の意味を理解しユウの表情が歪む。
上空では同じく殺到したゴーレムに視界を塞がれた箒が身動きを取れずに圧力に押し込まれる。
二機の性能と二人の腕前を考えれば危険な状態とは言えないが、防衛線に隙間を作るなら十分だ。
「抜かれるっ!」
ゴーレム八機、これだけの相手をしているだけでも並大抵ではないが、更に甲板に一機姿を見せる。
その巨体からすれば小さく見えるIS用の武器を両腕に装着した九体目のゴーレム。
即座にブースターを吹かしゴーレムの群れから突き抜けた二機の脇を平行に射出されたゴーレムがすり抜け氷の大地を滑走しながら目指す場所は言うまでもなく束だ。
「姉さん!」
すぐに箒が追走の姿勢に入るが四機のゴーレムが壁となり進路を阻む。
空中に展開されるキーボードに白い指先を躍らせている束は動かない。
ナツメの両手を含め四つの手を使い1と0の世界での作業に没頭している中で接近する存在に気付いてはいるが、それは無視する。
周囲に張り巡らされている不可視のエネルギーフィールドはIS用のシールドの応用版だ。
大きな音を立てて突撃したゴーレムとエネルギーフィールドが激突。
ただの体当たりであれば破られる心配もないが、ゴーレムの両手に装着されているのは命中率に難はあるがISの武装の中でも最大クラスの攻撃力を秘めた灰色の鱗殻。
杭打ち機のハンマーコックが可動、ゴーレムを一撃で行動不能にする強撃が不可視の壁に打ち込まれる。
余波が空気を震わせるがシールドは砕けず視線さえ向けない束の指の動きも止まらない。
再度コックが開き寸分たがわぬ場所に二発目が打ち込まれる。
決して長い時間ではない。
エネルギーフィールドは灰色の鱗殻であっても防いでいるし、時間を稼げばブルーと紅椿が対処する。
だが、鳴り響く轟音は戦場を自分の意思で経験していない少女に取っておぞましい記憶を呼び起こすものだった。
引き延ばされる感覚に目の前の光景がスローモーションで展開される。
「っ!!」
短く漏れたのは声にする前に消えた乾いた悲鳴の残響。
この場にいる、唯一戦う為でなく見届ける為に参戦した少女。
束の陰に隠れたくーが何故この場にいるのか、流れ弾で簡単に死んでしまう小さな命の出る幕ではない。
せめて潜水艦で待っているように束もユウも伝えたが、くーは共に氷の大地に降り立つ事を願った。
一度精神を壊され自衛の為に記憶を切り捨てた少女はこの戦場に来るべきだと己の直感で理解していた。
自分と同じ立場の人間がここにいる。その衝動は少女を突き動かすに十分な理由。
束やユウであっても救えないかもしれない、自分に出来る事は何もなく、ただの邪魔でしかないかもしれない。
それでも生き残る事が許された自分はこの場にいるべきだと途切れ途切れの記憶の中で少女は理解してしまってた。
だが、視界に広がる光景は正視に耐えうるものではない。
激しい音が鳴り響き、自分を救ってくれた人が攻撃されている様は幼い少女に取って容認できるものではなかった。
「束さま!」
「くーちゃん!?」
気が付いた時にはくーは無我夢中で走り出していた。
自分に何が出来る訳でもない、無力であると知りながら恩人を救いたいと言う思いだけで束の前に踏み出していた。
エネルギーフィールドから一歩でも飛び出せば無意味な死が待つだけだ。
幼い少女の愚かな選択、誰かを守りたいと言う意志と失いたくないと言う願い。
どれほど祈った所で現状が把握できず、力が無ければ何も出来ない現実が無慈悲に降り注ぐ。
しかし……。
幸運の女神と言うものが本当にいるのなら、今、この瞬間はたった一人の少女の為に微笑んだのだろう。
失いたくない、奪われたくない、ただその一心で少女は奇跡を請う。
ゴーレムと束の間に突っ込んだくーの身に起こったのは奇跡か、或いは必然か。
眩い光が戦場を照らし、宇宙まで突き抜けるかの如き閃光が一同の視界を奪った。
「なっ!」
視界が戻った時、誰でもなく声が上がっていた。
束の前に現れたのは真っ黒いラファール・リヴァイヴを纏ったくーだった。
ISは本当に必要としている者の願いを聞き届ける、本当に望んでいる者の伸ばす手を掴み取る。
例えそれが忌々しい過去の結晶であったとしてもだ。
「遠隔コール!?」
潜水艦に収められていた黒い機体がくーに応じたのだと現状を理解した束が驚愕する。
が、突然に出来事に戦場が止まったのは僅か数秒。
すぐに再起動したゴーレムの灰色の鱗殻が躊躇いもなく黒いラファール・リヴァイヴを捉えた。
打ち込まれた巨大な杭が一撃で装甲を粉砕、戦う意志を持続出来ない少女は膝から崩れ落ちる。
「くーちゃん!!」
止める訳にはいかない指の動きをそのままに束が声を荒げる。
明らかな悪手に他ならないくーの行動を責める事も今の束には許されない。
切り札となるべく最後の一手を完成させる瞬間まで一秒ですらその場を動けない。
加速する思考回路が今すべき事をフル回転で探し求めるが答えは見つからない。
だが、空を仰ぎ倒れ行く中で、くーは確かにソレを見た。
「ブルー!」
自分では間に合わないと箒が叫ぶが、同じくゴーレムに囲まれたブルーも間に合う距離ではない。
ゴーレムを薙ぎ払う為にリミッターの解除する意味でEXAMを発動させようとした所で、ユウもソレに気付いた。
「……!?」
「ブルー?」
ユウの正体は未だ隠されたまま故に戦場で名を呼ぶ事をしない箒は異変に気付き疑問を浮かべる。
今この瞬間にもくーに二発目の凶刃が迫っていると言うのに、ブルーの視線は確かに上を向いていた。
「……あ」
箒もソレに気付く。
「……おめでとう博士、貴方は世界を動かした」
もしかしたら無駄だったのかもしれない。
くーの行為はただ皆を危険に誘っただけかもしれない。
作業を中断する事の出来ない束を責めるべきなのかもしれない。
しかし、もしかすると後数発でエネルギーフィールドは砕けていたかもしれない。
可能性の話をするならば未来は無限に広がりを見せる。
その中でくーは守る為に動き、その行為自体が無謀であったとしても、たった数秒だったとしても、確かに束への攻撃は防がれたのだ。
倒れながら、少女は鐘の音色と共に舞い降りる天使の歌声を聴いた。
迫る二発目は黒いラファール・リヴァイヴには届かない。
超高々度から降り注いだ銀の弾丸がゴーレムの全身を撃ち貫いていたからだ。
「馬鹿な!」
誰のものか分からない怒声が響く。
それがスコールだったのか束だったのか、はたまたオータムだったのかは分からない。
ただ現実として黒いラファール・リヴァイヴと灰色のゴーレムの間に太陽の光を背に受けて五体の天使が舞い降りた。
「よく頑張ったわね、お嬢ちゃん。後はお姉さん達に任せなさい」
フルフェイスのバイザーで隠された顔は分からないが、その声の主、その天使の正体は誰もが分かっていた。
「どうして、何で、君達が」
「篠ノ之博士、あの時の御恩をお返しに来ました」
世界は確かに動いた。
「行くわよ、シルバー!」
「了解!」
舞い降りたのは五体の機械天使、