ステルス・ブレット   作:トーマフ・イーシャ

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ルミルミ回です。もっとルミルミするんじゃぁ~
キャラ崩壊するかも。形象崩壊はしません。今はまだ。


ルミルミの独白

留美side

 

――人間って、なんだろう。

私たち、『呪われた子供たち』の親は、間違いなくヒト科の人間のハズ。普通なら生まれた子どもも人間だと思う。けど、体内にガストレアウィルスを保有しているために人間ではないと言われる。ならインフルエンザに感染した人は体内にインフルエンザウィルスを保有しているから人間ではないの?もしガストレアウィルスを保有していると人間じゃなくなるのなら、『呪われた子供たち』を生んだ親も、いやこの世界に生きる人間みんな多かれ少なかれ体内にガストレアウィルスを保有しているから人間ではなくなるの?

 

私がこんなことを考えていたのは、今、目の前に店の商品を窃盗して大人に取り押さえられている外周区に住んでいるであろう子供がいるから。その子は目が赤く、間違いなく『呪われた子供たち』。その後やってきた警官がろくに事情も聞かずに子供をパトカーに乗せて連れて行こうとしているのを蓮太郎が止めようとしている。八幡は何も言わず、目を伏せる。延珠はその子供を泣きそうな目で見ている。私からすれば、それほどおかしな点はないように感じる。

 

もし、カラスがゴミをあさっていたら、石を投げて追い払うだろう。農作物を鹿があさっていたら、銃で撃ち殺す。ゴキブリが部屋に出たら、スリッパで潰す。ガストレアが襲ってきたら、やっぱり銃で撃ち殺す。それとおんなじ。『呪われた子供たち』が店の商品を盗んだら、捕まえて銃で撃ち殺す。

 

人だから、法で裁く。人間だから、法で裁かれる。人じゃないから、処分する。人間じゃないから、処分される。どっちなのか曖昧な存在の私にはよくわからない。

 

延珠と私は、同じ小学校の同じクラス。延珠は、いつも楽しそうに学校へ行き、友達と笑顔で喋る。私は、学校になんて行きたくない。学校でも、いつも1人。そんな私を延珠は気に掛けてくれてる。時々話しかけて来たり、延珠の友達の『人間』と一緒に遊ぼうと誘ってくれる。いつも遠慮するけど。本を読んだりしてるほうが楽しい。これは1人でいることに対する強がりではなく、本音。

それにほかの『人間』と一緒にいても楽しくない。仕事柄、ほかのイニシエーターの子と話す事がある。基本的にみんな、クラスの『人間』と比べて大人びている気がする。大人の人といることが多いからか、会社の教育の賜物なのか、それとも幼少期になにかあったからか。それに比べてクラスの『人間』はまるでサルのよう。つまり私はクラスの『人間』よりも人間が出来ているってこと?この『人間が出来ている』がどっちの意味かは自分でも分かんないけど。

 

『天誅ガールズ』の話をクラスの『人間』としているときの延珠は、すごく楽しそう。見ていて、少しイラっとする。私も『天誅ガールズ』見てるのに。ほかの子と話してるなんて。あと八幡も見てる。そして泣いてる。

 

逆に学校で延珠は、ときどき愛想笑いを浮かべていることがある。赤目がどうこうとか、外周区がどうとか、そういう話になるといつも愛想笑いで適当な相槌を打ち、すぐに話題を変えようとする。ほかにも、体育をいつも休んだり、ケガをすると必要以上に痛がってどこかに隠れて傷が急速に癒えるのを見られないようにしたり。このあたりは私も一緒だけど。学校で私も延珠も、『呪われた子供たち』なのがばれないようにしている。そういう時の延珠は、すごく悲しそう。

 

私は、学校になんて行きたくないと思ってる。自宅学習で勉強なんてどうとでもなるし、分からないところがあれば八幡や小町お姉ちゃんが家にいる。2人の教え方は学校の先生よりよっぽど分かりやすい。それでも学校に行くのは、行かないと延珠が悲しむから。以前学校に行きたくないと言ったら、あーだこーだと学校の魅力(笑)を小一時間ほど語り、いじめられているのか?勉強が分からないのかと悩みを聞き出そうとしてくれた。私、延珠よりテストの点いいんだけどね。それでもダメだと知ると、泣きそうな顔になって本当に学校に行かないのか……と言ってきたので慌てて学校に行くと宣言。そのあとに見せてくれた満面の笑みにドキッとしたりなんてしてない。以来、学校にはしぶしぶながら行ってる。行かないと延珠のうるうると小一時間の学校魅力講座が始まるから。

 

八幡は学校に無理に行く必要なんてないと言う。自分も高校に通ってるのにどうして?なんて聞くと、後援者(パドロン)の契約……とかなんとか。あの後援者(パドロン)の眼鏡の人はよくわからない。レンハチとハチレン、どっちがいいって聞かれても、違いが分かんない。とりあえずレンハチって言ったら八幡に睨まれた。

蓮太郎は学校には通わせてやりたい。出来ればより質の高い教育を受けさせてやりたいと思っているみたい。たびたび八幡と意見が衝突するが、私も延珠も、学校に通う方向で納得しているのですぐ終わる。いや、ほんとは私行きたくないけどね。

 

結局のところ、私は延珠を悲しませたくないから、それだけの理由で学校に通っている。

 

話は窃盗した子の事に戻るけど、その夜、八幡、蓮太郎、延珠、そして私の4人は窃盗した子の治療費についてうんうんうなりながら病院からの帰路についていた。すると路地から仮面の男と赤い目をした女の子が出てきた。話を聞くと、どうやら蓮太郎を勧誘しているらしい。八幡は相変わらずのスルー。今はマリオネット・インジェクション使ってないのに。手付金としてケース一杯のお金を渡そうとしてきたが、蓮太郎がケースを撃って拒否。別に撃たなくても。お金も弾薬ももったいない。

私と延珠は小比奈という子と、八幡と蓮太郎は影胤という人と対峙する。戦闘は数秒で終わって、影胤がなんか言ってたけど、私は小比奈という子が気になる。

 

彼女は、『呪われた子供たち』としてのポテンシャルを最大限利用して戦っていた。戦闘としては小比奈という子が振るった剣を延珠が足で止める。そのスキに、私が右手に持つM92Fで撃ちながら接近、左手のバラニウム製ナイフで斬り掛かる。射撃音もマズルフラッシュも抑えた銃の射撃のタイミングをつかむなんてほぼ無理なハズなのに、どこかやりにくそうにしながらも剣ではじく。そして剣で私のナイフを受け止め、もう一本で切り掛かってきたのをバックステップで回避。戦闘はそれで終わった。

 

短い戦闘だったけど、小比奈と言う子は、すっごく嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに、戦っていた。きっとこの子は『人間』ではなく『呪われた子供たち』として生きているんだろうと思う。戦闘の道具として、闘争の渦に身を置いて、ただその力で斬る。そんな生活。それが私は、

 

 

 

少し、うらやましかった。

 

 

 

『人間』ではなく、『呪われた子供たち』として認められ、『呪われた子供たち』の生き方を、幸福を実現していること。それがうらやましかった。

以前、海外ではガストレアは地球を守るための聖なる使いであるという考え方があることを知り、私はその考え方を使って私は人を超えた天使なんだ~って言ったことがある。八幡が良くやるような、うんちくと屁理屈を織り交ぜた冗談めいたひねくれ理論のつもりで。八幡はクスクス笑ながら矛盾点を指摘して、最後に「そう、小町もルミルミも天使だ。つまり俺こそが新世界の神なんだ」なんて言ってた。

蓮太郎にもこのことを話して見ると、「留美は人間だ。延珠も。外周区の子たちも」なんて面白くない反応をされた。そんなに固いと女の子にモテないよ?その割に延珠にはばっちり好かれているようだけど。

 

延珠は蓮太郎のことが好き。それもlove的な意味で。それは見ていて分かる。じゃあ私は八幡の事が好き?良く分からない。嫌いか、と聞かれるとNoと言える。じゃあ恋愛的な意味ではと聞かれると自分でも分からない。

 

八幡には感謝してる。実は八幡は3人目のプロモーター。最初の1人は汚らしいゴキブリ人間なんて言っていつも暴力を振るってきた。だから戦闘中にわざと指示を無視してガストレアに体液を注入させて殺した。2人目は大手民警会社で、イニシエーターの子が何人もいた。私たちは社宅のような場所でみんな同じ大部屋で過ごしていたが、やっぱりここでもほかのイニシエーターの子にゴキブリ扱いされたので仕事中にガストレアに殺されたふりして逃げた。その後私の元プロモーターに別のイニシエーターが派遣されたころに実は生きていたってことでIISOに届け出た。自分でもどうして外周区の子として生きようとしなかったのかは今でも分からない。ただ単純にそれ以外の生き方を知らなかったんだと思うけど。

3人目の八幡は、ゴキブリの事を話しても、軽蔑することもなく、聞かなかったことにするでもなく、過剰に気を使ったりすることもなく、そのままの私を見てくれた。初めてだった。その後もいろいろを気を使ってくれている。すごく嬉しかった。初めて自分を肯定された気がした。

 

話を戻すけど、蓮太郎は延珠を『人間』として扱っている。あの影胤とか言う人は、小比奈って子を『呪われた子供たち』として扱っている。八幡は……また違う気がする。あの人は身内か、そうでないかで他人を見る。そこに『呪われた子供たち』という考え方を入れない。

どれが一番幸せかなんて分からないけど、小比奈って子は幸せそうだった。『呪われた子供たち』として全力で自由に生きてるように見えた。あんな力の使い方だと、体内浸食率の上昇も早そうだけど。きっと悔いは残らないで死ねるんだろうな、って思えた。

 

体内浸食率と言えば、以前、私はガストレアの攻撃を受けて、一晩寝込むようなケガを負った。『呪われた子供たち』である私が一晩寝込むケガなんて、普通の人なら全治数か月とかするよね。そのあと体内浸食率を図ると、2%も上昇していた。怖かった。だって、もし人が100歳まで生きるとすると、この2%は人の4年分。それが一晩で過ぎたなんて思うと、丸一日震えてた。

 

また話がそれちゃった。蓮太郎は私を『人間』って言うけど、どうして『呪われた子供たち』じゃダメなんだろうって思う。『人間』でひとくくりにしようとして、軋轢が生まれる。だったら、もう別の生き物でいいじゃない。『人間』と『呪われた子供たち』。それでいい。

 

だから、翌日。学校に行くと、延珠と私の目が赤くなったときの写真や、ガストレアと戦う写真が大量にばらまかれて、学校に私たちが『呪われた子供たち』ってばれて、登校してきた私たちにクラスの『人間』が暴言を吐いたりものを投げたりしてきて、延珠が泣きそうな顔で否定していて、それでもクラスの『人間』があざけるのが、おびえるのが、おそれるのが止まらないのを見て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、すっごく、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで延珠がつらい思いをするのは今日で終わり。私たちは今日を持って学校をやめる。やめさせられる?そしたら、ずっと一緒にいられる。もう、『呪われた子供たち』であることが周囲にばれるのを恐れておびえて過ごす必要もない。友達だと思っていた『人間』にひどいこと言われることもなくなる。だから、アパートで、ずっと、一緒。一緒。一緒。一緒に、『呪われた子供たち』として、生きていこう?

 

延珠と私は、学校を抜けて、外周区のマンホールの中にいる。私は別に八幡のもとへ帰ってもいいんだけどね。さすがにこんな状態の延珠を放っておけない。学校を抜けた次の日、一度、八幡と蓮太郎が来ていた。2人は私たちがいないと判断して帰って行った。長老とか言われている人が私たちに言葉を投げかける。お願いだから延珠が学校に行く気になりそうなことは言わないでよね。

 

その次の日、延珠は学校に登校するなんて言い出した。私はもちろん反対した。それでも延珠は学校に行く気のようだ。私には理解できない。どうして『人間』と居たがるの?あんなことがあって、あんなに言われて、どうしてそれでも立ち向かおうとするの?

 

八幡は以前言っていた「いつも自分が悪いなんてそんなのはまちがっている。社会が、世界がまちがっていることだってある。世界は変わらないが、自分は変えられる。なんてのは、結局そのくそったれのゴミみたいな冷淡で残酷な世界に順応して適応して負けを認めて隷属する行為だ」と。

 

延珠、今の技術じゃ、私たちが『呪われた子供たち』でなくなることは出来ないんだよ。どれだけ隠しても、どれだけ周りの『人間』に合わせても、『人間』にはなれない。そして『人間』の社会では『呪われた子供たち』は生きていけない。ライオンがシマウマの群れには絶対に溶け込めないのと一緒。

 

学校に着くと、やっぱり、暴言の嵐。延珠がどれだけ訴えても、状況はもう変わらない。『人間』は私たちを否定する。昇降口に入ると、みんなが取り囲んで、教室に行くこともできない。先生も何人かいた。みんな言いたい放題言ってくる。みんな、馬鹿ばっかり。本当に『呪われた子供たち』が怖いなら、何もせずに黙ってみていればいいのに。ここにいるみんな、私も延珠も、一瞬で殺すことが出来る。それが分かっていない。ぬるすぎるよ。

 

延珠、負けたくないって言ってるけど、もう負けてるんだよ。『呪われた子供たち』であることを隠して学校に通って『人間』のふりをしてる時点で、『呪われた子供たち』は『人間』に負けているんだよ。

 

八幡と蓮太郎が来た。蓮太郎が延珠に学校を移るように促す。まだ学校に通わせるつもりなのかと思う。延珠はそれでもやっぱり学校には行きたいようだ。八幡は最初、心配そうな顔をしていたが、私の顔を見ると、やっぱり、みたいな顔をしてる。八幡は気付いてたんだね。まあ、私も八幡もぼっちだから、いろいろと通じるところがあるのかな?八幡も蓮太郎も、心配してくれてた。それだけで今は十分。

 

 

 

さあ、帰ろう、延珠。私たちの居場所は、こんなシマウマの群れじゃない。これからは、ずっと一緒にいよう?

 

 

 

 

 

 

 

『呪われた子供たち』。果たして、誰に、呪われた子供たちなんだろうな?――――比企谷八幡

 




まさかのルミルミヤンレズ化。

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