ステルス・ブレット   作:トーマフ・イーシャ

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新世界の神を目指す者
透明の銃弾


「ひどい様だ。ガストレアの胃酸でも浴びたか?正直まだ息があることが奇跡だな」

 

ぼやけた視界の中、かろうじで見える男が発する声が耳に入る。

 

「さて、比企谷八幡だったか。君はこのままではもうすぐ死ぬ。」

 

だろうな。俺はガストレアが吐き出した液体を体に浴びた。あれがガストレアが生成した胃酸であれば、体が残っているのがホント奇跡なんだろう。

 

「そこで選択肢を与えよう。人をやめて生きる。もしくは人として死ぬ。私はその意見を尊重しよう」

 

なにが尊重だ。こんな世界で生きても何もないだろう。俺の親もガストレアとなった。人だろうがガストレアだろうが生きる意味なんて……

 

「小町は……俺の妹は生きているのか……?」

 

「生きているとも。少なくとも今は。」

 

そうか。それなら死ねないな。俺がここで死ねば小町は天涯孤独となる。5歳の子供が一人で生きていける程この世界は甘くなくなった。それなら……

 

「なら俺も生きるよ。」

 

「了承した。私はアーサー・ザナック。ようこそ、『オベリスク』へ」

 

小町は俺が守る。たとえ俺が人でなくなっても、大切な家族なのだから……

 

 

 

10年後……

 

 

 

「ガストレア――モデルスパイダー・ステージⅠを確認。これより交戦に入るッ!」

 

天童民間警備会社所属・里見蓮太郎は謎の仮面の男との戦闘後、感染源ガストレア捜索中に別のガストレアと遭遇した。イニシエーターの藍原延珠が不在の中、蓮太郎がXDでクモ型ガストレアに狙いをつけ、引き金を引く。

全弾を撃ち尽くしスライドがストップする。

ガストレアは体を丸め、ピクリともしない。

 

油断なく近づくと、顔面の一部が吹き飛んでいたりとダメージはあるものの、致命傷にはどれも至っていない。

嫌な予感がして唾を飲み込む。

瞬間、目の前のガストレアが跳ね起き、蓮太郎めがけて突進しようとしたところで、

 

 

ガストレア左の一番前の足が関節の部分で切断された。

 

 

続けざまに左側の足が次々と切断される。ガストレアは最初なにが起こったかわからないかのように動きを止めていたが足がぼこぼこと再生を始めると同時に右側の足で体を引きずるようにして蓮太郎のところへ向かってきたが、

 

 

今度は右側の足が吹き飛んだ。

 

 

おそらく誰かが狙撃を行ったのだろう。足をなくしてもだえることしか出来なくなったガストレアが怒りを露わにして蓮太郎におぞましい鳴き声を発していている。そしてガストレアの体は吹き飛ばされた。ガストレアの体と塀やコンクリートなどの破片とともに藍原延珠の姿が見えた。延珠が蹴りによってガストレアの体を吹き飛ばしたのだ。

 

ガストレア討伐後、蓮太郎は同僚の顔を思い出して呟く。

 

「比企谷……」

 

 

 

八幡side

 

社長である天童木更の命令で俺は今現在マンション『グランド・タナカ』へ走って向かっている。里見らが向かったんだから俺いらなくね?余計な人材を使えば人件費が発生するんだから一人でやらせてればいいんじゃね?あ~働きたくない。

 

「でもなんだかんだで八幡、心配なんじゃないの?だから素直に社長のいうこと聞いて向かってるんじゃないの?」

 

「さらっと心を読むんじゃないよ、ルミルミ」

 

「ルミルミ言うな」

 

横で一緒になって走ってくる俺のイニシエーターのルミル……鶴見留美が自身の身長程もあるアタッシュケースを担ぎながら言ってくる。

 

「心配って……あいつは簡単にくたばるタマじゃねえだろ。」

 

「そう?私は心配。うっかり報酬貰わないで帰っちゃったり、報酬貰わないで依頼人をぶちのめしたり、余計なもの壊して弁償することになったりしそうで」

 

「命じゃなくて金の心配かよ……。素直に延珠が心配って言えばいいのに……捻デレ」

 

「捻デレって八幡には言われたく……なにか感じる」

 

そういって頭から生えたヒザ下ほどまである触覚をピクピク動かす。ゴキブリの因子を持つモデル・コックローチである留美の特徴として触覚から空気の振動を読み取って周囲の索敵を行うことができる。

 

「そこの路地を右……二人いる……一人は子供……延珠かな?もう一人は……今まさに形象崩壊している最中だと思う。だんだん大きくなっていってる感じがする」

 

「急ぐぞ。留美はこのまま建物を登って狙撃ポイントを探せ。俺はこのまま路地を進む」

 

「わかった」

 

そう言うと留美は力を開放。目が赤くなる。そのままジャンプして民家の屋根へ飛び上がる。

 

「さて……仕事の時間だ」

 

俺も自身に宿った力を発動する。機械化兵士としての能力であるマリオネット・インジェクションによって体がスーっと数秒で透明になった。ナノマテリアルを埋め込んだ皮膚と特殊仕様の学生服によって光を捻じ曲げたのだ。

そのまま路地裏を曲がると、クモ型のガストレアを発見する。それと奥になんか白いニチャニチャにまみれた延珠がいた。あざとい。普段からいろいろとあざといところ(主に里見に対して)があるが、あれはあざとすぎでしょ。

 

「ガストレア――モデルスパイダー・ステージⅠを確認。これより交戦に入るッ!」

 

おっと、里見が到着したか。そのまま里見がXDで射撃、何発かの弾が撃ち込まれ、ガストレアは動かなくなった。

 

「射撃ポイントに到着。いつでも射撃可能」

 

「そのまま待機。合図で撃て」

 

留美も射撃ポイントを見つけたか。でもこの様子じゃ必要なかったみたいだな。

と思うもつかの間、ガストレアは跳ね起き、里見に向かって突進しようとしている。対する里見は倒したと油断したのか動けないでいた。ちっ、やはり俺が動く羽目になったじゃねえか。

 

俺は体を透明化したまま左足付け根の下に潜りこみ、装備していたグローブからワイヤーを出し、ガストレアの一番前の足の関節に巻き付けて引っ張る。バラニウムにコーティングされた特殊ワイヤーは関節部位に食い込み、簡単に切断される。そのままガストレアの体の下を縦断しながら足を次々と切断していく。ガストレアは左半分の足をすべて切断され、動けなくなっている。

 

「右足を撃て」

 

続いて留美に右足を撃たせる。足をすべてなくしたガストレアは無様にうめき声をあげながら転がっていたが、延珠の蹴りによって全身を吹き飛ばされた。

 

「お疲れ様、八幡」

 

「留美もな。帰るぞ」

 

さて、後の処理は里見に任せてさっさと帰るか。あの警官には俺も留美も姿を見られていない。今出て行っても不審者扱いされてややこしくなるだけだ。何なら姿を見られていても不審者扱いされるまである。

 

「八幡、あの二人報酬貰わないで行っちゃったみたいだけど」

 

「はあ!?」

 

慌てて振り返ると、俺とは反対方向へ走っていく里見と延珠。

 

「モヤシが一袋6円なんだよ!」

 

あの野郎、報酬をもらうよりタイムセールを優先しやがったな。かといって俺が出ていくわけもいかないので、仕方なく社長である天童木更に連絡し、今回の依頼の報酬を受け取ってもらおう。でも仕事の電話かけるのってすごく嫌。そして電話がかかってくるのはその数倍嫌な気分になる。さらに電話の着信履歴をみてかけ直さなきゃって思うとさらに憂鬱な気分になる。

 

「あ、もしもし社長?実は――」

 

 

 

 

 

留美と二人で事務所に戻ってみると誰もいない。里見と延珠はタイムセールだとして木更は報酬を受け取りに行ったか?しばらく二人で待っていると三人が満面の笑みで帰ってきた。

 

「いやーモヤシいっぱい買っちゃったわ!これなら当分安心よね!」

 

「延珠、しばらくは腹いっぱい食わせてやるぞ。ホントは肉を食わせてやりたいんだけどな」

 

「妾は蓮太郎のモヤシ料理大好きだぞ。」

 

高校生の男女に幼女一人。はたから見れば家族にも見えなくも……ないな。ただ言えるのは爆発しろ。それだけである。

 

「あら、留美ちゃん。どうしたの?」

 

「社長、報酬受け取れた?」

 

スーっと青くなっていく社長。完全に忘れてたな。

 

「だって、比企谷君が『タイムセールでモヤシ6円』とか余計なこと言っちゃうから!そんなこと言われたらそっち優先させちゃうじゃない!」

 

「おい、俺が悪いといいたいのか。」

 

「うおっ!比企谷、いたのか。」

 

失礼な、最初からいたわ。マリオネット・インジェクションも使ってないわ。

 

「というか、お主らもあそこにいたのであろう?お主らが受け取ればよかったのでは?」

 

「あの警官に姿を見られないままお前らが立ち去った以上、俺も留美も完全に部外者だ。だから社長に連絡して会社側から報酬を受け取ってもらおうとしたんだが……」

 

「木更さんは報酬を受け取る前にタイムセールに行った……というところか」

 

「何よ!元はといえば里見くんがその場で受け取らなかったのが原因でしょ!ほら、早く警察に電話しなさい!」

 

しかし電話をかけた里見は『無理だと』とどんよりしながら返答する。

 

「……帰るぞ。留美……」

 

「……うん」

 

後ろで騒いでいるアホ二人を無視して事務所を出る。あぁ……早く帰って小町の作るメシが食いたい……でも無賃金労働させられて金がないっていうのが怖い……


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