「みーつけた」
春運ぶ風と共に、ふわふわ漂っている時にソイツを見つけた。数百年ぶりの再会……と言っても、私が一方的に見つけただけなんだけどさ。
相変わらず右腕には包帯が巻かれていることから、どうやらまだ片腕を取り戻すことはできていないのだろう。
生きているとは思っていたけれど、まさか幻想郷にいるとは思っていなかったな。今まで何処へ隠れていたんだろうね。多くの鬼は地下へと落ちたと言うのに、まだこんな場所にいるとは……まぁ、私だってこうやってフラフラしているわけだから他人のことを言えないけどさ。
ん~……それにしたって、私に挨拶の一つもないとはどういうことだ。昔はあれだけ一緒にいたと言うのに、これじゃあ寂しいじゃん。
色々な理由はあるだろうけれど、そんなの私には関係ない。うんうん。旧友として、ここはお酒の一つでもいただいても問題はないはずだ。別に話すことなんてないけれど、アイツと飲むお酒ってのも悪くはない。
そんなことを考えながら、件の人物の後をつけていたけれど、ふと目を離した瞬間に姿が消えていた。
「あれ~? どこいったんだろ」
彼奴が消えた辺りの場所へ降り立ち探っては見たものの、どうして消えてしまったのかわからない。たぶん、何かの術を使ったのだと思うけれど、そう言う類は苦手。人々から姿を隠し、何をしようとしているのかねぇ。これじゃあ、まるで仙人みたいじゃないか。なんでそんなことをしているのやら。
う~ん、これは困った。私は結界や方術には詳しくない。ただぶち壊せば良いって物でもないし……
場所は妖怪の山の中腹辺り。たぶん、この術の先にアイツの住む場所があるとは思うし、私もその場所へは行ってみたい。と、なると、この得体の知れない術を潜り抜ける必要がある。
霊夢……じゃちょっと厳しいだろうし。紫は協力してくれないだろうし……まぁ、アイツで良いか。
いつも頼りにしてるよ。
――――――――――
「うん? 妖怪の山に仙人が隠れてるの?」
「山の中腹当たりだったかな。うん、どうやらそうみたい」
珍しくもなく萃香が訪れたと思ったら、そんなことを教えてくれた。
仙人ねぇ……正直あまり興味はないかな。別に不老不死になろうとなんて思っていないし、方術だってそれなりには扱える。今更教わることもないだろう。
そもそも、俺じゃあ霊力が足りなすぎて満足に術なんて使えないし。
「隠れているなら、放っておいてあげなさいよ。可哀想でしょ」
「まぁ、ただの仙人なら私だってそうするけどさ。その隠れている仙人、ちょいと怪しいんだよねぇ」
怪しいってなんだろうか。怪しくない仙人に俺は会ったことないが。1000年以上前に会ったあの邪仙とか滅茶苦茶怪しかったぞ。
仙人なんて変人奇人ばかりなイメージしかない。
「たぶん、だけどね。その仙人、黒も会ったことのある奴なんじゃないかな。どうして今まで隠れていたのかはわからないけどさ」
「ん~……例え俺が会ったことのある奴だろうと、隠れているのなら放っておいた方が良いだろ。何か事情があるんでしょ」
会ったことのある奴ってのは気になるが、隠れているのならそのままにしておいてあげようぜ。
仙人になるのは大変だと聞く。確か100年だかに一度、長すぎる寿命を刈り取るため死神が襲いかかって来るとか言っていたし。
うん? それは死神が広めた嘘なんだったかな? 小町からそんな話を聞いた気がするけれど、酔っていたから記憶が曖昧だ。
「まぁ、聞きなって。そいつさ、酒虫を持っていると思うんだ」
酒虫……ですと……? ただの水を一晩で極上の酒へと変える、あの酒虫のことだよな?
なにそれ、ずるい。俺も欲しい。
しかし、だ。酒虫? それは――
「いやいや、待て。どうして仙人が酒虫を持っているんだよ? だって酒虫ってのはむぐぅ……」
そこまで、言ったところで萃香に口を塞がれた。
なんだと言うのだ。
「興味、あるでしょ?」
そう言って萃香は笑った。
どうにも、良いように利用されているようにしか思えない。そんなに気になるのなら萃香一人で行けば良いし、俺に教える必要もないはず。
何を考えているのやら。
それにしても酒虫、か。
むぅ、気になるな。そして何より酒虫が欲しい。いや、お酒作るの大変なんだよ。
「ん~……まぁ、気が向いたらその仙人とやらの場所へ行ってみるよ」
「そうかい、そうかい。そりゃあ良かったよ」
とても良い笑顔の萃香。きっと萃香の計画通りなんだろうな。お酒で人を釣るとはなかなかの計画。
正直、踊らされている感じしかしない。まぁ、今回は踊らされてみようじゃないか。
――――――――
「我ながら、単純だよなぁ……」
天狗は五月蝿いし、天魔は怖いから妖怪の山は苦手だ。それでも、萃香から仙人のことを聞かされた次の日には、こうして妖怪の山へと足を運んでしまった。お酒の力って怖いね。
さてさて、せっかく此処まで来たのだ。手ぶらで帰るわけにもいかない。
とは言うものの、その仙人の隠れている場所がさっぱりわからない。萃香曰く、何かの術が仕掛けてあるそうだけど、妖怪の山は広く中腹と言われてもどこなのかさっぱりわからん。
むぅ、ちょいと困ったな。あまりのんびりしていると天狗に見つかる。それはあまりよろしくない。まぁ、椛ちゃんにはもう見つかってそうだけどさ。
そんなことを考えながら、フラフラ歩いていると、ぴりっと肌に何かが触れた。
「おろ? なんだ?」
目を凝らして見ても、何かが触れたと思われる場所には何も見えない。
けれども、微かに力を感じる。
少しばかり集中して霊力を高める。
そして、本当に薄い何かの結界のような物が見えてきた。それ触れると、やはりぴりりと肌に感じる。
萃香の言っていた術ってのは、これなのかな? なるほどねぇ。萃香の奴、自分じゃ中へ入ることができないから俺を利用したのか。
「う~ん、遁甲式なのかねぇ?」
また面倒な方術を使っていることで。
さてさて、とりあえず正路を探さないと。小町でもいれば簡単に中へ入れるだろうけれど、俺の能力じゃそんなことできないしね。
ぐにゃぐにゃに入り組んだ式陣の中を進み、目的地を目指す。それにしても、やたらと厳重だな。これだけ複雑な陣なら、普通の人は訪れることができないだろう。まぁ、そのための式陣なんだろうけど。そんな場所に隠れているのは誰なんでしょうね?
進む道の景色は特に変わったことはなかったが、やたらと多くの動物を見かけた。なんで幻想郷に虎がいるんだよ。いやまぁ、襲われなかったから問題はないけど。
歩くこと数十分。漸く開けた場所へたどり着いた。むぅ、思った以上に道が複雑だったな。
「だ、誰? って、うわっ……うわぁ……」
初対面だと言うのになんとも失礼な言葉が聞こえた。其方の方を向くと、桃色の髪に二つのシニョンキャップをつけ、右腕を包帯でぐるぐる巻きにした少女がいた。
……ああ、なるほど。確かに会ったことのある人物だ。
「こんなところで何やってんの? 華扇」
「ひ、人違いじゃありませんか?」
んなわけないでしょうが。何を惚けているのやら。
それにしても、華扇と会うのも随分と久しぶりだ。どうしてこんな仙人の真似事をしているのかわからないけれど、まぁきっと事情があるんだろう。
「えと、それで……私に何か用事が?」
見るからにテンパっている様子の華扇。なにこれ面白い。このままからかっていたいけれど、華扇って怪力なんだよなぁ。あまり遊びすぎるのはちょいとまずい。
「いやね、知り合いからこの場所に隠れ住んでる仙人がいるって聞いたから、どんな仙人なのか会いに来たんだよ。なるほどねぇ、まさか華扇がいるとは思っていなかったよ」
そりゃあ、萃香も気になるわけだ。勇儀も含めて仲良かったもんな。
「えとえと、だから私は華扇などと言う者では……」
「んでさ、どうやら華扇って酒虫を持っているらしいじゃん。だから、ちょいとそれを見せてもらえないかな、とね」
そして、できることなら酒虫をください。
「あの……だから私は華扇ではなく……」
しまったな。どうせだったらお酒も持ってくれば良かった。久しぶりに華扇と一緒にお酒を飲むのも悪くはない。ん~、お酒を取りに一度帰るか? ついでに萃香も連れてこようかな。きっと萃香だって喜ぶだろう。
いや、それなら華扇を連れて俺の店へ行けば良いのか。うん、そっちの方が楽だよな。
「よしゃ、んじゃあさ。華扇「おい、話聞けよ」……なんなのさ」
なに? まだその設定続けるの? 俺はもうお酒を飲みたい気分なんですが。
「全く、相変わらず貴方は人の話を聞きませんね」
「おろ? 初めて出会ったって設定はもういいの?」
「うっ……い、いちいち揚げ足を取らない!」
説教臭いところも、すぐにボロを出してしまうところも相変わらず変わってないらしい。
積もる話なんてないけれど、どうにも今はお酒が飲みたい気分。
ま、酔いが回れば落ちる話もあるだろう。
「とりあえず、お酒飲もうぜ。それからでも遅くはないだろうしさ」
「はぁ、ホント貴方は変わりませんね……」
そう言う性分ですから。
桜さんのお話は一休み
けれども、此方も中途半端に終わってしまったので、続き書きます
華扇さん書きたいなぁなんて思って書いたお話です
次話は……桜さんのお話か、このお話の続きかのどちらかです
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております