東方酔迷録   作:puc119

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第閑話~酔っているのは一人だけ~

 

 

「お邪魔するわよ」

 

 ジメジメとした日々が続き、梅雨の晴れ間に見える太陽が恋しい昨今。皆様はお元気お過ごしでしょうか?

 

 そんなこの季節、キンキンに冷えたビールを喉へ流し込むのも、燗した日本酒をちびちびしっぽりとってのも良いかもしれない。

 季節に合わせて、お酒を飲むってのもなかなか乙なもの。けれどもお酒と言うものは、いつ飲んでも美味しいよね。

 

 今日もまた、少しだけ酔って顔を染めてみるのも悪くはない。な~んて、そんなことを俺は思うのです。

 

「……ねぇ、ちょっと」

 

 さて、話は変わるけれど、この世の中には『バーボン』と呼ばれるお酒がある。たぶん、名前だけなら多くの人が聞いたことのあるお酒だろう。

 そんな有名なお酒ではあるけれど、『バーボン』と呼ばれるこのお酒は、作ることが非常に難しい。

 ここ幻想郷では絶対に作ることのできない酒なんだ。

 

 どうして、そんなに作るのが難しいのかと言うと、『バーボン』の定義が非常にややこしいと言う理由がある。

 

「はぁ、またこの流れ……」

 

 『バーボン』の定義は連邦法で決まっていて、アルコール度数や、原料である玉蜀黍の割合何かが細かく決められている。

 

 まぁ、それだけならなんとか幻想郷で作ることもできる。けれども、この連邦法の一つに『アメリカ合衆国のケンタッキー州で作られたもの』と言う内容があるんだ。

 これが『バーボン』を幻想郷で作ることのできない一番大きな理由。

 

 『バーボン』っぽいお酒なら作ることはできる。けれども幻想郷で作ったそれは『バーボン』ではなく、『コーンウィスキー』になってしまう。ホント、面倒くさい定義を作ってくれたものだよ。

 

「……ほんっと、相変わらずね。貴方は」

 

 さて、そろそろ現実に戻らなければいけない頃だ。正直、このままお酒の話をし続けて一話を終わらせるのも良いかもしれないけrど、そうはいかない。

 絶対、目の前にいるお客がキレる。

 

 もうダメかもしれないが……

 

 

「や、いらっしゃい、幽香。お帰りはそっちの扉だよ。またの御来店お待ちしておr「おい、カメラ止めろ」

 

 嫌になっちゃうね。ホント……

 はい、テイク2入りま~す。

 

 

 

 

 

 

~テイク2~

 

「んで、今日はどうしたのさ? 日課の弱い者いじめは終わったの?」

「そんな日課はないわよ」

 

 現在進行系で続いているのは違うんですかね? いじめってのは、いじめられる側がそう思ったらいじめなのだ。

 断言しておこう、これはいじめだ。

 

「今、私の住んでいる家の前にあの鳥居があったから来ただけよ。米焼酎ロックで」

「はい、かしこまりました」

 

 この時期の幽香なら、きっとあのヒマワリ畑にでも住んでいるのだろう。

 なんてとこに鳥居ができているのやら……本当に勘弁して下さい。別に俺からは近づくことなんてないから、幽香が何処に住んでいようが構いはしないけれど、彼方から来られるのはどう仕様も無い。前回のやご……永琳さんもそうだったが。

 

 紫に頼んで、鳥居の場所を固定してもらおうかな?

 でもなぁ……そんなことしたら毎日訪れる奴らとか出てきそうだし、この場所の意味もなくなる。此処は弱者に優しい場所のはずなんだ。

 幽香が訪れてくれたおかげ、一瞬で修羅の場所になったけど。

 

 

 とりあえず、米焼酎のロックとつまみとして、野菜の浅漬けを適当に盛って出す。さっさと帰ってくれないかな~、駄目だろうな~

 

「あら、ありがとう」

 

 どういたしまして。

 

 なんで、こう。最近、俺との相性の悪い人ばかりが訪れるのか。その内、映姫とかも此処へ来そうだ。日頃の行いだって、それほど悪いとは思わないのに……

 

 うだうだと考えていても仕様が無い。幽香のことは諦め俺もお酒を飲むことにした。ビールにしようか迷ったけれど、せっかくなのだしウィスキーにした。一度で良いから、本物のバーボンを飲んでみたいな。今度、紫に頼んで買ってもらおうか。

 

「今日は貴方も飲むの?」

「飲まなきゃやってられないからな」

「……失礼な男」

 

 まぁね。

 だってなぁ、幽香と二人きりとかどんな罰ゲームだよ。特殊な性癖をお持ちの方なら喜ぶかもしれんが、俺はいたって通常。こんなことでは喜べない。平和が一番好きなんです。

 

「ヒマワリってもう咲いてるの?」

「まだ咲いてはいないけれど、もう少しすれば咲くと思うわよ」

 

 そう言って、嬉しそうに幽香が答えた。

 あら、そうなのか。それは見てみたいな。

 ヒマワリたちを見ながら一杯と言うのもなかなか良いかもしれない。うん、萃香でも誘って今度やってみようかな。

 

「おお、そりゃあ良かった。んで、ヒマワリが咲いている時に幽香のいない日っていつ?」

「…………」

 

 睨まれた。滅茶苦茶怖い。

 や、やだな~ちょっとした冗談じゃないですか。そんな睨まないでください。あと、できれば帰ってください。口には出さんけど、怒られるのヤダもん。

 

「あの花の異変の時の妖精……あの娘は何者なの?」

 

 ぽそりと幽香が言った。

 たぶん、白のことだろう。一度戦った相手。やっぱり気になるのかな?

 

「会うことのできるたった一人の俺の家族だよ。まぁ、暫くは会えなくなるそうだけどさ」

 

 暫くってどのくらいなのかね? 百年か、千年か、一万年か……まぁ、のんびり待つとしましょうか。

 

「家族、ねぇ……」

 

 まぁ、君たちのような妖怪には家族のいない奴らが多いし、その感覚はわからないかもしれない。それに、俺と白の関係も色々と複雑。正しく伝えることはできないだろう。

 俺だってよくわかってないし。けれども、そんなものなんじゃないかな?

 

 それにしても、誰か来ないかねぇ? 幽香と二人きりだと俺の精神が持たない。いきなり襲いかかって来るかもしれない奴と一緒とか、本当に勘弁してもらいたい。

 何時ぞやの時みたく、紫とか来ないかな? アレは良いタイミングだった。

 

 ふと、幽香グラスを見ると既に空っぽとなっていた。おろ、いつの間に。

 

「ご注文は?」

「貴方のオススメをお願い」

 

 オススメねぇ……

 ただの水とか出したら怒られるかな? まぁ、怒るわな。

 

 何を出そうか迷ったりもしたが、とりあえずライスワインを出すことにした。

 別に在庫処分をしたかったとか、早苗ちゃんのために作ったは良いけれど、他に飲む人がいないとかそう言うことではない。

 

 常温に置いてあったライスワインをグラスへ注ぐ。

 ライスワインも美味しいんだけどね。幻想郷の奴らにとってはアルコールが少なく、甘すぎるせいかどうにも人気が出ない。

 

「これは?」

「ライスワイン。まぁ、なかなかに美味しいから飲んでみなよ」

 

 俺がそう言うと、幽香はそっとグラスを傾け、静かにお酒を流し込んだ。フワリと広がる吟醸香。少しもったいなかったけど、精米歩合は45%。良いお酒だと自分でも思う。

 

「甘すぎるし、お酒にしては物足りない。けど……美味しいわね」

 

 そりゃあ、良かった。こう言われると作って良かったって思える。我ながら安い人間だ。

 

 

 

 どうやら、幽香はこのライスワインを気に入ったらしく、その後はずっと飲んでいた。

 会話なんてほとんどなく、静かんな時間がゆっくりと流れる。お客さんがいるのにも関わらず、珍しく静かな店内。

 

 たまにはこう言う雰囲気も悪くはない。

 

 それにしても――

 

「幽香だっていつもこうなら、美人で良い奴なのにな……」

 

 独り言が零れ落ちる。まぁ、おとなしい幽香と言うのも変な感じだけどさ。

 自分でも何を考えているのかわからなくなってきた。どうやら、アルコールが回り始めているっぽい。飲みすぎたかな?

 

 う~ん、そろそろウィスキー以外を飲もう。ついでに焼き魚辺りでおつまみも作ろうかな。

 

 そんなことを考えながら、ふと顔を上げると幽香がじっと此方を見ていた。わずかに赤く染まった頬。

 全く……飲みすぎです。人のことは言えんが。

 

「どうしたの? 違うの飲む?」

「……いえ、別に」

 

 どうにも歯切れが悪い。どうしたと言うのやら……

 

 

 アルコールが回っているせいか、なんとも雑な料理となってしまったけれど、なんとか焼き魚と自分のためにビールを用意した。

 やっぱりビールが一番。辛口の炭酸を喉へ流すのが好きなんです。

 

「此処って、お客はよく来るの?」

 

 ま~た答えにくいことを……来るわけないでしょうが。察してください。例え来たとしてもツケで済ますような奴らばかりだよ。

 

「おう、毎日大盛況だよ」

「閑古鳥に?」

 

 クスクスと笑う幽香。ほっとけ。

 仕方ないでしょうが、来ないんだから。

 いやね、俺だってお客さんにいっぱい来てもらいたいよ? でも来ないんだよ。出しているお酒だって美味しいと思うんだけどなぁ……

 

 はぁ、癒しが欲しいです。

 フランちゃんとか橙とか来てくれないかな? フランちゃんはちょっと怖いけれど、それでも幻想郷の中では頭二つほど抜けている。

 

「ロリコン……」

 

 お酒を飲みながら、静かに幽香が言った。

 違います。あとその言葉、何処で覚えたよ。まぁ、どうせ紫辺りだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 その後、二人ともアルコールが回っていたせいか、珍しく楽しげな会話が続いた。幽香相手にこんなこともあるんだな。

 

 どうせ明日になったら会話の内容なんて忘れている。

 でも、まぁ、お酒を飲んだ時の会話なんてそんなものなんだろう。それくらいがちょうど良い。お酒の場でした言葉なんて、本気で受け止めちゃ駄目なんだ。

 9割の戯言とたった1割の本音。そんな中から本音だけを探すってのは難しい。そういうものなんだと思う。

 

 

「それじゃ、そろそろ帰るわ。ありがとう、今日も美味しかったわよ貴方の作ったお酒」

「どういたしまして」

 

 いかん、頭がフラつく。本当に飲みすぎたらしい。明日は二日酔い確定だ。

 

「たまには、こういうのも悪くないものね。ふふっ、また来るわ」

 

 そう言って、幽香は俺に背中を向けた。

 お酒の場なんて戯言だらけ。けれども、ぽそりと本音が落ちることもある。たぶん、そいうことなんだろう。

 

「ん、いつでも来なよ。待っているからさ」

 

 ぽそりと何かが俺の口から溢れ落ちた。

 

「……飲みすぎよ?」

 

 わかってます。アルコールは回り、頭は回らない。なんだか自分でも何を言っているのかわからなくなってくる。

 けれども、まぁ悪い気分ではない。

 

「それじゃ、また」

「ああ、また」

 

 この日から、常連メンバーにまた一人が加わった。

 

 






小さく立てたフラグは回収しません


と、言うことで第閑話でした
なんとなくバーボンのことを書きたくなったので書いたお話です

さてさて、次話は誰を出しましょうか?
まぁ、のんびり考えるとします

では、次話でお会いしましょう

感想・質問何でもお待ちしております

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