東方酔迷録   作:puc119

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第生話~助けてください~

 

 

「……だいたいわかったけど、そのことを白は知っているのか?」

「いえ、知らないはずです。それに白様がそんなことを望むとは思えませんし……」

 

 だよなぁ……

 自己犠牲の塊みたいな白の性格を考えると、アイツがそんなことを望むとは思えない。

 

「って、ことは地獄の奴ら勝手にやったってこと?」

「はい、そうだと」

 

 全く、随分と面倒なことを……ソイツらは善意でやったのだろうけれど、本人がそれを望んでいないのなら意味がない。むしろ迷惑だ。

 

 

 簡単に映姫の話をまとめると、桜ちゃんは白が転生するための器として生き返らされたってことらしい。桜ちゃんの霊力が馬鹿みたいに多かったのは、そのせいだろう。白の器として生き返らせたことで、アイツと同じだけの霊力を得た。そう言う呪いでもかけたのかねぇ。全く気づかんかった。

 

 しっかし、どうしたものか。幻想郷へ連れてきてしまったせいか、時間経過なのかわからないけど、桜ちゃんの力は完全に開花してしまっている。もう白の器としての準備は整ってしまったのかもしれない。

 そうなると、桜ちゃんの自我は……むぅ、これは困ったな。白が転生してくれれば嬉しいけれど、それで桜ちゃんが犠牲となるのは違う。どうにかならないものか。

 

 そして、吹かしていた煙草を指で弾き、桜の花びらへと変えたその時だった。

 俺の家のから巫山戯ている量の霊力が感じられたのは。そこは桜ちゃんの寝ているはずの場所。

 

「……映姫。白を連れてくることってできるか?」

「は、はい。なんとか連れてきます」

 

 頼んだ。でも、できるだけ急いでくれると嬉しいです。

 状況は全くわからないけれど、頭の中では警報が鳴りっぱなしだ。良い予感なんて全くしない。どうにか穏便に事を済ませたいところではあるけれど……どうせ上手くいかないんだろうなぁ。

 

 俺の人生はそんなことばかりだ。

 

 

 映姫を見送り暫くすると、ブチ抜かれ屋根に空いた穴からふよふよと飛んでくる人影が見えた。

 

「や、今晩は桜ちゃん。お酒を飲まなくても空を飛べるようになったんだね。気分はどう?」

「…………」

 

 俺の質問に桜ちゃんは何も答えなかった。

 笑顔の似合う女の子だと言うのに、今の表情は無と言った感じ。こりゃあ、あまりよろしくない状況っぽいね。意識はあるみたいだけど、何を考えているのか全くわからない。

 

「もしもーし。えと……俺のことわかる?」

 

 そんな声をかけると、返事の代わりに大量の霊弾が飛んできた。容赦ないなおい。

 能力を使用し、霊弾を桜の花びらへ。

 

 残念ながら会話は通じないらしい。さて、こりゃあ困ったぞ。単純な霊力量じゃ絶対に敵わない。俺の中にある妖力を全て使うことができれば対等くらいにはなるけれど、その変換率は4%未満。それじゃあ桜ちゃんの味元にも及ばない。

 今いるこの世界で暴れてもらう分には良いんだ。でも、幻想郷へ行かれてしまうと大変なことになってしまう。

 

 はぁ……映姫が白を連れてきてくれることを信じて頑張るしかないか。

 それにアレだ。今の桜ちゃんってようは白みたいなものなんだよね。白とは何度も手合わせをしたけれど、勝てたことは一度もない。負けてばかりのこの人生。それでも多少の抵抗はさせてもらおうじゃないか。

 

 妖力を変換し、霊力へ。

 変換効率が悪ければ、持続時間だって酷いもの。それでも、俺の霊力は数十倍程度になる。

 

 未だふよふよと浮き続けている桜ちゃんと目が合った。

 

「桜ちゃんは知らないだろうから教えてあげるけど……」

 

 竜脈の流れと五行の力を利用し、桜ちゃんの周りへ結界を展開。全力で足止めさせてもらおう。

 

「結界学だけは白よりも成績が良かったんだ」

 

 どうにか拘束することは成功。中級妖怪程度なら指一本動かせなくなるほど結界。この場所は竜脈の流れも良く、結界なんかは張りやすい。

 

 とは言っても、相手があの白と同じ力となると――

 

 ミシミシと嫌な音が結界から聞こえる。むぅ、結構強力な結界なんだけど、やっぱり無理か。これがダメとなるともう打つ手がないんですが……ちょっとだけ期待していたんだけどなぁ。

 

 パリンと硝子が砕けた時みたいな甲高い音が響き、結界は完全に破られた。本当に勘弁して欲しい。そして直ぐに飛んでくる視界を埋め尽くすほどの霊弾。それらをまた花びらへ変え、もう一度結界を展開。

 このままじゃどう考えたってジリ貧だけど、これくらいしか俺にはできない。

 

 しかし、その結界も直ぐに破られた。もう足止めにすらなっていない。困ったね、おい。

 

 再び飛んでくる霊弾。それをまた花びらへ変えたところで、今までは飛んでいた桜ちゃんが地上へ降りて来た。かなりよろしくない状況。

 上から来る攻撃ならどうにかすることはできるけれど、それ以外となるとちょっとどう仕様も無い。マズイですなぁ。

 

「ねぇ、桜ちゃん。ちょっと休憩しない?」

「…………」

 

 そんな俺の言葉なぞ無視して突っ込んで来る桜ちゃん。マジ容赦ない。

 

 霊力で身体強化。近接戦闘はアイツの十八番。アイツには幾度となくボコボコにされたっけかな。

 顔面目掛けてきた右腕を半身になって躱し、その右腕を掴んでから、殴りかかってきた勢いも使って一本背負い。

 

 が、力押しで地面へ叩きつけられた。ホントかよ……

 そして倒れたところで、左腕を踏みつけられる。

 

 ――左腕の感覚は消えた。

 

 歯を食いしばりながらどうにか起き上がって距離を取る。チリチリと頭が痛む。どうやら霊力は残り僅かっぽね。

 う~ん……どうしたものか。せめて言葉でも通じればどうにかなる気がするんだけど、さっきから会話にならんしなぁ。

 

 霊弾を放つだけの余裕はないし、そもそも俺の霊弾程度じゃダメージにならん。そうなると……まぁ、全力で逃げ続けるしかないか。

 とりあえず飛ぼう。地上だけじゃ避けきれない。

 

 そう考え飛ぼうとしたとき――腹へ喰らった衝撃が全身へ広がった。

 

 スピードだけなら自信があったのだけど、どうやらそれも勝つことはできないらしい。

 ふっ飛ぶ身体。暗くなる視界。痛みはもう何も感じない。

 はぁ……死ぬのはいつ以来だろうか?

 

 少しだけ休憩させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 確か、中学生になったばかりの時だったと思う。

 部活を終えての帰り道。私は襲われた。人間でも動物でもない奴に。

 

 暗闇に紛れて、後ろからサクッと。簡単に。

 

 何が起きたのかわからなかった。でも、死んじゃうんだってことは直ぐに理解できた。確かに非日常の出来事に憧れてはいたけれど、そう言うことじゃないんだよなぁ……

 普通に学校生活を楽しみたかったし、普通に友達と遊びたかったし、普通に恋愛だってしてみたかった。でも、そんな願いが叶うことなく、私の人生はあっさりとその幕を閉じた。

 

 もう少しだけ……せめてもう数年は生きていたかった。そんな事を思いながら、ゆっくりと目を閉じようとした時、声が聞こえたんです。私を助けてくれるって言う声が。

 その声は、私が器ってのになる代わりに、もう数年は生き返らせてあげるって言ってくれた。その器ってのが何なのかはわからなかったけれど、生きることができるのだから私はその提案を受け入れることに。

 

 そんなことを今更になって思い出した。

 つまり、もう時間ってことなんだと思う。何かしらの奇跡が起こり続いた私の物語は終わりを迎えるってこと。

 

 せっかく幻想郷なんて呼ばれる素敵な世界へ来たって言うのに、私の物語は終わってしまう。どんどんと意識は遠くなるし、自分の今の状況なんてほとんどわからない。

 でも、きっと私は幸せなんだ。だって本当なら数年前に死んでいたはずだから。

 

 きっと……きっと私は幸せなんだ……

 

 だから最後は笑って……良い人生だったって笑わないといけないんだ。

 

 でも、私は……私の書き進めてきた物語は本当に楽しいものだったのかな? 色々な感情がぐるぐると私の中で回る。最後だから笑わなきゃいけないはずなのに、目からは何かが溢れる。

 私の中にいる私が叫ぶんだ。終わりたくないって。そんな我が儘を。

 

 けれども――私もやっぱりまだ終わりたくないって思ってしまった。そんなことを思った瞬間、私の中で何かが爆ぜた。

 

 

 鮮明だった視界は、ほとんど見えなくなった。それでも、目の前には何かが見える。さっきまで動いていたはずの何かが見えた。

 でも、それももう動かなくなった。確かに動いていたはずなのに、もう動かない。

 

 どうして? なんで動かないの?

 

 嫌だなぁ……何だか私が私じゃなくなるみたいだ。私は私なのにね。

 

 ズキリと何かが痛む。痛むってことは生きてはいると思うけど、もう何がなんだかわからない。

 私はどうすればいいんだろう。どうするのが正解だったのかな?

 

 

「あ~……あっ、おっし治った。へい、ちょいと待ちなって。俺はまだ死んじゃあいないぞ?」

 

 動かなくなったソレに背を向け歩きだそうとした時、ソレから何かが聞こえた。でも、何て言っているのかがわからない。

 

 ただ、悪い気分じゃなかった。

 

 だから私の口からは乾いた笑い声のようなモノがこぼれ落ちた。

 

 

 






ようやっと終わらせる気になれたので書き始めることに

と、言うことで第生話でした
次がこの閑章の最後でしょうか? そうなるとこの作品も完結となりそうです
随分と長く続いてしまいましたね

次話はこの続きです
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております

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