終へ向けて一気に
おめでたいことに、空を飛ぶことができるようになりました。
「認めない。そんなの私は認めないよ!」
「いや、そんなこと言っても事実だし……」
せっかくおとぎ話のような世界へ来ることができた。
ここから新しい私の物語が始まるんだって思った。それがすごく楽しみだった。
でもなぁ、こう言うことじゃなかったんだけどなぁ……
私はまだ若い。ぴちぴちだ。
そんなはずなのに、これからのことを考えると少々気が重い。
「まぁ、でも練習したらお酒無しでも飛べるようになるかもしれないよ?」
うん、そうなればいいね。
そうなる気はしないけど。
「せめてもう少しカッコイイ名前にはならないの?」
“酔っ払うことで空を飛ぶ程度の能力”じゃあちょっとカッコ悪い。せっかく能力なんて言う素敵なものなのに、名前が全てをぶち壊している。
「それは桜ちゃんが決めちゃって大丈夫だよ。皆勝手に決めてるし」
ああ、そう言えば自己申告って言っていたっけ。
う~ん、そっか。じゃあ、どうしようかな。
“空を飛ぶ程度”って言う部分は大丈夫。カッコイイ。けれどもその前がいけない。その部分を変えれば多少はカッコ良く……なるのかなぁ。
「ちょっと考えておくね」
「うん、別に焦るものじゃないからゆっくり考えな」
今すぐには思い付きそうにはなかった。カッコイイ名前を付けられればいいけど。
「これからはどうすればいいの?」
「とりあえずは練習を続ける感じかな。できれば霊弾や結界も張れるようになった方が良いし」
あ~……つまりそれってアレだよね。またお酒を飲まないといけないって言う……
そうだよね。だって私の能力のせいで酔わないといけないもんね。
「せめて泥酔しなくても空を飛べるようにはなろっか」
が、頑張ります。
それからはとにかく練習した。
まぁ、練習と言ってもお酒を飲んで空を飛ぶだけなんだけどさ。昼間から私はなにやってんだろ……。なんて憂鬱な気分にもなった。でもお酒を飲むとそんな憂鬱な気分も少しは晴れてくれた。
お酒を飲む。気分が沈む。お酒を飲む。気分が戻る。そんなことを繰り返した。
お酒っていい物だね。荒んだ私の心を晴らしてくれるのだし。
「いや、それってアル中の発想じゃ……」
失礼な、私はアル中なんかではありません。
ただお酒が好きな女の子です。
そんな私の頑張りのおかげか、ただ空を飛ぶだけじゃなく霊弾も出せるようになりました。まぁ、かなりの量のお酒を飲まないとなんだけどさ……
で、でも、空を飛ぶのはほろ酔いくらいで大丈夫です。まぁ、酔いが覚めると飛べなくなるんだけどさ……
なんだろうね。この遣る瀬無さは。まさか私の物語がここまでお酒臭い話になるとは思っていなかった。
どうなってんだ。責任者呼んできてください。
「でも桜ちゃんはかなりすごいと思うよ。現時点で、もう俺よりも密度の濃い弾幕を出せているんだから」
すごいのかなぁ……私にはその記憶がないんだけど。酔っていると頭が回らないせいか、結局結界は張ることができないし。
それによくよく考えると、酔わなきゃ霊力を使えないってかなり酷いよね。だってもし妖怪に襲われたとき、直ぐに霊力を使うことができないんだもん。私が酔うまで妖怪が待っててくれればいいけど。
多分、無理だよね……
「とりあえず今日はもう休みな。いくら大量の霊力があるからって、相当疲れているでしょ?」
はい、そうします。
確かに体も疲れているけれど、心がもう色々とボロボロです。
「うん、そうする。おやすみ」
「おやすみ。良い夜を」
これからどうなるのかなぁ……
なんとも不安です。
――――――――
「今晩は、良い夜ね」
「ああ、そうだね」
桜ちゃんが部屋の中へ行ったのを確認してから、外へ出て煙草を吹かしていると紫が現れた。
それは月明かりが残っているせいで、星空の映えない夜だった。
「桜のことでわかったことがあるわ」
火のついた煙草を口に加えたまま、息を吸い口の中へ煙を溜める。そして煙草を口から離し、もう一度ゆっくりと息を吸い込む。その吸い込んだ空気が肺まで届いたところで、吸った息を吐き出す。
吐き出された息は暗い夜にも関わらず、白く濁っていることがはっきりとわかった。
「まだ確証はないけれど、あの子――」
能力がわかってからの桜ちゃんの成長速度は凄まじいものだった。
毎日、はっきりとわかるスピードで成長している。そしてその成長が止まるとは思えない。
これも才能って奴なのかなって思っていた。けれども、アレは流石に才能だけではもう説明できない。それほどに成長が早すぎる。
「人間じゃなかった?」
人間の中にも才能がある奴はいる。例えば霊夢や白なんかがそうだった。
けれども、彼女たちだって桜ちゃん程の成長速度ではなかった。桜ちゃんの成長速度はあの白よりもずっと早い。早すぎる。
あれじゃあ、まるで最初から全てのことができ、ソレをただ忘れていたようにしか見えない。
「……知っていたの?」
「いんや、ただの勘だよ」
悔しいことだけど、俺の勘は良く当たる。
そしてその当たる勘ってのは全てが悪いものだ。
正直、今だって桜ちゃんは人間にしか見えない。でもそれじゃあ、どうしても納得できなかった。
「どうやらね。あの娘、一度死んでいるみたいなの。それが事故だったのか、事件だったのか、病気だったのかわからないけれど、確かにあの娘は一度死んでいるわ」
一度死んでいる、ねぇ。
俺は今までの人生で何回死んだんだろうか。なんてどうでも良いようなことが頭の中を過ぎった。
「じゃあ、今の桜ちゃんは何者?」
「其処まではわからなかったわ。ただ、一度死んでいるような者が普通の人間とは思えないわね」
普通の人間ってのはどう言う奴のことを言うんだろうね? まぁ、少なくとも俺が普通の人間じゃないことはわかっているんだけどさ。
いつも無邪気に笑うあの娘が普通の人間ではない。頭の何処かでは理解していたことだけど、どうにも実感が湧かなかった。
「これからどうするつもり?」
「別にどうもしないよ。例え桜ちゃんがどんな存在だろうと、このままの生活を続けるつもり」
それに多分だけど、桜ちゃんは自分は普通の人間だと思っている。それなら、此方からは何もしない方が吉と言ったものだろう。
後手後手に回ってしまうのはあまり良くはないけれど、現時点でできることは何もない。
ただ良い予感は全くしない。
誰が決めた運命なのか知らないけれど、随分と面倒臭い筋書きにしてくれたものだよ。俺はただ静かにお酒を飲んでいたいだけなんだけどなぁ。
「とりあえずは静観するしかないんじゃないか? 桜ちゃんがどんな存在かはわからないけど、危ない存在には見えないのだし」
「そうね。……ただもしもの時は」
大丈夫わかっているさ。
前回、俺は何もできなかったんだ。今回くらいは頑張ってみるよ。連れてきてしまったのは俺なんだ。それくらいの責任は取る。
それにまだ何かが起こると決まったわけじゃないんだ。悲観することなんて何もない。気楽に行こうぜ。
「……っと、何かしら。こんな時間に。あとはよろしくね、黒」
急に紫がそんな言葉を落とし、消えていった。
えと、どう言うことでしょうね?
「夜分遅く失礼ですが、お話があります」
聞き覚えのある声が聞こえた。
そんな馬鹿丁寧な挨拶をしてきたのは――地獄の最高裁判長だった。
――――――――
夢を見た。
真っ暗な世界だった。
身体は動かない。
力が入らない。
何処だろうね、ここ。
「おめでとう」
何が?
「覚えているか?」
何をさ?
そんないきなり言われても私にはわからないよ。
「約束をだ」
私は覚えていないかな~
「お前は器だ」
……器?
私は人間なんだけど。
「そうあの方の器だ」
どちらの方ですか?
できればもう少し詳しく説明してくれた方が嬉しんだけど……
「それが約束だ。死んだお前を生き続けさせるための約束。準備はできた。よくやった。おめでとう」
そんな声が聞こえたところで、私の意識は消えた。
全部、思い出しました。
気がつけとこの閑章だけでもう11話だそうです
のんびりし過ぎちゃいました
と、言うことで第想話でした
せっかく能力が出てきたところですが、そろそろこの閑章も終わらせます
地霊殿に桜さんを出そうかなぁ。なんて考えていましたが……
サクサクっと終わらせちゃいましょー
次話はこの続き
次話かその次くらいでこの閑章も終わっている予定です
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております