東方酔迷録   作:puc119

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第悲話~お酒のおかげ…~

 

 

「あたまいたい……」

「アレだけ飲んだんだ、そりゃあそうなるよ」

 

 喉はガラガラだし、お腹の調子は悪いし、頭が痛くて何をする気にもならない。どれだけ飲んだんだろ……

 

 昨晩のことはよく覚えていない。とにかく沢山のお酒を飲んだことは覚えているけれど、その時黒くんとどんな会話をしたのか全くわかんない。

 薬を飲んだからよくはなると思うけど、結構辛いです。もうあんなにお酒を飲むことはやめよう。

 

「でも、まぁ飛べるようになったんだし、良いんじゃない?」

 

 うん? 飛べるようになった?

 

「あー……もしかしてそれも覚えてない? ちょっと飛んだら直ぐ落ちちゃったけど」

 

 はい、全く覚えてません。

 

 えっ? ホントに私が空を飛んでたの? う~ん、でもどうやって飛んだんだろう。

 今だって飛べる気は全くしないんだけどなぁ。

 

「その時の私ってどんな感じだったの?」

「星を捕まえるとか、意味わからんこと言いながら空飛んでたよ」

 

 ……私なにやってんだろ。どう考えてもお酒の飲みすぎだ。

 いや、違いますよ? 普段の私はそこまで頭のおかしな行動はしないからね。

 

「そかそか、覚えてないなら仕方無いね。んで、今日の練習は……ちょっと無理っぽいね」

「うん、ちょっと無理かな」

 

 すみません、動きたくありません。

 できないことはないと思うけど……ほら、女の子として踏みとどまらないといけないことだってあるんだ。今だって結構ギリギリなんです。

 

「だよねぇ、俺も桜ちゃんのゲロは見たくないし」

 

 苦笑いを浮かべながら言葉を出した黒くん。コラ、せっかく私がぼかしたのに言葉にしたら意味ないでしょうが。

 前々から思っていたけど、黒くんちょっとデリカシーに欠けてるよ。黒くんがよく霊夢ちゃんとかの愚痴を言っているけど、たぶん黒くんもいけないと思う。

 

「まぁ、とりあえず今日はゆっくり休んでいなよ」

 

 はい、そうさせてもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 はい、第閑章初めての俺視点です。

 どうでも良い? どうでも良いね。

 

 さて、そんなことは良いとして……う~ん、どう言うことなんだろうね? 正直、桜ちゃんなら空くらいは直ぐに飛べると思っていた。霊力だけじゃなく、霊夢や白と同じくらいの才能だってあるはず。

 けれども、一日経っても飛べるようにはならなかった。昨晩は空を飛んでいたけれど、もう一度飛ぶことはできなそうだし、どう言うことなのやら……

 

 

「お邪魔するわね」

 

 ナイスタイミング。あの不気味な空間から紫さん登場。

 

「どうだった?」

「終わらせたわよ。全く……結局全部私がやることになったじゃない」

 

 仕方無いでしょうが、俺じゃあ手伝えることなんて何もないのだから。

 お疲れ様。助かるよ。

 

「紫はどう思う?」

「さぁ? 私だってわからないわよ。ただ、あの娘どうにも何かありそうなのよね。いくら探してみても両親の記録は見つからなかったし」

 

 両親の記録、ねぇ。そう言えば、桜ちゃんも俺や白と同じように施設で育ったんだったかな。まぁ、俺達と状況は全然違うんだけどさ。

 気になることではあるけれど、きっと桜ちゃんだって自分の出生のことはわからないだろう。

 桜ちゃんは人間だ。それは確かなこと。でも外の世界で育ったにしては霊力がありすぎる気がする。何かの能力があってもおかしくはなさそうだ。

 

「これからどうするつもり?」

 

 どうすっかなぁ。そりゃあ霊力を扱えるようになった方が良いけど、別に無理をする必要はないんだよなぁ。桜ちゃんが意気揚々と異変を解決に行くとも思えないし。

 

「とりあえず、もう少し霊力を使う練習をしてみるよ。空飛びたいって言ってたし」

「その後は?」

 

 その後? 霊力を扱えるようになった後ってことか?

 ん~……

 

「別に此処で俺と一緒に暮らしていれば良いんじゃないか? まぁ、桜ちゃんが独り立ちするってのなら止めはしないけど」

 

 俺にだってそれくらいの余裕はある。

 普通の人間の寿命なんて精々数十年だ。それくらいなら、俺はなんとも思わない。

 

「はぁ……まぁ、貴方だものね」

 

 ため息をつかれた。

 えっ? なんですか? 俺変なこと言った? 別にそんなことは言ってないと思うけど。

 

「他の人の意見も聞いておきなさいよ?」

 

 誰の意見を聞くんだよ。

 いや、桜ちゃんにはちゃんと聞くよ? でも他の奴らには聞く必要なんてないと思う。

 

「それじゃ、頑張りなさいな。あと私は巻き込まないで、一人でなんとかしなさい」

 

 だから、何のことさ? もう少し説明をだなって、もういないよ。

 

 なんだかなぁ……

 

 

 さて、桜ちゃんの方はどうすっかねぇ。またお酒でも飲ませれば空を飛べたりしないだろうか?

 やるだけやってみようかな。まぁ、飲んでくれるかはわからないんだけどさ。

 

 気は進まないけれど、一応永琳さんを呼んでおこうかな。あの人がいればまず安心だろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしく、気がつくと部屋の中が暗くなっていた。むぅ、ちょっと寝すぎちゃったか。

 頭痛もなくなり、お腹の調子も戻ってくれたみたい。薬のおかげなのかな。

 

 隣を見てみたけれど、今日もまた黒くんは寝ていなかった。またお酒を飲みながら煙草でも吸っているんじゃないかな。もしかしたら私が気づいていなかっただけで、毎晩そうしていたのかもしれないね。

 私はどうしようかな。流石にこれ以上寝ることもできなそうだし……

 うん、私も外へ行こう。のんびりとあの星空を眺めるのだって悪くはないはず。お酒を遠慮したいけどさ。

 

 

 家の外へ出ると、昨日と同じ位置に黒くんがいた。そしてあの煙草の匂い。

 あら? もう一人誰かいるけれど……誰だろう? 暗くて見えにくいけど……ず、ずいぶんと個性的な服装ですね。

 

「調子の方は?」

「良くなったよ」

 

 私がそう答えると、そっか、そりゃあ良かったよ――と黒くんは笑った。

 ご迷惑をおかけしました。次は気をつけます。

 

「一応聞くけど……今って飛べそう?」

「ちょっと待ってね。少しやってみる」

 

 たぶん無理だろうけど、目を閉じ集中してやるだけやってみる。

 目を閉じると、生暖かい風に乗った煙草の煙の匂いを余計に感じられた。

 

 うん。

 

「無理です」

「でしょうね」

 

 う~ん、これは全く飛べる気がしないぞ。

 せっかく私の上には綺麗な星空が広がっていると言うのに……

 

 

「ちょっとさ、試したいことがあるんだ」

 

 そう言って、黒くんが何かの液体の入ったコップを私に渡してくれた。ふわりと届いたアルコールの香り。いや、今日はちょっと遠慮したいのですが……

 

「それは?」

「お酒」

 

 ですよねぇ。

 確かに身体の調子は戻ってくれたけれど、どうにも気は進まない。それにお酒を飲んだところで空を飛べるようにはならないと思うよ。ああ、でも昨日は飛べたんだっけ? 記憶はないけど。

 

「えと、どうしてお酒なの?」

「そうとは思えないけれど、もしかしたら酔えば飛べるんじゃないかって思ってさ。ああ、今日はちゃんとお医者さんがいるから安心して」

 

 ああ、そっちの独特な服着た人はお医者さんだったんだ。なるほど、つまり逃げることはできないってことだね!

 ……なんだかまるで実験動物になった気分。

 

「う~ん、じゃあやるだけやってみるよ」

 

 でももしこれで私が飛べるようになったとしても、酔わなきゃ使えないってことだよね……それはちょっとなぁ。

 

 そんなことを思ったけれど、それでも止まっているわけにはいかなかったから、黒くんから渡してもらったコップの中身を一気に飲み込んだ。

 

 瞬間、昨日感じたアルコールの何倍のも強さが口へ喉へ広がった。

 冷たいはずの液体が、今は熱湯のように感じる。それが口から胃まで広がっていく。

 

「……あんまり美味しくない」

「ごめんね、昨日よりかなり強いお酒なんだ。どう? 気分は」

 

 まだなんともないかな。

 口の中や喉がすごく乾くけれど、別におかしいところはない。あっでも、水が欲しいです。

 

「……個人差はあるけれど、アルコールが回るのは30分くらいからね」

 

 そうあのお医者さんが呟いた。

 へー、そうなんだ。意外と時間がかかるんだね。じゃあもう少ししたら私も酔ってくるのかな?

 

 

 

 

 

「意識が飛んじゃっても困るから、そろそろ飛んでみよっか」

 

 暫くの間、おしゃべりをして水を飲んだりとゆっくりしてから黒くんが言った。

 流石に意識が飛ぶことはないと思うけど……ああ、でもなんだかフワフワしてきたかも。体も暖かくなってきたし。

 でもまだ大丈夫。

 

「うん、じゃあやってみる」

 

 飛ぶために上を見上げる。そこには飲み込まれそうな星空がやっぱり広がっていた。んと、確か昨日は星を捕まえようとしたんだっけ?

 きっと私の短い腕じゃあの星々には届かない。でも、少しでも近づけたら嬉しいな。

 

 うん、なんだか飛べそうな気がしてきた。

 

「おーい、桜ちゃん。聞こえてる?」

「だいじょうぶー」

 

 上を見上げる。

 沢山の星が見える。

 

 手を伸ばす。

 手は届かない。

 

 だから願った。飛びたいって。

 

 

「……永琳さんはどう思います?」

「そう言うことなんじゃない? 明らかに霊力だって増えているもの」

 

 下の方から声が聞こえた。

 あら? 下? もしかして私飛んでる?

 

 でも今は下よりも上の方が大切だったから、私は上を見上げて星を追いかけるためにもっと高く飛んだ。上へ上へ私は飛んだ。

 

 そしてまたいつの間にか意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「えと……気分は?」

 

 目が覚めると朝だった。

 昨日の記憶がほとんどない。でも、空を飛んだことは確かに覚えていた。記憶は曖昧だけど、空を飛んだあの感覚はまだ残っている。

 

 そして、少しずつ嫌な予感が大きくなる。あまりいい気分じゃない。

 

「昨日よりはマシだけど頭いたい。でも薬を飲んだから大丈夫だと思う」

「そかそか、それなら大丈夫だ。……それでだけどさ」

 

 忘れてしまいそうになるけれど、私はまだまだ若いのです。お酒だってそんなに飲んだことがないのです。

 そのことは忘れたくないなぁ。

 

「どうやらね、そう言うことっぽいんだ」

 

 どう言うことかは聞かなかった。

 いくら察しの悪い私でもわかったから。

 

 この世界には“能力”を持っている人がいるとは聞いていた。自己申告だから曖昧な能力が多いらしいけど。

 そしてどうやらそう言うことなんだろう。もう大丈夫、納得はしていないけれど、理解はしたから。

 

 私は昨日夜飛んだ。飛んでしまった。

 

 つまり私は――酔うことで空を飛ぶことができる。感覚でわかった。それが私の能力だって。

 

「……もし名前が付くとしたらどんな名前になるの?」

「あ~、そうだね……」

 

 

 ――『酔っ払うことで空を飛ぶ程度の能力』かな。

 

 

 それ齢17歳が持つ能力じゃないと思うんだ。

 

 この世界がお酒に寛容な世界で良かったってつくづく思った。

 

 






お酒は二十歳になってから
一気飲みには気をつけましょう

朝起きたら知らない天井だった時の悲しさはヤバイです

と、言うことで第悲話でした
桜さんの能力は昔から考えていた能力だったりします
ただ強いだけじゃ面白くありませんし

次話は……どうしましょう
いつも通り未定です
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております

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