どうやら私には“霊力”って呼ばれるのがあるみたい。でも困ったことに、その霊力があると何がどうなるのかなんて私にはわからなかった。
でもそれは仕方無いことだと思うんだ。だって今までの私の人生で、霊力を持っている人と関わることなんてなかったんだもん。う~ん、ホント霊力ってなんだろうね?
「んと、霊力ってのはさ……まぁ、アレだよ。空を飛んだり、霊弾を出したり結界を張ったりすることのできる力のことだよ」
……マジですか? えっ、じゃあ何? 私って実は空を飛ぶことができたの? 17年ほど生きているけどそんなこと全く知らなかった。
ああ、そう言えばどうにも記憶が曖昧だけど、この世界へ来たとき女の子が空飛んで、綺麗な球を出し合っていたかな。そっか、私にもあんなことが……いやいや、それは流石に無理でしょ。
「それでさ、霊力を持っている人ってのはそこまで珍しいわけじゃないんだけど、どうやら桜ちゃんの霊力ってすごく多いっぽいんだ」
えと、そんなことを言われても、今まで霊力なんてものは知らなかったわけでして……そりゃあ私だってかめはめ波を出してみたいし、空だって飛んでみたいけど……
そんなことが私にできるとは思えない。つい最近までは普通の女子高生でしたし。
「んと、よくわからないんだけど、その霊力を持っていて何か不都合なことってあるの?」
大事なのはそのことだ。霊力があることは別に良いんだ。でもその霊力ってのがあることで、問題があったらちょっと困る。今の私じゃ霊力なんて使えないだろうし。
「……霊力の多い人間は妖怪にとってご馳走らしいわね」
大問題じゃねーかよ。どうなってんだ。
ああ、ダメだ。私の人生お先真っ暗だ。霊力なんていらないから、どうか平和な日常を私にください……
せめて食べられるとしても、フランちゃんのように可愛い妖怪に食べられたい。はぁ、どうしてこんなことになったんだろうね。
「? 何を悩んでいるのかわからないけど、修行すれば良いじゃない。妖怪に負けないよう」
「おぅ……まさか霊夢の口から修行なんて言う言葉……痛いっ! もう、冗談だよ」
えと、修行……? それってアレだよね。漫画とかある、重さ40kgの重りを背負って色々やる。みたいなやつだよね。
えっ、あれを私がやるの? アレはちょっとできる気がしないし、そもそも――
「その修行をすれば、私も空を飛んだりできるようになるの?」
それならちょっとやってみたいかも。体力がある方ではないけれど、できる限りは頑張ってみるから。
そうだよね、せっかくこの世界へ来ることができたんだから、私にできることは全部やりたい。
「ああ、空を飛ぶくらいなら直ぐにできると思うよ」
ホント! えっ、え、じゃあ私、飛んでみたい。あの広い広い空へ向かって全力で飛んでみたい!
きっとそれは最高に気持ち良いんだろうなぁ。
「えと、二人は空を始めて飛んだ時はどうやったの?」
霊弾だとか結界だとかはあまり興味がないけれど、空を飛ぶことだけはやってみたいな。もし飛ぶことができたら、まるで星々が落ちてきそうなあの綺麗な空目掛けて飛んでみたい。
しかっし、空を飛ぶかぁ。なんだか本当に信じられないことだ。でも、どうやったら飛べるのかな?
「私は、こう……飛ぼうって思ったら飛べてた」
「俺は親友に高い場所から突き落とされたら飛べるようになった」
……全くもって参考にならなかった。
前者は意味がわからないし、後者は論外。てか、黒くんの親友さん怖いね。さらりと言ったけど、とんでもないことだと思う。そういうの、私はちょっと遠慮したいです。
「ま、とりあえず。空を飛ぶとか霊力の使い方は明日にしよっか。もう良い時間だしさ。俺はまだやらなきゃいけないことがあるから、桜ちゃんは先に寝てて」
そう言えばそうだったね。もう外は真っ暗だし、そろそろ寝ないといけない時間だ。黒くんも夜更かしすると朝起きられなくなるから、早めに寝なよ? まぁ、どうせ私が起こすんだろうけどさ。
「うん、わかった。先に寝ることにするよ。ああ、お酒ご馳走様でした。あのお酒は美味しかったよ。それじゃおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
明日から空を飛ぶ練習とかをするのかな? それなら今日はしっかりと寝ないといけない。
そう言えば霊夢ちゃんはどうするのかな? もうかなり遅い時間だと思うけど……まぁ、空だって飛べると言っていたし、きっと大丈夫なんだろう。
う~ん、本当に明日が楽しみだ。
それじゃあ、おやすみなさい。
――――――
「……一緒に暮らしてる奴がいるなんて聞いてなかった」
「えっ、い、いやだって別に霊夢に教える必要はないだろ? それに、霊夢と会ったら言おうとはしていたんだよ」
まぁ、そりゃあ私に言う必要はないけれど……けれどもなんだかチクリと心が痛む。それはあんまり良い気分じゃない。むかむか、もやもやと私の中に霧を創り出す。
なんだろう、この気持ちは。
桜とは今日初めて出会った。何処か抜けている奴だったけど、悪い奴ではないと思う。たぶん桜は良い奴だ。どうして幻想郷へ来たのかわからないけれど、協力してあげても良いかなって思えるくらいには良い奴だった。
――いっそ悪い奴だったら良かったのに。
……あれ? うん? 私は今、どうしてそんなことを?
よく、わからない。桜と黒が一緒に暮らしているって聞いて、頭の中が真っ白になって……むぅ、私らしくもない。ホント、どうしたのかしら?
「黒、日本酒おかわり」
とりあえずお酒を飲もう。黒のお店で飲むのも久しぶり。お酒を飲めばわかることだってあるかもしれない。
まぁ、ただ飲みたいだけなんだけどさ。
「えっ? まだ飲むの? てか、溜まっているツケを……あー、はいはい、お酒出します。出しますから、その針をしまいなさい。全く……乱暴なんだから」
始めから素直に出しなさいよ。
「桜の霊力ってどれくらいあるの?」
黒からもらったお酒に口をつけながら、聞いてみる。うん、やっぱりお酒は美味しい。黒も黒でいつものように麦酒を飲むっぽい。結局あんたも飲むんじゃないの。
「ん~……詳しくはわからないけれど、霊夢よりちょっと少ないくらいじゃないかな。もしかしたら、もっと増えるかもしれないし、もしかしたらそんなにないかもしれない」
思っていた以上に多いのね。外の世界にもそんな奴が残っていたんだ。何者かしら? 桜って。
「じゃあ、黒の100倍くらいってことね」
くすりと笑が溢れた。ふふっ、黒ってば霊力はホントに少ないもの。結界を張ったりするのは私よりも上手いのに。なんだかもったいない。
ああ、でもその分黒には妖力があったわね。それも巫山戯ている量の妖力が。
「いや、200倍以上はあるだろ」
……私が言っておいてアレだけど、黒にはプライドとかはないのかしら? いや、まぁ黒の霊力が少ないことは皆知っていることだけど。
「明日からは桜ちゃんの修行だな。どうせお客さんも来ないしちょうど良かったよ」
でも、最近はお客さんも増えているって聞いた気がする。永琳や幽香、あと閻魔もよく来るようになったとか言ってなかったかしら?
そっか黒の周りにも人が増えて……うん? なんだろうまた変な感情が。むぅ、なんだか今日はおかしいわね。
「修行って言っても何をするの?」
「博麗の巫女……まぁ、霊夢にした時と同じようなことをするつもりだよ。桜ちゃんなら直ぐできるようになると思う」
私の時と同じ、か。そう言えば、私も霊力の使い方は黒に習ったんだものね。あの時はまだ、博麗神社で一緒に暮らしていたっけ。
ん~……黒と一緒に暮らす奴か。
桜は悪い奴じゃない。そんなことはわかっている。けれども、なんだろう。なんだかさっきから落ち着かない。
ああ、もう。なんだって言うのかしら?
どうにももやもやしてしまうから、日本酒の入っていた器を一気に傾けた。アルコールの匂いが私の中へ広がって、あの喉の焼ける感覚がする。
少々乱暴にお酒の入っていた器を机に置く。
うん、決めた。
「私も桜の修行に付き合うことにするわ」
このもやもやの正体は良くわからない。だからそれがわかるまでは、私も修行に付き合う。
「えっ? いや、別に俺一人でも大丈夫だぞ。霊力の使い方を教えることは慣れてるし」
「五月蝿い。私は決めたの。それに別に私が一緒にいたって問題はないでしょ?」
それに桜だって、きっと私みたいに女の子がいた方が良いはず。うんうん、きっとそうだ。
「はぁ……ホント、霊夢は強引だな。うん、まぁ良いけどさ。じゃあ修行は博麗神社でやるよ。流石にあの場所を留守にするのは良くないし」
あら、それなら楽で良いわ。
ふふっ、修行か。そんなことを考えると、どうしてもあの頃を思い出す。うん、あの頃も楽しかった。
「お酒、おかわり」
「うわっ、結構良いお酒なのに一気に飲んだのか。もったいない……はぁ、ちょっと待ってて、直ぐ用意するからさ」
まぁ、今だって充分楽しいけれどさ。
な~んて小っ恥ずかしいことを思ったのは、やっぱり私が酔っていたからだろうか?
あっちも更新、こっちも更新です
見事に進みませんでしたね
なんとなく書いていたらこうなりました
と、言うことで第乱話でした
第閑章初めての桜さん以外の視点です
やっぱり霊夢さんには出てもらいたかったので、こんな感じとなりました
次話は修行回……で良いのかなぁ?
では、次話でお会いしましょう
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