東方酔迷録   作:puc119

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第遊話~私も3000歳とか言おうかな~

 

 

「お客さん来ないね」

「まぁ、いつものことだよ」

 

 黒くんと一緒に生活するようになって数日。お客さんが来ません。大問題です。

 そうだと言うのにどうして、黒くんはそんなに余裕そうなのさ。それに、お客さんが来ないのは胸張って言えることじゃないと思うよ?

 

 会ったばかりの男の子と、一つ屋根の下で暮らすのは初めての経験。最初は緊張しまくりで、同じ部屋で眠った時なんて全く寝られなかったけれど、もう流石に慣れてきました。

 早苗さんの言っていた、黒くんは枯れているって言う意味も、よーく理解できた。

 アレだね。黒くん、私のこと全く意識してないわ。外の世界じゃ花のJKも黒くんには関係ないみたい。一人だけ緊張していて、なんだかバカみたいに思える。

 それは男の子としてどうかと思うし、女の子としてはちょっと悲しいことであるけれど、危ないわけではないから助かります。

 

 そして、昼間も黒くんと二人でのんびりとした時間を此処で過ごす。黒くんの淹れてくれた珈琲、美味しいです。

 

 そんなのんびりとした生活も悪くはないけれど――

 

「お客さん……来ないね」

「いやそれ、さっきも聞いたよ? まぁ、来る時は来るけど、来ない時はホントにさっぱりなんだよなぁ」

 

 こんなんで、商売として成り立っているのかな? 私なんかを雇っちゃって大丈夫?

 

 難しい話はよくわからないけど、どうやらこのお店のある場所って、幻想の世界でも外の世界でもないらしいんだよね。一応、幻想郷の何処かにに入口はあるらしいけど……それって、お店としてどうなんだろう。

 

「ん~……どうせ、お客さんも来ないだろうし、何処か遊びへ行こっか」

 

 うーん、と大きく伸びをしてから黒くんが言った。

 

「いいけど何処へ行くの?」

「そうだね……博麗神社は霊夢が怖いし、永遠亭は行きたくないし、幽々子や早苗ちゃんとも会ってるしなぁ……んじゃあ、紅魔館へ行こっか」

 

 紅魔館? なんだか、ちょっと怖い響き。

 

「そこには誰がいるの?」

「吸血鬼が二人と魔女さん、メイドさんと門番、あとは沢山の妖精かな」

 

 ……うん?

 ちょっと待ってね。聞きなれない言葉が沢山出てきたから、少し考える時間がほしい。

 いや、単語の意味くらいは理解できるけど、なんだろう……いきなりの非日常的な言葉過ぎてちょっと理解が追いつかない。

 

「え、えと……そこって私が言っても危なくない?」

 

 私の中の青色した信号機は、既に点滅を始めている。いい予感が全くしない。

 だってねぇ、吸血鬼って……

 

「……たぶん」

「私の目を見て言いなさいよ」

 

 目を反らされた。信号の色は変わった。

 一瞬だったね。黄色にすらならなかったね。

 

「だ、大丈夫だよ。基本的にアイツらは、ただのお笑い集団だし。たまにぶっ飛ぶけど……」

 

 ああ、ダメだ。

 これは、ダメだ。

 恐ろしい見た目をした吸血鬼が、笑いながら人を貪り喰うイメージしか沸かないもん。こう、なんか返り血で顔を真っ赤に染めちゃったりしてさ。

 

「ま、とりあえず、行こっか」

 

 どうしてそうなる。少しは落ち着きなさい。

 嫌だよ、私はまだ死にたくないもの。

 

「大丈夫、アイツらも桜ちゃんには、危害は加えないよ。身の安全だけは保証する」

 

 ホントに大丈夫なのかなぁ……

 

 結局、行くことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、黒さんに……え、えと其方は初めて見る方ですけど、誰でしょうか?」

「や、こんにちは美鈴。こっちは桜ちゃんって言って、外の世界から来たんだけど、今は俺と一緒に暮らしているんだよ」

 

 目の前に見える、とても立派な紅い洋館。

 綺麗だとは思うけれど、ちょっと目には優しくないね。

 

 そして、その洋館の門にいた一人の美人さん。たぶん、この人が黒くんの言っていた門番って人なのかな。なんだか、優しそうな人。

 この人って一日中、門番をやっているのかな? それはなかなか大変そうだけど大丈夫?

 

「初めまして、桜です」

「はい、初めまして紅美鈴です。それで……今日はどうされましたか?」

 

 うわーっ、今からこのお屋敷の中へ入るんだよね。しかも、吸血鬼が二人もいるお屋敷へ。なんとも緊張します。

 吸血鬼の人も美鈴さんみたいに、優しそうな人ならいいんだけど……

 

「店の中に居ても暇だったからさ、ちょっと遊びに来たんだ」

「そうでしたか。それなら皆さん喜ぶと思いますよ。では、お入りください」

 

 黒くんって幻想郷じゃ有名な人なのかな? まだ若いのに立派なんだね。

 

 

 

 

 美鈴さんとの挨拶を終え、紅魔館の敷地の中へ。門を抜けた先には、色取り取りのお花やしっかりと手入れがされている樹木など、立派な庭園が広がっていた。

 すごいなぁ、この庭だけでも外の世界ならお金を取ることもできそうだ。

 

「お邪魔します」

「お、お邪魔します……」

 

 黒くんに続き、なんとも重たそうな扉を開け、ついに紅魔館の中へ。大丈夫かなぁ、いきなり襲われたりしないかな?

 黒くんは大丈夫と言っていたけれど、やっぱり不安は残るもの。だって、吸血鬼や魔女って……ねぇ?

 

「いらっしゃいませ、黒様。本日はどのような御用件で?」

 

 目の前にいきなりメイドさんが現れた。

 えっ、えっ? ど、どこから?

 

 あっ、でもこのメイドさん確か人里で見た人だ。なるほどつまり、コスプレじゃなくて本物のメイドさんだったってこと?

 

「暇だったから、桜ちゃんと遊びに来たんだ」

「そうでしたか、今は昼間ですのでお嬢様は寝ていますが……」

 

 そのお嬢様って人が吸血鬼なのかな? まぁ、吸血鬼って太陽光が苦手だもんね。昼間はやっぱり棺桶の中で寝ているんだろう。

 そかそか、吸血鬼さんはおやすみ中か……うん、情けないことだけどそれは良かった。

 まだ心の準備ができていないんです。

 

「ですが――」

 

 一度言葉を切り、メイドさんがもう一度言葉を出し始めたとき、可愛らしい声が聞こえてきた。また切れてしまったメイドさんの声。

 

 

「クロー! 久しぶりね!!」

 

 

 そんな可愛らしい声を出しながら、その娘は黒くんへ渾身の体当たり。

 黒くんの口からちょっとヤバい声が聞こえたけれど、大丈夫かなぁ……

 

 金髪がよく似合う可愛らしい少女。背中からはよくわからない羽が生えていた。何処かでこの女の子を見た気もするけど……どこだっけ? まぁ、きっとこの女の子も人間じゃないんだろうなぁ。

 

「あっ……や、やぁ久しぶりフランちゃん。えと、どうしてフランちゃんは昼間なのに起きているの?」

 

 やっとの思いで声を出す黒くん。大丈夫? 顔色、悪いよ?

 あと、私は何をしていれいいんだろう……少しだけ寂しいです。人見知りだから声をかけられても困っちゃうんだけどさ。

 

「え、えと、それは……」

 

 急に口篭ってしまったフランちゃん。そんな姿は見ていて和む。可愛らしいね。まだ10歳くらいなのかな?

 

「黒様が来た時起きていられるよう、最近昼間はずっと起きているんですよ」

「咲夜っ!」

「あら、失礼しました。つい」

 

 おおー、黒くんモテモテじゃん。羨ましいなこのやろー。アレかな? 大きくなったらお嫁さんになるーみたいな?

 そして、そのメイドさんは咲夜さんって言うんだね。パチリと決めたウインクが素敵。カッコイイです。

 私も人知れず鏡の前でウインクの練習をしたことがあるけど、何と言うか……うん、まぁ、残念だった。2、3日落ち込んだ。なるほどこれが格差社会か。

 

「おろ? そうだったのか。でも、昼間はちゃんと寝ないと身体に悪いよ? ちゃんと夜に来てあげるから、昼間は寝ていないと。レミリアだってフランちゃんが起きていた方が嬉しいだろうしさ」

「うー……うん、わかった。これからはそうする」

 

 あれ? フランちゃんも吸血鬼だったの? なんと、随分と可愛らしい吸血鬼さんだね。数年先にはきっと綺麗な女性になるだろうし、こんな素直で可愛い吸血鬼さんなら、世の男共は喜んで血を飲ませてくれそうだ。それに、私だってちょっとくらいなら……いやいや落ち着け。私、何言ってるんだろ……

 

「でも今日は起きてる」

 

 ふふっ、黒くんと会えたことがそんなに嬉しかったのかな? いや~こう言うのいいですね。本当に微笑ましい。私の中の吸血鬼のイメージは一気に変わりました。

 フランちゃん私のことを、桜お姉ちゃんとか言ってくれないかな?

 

「そかそか、了解。それで今日は何をするの?」

「んと、読んで欲しい本があるけど……そこにいる貴女はだあれ?」

 

 おお、漸く私に話題が来てくれた。やっぱり見ているだけじゃ寂しいんです。

 

「私は桜だよ。今は黒くんと一緒の家に住んでるの。よろしくねフランちゃん」

「私はフランドールよ。よろしくサクラ」

 

 できるだけ優しそうな笑顔を作りながらフランちゃんへ挨拶。ちょっとおどおどしちゃってるところとかグッドです。

 それにしても、幻想郷って可愛い女の子が多いんだね。人間じゃない人も多いけど……

 

 

 

 

 そのあとは、咲夜さんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、三人で本を読んだ。黒くんの淹れてくれた珈琲も好きだけど、私は紅茶の方が好きかも。美味しかったです!

 一度、フランちゃんに何歳なのか訪ねたら『500歳くらいだよ』なんて笑顔で答えてくれた。そっかぁ、500歳かぁ……もしかしたら、フランちゃん渾身のボケだったかもしれないけど、私はそれにツッコミを入れることができなかった。仕方ないね、不意打ちだったもん。

 こんな500歳がいてたまるか。

 いや、でもフランちゃん吸血鬼だし、もしかして本当に……さ、流石にそれはないよね?

 

 フランちゃんと本を読みながら、会話しながらのんびりしていると大きな柱時計が18時を教えてくれる音を出した。フランちゃんも眠そうに欠伸をしているし、そろそろ帰る時間。

 

「おろ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないとだね。ふふっフランちゃんも眠いでしょ?」

「……うん、もう寝ようかな」

 

 初めて会った私でもわかるくらいはしゃいでいたもんね。疲れちゃったのかな? フランちゃんにも会えたし、美味しい紅茶もいただいたし私は割りと満足です。

 

「んで、だけどさ。申し訳ないけど桜ちゃんは先に帰っててもらえない? ちょいと頼んだお酒のことで、聞かなきゃいけないことがあるんだ」

「うん、まぁ、先に帰るのはいいけど……どうやって帰ればいいのか私、わかんないよ?」

 

 そもそも、黒くんの家って幻想郷にないんじゃなかったっけ? どうすればいいんだろう?

 

「ああ、それなら大丈夫。紅魔館とは繋がってるから。俺の家へ行きたいと思いながら、紅魔館の門を潜れば、それで帰ることができるよ」

 

 そりゃあ、随分と便利なんだね。つまり、紅魔館には直ぐに来ることができるってこと。うんうん、それならまたフランちゃんに会いに来ることもできる。それは良いことだ。

 

「わかった。じゃあ先に帰ってるね。じゃあね、フランちゃんまた遊びに来るよ」

 

 そんな言葉を出し、フランちゃんへ向け軽く手を振ると、フランちゃんも手を振り返してくれた。満足満足。

 

 

 

 

 そして帰宅です。

 黒くんに言われたよう、あの家を思い浮かべながら門を潜ると、見覚えのある景色の中にいた。ほへー、ホント、どうなってるんだろうね? わからないことだらけだ。

 

 けれど、そんなことを私が考えてもわかるはずがないから、難しいことは頭の隅へ追いやり家の扉を開けた。

 

「ただいまー」

 

 カランカランとベルの音が響く。中に誰がいるわけでもないけれど、家に帰ったのならちゃんと挨拶をしないと。

 その時の私は、中に誰もいないって思ってた。だって、まさか人がいるなんて考えないでしょ?

 

 そんな考えとは裏腹に――

 

 

「えっ……あんた、誰?」

 

 

 家の中には紅白の服を着た巫女さんがいた。

 

 その服大丈夫? 腋、出てるよ?

 






此方ものんびりと書いています

と、言うことで第遊話でした
彼方作品ばかり書いていたので桜さんの性格が、若干あの変態に似てきている気がします
気のせいであって欲しいものです


次話は未定ですが、そろそろこの作品の方向性も決めたいところです
では、次話でお会いしましょう

お酒の話書きたいね~

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