東方酔迷録   作:puc119

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第倒話~忘れられた世界とお酒の香り~

 

 あちこちから漂うお酒の香り。それはかなり強くて、此処にいるだけで酔いそうになる。

 此処が、幻想の世界って奴なのかな? 確か、紫さんと黒くんは『幻想郷』そう言っていたと思う。

 

 空では綺麗な光の弾が飛び交い、地上では楽しげな話し声が響く。辺りを見回してみても女の子ばかり。男の人は黒くんだけ? それにしても、皆綺麗な顔をしてるんだね。

 ちょっと人間には付いていない部位が付いている女の子や、緑色や青、紫とか私の世界では見たこともない髪の色をしている。それでも皆、可愛いし美人ばかり……

 むぅ、私だって向こうの世界では数々の男のたちに言い寄られるような可愛い女の子なんだぞ。

 

 ……嘘です。告白されたことすらありません。告白したこともありません。ちょっとくらい見栄張ってみたかったんです。

 

「どう? ここの世界は?」

 

 腰に大きな二本の角を生やした少女を付けながら黒くんが聞いてきた。何やってるのさ君は……

 

「どうって言われても……よく、わかんないや」

 

 この世界にはまだ来たばかり。此処がどんな世界で、何が起きているのかさっぱりわかんない。なんで女の子が空飛んでるのさ。ずるい! 私も飛んでみたい!

 

「ま、そのうち慣れるよ。今は難しくなんて考えず、気楽にいけば良いんじゃない?」

 

 そう言って、笑顔で黒くんが言った。

 う~ん、本当に慣れるのかなぁ。そんな自分が想像できない。だって、意味わかんないことだらけなんだもん。

 

「とりあえず上を見上げてみなよ。きっとあの世界では見られなかった物が見えるはずだから」

 

 上?

 黒くんにそう言われ、上を向いてみた。

 

「女の子二人が空飛んでる」

 

 うん、確かに向こうの世界では見られなかった景色だ。あの人たちは何やってるの? 危なくないのかな、あの星の形や光の弾が当たったら痛そうだけど。

 

「ああ、ごめん。そっちは無視して良いよ。あれは、ただ遊んでるだけだから……そうじゃなくてさ。もっともっと上の方」

 

 もっと、もっと上?

 言われた言葉に従ってさらに視線を上へと向ける。

 

 そこには――

 

「すごい……」

 

 まるで、空から星が落ちて来そうな景色が広がっていた。

 

 昔、山の上から見た星空も綺麗だったけれど、それよりもずっとずっと綺麗で、少し手を伸ばせば届くんじゃないかって思えるくらいの星空が広がっていた。

 汚染された空に星は映えない。つまり、この世界の空はまだ汚れていないんだ。

 

 ずっとずっと昔に置いて来てしまった星空が、私の遥か頭上にまだ残っていた。

 

 いつか、この星空にも慣れてしまうのかな? それはすごく切ないこと。けれども、今受けたこの感動は忘れないようにしたいな。

 

 空から落ちて来る星は、きっといつかの忘れ物。

 なんてね。

 

「どう? ここの世界は?」

 

 暫く、その景色に圧倒されていると、また声をかけられた。先程と同じ質問。けれども、今度はちゃんと答えることができる。

 

「すごく綺麗……この景色だけでも来て良かったって思えちゃう。でも、ちょっとお酒臭いね。幻想郷って」

 

 私の返事に黒くんは何も言わず、ただ笑った。

 これから、私はこの不思議な世界で暮らしていかないといけない。どんなことが起きるのかわからないけれど、きっと大丈夫。なんとなくだけど、それだけはわかった。

 

「それにしても、また黒は新しい女の子を連れてきたんだね。これで何人目?」

「いや、そんな人聞きの悪いことはしてないでしょうが。桜ちゃんに誤解されるからやめなさい」

 

 黒くんの腰についたままの女の子が言った。

 えーっ、黒くんってそう言う人なの?

 

「私、騙された……の?」

「騙してない、騙してないから……んもう、どうして直ぐにそう言う事を言うかな萃香は」

「だってねぇ、黒ってば色々やらかしてるじゃん」

 

 ギャーギャーと騒ぎ始めた二人。仲は良さそう。ってか、黒くんって誰と付き合ってるの? まさかハーレム作ってるなんてことはないだろうし……

 

 私を放っておいて二人が騒ぎ始めちゃったせいで、私は手持ち無沙汰に。何をしていれば良いんだろう? それに、私ってどこで暮らせば良いのかな? 家とか、食べ物とか……あれ? これ、結構ヤバくない?

 勢いだけでこの世界に来ちゃったけど、お金なんて持ってないし、私どうやって生活していけば良いの?

 

 

「初めまして。桜さん……でよろしいでしょうか? 私は東風谷早苗。今は山の上の神社で風祝をしている者です」

「えっ、あっはい。初めまして。桜です。外の世界から来ました」

 

 これから先の未来に絶望しているところで、早苗さんと言う人が話しかけてきた。歳は私と同じくらいで緑髪の綺麗な人。でも、その服は何? 巫女服……に見えないこともないけど、大丈夫? 脇出てるよ?

 えとえと、それで風祝ってなんだっけ? 巫女さんみたいな役職だっけ? なんか違う気もするけど……

 

「ふふっ、別に緊張しなくても大丈夫ですよ。貴方と同じよう私も最近になって、この幻想郷に来ました。最初は戸惑いばかりでしたけど、今ではそれなりに慣れてきたつもりです。ですので、困ったことがあれば是非相談してください。それに――私も外の世界の話をしたかったですし」

 

 そう言って早苗さんは、はにかむように笑った。

 

 ちくしょう、完敗だ。美人で性格も良いとか反則だよ。

 

「……此方こそ、よろしくお願いします」

 

 早苗さん、今は貴女が天使に見えます。不束者ですが、どうかよろしくお願いします。

 

「はい、よろしくお願いします。それで……桜さんはこれから何処へ住むのですか? 人里にも空家はあると思いますが、一人じゃ大変ですよね。幻想郷って電気も通ってませんし……」

「そうなんだよね……私、どうすれば良いんだろ」

 

 てか、さらりと言われたけど、電気ないんだね。なんとなくわかってたけどさ……そりゃあ空だって綺麗なはずだ。

 きっと、この世界には空を汚そうとする人がいないんだろう。発展することを悪いとは思わない。けれども、それで失われてしまう物があるってのはやっぱり辛いよね。私みたいに、ずうっと便利な生活を続けてきた人間が言っても説得力なんてないけどさ。

 

「むぅ、困りましたね……私たちの家も空いていますが、私だけでは決められませんし……」

「桜ちゃんなら、俺の家に住めば良いんじゃない?」

 

 黒くんの声がした。

 声のした方を振り向くと、やはり腰に萃香ちゃんをつけたままの黒くんがいた。

 

 うん? 黒くんの、家? えっ……年頃の乙女として、年頃の男の子と一つ屋根の下と言うのは、かなり抵抗があるんですが……

 

「ああ、黒さんの家なら安心ですね」

 

 いやいや、ちょいと待ってください早苗さん。確かにこの幻想郷の中では、黒くんはかなり親しい部類に入るけど、黒くん男の子だよ。そして私は女の子。それはまずくないですか?

 

「ふふっ、黒さんなら大丈夫ですよ。枯れてますし」

「そうだね、黒枯れてるもんね」

「…………」

 

 笑いながら言う早苗さんと萃香ちゃん。無言でため息を落とす黒くん。え、えと、よくわかんないけど信頼しても良いのかな? ただ、それでもやっぱり怖いところがある。

 むぅ、私の気にしすぎ?

 

「大丈夫だよ桜。もし、黒があんたに変なことしても「しません」ちょっと黒は黙ってて。もし、黒が変なことをしても、怖~い巫女が黒をぶっ飛ばしてくれるしさ」

 

 うん? 怖~い巫女? 早苗さんのことなのかな?

 

「わ、私じゃありませんよ?」

 

 早苗さんじゃないらしい。

 じゃあ誰?

 

「そう言えば、桜さんのこと霊夢さんには言ってあるんですか?」

「……言ってない。えっ、いやでも、別にそんな報告することじゃないだろ」

「また怒られるよ……」

 

 誰だろう、霊夢さんって。そんなに怖い人なのかな? どんな人なのか少し気になります。巫女さんって言われてるくらいなんだし、やっぱり女の人なんだよね。

 そして、それなら安心……なのかなぁ。もうよくわかんないや。

 

「えと、じゃあよろしくお願いします」

「うん、よろしくね桜ちゃん」

 

 これで、漸く私が生活をしていく場所が決まった。黒くんの家がどんな家なのかはわからないし、そもそもこの幻想郷のことがよくわからない。

  

 不安だらけだけど、人生なんてそれくらいの方が面白い。

 

 な~んて、今はカッコつけたい気分です。

 

「色々と決まったみたいだし、とりあえず乾杯しようよ。ほら、桜も飲みな」

 

 あ~、私もついにお酒を飲む時が来たってことなのかな。人生初の飲酒。緊張します。でも、私みたいな未成年がお酒を飲んでも良いの?

 

 ――ま、いっか。

 

 周りを見ても、皆お酒を飲んでいるみたいだしね。郷に入っては郷に従え。そんな大事な処世術。

 

 盃をもらって、其処へ萃香ちゃんの持っていた瓢箪からお酒を注いでもらう。

 ふわりと広がるアルコールの香り。むっ、これはなかなか鼻へきますね。吐き出さないようちゃんと飲まねば。

 

 

「それじゃ、新しい仲間と美味しいお酒に――」

 

 

「「「乾杯!」」」」

 

 

 声を出し、盃を軽く上げてからそれを口元へ。アルコールの香りがすごい。

 ……よしっ私、いきます。

 

「おろ? もしかして、桜ちゃんのお酒って萃香のおs……」

 

 黒くんの声がした気もするけれど、とりあえずは無視して、一気にお酒を喉へ流し込んだ。

 すると、口や喉がピリピリと焼けるような痛みがして、アルコールのつ…よい……香りが……あ……れ?

 

 

 そこで、私の意識は途切れた。

 

 お酒、怖い。

 






一気飲みは本当に気をつけましょうね

と、言うことで第倒話でした
さてさて、どこまで霊夢さんを登場させずに引っ張ることができるでしょうか?

次話は桜さんの新しい物語の始まりみたいです

では、次話でお会いしましょう

感想・質問何でもお待ちしております

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