RED GUNDAM   作:カメル~ン

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第08話 マチルダ出撃す(2)

 

 シャアは指揮官自室で独り―――頭を抱えていた。

 中立地域のサイド6からの出航の今日、朝食あとの尋問時にアムロが答えた『V作戦』へ関する答えに。

 

 

 シャアの艦隊は、月面第二の都市グラナダを目指す。

 鹵獲した連邦の新型MS(モビルスーツ)『ガンダム』を精密調査する目的で持込むためである。

 同時にキシリア・ザビ少将の命により、ガンダムのパイロットとして捕虜となっていたアムロのニュータイプ適正についても調べる為、航路の途中に当たるサイド6へ寄っての道程となっていた。

 入港当日、そして昨日まで、乗員は非番の者について、交代でコロニーへ上陸しての休暇が許されていた。

 シャアは昨晩、艦内通路で会ったアムロへ、「明日、例の作戦について話を聞かせて欲しい」と伝えた。少尉は見える口許を硬くすると「分かりました」と答えてその場は分かれる。

 そうして今朝、朝食の後に人払いされた艦内の一室へとアムロを呼び出した。

 

「落ち着いて話をしよう、そのマスクも外したまえ」

「はい……」

 

 入室して来たアムロのマスクを外させて、彼をリラックスさせてやることも忘れない。

 

「さてアムロ少尉、そろそろ『V作戦』について話してくれてもいいんじゃないか?」

 

 シャアは、場が硬くならないようにとマスク下に見える、口許を緩めて優しい感じにそう切り出した。

 しかし、アムロの表情は硬い、そして。

 

「すいませんが……言えません。……僕の家族も軍属なんです。僕が喋ったと分かれば投獄され―――銃殺されるかもしれない。悪いのは戦争だと僕も思います。だから、戦争を終わらせる事には『アムロ・ノーン』として全力で協力します。ですが、『V作戦』については話せません」

「君は、民間人に被害を出さない事には、私に協力すると言ったはずだが」

「すみません。それは僕個人だけの事ならということでお願いします」

「……(困ったな)」

 

 シャアとしては上層部へ報告する『情報(モノ)』がなければ、各所へ無理を通した分、体面を保つのが難しくなる。

 だが、シャア個人の目的としては、『その情報』よりアムロの方が必要な人材だと考えていた。

 

「アムロ少尉」

 

 膝上に、右手の親指を上にした状態で握りつつ噛むのを我慢し、目線を僅かに左側へ落としていたアムロは、少し厳しい感じに呼ばれたシャアへ視線を戻す。

 

「これだけは言っておく。この後もあの子を守ったりその意思を通したいのなら、自分の存在意義となる『戦果』で通してもらうしかないな。君の持つ情報以上のものを君自身が持っていることを実力で証明したまえ。次の戦闘には君も最前線に出てもらう。出来なければ―――あの子がどうなるか君にも分かるな?」

「……はい、分かりました」

 

 シャアは、アムロ自身だけを急に追い込んでも余り良い結果にならない気がし、それよりも彼の周辺を厳しい状況にした方が、少尉は行動するのではと考えていた。ハマーンの件での彼の行動がそう思わせるのだ。

 アムロへの尋問はそこで終わった。少佐に「今日はもういい、下がりたまえ」と退室を告げられ、マスクに軍帽を被ると、少尉は何となく不慣れに見える敬礼をして退室していく。

 一人残ったシャアは、椅子を倒し溜息を付きつつ天井を仰いでいた。

 

 サイド6から出航する少し前、ムサイ艦二隻の乗組員ら約四百名程(最低限の常駐者除く)が港の広いドッグ下に手短かに集められ、その場にて艦隊でも上位の士官となるアムロと彼の関連で所属するハマーンが、ちょっとした折り畳み式のお立ち台にて並んで紹介される。その際、もちろんアムロは、あの目元を隠すマスクをして軍帽と緑カーキ色の士官服姿で臨んでいた。その近くに立つ、シャアの表情は例の件で冴えない。

 その際の挨拶で、アムロは無難に「ハマーン共々よろしく」と発言する。だがポニーを揺らすハマーンは、「あの皆さん、お酒臭いのはなんとかしてください! 飲み過ぎは体に悪いですし」と休暇で許されていた飲酒で艦内が酒臭い事に一言申していた。「大丈夫、あれは体の薬だぞぉ」という、娘へ言い訳を言う親父のようなヤジと共に逆に皆の笑いを誘っていた。そんな雰囲気にハマーンは、プンプンと少しご機嫌斜めだ。

 一方この場でアムロが、艦隊指揮官シャア少佐直属の少尉と口頭で周知され、特務機関所属という事も裏で伝わっており、目元を隠すマスクには『理由がある』のだという皆への印象付けもされることとなった。

 このマスク装着は見えない効果を上げていく。シャアとしては、今の段階で連邦の人間だと知られなければ良しという事であったが。

 アムロはサイド7ではそれなりに有名な民間人の少年であり、このように普段から顔を隠していれば、偶然見かけられての発覚はかなり防げる形と言えた。

 そうして間もなく艦隊の出航時間を迎える。

 休暇の間、サイド6や艦内で羽を伸ばし、まだ少し酒臭い漢達が真剣な顔に戻り、艦内の持ち場へ散っての出港準備に移る。

 出航の際も、港から数隻の検察艇に宇宙灯台のある境界線付近まで曳航され、封印を検察官らより再チェックされてからの開封となったが手間が掛かりつつも無事に出航出来た。

 

 ―――将官用ムサイ内、シャアの自室。

 そこは、10平方メートル程の広さがある指揮官室だ。

 無事の出航を確認すると、シャアは副官のドレン少尉へ艦橋の指揮を任せ、その自室へと戻っていた。

 彼も余り悩んでいる時間は無い。アムロへ関する報告は、ドズル中将らから催促や疑われる前に済ませておきたかった。

 シャアは、少尉の持つ凄まじい素質を含めた貴重な存在と、これから『少尉をフォローする』リスクを頭の中で天秤に掛ける。

 

(ええい……毒を食らわば皿まで)

 

 少佐は、ドズル中将からの計らいもあって、一部の高級佐官のみが閲覧可能な極秘情報ファイルをある程度閲覧することが出来た。

 

 そう、静かに速やかに―――情報のねつ造を始める。

 

 少佐自身は気が付いていないが、年下の娘を守ろうとしている少尉の行動や思いを見て、そこには『損得』だけではない自分にも重なる『何か』の心情が生まれ始めていた。

 シャアは苦肉の策として、アムロの知る『V作戦』についてジオンの諜報部が掴んでいる最新情報をある程度確認し、それに照らして少佐『独自』に10ページほどのレポートを作成しドズル中将宛てで暗号報告を行なった。要約は以下のようなものだ。

 『少尉のその教育施設までの移動に際しては、目隠し、ヘッドホンなどでパイロット自身にも厳密な形で極秘にされ、教練も個人単位で隔離して行われていたとの事。実戦的なシミュレーターも使われ、選抜された若い優秀な兵士に高度な技術習得への育成教育を施しているのが伺える。それは、当艦にあるシミュレーターでの得点や実戦経験の豊富な兵らとの対戦形式の結果でも証明されている。また彼が僅かに見た風景から場所は―――南米と推測』であると。

 加えて、現在優秀な彼を寝返らせフラナガン機関へ仮所属とし、特務扱いにして自艦隊へ出向させる形を取っており、今後も知り得た情報は報告するとも伝えた。

 

 そんなシャアの大人的な苦労を知らないアムロであったが、実は彼も自業自得ではあるけれど少年的には苦しんだ。

 通路で少佐から急に明日と言われ、アムロは固まった。

 

(……しまった。ああ、どうしよう……)

 

 『例の(V)作戦』に付いて聞きたい―――。

 

 そんな意味合いの言葉が、頭の中をグルグル回り、彼の思考を圧迫し始める。

 重要な事をアムロは失念していたのだ。協力すると少佐にも言ってしまっている。

 だが、知る訳もない連邦の極秘情報など取り繕えるわけがない。

 その場は無理やりな苦笑いで流せたが、部屋に戻りマスクを机の端へ投げ付けベッドに潜ると、右親指の爪を思いっきり噛み砕く勢いで噛みしめていた。

 そこへ鼻歌交じりの、自室で寝床の準備を終えたピンクなパジャマ姿の可愛いハマーンが、ポニーテールを揺らし寝るまでの間、アムロの横で恋愛物な本の続きを読もうと飛び跳ねるような元気さで部屋へ入って来る。つい先ほどもアムロの部屋のシャワーで体をキレイキレイにしていた。出入口脇にあるコンソールへ打ち込むパスワード入力も、回数といいすでに自室以上の滑らかさだ。

 そして唯一な彼女の心の拠り所、アムロの傍に♪

 だが、そのアムロの状態が―――オカシイ。

 

「……どうしたの、アムロ?」

 

 アムロは、毛布から引き吊った顔を亀のように出すと呟いた。

 

「どうしよう……」

 

 ハマーンはアムロから、彼が少佐に対して知らない情報を知っている風を装っている事を聞く。ハマーンはズバリ聞いて来る。

 

「アムロ、それは……生き抜くためのウソなのね?」

「……ああ」

 

 それを聞いたハマーンは―――少し安心する。自分自身も言えない事の一つや二つはある。だが、付いていい『ウソ』と悪い『ウソ』。また、無駄で下らない嘘と生き抜く為の仕方のない嘘があることも知っている。

 そこで、年少ながらハマーンはアドバイスする。

 

「あの少佐はアムロを特別扱いしてるのが見て取れるわ。アムロの『要望』で私があの施設から出られたんですもの。重要なのは貴方が『ここ』にいて頑張ればいいはずよ。そこで―――」

 

 そうして、アムロのシャアへの言い訳が考えられた。

 

 シャアからの尋問を終えて、アムロは部屋へと帰って来る。

 ああは言ったがハマーンも成り行きが心配で少し心細く、アムロのベッドの上で彼の毛布に包まり座って待っていた。

 そんな可愛い乙女な姿でハマーンは、少し疲れた表情の彼を笑顔で出迎えてくれる。

 

「上手く行ったようね?」

「ありがとう、ハマーン。なんとか少佐に言い訳出来たよ。代わりに、僕自身の存在価値を『戦果』で証明しろって言われちゃったけど」

 

 後の無い土俵際の通告にも思えるが、今はそれでいい。

 とりあえず予想通り少佐が、アムロの方を優先したことに彼女は安心する。

 そしてハマーンは、優しく微笑んでこうも言った。

 

「付いた嘘を、良い『意味のあったモノ』にする努力を忘れないでね」

「……そうだね。わかった、頑張るよ」

 

 ハマーンの優しい雰囲気で、アムロの固まっていた表情にも笑顔が戻った。

 

 サイド6を出航して四時間ほど経った頃のこと。

 ソロモン宇宙要塞に居るドズル中将より『V作戦』関連の暗号報告に対してシャアの元へ直通レーザー通信が入る。シャアの前のモニターに映るドズルの表情は、機嫌がいいのか穏やかだ。

 

「さすがはシャアだな、報告は見させてもらった。これも総司令部へ回しておく。その報告にあった者はお前に任そう。細かい事はまあいい、上手く使えよ。それに――喜べ、『V作戦』関連の『勲功』により二階級とは行かなかったが……無事グラナダに着けば貴様は一部大佐並みの権限を持つ『上級中佐』だ。要望のあったモノもそれに少し加えて用意してあるだろう。新造艦を貴様の艦隊の旗艦にするがいい。それから、ソロモンへ戻ってくれば俺からの祝いの贈り物も考えてある。ではな」

「はっ、お心使いありがとうございます」

 

 上級中佐。臨時大佐と言うべき位置付けで大きな艦隊を持て、旗下を持つことも可能である。これによりシャアにとって、非常に意味のあるグラナダ行きとなってきた。

 

 

 

 

 

 地球連邦軍の宇宙における最後の砦とも言える最前線基地、ルナツー。

 地球へ降下するはずであったWB(ホワイトベース)は、その為の出航から二日半を経過し、左側のメインエンジンを丸ごと失い、右側メインエンジンも三割程度の出力に。そして四つのノズルの内でも右側の縦二つは攻撃で損傷し、左側の縦二つのノズルからしか吹かすことが出来ない状態で、この基地へと帰還して来た。

 ルナツー入港後、WB艦長パオロ・カシアス中佐は、ルナツー方面指令ワッケイン少将へ直ちに掛け合う。右メインエンジンについての最優先修繕についてである。

 四時間ほどの検証の結果、三週間半ほど掛ければ代替部品等で八割ほどまで直る見込みが立った。片側でも八割、全体にして四割あれば降下時の減速は十分可能になる。

 直ちに、パオロ艦長はルナツー基地内の技術者達も一部暫定的に組み込んだ作業班へ指示を出す。

 大気圏降下ポイントへ向かう途中の艦隊戦闘では、短時間でムサイ二隻とザク八機を撃破する大戦果を上げて当初は湧くも、今、乗組員たち皆の表情は、知らされた先の長いトンネルのような修繕期間に優れない。

 ルナツーに到着して丸一日が過ぎていた。

 今は右メインエンジン回りに作業へ必要な足場を組み上げているところである。副官のブライト・ノア少尉が一応の現場責任者を務め、厳しい口調で慣れない作業への指示を飛ばしている。

 内部側でも不要な破損個所の取り外しが始まっていた。

 船体後部ではそんな忙しい動きが続いていたが、前方のMS(モビルスーツ)格納庫内では各機とも一通りの整備を終えており、すでに日々の定期確認二回目を迎えて無駄口が聞こえて来ていた。

 

「これだけ暇だと、女の子でも連れてどこかへ出かけたいねぇ♪」

「かかかかっ、違いねぇですね」

 

「…………下品な笑い方」

 

 コア・ファイターのコクピットにいたスレッガー少尉に、近くにいて物資にもたれていたカイが相槌を打つ。それに『育ちの良い』セイラが、離れたガンダムのコクピット内で確認中に顔をしかめていた。

 

 そんな中、休憩時間に入ったハヤト・コバヤシは、フラウ・ボゥを懸命に探していた。フラウも同じタイミングで休憩時間に入っている事をもちろん知っていてだ。

 ハヤトの家も、アムロとフラウの家に近く幼馴染と言える顔見知りである。ただ、フラウに憧れている上に色々とアムロには適わないと苦々しく思っていたが、此処にヤツはいないのだ。

 彼はドリンクを両手に一本ずつ持っていた。

 そして生活ブロックの中で、彼女を見つける。フラウはまだ、健気にシーツの洗濯作業を続けていた。

 

「フラウ・ボゥ、休憩しないか? ほらドリンク、偶然一本ちょっと余ってたから」

 

 そう言って、愛想良くドリンクの小ボトルを差し出していた、しかし。

 

「ありがとう、……でもいいわ」

 

 フラウは、ハヤトへ微笑んでくれたが弱弱しかった。彼女は「じゃあ」とハヤトに背を向けると仕事を続ける。

 フラウは後悔していた。好きなアムロをあの日、何故自分は無理にでも一緒にWBへ引っ張って来なかったのかと。避難指示で彼の部屋まで起こしに行き、起こしたところで家族に呼ばれた。「僕もすぐ行くから、お爺ちゃんに付いててあげなよ」と優しく言われ、家族と一緒にWBまで来たのであった。あの時アムロに「さぁさぁ」と急かされなければ、自分も行方不明になっていたかもしれない。

 家族皆に引き止められたためWBへ乗ったが、気持ちとしてはサイド7に残って行方不明になったアムロを探したかったのだ。

 彼女の切ない表情に、アムロへの思いが募る。

 そんな表情で作業する彼女の姿を見ていたハヤトは、一人生活ブロックを後にする。

 ドリンクをフラウから見えない少し離れたゴミ箱へ―――二本とも捨てて。

 

(……僕はまだまだ諦めない。チャンスはあるはずだ。―――もう居ないヤツに負けてたまるか)

 

 彼も……彼女への思いが募っていく。

 

 

 

 

 それから二日が経ち、機関を損傷したWBがルナツーへ帰還してから三日目の夜に状況が大きく変わる。

 ルナツーへ一本の近距離通信が入ったのだ。

 それは、急ぎルナツー基地内のワッケインのいる中央指令室へと繋がれた。

 

『こちら、ジャブロー駐留の地球連邦宇宙軍バートランド艦隊第3部隊所属ペガサス艦長のセドリック少佐です。ルナツー聞こえますか? 我が艦はWBに対して緊急の大型補給物資と補給整備部隊を届けに来た。護衛の派遣と、入港を許可されたし』

 

 マチルダらの乗るWBの同型艦ペガサスは、進路上に敵を捉えることなくルナツーの防衛圏内まで到達して来たのだ。ここからなら通信は十分届くはずと。

 この距離までは、無線封鎖の形で潜航するかのように静かに航行して来ていた。マチルダの予想通り、宇宙へ上がった宙域には敵艦隊はおらず、かなり離れた位置にいたためペガサスへは今日まで接近して来なかった。

 だが、ルナツー周辺に一隻のムサイ級を確認する。WBの後をずっと付けていたあの船だ。

 ペガサス側は物資を満載しており、現時点での戦闘は絶対に避けたいところであった。

 そのため、このタイミングでの通知通信となった。

 この報にワッケイン指令は直ちに答える。

 

「了解した。こちらでは入港準備を進めておこう。護衛も直ちに送る。よろしく頼む、セドリック艦長」

『はっ』

 

 ルナツーから待機中の即応艦隊より、サラミス二隻とWBからもガンダム、ガンキャノン一機とコアファイター二機が急速発進して合流地点へと向かった。

 

 とはいえ、ペガサス側も全く無防備でここまでは来ていない。

 ペガサスにも一機の―――最新鋭MSが搭載されていた。

 『ガンダム』の量産型機になる『GM(ジム)』の、基本データ取得のために使われていたため、先行して優先的に整備調整が行われていた『ガンダム8号機』である。リード大尉が持ち込んだ、セイラ・マス操縦の『ガンダム』の実戦データも学習機能へ取り込まれ短時間で調整されている。コア・ブロックシステムが外され、腰部の突起等が無くなってはいるが、それ以外の頭部等は『ガンダム』の物が使われている。そして装備は、ビームスプレーガンの試作型の一つで高速収束器を内蔵した少し大型のスナイパー型ライフル。そしてシールドを装備。

 地上では俊敏に振り回すのが難しい型のライフルだが、ここ宇宙では片腕でも『ガンダム』程のパワーがあれば問題ないと持ち込まれていた。

 更に支援機として開発最終試験完了直後のコア・ブースターが二機搭載されている。

 ムサイの艦影を捉えたところで、ペガサス艦内でもこれらの艦載機へ直掩の為に発進の命令が出ていた。

 ところが、ガンダムのメインパイロットであるジョー・ミフネ中尉が、昨晩から高熱で倒れていたのだ。そのため、コア・ブースターへ乗り込もうとしていたサブパイロットであるヤザン・ゲーブル少尉が『ガンダム』へ乗り込み、ペガサス左格納庫のカタパルトから、ビームスナイパーライフル装備で発進する。

 そのあと、コアブースター二機も発進していく。

 ムサイ艦側では外から接近する船からMSらしきものらが直掩に付き、ルナツー側からも二隻の艦船とガンダムと思われるMSと戦闘機らが出てきたため、一時ルナツーの防衛圏傍から離れて行った。

 

 数時間後、WBの同型艦ペガサス級強襲揚陸艦―――『ペガサス』がルナツーへ堂々とに入港する。

 その甲板上に乗って固定されている巨大なモノである換装用のメインエンジン二基を確認すると、WBのパオロ艦長を始め、ブライトや乗組員らは一気に湧いた。

 やや青みがかった白い船体のペガサスは、WBの左横に並んで着底する。

 到着前からブライト指揮の元で、メインエンジン周辺に組まれていた足場の撤去が急遽進められえていた。

 並んだ二隻のペガサス級の艦は直ちに、届けられたメインエンジンの換装準備に入る。

 その中で両艦の艦長らがペガサスのブリッジにて会見する。

 

「セドリック艦長、ありがとう。正直、途方に暮れていたところだ。修理のメドは立ったのだが、修繕だけで優に三週間以上掛かると言う状況だったのでね」

 

 熟年に近い中佐であるパオロ艦長が、セドリック艦長と握手をしながら笑顔で礼を伝えた。

 それに対して少し遠慮気味に微笑みつつ、セドリック艦長は答える。

 

「恐縮であります、パオロ艦長。私はただ命令に従い運んできただけですので。礼は即対応な命令を出されたレビル将軍と、この素晴らしい作戦を計画したこちらの補給隊隊長のマチルダ中尉へ贈られるべきでしょう」

 

 彼はすぐ後ろに並ぶ、軍帽に赤毛の美しく凛々しい連邦軍士官服な女性の方を紹介するように向いた。

 彼女は、堂に入った敬礼を行なうと静かに挨拶する。

 

「はじめまして、パオロ艦長。この度、WB担当になりました特別補給部隊隊長のマチルダ・アジャン中尉です。……セドリック艦長はこう仰っていますが、地上では時間が無い中、こちらの手の回らなかった護衛の手配までされながら予定よりも早く積込みと出航準備を完了されておられました。出航後の指揮も素晴らしく、敵の接近を一切許さず通信のタイミングも最良のものであったと思います。計画は実行する部分の方が当然難しく、艦長の協力なくして補給の成功は無かったと考えています」

「私もそう思うよ、セドリック艦長。だが、良い計画がなければ補給は今、ここへは届かなかったのも事実。マチルダ中尉にも心から感謝する」

「はっ、ありがとうございます、パオロ艦長。さて……では今回の件に入ります。レビル将軍の命により、WBへメインエンジン二基並びに、補給物資と追加装備をお持ちしました。私の部隊へ優秀な整備班も連れて来ておりますので、出来るだけ早く出航出来る状態を整えます」

「本当にありがとう、マチルダ中尉。地球へ降りた際には、将軍へもお礼を申し上げるつもりだ」

 

 パオロ艦長はマチルダともにこやかに握手を交わす。

 パオロは続けてその場に居たリード大尉へも、地上への報告と補給を呼び込んでくれた事へ礼を伝えていた。

 この後、ブライトも含め、両艦の他数名の士官らの挨拶も交え、そのあと三十分程、今後の予定をブリッジから下へ降りた会議室で話し合った。

 その結果、『エンジンの換装作業に二日、調整確認と試験航行に三日という予定で、その間に物資の搬入を終える。WBは今日から六日後にルナツーをペガサスと共に出航。その一日半後に二隻とも大気圏へ突入しジャブローへ帰還する』事になった。

 このWBらの予定は、このあとルナツー側のワッケイン司令へも会議で報告される。

 その六日後の出航の際に、今回は万全を期すため、降下ポイントまでの護衛として戦艦マゼランと巡洋艦サラミス二隻も同行することになった。

 

 その間、WBのエンジン換装や物資搬入については、マチルダ中尉が艦長よりその全権を任されていた。

 その補佐としてブライト少尉が手伝っている。だが、その彼女の手際の良さにブライトは感服していた。

 

(こう見ていると、緊急で突貫を強いられる中、口調は滑舌よくハッキリながらも穏やかで且つ、指示を出している内容が常に先の先を見て行われている。そのために全体の進行に無駄が無くとてもスムーズだ。女性だというのは能力には全く関係がないな……素晴らしい指揮ぶりだ。自分も厳しいばかりでは無く、よくよく中尉を見習わねば……)

 

 WBの地球降下への準備が、メインエンジンの換装や、物資搬入が順調に進んでいた。

 そして……マチルダの22歳で美人振りな人気も、ペガサスとWB乗組員、果てはルナツー内部にまで順調に浸透が進んでいった……。

 

 

 

 そのころ、地球圏の宇宙空間で色々な動きが起ころうとしていた。

 サイド7からは、防衛増援と補給物資輸送の為に来ていたサラミス二隻のうちの一隻が、MSの入ったコンテナを船体の下部へ固定され、静かにルナツーへ向けて出港して行った。

 一方、シャア少佐のムサイ二隻艦隊がグラナダへ到着する。

 これによってシャアは臨時大佐と同等の『上級中佐』となった。そしてシャアの艦隊は用意されていた艦船群により大幅に増強されていく。

 『ガンダム』及びビームライフルとシールドは、数日の間、一部分解を含む各種精密調査へ回される事になった。

 それが終わった時―――シャアの『ガンダム』はついに『真っ赤』になる。

 

 そして―――

 

 

 

『こちらは、ジオン公国軍である。

 地球連邦軍資源採掘船団『ジュピトリス』艦隊に告げる、直ちに降伏せよ―――』

 

 

 

 ジオン軍エギーユ・デラーズ大佐率いる、グワジン級大型戦艦グワデンを中心とする、重巡洋艦チベ数隻を含む二十七隻にもなる艦隊と、百機にも及ぶMS隊によって、木星周辺から緊急帰還してきた全長二キロにもなる巨艦を中心とした連邦の資源採掘船団を完全包囲していた。

 サイド3と月の近くである。

 年初より地球との通信について直通レーザー通信までが原因不明で途絶しており、『ジュピトリス』艦隊に取って寝耳に水であった。その原因について、当初は太陽風や小惑星等での電磁波干渉の影響で全ての中継器の故障かと考えられていた。地球圏に近付いても状況が変わらなかったが、中継器の直接破壊が確認され、また広範囲で大量に散布されたミノフスキー粒子の検知など独自に調査を始めていた矢先でもあった。

 

 そんな中、緊急事態で戦闘宇宙艇に乗り込んでいた薄紫髪の天才肌の少年少尉のパプテマス・シロッコは、盛大なカルチャーショックを受けていた。

 

 

(あれは………………一体なんだ!?)

 

 

 僅かに噂程度でしか聞いていなかったモノに。

 初めて見る、人型の巨人のような兵器――――MS(モビルスーツ)の姿に。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年04月06日 投稿



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