RED GUNDAM   作:カメル~ン

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第04話 ソロモン脱出作戦

 

 サイド7を出航し、途中でジオン軍の偵察攻撃を受けたWB(ホワイトベース)であったが出航二日後にルナツーへ到着する。

 残念ながら民間人を収容するスペースがないという理由で、避難民らは艦内に留め置かれていた。

 歴戦の中佐であるWB艦長のパオロ・カシアスが、ルナツー方面指令ワッケイン少将に事情を説明すると、補給等は行われる事になった。

 また、WBへ応援戦闘員や軍属としてスレッガー・ロウ少尉ら十名余が新たに乗船する。スレッガーは、ラテン系な伊達男だ。WBの美人な女史方々を見て声を上げる。

 

「おおっ、この船には可愛い子ちゃん達がいるねぇ♪ スレッガーだ、ヨロシク~!」

「はい……」

「―――よろしく、スレッガーさん」

 

 少し控えめなミライを庇うように、居合わせたセイラが些か冷た気に返していた。

 

「あららら、乗りが悪いねぇ~」

 

 彼は歴戦十分で度胸もあるが、普段は何となくお調子者で軟派に見えた。

 

 ルナツーのワッケイン指令は、壮年を少し過ぎ熟年に近いパオロ艦長の教え子であったため、色々と便宜を図ってくれていた。『極秘兵器の使用』についても事情を考慮し、現状は特例扱いとしてくれたのだ。

 しかし、安全と思い一時的にとルナツーへ退避して来た避難民達へは、軍務優先と物資の不足などによりサイド7への帰還は叶わず、WBごと地球へ降下してもらう事になってしまっていた。

 ここルナツーも余裕がなく、WB艦長やテム・レイ大尉の要請に応え、サラミス級巡洋艦二隻をサイド7へ向かわす予定なのだが、補充兵や修理等の軍需物資で満載予定だったのだ。

 なおWBの、次の目的地は南米ジャブローとなっている。

 

 

 

 一方、シャアの将官用旗艦型ムサイは、これに一日遅れで宇宙要塞ソロモンに到着し宇宙港の一つへ接岸する。そこにはドズル中将自らが出迎えていた。

 さっそく鹵獲に成功した連邦軍の新型MS(モビルスーツ)『ガンダム』や関連装備がムサイ艦から一旦下ろされ、要塞内で一通り精密な解析に回される事になった。

 ドズルもシャアと共に、その白い機体の移送光景を眺める。

 

「本当にご苦労だったな、シャア。これが連邦の新型か?」

「はい。マニュアルに因れば、名は『ガンダム』と」

「ガンダムか……。そういえば、パイロットの捕虜もいるそうだな」

「まだ、所属や階級と名を黙秘していますが―――」

「お前にしては少し温いな。なぜ、徹底的に調べん?」

 

 話を切る様にドズルが、少し鋭い眼光をシャアへ向ける。

 並みの将兵なら怯み引いて答えてしまう所だ。

 しかし中将に凄まれようと、シャアはいつもと変わらず堂々と理由を説明する。

 

「ソロモンまでの途中で装置を使わせ調べたところ、MS(モビルスーツ)操縦適性が極めて高い士官であります。また柔軟な思考の持ち主にも見えます」

 

 ドズルは、シャアの武人らしいそんなところも気に入っていた。

 

「……ほう珍しいな、シャアが操縦を褒めるのだから相当なのだな……括目する武人と言うのなら、お前の顔も立てて今しばらくは任せよう。そうだ、今夜は祝杯の晩餐会を行うぞ、楽しみにしていろ」

「はっ、ありがとうございます」

 

 ドズルは中将ながら純粋な武人の為、下位の者でも実力のある将兵には礼儀と敬意を持っていた。

 だが彼も敵に対して、いつまでも気の長い人物ではない。

 この時、シャアのマスクの奥の瞳が鈍く光った様に見えた。

 

 

 

 シャアは、ソロモンに到着後も未だムサイの中で独房入りな捕虜であるアムロに度々遭っていた。

 

「この戦争を良い方向へ終わらすために、君の力を是非借りたい」

 

 シャアは会うたびに、そう口にしていた。

 そして色々と話をする中で『君の呼び方に困る』と言われ、アムロはついに自らのファーストネームを明かしていた。また階級について―――『少尉』と偽っていた。

 

「アムロ少尉か……」

 

 シャアが呟く。

 シミュレーターの後、捕虜のアムロに対して曹長らの態度が『良く』なったのだ。曹長らが控えめながら、明らかに自分達よりも目上の者だという態度を取る様になっていた。

 これはドズル中将の、軍隊内での実力主義な考えに元付くものだったが、アムロはそれを知らずに『それならば曹長の上を』と上手く利用した形である。

 シャアとしても、アムロが非常に若く見えたので『少尉』は納得のいく妥当なところであった。それに所属やセカンドネームが不明は不明で構わなかった。味方に引き入れる場合には、連邦での身元がハッキリしない方がいい気がしていた。シャアが欲しいのは身元ではなく、『意志を持った強い力』なのだ。

 そこで一旦、先日戦死したと聞いた、このソロモン所属の少尉の名字である『ノール』を名乗らせようと考えていた。

 ジオン軍特務機関から配属の少尉、『アムロ・ノール』と言うわけだ。

 連邦からの亡命者と発表しても広報的には悪くないのだが、某機関の言う所の『ニュータイプ』となれば極秘将兵になるため、総合的にしばらくは偽名の方がいいとシャアは判断していた。

 もちろん部下らへは当初から緘口令を徹底している。また、MSパイロット以外は一部を除いて曹長以下の者に捕虜の顔を見せていない。

 

(いっそのこと、私の様に彼にもマスクを被ってもらうか)

 

 シャアは、濃いグレーと白い角のヘルメットに自分と同じグレーのマスク、そしてカーキの一部に白が入った少し小柄で華奢なアムロの軍服姿を想像する。

 だが、今もこの独房脇で見ているが、肝心のアムロはシャアへの協力について同意する雰囲気はなかった。

 そもそも、彼には自分を攫った張本人のシャアへ力を貸す道理も義理もないのだ。

 確かに戦争を早期に終わらせるのはいい考えだとは思っている。

 また、この少佐が自分を勧誘する訳が、MS(モビルスーツ)を上手く使えそうだという理由からだと判断していた。

 

 そしてジオン側なら―――我が子を放って現場に留まった、あの仕事絶対主義に見える父に一泡吹かせられるという事ではあるが。

 

 アムロは、『ガンダム』の操縦マニュアルの設計開発責任者欄内に、父であるテム・レイの名が入っているのも見つけていたのだ。(それもあってセカンドネームは黙秘中)

 だが、シャアへ力を貸すという事は連邦軍へ弓を引くという事に他ならない。

 連邦にはフラウ達もいる。「少佐」の話ではサイド内で民間施設への攻撃はしていないと言った。

 アムロも見ていた。確かに、むやみな攻撃は無かった。連邦の軍人らが直撃弾で死ぬところを見てしまっていたが、軍人が戦争で死ぬのは止むを得ないところだとは思っている。

 知り合いの民間人が死んだところをまだ見ていないため、アムロの心はまだ怒りに燃えることも闘志もなく穏やかだった。

 

(皆、無事ならいいけど)

 

 色々考えると『民間人』のアムロとしてはこの時、独房へ何度会いに来られてもシャアへ首を縦に振る気は無かったと言える。

 

 

 

 シャア配下のドレン少尉の乗るムサイが潜むルナツー宙域でも、WBから一日遅れでソロモンより援軍のムサイ一隻が合流する。これを受け、ドレン少尉のムサイはルナツー周辺へ留まらずソロモンへと向かった。

 それはWBへの威力偵察を行った後、各種情報を得たことを暗号でシャアへ知らせていた。すると、ドズル中将より帰投の指示が出たとシャアより命令を受けたためである。

 その帰投命令に従い、ドレン少尉の乗るムサイは、四日後無事にソロモンへ到着していた。

 シャアは早速、ドレンより映像データと報告の詳細を確認する。

 

「そうか、カル軍曹が……」

「申し訳ありません、少佐。かの白い『木馬』を侮っておりました」

「いや、皆良くやってくれた。軍曹の死も名誉な死だ。『ガンダム』が装備するライフルの明確な威力を我々に知らせてくれた。このどれも貴重なデータだ。それにあの優れた機体が、もう一機あるとは私も考えていなかった。今はこの得た情報の戦果で十分だ」

「はっ」

 

 ドレンの齎(もたら)した、連邦軍新造戦艦の保有する戦力について、『ガンダム』タイプを含むMS(モビルスーツ)が三機、戦闘機が一機以上あり、それぞれの装備、そして戦艦の銃砲座の数や位置も映像から詳細に報告された。もちろんすべての映像も提出された。

 シャアの提出したすべての情報が貴重であった。

 早速、要塞内の一画にある会議室にて、ドズル中将とソロモンの高位な士官ら二十数名の前で、シャア少佐による『V作成』関連の兵器類について報告が行われた。

 

「以上で報告を終わります」

 

 報告を受けたドズルがシャアを労う。

 

「うむ。シャアよ、僅かな損失で本当に良くやってくれた。貴様らの特進とそれに加えて戦力補充について、総司令部へ強く進言しておくぞ」

「はっ、ありがとうございます」

「それはそうと、シャア。あの捕虜に付いてはどうなっている?」

「はぁ、その件ですが実は―――」

 

 その時、高官の一人が割って入り報告する。

 

「ドズル閣下、実はその捕虜に付きまして、キシリア様より『ニュータイプ』の件で火急に調べたいと要請が来ております」

「な……なんだと?」

 

 シャアは、ドズル中将旗下の尋問が苛烈な事を知っていた。そのためドズルに『アムロが黙秘中』だと確認された後すぐ、一つの手を打っていたのだ。

 

 ―――アムロを連れ、早くこの宇宙要塞を出る為にである。

 

 このソロモンにもいるキシリア少将へ太いパイプを持つ人物へ、連邦軍の新型MS『ガンダム』の判明済情報と共に、『あの感覚』から捕虜パイロットに『ニュータイプ』能力の可能性が高いことをリークしたのだ。

 シャアは自身の能力故、フラナガン機関からも声を掛けられていて数度訪れており繋がりがあった。

 キシリア少将とドズル中将は戦略面や艦隊編成の軍事面で意見がぶつかり、公国国防軍がニ隊に分裂し対立している。またキシリア少将に対し、長兄であるギレン・ザビ大将がニュータイプ開発に置いては理解を示しており、その件にはドズル中将も余り強く出る事は出来ないでいた。

 そのため、シャアはキシリア少将側からの『ガンダム』を含めた捕虜への庇護的な一応の保険を掛けたのだ。

 高官の話は続く。

 

「さらに、『ガンダム』関連につきましても速やかに調査の為に一旦機関へ引き渡すようにとも来ております。これにはギレン様からもキシリア様へ協力するようにと要請がありまして」

「く、兄上までからか」

「その輸送には、現場の話も聞きたいとのことでシャア少佐自身にお願いするとの事です」

 

 ドズルの表情は、非常に険しい物になっていたが反論は出来ない内容だった。

 

「……わかった、まあいい。すでに現状は父上にも報告済だ、我が手柄は揺るぐまい。シャア、準備が出来次第、サイド6へ迎え。あと―――ガンダムはお前が使うがいい。妹には言っておく。データは送れよ」

「はっ、ありがとうございます」

 

 そう告げるとドズルは会議室を後にする。

 新型MSガンダムについて、シャアはついに中将から預けられる身となった。

 まだ、グラナダへ持ち込まねばならないが――

 

 『赤いガンダム』の誕生は近い。

 

 彼は事前に予想していたため、数時間で出航準備を終えるとまだ白い『ガンダム』とアムロを乗せ、ムサイ二隻でサイド6へと、この宇宙要塞ソロモンを後にする。

 キシリア少将の作った、ニュータイプ研究施設のフラナガン機関はそこにあった。

 

 

 

(誰か……誰か、私を助けて……)

 

 無機質で重厚な建物が建っていた。

 そして分厚い壁と何重にもロックされ、外環境から閉ざされた部屋。

 それは、外からの侵入に対してだけではない。『中の者も決して逃がさない』――そんな思惑が形になったものだった。

 その年齢からまだ伸び切っていない体へは、全身に計測機器が取り付けられている。

 ずっとではない拘束時間、しかし。

 担当が女ではない時もあり、乱暴はないが良くも知らない男に触られる嫌悪感。

 機械とは言え、己の体を好きに調べられ続ける屈辱感。

 それから……姉と同様に父から売られ、誰も頼る者のいない『赤紫な髪の少女』の常に寂しい苦しい心の叫びが静かに響いている……そこは、そんな場所でもあったのだ。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月06日 投稿
2015年03月09日 文章修正
2015年03月11日 文言修正



 彼女の悲しい心の叫びに――――「アムロいきまーす!」

 そして、WBは、生き延びることが出来るか……



 補足)赤紫な髪の少女(ハマーン・カーン)
 『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』では某機関ではないとしているようですが、一時期はそちら側にもいたという本作独自展開設定。


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