RED GUNDAM   作:カメル~ン

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第03話 アムロの顔面を叩け!

 

 モニター越しで、ノーマルスーツ(宇宙服)すら着ていない、その赤紫の髪の少女は自然に優しく微笑んでいた。

 

「だって、私もMS(モビルスーツ)に乗って貴方の傍に行ってみたかったんだもの、アムロ」

「だからって危ないじゃないか」

「ふふふっ。大丈夫、平気よ(苦境から私を救い出してくれた白い騎士様♪)」

 

 シャアが少尉扱いのアムロへ譲った、あのブレードアンテナを残したまま赤から白へ塗り替えた3倍速の専用ザクで、彼の試験搭乗が行われた時にちょっとしたハプニングが起こった。

 試験そのものは、アムロが白い3倍速のザクを難なく乗りこなし順調に進んでいた。

 それは、キシリア・ザビ少将よりアムロの身体調査で命じられ訪れた某施設から、アムロが可愛そうだと引き取って来たまだ少し幼い感じの少女が、格納庫にあった通常のザクへこっそり忍んで搭乗し、宇宙空間にいる彼の白いザクの傍まで勝手にやってきたのだ。

 当然彼女は、正規のMS搭乗訓練など受けていなかった。

 だが見事に操縦してのけていた。

 シャアも驚いていた。確かに数か月前、初めて某施設でこの少女を見た時『力』を感じた。

 だが、その施設で彼女は大した能力数値を出していなかったという。だから施設も持て余し、環境を変える意味で外へ出すことに同意したようだ。

 しかし今、この宙域に広く鋭い感覚を覚えていた。

 

(環境や感情がこれほどの影響を与えるということか……)

 

 シャアは、星空の一画から射す日の光を受けて浮かび上がっている、手を取り合う白と緑のザク二機の様子を、赤いガンダムのコクピットの中から静かに眺めていた。

 

 その少女の名は―――ハマーン・カーンといった。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 シャアの将官用旗艦型ムサイは現在、ドズル中将の指示に従い『鹵獲したV作戦関連の新型MS』を届けるため、旧サイド1があった地点近くに浮かぶ、ジオンが誇る宇宙要塞ソロモンを目指している。

 ムサイ艦内を管理している曹長の一人が、格子越しの独房にいるアムロへ簡単な尋問を開始していた。

 本当ならドレン少尉が担当するところだが、シャアに代わり連邦軍新造戦艦を追撃するムサイで指揮するためサイド7宙域に残り、この艦には不在だった。

 そのためシャア自身がと思ったが、度重なる作戦の最前線に出続けており、部下から是非少し休むようにと進言されて一時間程前から自室で休んでいる。

 そして捕虜のアムロは、独房内や今の尋問の合間もサイド7の事を思い出していた。

 

(フラウ・ボゥや父さん達、みんなは無事なのか……)

 

 曹長がアムロへ何度目かの確認をする。

 

「貴殿は少佐殿の質問に黙秘したそうだな? 名と階級も言えないとは……当然所属も言えないか。それは……極秘の『V作戦』の関連部署ではないのか?」

 

 アムロは繰り返される質問について、困惑しつつも黙秘し続けていた。軍人じゃないと言った瞬間に命が無いのではと思っていた。それならまだ黙っていた方がそれらしく見られるのではと。相手がどう思おうとそれは相手が勝手に考えた事なのだ。

 

(僕は―――悪くない)

 

 士官への尋問と言う形で今のところ手荒な扱いも無い。これが何かの失言で、雑兵扱いに変わるのではと思うと気が気ではなかった。

 

 ソロモン到着までは、まだ二日程掛かる距離があった。だが、アムロはそのことを知らない。いつまでこの独房に押し込められるのか。

 15才の少年には不安な感情しか湧いてこなかった。

 

 そこへシャアが現れる。やはり気になっていた。

 

(彼から感じる、あの独特の感覚……)

 

 シャアはこの独房にいる人物にサイド7で遭遇した時から、何か今までと違う感覚があった。いや、某施設で感じたあの『赤紫の髪の少女』的な独特な感覚というべきか。

 具体的にはなんとも言えないのだが。

 

「曹長、変わろう」

「はっ」

 

 人払いをした形になったところで、シャアがアムロに問いかける。

 

「君はこの戦争をどう思う?」

「…………」

「良いか、悪いかで表現してみたまえ」

「…………良い戦争だと言えるのは、勝った陣営の人達だけです」

「そうだな、勝った方が正義になるからな。君は正義を目指しているのか?」

「………?」

「だからMSに乗ろうとした、違うか?」

 

 アムロは、この「少佐」の質問の意図が掴めていなかった。

 だが同時に考えていた。

 

(僕は……あのとき何のためにMSへ乗ろうとしたんだ? ただ必死だっただけなのか)

 

 シャアとしても考えていた。『あの目的』を一人で完遂するには限界がある。

 不思議とこの目の前の若い人物には、良く分からないが『力』を感じていた。

 だが、今はまだ捕虜である。段階を踏まなければならない。

 

「君が勝ち負けにこだわらず、早く戦争を終わらせたいと思う気があるなら----私に協力したまえ。悪い様にはしない」

 

 またシャアには目の前の人物が、普通のがむしゃらに凝り固まった軍人には見えていなかった。そもそも非常時に私服だったのだから。(まさか一般人が最高機密のMSに乗り込もうとするとは思っていない)

 

「……それはジオンが勝つという形なのか?」

「どうかな。私はそれに拘ってはいない。時間はまだある、まあゆっくり考えたまえ」

 

 そう言うとシャアは、格子の独房前にある席を立とうとする。

 

「そうだな、先に君の力を見せてもらおうか」

「えっ?」

「この少し後で、シミュレーターを使って見せてもらおう。本気を出してもらうため、規定に達しない場合は―――手か足を銃撃する。まあ、頑張ってくれたまえ」

 

 シャアの味方には『強者』のみが必要なのだ。味方にするのはそれが分かった後でいい。

 

「それって、捕虜虐待なんじゃないのか!」

「君は歴史や戦時下の法則を知らないのか? 真実を知る者がいなくなれば、無かったのと同じだという事を」

 

 アムロは絶句していた。そして一人になり少しすると、爪を噛み始めた。

 

 

 

 ルナツーを目指すWB(ホワイトベース)の後方にムサイが一隻追尾していた。

 WBの艦橋では二人のオペレーターの一人、マーカー・クランが定時報告する。

 

「依然一隻が距離を保ったまま追尾して来ます」

「艦長、何か対策を取りますか?」

 

 ブライトが、熟年に近いの艦長、パオロ・カシアス中佐に確認する。

 

「いや、敵はザクが三機はあるはずだ、軽々しくこちらから仕掛けるわけにはいかん。陽動を受ける可能性もある。今は友軍と合流するためルナツーを目指すべきだ」

「はっ、了解です」

 

 だが次の瞬間、状況が変わる。オペレーターのオスカが伝える。

 

「敵のムサイから、MSらしきものが接近して来ます。数は3」

「全艦直ちに戦闘態勢へ移行! 各員持ち場へ付け! MS隊は準備が整い次第、順次発艦せよ」

 

 艦長の号令に、艦内へ戦闘態勢を告げる警告音が響く。

 

(似ていた。あれは……兄さんだったの? でも……)

 

 その時セイラは自室のベッドで丸まり、サイド7内に侵攻して来た赤いザクのパイロットのマスクを取った素顔を思い出していたが、戦闘警報に部屋からMSデッキの方へと飛び出して行った。

 WBの前部にある、両舷の艦載機発進口が全開され、カイとジョブ・ジョンの乗るガンキャノン二機と、セイラの乗るガンダムがカタパルトで発進した。ガンダムはビームライフルを装備。その後にリュウのコア・ファイターも続く。

 半日ほど前の出撃では単に護衛任務だったが、今回は戦闘になりそうな可能性が高い。

 MS搭乗の三人は全員が極端に緊張し、自然と沈黙していた。三人ともモニターと計器の明かりが光る薄暗いコクピットの中で、レーダーに映り接近してくる敵と思われる光点の動きに集中する。

 ガンダムら三機は、大きな逆三角の面の中心をWBが進む感じの位置取りをしていた。

 そんな中、WBの傍を周回しつつコア・ファイターのリュウがみんなに声を掛ける。

 

「はははっ、みんな緊張しすぎだ。今からそれでは体が固まってしまって動かんぞ。リラックスしろ、リラックス!」

「うははっ。そうだな」

「そうですね」

「そうね、ありがとうリュウ」

 

 皆の緊張しすぎの糸が少し解れた。

 

 ムサイから発艦していたのは三機のザクであった。

 艦を指揮するドレン少尉は「敵艦影の近接映像を記録せよ。その際、軽い攻撃を仕掛け敵艦の戦力や対応能力も見よ」と命じていた。

 強引な威力偵察である。

 ジオン軍のガウラ曹長の元、ザクマシンガンと脚部へ三連装のミサイルポッドを装備した三機のザクはWBへ後方より接近して行った。

 ザクは間もなく三方位に散ってザクマシンガンを放ちつつWB側へ戦闘を開始する。

 ガンキャノンらも敵へ標準を合わせ、両肩のキャノン砲で応戦を始めた。

 

 これが人類史上初のMS同士による実戦となった。

 

 ジオン側では赤い機体のガンキャノンの動く姿は初めて見る形だ。だが、動きはそれほど俊敏ではなかった。

 ザクでも十分に対抗できるように思えた。

 だが、白いMSは違った。

 ジオン軍のまだ若いカル軍曹は、左後方からWBへと迫っていた。白いMSが相手であった。ふとそれから一瞬目線を逸らし、近くを飛ぶコア・ファイターの位置をメインモニタで確認していた時である。

 ガンダムのコクピットで静かにターゲットスコープを見るセイラが呟く。

 

「敵の目の前では、余所見をしなくってよ」

 

 一筋の閃光が緑のザクの機体を貫いていた。

 ビームライフルの一撃だった。

 

 

 

 ザクは爆散した。

 

 

 

「なにぃ! なんだ今のは……」

「曹長、カルが、カル軍曹がやられましたーー!」

「ぐっ、一撃か……何という火力だ。セネル軍曹、お前は先に引き返せ。殿は私がする」

 

 損失を出す戦闘が目的ではなく、情報を持ち帰るのが今回の任務なのだ。

 「了解」の声と共に、一機のザクが後退を始める。それを狙わせないように、ガウラ曹長のザクは三機のMSとコア・ファイターを牽制した。脚部のミサイルも使用する。

 

「少佐が鹵獲したあの白い奴がもう一機あったとは……戻った時に詳細を報告せねば」

 

 連邦の攻撃を自身の機体へ上手く引き付けつつ、白いMSに迫る。だが接近してみて挙動を見るとその動きには、まだ慣れていないものが見えた。

 

(機体の装備や動きは凄いが、パイロットはまだ練度が足りないようだな)

 

 ザクマシンガンを二百メートル程度の距離で白いMSへ多く直撃させる。

 

「やったか!」

 

 だが、白いMSは平然と動いていた。二、三度さらに接近してそれを繰り返すが、直撃でも破壊できないように見えた。

 

「バ、バカな。どうなっている、この120mm口径のマシンガンが通用しないのか!?」

 

 そうしているとコア・ファイターや、ガンキャノンも近付き砲撃が集まって来たので、ガンキャノンへもマシンガンの攻撃をお見舞いする。しかし、これも重装甲に弾かれてしまう。

 即この期に及んでは、一機でとても凌げないと判断したガウラ曹長は、経験を積んだザクの機動技を駆使して、キャノン砲やビームライフル等の軸線を躱して慎重に後方へと下がって行った。

 

「敵、モビルスーツが離れていきます!」

 

 WB艦橋に響くオペレータの声に、艦長は追撃せず現状待機を指示する。

 一時間後に戦闘態勢は解除された。

 

 

 

 頬を激しく打つ音が将官用ムサイ内にあったシミュレーター室に響いた。

 

「親父にも打(ぶ)れたことないのに!」

 

 アムロは打たれた頬を抑えて倒れ込み、そんなセリフを思わず叫ぶ。

 このムサイ艦内にいた戦場での叩き上げな気風のデニム曹長が、シミュレーターに乗ることを何度も拒否するアムロへ「自分の立場を弁えろ」と制裁したのだ。

 

 『採点が悪ければ手足を銃撃』

 

 そんなことを言われては乗らない方がいいに決まっている、そうアムロは考えたのだ。だが、捕虜の身で我を通すことなど無理な話であった。

 そしてここにシャアの姿はなかった。指揮官の彼にはやることが山ほどあり、部下の曹長の一人であるデニムに任せていた。

 『銃撃』についてもシャアとしては、実力が知りたかったための軽い景気付けのつもりだったのだが、戦場を知らないアムロは少し甘ったれた子供過ぎたのだ。

 デニムはそこで軽く、激昂中のアムロを挑発する。

 

「連邦の士官さんは、皆腰抜け揃いなのか? 戦場でも無い単なる腕試しが怖いと見える。簡単なゲームから逃げるとは、子供以下だな貴殿は」

「なにぃ」

「安心したまえ、二回計測していいそうだ。一回目は練習のつもりで出来ますぞ」

 

 そこまで言われて、アムロはやる気になった。

 デニムは薄笑いを浮かべて『連邦の士官』アムロのシミュレータへ乗り込む準備を見ていた。

 

(新米の兵だと100点そこそこ、熟練の兵で250から300点。俺は過去に351点出したことがあるがな、さてどれほどか)

 

 一時間程過ぎ、アムロが二回の計測を終え出て来た時、先ほど薄笑いを浮かべていたデニムの表情が固まっていた。

 

(不慣れな一回目でいきなり200点越え?! 二回目で―――よ、400点越えだと……こんな点数、少佐以外でほとんど見たことがない)

 

 

 

 アムロの持つ操縦技術のポテンシャルは―――今後の宇宙世紀史上でも最高クラスであった。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月01日 投稿
2015年03月09日 文言修正
2015年03月11日 文言修正
2015年04月04日 文言修正



宇宙要塞ソロモンへ到着するシャア達だが……

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