「ジオンの赤い彗星が来たぞーー!」
地球連邦軍の戦艦マゼランタイプの艦橋では、敵の急速接近の対応に騒然となっていた。
現れた機体は、地球連邦軍から鹵獲された、RX-78ガンダム。
そして、その機体の色は―――『真っ赤』だった。
ビームライフルはグレーの金属色、シールドは変形六角形に窓があり、赤の枠に白地に黄色いジオンマークが黒縁でくっきりと入っていた。
とにかく速い。
小艦隊を組む地球連邦軍の戦艦や巡洋艦から苛烈な砲撃等が行われるが、離れて見ていると全く標準が合っていないとしか思えない状況だ。
すると、赤いガンダムのビームライフルから伸びるエネルギーの軌道が、戦艦マゼランタイプに吸い込まれた。間もなく、艦の内部から弾けるように爆発が広がり大きな火球へと変貌する。
その光景が立て続けに六つ程起こるが、すぐに暗闇の広がる宇宙へ戻る様に消えていった。
赤いガンダムのコックピットに座る特徴のある白いヘルメットとグレーのマスクを被った青年将校は、自身の乗船しているムサイ艦へ通信を開くと告げる。
「これで全部沈めたな。直ちに帰還する」
彼の名は―――シャア・アズナブル。
◇ ◇ ◇
吸い込まれるような漆黒の中、足元も含め全天で星々が光っている。
そして、空気の存在しないこの空間で星は瞬くことは無い――ここは新しい人類の宇宙(そら)。
その空間を漂うように進む、其々が十数メートルはある大きな人型の影が六つ。
ジオン軍の誇るモビルスーツ、MS-06ザクII。
それらの中に一つ、赤い機体があった。頭部の一つ目なメインカメラモノアイが周辺を確認するように左右へスライドしながら動く。
そして無線封鎖の為、機体の手先のサインで周辺機へ指示を出す。
『事前の手筈通りに(ガウラ曹長とカル軍曹はコロニーの外で周辺警戒。スレンダー軍曹は中へ入った出入口で待機。デニム曹長とジーン軍曹は、私に続け)』
『『了解、少佐殿』』
曹長二人も、機体の手先のサインで答えた。
少佐は部下たちを率い、目元を覆うマスクの外にある口許に不敵な笑みを浮かべつつ資材出入口から中へと突入して行った―――。
人類が宇宙に進出して半世紀以上が過ぎていた―――宇宙世紀0079年。
地球と月の周辺には、人類の新しい生活場所であるスペースコロニーがいくつも浮かべられていた。
月の裏側にあったサイド3は、この年初頭に『ジオン公国』を名乗り、地球連邦政府へ独立戦争を仕掛ける。
ジオン軍は開戦一週間で、サイド1、2、4を殲滅。サイド2に至っては毒ガスで虐殺した上、のちにその8バンチコロニーである『アイランド・イフィッシュ』を―――地球の地上へ落下させる『コロニー落とし』まで行なった。
開戦一ヶ月ほどで総人口の半分を死に至らしめ、人々は自らの行為に恐怖する。
このあと、両軍は膠着状態に入り半年以上が過ぎていく。
地球に対して月とは反対側のラグランジュ点付近に浮かぶ、スペースコロニーの一つ、サイド7。
そこで生活を送っていた15歳の少年アムロ・レイは、機械オタクで日々ひきこもり気味な性格の子だったが、まだ平和に暮らしていた。
しかしある日、コロニー内へジオン軍の進攻を受けて、宇宙港に入港している地球連邦軍の軍艦WB(ホワイトベース)へ避難することになった。アムロは怠惰な生活の所為か、準備が遅くなり出遅れ気味に家を出る。
その避難の途中で、ジオン軍の主力MS(モビルスーツ)ザクの攻撃の余波で爆風が起こり、彼も余波を受け軽く吹き飛ばされる。その時、偶然目の前に「V」と表紙に書かれた重厚なマニュアルが飛んで来ていた。なんとなしにページを捲って見ると、それはなんと連邦の新型MSの操縦マニュアルだった。
マニュアルにあった連邦軍の新型MSの名は―――『ガンダム』。
アムロは、兵器類がある工業地区に父がいるはずと、軍の開発者主任であるテム・レイを捜しに行く。やっと見つけるが、話や避難は兵器類を軍艦に搬入してからだ言われてしまい、すごすごと一人で先に避難するため宇宙港の入口に上がる場所へやって来る。
そこには、マニュアルで見た形の新型MSが積載トレーラーの上に乗せられていた。
だが、ちょうどその頃、シャアの率いるザクの小隊もその新型MSに気が付いていたのである。
ザクから近隣の防御施設へ攻撃を受けると、運悪く直撃を受け、目の前で軍のMSパイロットは戦死してしまった。
傍にいてそれを目撃したアムロは呟く。
「くそっ……僕に、出来るか……いや、今はやらなくちゃ。やってやるさ」
そう言ってマニュアルを握りしめ、ガンダムによじ登ろうとしていた。
しかし―――。
『動くな、そこの青年』
機体のスピーカーを通して鋭く厳しい声が響いた。
アムロは咄嗟に振り向く。
そこには赤いザクが機体上半身をこちらへ向けて立っており、120mmザクマシンガンの銃口をアムロへ―――コクピットの開いたままのガンダムへと向けていた。
積載トレーラーの上で横になっているガンダムの腕に、片足まではよじ登れていたが、腰のコクピットまではまだ距離があった。
『そこから降りたまえ。死にたくなければな』
赤いザクの横にいる二機の緑のザクの内の一機が振動を伴って歩いて近づいて来る。
アムロは―――諦めてガンダムの腕から降りた。
アムロは緑のザクのパイロット、ジーンに捕まった。
重厚な新型MSガンダムのマニュアルと共に。
赤いザクも近付いて来ると、そのパイロットが降りて来る。
鮮やかな赤い軍服姿に、鋭い角を持つ独特のヘルメットとマスクを被った、口もとからはまだ若い青年のように見える人物だ。
周りからは「少佐」と呼ばれていた。
彼はアムロを見ると口を開いた。
「非常時に私服か。それに随分若いな、名と階級は?」
「……」
アムロは、軍人でない自分が何と言っていいのか迷ってしまった。
返事次第では即射殺だろうから。
「黙秘か、まあいい」
マスクを被った「少佐」は部下にマニュアルを渡されると、徐に捲ると呟いた。
「大体分かった、私が動かしてみる。その者は救命カプセルにでも放り込んで船まで連行しろ。聞きたいことがある。私のザクは、私がコイツで運ぶ」
そう言って、マスクを被ったジオン軍のパイロットであるシャア少佐は、ガンダムの方を見上げた。
「はっ、了解しました」
部下の声をすでに背を向けて聞くと、シャアは軽やかに新型MSガンダムのコクピットに入り込むと搭乗口を閉める。
室内ランプの元、ザクの五倍もあるメインゲインを起動した。
慣れた手つきで、操縦桿を操作するとガンダムは動き出し―――大地に立ち上がった。
シャアは、周辺にあったガンダムのシールドを背負い、ビームライフル一丁を部下のデニムのザクに持たせると、赤いザクを抱えてコロニーの外へと脱出した。
そして―――パイロットと間違われた様子で、アムロもサイド7から捕虜として連れ去られてしまった。
歴史の流れが、大きく変わろうとしていた―――。
to be continued
2015年02月23日 投稿
2015年02月24日 文章修正
2015年02月26日 文章修正
2015年02月28日 文章追加
2015年03月02日 開戦状況の文章追加
2015年03月06日 文章修正
2015年03月09日 文言修正
2015年04月04日 文言修正
補足)日付等
一年戦争開始は0079年1月3日。
サイド7鹵獲作戦は、同年9月18日。