IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第55話「それぞれの日常 4」

 

 

「ふふふ~♪まだかなまだかな~♪」

 

ベッドの上でそわそわと落ち着かない様子で、今夜この部屋に訪れてくる来客を、もう何時間も前から一日千秋の思いで今か今かと待ち続けている。

何故こうも僕が待ち続けているかと言うと、ある日の放課後のことだ。僕はラウラに本音と大事な話をしなければならないから、ミコトを僕達の部屋に泊めてはくれないかと頼まれたのが始まりで。急な話に僕も最初は戸惑ったけど、前々からミコトのペンギン型ぱじゃまには興味津々だったため僕は快く承諾。こうして、ミコトがラウラと入れ替わる形で僕の部屋に泊りにくることになったと言う訳だ。そして、ミコトが部屋に泊りにやって来る夜になり現在に至る。

僕も猫の着ぐるみパジャマを着て準備万端。ペンギンと猫。鳥と猫で狩る側狩られる側で、本来あり得ない夢のコラボレーションが実現されようとしている。あとはミコトが来るのを待つばかりだ。―――すると、入口のドアからノックの音が響いた。

 

―――来た!

 

「は~い!今開けるから!」

 

どたばたと慌ただしくドアのところまで走って行き、がちゃりとドアを開ける。

ドアを開ければそこには可愛らしいペンギンの着ぐるみを着たミコトがぽつんと立って、こちらをじっと見上げていた。その仕草がまたとても可愛らしくて…。

 

「シャルロット。泊りにき―――わぷっ」

「んも~~!かわいいぃぃぃ~~~♪」

 

僕はもうたまらず、今まで人の目があったために我慢していた欲望を一気に爆発させたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第55話「それぞれの日常 4 」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side シャルロット・デュノア

 

 

「くるしかった…」

「あはは………ごめんなさい…」

 

暴走による熱い抱擁から解放されたミコトが少し恨めしげにジト目で訴えてくるのを、僕は気まずくなってしょぼんと頭を下げて謝った。

 

「シャルロット、ときどき怖くなるから、やっ」

「あうっ……悪気があったわけじゃないんだよ?むしろ好意的と言うかなんと言うか…その……」

 

可愛いから我慢できなくて抱きしめたと理由は、一応褒めている?かもしれないけど、本人からしてみれば堪ったものじゃない……と思う。僕は抱き着く方だから分からないけど、ミコトの反応を見ればきっとそうなんだろう。

 

でも、我慢できないよぅ…。だってこんなに可愛いんだもん…。

 

長い間男の子として教育されてたから、女の子が好みそうな物は遠ざけられてたし、元々可愛いモノ好きだったから可愛いものには飢えているのだ。

現に今も、気を抜けばまた無意識に抱きしめてしまいそうになっているのを必死に我慢しているんだから。可愛いミコトを目の前にしてこれは拷問に等しい。

 

…それに、ミコトも一夏と同じで僕をかばってくれようとしてくれたんだよね。すぐにばれちゃったけど。

 

思えばその時からかな。本人は何も考えずの何ともない発言だったんだろうけど、僕にとってそれがミコトは他の女の子達とは違う特別な存在になったんだ。

あの時のあの言葉、『友達は、助け合うものだから』と言う言葉は、今も僕の脳裏に鮮明に暖かな温もりと共に残っている。あの時の僕は、実の父に身売りも同然なことを強要されて、人の事が信用できなくなり、もうどうにでもなってしまえと自暴自棄になりかけていた。そんな時にあの言葉は僕には涙を流してしまいそうになる程に、暖かくて、優しいものだった…。だからこそなんだろう、僕はミコトに対して友情とは違い、愛情に似た感情を抱いているのは…。

 

「うぅ……もう抱きしめちゃ駄目?」

「さっきみたいなのは、やっ」

「そ、そうだよね……」

 

ミコトの拒絶にがくりと肩を落とす。

 

「……でも」

 

ミコトが『でも』と言葉を続けた。

 

「でも、くるしくなかったら、いいよ?」

「い、いいの!?ほんとに!?」

「ん」

 

そんなミコトの言葉を聞いて、僕はガバッと俯いていた顔を上げキラキラと目を輝かせてそう訊ねると、ミコトは小さく頷いて見せた。それを聞いて僕は嬉しくて、また―――。

 

「ミコト~!」

「あ、あが~…」

 

―――ミコトを強く抱きしめてしまうのであった。

当然、ミコトはそのあとご立腹でしばらく話を聞いてくれなくて、そのあと散々頭を下げて謝まった末、抱きしめは禁止で膝の上に座らせる形で落ち着いた。

 

 

 

 

「それでね、この前駅前で買い物に行った時に、すっごい可愛い洋服が売ってあるお店見つけたの!あの時は一夏のプレゼントを買うのが目的だったから寄らなかったけど、今度また皆で一緒に街に行く時に行ってみようよ!」

「ん」

 

膝に乗せてペンギンなミコトを堪能しながら、とりとめのない話で夜の時間は過ぎて行く。

僕が話題を振れば、ミコトが短く相槌を返す。傍から見れば会話が成り立っていない気まずい光景に見えるかもしれないけれど、僕にとってそれはとても幸せな物だった。

小さくて柔らかな身体の抱き心地。香水を使っていないのにフワフワな髪から香る甘く優しい匂い。もうこれだけで僕には至福の時である。これ以上なにを求められようか。

 

ふふふ♪幸せだなぁ♪ずっとこうしていたいなぁ♪

 

ミコトのご機嫌を損なわないよう慎重に加減して抱きしめる。

ラウラに同じ事頼んでも嫌がってさせてくれないんだもん。せっかく猫の着ぐるみパジャマ買ったのに、学園指定のジャージをパジャマの代わりにして着てくれないし…。あんなに可愛いのに勿体ない。こうなったら今度無理やりにでも着せちゃおうかな?うん、そうしよう!

 

 

 

 

……ゾクッ!

突然身体に奔った悪寒に、ラウラはぶるりと身体を震わせて何事かと辺りをキョロキョロと見回す。

 

「ど~したの~?」

「い、いや……なんでもない…のか?」

「ほえ~?」

 

 

 

 

「よし!今度、絶対着てもらうんだから!」

「………ん」

 

新たな決意にむんっとガッツポーズをとる僕。

 

「その時はミコトもまた泊りに来てね!みんなで一緒に可愛いパジャマ着てさ♪」

「――――」

 

………あれ?

 

先程まで膝の上に座って相槌をうってくれていたミコトの反応が急に無くなってしまう。

 

「……ミコト?―――――ッ!?」

 

僕は不思議に思いミコトの顔を覗き込み。そして、僕はそれを見て驚いた。

なんと、ミコトが視点が定まっておらず明らかに意識を手放している状態だったのだ。ただ事ではない。その状態のミコトを見て僕はそう思うと、慌てて肩をがしりと掴んで大きく揺さぶり彼女の名前を呼び掛ける。

 

「ミコト!?ねぇ、ミコトってば!?」

「―――……おぉ?」

 

揺さぶられる振動にハッと意識を取り戻すと、漸く僕の呼び掛けにミコトは反応して、不思議そうな顔を浮かべて僕を見上げた。

 

「如何したの?いま完全に意識が飛んでたよっ!?」

「?」

 

何の事か分からないと首を傾げるミコト。どうやら本人は自分が意識を失っていた事に気付いていないらしい。

 

「わ、わかってる?気を失ってたんだよ?」

「んー…………もう、寝る時間だから…?」

「いや、そんな疑問形で言われても…」

 

確かに、最近のミコトの睡眠時間は一日の半分以上を占めていると言っても良い。授業中も居眠りが多いし、昼食の後も教室で寝ているのが殆どだ。もう時間も時間だし急に寝てしまっても不思議じゃないけれど……でも、やっぱりこれはどう考えても異常だ。健常者なら突然気を失う様に眠るとか有り得ない。

 

「………ねぇ!ミコト本当に………って…」

「スゥ……スゥ……」

 

気が付けばミコトはまた眠ってしまっていた。

 

「……寝ちゃった…」

 

今度は安らかな寝息を立てていて、気を失ったと言う訳ではなさそうだ。先程のことを確認したかったのだけど、起こしてしまうのも忍びないし、このまま寝かせてあげよう。

僕はミコトを起こさない様にそっと持ち上げてベッドに寝かせてあげると、僕もミコトと同じベッドに潜り込み―――。

 

「ん……」

 

―――そして、ミコトをぎゅっと抱きしめるようにして瞼を閉じる。

如何してかミコトが何処かに行ってしまいそうな不安に駆られたから……だから、大好きなミコトが何処かに行ってしまわない様に抱きしめて、その不安を腕の中の温もりで紛らわしながら眠りにつくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、平穏な日常と共に時は流れて…。

 

 

――――Side 更識簪

 

 

「ハァ…ハァ…ッ!完成したって本当ですかっ!?」

 

自分の専用機が完成した。その報告を聞いて教室から整備室までの道を息を切らせて走ってきた私は、勢い良く扉を開いた第一声に出たのはその言葉だった。

 

「おっ、情報が速いね。うん、例の機能もなんとか実用化まで持ってこれたよ」

 

こんこんと蛍光灯の光を反射させている金属を叩く黛先輩の手の先を視線で辿る。すると、そこには整備室を静かに佇む自分の愛機の姿があった。

 

「っ!………本当に完成したんだ…!」

 

未完成じゃない、完成された機体。その雄姿に感嘆の溜息を溢す。

 

「おやおや~?もしかして私達を信用していなかったのかな~?」

「い、いえ…!そう言う訳じゃないんですけど…。で、でも夢みたいで…」

 

意地の悪い笑みを浮かべる黛先輩に、私は慌てて手を振り弁解する。

すると、先輩はそんな私を見て可笑しそうに笑い出す。

 

「ぷっ、あははっ!冗談よ冗談♪そう真面目に捉えないでよ」

「あぅぅ……」

 

顔がだんだん熱くなって、私は堪らず顔を俯く。

そして、黛先輩は一頻り笑ったあと、目尻に溜まった涙を指で拭って、笑い過ぎて乱れた呼吸を整えながら話を再開した。

 

「はぁ……笑った笑った。簪ちゃんはたっちゃんと違って真面目すぎるわね。もう少し肩の力を抜いたほうがいいわよ?」

「ぜ、善処します……」

 

本音にもよく言われてるんだけど…。言う本人がマイペース過ぎるから、反面教師みたいになって、余計気が抜けなくなっちゃうんだよね…。

改めて思うけど、アレは本当に従者なのだろうか?幼馴染としてなら大切な親友なんだけど…。

 

「予定よりかなりピーキーな機体になっちゃったけど……まっ、その方がたっちゃんの不意を突くのには丁度良いでしょ」

 

隣で話す黛先輩の言葉に頷きながら、私は生まれ変わった自分の愛機を見上げる。

もう、これは第二世代型ISじゃない。第三世代の領域を踏み入れた機体。

 

「―――第三世代型IS『打鉄弐式・転』!」

 

それが、私の愛機の新しい名前だった。

 

 

 

 

 


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