IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第52話「それぞれの日常 1 」

 

 

9月ももう末が近づいてきて、夜の時間が長くなる為か、時間の流れが速く感じるようになった。

学園祭も過ぎてもう1週間程が経過。その間に起こった出来事と言えば、簪の専用機の開発が始まったくらいだろうか。それ以外にメンバーに変化は無く、ミコトの体調は良くも悪くも変化は見られない。

学園祭の後、一夏が生徒会に入ったのが影響したのか、皆それぞれ部活動に興味を示していた。元々、一夏やミコトを中心に集まっていた様なグループだ。その片方である一夏が生徒会で忙しくなれば集まりも悪くなり、暇を持て余す人間が殆どだった。しかし、最近のミコトの変化に警戒して入部は見送ることにしたらしい。前の事がある。今はミコトが目の届く所に居たいと言うのが皆の総意だ。

 

そして、皆がミコトにつきっきりになっている時に、私はというと……。

 

「はぁ…はぁ…くっ!」

 

夕陽が沈み暗闇が差してきたアリーナ。そこには重い金属音を響かせて膝をつく私の姿があった。

 

「ラ、ラウラさん?もうそろそろお止めになられた方がよろしいんではなくて?わたくしとしても特訓の相手になってくれるのは、とても有り難いのですけど…」

 

無理な訓練による身体の酷使。身体はとうに限界で、呼吸は乱れ膝はがくつき、立っているのも困難な状態。それを見かねた途中から訓練に加わっていたセシリアが、私に訓練を止める様に勧めてくるが、それでも私は止めようとはしなかった。止める訳にもいかなかった。

 

「……大丈夫だ。続けてくれ」

「今にも倒れそうなくせして何を言っていますの?今日はここまでにしておきなさいな。ここ最近、無理をし過ぎではなくて?ほら、肌寒くなってきましたし、早く着替えないと身体を冷やしてしまいますわ」

 

そう私に言い聞かせて手を伸ばしてくるセシリアの姿は、同い年の筈なのに如何してか大人びいて見えた。その姿は試験官から生まれた私には知りもしなければ存在さえしない『母』というモノと重なる。

思えばミコトもいつもの面子の中で、特にセシリアに甘えている様な気がする。ミコトは本能でセシリアは自分が甘えられる母性を持つ人間だと感じたのだろうか?例え知識は刷り込まれているとはいえ、ミコトはまだ生まれて一年も満たない赤子も同然。私のように軍人として育てられたのなら兎も角、そうじゃないミコトは母親の温もりを求めるのは当然のことなのかもしれない。

 

そう言えば、ミコトの母親は……。

 

「…………」

「? 如何かいたしましたの?」

 

首を傾げて不思議そうにセシリアは私の顔を覗きこむ。

 

「……いや、何でもない」

「そうですの?」

 

シュヴァルツェア・レーゲンを待機形態に戻し、やんわりと差し伸べられた手を払い除けて立ち上が―――ろうとしたのだが、がくんと膝に力が入らずに体勢を崩す。

 

「……っと」

「あぁ、もうっ、言わんこっちゃない」

 

前倒れになる私をセシリアは正面から抱きとめる。

セシリアの胸に頭が沈んだ際に香って来たとても良い香りが私の鼻を擽る。香水だろうか?戦う事しか能が無く、女としても魅力が無い私には縁の無い香りだ。

 

……だが、嫌いではない。

 

ミコトがよくセシリアの胸に顔を埋める気持ちが良く分かる気がする。

 

「やはり無理をしていたのではありませんか!ほら!貴女がなんと言おうと戻りますからね!」

 

眉を吊り上げてセシリアはそう怒鳴ると、強引に私を自分の背に乗せて更衣室へと歩き出す。

 

「お、おい……」

「まったく、ラウラさんが小柄で助かりましたわ。これがもし他の方でしたらわたくしなどでは運べませんもの」

 

突然のセシリアの行動に戸惑う私に、セシリアは構わずにぶつぶつと文句を垂れながらも私を降ろそうとはせずに歩いていく。

流石に気恥かしさもありぐいぐいと腕に力を入れて離れようと試みたが、どうやら自分が思っていた以上に疲労していたようで身体に力が入らず、そのうえセシリアも離そうとはしなかったため、この状態から抜け出す事は叶わなかった。

私は仕方なく運ばれるのを受け入れて、セシリアの方に顎を置く。そして、気が抜けた所為もあったのだろう。胸に秘めていた弱音をぽつりと溢してしまう。

 

「……情けないな」

「え?」

 

私の呟きに何の事か分からず顔をきょとんとさせるセシリア。

 

「守ると言っておきながら、今もこうして周りに迷惑を掛けている」

「………」

「生れた時から軍人として育てられた。戦う事しか出来ない。それしか知らない。だというのにこの有様だ……本当に情けない」

「……貴女が何を言っているのか、わたくしには分かりませんが」

 

私の弱音に黙って耳を傾けていたセシリアは、此方に顔を向けようとはせずに、前に向けたまま歩きながら語り始めた。

 

「別に迷惑を掛けても良いではありませんか。友達なんですもの。わたくしは頼られて嬉しく思いますわ」

 

背中からでは表情は見えないが、セシリアは本当に嬉しそうに語る。その様は先程の大人びいて見えていたのが嘘のように、玩具を貰って喜ぶ子供のようだった。

 

「わたくしは、故郷で誰かに頼ることも頼られることもありませんでしたわ。他人を信頼していませんでしたから」

「む?どういう事だ?友達が居なかった訳ではないのだろう?」

「わたくしが故郷で友達と呼んでいる人達は、その……とても裕福な家庭の人達ばかりでしたの。そういう人達は家との交友のために近づいてくる人ばかり。わたしくしが友とと呼んでいる人達も、家にとって有益であるかないか、損得勘定での上辺だけで関係でしか無い。とても信頼を寄せられる人達ではありませんでした。それに、わたくし自身もそれを望みませんでした。両親が残してくれた遺産を守るためには、心を許せる人達は周りには居ませんでしたから…」

「………」

 

セシリアから聞かされた私が想像していたものとは、まったく懸け離れた現実に言葉を失う。何の不自由のない裕福な生活を送っているとばかり思っていたのだが、こんな重いものを背負っていたとは…。

周りの令嬢達は親の手先として言い寄って来る人間が大半の生活。そんな生活を送っていれば人間不信になってもおかしくは無いだろう。まして、まだ心が未熟な少女なら尚更だ。だが、目の前の少女はそうなっていない。それだけ家を守ろうとする強い意志が、きっとセシリアをこうも気丈とさせているのだろう。

 

「初めてでしたわ。腹の探り合いが無ければ、損得を考えた関係でも無い、そんな友達を得られたのは」

「………」

 

私も同じだ。軍に居た頃は友達なんてものは居なかった。信頼を寄せてくれる部下達は居たが、友達と言う関係ではない。この学園に来て、ミコトと出会って初めて友達と言う物を得た。

 

「助けを求めれば助けてくれる人がいる。それってとても素敵な事ですのよ?」

「……ああ、そうだな」

 

此処に来るまではそんな考え方はしなかっただろうが、今はそう思う事が出来るよ。

 

「先程の守るというのは、ミコトさんのことですの?」

「…何故、そう思う?」

「分かりますわよ。ラウラさんがそう必死になるものなんて、ミコトさん以外にありませんから」

 

可笑しそうにくすくすと笑みを溢すセシリアに対して私はムッとなる。見通されているのは何だか気に喰わない。

そんな風にからわれて数十秒ほどした頃だろうか、笑い声がピタリと止む。

 

「……わたくし達は頼り無いですか?」

「っ…」

 

セシリアの悲しそうな声が私の胸に抉るように突き刺さる。

 

「今のラウラさんを見ていると、とても辛いですわ。何も全て自分だけ背負おうとしなくても良いではないですか。確かにわたくし達はラウラさんよりISの技量は劣るかもしれません。でも、それでも、一緒に戦う事は出来ますわ」

「……そんなことはないさ」

 

お前達が頼り無いなんて事は無い、そんな事は決して無い。お前達はこれ以上に無い程に信頼できる友人だ。

 

「なら……」

 

でも、でもな…セシリア。

 

「……違う」

「えっ?」

「違うんだよ。セシリア……」

 

それ以上、私は何も言わずに固く口を閉ざし言葉を紡ぐ事は無かった。

セシリア…お前が思っている現実と、私が知る現実は余りにも異なっていて……余りにも残酷なんだ。きっと、お前は頭が良いから勘づいているのかもしれない。ミコトの正体に、今後起こり得る未来に、けれどそれは確信に至っていない。だからまだそんな平然としていられるんだ。それを確信した時、どれだけ後悔するか、どれだけ明日を怯えることになるか、お前は分かっていない…。

 

私は……私は強くなりたい。

 

「…………ぁ」

 

ふと気が付けば肩に置いてあった筈の私の両腕はセシリアの首に回っていて、セシリアにぎゅっと抱き着くような形になっていた。

 

「……ふふっ、まるで小さな子どもですわね」

 

セシリアはそれを拒絶しようとはしない。ただ苦笑してそれを受け入れて、先程の言葉の意味も深くは問いつめようとはしなかった。ミコトに関わることついての探索は禁止されているからもあるのだろうが、それ以上に私を気遣っているんだと思う。

 

「………」

 

ぼふんと髪に顔を埋める。そしたらまた、あの心地良い香りが鼻を擽り、暖かな温もりが疲れきった私の意識を眠りへと誘う。

 

……嫌いではない。

 

この安心感、こういうのをきっと……。

 

「……母上」

「誰が母上ですか」

 

無意識にぼそりと呟かれたその言葉。けれど、その言葉を呟いた瞬間、ごつんと後頭部でおでこを小突かれて叱られてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 更識簪

 

 

本格的に『打鉄弐式』の開発が始まってから数日。ここ第二整備室はイカロス・フテロβの完成から冷めていた熱が再発して、工具の音や活気に満ちた声が整備室に飛び交っていた。

ミコトが掲示してくれた『イカロス・フテロ』のデータは打鉄弐式の開発に大きく貢献してくれた。特に展開装甲のデータは物凄く、その万能性はスラスタ―だけではなく、未完成であった荷電粒子砲にさえ役立った。

 

「う~ん…」

 

山のように積んである機材に腰をかけて、黛先輩が困った表情を浮かべて『打鉄弐式』を見上げている。

しかし、黛先輩を困らせるそれは殆ど完成された状態だった。そもそも、『打鉄弐式』自体は先輩達が手伝ってくれる前から完成されていた。問題となっていたのは中身。その中身もマルチ・ロックオン・システムを通常のロック・オン・システムに変更したところを除けば、先輩達の尽力とイカロス・フテロの齎したデータのおかげで解決している。そう、本来の『打鉄弐式』はもう完成している。だけど、黛先輩を困らせているのは、その本来なかったものが原因だった。

 

「やっぱり今までに作ったこと無い武装だから思う様に捗らないねぇ」

 

黛先輩を悩ませているもの。それは、私が提案したイカロス・フテロの展開装甲を参考にした武装『攻性障壁』。この武装はまったくの未知の領域の武装だ。例え参考する物があったとしても、そう簡単に作れるものでは無かった…。

 

「面白い発想ですけどぉ、これぇいろいろとぉ問題ありありですよぉ?」

「だな、これ使うのにシールドエネルギーを消費するってのはな。しかもその後はシールドバリアが暫く使えないから、使いどころ誤ったら自爆だぜ?本当にこれでいいのか?」

「は、はい。覚悟の上ですから…」

 

2年生の先輩方の問いに、私は言葉に詰まりつつもしっかりと答える。

 

「なら良いんだけどさ。まあロマンがあってアタシは好きだぜ?こういうの」

 

先輩はそう言うと、ニカッと楽しげに笑って作業に戻っていった。

 

「ん~…これはぁAICのデータもぉ欲しいところですねぇ」

「それくらいなら、私達だけでもなんとかなるんじゃない?理論は分かってるんだからさ」

 

何か凄いこと言ってる…。

 

まあ、自分も人の事言えないかもしれない。学生が現状存在しない兵器を作るだなんて、自惚れも甚だしい。

 

「…とっ、でも今日はこの辺にしよっか。もうこんな時間だし」

 

時計が指し示す時間はもう5時を過ぎていた。整備室が使える時間は6時までだが、道具の片付けなどを考えるとそろそろ止めないといけない時間。

 

「じゃあ今日はぁここまでにしましょうかぁ」

「そうすっか、あ~腹減ったぁ~。今日何食べっかなぁ~?」

 

黛先輩の終了の言葉を合図に、他の先輩方もそれぞれ手慣れた様子で片付けを始める。勿論、私も先輩達と一緒に片付け作業に加わっている。ろくに役に立てないのだから、せめてこれ位しないと申し訳なくて仕方が無い。

慌ただしく片付け作業をこなし、片付けもあらかた済んだ頃にはもう時間はギリギリで、窓から見える外の景色はすっかりと暗くなってしまっていた。 こう暗くなってしまえば流石に部活動で残っていた生徒達も寮へ帰ってしまい、人気のない校舎は怖いくらいに静まり返っている。季節外れではあるけど、まるで怪談話のワンシーンのようだ。

 

「…こう暗いと普段過ごしている学園も怖く見えますねぇ」

「そう言えば一学期に、一年の寮で幽霊が出たって騒いでたっけ…」

「な、何言ってんだよ幽霊なんて居る訳ないだろ…なぁ?」

「そ、そうですよ…」

 

ぺた…ぺた…。

 

「「「「え?」」」」

 

そんな会話をしていると、このタイミングで廊下から小さな足音が耳に聞こえてくる…。

 

ぺた…ぺた…。

 

もうこんな時間だ、生徒は寮に帰って校舎には居ない筈。でも、足音はゆっくりとした歩調で静かに響いて少しずつ少しずつ此方へと近付いてくる……。

 

ぺた……。

 

そして、この部屋の前でピタリと足音が止まった…。

 

「「「「………」」」」

 

ドアの前に止まった足音。不気味にしんっと静まり返るこの場の空気に全員がごくりと唾を呑む。そして、整備室入口のドアがガラリと音を立てて開いた。

 

「「「「っ!?」」」」

 

皆が身構える。しかし、ドアから現れたのは…。

 

「簪、かえろ?」

 

ドアから現れたのは、少し眠たそうな表情をしているミコトだった。

 

「「「「……はぁ~」」」」

 

「?」

 

それを見て安堵の溜息を吐く一同。そんな私達にミコトは不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

「今日もありがとうござました」

「うん、バイバイ!」

「おつかれさまですぅ」

「また明日な~!」

 

学年が違うため寮が別々な先輩方とは途中で別れを告げて、ちらほらと輝く星空に照らされて一年学生寮へ続く道を歩く。

 

「簪、順調?」

「うん。色々と行き詰ってるところはあるけど……ミコトは今日は何をしてたの?」

「たっちゃんのところで、お菓子食べて、そのあと本音と一緒に寝てた」

「ふ、二人らしいね……」

 

その光景が容易に想像できるのってどうなんだろう…。

 

そんな近状報告を交しながらミコトと歩いていると、急にミコトが立ち止まり私を見上げてくる。

 

「ね、簪」

「うん、何?」

「専用機が完成したら、簪はどうするの?」

「え…?」

 

突然、何を聞いてくるんだろうと私は思った。そんなの今更になって聞く必要なんてないじゃないって…。でも、ミコトはそんな当たり前の事を聞いて来た。純粋な瞳で、何もかもを見透かすかのように私を見つめながら…。

 

「簪、周りの人から認められたい」

「……うん」

 

生徒会長・更識楯無の妹としてではなくて、更識簪として認められる。そのために打鉄弐式を完成させる。そう、思っていた…。

 

でも、今は…。

 

「でも、今の簪、そうじゃない。もうそんなの気にしてない」

「…っ!?」

 

どうして、この子は…こんなにも、人の気持ちが分かるんだろう…。

 

隠し通せない。そう思った私は、当日まで黙っていようと決めていたことを、全てを白状することにした。どうせこの子には隠し事なんて出来そうにないから…。

 

「……私…お姉ちゃんと決闘を申し込もうと思ってるの……今までの自分にけじめをつける為に……」

「けじめ?」

「うん、けじめ」

「なんの?」

 

なんの…なんのかな?言葉にしづらいけど、ミコト風に言うと…。

 

「仲良くする為の……かな?」

「そっか」

 

私の言葉にミコトは短く答えると…。

 

「簪、がんばる」

 

…ミコトは笑顔で応援をしてくれた。

 

「………うん!」

 

姉との決闘。それは自分で決めたことだけど、それでもまだ不安があった。でも、ミコトのおかげでその不安はもうない。勝てない勝負。そんなの最初からわかってる。でも、私は臆する事は無いだろう。ここにこうして応援してくれる友達がいるから…。

 

「ミコト、ありが………あれ?」

 

ミコトにお礼を言おうとしたのだが、そこで妙なものを視界の端に捉えてしまいそれは中断される。

私が見たもの…。それは、ラウラさんをおぶるセシリアさんという奇妙な光景だった。

 

…え?え?なにしてるのあの二人?

 

一夏くん達のグループ混ざるようになってから日は浅いけど、二人ともこんな目立つような事するキャラだっけ…?

そんな二人に私は困惑していると、ミコトも二人に気付いてテケテケと二人の所へ小走りで駈けていってしまう。

 

「ちょっ、ミ、ミコト!まっ……」

 

咄嗟に止めようとしたけど、私が止める間も無くミコトは二人の目の前へ…。

 

「あら?ミコトさんも今帰るところですの?」

「な、なに!?ミ、ミコトだと!?」

 

ミコトと聞いた途端、カァっとまるで茹でダコみたいに真っ赤に染まり上がる。けれど、そんなラウラさんに気付いた様子も無く。ミコトは期待に満ちた表情で、セシリアさんのスカートを子供が親にせがむ様にくいっくいっと引っ張った。

 

「セシリア。私も、私も」

「んー、二人同時は流石に無理ですわね」

「ぶぅ…」

 

やんわりと断られ、不満そうに頬を大きく膨らませるミコト。すると、背負われていたラウラさんが突然暴れ出した。

 

「お、降ろせ!こ、このっ!」

「いたっ!?いきなり暴れないで下さいなっ!?ちょ、こら!?なに他人様の髪を引っ張って……あいたたたたっ!?」

 

いきなり背中でジタバタと暴れ出したかと思ったら、ラウラさんは今度は髪を引っ張りだし、セシリアさんは堪らす拘束を緩めると、ラウラさんはその隙をついて背中から飛び下り、シュタッと地面に着地すると…。

 

「う、うわあああああああああああああ!」

 

変な悲鳴をあげながら、ズドドドドドッ!地響きを響かせて走り去っていった…。

 

「いたた……こ、こらぁ!待ちなさーいっ!」

 

髪型をめちゃくちゃにされたセシリアも、逃げて行ったラウラさんを追いかける。

 

「人の髪をめちゃくちゃにしてぇ!この髪をセットするのにどれだけ時間が掛かると思っていますのぉ!?」

「だ、黙れぇ!追って来るなぁ!」

 

暗くなったグランドを追いかけ回る二人。そんな二人を私とミコトは見守る。

 

「えっと…仲良いね?二人とも…」

「ん。友達だから」

 

にんまり笑ってミコトは言う。

友達。何か違う気がするけどミコトが言うんならきっとそうなんだろう。ミコトの笑顔に私は苦笑で返すと、また二人へ視線を戻すのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑千冬

 

 

「まったく、最近忙しなくていかんな。落ち着いてお茶も飲めやしない」

 

職員室にある自分用のデスクに腰を掛けて、淹れてからかなり時間が経過して温くなったお茶に顔をしかめて渇いた喉をうるおす。

授業が終われば、その後はキャノンボール・ファスト当日の警備体制の確認、緊急事態が発生した場合の対処、情報規制の手続などの打ち合わせ等々、似たような事ばかりを何度も何度も飽きもせず繰り返し話し合う毎日に、私もいい加減嫌気が差していた。

 

「世界各地でも頻繁に軍の重要施設が襲撃されたという噂もありますしね。あくまで噂ですけど」

「噂にしては身に覚えがあり過ぎるがな」

 

忙しないのはIS学園だけではない。ここ最近世界各地の重要施設が何者かに襲撃されているという『噂』をよく耳にするようになった。

事実にせよ如何にせよ、各国はそれを認める事は無いだろう。まして、本当に貴重なISを奪われていたのなら尚更だ。一機で国を滅ぼせる戦力を有しているISを奪われたなど、所有国としての管理責任が問われて、国の所有しているISは全てIS委員会に没収されてしまうだろう。どの国もそれだけは避けたい。だから隠蔽する。そんな事実は無かったかのように…。

 

「シュヴァルツェア・レーゲン、銀の福音、アラクネ、サイレント・ゼフィルス……」

「ボーデヴィッヒさんの証言から『Berserker system』を埋め込んだのは、亡国機業だと言う事は明らかです。アラクネとサイレント・ゼフィルスに関してはもう考えるまでもないですね」

「……ああ」

 

二機は軍内部から、残り二機は恐らく武力での強奪。どちらもちんけなテロリストなんぞでは遂行する事はまず出来ない。それ程に世界に根付く『亡国機業』という闇は深く凶悪な存在なのか…。

そして、予告された大規模な襲撃作戦…。

 

「来月に学園外で行われるキャノンボール・ファスト。襲撃されるとしたらその日だろう」

「……そうですね」

 

学園外のイベントとなればそれだけ多くの一般人来訪客が訪れる。ともなれば警備の目も届かない箇所が出てくるだろう。学園祭の時とは違い入場に制限は無い。しかも学園外と言うのがネックだ。学園内と同じようにはいかない。何か問題でも起きれば混乱は必至だ。考えれば考える程、頭が痛くなる

 

「何も無理に行うこと無いんじゃありませんか?襲撃されると分かっているのに…」

 

山田君の言う事は尤もだ。私も含めて誰もがそう思っているに違いない。だが……。

 

「市との合同行事だ。世界各国からIS産業関係者や政府関係者も来る。中止には出来ない。延期するのだって色々と無茶をしたらしい」

 

それに、委員会はその中に『亡国機業』の関係者が潜んでいる可能性がありと睨んでいる。恐らく上層部はこの機会を利用して、危険を冒してでも『亡国機業』の構成員を捕えようと企んでいるのだろう。これは謂わば餌と言う訳だ。

 

さて、そんなにうまく事が運ぶかな?

 

第二次世界大戦から存在する闇の組織。そう簡単に捕まってくれるのなら今頃とうに滅んでいると思うのだが…。と言うのは私の意見だ。

 

「最悪の場合を想定して、教員が搭乗したISを10機配備することが決まっているが、先日の襲撃で国家代表クラスの操縦者も確認されている」

「サイレント・ゼフィルスの操縦者…」

 

険しい表情を浮かべてそう答える山田君に私は頷く。

 

「国家代表は別格だ。並みの操縦者では相手にならん。うちの教員は優秀だが、それでも4対1でなんとか互角と言うレベルだろう」

「そうなると、更識さん頼りですか…」

「………」

 

確かにロシア代表の更識ならサイレント・ゼフィルスの相手は出来るだろうが、それを連中が何も対策なしで襲撃してくるとは思えん。

 

「………最悪、私も出るさ」

「ええっ!?織斑先生がですか!?」

 

何を驚く?戦力が必要なら現状で使えるものは使うだけるだけだ。そう、『使えるもの』を、な…。『アイツ』も何時までも埃を被ったままでは気の毒だ。お互いに溜まった鬱憤を晴らすとしようじゃないか。

 

 

 

 

 

 


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