IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

46 / 77
第37話「皆でどこにいく?なにをする?」

 

「んー………」

 

現在は夏休み。外では蝉の鳴き声が響いている中、私は冷房の利いた部屋で目前にある机の上に広げられたプリント用紙と睨めっこをしてうんうんと唸っていた。

私を悩ませているプリント用紙に書かれた文字はこう記されている。―――『夏休み計画表』と。

 

「んん~………?」

 

『夏休み計画表』。その名前の通り、夏休みの計画を記すための表のこと。

別に特殊な書類や機密が書かれた暗号文なんて大層なモノでは決して無い。けれど、私を悩ませるのにはそれは十分なものだった。

 

「あれもしたい。でも、これも……う~……」

 

書いては消して書いては消しての繰り返しを続けてかれこれ数時間。けれど、計画表の空白欄は一向に埋まる気配が無かった。

去年の冬とは違う。寮には一夏が、箒が、皆が居る。一人ぼっちの休みじゃない。色んな事が出来る。色んなところに遊びに行ける。やりたい事がやってみたい事があり過ぎて頭がいっぱいになって、溢れかえってこんな紙一枚じゃ全然足りない。

 

悩みに悩んで目の前の計画表に悪戦苦闘する私。すると、部屋の入口のドアが勢いよく開かれる。

 

「みこちーただいまー!アイス買って来たよー!」

 

部屋に入って来たのは妙にコンビニの袋を片手に持った本音だった。

何か突然「食堂の上品なデザートじゃ物足りないよー!」とか言い出して飛び出して行ったんだけど、コンビニに行ってたんだ…。あれ?学園の近くにコンビニなんってあったかな…?

 

「ん。本音、おかえり」

「いやー、夏のデザートと言ったら冷たいアイス!やっぱりこれだよねー♪食堂のデザートじゃこの安っぽい味は………って、あれー?何してるのー?」

 

本音は机にへばり付いて奮闘する私に興味津々で机を覗きこんで来ると、机の上にあるプリントに気付く。

 

「………夏休み計画表?」

「ん。真耶がこれ書いて提出しろって」

「ふ、ふ~ん。そうなんだ~(うわぁ~懐かしい…。小学生以来だよ夏休み計画表なんて見たのー…)」

 

…? なにか本音の顔が引き攣ってるけどどうしたんだろう?

本音の様子が気になるけど私は計画表の作成を再開する。夕方までにはこれを完成させて真耶に私に行かないといけないから。今のペースじゃどう考えても間に合わない…。

 

「んー……」

「(すっごく悩んでるなぁーみこちー。プリントも何度も消した跡が残ってるしー……よし!) ねえねえみこちー!」

「わぷっ…何?」

 

突然、がばっ!と椅子に座る私の背後から首に腕を回して抱き着いてくる本音。一体何事…?

 

「その計画表さ!皆と一緒に考えようよ~!」

「皆と一緒?」

 

私がそう返すと本音は笑顔で頷く。

 

「だってみこちーは皆と遊ぶ予定なんだよね?だったら皆と相談するのは当然なんじゃないかなー?」

「……………おー」

 

暫し考えてぽんっと手を叩く。

それは盲点だった。成程、考えれば考えるほど本音の言う通りだ。理に適ってる。

 

「それじゃあ!おりむー達の所にレッツゴー!だよー♪」

「おー」

 

 

 

 

 

 

 

第37話「皆でどこにいく?なにをする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「計画表かぁ…。これはまた懐かしい物を…」

 

のほほんさんから此処に至るまでの経緯を聞かされると、俺達に囲まれる様にしてテーブルの上に置かれている事の発端である『夏休み計画表』に視線を落とす。

まさかこの歳になってこんな物を見るとは想わなんだ。しかし山田先生は何を考えてるんだか。ミコト限定でこんな課題?を与えるなんてさ。明らかにミコトに対する扱いが小学生レベルだろうに…。

 

「ほんっと懐かしいわねぇ~。あたし夏休みの最終日まで放ったらかしにしてたわコレ」

 

プリントを摘まみひらひらと揺らす鈴。

ああ確かになぁ。そもそも長い夏休みの計画なんて子供に立てられる訳が無いんだよな。宿題の配分?HAHAHA宿題なんて最終日にやるもんだろ?計画通りに行く訳ないない。

 

「まさに無計画をそのまま形にした方ですわね…。日々のぐうたらな生活態度といい、自分を見つめ直してみてはどうですの?」

「うっさい」

 

暑いからと部屋から出ずグータラ過ごしている鈴にセシリアは呆れるが、鈴はぷいっと顔を逸らし全然反省する様子も無い。昔から暑いの苦手だからなコイツ…。いやだからって不健康過ぎるだろう。

 

「あ、あのさ。話戻そ、ね?」

「うむ。今は鈴の生活態度がどうこうする話ではないしな」

 

脱線しかけている話題をシャルロットが戻そうとするとラウラもそれに続ける。確かに今そんな話をしても余りに不毛すぎる。

 

「それじゃあ手始めに明日の予定を決めちゃおっか」

「お?何かあるのか?」

 

幸先よいスタートだが、やけに乗り気なシャルロットに俺は気になって尋ねる。

 

「あはは…うん。けっこう重要な案件なんだよねこれ。早急に何とかしたいって言うか…」

 

何故か頬を染めてハッキリとしないシャルロットに首を捻る。何か言い辛い事なのか?

 

「あの、さ…。皆、勉強会の事覚えてるかな?」

「それは…まぁ」

「ねぇ…?」

「う、うむ…」

 

勉強会と訊いた途端にのほほんさん、ラウラ、ミコトを除いたメンバーの顔が紅く染まる。無論、俺もその内に入る。てか何で今その話が出てくるんだ…。勘弁して下さいマジで。居心地が悪いです…。

 

「あははー♪楽しかったよねー♪」

 

『(((((それはない!断じてない!)))))』

 

呑気なのほほんさんの言葉に全員は口にはしていないが、表情でそれを否定しているのは分かる。

 

「それでさ、ラウラがパジャマとか持って無かったじゃない…?」

 

…あーそう言えばそんな事言ってたな。あの時は確かのほほんさんが自分のパジャマを貸してあげたんだっけか。

 

「それがどうかしましたの?」

「それが問題なんだよ。えっとね……皆、ラウラが寝る時どんな姿か知ってる?」

 

皆がふるふると首を左右に振る。

 

「えっと、その……ね…?その……」

 

なかなか話さないシャルロット。けれど、シャルロットの顔は段々と赤みを増していき、それがリンゴの様に真っ赤に染まった時に遂に口を開いた。

 

「…………裸なの」

「………え?」

 

ぼそりと呟いたシャルロットの言葉が聞き取り辛くてもう一度訊ねる。なんだって?

 

「だから……裸なの!寝る時!」

 

ピシリッ…

 

「なん…だと…?」

 

裸…?まじで…?

 

予想もしなかった事実に俺も皆もこの場の空気も硬直する。寝間着が無いとは訊いていたが、まさか裸で寝ていただなんて斜め上を行き過ぎていた。てか年頃の女の子としてそれはどうなのよラウラさん…。

 

「―――ハッ!?……あぅ~…///」

 

思わず大声を出してしまったシャルロットは、俺達を除くそのフロアに居た女子生徒達の自身に集まる視線で己の失態に漸く気づくと顔を真っ赤にさせて俯く。無論、それを聞いた俺達も同様だ。

 

『…………』

 

「裸…?」「寝る時…?」と周りの女子がひそひそと話をしている中、俺達の間には何とも言えない妙な沈黙がこの場に流れる。

あ、この空気やばい。なんかすごい居心地が悪い。男の俺が此処にいちゃいけない気がする。まるであの勉強会の時のような…。

 

……よし!逃げよう!

 

その考えに至るまで時間は数秒もいらなかった。

俺はガタンっと勢い良く椅子から立ち上がると、この場から逃げ出そうと試みた。―――しかし、その瞬間。がしっと何者かによって腕を掴まれ逃走を阻止されてしまう。

 

「………っ」

 

たらりと嫌な汗が頬を伝う。

そして、俺の腕を掴む手の主を視線で辿っていくと――――そこにはやはり、にこにこと笑顔を浮かんベるのほほんさんがいた…。

 

「……アハ♪」

「―――――」

 

――――のほほんさんからは逃げられない!

 

笑顔だというのに何とも言えない異様な威圧感に俺は抗う事が出来ず黙って再び席に着く。

けれど、俺が席に座ったところで羞恥心で満ち溢れるこの場の空気で話し合いなんて出来る雰囲気でも無い……のだが、のほほんさんは『その場の空気?そんな事知った事じゃねえ!俺は俺の道を行くぜ!』てな感じのノリで、無理やりそれをぶち壊して話を進めるのであった。

 

「それじゃあ~、明日は買い物に出掛ける言う事で決定~♪いいよね~?いいよね~?」

 

答えなんて聞いていないと言った勢いののほほんさんだったが、数名程申し訳無さそうにのほほんさんの提案を断る。その中の一人に俺も含まれてたりする。いや、だって……肌ってことは下着とかも買うんだろ?勘弁して下さい…。

 

「……すまん。明日は神社の手伝いがあってな。祭りも近いし色々と準備をしなけれればならない」

 

ああ、そうか。今は親戚の人が管理しているからと言っても、元々は箒の実家で、それも夏休み中はお世話になってるから8月の末に篠ノ之神社で行われる祭りの準備を手伝わない訳にもいかないよな。

 

「あたしもパス。暑いのに出掛けたくない」

「…今からでも外に放り出してさしあげましょうか?」

「出掛けたくないでござる。絶対に出掛けたくないでござる!」

「………」

 

こめかみに青筋を浮かべたセシリアが首根っこを掴んで鈴を窓から放り投げようとするが、鈴も負けじとテーブルに噛り付いてわけのわからない事を言いながらそれに抵抗する。本当に何を言っているんだこのツインテールは……。

 

「だ、駄目だこの子。早く何とかしないと…」

「あきらめろ。試合終了だ」

 

鈴やシャルロットもそうだが、ラウラもどこからそんなネタを仕入れてくるんだ。……あ、のほほんさんですね分かります。よくよく考えればこの人しか居ないじゃないか。

しかし何だこのカオス空間は…。先程までの雰囲気が嘘の様……いや、今の雰囲気が良いかと訊かれたら絶対にNOと答えるが…。

 

「はぁ…駄目ですわ。梃子でも動かない気ですわね、このぐうたら中華娘…」

「誰がぐうたらか」

「鏡を見なさいな」

 

鋭いセシリアのツッコミ+手鏡アタック。けれど鈴も動じる様子も無く攻撃も見事に受け止める。いやそこは動じろよ…。

 

「しかしながら、わたくしも残念ながら明日は外せない用事がありますの。…申し訳ありませんが明日はご一緒の出来ませんわね」

「ありゃ~、そうなんだぁ~。ちなみに用事ってー?」

「家が経営している会社の取引相手と日本で会う事になっていますの。本来予定の無かった急な面会なのですが、とは言え流石に個人的な理由で取引先相手の面会をキャンセルするという訳にもいきませんから…」

 

そう言って本当に申し訳無さそうにして頭を下げるセシリア。

仕事なら仕方が無い。セシリアは責任を背負わなければならない立場なのだから責められる云われは無い。逆に友達であるなら応援してあげなければならない筈だ。

 

「おいおい、セシリアが謝る事じゃないだろ?仕事なんだからしょうがないじゃないか。むしろ俺達と同い年なのに会社を背負って立ってるんだからすごい事だろ」

「ん。これは、私のわがまま。セシリアは気にしなくていい」

「そう言って頂けるだけで救われますわ…」

 

自由気ままな生き方を好むミコトにとって、他者の行動の制限をしてしまうのは何よりも嫌な事なのかもしれない。ミコトの表情からは何時にも無く真剣な物でセシリアに自分の事は気にするなと熱心にフォローを入れていた。

その真剣なフォローもあってか、セシリアも何も気負いする事も無くこの話は終わる。セシリアも相当心苦しかったんだろうな。心底安心した様子で笑顔を浮かべていた。

 

「ですが、明日以降は夏休み中は全て空いていますわ。とことんミコトさんにお付き合いして差し上げます♪」

「ん♪セシリアと遊ぶ♪」

「ふふ、楽しみですわね」

 

傍から見れば母と娘の様なその微笑ましい光景に皆和み綺麗に終わるかと思いきや、それを裏切るのが毎度ののほほんクオリティー。ちゃんとオチを用意していやがりました。

 

「―――で、おりむーは何で買い物に行けないのー?」

 

Oh……。

 

このまま何も言わなければ訊かれずに済んだ雰囲気だったのに何でわざわざ爆弾を投下するかねこの子は…。

 

「勘弁して下さい!女子の服の買い物に付き合うとかどんな拷問だ!?」

 

「「「「あー……」」」」

 

箒、鈴、セシリア、シャルロットの面々が俺の言葉の意味を察したのか、恥ずかしそうに頬を染めて俺から眼を逸らす。そりゃ自分の下着を買うのに男が一緒というのは恥ずかしいだろう常識的に考えて。…まあ案の定、天然組は不思議そうにして首を傾げているけどな。

 

「う?」

「何故拷問なのだ?服を選ぶだけだろう?」

「それが問題なんだ!」

 

女性用下着売り場で男なんて居てみろ。想像しただけで死にたくなる。

最悪、女性客に警備員呼ばれて連行なんてこともあり得る。世間での男性の立場は低い。女性が何か言えばこちらに非が無くても罰せられるなんて良くある話だ。そう言う事にならない為にもなるべくそういう女性が集まる場所に行くのは避けたい。特に電車なんてのは男性がもっとも恐れられている場所でもある。満員電車ダメ絶対。

 

「と言う訳だから。俺も明日はパスだ」

 

そもそも女子の買い物。特に服関連は長いからな。中学の頃、鈴と弾の3人で街に遊びに行って、鈴の買い物に散々付き合わされてクタクタになった経験があるからな。出来れば遠慮したい。

 

「ぶぅ~っ!レディーをエスコートするのが~男の子の務めじゃないかな~?」

「下着売り場のエスコートなんて御免被る」

「ぶぅ~ぶぅ~!」

 

そのぶうぶう言うの止めなさい!

幾ら唸っても駄目です。俺にだって男の尊厳と誇りがあるのだ。

 

「本音さん。そのへんで許してあげたらどうですの?一夏さんだって好きで断っている訳でも無いんですし」

「ぶぅ~…」

「豚かアンタは」

 

あ、俺が言いたくても怖くて言えなかった台詞を…。

 

「うわーん!りんりん酷いよ~う!」

「りんりん言うなっ!」

「んにゃ~!?い~た~い~っ!」

 

うわ、容赦無いぐりぐり攻撃だ。てか自分は暑いからって理由で断っておいてそれは無いだろ鈴…。

中国に戻ってから更に暑いのが苦手になったのだろうか。良く分からんがそんなに環境が違う物なのだろうか?鈴の場合はただ単に暑いのが苦手なだけな気もするが。

 

「やめなさいな」

 

セシリアは呆れながらぺしんっと鈴の後頭部を叩いてぐりぐりを止めさせる。セシリアはもうあれだな。俺達の立派なストッパー的な存在だな。初対面の時の高圧的な態度は何処へやらだ。今じゃママってからかわれても吝かでもなさそうにしてるし。

 

「とにかく。強要する物ではありません。別に皆で行く事に拘らなくても夏休み中は機会は幾らだってあるんですから」

「は~い…」

 

助かった…。

 

ここまで正論を並べられては、流石ののほほんさんも引き下がる他無い。といっても、半分は遊び感覚で言ってたみたいでそこまで残念そうでもなかった。断られるのは予測範囲だったのか。恐ろしい娘である…。

 

「じゃあ、明日は僕とラウラと本音とミコトの4人で駅前で買い物って事で」

「ん。それじゃあ書くね?」

 

ミコトはそう言うと嬉々としてスケジュール表に『お買いもの』と文字が書いていき、最初の空欄が埋められていく。しかし漸く一日目か。これは全て埋めるまで先は長そうだ。

 

「ああ、それはそれとして―――シャルロットさん?ちょっと…」

「うん?何かな?」

 

セシリアはシャルロットに声を掛けると、シャルロットの手を引いて俺達から離れたところへと移動し、ちらちらと此方を窺いながら何やら内緒話を始めた。

 

「実はですね。ミコトさんも下着を持っていない様なんです」

「ええっ?それ本当なの?」

 

…ふむ。全然会話の内容が聞き取れない。ISの機能を使えばこの程度の距離なら簡単に音は拾えるのだが、流石にそれはマナー違反と言う物だろう。親しき仲にも礼儀ありだ。

 

「はい、わたくしもつい先日知りましたわ…。ですから、買い物をする際にはミコトさんの下着もお願い出来ますか?」

「う、うん。任せて。でも本音に頼めば良いんじゃない?」

「下着くらいちゃんとした物を選んで差し上げないと…」

「あ、あはは…」

 

お。どうやら終わったみたいだな。

セシリアとシャルロットの二人は会話を終えると、再び此方へと戻って来る。一体何を話していたのだろう?

 

「おう、おかえり。何を話してたんだ?」

「え、ええっと……ひ、秘密っ!?」

 

俺がシャルロットにそう訊ねてみると、シャルロットは顔を真っ赤にしてブンブンとすごい勢いで首を振ると返答を拒否。何でそんなに慌てるのかは分からんが、まあ言いたくないのなら別に言わなくても良いけど……俺に被害が無い事を祈ろう、うん。

 

「こほん……話を戻しますわよ?」

「そ、そうだね!そうしよう!ねっ!?」

 

とりあえず落ち着け。誰も反対なんかしたりしないんだからさ。まあ色々グダグダだが空欄が一つ埋まったんだ。次だ次。

 

「とは言ったものの…。こうして空欄を見ると夏休みって本当に長いよな」

「うむ。普通にやっていてはキリが無い。まずは大きなイベントなどを埋めていくはどうだ?」

「大きなイベントって。例えば?」

「むぅ、そう言われてもな……」

 

例を求められてどう答えたらいいか悩む箒。昔からそうだったが、もともと箒は誰かと遊びに行ったりなどは、誘われれば行くが自ら積極的にはしなかった。その為かこういうのを考えるのは苦手なんだろう。

しばらく一人で思考に耽っていると、何かを思い付いたのかハッと顔を上げて口を開く。

 

「―――ああそうだ。先程も言ったが8月末に篠ノ之神社で祭りがある。それなんかはどうだ?」

「おお!良いな!皆でいこうぜ!」

 

正に夏休みらしいイベントじゃないか。これは決まりだな。

 

「祭り、か…。いいんじゃない?あたしも久しぶりに行ってみたいし。何より夜だから暑くないしね」

 

あくまで暑さが重要なのな、鈴…。

 

「日本のお祭りかぁ。楽しみだなぁ」

「興味はありますわね。此方の祭りとは違うのでしょうし」

「私もだ。何より私は祭りと言うのは初めての経験だからな」

 

海外組も興味津々か。日本の祭りは海外でも人気らしいからな。

さて、肝心のミコトはというと…。

 

「…? お祭り?」

 

不思議そうにして訊きなれない言葉に首を傾げていた。

 

「知らないのか?」

「ん。知識にはある。でも、見た事ない」

 

また妙な言い回しだな。

 

「祭りって、どんなの?」

「どんなのって言われてもな。んー…屋台が沢山出てて、人も沢山来るイベントみたいなものかな?」

「? 街も沢山お店があって沢山人もいるよ?」

「いや、そう言うんじゃないんだよ。街みたいにいつも人が沢山いる訳じゃなくてさ。その日限定なんだよ。偶に一週間とか長い期間の祭りもあるけどさ。殆ど一日とかそんなもんかな」

「ん~…よくわかんない」

 

やはり理解できていない様子。こればっかりは実際に見てみないと分からないだろうな。しかし、お祭りも知らないとは…。

ずっと部屋に閉じこもってばかりの生活だったのだろうか?それとも病気でも患っていて、幼い頃から病院生活だったとかか?

 

「それはお祭り当日までのお楽しみということでー。屋台を制覇するぞー。えへへへ~♪」

 

乙女の恥じらいとか一切無視でよだれを垂らすのほほんさん。

…まあ、屋台全てが甘いモノじゃないからスイーツ巡りよりかは幾分はマシか。

 

「本音は花より団子派か。それも祭りの醍醐味ではあるがな。夜には花火が打ち上げられるから楽しみにしておくといい」

「花火…?」

「空に咲く花だ。綺麗だぞ?」

「…………わぁ♪」

 

どうやら『空に咲く』というのがお気に召したらしい。もっと詳しくと箒を袖を引いてせがむと目を輝かせて真剣に箒の話に耳を傾けていた。

 

「私は神社の仕事があるから途中からの合流となるが、花火の時間には間に合うだろう。神社の裏に眺めの良いスポットあるそうだから皆で花火見物でもしよう」

「ん♪皆と一緒で見る♪」

「…ふふ。ああ、一緒に見よう」

 

そう微笑むと、箒はごく自然に手を伸ばして慣れない手つきでミコトの頭をそっと優しく撫でた。ミコトもそれに拒み事無くそれを受けいれて擽ったそうに目を細めて頭を撫でられている。何とも微笑ましい光景だ。

 

「あー……仲良くしているのを邪魔して悪いんだが。作業を再開して良いか?」

「っ!? あ、ああっ!」

「むふ~♪」

 

箒は周りから暖かい視線を向けられている事にひとしきり頭を撫でたあとで漸く気付き慌ててミコトの頭から手を離すと、ミコトは満足そうに声を漏らす。

 

「じゃあこの調子でちゃっちゃと決めていこう。皆は案とかないか?自分が行きたいとことかでもいいぞ」

「旅行はどうです?」

「んー…難しいな」

「セシリア達は良いかもしれないが、私と一夏は普通の学生だ。そんな金は無いぞ」

「でしたらわたくしが…」

 

「「駄目だ。そう言うのは却下」」

 

キッパリと俺と箒は拒絶する。

 

「わたくしは気にしませんのに…」

 

それでもだ。金の切れ目は縁の切れ目ってな。そもそもそう言うのは俺は好きじゃないんだよ。勿論、箒もな。

 

「遠出するにしてもあまり金のかからない所にしよう」

「海…とかいきたいけど。穴場でもないと海も浜辺も人で埋め尽くされてるでしょうね。それは勘弁だわ。泳げないのにわざわざ暑苦しいところなんて行きたくないし」

 

うむ。俺も人混みは勘弁だな。

 

「海はもう良いよー。別の所にしよー…」

 

のほほんさんも海は嫌な様だ。他の皆ものほほんさんの言にうんうんと同意している。ミコトが倒れたのが原因だろうな。皆、海に悪い印象が根付いてしまっているのかもしれない。

しかし困った。海と言えば絶好の夏休みスポットと呼ばれる場所。それを抜かすとなるとかなり選べる場所は限られてしまう。

ますます難易度が高まる問題に、皆が頭を悩ませていると。そこに意外な人物から案が出された―――。

 

「海は駄目……か。なら、山はどうだ?」

 

「「「「「「山?」」」」」」

 

―――そう。それ提案したのは、意外にもこういう事には疎そうなラウラだった。

 

「ああ。山は意外に涼しいぞ?コンクリートなどが無いからな。それに川もある」

「山かぁ。だったらキャンプとか良いかもしれないわね。食材ならそこまでお金かからないでしょ?」

「あっ!良いね!面白そう♪皆で食糧持って来てさ♪」

「おー!ラウっち冴えてるー♪」

「フッ、それ程でもない」

 

…とか言いながら少し照れてるけどな。でも、良い案だと俺も思うよ。

 

「キャンプ……?」

「皆でバーベキューしたり、外でテント張ってそこで寝たりするんだよ」

「………楽しそう」

「ああ!楽しいぜきっと!」

 

何だかわくわくするよな!そういうの!冒険心を擽られるっていうかさ!

 

「となると、一緒に来てくれる大人の同伴者が必要になって来ますわね。わたくし達は未成年ですし、料理の際に火も使いますから」

「あーそうだよな。どうしよう?」

 

千冬姉に頼もうかと思ったが、銀の福音事件の事後処理とかそれ以外にも仕事が山済みで忙しいから面倒は起こしてくれるなよって夏休みに入る前に言われたっけなぁ。たぶん、同伴を頼んでも断られるだろう。

 

「先生に同伴して貰うのが一番ベストよね」

「でも、生徒の遊びに付き合ってくれるそんな気の良い先生なんて……」

 

皆がう~ん…と唸って困り果てる。―――と、そんな時そこに現れたのは…。

 

「あれ?皆さんこんな所で集まってどうしたんですか?」

 

毎度おなじみ我等が副担任まやまや改め、山田先生であった。

 

「「「「「「あ…」」」」」」

 

「はい?」

 

「「「「「「居たー!」」」」」」

 

「ほええ!?な、何ですか一体っ!?」

 

 

 

 

 

「成程、キャンプですかぁ…」

「はい。忙しいのは分かっているんですが…」

「うーん…」

 

キャンプとその同伴者について山田先生に説明すると、山田先生は少し困った表情を浮かべてどうしたものかと考え込む。やはり忙しいのだろうか?学生の俺達とは違って先生達は学園に仕事をしに来ているんだ。遊びに付き合っている暇なんて無いよな…。

長い沈黙に、やはり駄目かと諦めかけてたその時だ。山田先生がニコリと笑って口を開いた。

 

「……はい。わかりました。良いですよ♪」

「え!?良いんですかっ!?」

「はい♪私なんかで良ければ喜んで同行させて貰います♪」

「でも、先生にだって仕事があるんじゃ…?」

「急いでやらなければならない仕事はもう済ませてありますから皆さんが気にする必要はありません!私は先生ですから!」

 

先生は関係無いんじゃ…っというのは敢えて言わないでおく。

 

「ところで、キャンプ地はもう決まっているんですか?」

「あ、いえ。まだです。同伴の先生が決まってから一緒に決めようかなって思ってましたから…」

 

気持ちが先に行き過ぎて計画がパーとか嫌だしな。

 

「そうですか。なら、私が決めてしまっても良いですか?丁度良い場所も知ってますし」

「えー。本当ですかー?」

「はい♪学園の所有地で普段は野戦演習として使用している山があるんです。そこなんてどうでしょう?ちゃんと管理は行き届いてので熊やイノシシなどの野生動物と出くわす心配はありません♪テントやその他必要な道具も貸してくれますよ♪」

 

そんな場所があるのか。いや、別に不思議じゃないよな。臨海学校で使用した演習場も学園の所有地らしいし。

それにしてもすごい。至れり尽くせりじゃないか。もう此処で決まりだろ。

 

「うふふ♪どうやら決定みたいですね♪学園には私が言っておきますから、日時が決まったら……そうですね。オリヴィアさん?計画表に書いておいてくださいね?」

「ん。あとで渡しに行く」

「はい♪では、皆さん。夏休みの計画表の製作頑張ってくださいね」

 

そう笑顔を残して山田先生は立ち去っていった。

 

「………やったー!キャンプに行けるよー!みこちー!」

「ん♪」

 

ぴょんぴょんと手を繋いだ状態で跳ねて喜ぶのほほんさんとミコト。

 

「良かったね、一夏。先生が付いて来てくれて♪」

「ああ。一時はどうなるかと思ったけど、うまく事が運んで良かったよ」

 

最悪、諦めるしかないと思ってたしな。

ミコトをガッカリさせないで済んで本当に良かった…。

 

「それじゃあ、じゃんじゃん書いていこうぜ!」

「お~♪」

「ミコトさん?貴女は行ってみたいところはありますか?」

「ん~…」

 

 

 

そうやって、俺達はわいわいと騒ぎながら計画表の空欄を埋めていく。

空が茜色に染まる頃には、ミコトの希望がギッシリと記入欄に埋め尽くされた夏休みの計画表がそこにあったのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 山田真耶

 

 

「……ふふふ♪」

 

私はミコトさんが持って来た計画表をみて笑顔を浮かべる。

記入欄にギッシリと書きこまれた計画表。どの日付にも誰々と遊ぶ。誰と出掛ける。何をする。そうしっかりと丁寧に書きこまれており。見てる方もその楽しみにしている気持ちが伝わってくる様な、そんな想いがこの計画表には詰まっていた。

 

「楽しい夏休みになるといいですね?ミコトさん♪」

 

私は願う。この夏休みがあの子にとって最高の思い出になる事を…――――。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。