IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第24話「怪奇!学生寮に彷徨う少女の幽霊!?」

 

七月。季節は夏へと変わり日が経つ毎にだんだんと気温が増していき涼しくなる物が恋しくなってくる今日この頃。だからだろうか、このIS学園の女子生徒達の間でこんな噂が流れ始めたのは…。

 

「学生寮の幽霊ぃ?」

 

俺は心底胡散臭そうな物を見る目でまた胡散臭そうなキーワードを口に出した。

だってそうだろ?この世界の最新鋭の技術が集うこのIS学園で幽霊だのそんなオカルトチックな話有り得ないって。

 

「ほんとほんとホントだってば!沢山の女子生徒が目撃してるって話だもん!」

「このクラスの子も見たって子が居るんだよ?これは間違いないって!」

 

久々のご登場である相川さんや谷本さんがそう自信有り気に断言して来るが、一部を除いた代表候補生面々も俺と似た様な表情を浮かべていた。多分考えてる事は同じなんだろう。

しかしやっぱり女子はこう言った噂話が好きなんだな。普通少し考えればそんなの有り得ないって分かるだろうに。それも女子であるゆえの性なのか?

 

「ないない、有り得ないって。第一この学園が創建して何年だと思ってるんだよ?」

「おりむーはロマンが無いなー」

「現実でのホラーにロマンを求めたくありません」

 

ぷくーと膨れるのほほんさんにずいっと手を突き出してお断りする。

幽霊とか信じないって訳じゃないが身近に居て良い気分では無いのは確かだ。それが自分に近しい人の幽霊なら話は別だけどさ。悪霊やらなんやらは御免被る。

 

「ま、ピカピカの校舎で幽霊って言われてもねぇ?」

「だね。信憑性が無いって言うか」

「はぁ…馬鹿馬鹿しい」

「そ、そうですわ!馬鹿馬鹿しいにも程があります!」

 

セシリア。強気に振る舞って見せているつもりなのかは分からないが、顔を青くして汗をダラダラと流している時点でビビっているのがバレバレである。

 

「ぶーぶー!あっ!ねぇねぇ!みこちーは?みこちーは信じてくれるよねー?」

「ん?」

 

信じて貰えないのほほんさんはつまらなそうにすると、今まで黙って話を聞いていたミコトにターゲットをロックオンにして話を振る。しかし突然話を振られたミコトはそもそも話の内容すらも理解していないのか、こてんと首を傾けるだけ。のほほんさんの望む反応では無かった。

 

「うー…みこちーは話を理解してもいないしー」

「そりゃ、なぁ…?」

「?」

 

ちらりとミコトを見るが、ミコトは不思議そうにきょとんとするだけだ。

そういう話題でミコトに他の女子同様の反応を期待するのは間違いだろ。それとも斜め上の反応が欲しかったのか?だとしたらこれ以上可笑しな方向に話が流れるのはちょっと…。

 

「つまんないつまんなーい!折角久々の出番なのに!」

「そうだそうだ!ちょい役にはロクに出番は回って来ないんだよ!?」

 

メタ言うな。

 

「あーわかったわかった…。で?その学生寮の幽霊ってどんな話なんだよ?」

 

正直、厄介事に巻き込まれる予感がビンビンで関わりたくないんだが、無視したらしたらでまた五月蠅そうなんで話を聞く事に。

 

「えっとねー。昔、この学園にある頑張り屋の女子生徒が居たの。その女の子は他のクラスメイト達とはIS適正が低くてね。どうしても皆と成績が差が出来ちゃった。だから、少しでもその差を埋めようとその子は毎日放課後にアリーナに籠ってISの特訓をしてたんだ。毎日毎日、一生懸命練習した。次の学園行事で自分だってやれば出来るんだって事を皆に見て貰いたかったから。…でも、その本番前日にね。アリーナでいつもの様に練習していたその女子生徒がその日の練習を終えてISを解除すると、アリーナで練習していた他の生徒の撃った流れ弾が、生身のままの女子生徒に当たってその女子生徒は死んじゃったんだって…。それでその事故があった日から女子生徒の幽霊が皆が寝静まった深夜の寮に出るっていうの。何でも自分が死んだ事に気付いて無くて今も夜な夜な寮を彷徨ってるんだって。ほら、ISの武器ってどれも人に当たれば即死級の威力でしょ?たぶんその女子生徒もそれに当たって死んだ事に気付く間もなく死んじゃったんじゃないかなぁ?」

 

成程な。前半は何ともありきたりなというか何処にでもありそうな定番な怪談話で嘘臭いけど最後のは全く同感だな。あんなの当たれば死体なんてミンチより酷い状態になるだろう。何度も事故に巻き込まれてる俺が言うんだから間違いない!…言ってて虚しくなるなこれ。

 

「くだらない」

「えっ?」

 

話が盛り上がっている中、凛とした声が俺達の間に静かに響いた。俺達は自然と視線をその声のした方へと向ける。するとそこには話の輪から少し離れた席で、ぴしりと背筋を伸ばして綺麗な姿勢で椅子に座るラウラがあった。ラウラは呆れた表情を此方を見ると、席を立ち此方へと歩いて来る。

 

「ラウラ。くだらないって今の怪談話がか?」

 

先程までの軽い雰囲気は何処へやら。今あるのは重い空気だけ。鈴達は勿論だが相川さんや谷本さんもラウラの事はどうも苦手らしい。

あの事件から2週間程過ぎたがやはり俺達とラウラの関係の修繕はそう上手くはいってはいなかった。箒はまず話しかけようとはしないし、セシリアや鈴もどうしても喧嘩腰な態度になってしまう。のほほんさんは何か対抗意識を燃やして話にもなんないし…。俺も努力はしてるけどどうしても意識しちゃうんだよなぁ。まともな関係を築けてるのはこのクラスでミコト位じゃないのか?

 

「そうだ。幽霊などと存在しない物の話で盛り上がるなど理解に苦しむ。そもそも考えてもみろ。そんな大きな事故記録に残るに決まっている。私の知る限りこのIS学園が創設されてこれまでの間に死者は一人として存在しない」

「も、もしかしたら秘密にされてるとか…」

「ありえない。それだけの事態を隠蔽するのはまず不可能だ。データに何かしらの痕跡が残る」

「あ、うぅ~…」

 

反論しようのないラウラの言葉と、現役軍人が発するその迫力に縮こまってしまう相川さんと谷本さん。流石に見ていて気の毒なので俺が間に割って入る。このまま放置してまた喧嘩になったりしたらアレだしな。

 

「おいラウラ。もう少し言い方があるだろ?」

「私は事実を述べただけだが?」

 

さも当然の様にそう返してくる。ラウラも悪気があってやってるんじゃないだろうけど、何かこう固いんだよなぁ。…まぁ、ミコトと話してる時はそのカチンカチンな鉄壁も簡単に壊されてしまうんだけど。

だけど、俺達には一度たりともミコトの話している時の様な態度は取った事は無い。仲良くなる道は遠く険しそうだ。

 

「はぁ…もういい。無駄に問答すると喧嘩に発展しかねない」

「そうか。よく分からんが私も無駄な争いはしたくはないな」

 

「お前には言われたくない!」とか「お前が原因なんだけどな!」とか、色々ツッコミたいが我慢する。こいつも天然か…。こいつには『天然』+『毒』のコンボスキルだけどな!

 

「だけど珍しいな?いつもなら俺達の会話になんか混ざって来ないのに」

「ま、混ざって来られても困りますけどね?」

「セシリア…」

「ふんっ!」

 

俺の非難の目にセシリアはそっぽを向く。やれやれ、本当に何か切っ掛けでも無いとどうにもならないぞ千冬姉…。

 

「何、少し気になった事があったのでな」

 

しかし、ラウラはセシリアのキツイ態度にも一切気にした様子も無く話を続ける。

 

「気になる事?」

「うむ。私は此処に来て短いが、それでも最近まではそんな話は耳にはしていなかった。しかし今はどこにいってもその噂話で持ちきりになっている。妙だと思ってな」

 

そう言われるとそうだな。でも…。

 

「怪談話ってそんなんじゃないのか?夏と言えば怪談だろ?」

「そうね。夏になればテレビ番組はそんなんばっかりだし」

「そ、そそそそ!そうなんですの!?」

 

鈴の話を聞いてセシリアが顔を真っ青にして「迂闊にテレビが点けられませんわ…」とか言ってるけど。まさかセシリア…。

 

「…なぁ。セシリアって幽霊とか苦手なのか?」

「ばっ!?ば、ばばっばば馬鹿な事言わないで下さいまし!?わたくしが幽霊という不確かな物を怖がるわけありませんわっ!?」

「あー…うん。そうだな」

「本当ですからね!?本当なんですから!?」

「何と言うか…」

「うん…」

「分かりやすい奴だ…」

 

分かってる。分かってるから…。

 

「皆さんそんな優しい目で見ないで下さいまし!?」

「セシりんは可愛いなぁー」

「「うんうん」」

「そこの三人組も…あー!もう!これもそれも貴女のせいですわよ!?」

「私は何もしていないが…」

 

謂れのない責めに困惑するラウラ。うん。ラウラは何も悪くないと思うぞ?

 

「?」

 

そして話について行けてないミコト。この場で彼女だけがセシリアの唯一の味方であり癒しであるのは間違いないだろう。

 

「…話を戻して良いか?」

「あ、うん」

 

すっかり話が逸れてしまった。

 

「私はそういう俗な事は詳しくないがだとしても不自然だ。その噂、廊下を歩いているたびに耳にするがやけに目撃者が多すぎる。しかも目撃したのは皆一年の学生寮だ」

「あ、あの…それのどこがおかしいの?」

 

相川さんが恐る恐るそう訊ねる。

 

「幽霊とは季節限定に現れる物なのか?」

「あ……」

 

確かにそうだ。噂話だけならともかくとして、本当に幽霊だと言うのなら何故今までにそう言った話が出て来なかったんだ?俺が入学してからもう数カ月も経つが、そんな話を耳にしたのは今日が初めてだ。だと言うのに最近になって目撃者が多発するのはおかしい。

 

「相川。その噂は去年のこの季節でも騒ぎになったのか?」

「え?え、えっと…ど、どうなんだろ?先輩達からそんな話は聞かなかったし…。たぶん今年が初めてじゃないかな?」

「今年になって初めて。それに此処最近になって起こった…か。少しズレは生じるが日本があれを公表した時期と重なるか?」

 

日本があれを公表した時期?何の事を言っているんだ?

 

「えっと…?何の話をしてるの?」

「相川。その幽霊とやらの話をもっと詳しく聞かせては貰えないだろうか?出来れば目撃された時間。その幽霊の姿とかが良い」

「へ?い、良いけど。えっと…目撃者の時間はバラバラだけど大体1~2時くらいかな?」

「ふむ。消灯時間はとうに過ぎて生徒は全員寝ている筈の時間だな」

「そ、そうね…」

「で?格好は?」

「か、格好?格好は知らないけど多いな目を光らせてたって皆言ってる。あと、大きな口でその口の中に女の子の生首が…」

 

もう学生寮の幽霊じゃなくて学生寮のエイリアンに改名しようぜ。他の学校ならギャグだけどこのIS学園なら何ら不自然じゃないから。むしろピッタシだから。何せISは宇宙服として開発された訳だし…。

俺達は皆呆れるがラウラはそうじゃなかった。口に手を当てて何やら真剣に考えている様子だった。

 

「光る目はゴーグルライトの光か?しかしなんでそんな目立つような…」

 

何ぶつぶつ言ってるんだコイツは?傍から見て怪しさMAXだぞ。

 

「ふむ。その行動に何の理由があるのかは分からないが…。了解だ。情報の提供に感謝する」

「あ、うん…」

 

ラウラは何やら納得した様子だったが感謝された方は全然訳が分からんようだ。まぁ無理も無い。俺達も全然わからんからな。

 

「何か分かったのか?ラウラ?」

「む?ああ、大凡はな。後は行動あるのみだ」

 

一体何をするつもりなんだこいつは…。

結局、ラウラはそれ以上何も言う事は無く満足した様子で自分の席へと帰って行ってしまう。それを呆然と見送る俺達。

 

「…何?あれ?」

「知らん。私に訊くな」

「あれかな?科学者が幽霊なんて存在しない!全てはプラズマが引き起こした現象だ!とか言って科学で無理やり証明しようとするアレ」

「ああ、何か似てますわね……え?それが言いたくて混ざって来たんですの?」

「変な子だね。ボーデヴィッヒさんって…」

「うん…」

 

『………』

 

まるで嵐が通り過ぎたみたいだな。残ったのは妙な静寂だけだ。

 

「―――…はっ!?何の話してたんだっけ?」

「一瞬本気で思考が停止していたな…」

「僕もだよ…。えっと、学生寮の幽霊の話だよね?」

「一年の学生寮限定で出現する女子生徒の幽霊ねぇ…」

「な、なんでよりにもよってわたくしが居る寮に…」

「諦めが肝心だぜ?セシリア」

 

しかしラウラのあの言葉が気になるな。『日本があれを公表した時期』か。何の事なんだろうな。

と、そんな事を考えていると。突然のほほんさんが大きな声を上げた。

 

「よーし!なら幽霊の噂が本当なのか確かめてみようよー!」

 

『………はぁ?』

 

「?」

 

突拍子の無いいきなりののほほんさんの提案に一同が同じ反応を示す。一体全体なにがどうしてそんな発想になるのか…。

 

「あそこまで言われたら黙って引き下がれないよ!こうなったら何が何でも幽霊を見つけてやるんだからー!………皆で!」

 

おいこら待て。最後聞き捨てならない事言わなかったか?

 

「…皆で?」

「うん!皆で♪」

「私達の事…だよな?」

「うん!勿論♪」

「何故わたくしがその様な事をしなければにゃらないですの!?」

「私達はブラザーだよ♪死ぬ時は一緒さ~♪」

「げぇ!?質が悪いですわこの人っ!?」

「セシリア少し下品だよ…」

「好奇心で巻き込むとかなんてはた迷惑な…」

「あはー♪」

 

『あは♪じゃない!』

 

「きゃいん!?」

 

こうして俺達は強制的に夜の肝試しを決行する事が決まったのだった…。

 

 

 

 

 

―――そして夜になり…。

 

 

「えー…ただいま午前2時を廻ったところです。御覧の通り廊下は真っ暗。生徒は誰も起きていません」

「何故レポーター風なんだ?一夏」

 

雰囲気作りだよ。あと愚痴だよ。言わせんな恥ずかしい。

まぁ、何だ。予定通りに幽霊探しに来た訳だが…。メンバーは俺を含めて箒、鈴、セシリア、シャルロット、のほほんさんの6人のミコトを除いた状態でのいつものメンバーだ。相川さんと谷本さんが居ません。あの二人逃げやがりました。

 

「い、一夏さん?ライトをマイクの様に持つのはやめていただけません?こ、怖いですわ…」

「………」

「…一夏さん?」

 

「んばぁ~…」

 

ライトアップした俺の顔をセシリアにズームイン!

 

「ヒィっ!?」

 

怖がるセシリアを見てついちょっとした出来心でふざけてみると、セシリアが可愛らしい悲鳴を洩らした。ヤバイ。これ楽しい…。

 

パシィン!

 

「遊ぶな」

「すんません…」

 

箒からの鉄拳…いや竹刀制裁を貰い悪ふざけは終了。

 

「んじゃ、さっさと終わらせちゃいましょうか?」

「そうだね。明日も早いし。…あっ!そういえばミコトはどうしたの?」

 

それは俺もさっきから気になっていた。まさかミコトが相川さんや谷本さんと同じ理由なんてことは有り得ないし。

 

「みこちーはもうおねんねの時間だよー?」

 

『ああ、そう…』

 

何当たり前な事言ってんの?的なのほほんさんにこの場に居る全員が納得したが、それと同時にイラッとしたのは黙っておく。出来れば俺達も寝かせて頂きたいんですがね?

明日は…いやもう今日だが、朝から実技演習だって言うのに夜更かしとか自殺行為以外になんでもないんだが…。

 

「ああ、うん。アンタはそんな奴だったわね。忘れてたわ…」

「? 変なりんりんだなー」

「アンタにだけは言われたくないわよ!」

「ほぇー?なんでー?」

「はぁ…もういい。なんか疲れた…」

「そーおー?ならさっそく!幽霊探しにゴーゴー!だよー!」

「あ、あのね?本音。皆寝てるから静かにね?寮長の先生に見つかったら怒られるし」

「一年寮の寮長は織斑先生だ。見つかったら唯では済まん。早々に終わらせよう」

「だな。見つかって朝まで説教なんて事になったらそれこそ死亡確定だ」

「うぅ…何でわたくしがこんなことぉ…」

「アンタもいい加減諦めなさいよ…」

 

何時までもうじうじしているセシリアに呆れてながら鈴はセシリアの首根っこを掴みずるずると引き摺って行く。普段のセシリアからは想像も出来ない光景だ…。

 

「あ~う~…」

「いいからさっさと歩きなさいよ!まったく…」

 

仲良いなお前ら。

 

「で、何処から探す?一年寮と言っても広いぞ」

「そうだなぁ…。のほほんさん、だいたいどの辺りで目撃されたか知らないか?」

 

闇雲に探すのは避けたい。主に睡眠時間のために。

 

「んーとねぇ?聞いた話だと私達の部屋のある階だよー。トイレの帰りや行く途中で見たって子がいっぱい居るんだぁ」

 

トイレか。俺には無縁だな。俺は職員用のトイレを使ってるからまずこの階のトイレに近づく事は無い。

 

「ト、トイレと言ったら怖い話の定番じゃありませんの?やっぱりやめた方が…」

「貴重な睡眠時間を使ってるんだ。今更引き返せるかっての」

「そうね。此処まできたら絶対に見つけてやるんだから」

「何だかんだ言ってやる気だなお前達…」

「あはは…単純だから二人とも」

「うんうん♪その調子で頑張ろうねー♪」

「いぃーやぁー…」

 

ずるずるずる…

 

 

 

 

「…皆、ちょっと止まって」

 

急にシャルロットが立ち止まり俺達もそれにつられて足を止める。

 

「どうしたんだよ?シャルロット」

「しぃー…静かに。ほら、何か聞こえるよ?」

 

人差し指を口に当て小声でそうシャルロットは言うと、皆は口を閉じ耳を傾ける。すると…。

 

コツ…コツ…

 

「これは…足音?」

「だね」

「あ、あわわわわ…」

「アンタは少し落ち着きなさいって…」

 

おいおい。セシリアの顔が面白いくらいに真っ青だぞ…。

 

「どれだけ幽霊が怖いのよ…」

「だ、だだだだ誰が幽霊が怖いと言いましたの!?」

「いや、怖がってるのバレバレだから」

「あのね?二人とも静かにしてくれない?」

 

シャルロットは笑ってるが眉がぴくぴくと動いてるのは怒りを抑えてるからか。すぐさま二人も口を閉じる。本能で逆らうのは危険だと判断したんだろうな。俺も静かにしておこう。

 

コツ…コツ…

 

そんな事してる間に足音も近くなって来ていた。音から推測してあそこの曲がり角を曲がった先くらいに足音の主が居るのかもしれない。

 

コツ…コツ…

 

「…来るぞ」

 

箒が竹刀を構える。幽霊に物理攻撃なんて聞くのかと俺は思ったがちゃっかり竹刀にお札が貼ってある。準備が良いなぁ。

 

コツ…コツ…

 

そしてついにその足音の主が曲がり角から姿を覗かせた。その時、俺達が見た物は…―――。

 

「なっ!?」

「へ?」

「…あれ?」

「ヒッ…」

「えー…」

「な……にやってんだよラウラ?」

 

―――何やら完全装備で今にでも戦争をおっぱじめそうなラウラ・ボーデヴィッヒだった…。

 

「む?何やら聞き覚えのある声だと思ったがお前達だったか。何をしているんだこんな所で?もう消灯時間もう過ぎてるぞ?」

「いやいやそれは俺達の台詞だから」

 

なんて恰好してるんだよお前は…。

 

「私か?見回りだが?」

「見回り?」

「ああ、噂の犯人を捕まえる為にな」

「犯人って…幽霊をか?」

「幽霊なものか。私が推測するに噂の人物は侵入者か何かだ」

 

侵入者って…また物騒な言葉が出てきたな…。

 

「何を根拠にそんな話になったんだ?」

「ふむ…まぁ、お前達は関係者だから良いだろう。昼間の私が言った事を覚えているか?」

 

昼間…ああ、アレか。

 

「日本があれを公表した時期がなんたらこうたらって奴か?」

「そうだ。この噂を聞く様になったのはごく最近だ。そして目撃者が多発したのも最近で今年が初めて…」

「何が言いたい?回りくどい言い方をするな」

 

勿体ぶった言い方に苛立った声で箒が答えを急く。

 

「そうだそうだー分かりやすく言えー」

「…シャルロット。のほほんさんを抑えてて」

「うん」

「わー!?なにをするだー!?」

 

しばらく大人しくしてなさい。

 

「ミコトが入学したこの年。そして最近と言えば私もこの学園に転校してきた。日本があれを公表したのもその時期だしな」

 

またそれか…。いい加減それの意味を教えて欲しいんだが。

 

「…なぁ、ラウラ。その『日本があれを公表した時期』ってなんの事を言ってるんだ?」

「忘れたのか?私があの日公園で言った事を」

「公園?…あっ!?」

 

―――問題無い。この件について国は一切関与しないだろうからな。そして、貴様達にも私を拘束する権限は無い。

 

あの時か!?

 

「あの日、日本は全世界に『我が国はミコト・オリヴィアが関わる全てに一切関与しない』と公表した。勿論秘密裏にだがな」

「そ、そんなことがありましたのっ!?」

「そうだ。教官が早急に手を打ち各国が手を出せない様にしたが…絶対とは言えん」

「つまり、アンタはこう言いたい訳ね?アンタとは別の人間がミコトの命を狙ってると…」

「うむ。あくまで可能性があるというレベルの話だがな。確証は持てん」

「何でだ?」

「私が来た時にはそんな噂は耳にしなかった。噂を聞く様になったのは6月末になってからだ。仮に噂の人物が侵入者だとして、その侵入者は6月末から今日までに2週間の期間を潜伏していたと言う事になる」

 

まぁ、そうなるよな。

 

「それが何かおかしな点でも?」

「おかし過ぎる。何故その2週間の間にその侵入者はミコトを消さなかった?チャンスは幾らでもあっただろうに。それに、目立つ行動を取り過ぎている。とてもプロとは思えん。以上の点であくまで可能性のレベルと言う訳だ」

「成程…」

 

確かにラウラの言う通りミコトの命を狙う奴だったとしたら不自然な点が多すぎるか…。

 

「それじゃあ、ラウラが今こうしているのは…」

「噂の正体を突き止めるためだ。少なくとも幽霊などありえない」

 

そうラウラは断言する。とてつもない現実主義者だなコイツ。絶対に幽霊の存在を認めないつもりだ。

 

「そうか。ラウラには感謝しておくべきなのか?」

 

ミコトを守ろうとしてくれた訳だしな。

 

「ふ、ふん!気まぐれだ!気まぐれ!教官の手を煩わせるのも何だと思っただけだ!べ、別にミコト守りたいとか恩返しがしたいとかそんなこと思ってないんだからな!?」

「うわぁ…」

「なんていうか…」

「ツンデレ乙」

 

のほほんさんが何やらジト目でそんな言葉を洩らす。…ツンデレって何だ?まぁ良く分からんが素直じゃないなコイツ。

 

「う、うるさいうるさいうるさい!それで!?お前達は何故ここに居る!?」

 

誤魔化したな…。

 

「いや…俺達は幽霊を探しに…」

「くだらない…もう少し時間を有益に使え」

 

うわ、心底くだらないって顔されたぞ。しかも言い返したくても俺もそう思うから言い返せねぇ…。

 

「ふーんだ!余計なお世話だよーだ!幽霊を見つけてほえ面掻かせてせてやるんだからー!」

「期待しないで待っておく。では、私は此処で………どうやら本命か」

「え?」

 

何のことだと俺はラウラを見ると、ラウラの顔は兵士の顔へと切り替わっていた。そして、何処からともなく不気味な音が俺達の耳に届いた…。

 

ぺた…ぺた…。

 

「これは…足音?」

「裸足…かな?この足音」

「暗殺者が裸足で行動するとは思えんが…しかし、この足音は裸足とは違うぞ」

 

ぺた…ぺた…。

 

…確かに、裸足の様な足音にも聞こえるが少し違うな。これは…スリッパか何かか?でも珍しいな。皆部屋以外の移動は殆ど靴とかなのに。

 

「あ、灯りだ。それも二つ…」

 

振り向いた先には、暗い廊下から二つの小さな光が灯っていた…。

あれが相川さんが言っていた光る目か?

 

「こ、これは!?当たりかな!?」

「がくがくがくがく…」

「ちょっと…アタシに抱き着くのやめてくれない?胸押し当てんな腹立つ」

 

いや、あの光は人工物の光だろ。でもちょっと不自然だな。何でだろ。何か違和感を感じる。

 

「いちいち光がぶれているな。恐らく手に持っているのではなく頭に固定してるのだろう。ヘッドライトかゴーグルか何かか」

「ああ、成程。それでか」

 

ラウラが口に出してもいないのに俺の疑問を解いてくれた。

 

「…此方へやって来るな」

 

箒が竹刀の柄を持つ手に力を籠める。間合いに入ればすぐにでも箒は竹刀を振るだろう。

 

ぺた…ぺた…。

 

だんだん。だんだん。二つの光が近づいて来る…。

 

「ひぃいぃいいぃいいっ!」

「嫌味か?その押し当ててくる胸は嫌味か?」

 

…こっちもカオスになってきたな。

 

ぺた…ぺた…。

 

「………」

 

流石に緊張してきた。俺は唾を呑む…。

 

ぺた…ぺた…。

 

もう目前だ。あと数歩進めばその姿を目視できる距離になる。俺達はどんなことが起きても対処できるように身構えた…。

そして、その二つ光を発する物体がついにはっきり目視できる距離に踏みこんで来る。そして――――。

 

―――俺達の前に現れたのはなんと巨大なペンギンだった。

 

…いや、ちょっと待て。

 

「ひぃいいいいあああああああああっ!?――――…ガクッ」

「ちょっ!?ちょっと!セシリア!?あー…駄目だ。気失ってる」

 

セシリアは色々と精神的に限界だったのか悲鳴を上げて気を失ってしまう。でもな。でもなセシリア。お前が悲鳴を上げたのは…。

 

「おー?」

 

ペンギンのパジャマを着た…ミコトだぞ?

 

「ミコト…?」

「ん。一夏達…どうしたの?」

 

いや、それは聞きたい訳で…。

 

「あの…ミコト?」

「ん?」

「それ…なに?」

 

シャルロットがミコトが着てるペンギンを指差して訊ねる。

 

「パジャマ。本音がプレゼントしてくれた。宝物」

 

なるほど。動物が違うだけでそれ以外のデザインは何処となくのほほんさんのパジャマと似てるな。

 

「そのライトは?」

「あーそれパジャマについてる機能だよー。みこちー暗いの苦手だから目の所ライトにしたんだー」

「紛らわしい事を…」

 

本当だよ…。

 

「でもみこちー。何で此処に居たのー?」

「トイレ。ジュース。飲み過ぎた」

 

夏は冷たい物が飲みたくなるからな…ああつまりそう言う事か。

 

「最近は暑くなってきたからな。ジュース沢山飲んだろミコト?」

「みこちー。だから飲み過ぎちゃ駄目って言ったのにー」

「うー…」

「つまり噂の正体はこれか。光る目はこのライトで。大きな口はペンギンの口。生首はペンギンを着たミコトの頭って訳か…」

「そして、最近になって噂が立つようになったのは暑くなりはじめてジュースを頻繁に飲む様になったから…か」

 

なんていうか…。

 

『く、くだらない…』

 

本当にラウラの言った通りだったな。正体は予想外過ぎたが…。

 

「まったく…。何て人騒がせな…」

「もうみこちー。何で私に声かけてくれないの?トイレくらい一緒にいってあげるのにー」

「本音、気持ち良さそうだったから。それに本音、寝たら絶対に起きない」

 

『じぃ~…』

 

「あ、あははー…ごめんねー?」

「ん」

「ミコト。今度から僕に声かけてよ。しばらくは一緒の部屋なんだからさ」

 

そう言えばシャルロットは今ミコト達の部屋にお世話になってるんだったな。

 

「…いいの?」

「うん。全然構わないよ?」

「…ありがと」

「うん♪」

 

ミコトに感謝され嬉しかったのかシャルロットが笑顔で頷く。

 

「ミ、ミコト。私も構わんぞ?プライベート・チャンネルで何時でも駆けつけてやる!」

「ん。ラウラもありがと」

「あ、ああ!」

 

照れ隠しのつもり顔を伏せるラウラ。暗くて見えないがきっと今のラウラの顔はリンゴの様に真っ赤な事だろう。

 

「やれやれ…これで事件解決か?」

「釈然としないがな…」

「ま、いいんじゃない。それよりさ…」

 

「きゅ~…」

 

「これ…どうする?」

 

鈴は未だに床でノビてるセシリアを指差す。

 

「…とりあえず運ぶか」

「誰の部屋に運ぶ?流石にセシリアの部屋に運ぶのはルームメイトの子に迷惑でしょ?こんな大勢で…」

「じゃあ私達の部屋かなー?」

「そうだね。一番迷惑掛けなくて済むし…ベッドが狭くなるけど」

 

確かにな。唯でさえシャルロットがお邪魔してる状態なのにここでセシリアも追加となるとな。

 

「その心配は無いぞ?」

 

『!?』

 

聞きなれたこの場で一番聞きたくない声が廊下に響いた…。

 

「何故ならこれから陽が昇るまで貴様らは此処で説教される訳なんだからな…」

 

『ま、まさか…?』

 

一同恐る恐る後ろへ振り向く…。

 

「騒がしいと思えば…また貴様らか…」

 

するとやはりそこには鬼が仁王立ちで此方を睨んでいた。しかも睡眠を邪魔された所為かいつもよりも怒りのゲージがヤバイ。

 

「ミコト。お前は部屋に帰っていいぞ。さっさと寝ろ」

「ん?ん…」

 

ぺたんぺたんと足音を立てながらペンギン姿のミコトは部屋へと戻って行く。そして、残された俺達はと言うと…。

 

「さて…覚悟は良いな?」

 

『ぎゃーす!?』

「きゅ~…」

 

深夜の学生寮に俺達の悲鳴が響いたのだった…。

もう怪談話はこりごりだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 


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