IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第9話「おさななじみ」

 

「織斑くん、おはよー。ねぇ、転校生の噂聞いた?」

 

は?何だ突然?

 

朝。席に着くなりクラスメイトに聞き覚えの無い話題を訊ねられてきょとんとしてしまう。残念ながら俺の薄っぺらな情報網にそんな情報は存在しない。この数週間でクラスの女子達とも話せるようになってはいるが、相変わらず女子同士の会話やテンションについて行けない時もある。転校生の話を知らないのも噂話が好きな女子達の話について行けないからだろう。たぶん。

 

「転校生?今の時期に?」

 

何故に入学じゃなくて転入?まだ4月だぞ?

確か聞いた話では、このIS学園の転入の条件はかなり厳しかった筈だ。頭が良いってだけじゃまず無理。国の推薦が無ければできない様になっている。と言う事はつまり―――。

 

「転校生は代表候補生?」

「ピンポ~ン♪正解!中国の代表候補生なんだって!」

 

やっぱりか。国の推薦となれば十中八九代表候補生だろうとは思ってたけど。

 

「へぇ~」

 

代表候補生、ねぇ…。

 

ちらりと俺の机の横に立っている同じ代表候補生であるセシリアを見てみる。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

 

相変わらずの気品を漂わせて自信満々なその態度。一体その自信は何処からやってくるのだろう。最近、ミコトに振り回されて良いところ無しなのに…って、俺もそうか。

 

「入学早々、専用機持ち二人に勝負を申し込んで。片や手も足も出せず、片や素人同然の操縦者に負けた者の言う言葉では無いな」

 

ふっと鼻で笑う箒。

 

ちょっ、箒。そんな事言ったら―――。

 

「な ん で す っ て ぇ?」

 

セシリアが喰いつくって…ああホラ喰いついて来たじゃないか。

険悪なムードに突入しばちばちと火花を散らす箒とセシリア。箒もセシリアは無駄にプライドが高い事は知ってるんだからこうなるのは予想できた筈なのに何で喧嘩を売る様な事を言うのやら…。

それにしてどうしたんだ?箒の奴?いや、この場合はセシリアも含めてか。セシリアとの勝負からやけに二人とも喧嘩が絶えないけどさ。

 

「ぐぐぐぐ…っ」

「むむむむ…っ」

 

睨みあう二人。朝から元気だな本当。どうでもいいが俺の頭上で火花を散らし合うのはやめてくれ。

 

「はぁ…」

 

俺は深い溜息を吐いて頭を抱えて机に突っ伏する。もうこうなったら俺には止められないので嵐が去るのを待つだけだ。それに、俺が止めなくたってとっておきがどうにかしてくれる筈だ。ほら、とことこと歩いて二人の間に割り込んで来たぞ。

 

「喧嘩。いくない」

 

「「うっ…」」

 

な?

 

幾ら箒やセシリアであろうと。ミコトの仲裁には逆らえないのだ。ミコトの『みんな仲よし』の法則は絶対である。二人が喧嘩すればミコトが仲裁に入る。。それがもうこのクラスにとってお決まりになっているのだ。

とまあ、もう見慣れた日常的な光景は置いておくとしてだ。代表候補生かぁ…。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

代表候補生って言うとどうしてもエリートってイメージが定着している所為でセシリアみたいなプライドの高い奴を想像してしまう。まぁ、プライドを持つ事は悪い事じゃないし、当の本人であるセシリアもあの勝負からはだんだん雰囲気が柔らかくなって人を見下す様な態度はしない様になったし、何だかんだ言って優秀だから色々教えてもらって助かっている。その転校生とやらもそうだといいんだけどな。何にせよ、別のクラスなんだからあまり関係ないか。

 

「む…気になるのか?」

「ん?ああ、そうだな」

 

今までの経験上からして専用機持ちはミコトやセシリアの様に個性豊かな連中ばかりだし、気にするなっていうのは無理だろう。それに、来月行われるクラス対抗戦の相手になるかもしれないとなると尚更だ。代表候補生と言うのならまず優秀なのは間違いない。

 

「ふん…」

 

どう言う訳か不機嫌になってしまった箒。はて、今の会話の何処に不機嫌になる要素があったのか…。気付けばセシリアも何やら不満そうな表情をしている。もう何が何やら…。

 

「今のお前に女子を気にしている余裕はあるのか?来月にはクラス対抗があると言うのに!」

「そうですわ一夏さん!一夏さんはこのクラスの代表なのですからしっかりして頂かないといけませんわ!」

「いや、だからだよ。敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うだろ?」

 

情報を知っていればそれだけ有利になる訳だし。それに、俺は唯でさえ素人同然なんだからそう言うこまめな事で地道に実力の差を埋めていかないといけない。

 

「でしたら、わたくしがご指導してさしあげますわ!わたくしに任せれば万事問題ありません!」

 

むんっと自信一杯に胸を張るセシリア。ううん。確かに経験を積むならセシリアに頼んだ方が良いのかもな。他の子に頼んでたら訓練機の申請と許可とか色々面倒そうだし…。

代表候補生でない一般生徒は専用機なんて物は勿論持っていないため、学園が所有している訓練機を使って日々鍛錬している。しかし、放課後などの自主練習で使用する場合。学園に申請書を提出し、許可を貰わなければならないのだ。そしてISは貴重で整備にも時間やお金が掛かるためそう簡単には下りない。それに、数が足りないため予約は常に一杯なのだ。

 

「まぁ、やるだけやってみるか」

「やるだけでは困ります!一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

そう言われてもな。此処最近はISの基礎操縦で躓いていてとてもじゃないが自信に満ちた返答は出来ない。初めて白式に乗った時は凄く身体に馴染んだあの感覚。今ではその感覚がまったく無いのだ。本番に実力を発揮するタイプじゃないんだけどなぁ。俺は…。

 

「一夏。がんばる」

「…デザートのためにか?」

「ん」

 

俺の問いにミコトは負い目を感じる事無く素直に頷く。まったく。ミコトらしいと言えばらしいけどさ…。

 

「デザート。いっぱい」

「食べ過ぎると虫歯になるぞ?」

 

まるで親が子供に言い聞かせる台詞だ。ミコトの外見の所為で更にそう思えてしまうじゃないか。

 

「歯磨きする」

 

ダボダボな袖を探り歯磨きセットを取り出してずいっと俺の方に突き出しキラーンッと目を光らせる。一体その袖はどういう構造になってるんだ?

 

「それでも、だ」

 

正直、家の家事を全て任されている俺からしてみればミコトの食生活は感心できない。周りの女子は可愛いからと言ってお菓子をあげたりしているが此処は厳しくするべきだろう。

 

「むぅ…一夏。クリスみたい」

 

クリス…ミコトの保護者か。やっぱミコトは家でもお菓子ばっかり食べてたんだな。なら、保護者が居ない寮だと俺が見てやらないと好き勝手にバクバクお菓子を食べてしまいそうだ。ルームメイトがのほほんさんだし。

 

「お菓子ばっかり食べると身体に悪いぞ?それに太る」

 

『ぐっ…』

 

俺の指摘にミコトではなくクラスの女子が呻き声を上げる。

 

「うぅ~、おりむーはデリカシーがなさ過ぎるよ」

「事実だろ?」

 

へにゃ~とした顔で話にのほほんさんが加わって来るが容赦無しに現実を突き付ける。現実から目を逸らすなって。よくテレビでストレスの所為でお菓子をやけ食いとかやってるシーンを見るけど身体に悪いじゃないか。ああ言うのはイカン。見過ごせん。

 

「主夫かお前は…」

「良く分かったな。家では俺が家事担当だ」

「本当に主夫なのか…」

 

箒の呆れてものを言っていたその表情はすぐさま驚きへと変わる。何だ?何かおかしい事言ったか?しょうがないじゃないか。千冬姉に家事何か任せたら一週間もせずにゴミ屋敷だぞ?

 

「一夏さんの私生活にはとても興味はありますが。今はクラス対抗戦が優先ですわ!」

「ちゃっかり本音言ってるねー。セシリア」

「く、クラス代表として規律正しい私生活をちゃんと送っているか気になっただけですわっ!?」

 

クラス代表ってだけで私生活も制限されるのは流石に嫌なんだけど…。

 

「ま、まぁ幸いな事に専用機を持っているクラス代表はわたくし達一組と四組だけですからそんな深刻に考える事はありませんわ」

「噂じゃその候補生の専用機も未完成の状態らしいしね」

「………そうだねー」

「未完成?」

「このIS学園は絶好の試験場ですから。代表候補生の殆どが専用機が第三世代でデータを取るために此処に来ているんです。此処は世界各国からISが集まりますからね。そして、どの国も第三世代は未だ実験機の段階を出ていませんの。それだけ第三世代の開発は難しいのですわ」

「へぇ…」

「ですから、未完成の機体なんて脅威ではありませんわ。一夏さんが油断しなければ、ですけど。腐っても第三世代なので」

「き、肝に銘じます」

 

あ、危ない。絶対セシリアの忠告がなかったら油断してたぞ…。

 

「………」

「本音?」

「あ、ううん。なんでもないよー」

「…ともだち」

「分かってるよみこちー。本当になにかあったら相談するよ」

 

ん?何話してるんだ二人とも?

いつの間にかグループの輪から離れて何やら話しているミコトとのほほんさんが気になり俺は二人に声を掛けようと手を伸ばしたが、クラスの女子達が俺の前に立ち視界を遮ってしまう。

 

「ということで!頑張ってね!織斑くん!」

「相手が未完成の専用機や訓練機なら余裕だよ!」

「え?あ、ああ…」

 

二人の事が気に掛かったが、せっかく俺を応援してくれているクラスメイトを無視する事は出来ず伸ばした手を引っ込めて苦笑いでそれに応える。

 

「―――その情報、古いよ」

 

教室の入口の方から声が聞こえてくる。しかし、この声。何処かで聞き覚えが…。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝出来ないから」

 

腕を組み、片膝を立ててドアにもたれ掛っていたのは―――。

 

え?まさか…。

 

聞いた事のあるその明るい声。そして特徴的な揺れるツインテール。そうだ。この声は。この声の主は俺の二人目の幼馴染…。

 

「鈴?……お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国の代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第9話「おさななじみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ふっ、決まったわ……ん?)」

「…」

 

いつの間にか鈴の目の前にやって来ていたミコトは興味深そうにじーっと鈴を見上げていた。

 

「ひゃああああああああ!?出たああああああああああっ!?」

「?」

 

何やら良く分からないが折角かっこ良く登場したのにひょこりと顔を覗かして見上げてくるミコトに驚いて悲鳴をあげて今の登場を台無しする鈴。そして、千冬姉に見間違われたミコトは首を傾げていた。

 

「なっなななななっ!?千冬さんっ!?何で小さくなってるの!?てか白っ!?」

 

凄いテンパリっぷりだな。鈴が千冬姉が苦手なのは知ってるけど驚き過ぎだろ。まぁ、さっきの気取った鈴より今の鈴の方が鈴らしけどな。

 

「落ち着け鈴。目の前に居るのは千冬姉じゃないぞ」

「………へ?」

「ん。千冬じゃない」

「ば、馬鹿言わないでよ!あたしが恐怖する相手なんて千冬さんぐらいしか「ほう。良い度胸だな、凰」……」

 

はい終了。短い付き合いだったな。鈴。

ドッと汗を浮かべる鈴。もうあいつも気付いているだろう。今の声の主に。でなければあんな青い顔して後ろを振り向こうとしない訳がない。

 

「SHRが始まると言うのに自分の教室に戻らないうえ、教師の悪口か…覚悟は出来ているな?」

「こ、ここここ!これには訳が…っ」

 

パァンッ!如何にか弁解を試みようとする鈴だが千冬姉がそんなに優しい訳がない。問答無用で出席簿が鈴の頭に振り下ろされた。

 

「SHRの時間だ。教室に戻れ」

「痛~っ…ま、また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

何で俺が逃げるんだよ。

 

「さっさと戻れ」

「は、はいっ!」

 

ぴんと背筋を伸ばして返事をすると、そのまま振り向いて自分のクラスである2組へ猛ダッシュで逃げて行く。

 

「鈴の奴。ISの操縦者になってたのか。初めて知った」

 

二年前はそういう風には見えなかったけどな。と言う事は転校した後に?どちらにしてもエリートってイメージじゃないよな鈴は。

頭の中でセシリアな鈴を想像してみる…止めよう。明らかに不自然すぎる。『おーほっほっほ!』とか腰に手を当てて高笑いしている鈴を思い浮かべた瞬間鳥肌がたったぞ。

 

「…一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で―――」

 

パァンパァンッ!

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

「「はい…」」

 

お前等もいい加減懲りないよな。他人の事言えないけどさ…。

 

 

 

 

「コア・ネットワークとはISのコアに内蔵されているデータ通信ネットワークのことだ。ISが宇宙空間での活動を想定して開発されたのは以前にも説明したな?広大な宇宙間での相互位置確認・情報共有のために開発されたシステム。それがコア・ネットワークだ。現在は宇宙進出への開発は停滞しているが軍事的にもこのシステムは有用であり操縦者同士の会話として使用されているオープン・チャンネルとプライベート・チャンネルは操縦者同士の連携に欠かせないものとなっている。無論、IS同士で無くても通常の通信は可能だ」

 

『実践』

 

「うおっ!?」

 

授業中、突然頭の中でミコトの声が響いて素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「…何だ織斑?」

「い、いえ。何でもありません」

「なら黙って授業を受けろ、馬鹿者」

「す、すいません…」

 

クスクスとクラスメイト達に笑われ、その恥ずかしさに顔を伏せる。しかし何だ今のは?誰もミコトの声には気付いてないみたいだったけど…。

 

『ごめん』

 

ま、またか!?

 

再び聞こえてくるミコトの声。幻聴じゃない。周りの皆は聞こえて無いみたいだが確かに俺には聞こえる。一体何なんだこの声は?

 

『コア・ネットワークのプライベート・チャンネルやってみた。ん。初めてだけどうまくいった』

 

コア・ネットワークっていま千冬姉が言ってた奴か?実践て…急にやるなよ。しかも授業中に。

 

『一夏もやってみる。一人じゃつまらない』

 

ってもなぁ。やり方分からないし…。

 

『話したい人を思って伝えたい言葉をイメージする』

 

またイメージか。ISってそういうのばっかりだな。伝いえたい人物を思って言葉をイメージ。イメージ…。

 

『………こうか?』

『ん。聞こえる』

 

どうやら上手くいったみたいだ。

 

『で?なんだよ突然こんなことして。何か用事か?』

『あの子の事』

『あの子?』

『凰鈴音』

『ああ、鈴の事か』

 

何だよミコトもか。まぁ、ミコトは唯の好奇心からだと思うけどさ。

 

『鈴は幼馴染なんだよ。箒が引っ越してからからな。知り合ったのは』

『おさななじみ?』

『知らないのか?』

『ん。知識にはある』

 

知識にはある、か。これまた妙な言い方だな。知ってるのとは違う。でも知らない訳じゃない。一体ミコトは今までどう言う教育を受けて来たんだろう。友達と言う言葉は知っているのにそれがどう言う物なのか理解していなかった。人間誰も生きていれば知っていて当然の言葉なのに、だ。

 

『私も一夏の幼馴染になれる?』

『こればかりはなぁ。子供の頃から知り合ってないと…』

『むぅ…』

 

明らかに不満そうな声。しかしこればかりはどうしようもない。タイムマシーンでも使わない限りは幼馴染なんて今更なれません。

 

『そんなにむくれるなって。幼馴染じゃなくても俺とミコトは友達だろ?』

『…ん』

『なら、それでいいじゃないか』

『…ん』

 

まだ不満そうだが納得はしてくれた様子。

 

『話は終わりか?』

『ん。まだ。あのね…』

 

 

 

 

「お花見?」

「ああ、ミコトが突然やりたいって言い出してな」

「ん」

 

あの後、ミコトが口にしたのは『お花見がしたい』と言う突拍子の無いものだった。何故したいかと理由を訊ねれば『テレビで見て楽しそうだったから』とこれまた好奇心満載なミコトらしい理由だ。

 

「何時の間にそんな話をしたんだお前達は…」

 

こらこらジト目で睨んで来るな。

 

「お花見ですか。桜は今週いっぱいで見納めでしょうからやるなら今週中ですわね」

 

既に四月の中旬、校庭の桜からは緑の葉が覗かせて花弁は散り始めていた。セシリアの言う通りこのままいけば来週には桜は完全に散ってしまうだろう。それに確か明後日は…。

 

「天気予報では確か、明後日から雨だった筈だが…」

 

そう、明後日から数日続けて雨が降ると天気予報で言っていたのを覚えている。雨なんて降ったら桜の花なんて一日で散ってしまうだろう。そうなってしまえば花見はもう来年までお預けだ。

 

「う~…」

 

ミコトはどうしても我慢出来ない様子。とても来年までなんて待ってくれそうにないぞれは。

 

「ならさ!今日のお昼休みを使ってお花見しようよー!食堂のおばちゃんに頼んでお弁当作って貰ってさ!」

「だね!たぶん事前に頼んでおけば作ってくれると思うよ?」

「中庭ならベンチとかもあるし場所にも困らないし!」

 

話に加わってそう提案してきたのは、のほほんさんといつも彼女と一緒に居る二人組確か名前は谷本さんと夜竹さんだっけか。何も言ってないのに参加する気まんまんだ。しかし昼休みか。時間は少し短い気がするけどなんとかなるか?

 

「私があとで梅さんにお弁当お願いする」

「梅さん?」

「食堂のおばちゃんの名前だよおりむー。みこちーは食堂のおばちゃん達の人気者だから」

 

なる程、確かにミコトは見た目幼いからおばちゃん達には人気がありそうだ。それに俺達より早く学園に住んでる訳だしおばちゃん達とも付き合いは長いだろう。なら、此処はミコトに頼んだ方が得策か?

 

「うし!頼んだぞミコト!」

「ん。たくさん用意して貰う」

「ほ、ほどほどで良いぞ?」

 

沢山用意されて残してしまうなんて事になったら、我儘言ったのに作ってくれたおばちゃん達に失礼だからな。

しかし何故だろう。何か忘れている気がする。こう、何かが記憶の端に引っ掛かっている様な感覚が…。う~ん…思い出せない。まぁ、良いか。思い出せないって事はどうでも良い内容って事だからな!

そんなこんなで急に決まったお花見。相変わらずのミコトに振りまわされての事だったが俺は何処か花見が楽しみで心が躍っていた。最近は特訓やら決闘やらで心が休まる時が無かったからこういう風な純粋に友達と楽しむイベントは嬉しく思う。クラス代表の件のパーティーは楽しめる物じゃ無かったからな。

こうして、時間は過ぎて行き…。

 

 

 

 

 

お待ちかねの昼休みとなった。

 

「待ちに待った!」

「昼休憩!」

「だよー!」

 

三人組の無駄に元気な声を合図に授業で静まり返っていた教室が見間違えるほどに騒がしくなる。やる事は人それぞれで、ある生徒は我先にと食堂へと向かい、ある生徒は友達と雑談を楽しんでいた。

 

「んじゃ、食堂に行って弁当貰いに行くか」

「ん。梅さんおいしいの作ってくれるって」

「そりゃ楽しみだ」

 

お世辞でも嘘でも無い。此処の食堂の飯はどれも美味しいからな。期待して良いし本当に楽しみだ。

 

「本来、花見と言うのは場所取りから始まるものだが…」

「その心配は要らないだろ。花見をしようなんてもの好きは俺たちくらいなもんだって」

「確かにそうだな」

 

箒が心配する理由も分かる。場所取りの激闘は尋常じゃないからな。絶好のスポットは前日から場所取りしないといけないし。でも学園内ならその心配な無用だ。長くない昼休憩を使って花見をしようなんていう連中もそうそう居ないだろう。放課後とかならともかく。

 

―――っと、時間は限られているんだ。何時までも此処でのんびりしちゃいられない。食堂に行って弁当を貰いに行くか。

 

休み時間は30分程度しか無い。早く中庭に向かわなくては…。

 

「お花見なんて初めてですわね」

 

食堂へと向かう途中、ふとセシリアがそんな事を呟く。

 

「セシリアの国じゃそういう習慣は無いのか?」

「どうなのでしょう?少なくともわたくしはした事はありませんわね」

「そうかーセシリアは友達居ないから…」

「しっ!本音。そう言うのは口にしちゃダメだよ…」

「そう言う意味じゃありませんわよ!そんな哀れむ様な目で見るのはやめて頂けませんっ!?」

 

何やってるんだコイツ等は。花見の話は何処行った。

いつの間にか花見の話題が何処かへ行ってしまいぎゃーぎゃーと騒ぎ出すセシリアと三人組を見て呆れる俺と箒は、騒いでいる連中を放置してミコトの手を引きさっさと食堂へとむかう。

食堂に着いてみればそこは相変わらずの混みよう。出遅れたとはいえ4時間目が終わって数分しかやってないと言うのにこの混み具合だ。恐るべき食堂の席争奪戦。だが今日は食券の販売機に並ぶ事も席を探す必要も無い。そう俺は一人心の中で優越感に浸っていると…。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

どーん、と俺達の前に鈴がラーメンの乗ったトレーを持って立ち塞がって来た。ああそうだ。何か忘れてたと思ったら鈴の事だったのか。しかし鈴よ。逃げるなと言っておいて教室に来ず先に食堂に待ち伏せするのはこれいかに。

 

しかも随分待っていたのだろう。トレーのラーメンは既にのびておりとても美味しく頂ける状態ではなかった。それを見て申し訳ない気持ちにもなったが…まぁ、ラーメン好きの鈴ならそれでも美味しいと言って食べるだろう。しかし問題はそこじゃない。俺が本当に申し訳なく思うのは別にある。

 

「あー…もしかして一緒に食べようと思って待っててくれたのか?」

「そ、そうよ!感謝しなさいよね!」

 

あちゃー、やっぱりかぁ…。

 

何とタイミングが悪い事か。もう既に弁当まで用意して貰っているのだから今更花見を中止する事は出来ない。ラーメンがのびるまで待っててくれた鈴には悪いけど此処はお引き取り願おう。

 

「悪い。俺達今日は外で食べる予定なんだ」

 

「……………は?」

 

俺の言葉に間抜けな声を出して立ち尽くす鈴。

 

「予め言ってくれれば誘ったんだけどな。すまん」

「あ、あの…ちょっと…え?」

「じゃ、また今度一緒に食べような」

「ちょっ!ちょっと待ちなさいよ!」

「な、なんだよ?」

 

詫びを入れて立ち去ろうとすると、また鈴に呼び止められる。

 

「あたしも一緒に花見する!」

「いや、お前ラーメ「持って行くから良いの!」…おまえ」

 

花見でラーメンって初めて聞いたぞ。お前どれだけラーメンが好きなんだよ?

 

「おばちゃん!器外に持っていっていーよね!?」

「はいよ。割らない様に気を付けるんだよ?」

 

カウンターのおばちゃんが快い了承を得て鈴が「これで文句ある?」と勝ち誇った様にふんっと鼻息を荒げる。俺は別に構わないけど他のメンバーが…。

チラリと箒とセシリアを見る。

 

「「………」」

 

…すっごく不機嫌オーラを放ってるんですが?それでもお前は参加させろと言うのか?

さて、どうしたものか。ミコトはお弁当を貰いに行ってるし、のほほんさん達も皆の分のジュースを買いに行って此処に居ない。つまり決断するのは俺って事になる訳だが…。

 

どちらを選んでも良い結果が見えないのは何故だ!?

 

「梅さん。お弁当」

「ああミコトちゃんかい!はい。落とすんじゃないよ?」

「ん」

 

ミコトの身長の3分の1程の大きさの重箱をおばちゃんから受取ると、ミコトが危なっかしい足取りであっちへよろよろ、こっちへよろよろとしながら此方へとやって来る。

 

「一夏。お弁当もらってきた」

「げっ…」

 

良いのか悪いのか分からないタイミングで、気まずい雰囲気を漂わせるこの輪にミコトが加わると、ミコトの姿を見た鈴は明らかに嫌そうな声を漏らした。外見は千冬姉の瓜二つだからどうしても苦手意識が働くんだろうな。

 

「お、おう。だいじょうぶか?弁当代わりに持つぞ?」

 

弁当を代わりに持とうかと訊ねるがミコトは首を左右に振り拒絶する。

 

「私のわがまま。私が持つ」

「そうか。落とさない様に気を付けるんだぞ?」

「梅さんにも同じ事言われた」

 

うん。それはしょうがないと思う。傍から見れば凄く危なっかしい。とりあえず落っことしそうになったら何時でも反応できるように傍らで待機しておく様にしよう。

 

「…どうしたの?」

 

気まずい雰囲気に気付いたのかそうミコトが俺に訊ねてくる。

 

「えっとな…鈴が花見に参加したいって言い出してな」

「参加すればいい」

「えっ、良いのか?」

「みんなで食べた方がごはんおいしい」

 

そう言ってくれると本当に助かる。断る理由も無いし、断らなかったら断らなかったで箒達が何だか怒りそうだから困ってたんだ。ミコトの言う事なら二人も納得してくれるだろう。

 

「…まぁ、ミコトが言うのなら仕方がない」

「提案者はミコトさんですからね…」

 

はぁ…良かった…。

 

何とか最悪の事態は回避できたようだ。ミコト様さまである。

 

「ジュース買ってきたよー…って、あれれ?何で2組の子がいるのー?」

 

遅れて戻って来たのほほんさん達は、知らぬ間に増えていた花見メンバーに目を丸くすると、俺に訊ねてくる。

 

「鈴も花見に参加したいんだってさ」

「そうなんだー」

「私は別に構わないよ?寧ろ、そっちの方が面白そうだし」

「うんうん!それに色々聞きたい事あったし!」

 

何か気に掛かる部分もあるがのほほんさん達も快く了承してくれたようだ。これで満場一致と言う訳だ。一部不満はありそうだけどな。

予定外の事もあったが何ら問題無く準備は整い中庭へと移動。桜の木の傍にあるベンチを陣取りさあいよいよお花見の開始だ。

 

 

 

 

「しかし、相変わらずラーメン好きだな鈴は」

「何よ?文句ある?」

「いや別にないけどさ」

 

鈴と遊びにいく時は絶対と言って良い程に飯はラーメンと決まっていた。だから今更どうこう言うつもりはないし好き嫌いは人それぞれだと俺は思う。しかし花見にラーメンと言うのは少しシュールだぞ?しかももう汁ないじゃないかそれ。それをおいしそうに喰うお前はすげぇよ…。

 

「それにしても鈴が代表候補生かぁ…ははっ!全然想像出来ねぇ!」

「むっ!それどう言う意味よ!?」

 

だって鈴はエリートってイメージじゃないし…ってこれは言わない方が良いか。

 

「悪い悪い。それにしてもいつ日本に帰って来たんだ?おばさんは元気か?」

「うん。まあ、ね…」

 

…ん?何だ?

 

おばさんの事を訪ねた時に鈴の表情が一瞬暗くなった様な気がしたが今は笑っている。見間違いだろうか?

 

「それより!アンタこそなにISなんか使っちゃってるのよ。テレビ見たときビックリしたじゃない」

 

ああ~…鈴も見たのかニュース。まぁ代表候補生なら嫌でも耳にするだろうなぁ。セシリアだって入学前から俺の事知ってたみたいだし、他の生徒だってそうだ。俺は全然嬉しくないけど…。

 

「流れに流されこの状況だよ。好きでテレビに出るか」

「いやー。アンタの間抜けな顔をニュースで見て爆笑したわよ。何、あの状況に着いて行けなくて戸惑ってる情けない顔!あはははっ!思い出しただけで笑えてきた!」

「んなっ!?酷過ぎだろそれっ!?」

 

こっちは必死でそれどころじゃなかったんだぞ?俺の意思に関係無く周りが盛り上がって、毎日家に押し掛けられてマスコミとか大っ嫌いになったわ!

 

「ふふん。さっきのお返しよ」

「ったく…」

 

鼻で笑われ何も言い返す事が出来ず俺は肩を落とす。男が女に口で勝てる訳ない。

 

「一夏。そろそろどう言う関係か説明して欲しいのだが」

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合っていらっしゃるの!?」

 

疎開感を感じてか、箒とセシリアが多少刺のある声でそう訊ねてくる。他の三人組もそれが気になってたらしく目を輝かせて耳を大きくしていた。

 

「べ、べべ、別に付き合ってる訳じゃ…」

「おさななじみ」

「へっ!?」

 

黙々とお団子を頬張ってたミコトがぽつりと呟く。

 

「幼馴染…?」

「ん」

 

怪訝そうに聞き返す箒にミコトは頷くと、もう一本とお団子に手を伸ばす。ミコトは花より団子か…。

 

「ああ、幼馴染みだよ。箒が引っ越したのが小四の終わりだったろ?鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。丁度入れ替わる様な感じだから箒は面識ないよな…って、何で不機嫌そうなんだ?鈴」

「別に不機嫌じゃないわよ!」

 

いやいや、見るからに私は不機嫌ですってオーラを醸し出してるぞ?

 

「じゃあ紹介した方が良いよな。こいつは箒。話した事があるだろ?小学校からの幼馴染で、俺が通ってた剣術道場の娘」

「へぇ~アンタがそうなんだ…」

 

鈴はじろじろと箒を見る。箒は箒で負けじと鈴を見返していた。

 

「初めまして。これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 

そう言って挨拶を交わす二人の間にはバチバチと火花が散っていた。何だこの近づき難い二人を中心にしたこの空間は。しかし、何処の世にも空気を読めない馬鹿は居るものだ。

 

「ンンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

何故あの場面で混ざろうなんて考えられるのだろう?俺には到底理解出来ない。

 

「…誰?」

「なっ!?わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」

 

あれ?なんかデジャヴ…。

 

「ごめん。あたしそう言うの興味ないから。特に他の国の事とかどうでも良いし」

「な、な、なっ……」

 

鈴の言葉に、言葉を詰まらせるセシリア。明らかに怒ってる。口にはしていないが顔を赤くして凄く怒ってる。鈴は別にセシリアを怒らせようとも馬鹿にしようとしている訳じゃない。唯、本気で興味がないのだ。

 

「興味と言えば喰う事ばかりで放置してたけど…ねぇ、アンタ誰?」

「もご?」

 

急に話を振られて餡子を口の周りにくっ付けて、もごもごとながら顔を上げるミコト。

 

「口を拭きなさいよ…って、そんな事どうでも良いわ。アンタ、何者?何で千冬さんにそっくりなの?」

「っ!」

「貴女!」

「おい鈴!」

「だって気になるでしょ?」

 

確かにそうだけど…。

 

確かに気になる。でも聞いてはいけない気がして誰も聞けずにいたんだ。それなのに…。

 

「ごくん…ミコト」

「ミコト?」

「ミコト・オリヴィア」

「いや、名前を聞きたいんじゃなくて」

「私は私。他の誰でも無い。私がそう願い続ける限り。私は私であり続ける」

「…それが答え?」

「ん」

 

鈴はじっとミコトを睨みつけ、そしてミコトも動じることなく無表情のままその視線を受け止める。

 

「…そっ、なら良いわ」

 

威圧するのを止めてメンマを口の中へポイっと放り込む。

 

「鈴?」

「気になる事は多々あるけど…少なくともこいつは千冬さんじゃないって事は分かったわ。こんな口の周りを餡子でべったりにしている千冬さんなんて想像出来ないし」

 

…確かに。

 

だらしないところは共通しているが、千冬姉もこんなにだらしなくは無い。そして何より鈴の言う通り想像も出来ない。

 

「またこんなに汚して…ミコトさん。じっとしててくださいね」

「ん~」

「流石はみこちーの世話係。手慣れてるねー」

「嫌な役割ですわ…。というか、勝手に決めないでくださいな」

 

そう言いながらもセシリアはテキパキとミコトの口の周りを綺麗にしていく。しかし本当に手慣れてるな。まるで本当の親子みたいだったぞ。

 

「でも本当に似てるわね。背格好はまったく違うけど…」

「むに~…」

 

ふにふにとミコトの頬をつっつく鈴に対しミコトは少し嫌そうに眉を八の字にする。

 

「やめなさいな。ミコトさんが嫌がっているでしょう?」

「むぐっ」

 

がばっとミコトを守る様に抱きかかえて鈴から奪い取るセシリアに鈴はちぇーと口を尖らせる。

 

「別に良いじゃない。可愛いし」

「訳が分かりませんわ!」

「アンタ頭固いわねー。禿げるわよ?」

「なっ!?」

 

今確信した。セシリアと鈴は相性が悪いって事に。二人は性格が正反対すぎる。だから口を開けば必ずと言って良い程に喧嘩に発展してしまうのだろう。

 

「あーやめやめ!折角お花見してるのに喧嘩するなって!」

 

再び険悪なムードに…と言うかセシリアの一方的な物だったが、それでもこの場の空気を悪くしそうだったので俺は二人の間に割って入る。こう言う時に頼りになるミコトはセシリアの胸の中でむーむーもがいているので今はあてにできない。少しミコトが羨ましいとか思ってないんだからな?

 

「一夏。何処を見ている?」

 

何故ばれた!?

 

じとりと睨んで来る箒にあははは…っと額に汗を流しながら笑って誤魔化して視線を逸らす。

仕方ないだろ?俺だって健全な男の子なんだから…。

 

「あたしは別に喧嘩なんてするつもりないけど」

 

そりゃお前はそうだろうよ。悪気もなく無意識で言ってるんだろうからな。

 

「あとどうでも良いけどさ。そのちびっ子…放っておいていいの?」

「ん?…うわっ!?セシリア!ミコトがヤバイ!」

 

鈴が指差した方を見ると、セシリアの胸に埋まって力無く手をプランプランさせているミコトの姿があった。

 

「はい?きゃあああ!?ミコトさん!?大丈夫ですの!?」

「いいから放せ!ミコト!だいじょうぶかミコト!?」

「わー!?みこちー!?」

「何やってんだか…」

 

 

 

 

あれからミコトは数分後に復活し、今は何事も無かったかのように黙々とお団子を食べる作業を再開している。

 

そんなミコトを横目に俺達も花見を楽しんでいると、突然鈴がこんな事を言い出した。

 

「そういえばアンタ、クラス代表なんだって?」

「成り行きでな」

「ふーん…」

 

鈴は食後のデザートに団子を一つかぶりつく。他の皆の既にお昼を済ませてデザートであるお団子を楽しんでいるが俺はミコトのおはぎ早食いを見て胸焼けして食べる気が起きない。

 

朝にあれだけお菓子を食い過ぎるなって言ったのに。まったく…。

 

「な、なら。あたしが操縦見てあげよっか?」

「そりゃ助か―――」

「一夏に教えるのは私の役目だ!頼まれたのは、私だ!」

「貴女は二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ!」

 

―――る。と言い終わる前に箒とセシリアがガタンッと音を立てて急に立ちあがりそれを遮る。急に立ち上がるもんだから重箱に入った団子が衝撃で宙に浮き…。

 

「あむ」

「あ~ん♪」

 

ミコトとのほほんさんの口の中に収まった。何この芸当。すごい。

 

二人の芸に感心するが箒達はそんなの気にも止めずバチバチと火花を散らしていた。それほどまでにクラス対抗に燃えてるのか。俺もクラス代表として見習わないとな。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係無い人は引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私は一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

どうしてもとまで言っただろうか…?

 

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ!貴女こそ、あとから出て来て何を図々しい事―――」

「あとからじゃないけどね。あたしの方が付き合いは長いんだし」

「だ、だったら私の方が先だ!」

「一緒に教えればいい」

 

「「「…えっ?」」」

 

「もぐもぐ…」

 

ぽつりと呟かれたその言葉に一斉に視線がその声の発生源に集まると、発生源の主は自分に向けられている視線など気にする事も無く黙々とお団子を食べ続ける。しかし、このお団子を食べる少女の何気ない一言が俺の運命を決めたのはこの時俺は気付かなかった。そして俺は後に後悔する事になる。この時はっきり鈴の提案を…いや、ちゃんと誰に教えてもらうか決めていればあんな事にはならなかっただろうと…。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏!何この程度でへたっている!立てっ!」

「一夏さん!そこはそうでは無く身体を傾けさせながら後退と何度―――」

「今のは一気に攻める場面でしょうが!何距離を開かせてんのっ!?」

「ちょっ、そんないっぺんに言われても…って!?ぎゃあああああああああああっ!?」

 

流れに身を任せているとこうなると、改めて思い知った夕焼けの放課後だったとさ…。

 

 

 

 

 


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