IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第6話「休日の過ごし方」

 

 

 

 

「『ミコト』さん!もう一度勝負ですわ!」

「お~?」

 

ババンッ!両手で机を叩きミコトに再戦を申し込むセシリア。その大きな音と声を聞いて一斉に教室中の視線が二人に集まるが、それはすぐに「またか…」と呆れや苦笑と共に散っていく。

ミコトとセシリアの勝負から一日が経つ。あれからセシリアはこの調子で千冬姉のげんこつを喰らってもなお、時間があれば直ぐにミコトに再戦を要求している。それ程勝負の結果が気に喰わなかったのか、再戦を申し込まれているミコト本人は何の事か分かっていない様で不思議そうに変な声を漏らしているだけで、セシリアの要求には全く飲もうとしない。そんなミコトにセシリアは「あ~もうっ!」と声を荒げると…。

 

「お~、ではありません!あんな勝利納得いきませんわ!もう一度勝負して下さいまし!」

「ん?」

「ん、でも…ああ、もうっ!ふざけていますのっ!?」

 

気持ちは分かるけど落ちつけよ…。

 

ミコトとまともな会話が出来る人物なんて殆どいないって。もしかしたら束さんならいけるかもしれないが…。想像してみたけどとんでもないカオスが繰り広げられそうだ。

 

…っと、そんなことはどうでも良いか。それより目の前の状況を何とかしないと。セシリアとは仲が良くないと言っても、このまま放置してまた出席簿と言う名の体罰を見せられるのは気持ち良い物じゃないし。

 

「そろそろやめとけって、授業始まるぞ?」

「黙ってて下さいます!?今重要な話をしているのですから!」

 

くわっと振り向いて俺を威嚇して来るセシリア。人が折角気遣ってやっているというのにこいつときたら…。

 

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。

 

ああ、ほら。授業が始まった。そろそろ本気で止めないと千冬姉が来る…あ。

 

「お、おい。いい加減に…」

「だ~か~ら!少し黙っててと「黙るのはお前だ馬鹿者」…ほぇ?」

 

だから言ったのに…。

 

ギギギギ…と錆びた人形のように首を後ろへと向けるセシリア。そしてそこに居たのはもちろん千冬姉だ。しかも出席簿を振り上げている体勢で…。

 

「お、織斑先生?これには深い訳がございまして…」

「関係無い」

 

パァンッ!

 

聞く耳もたずと、容赦無く振り下ろされる出席簿ともう聞きなれた甲高い音。叩かれた本人であるセシリアは頭を抑えてしゃがみ込んでいるがこれは自業自得だろう。

 

「~~~っ…」

 

いつ見てもイタそうだよな。あれ。

 

まぁ、俺も実際に何度も叩かれているから痛いのは分かってるんだけどさ。やっぱり見てる方でもこれはそう思わずにはいられない訳で。

 

「では授業を始めるぞ。号令」

 

そして目の前で悶え苦しんでいるセシリアを無視して何事も無かったかのように授業を始める千冬姉。鬼だこの人…。

 

「あ、あきらめませんわよぉ…」

 

まだ言ってるのかよこいつは…。

 

弱々しく呟かれたその言葉に呆れる俺とその周りでくすくすと諦めの悪いセシリアの姿を見て苦笑を漏らす女子達。そして、何時まで経っても自分の席に戻らない諦め知らずな愚か者にまた出席簿と言う天罰が下るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話「休日の過ごし方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

「ねえねえみこちー。明日はお待ちかねのお休みだよー」

「! お~…」

 

帰りのSHRが終わった途端、のほほんさんがミコトの席にやって来たかと思うと突然そんな事を言い出した。しかもミコトは無表情ながらも目がキラキラと輝かせている。どうやら何か約束でもしているらしい。まぁ、二人はルームメイトだし寝食共にしているのだから休日に一緒に出掛けるのは別に不思議でも無いか。それにしてもお待ちかねと言うのは大いに同意できる。この一週間色々あり過ぎで身も心もクタクタだ。休みの日ぐらいゆっくり落ち着きたいもんだ。

 

だけどなぁ…。

 

ちらりと箒の方を視線を向けると、箒ものほほんさんとミコトの会話を聞いていたのか俺の視線に気付くと、ムッとした表情で竹刀の入った袋を持ち「休めると思ってんのかゴルァ」と言う感じの視線を送って来て下さった。グッバイ休日…。

来る事のない休日に俺はがくりと肩を落とすのだった。

 

「どうしたのおりむー?元気ないよー?」

「一夏、風邪?」

「ん、いや。そんなんじゃないさ。気にすんな。それより二人は休みの日に何処か出掛けるのか?」

 

休日は学園から外出する事は許可されている。勿論、申請は必要だがそう難しい書類を何枚も書く訳でも無いし、この辺りは治安も良いから許可をとるのは簡単だろう。俺も家の掃除とか色々あるから定期的に家に戻るつもりで居る。それに、今の荷物だけじゃ少々心許無いし…。

 

「そうだよー♪一日掛けてスイーツ巡りだよー♪ねー?みこちー?」

 

「ん~♪」

 

スイ~ツとは…流石女の子。俺なんてそれを聞いただけで胸焼けしてしまいそうだ。

 

「おりむーも一緒にいくー?」

「結構です」

 

きっぱりとお断りする。箒との特訓と天秤にかけるのは厳しいが、胸焼けと戦うスイ~ツ巡りと地獄の特訓なら特訓を選ぶ。一応得る物もある訳だし、箒だって俺の為に休日を使ってくれてるんだから。それが幼馴染に対する礼儀と言う物だろう。

 

「えー?なんでー?」

「休み明けの勝負に向けての特訓があるからな」

「むー、何だか誤魔化された気がするよー」

 

ぐっ、のほほんとしてる癖に鋭いなこの子。

 

「本音。一夏、頑張ってる。邪魔しちゃダメ」

 

ぐおおおおっ…罪悪感が。罪悪感で心がイタイ。汚れた自分にはミコトが眩し過ぎるよ…。

 

頑張っているのも事実だが、誤魔化しも何割かはいっている訳で。そんな純粋な目で言われると心が痛む訳で…。

 

ゴスッ

 

「いてぇ!?」

 

心を痛めている所に本当に物理的な痛みが後頭部を襲う。何事かと頭の痛みで涙目になりながらも後ろを睨むとそこには竹刀を持った箒の立っていた。今の痛みは竹刀で殴ったものだろう。容赦無さ過ぎだ。

 

「何すんだ箒っ!?」

「どこぞの馬鹿が腑抜ていた様なんでな。気合を入れてやっただけだ」

 

何その横暴。それに何でそんなに不機嫌そうなんだ?

 

「ほら、授業は終わったんだ。剣道場に向かうぞ」

「お、おう」

 

有無言わさずの威圧に俺は反抗せずに素直に従う。目の前の箒と言う名の鬼に刃向かう程俺は馬鹿じゃない。というかそんな度胸は無い。

 

「箒」

「む?何だミコト」

「頑張る」

「…うむ!」

「ミコト。そこは俺に頑張ってと応援を送るべきじゃ無いか?」

「ん。でも、箒も色々頑張ってる」

 

そうなのか。俺はそんな風には見えなかったけど…。

 

「へ~、例えばどんな?」

「一夏と「わあああっ!?ミコト!それ以上言うなっ!?」むぐっ…」

 

ミコトが何か言おうとしてそれを慌てて口を塞いで止める箒。顔を真っ赤にしてるが何だ一体?俺の名前が聞こえた様な気がしたけど…?

 

「何だ?俺がどうかしたのか?」

「な、何でもないっ!そ、それより!剣道場に行くぞ!時間は貴重なんだ!」

「うわっ!?分かった!分かったから!引っ張るな引っ張るなって!?」

 

此方の訴えなど耳を傾けず、箒は問答無用で俺の襟を引っ掴みぐいぐいと引っ張っていく。おいやめろ。これは新品なんだぞ!?入学一週間も経ってないのに駄目にするつもりかっ!?

 

「一夏、頑張る」

「お、おう!明日楽しんで来るんだぞ~!」

「ん」

「じゃ~ね~おりむ~」

「おう!またなー!」

 

引き摺られながら二人に挨拶をすると教室を後にする。にしても休日かぁ。

 

「なぁ、箒」

「何だ?」

「お前は良いのか?俺なんかのために休日潰して」

「そう思うのならさっさと強くなれ」

「おう…悪いな」

「ふ、ふんっ!まったくだ!」

 

後ろ向きで引き摺られている体勢なので箒の顔は見えないが、きっと照れているのだろう。俺は内心相変わらず素直じゃないなと笑うとそのまま剣道場まで引き摺られるのだった。

 

 

―――追伸、今日は一段と厳しかったです。何故だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side セシリア・オルコット

 

 

今日は休日。つまり生徒は一日予定が空いていると言う事。ならば織斑先生が邪魔に入らない今日こそミコトさんと決着をつける絶好の機会ですわ!

 

と言う訳で…。

 

「ミコトさん!今日こそ勝負をしてもらいますわよ!?」

 

ばばんっ!とノックもせずに大きな音を立てて開かれたドアと同時に大きな声で再戦を求めるわたくし。ふふん!今日は休日ですし此処なら織斑先生も来る筈もない。今日は逃げられませんわよ!?

 

「えー?みこちー私服ないのー?」

「ん」

 

しかし、派手に登場したにもかかわらず。お二人はわたくしの存在など興味も示さずに何やら楽しそうに洋服選びを続ける。とりあえず着替えがを見られない様にドアを閉めておきましょうか。

 

「―――って!無視しないでくださいまし!?」

「じゃあー、出掛ける時は今までどうしてたのー?」

「真耶が服持って来てくれる」

「山田せんせー?」

「ん コクリ」

 

へぇ、仲が宜しいんですのねぇって!そんな事どうでも良いですわ!

 

「だから!無視しないでください!」

「もー、セシリアはうるさいなー」

 

やれやれと大袈裟な仕草で溜息を吐く布仏さん。というかやっぱりわたくしに気付いていたんですわね!?

 

「わざとですの!?わざとわたくしを無視していましたの!?」

 

見かけによらず恐ろしい子達ですわね…。

 

「だってさー。私とみこちーは今日は出掛ける予定だしー。セシリアに構ってあげる余裕はないのだー」

「じ、時間はとらせませんから!」

「うそだねー」

「…何故言いきれますの?」

「私もみこちーとセシリアの勝負は勿論見てたけど、もし制限時間が無ければどうなってたかなー?多分一時間とかじゃすまないと思うなー?」

「ぐっ…」

 

確かに布仏さんの言う通りですわ…。

 

実際にあのまま戦闘が続いていれば互いのエネルギーが尽きるまで延々と追いかけっこが続いていたでしょう。ミコトさんの機体は武装を一切積んでいない奇妙な機体。エネルギーの尽きかけたわたくしの機体では精々格闘戦に持ち込むのが精一杯。しかもミコトさんの機動に追い付けないのであれば正に手も足も出ない状況。とても短時間で終わるとは思えない…。

 

「こ、今度はちゃんと即効終わらせますから!」

「ほんとにー?」

 

苦し紛れにそう言った物の、返って来たのは布仏さんのじと~っとした疑いの眼差し。うぅ、本当ですわよぉ…。

 

「でもねーセシリア」

「はい?なんですの?」

「折角の休みの日なんだからISの事なんて忘れて楽しむべきだと私は思うなー」

「そ、それは…そうですけど…」

 

布仏さんのもっともな意見に思わずたじろぐ。

 

で、でも!わたくしはIS技術の修練の為にこの学園に来ているのですからやはりISに専念するのは当然の事です!ええ!わたくしは間違っていませんわ!

 

「IS学園の生徒なのですから!ISに専念するのは当然ですわ!」

「えー私は年頃の女の子らしく青春を謳歌したいよー」

「学生の本分は学業!なら、ここIS学園の学生ならばISに励むのは当然義務であって―――」

「みこちーレッツゴーだよー♪」

「おー♪」

「―――って!?わたくしを無視して出て行こうとしないで下さい!?」

 

わたくしが学生としての行いを説いていると言うのに、わたくしを無視してお二人はわたくしの脇を通り抜けていき、わたくしは慌てて追いかけるのであった…。

 

 

 

 

 

…そして、お二人を追いかけてたわたくしは。

 

「もー、セシリアも一緒に行きたいならそう言えば良いのにー」

「モグモグ」

「そんな訳ないでしょう!?」

 

何故かお二人と一緒にクレープを片手に街中を歩いていた。

 

どうしてこうなりましたの…?

 

追い付いたと思ったらバスに乗っていて、戻ろうとしたのにいつの間にか電車に乗っていて、そのまま街を回る事になって…。

 

わかりません。どうしてこうなったのかわかりませんわ…。

 

「どうみこちー?このクレープ美味しいでしょー?この辺りで人気のお店なんだよー?」

「コクリコクリ!」

 

必死に、そして美味しそうにクレープにかぶり付いているミコトさんの姿は、口いっぱいに食べ物を詰めるなんてマナーとはかけ離れた物でしたがとても可愛らしくまるでそれはリスのようでした。ああ、何て可愛らしい…って、私は今何を考えていたのでしょう?

 

そもそも、歩き食い自体マナー違反であり淑女としてはしたない行為。何故このわたくしがこんな事を…。

 

「あ、歩き食いなんてはしたない真似を…」

「セシリアはいつの時代の人だよー」

「モグモグ」

「ま、マナーと言う物はいつの時代でも変わらない物ですわ!」

 

それを証拠に、古くからの作法が今もこうして形を殆ど変えず伝えられています。言うなれば引き継がれていく美しき伝統の様な物ですわ。

 

「古臭いよーもっと未来に生きよーよー。時代はつねに加速してるんだよー」

「で・す・か・ら!マナーに時代遅れも何も…って!ミコトさん!?口の周りがよごれて。あぁ、もう。お洋服の袖で拭おうとしては駄目ですわ…」

「? ケプッ」

 

クレープを平らげて満足そうにしているミコトさんの口の周りにはクリームやらチョコレートやらがべったりと付いており、わたくしがそれを教えると何と彼女は制服の袖でそれを拭おうとするではないですか。わたくしは慌ててがしっとミコトさんの腕を掴んでそれを阻止。う~っと呻くミコトさんを無視して持って来ていたハンカチで彼女の口の周りのクリームを拭き取る。

 

「じっとしていて下さい。今拭いてあげますから」

「ん~…」

 

そう言うと、驚いた事に先程まで嫌そうにしていたのをピタリと止めて急に大人しくなってしまう。突然の反応の変化に若干戸惑いましたがあのまま嫌がられて暴れられるよりマシでしたのでそんなに気にせず拭き取る作業を再開。そしてそんなわたくし達の様子を見て布仏さんはと言うと…。

 

「なんだか、親子みたいだねー」

「なっ!?」

「ん~?」

 

そんな事を言ってくれやがりました。

ピタリとハンカチを止めると、キッと振り返り布仏さんを睨みますが布仏さんは「たは~♪」とか言いながら笑うだけ。本当に調子が狂う方ですわね!それにわたくしが母親!?こんな大きな子を持つ程老けてるとでも言いたいのですか!?まだ花も恥じらう15歳ですわよ!

 

「何を言っているんですか貴女はっ!」

「でもでもー絶対いいお母さんになると思うよー?厳しそうだけど」

「それは、まぁ…お母様は厳しくも優しい人でしたし。子は親を見て育つも申しますし…。だ、だからって!今のこれとは関係ないでしょう!?」

「そう言いながらも嬉しそうなセシリアであったー」

「嬉しくありませんわ!」

 

少しは、その…嬉しかったですけど…。

 

「………お母様、ですか」

 

母はわたくしの憧れだった。強い人で、社会が女尊男卑の風潮に染まる前からずっと。女の身でありながらいくつもの会社を経営して成功を収めた人だった。わたくしにはとても厳しかったけれど…それでも、成績が良かったり、頑張ったりしたら褒めてくれたり優しいところもあった。だからわたくしもそうなりたいと思った。でも、3年前に母は…。

 

「……っ」

 

越境鉄道の横転事故。死傷者は百人を超える大規模な事故が3年前に起きて、わたくしの父と母は一緒に死んだ…。莫大な財産とわたくしを一人置き去りにして二人は居なくなってしまった…。

ぎゅっ手を握り締めて唇を噛む。どうして。どうしてあんな事に…どうして死んでしまいましたの?

二人はいつも別々に居た。父は名家の婿入りのせいか、いつも母の機嫌を窺いオドオドしていて、そんな父を母は鬱陶しそうにして一緒に居る時間は殆どなかったと言うのに、その日に限って何故か一緒に居て。そして一緒にわたくしの前から居なくなった…。

 

「セシリア?」

「!…ミコトさん?どうかしましたか?」

「ん…セシリア、かなしそう」

 

ミコトさんの急な指摘にどくんと心臓が大きく脈打つ。ミコトさんはじっと私を見上げている。今だ幼さを残すその無垢な瞳が何もかも見通している様に私を捉えていた。

 

「そ、そんなことありませんわ」

 

弱さは見せまいとわたくしは意地を張る。そう、弱さを見せてはいけない。わたくしはオルコット家を主。二人が残した物を守らなければいけないのだから。弱さは許されないのだから…。

 

「ほんと?」

「ええ、本当ですわ」

「ならいい。でも、かなしかったら言う。ともだちだから」

「友達?わたくしとミコトさんがですか?」

 

わたくしは驚き目を丸くする。何時の間にそんな関係になったのだろう。今までの会話ややり取りで『友達』と言う言葉は到底思い浮かびそうに無いのですが…。

 

「ともだちは一緒に遊んだり出かけたりする」

「た、確かに一緒に出掛けてはいますけど…それに、遊んだ覚えは…」

「鬼ごっこした」

「あ、あれは鬼ごっこをしていた訳ではありませんわよ!?」

「ん?」

 

ん?って…まさか本当に鬼ごっこのつもりだったんですの…?

 

「はぁ…」

 

落胆と深い溜息と共にガクリ肩を落とす。勝負する気は無いのは戦っていて分かってはいた。でも、まさか鬼ごっこをしているつもりだったなんて…。

 

嗚呼、そう言えば戦闘中にも『鬼ごっこ』と言う単語が出てましたわねぇ…。まさか、本人がその気だったとは思いませんでしたが…。

 

「だから、セシリアともだち」

「もう好きにしてくださいな…」

 

鬼ごっこの事もありますが、朝から張り切っていた所為で反論する気力もありませんわ…。

 

「ん♪セシリアともだち。4人目♪」

 

そう言って嬉しそうに表情を弛ませると、ミコトさんはわたくしの手をとるとぎゅっと握って来る。

本当に幼い子供の様ですわね。見た目も勿論ですが、心の方も未発達で…。本当に同い年ですの?IS学園なら色々と特例があって15歳未満でも入学なんて有り得そうですけど。ミコトさんならISの方は勿論の事、成績だって問題無いのですから。

 

性格の方はやや問題ありですが。

 

「ですが、よろしいんですの?わたくしは貴女の友達であるあの男と戦うんですのよ?」

「ん。問題無い」

「何故?」

「ともだちは喧嘩するもの」

「ともだちじゃありませんわよ!何故わたくしが男なんかと友達にならなければならないんです!?」

「おとことおんな。関係無い」

「そうだよー。さー手を繋いで輪になっておどろー♪」

「意味が分かりません!」

 

って、そこ!手を繋ごうとしないで下さいなっ!?輪になろうとしない!街中で何をしようとしてるんですの!?

 

「と、とにかく!わたくしは友達は勿論のですが、勝負も手加減しませんからね!」

「必要無い。一夏はつよい」

「あら?専用のISは未だ到着していない様ですけど?それでわたくしに勝てると思って?」

 

わたくしだって相当の訓練を積んでいる。あの方がどれ程の時間をISに搭乗しているかは存じませんがあの様子では素人も同然。しかも専用機だと言っても搭乗時間が短ければ意味も持たない。到底わたくしに勝てるとは思えませんわ。

 

「一夏にもゆずれない物がある。だから、きっと『一夏の子』も応えてくれる」

 

ISのコアは未だ解明されておらずその可能性は未知数とは言え彼女の言う事は何ら根拠も無く推測の域を出ていなかった。そんな不確定な物にわたくしが負ける筈が無い。それに、わたくしにだって譲れない物があるのだから。前回は無様な醜態を晒しましたが今回はそうはいきません。絶対に勝利をこの手に掴んでみせます。

 

「わたくしにも譲れない物はあります。負けられませんわ。全力で潰させてもらいますわよ?」

「ん」

 

ふふんと強気でわたくしはそう言うと、ミコトさんがそれに問題ないと頷いて見せた。あら?良いんですの?

 

「なら、お互いに全力を出し合ってぶつかれば良いって言いたいんじゃないかなー?拳の語りあいー。くろすかうんたー」

 

そう言って布仏さんは握りこぶしを「とりゃー」と間の抜けた掛け声とともに突き出す。何とも迫力の無いパンチですこと…。

 

「まぁ、良いですわ。そんな事は。勝負はわたくしの勝ちに決まっていますから」

「そう言ってみこちーに手も足も出なかったくせにー」

「あ、あれはその!ミコトさんの妙な機動に戸惑っただけですわよ!」

「いいわけいくない」

「良い訳ではございませんわ!?やっぱり再戦を要求します!ミコトさん!今直ぐ勝負ですわ!」

「はいはい落ち着こうねー此処だと流石にまずいからー」

「くっ……そうですわね」

 

確かに許可無くしかもこんな街中でISを展開するのは不味いですわね。流石に冗談では済まされません。わたくしとした事が冷静さを失ってしまいましたわ。

 

「そんなことよりさー。食い倒れ…じゃなかった。食べ歩きツアーの続行だよー」

 

いま食い倒れっておっしゃりませんでした?

 

余りにも優雅さの欠片も無いその言葉にサーッと血の気が引く。まさかわたくしにそんな真似をさせるつもりでは無いでしょうね…。

 

「じゃあまずは『DXジャンボパフェ30分で完食したらタダ』から攻めて行こうかー」

「おぉ~♪」

 

食べ歩きではありませんわよねソレ!?明らかに目的が違ってますわよ!?

 

食べ歩きと言うのは食べ物を食べながら歩き回る事を言う筈。それは明らかに店に留まっているではありませんか!?と言うよりそんなものを食べたらカロリーが…。

 

ガシッ!

 

「ひぃ!?」

 

両サイドから腕を拘束されて逃げられなくなるわたくし。そして腕を掴んでいるミコトさんと布仏さんはにっこり悪魔の様な笑みを浮かべると…。

 

「じゃあ、逝こうか~♪」

 

死刑宣告を告げたのでした…。

 

「い~~~やぁ~~~~~っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして、ミコトと本音は数ある猛者達を見事に食べつくし。後日、セシリアは体重計を見て絶望したとさ。チャンチャン♪

 

 

 

「チャンチャン♪ではありませんわーっ!!!!」

 

 

 

 

 

 


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