IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第3話「この翼に賭けて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

誰も居なくなった放課後の教室で俺は机の上で一人ぐったりとうなだれていた。

箒もミコトも補習が終わり次第それぞれさっさと帰ってしまい。教室には俺一人が取り残され勉強に励んでいる。唯でさえ俺は皆とは遅れているんだ少しでも早く追いつかなければと言う思いで今此処に居るのだが…。

 

「駄目だぁ…全然わからねぇ!」

 

専門用語の羅列で辞書か何かでもなければ勉強にすらならない状況。しかし悲しい事ISの辞書なんて存在せず、手探りしながら自力でやっていくしか方法が無い。こんな事なら箒かミコトをひき止めておけば良かった。一時間程前の俺が恨めしい…。

 

教えてくれそうな人材は沢山居るんだけどな…。

 

ちらっと廊下に視線を向ければ、やはり廊下には休み時間同様に他の学年やクラスの女子が俺の事を見に押し掛けていた。あの中の誰か一人に教えてくれって頼めば教えてくれるんだろうが今の俺にそんな勇気と気力は無い。

 

でもまずいよなぁこの調子じゃあ。勝負まで一週間しか無いのに。

 

決闘を申し込まれた時は『まだ一週間ある』と言う考えが、今では『一週間しかない』と言う物に変わっていた。それだけ今の状況はピンチなのだ。さてどうしたもんか…。

 

「ああ、織斑君。まだ教室に居たんですね。良かったです」

「はい?」

 

俺が悩んでいる所に副担任の山田先生が書類を抱えて教室へとやって来る。今の口ぶりからするに俺に用事があるみたいだけど何だろう?

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

そう言って差し出されたのは部屋のキーと部屋の番号が書かれた紙きれ。

ここIS学園は全寮制で全ての生徒が寮での生活を義務付けられている。国防の要となるIS操縦者となると、学生とはいえ将来有望であれば学生の頃からあれこれ勧誘しようとする国がいてもおかしくない。最悪、誘拐されたり命を狙われたりする可能性だってある。この全寮制はそう言った危険から護るための物でもある。

しかしその寮も当然俺を除けば女子しか居ない。そして全員が相部屋。だから俺はそう言った関係で準備が整うまで一週間程は自宅からの通学という予定の筈だけど…。

 

「俺の部屋って決まってないんじゃなかったんですか?」

「それが色々と事情がありまして。一時的ですが部屋割を無理やり変更したらしいんです。それに、織斑君もいやでしょ?家に帰ってテレビ局の人に詰め寄られるのも」

 

ああ、確かに。多分今日は玄関の前で『入学初日はどうでしたか?』とか『IS学園に入学した今のお気持ちは?』とか質問されるんだろうなぁ。

 

そう思うと家に帰りたくなくなってきた…。

 

「そう言う訳で、一ヶ月もすれば個室が用意されますから、しばらくは相部屋で我慢して下さい」

「そうですか。仕方ないですね。でも荷物とかの準備とかありますんで今日は帰っていいですか?」

 

流石に着替えも無しとかは辛い。それに色々と必要な物だってある。携帯電話とか、歯ブラシとか後ゴニョゴニョとか…。言わせんな恥ずかしい。

 

「あっ、荷物なら―――」

「私が手配しておいてやった。有り難く思え」

 

山田先生の言葉を遮って突然現れる千冬姉。今日は何発も叩かれた所為か声を聞くだけでビクリと身体が反応してしまう。

 

「ど、どうもありがとうございます…」

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

なんて大雑把な。確かに学園内に不必要な物は持って来ちゃいけないしその通りだけど。俺もお年頃な訳で潤いや娯楽が必要だと思うのですよ…。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行って下さいね。夕食は6時から7時、寮の一年生用の食堂で取って下さい。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど…えっと、その、織斑君は今の所使えません」

「え?なんでですか?」

 

俺も大浴場に入りたい。

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に入りたいのか?」

「あー…」

 

そうだった。ここ女子しか居ないんだった。なら男子用の大浴場なんて必要ないよな…。

 

「おっ、織斑くんっ。女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、駄目ですよっ!」

「い、いや入りたくないです」

 

どんな目に遭うか分かったものではない。そりゃ、男として興味は無いのかと聞かれれば当然あると答えるが、その代償が命となるとやはりNOと答える。一瞬の幸せのために今後の人生を使いきるなんて御免だ。

 

「ええっ?女の子に興味無いんですか!?そ、それはそれで問題の様な…」

 

どうしよう。この人結構他人の話を聞いてない。

ここは、俺は女の子が大好きだー!と大声で断言するべきか?…やめておこう。俺の社会的生命が終わってしまう。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。織斑君。ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃ駄目ですよ」

 

校舎から寮まで50メートル位しかないと言うのにどう道草をくえというのだこの人は。確かに各種部活動、ISアリーナ、IS開発室など様々な施設・設備があるこの学園だが、今はもう日が暮れるしそんな体力は残ってはいない。今は直ぐにでも休みたい気分だ。

 

「あっ、あと…ミコトちゃ…オリヴィアさん知りませんか?」

「ミコトですか?」

「ミコト…そうですか。仲良くしてくれてるんですね。良かったぁ…」

 

俺がミコトとの事をそう呼んでいる事を知るとそう自分の事のように微笑む山田先生。その表情は子を思う母のようなそれに似ていた。俺は両親に捨てられているのでそう言うのは良く分からない。でも、この人にとってミコトはそれ程大切な存在なのだろう。

 

「山田君」

「あっと!そうでした!コホン…えっと、部屋のキーを渡すから教室に残る様に言ってたんですけど。知りませんか?」

「いえ。ミコトの奴、補習が終わったら直ぐに何処かに行っちゃいましたし…」

「そうですかぁ…うぅ…どうしよぉ~?」

 

涙目で困り果てる山田先生。これから会議だって言ってたし。これから探す訳にもいかないだろう。仕方ない。

 

「俺が渡しときますよ。流石に暗くなったら寮に戻るだろうし」

「ほ、本当ですか!?嘘じゃないですよね!?嘘だって言ったら泣いちゃいますよ!?」

 

がばっと両手で俺の手を掴みそう訊いて来る山田先生。ていうか、既に半分泣いちゃってるじゃないですか…。

 

「本当ですよ。部屋の番号は何番ですか?」

「1024です♪お隣さんですよ♪あの子のことよろしくお願いしますね♪」

 

おお、何という偶然。これなら寮で鉢合わせにならなくても渡せるかもな。まぁ、ミコトが見当違いな場所にいかなければと言うのが前提だけど…。

 

…難しいなぁ。

 

ミコトの行動なんて予測不能だし。付き合いが長いであろう千冬姉や山田先生でさえ手に負えないのに俺がどうこう出来る問題か?これ?

 

千冬姉と山田先生が出て行くのを見送ってから、俺も荷物をまとめて教室を出る。周囲から視線が纏わりついて来るが、それをスルーして廊下を早歩きで逃げるように突っ切る。

 

さて、寮に戻るのは良いけど。やっぱ一応探すべきだよな?

 

約束してしまった以上、責任を持って届けねばなるまい。せめて心当たりのある場所は見て回っておくべきだろう。

 

…って言っても、心当たりのある場所なんてあそこしか無いんだよな。

 

そう心の中で呟いた俺は、あいつと友達になったあの場所に向かう為に階段を駆け登った。

 

 

 

 

「ほらな。やっぱり此処に居た」

 

屋上に辿り着くと、そこにはその白い髪を夕陽の茜色に染めて一人ポツンと空を眺めているミコトの姿があった。

 

「…?」

 

俺の声に反応してミコトが此方へと振り向く。振り向く際に揺れるその髪は夕陽の光できらきらと輝きとても綺麗でついつい見惚れてしまった。

 

…っと、いけね。要件忘れるとこだった。

 

呆けている意識を引き締めるとミコトに近づきぽむっと軽く叩くような感じで手を置いて笑いかける。

 

「おいこらミコト。駄目だろ教室にいなきゃ。山田先生が困ってたぞ?」

「?…まや?」

 

頭に手を置かれ少しくすぐったそうにしながら首を傾げるミコト。友達になっても相変わらずの無口で口足らずだ。まぁ、そう言う所も込みでミコトなんだろうな。

 

「部屋のキーを渡すから教室に残る様に言われてただろ?」

「………………ぉ~」

 

凄く長い沈黙の後、漸く思い出したのか妙な鳴き声と共に何度も頷くミコト。何て言うか可愛いなチクショウ。

 

「こ、これがミコトの部屋のキー。部屋の番号は1024な」

「ん…」

 

俺はポケットからミコトの部屋のキーを渡すと、ミコトも理解したのか小さく頷いてちょこんと手を出してキーを受取る。

 

「それじゃあ、寮に行こうぜ。ミコトも今日はくたくただろ?」

「ん…」

「いや~、それにしても入学初日でこんなに疲れるとは思わなかったぜ。グランド走らされたり、決闘申し込まれたりで」

「ん」

「ミコトもゴメンな。俺が口喧嘩なんかしたから関係無いミコトまで巻き込んで…」

 

もし、あの時セシリアに反発せず適当に聞き流しておけばミコトも巻き込まれずに済んだ筈だ。だから決闘の件は全て俺が悪い。だからちゃんと謝っておきたかった。巻き込んでごめんって…。

 

「…」

「ミコト?」

 

俺の謝罪にミコトは小さく首を左右に振る。そんな事ないと俺に伝える様に…。

 

「一夏、わるくない」

「だけど…」

 

ISは兵器だ。最強の。そんな物を使った模擬戦が絶対に安全だとは言い切れない。怪我だってするかもしれない。もしそんな事になったら俺は自分を許せないだろう。こんな小さな身体をしたミコトを傷つけた自分を絶対に…。

 

「大丈夫」

 

ぎゅっ…。

 

ミコトは裾をぎゅっと握って俺を見上げて来ると、俺を安心させるように小さく笑う。分かり辛くはあったがその表情は確かに微笑んでいた。

 

「私とイカロス、墜ちない。ぜったい」

「勝てるのか?」

 

俺は専用機とか代表候補生とか良く分からないがセシリアのあの自信、そしてクラスの女子達の反応でセシリアが強いと言う事が何となくだが理解している。それにミコトは勝てると言うのか?

 

「んーん」

「…へ?」

 

勝算があるから、自信があるからの発言だろ?今の…。

 

「私は、飛ぶだけ」

「飛ぶ?」

「ん…空、飛ぶ。誰にも邪魔させない」

 

ミコトは空を見上げていた。茜色に染まっている空を…。俺もつられて空を見る。空は何処までも何処までも広かった。

 

空を飛ぶ、か…。

 

ミコトは自己紹介で空が好きと言っていた。ミコトにとって空がどう言うものか、何故そんなにこだわるのかは分からない。でも、きっとそれはミコトから見ればとても掛け替えのない物で、譲れない物なのだろう。勝つとか負けるとかミコトにはどうでも良い事なんんだ。きっと…。

 

「…じゃあ捕まるまで逃げ続けるか?」

「ん、おにごっこ。すき」

「ぷっ、あははっ、そうか」

 

これはセシリアも苦労しそうだ。何たってあの千冬姉も手を焼くミコトなんだからな。

 

何だか気が楽になった。胸につっかえてた物が無くなった気分だ。さて、じゃあ帰るとするか!腹も減ったしな!

 

 

 

 

「でも千冬とやるおにごっこはきらい。あれ、ごっこじゃない…」

 

命がけなんですね。わかります…。

 

 

 

 

「え~っと…この部屋だな」

「んリ」

 

それぞれ自分の部屋の番号を確認してキーを差し込む。と、妙な手ごたえ。どうやら何故か鍵が開いているらしい。

 

あれ?開いてる?…まぁいいか。

 

「それじゃ、また明日な。ミコト」

「ん…バイバイ」

「そう言う時は『またね』って言うんだぞ?」

「…またね?」

「おう!またな!ミコト」

「ん…またね」

 

そう言って小さく手を振るミコトと別れを済ませて部屋に入ると、まず目に入ったのは大きめなベッド。それが二つ並んでいた。そこいらのビジネスホテルより遥かに良い代物なのは一目見ただけでも分かる。流石は世界の国から生徒が集まると言うだけはある。この国も世界に良い顔するのに必死と言う訳か。

荷物をとりあえず床に置き、俺は早速ベッドに飛び込む。そしてその弾力に俺は驚愕する。

 

…おおお、何と言うモフモフ感。これは間違いなく高いべッドと毛布布団。ああ、今日の疲れと合わさって言葉に表し様の無いこの極楽…。

 

「誰か居るのか?」

 

突然、奥の方から声が聞こえて来る。声に妙な曇りがあることからドア越しなのだろう。しかしこの声には聞き覚えが…。

 

いやちょっと待て…。

 

今、奥の方で響いている音はなにかな?一夏君?はい。シャワーの音です!そうだね。正解だ。

 

つまり何が言いたいかと言うと。このままだと非常にヤバいんじゃないかと言う事だ。何かもうさっきからすっごく嫌な予感がするんだよ…。

 

このままだと不味い。そう本能が告げ、俺はこの場から逃げ出そうとベッドから起き上がるが時は既に遅し。無情にもシャワー室のドアは開かれシャワーを使用していたであろう人物が出て来る。そしてその人物とは…。

 

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之―――」

「―――箒」

 

今日再会を果たしたバスタオル一枚巻いただけの幼馴染だった…。

 

…あれ?俺死んだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

一夏と別れた後、私は部屋に入ったところで大きなネズミと遭遇していた。

 

「…ピ○チュウ?」

 

ベッドの上で丸まる黄色くて大きなネズミに私は首を傾げて訊ねてみる。するとそのネズミはぴょんと置き上げって…。

 

「ぴか~♪一緒にポケ○ンマスターを目指してがんばろ~♪」

 

と、冒険のお誘いをしてきた。とりあえず話に合わせよう。

 

「…めざせ151匹」

 

真耶が言ってた。友達を作る秘訣は相手の話に合わせる事だって。ん。大丈夫。私良い子だから。ちゃんと出来る。

 

「おー、みこちーは初代派だったか~通だねー」

「みこちー…?」

 

聞いたことのない名前。でも、この部屋にはわたしと目の前の人しかいない。つまり『みこちー』は私のことになる。

 

「ミコトだからみこちーだよー」

「???」

 

何でミコトがみこちーになるんだろう?

 

私の名前はミコトで彼女は私のことをみこちーと呼ぶ。でも、少しだけ文字が違う。どうして『ト』がなくなって『ちー』が来るんだろう?

 

「えっとねー。あだ名ってやつだよー」

「あだな?」

「仲の良い友達が付けてくれる名前のことー」

 

仲の良い…ともだち…。

 

「ともだち…ともだち?」

 

目の前の子を指さし首を傾ける。あだ名はともだちがつけてくれる名前のこと。ならあだ名をつけてくれた目の前の子はともだちってこと?

 

「そうだよー♪私はみこちーの友達だよー♪」

 

ともだち…。

 

3人目のともだち。今日は最初の日なのに3人もともだちが出来た。

 

…ん♪

 

一夏と箒。あと…あと?誰だろう?ともだちなのに名前しらない…。

 

私のことをともだちと呼ぶこの子。でも、私はこの子のことをしらない。なまえを教えてもらってない。ん。これはいけない…。

 

「なまえ…」

「ん?なにかなー?」

「なまえ、しらない」

「あっ、そうだよねー。わすれてたよー。私はー布仏 本音ー。よろしくねー」

「ん、本音。ほんね」

 

私はミコトでみこちーだから。本音は…。

 

「…ほんちー?」

「あはははー。語呂悪いし無理に言わなくても良いよー?」

 

むぅ…あだ名むずかしい。

 

「本音?」

 

言いなおしてみる。すると本音はにっこりと笑みを浮かべて頷いた。

 

「うん~、それでいこっか~」

「ん」

 

ん。これで本音ともともだち。3人目のだいじなともだち。

 

「じゃあ~友達になった記念に~…これをプレゼントするよ~♪」

 

本音はがさごそ大きな鞄を「これじゃない~」「こっちでもない~」とあさり、取り出したのは少し大き目な箱。私はその箱をを受取り箱の中身を確認すると、なかに入っていたのは私の着ている制服とは少しちがう袖がだぼだぼな制服だった。

 

だぼだぼ…?

 

「?」

「みこちーちっちゃいからーこれ似合うって思うんだー。私お手製だよー。お揃いだね~♪」

「…ぉ~」

 

おそろい。本音とおんなじ。

 

「サイズとか直さないといけないから後で着てみようねー」

「ん」

 

たのしみ…。

 

私は本音からもらった制服をだいじに両手で抱きしめる。ともだちからはじめて貰ったプレゼント。私の宝物。

 

「えへー。気に入って貰えたみたいで嬉しいよー」

「ん、だいじにする」

「ありがと~♪」

 

ぴょんぴょん飛び跳ねてよろこぶ本音。ん。私もうれしい。

 

『って!本気で殺す気か!今のかわさなかったら死んでるぞ!』

 

…?この声…。

 

外が騒がしい。それにこの声を私は知ってる。

 

「あれれ~?何か騒がしいね~?」

「…一夏?」

 

声の事が気になり私は外へと向かう。あの声は間違いない。一夏の声だ。とっても大きな声だった。何かあったのだろうか?

 

「あれ?みこちー?何処行くのー?」

「外」

「あっ、じゃあ私も行くよー」

「ん」

 

断る理由も無いので私は頷くと本音と一緒に廊下に出た。すると私達が目にしたのはぼこぼこに穴が開いた一夏の部屋のドアと、そのドアに向かって頭を下げて謝っている一夏の姿だった。

 

一夏、ドアとお話しできる。すごい…。

 

「お隣織斑君の部屋だったんだー♪ラッキーだよー♪」

「えっ!?なになに!?織斑君!?」

「えーっ、あそこって織斑君の部屋なんだ!良い情報ゲット!」

 

本音の声を聞きつけたのか、それとも一夏が騒いでいるのを聞きつけたのか、だんだん此処に集まって来る他の人達。ん。一夏は人気者。ともだちたくさんつくれる。

 

「…箒、箒さん、部屋に入れて下さい。すぐに。まずいとこになるので。と言うか謝るので。頼みます。頼む。この通り」

 

…箒?

 

ドアと話してるのにどうして箒の名前が出てくるのだろう?とりあえず一夏に話し掛けてみることにする。

 

「一夏?」

「ミコトか!?頼む!一緒に箒を説得してくれ!」

「…箒?」

「ああっ!ちょっと不幸な事故に遭遇しちまって…謝ってるんだが許してくれないんだ」

 

事故…。

 

「怪我?」

「え?あ、ああ、危うく死にそうだったけどこの通り無傷だ」

「ん…よかっ…た」

 

怪我がなくて安心した。ともだちが怪我するのは嫌だ。

 

「いや、そうでもないんだ。箒に部屋から追い出されて部屋に入れて貰えないんだよ」

「喧嘩?」

「…まぁ、そうなの、かなぁ?」

「喧嘩、よくない。仲直り」

 

私は、ともだちの一夏と箒に喧嘩して欲しくない…。

 

「いや、したいんだけどな…。聞く耳もたずでさ」

「ん、まかせる」

「え?」

「箒、説得する」

「まじか?それは助かる!」

「んっ」

 

嬉しそうにする一夏に私は小さく頷き自分にまかせろと胸を張ると、穴だらけのドアをノックして中に居る箒に話し掛ける。

 

「箒」

「む、ミコトか?」

 

ドア越しで箒の声が聞こえてくる。

 

「喧嘩、だめ」

「け、喧嘩なんてしていないっ!」

「ん?」

 

じゃあ、なんで一夏を追い出したんだろう?

 

「じゃあ、なんで追い出す?」

「あっ、当たり前だろう!何を言っているんだお前は!」

「???」

 

大きな声を出して怒る箒に私は首を傾げる。

 

よくわからない…。

 

「ねぇねぇおりむ~。不幸な事故って言ってたけど何したの~?」

「お、おりむ~?いや、何て言うか、そのぉ…箒の奴が丁度シャワーを使ってて…」

「あーなるほどー…」

 

後ろで本音と一夏が話してるけど、やっぱりよく分からない。何処におこる理由があるのだろう?

 

「それはおりむ―が悪いよー。女の子の裸を見るなんてだめだよー」

「ふ、不可抗力だ!わざとじゃないんだ!それに裸を見た訳じゃっ!?」

 

裸見られたからおこるの?なんで?

 

「箒、何でおこる?」

「そ、それは…その…」

「一夏、きらい?」

 

だから喧嘩するの?

 

「そ、そういうわけじゃ…」

「なら、仲直り」

「いや、だからな?」

「仲直り」

 

友達で喧嘩、よくない。

 

「だ、だから…」

「仲直り」

「~~っ………はぁ、一夏。入れ」

「ほ、箒?許してくれるのか?」

 

溜息と共に開かれる穴だらけのドア。そして開かれたドアの隙間から出てくる箒。

 

「わぁ…篠ノ之さん、大たーん」

「抜け駆けしちゃダメだからね?」

 

集まって来た人達が良くわからない事を言ってまた騒ぎ出す。

 

「…見世物になりたくないだけだ!とっとと入れ!」

「はっ、はいっ!えっと!ありがとな!ミコト!」

「ん」

「早くせんかっ!恥ずかしいっ!」

「いてっ!いってててぇ!?耳ひっぱんなってっ!?いてぇよ!?」

 

箒に耳をひっぱられて部屋の中へと引きずられていく一夏。

 

…仲直りできたのかな?

 

パタンと閉められてドアを眺めて首を傾げる私。中に入れてもらえたと言う事は仲直り出来たのだろう。きっと。

 

「みこちーはすごいねー」

「?」

 

何が?

 

突然私のことを褒めてくれる本音。でも、私には何が凄いのかわからない。

一夏が居なくなったので集まっていた人達も自分の部屋へと帰っていき、私も結局何が凄いのかわからないまま部屋に戻る事になった。その後はご飯を食べて、本音とプリン食べて、お風呂に入って。あと、千冬に教室に残ってなかったから怒られた。叩かれて痛かった…。

いろいろあって、今はまた部屋に戻って本音とお話してる。

 

「そっかーみこちーもお菓子好きなんだー?」

「ん」

 

でも、クリスも真耶も千冬も食べ過ぎちゃダメって言う。だからお腹いっぱい食べられない。

 

「私も大好きなんだー。今度休みの日にでも一緒に食べに出掛けよーね?」

「コクンコクン!」

 

本音だいすき。今度の休みたのしみ。

 

「…ねーねーみこちー」

「?」

 

急に表情が暗くなった本音。どうしたのだろう?

 

「3日後の決闘。だいじょうぶ?」

「?」

 

本音の言う大丈夫の意味が分からない。

 

「えっとね。相手のオルコットさんは代表候補生だし。実は推薦したの私なんだー…だから、ね?」

「問題、ない」

「ホントに?大丈夫?」

 

一夏も本音も心配性。相手がどんなにつよいとか。私には関係ない。私はただ…。

 

「ただ、飛ぶだけ」

 

あの鳥のように…。自由に空を…。

 

「飛ぶ…そっか」

「ん」

「みこちーが飛ぶところ。楽しみにしてるね!」

「ん」

「それじゃあ、寝よっかー」

「ん」

「おやすみ。みこちー」

「おやすみ…」

 

本音におやすみの挨拶を済ませて布団に潜り瞼を閉じる。今日は良い事が沢山あった。明日も良い事がありますように。

 

クリス、おやすみ…。

 

最愛の母におやすみをして、私は眠りについた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぎゃあああああああっ!?』

 

ミコトが眠りについた後、ドゴスッという爆音と一夏の悲鳴が隣のミコトの部屋どころか寮全体に響いた事をすやすやと眠るミコトが気付く事は無かったとさ。

 


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