小説執筆に手を振れていませんでした!!
申し訳ありません!!
久しぶりでいろいろ変わってるかもしれませんが、頑張ります。
……シュタゲ0は全クリしました。
「っ……」
ぼんやりと、視界が戻ってくる。音はまだはっきりと聴こえてこない。俺はどのくらいこうして意識を失っていたのだろうか。
俺はどうにか目を開けて、辺りを見渡す。寂れている重機や工具などが適当に放置されている。若干油臭いのは、恐らくここが廃工場だからだろうか。
「…………」
俺は背後を見る。両手首が鎖で縛られていた。足も同じように拘束されている。拘束を解こうともがくも、両手両足使えない状況ではどうすることもできなかった。だが、なぜ俺はこうして縛られてるのか。
いや、それは分かっている。
紅莉栖だ。スタンガンを持った紅莉栖が、俺に襲いかかったのだ。紅莉栖は何の躊躇いもなく、言葉もなく、俺を攻撃した。
そして……奴等が最後に残した、あの会話の意味は何だったのか。俺は言葉の端切れを引っ張り出す。
計画通り? スイッチ? ショーさん? 須郷君……?
4つの単語を並べあげてみる。まず、最後に中鉢が声をかけたのは、須郷で間違いないだろう。須郷は中鉢のことをショーさんと呼んでいたから、恐らくあの二人は組んでいる。計画通りということはこの襲撃もあらかじめ仕組まれたものだと思われる。俺を襲ったあの傭兵たちは強くなかったから臨時かと思ったが、そうでもないようだ。
そして……スイッチだ。何のスイッチだ? なぜスイッチが関わってくるーー。
待て、奴等はこういった。
このスイッチが間に合ってよかった、と。
つまり……スイッチで状況を逆転させたということになる。言い換えれば、そのスイッチが、奴等の危機を救ったことになる。逆転の瞬間と言えば、あの場面しかない。
紅莉栖が俺に、スタンガンを当てた瞬間だ。
なら、紅莉栖はなぜ、俺に攻撃したんだ。
と、その時コツコツと音が響いた。思考を止め、体をこわばらせる。誰かが来る。
俺の予想は正しく、高級そうな革靴が見えた。俺は顔をあげ、誰か確かめる。
「やぁ、お目覚めのようだね」
なめらかで、でもどこか気持ち悪い声が鼓膜を揺らす。こいつは、須郷伸之だ。その後ろには、数人の傭兵―――しかも病院の傭兵とは明らかに戦闘力が違う―――、そして中鉢博士までいる。俺は奴らを睨み付ける。
「……紅莉栖はどこだ?」
この場にいない紅莉栖の場所を聞く。須郷はニコッと笑った。その笑みは、営業用のスマイルではなかった。いや、表面上は、穏やかで、よい印象を与えるものであろう。
だが、感じた。奴が下をのぞかせて俺のことを下品に笑う姿を。可笑しくてたまらないのだろう、こんな状況に陥った俺の事が。
俺は悔しくて、歯噛みする。須郷はそれを見てククッと喉をわずかにならす。それがなお、俺を腹立たせた。
「答えろっ!! 須郷!!」
「やれやれ、少しおとなしくできないのか……な?」
俺の怒声に須郷は、芝居がかった両手をあげるポーズとため息、そして鳩尾に入り込んだ乱暴な一発の蹴りだった。ドスッと鈍い音が響き、息が詰まる。
「うっ……」
俺はバランスを崩し、床に倒れ込む。痛みはなおも引かず、ただ鳩尾のあたりを這い回っている。痛みを和らげようとくねくねと両足を曲げるも、効果はなかった。まるで横転した芋虫が必死に起こそうと体を一生懸命くねらせようとしているかのようだった。
そんな俺に、須郷の足蹴りがまたも加えられる。二度、三度、四度。何とか防ごうと体を丸めたが、奴の革靴は先が長いためか、すぐに届いてしまう。体が震え、鈍い衝撃が体を貫く。そのたびに須郷をはじめとしたほかの人間が下品な笑い声をあげる。睨み付ける余裕もなく、ただただ暴力を受け入れるしかなかった。
「がはっ……」
もう一度鳩尾に入る。再び息が詰まる。ため込んでいた息が急に吐き出され、喘ぐ。もうすでに限界だった。
「ふふ、無様だな……。そろそろ楽にしてやるぞ」
中鉢が残忍な笑みを浮かべながらポケットから何かを取り出した。拳銃かと思い身をこわばらせるが、出てきたのは何かのスイッチだった。拳銃でないということにホッとしつつも、それが一体何なのであるか気になった。
まて、スイッチだと?
もしかしてあれは……病室で使われた奴じゃないのか? あのスイッチのせいで紅莉栖は俺に攻撃してきた―――。
突如、身も凍るような推測が思い浮かんだ。あのスイッチを押してから、紅莉栖は不可解な行動をした。あいつは誰よりも論理的な奴だ、だからあんな行動をするはずがない。となればあいつは、何かされた、それも、洗脳レベルの事をされたと考えるべきだ。もし俺の考えが正しければ、俺は―――洗脳されてしまう。もしかしてこれは、命を奪われるよりもやばいことなんじゃ……!
だが、その時にはすでに俺は何人かの傭兵に体を抑えられ、何かをかぶせられた。この堅い感触は、ナーブギアだ。重厚に響く軌道音が鼓膜を揺らし、心の警鐘が鳴り響いている。これはやばい。なんとか逃れないと……!!
しかし、拘束されているので振りほどけない。中鉢がニヤッと笑いながらスイッチを押す指に力を込めていく―――
パシュッ!!
突如、小気味いい音が小さく響き渡った。明らかに音が押さえられている。俺はそれが何の音かすぐにわかった。銃声だ。サイレンサーをつけて最小限音が漏れないようにしているようだ。
どこからか放たれた銃弾はまっすぐ中鉢の握るスイッチに当たった。スイッチの面積はせいぜい手のひらから少しはみ出る程度だ。その面積の小ささにもかかわらず正確に当てるとは、かなりの技量である。
「なっ――!?」
スイッチはばちっっとスパークをあげて故障してしまい、中鉢は上方にある金網の高架通路を見ながら舌打ちをする。俺も中鉢たちが見る方向へと首を上げ、誰かを確かめる。
明かりはついていないため、はっきりとは見えない。ただ、高架通路にいる侵入者はたった一人ということは分かる。
「奴のようですね……撃退しろ!!」
須郷が素早く傭兵たちに支持を下すと、彼らはマシンガンを腰から取り出して、高架通路に向けて発砲した。嵐のように吹き荒れる銃弾は高架通路に命中し火花を散らせる。しかし侵入者はまるで憶する様子もなく素早く押下通路を駆け抜ける。
「何やってる!? さっさと奴を殺せ!!」
須郷の怒鳴り声が倉庫の中で響くも、傭兵たちは動きをとらえられないでいた。侵入者の動きは一切の無駄がなく、広い視野で戦局を見ているため、マシンガンの動きがある程度予想出来るのだ。
傭兵たちはなおもマシンガンを乱射し続けるが、ここで一人が不覚にも弾切れを起こしてしまった。リロードすべく腰から替え玉を取り出す。
しかしそれは戦場において致命的な隙であった。
「ふっ!!」
侵入者は躊躇なく高架通路から飛び降りて着地した後まっすぐに傭兵たちへと駆けていく。何人かが銃で応じるが俊敏な動きで躱しながら接近していき、侵入者の拳打が顎に強く当たった。
「がっ!?」
侵入者は空いた懐に二、三発拳をたたき込み締めに蹴り飛ばす。その間わずか数秒である。そのあまりの強さに他の兵たちは動揺し、反応が遅くなっていく。侵入者は好機到来といわんばかりにさらに速度を速めて次の目標との距離を縮め、肘打ちを浴びせる。鳩尾に当たったようで、傭兵は悶絶して倒れてしまった。
「くっ、相手は一人だ! 囲めば問題ない!!」
だがさすがというのかなんというか、相手はプロの傭兵だ。すぐに態勢を整え、侵入者を取り囲んでいく。侵入者もこの包囲を突破するのはさすがに厳しいらしく、立ち止まってあたりを見回している。
「よし、動きは止まった!! 撃て!!」
リーダーと思わしき男が冷徹に叫ぶと全員が自動小銃を構える。侵入者は一か八かの突撃を図ろうと前傾姿勢になった。
が、事態は予想外を極めていく。
「ぎゃあああああっっ!!?」
突如、取り囲んでいた一人が悲鳴を上げた。辺りに血しぶきが飛び散り、その男はゆっくりと倒れる。見るとその男の背中には、一筋の生々しい軌跡が描かれていて、皮膚が爛れていた。ナイフとかで切られたのか? だが、ナイフで一閃されたからといって絶命に至るはずがない。ならいったいどうして?
俺を含めた全員が倒れた男の後ろを見た。
そこには一人の人間が立っていた。腰には銃とナイフ、右手には――青く光る棒のようなものが下げられている。突如現れた何者かはゆっくりと歩き始め、微かに漏れる光にその姿をさらけ出した。意外に華奢な体格で、顔はフードに覆われていて分からない。そして黒のコートを羽織っている。彼が握っているものは、筒状のものであり、どうやらそこから光る棒が出ているようだ。所謂光剣という奴だろうか。だがそんなものはこの2012年には……。
「な、なんだお前は!?」
傭兵の一人が吠え、自動小銃を黒ずくめの男に向けた。その距離はわずか10メートルほどだ。この距離で打たれたら間違いなく彼は死ぬ。だが、黒ずくめの男は死の危険を理解していないのかわからないが、微動だにして動こうとしない。
「死ねっ!!」
その態度に腹が立ったのか傭兵は小銃のトリガーを引いた。小気味いい音が連続して放たれ、男に向かって銃弾が何発も放たれる。
だが男は冷静な挙動で光剣を勢いよく縦に降る。それは見事銃弾に命中し、弾いていく。
――銃弾を斬っただと!?
銃弾を斬ることなんて考えなくても不可能だって分かる。極小の弾丸に正確に、且つタイミングよく剣を降り下ろさないといけないが、そんなものは人間では到底不可能だからだ。だが、目の前の男はそれをやってのけた。いったいどれだけの戦闘訓練を積めばここまでのレベルになるのか……。
銃弾を叩き斬った男に対し、雨のように銃弾が放たれている。だが男はそれに対して臆することなく次々と銃弾を捉え、剣を振り続ける。そして男は一発も外すことなく銃弾を斬り続けた。まるで弾道がもうすでに分かっているかのような振舞いだ。昔見たSF大作スパークウォーズの主人公がこんな風に敵の弾丸を斬り裂いていったがまさか現実でこんな場面に遭遇するとは思わなかった。
射撃が終わり、男が光剣を下ろすと傭兵は震え上がった。それはそうだ。銃弾をすべて斬ってしまうような男なんて、ただの化け物だ。
「そ、そんなばかな……奴は本当に人間か……!?」
中鉢に至っては足をがくがくと揺らし、顔面に汗を滴続けている。俺も今すぐに逃げたい気分だ。
「ああ、人間さ。それとあんたたちがこれから何をするか、もう分かっているんだ。悪いが、斬らせてもらう」
「な、なに……!? お前は誰なんだ!?」
須郷が怯えた表情で問う。だがフードの男はフッと笑うだけで答えない。代わりに光剣を構え、前傾姿勢で迫った。
「ひ、ひぃ!?」
須郷が上擦った悲鳴をあげ、逃げようとするも男の俊足からは逃れられず、服の端を掴まれる。抵抗する須郷に男が一太刀浴びせようと剣を突き出した。
が、銃声が再び響く。男は須郷を離し、咄嗟に光剣を振って弾いた。銃声が男に向けられたのを俺が理解したのは弾いたあとだった。またもう一人現れたのか?
「やっぱりそう簡単にはいかないか……」
男がそうぼやくと銃声のした方へと駆けていった。その際、ちらっと最初の侵入者を見たのを俺は見逃さなかった。
最初の侵入者は包囲網を敷いていた傭兵たちをあっという間に倒す。先程の男の強さを知って震えていたため、簡単に突破できたのだろう。その後真っ直ぐ俺の方へと向かい、ナイフを取り出して俺を縛っていた縄を切った。
「立てるか?」
侵入者は限りなく小さな、しかしはっきりとした声で俺に問う。まだ須郷たちによる攻撃の痛みは残ってはいるが黙って頷いた。
侵入者は良しというように俺を立たせ、黙って指を指す。そこには分厚い扉があった。
「あそこまで行くよ。今あの男が奴等を引き付けているからその隙に逃げる」
「ま、待て! お前たちは何者なんだ?」
「質問は後だ! 今はとにかく脱出するぞ!!」
鋭い声で俺を黙らせると、侵入者は俺の腕を引いて走っていく。横を見ると男が光剣を構えて何者かと戦闘している。男の相手は、ヘルメットとライダースーツに身をまとっている人だ。胸が張っているから女と推測できるが、男の剣を弾き返すほどの剣技をやり過ごしている。相当な戦闘訓練を受けているのは確かだ。ここは本当に日本なのだろうか……。
いや、今俺の腕を引いて走っていく奴も、よく見たら細いし、胸に小さな張りがあった。あの喋り方に戦闘訓練のある女と言えば萌郁があたるが、アイツは巨乳だしそもそもこの世界線では分からないがSERNのラウンダーだ。俺を助けに来ることなんてあり得ない。となれば……。
「手を離して!!」
女は鋭く俺に命じた。目の前には鍵がかけられている、堅そうなドアがある。俺は素直に手を離した。
女は数歩下がって精神を統一するように息を吐く。
「フッ!!」
女は渾身の力を込めて目の前の固いドアを蹴り破った。すさまじい破壊音が響き、俺は内心ばくばくだった。何者かが薄々分かっているだけ、余計怖い。
「行くよ!!」
呆然としている俺を呼び、光差すドアの外へ出る。俺もそれに続いて外に出た。
「まだ気を抜かないで! 安全なところへ行くまではね」
女は俺の腕を再び手に取ると走り始めた。すでに俺の息は乱れ、足はもつれかけているが捕まったら死んでしまうのは分かっていたので全力で走った。
日はまだ空に浮かんでいたがもうじき暮れそうである。空気も冷たく、そろそろ体力の限界が近づいていく。
数分後、近くの公園にたどり着いた。女はそこで足を止め、俺をベンチに座らせた。急に体の力が抜け、苦しくなる。俺の許容範囲を越えて走っていたのだから体が悲鳴をあげるのは当然だろう。女は俺の息が整うの待ち、それから腰にある水筒を俺に差し出した。
「あ、ありがとう……」
俺は水筒の中身を一気に飲んだ。中身はただの水だがそれすらも今は天国の料理のように思えた。
「落ち着いたか?」
「ああ……大分な……」
俺は息を吐き、水筒を彼女に返す。
「岡部倫太郎。きっとお前には聞きたいことが山ほどあるだろうがまずはあたしの話を聞いてくれ」
女は俺を呼び捨てで呼び、先に釘を刺した。俺は頷き、彼女の話を聞く。
「あたしの名前は阿万音鈴羽。2036年から来たタイムトラベラーだ」
「…………やはりか」
彼女が名乗った名前は俺の記憶に強く残っている。あらゆる世界線で戦い続ける、ダルの未来の娘だ。俺たちが逃避行を続けているときも俺は彼女が鈴羽だと予想していたが見事に的中した。だがなぜ彼女が過去に来たのだ?
いや、言うまでもない。未来になにか良からぬことが起こるからだ。
「須郷と中鉢による邪悪な研究が成功し、2036年には奴等が築き上げた巨大な権力国家がディストピアが形成してしまう。あたしはそれを変えに来たんだ」
「…………」
奴等がディストピアを形成してしまうのはにわかには信じられない。須郷はともかく中鉢は犯罪者だ。そんな奴が権力を得られるはずがない。だが、鈴羽がこうして未来から来たのだから間違いはないのだろうが。
「未来の父さんはこう言ってた。まず2012年のオカリンおじさんを洗脳から救うこと、そして奴等の計画を破壊することが未来を変えるために必要なことだって」
「俺が……洗脳……」
洗脳という言葉を聞いて俺ははっとした。俺はあと少しで洗脳されるところだったのだ。ダルの言葉によれば、未来の俺は奴等に洗脳されてしまっているということだ。奴等は本当に洗脳技術を習得していたのか……。
「もしかして、紅莉栖は洗脳されてしまったのか……?」
俺は、胸に抱いていた恐れを吐き出した。鈴羽は一瞬目を見開いたが、厳しい表情で首を縦に降る。
「うん……牧瀬紅莉栖は、奴らに囚われて洗脳され、ディストピアを作る要因の一つになったんだ」
やはりか……!!
俺は怒りで頭が真っ白になりそうだった。紅莉栖は奴らの思うがままにされてしまったのか。そして紅莉栖は暗黒に満ちた未来を形成しようとしている。俺は絶望でその場から倒れてしまいかけた。
「大丈夫……?」
「あ、ああ……すまない」
鈴羽の気づかいに俺は礼を述べた。
だがなぜこんな未来へと変わってしまったのか。シュタインズゲート世界線は確かに不確定ではある。だが、紅莉栖とまゆりを救い、第三次世界大戦を回避した先が奴等によるディストピアになるのはおかしい。いくらなんでもおかしい。
それとも、シュタインズゲート世界線ではないのだろうか……?
「なあ鈴羽。ひとつ聞きたいんだ。ここは……シュタインズゲート世界線か?」
俺の質問に対し、鈴羽はゆっくりと首を横に振った。
「いや、違うよ。ここはシュタインズゲート世界線とはかけ離れた世界線だ。未来の洗脳された君が奴らに提供したデータを盗んだんだけどそれによると、世界線変動率は……9%台だそうだ」
「9%!? どうしてそんなに変化したんだ!?」
シュタインズゲート世界線の世界線変動率は1%台のはず。だが一気に8%も変わってしまっている。いったいどう転べばこんな世界線に到達するのだ……。
「《ソードアート・オンライン》が、いや、《世界初のVRマシン》が発売されたからさ。君達が別の世界線で、タイムマシンを開発したのと同じように、大きな出来事が起こると世界線はいくつかに分裂するんだ」
そういえば奴等は俺を洗脳しようとしたとき、ナーヴギアを被せた。ナーヴギアがディストピアへと繋がるひとつの要因になるということだ。
しかしここで新たな疑問が生まれた。世界線が大幅に変動したなら、何故リーディングシュタイナーが発動しないのか? 何故SAOとナーヴギアが発売されたとき、またはβテストを受けたとき等で発動しなかったのか。
いや、リーディングシュタイナーは発動はしていた。美少女コンテストに出る前に、俺は夢の中で、鈴羽に出会い、その時にあの感覚が来たのだ。
そうだ、あの時は何だったのか。急に鈴羽は俺にこう言ったんだ。
『岡部倫太郎。伝えなきゃいけないことがあるんだ。この世界線は……狂い始めているんだ』
『岡部倫太郎……世界を……』
今その言葉は現実となりつつある。まゆりは須郷に乱暴され、紅莉栖は洗脳されてしまった。そして未来では須郷と中鉢によるディストピアが形成される。もしかして、これはただの夢でもない――?
俺は鈴羽にそのことを聞こうと口を開いた。だが――
「っ……誰か来る!! 伏せて!!」
鈴羽が無理やり俺の頭を抑えてベンチの下へと潜らせる。まさかさっきの追手か? 俺は全身を強張らせてベンチの下から覗き込む。
「動くなっ!! 何者だ!?」
どうやら誰かが現れたようで鈴羽の鋭い声が飛ぶ。だが――
「俺だよ俺。全く味方に銃を向けるとはひどいやつだな」
低く、それでいて柔らかい声がおどけた調子で小さく聞こえる。だが鈴羽はそれでも警戒を解かない。
「合言葉を言え。君に萌え萌え」
「……それ言わなきゃダメか?」
「当たり前だ。あたしだって言わせたくはないが」
「だったらいいじゃんか……ばっきゅんきゅん」
「……岡部倫太郎、もういいぞ」
俺は言われたとおりにベンチの下から這い出る。すると鈴羽の近くに一人の男が立っていた。
……誰だ?
俺は姿をまじまじと見る。フード付きの黒いコートを羽織っており腰には二本の筒と拳銃、そしてナイフが携帯されている。そういえばこの男は俺を助け出してくれた奴にそっくりだ。
「誰だ、その男は?」
俺は鈴羽に聞く。だが鈴羽に変わってその男が答えた。
「ああそうか、まだこの時代のアンタには自己紹介はしてなかったな。もっとも、初めてリアルで会った時のアンタは相当ひどかったけど」
この時代? 引っかかる表現だ……。
「名前は何だ?」
俺の質問に、口元を緩ませるとフードに手をかけて脱いだ。始めて露わになるその顔を見た俺は、狼狽した。
「……!!」
顔は中性的な印象を与え、女と間違えそうなほどに繊細だ。体格も華奢で鈴羽とそう変わらない。そして全体的に黒を基調としていて、武器が剣主体である。
俺はこういう奴をどこかで見たことがある。SAOの中でだ。《黒の剣士》と呼ばれ、最強クラスの実力を誇る二刀流剣士を思わせるものが、あるのだ……!!
素顔を見せ、再び不敵に笑うと、自己紹介をした。
「俺の名前はキリト、いや、桐ヶ谷和人。2036年から来た、タイムトラベラーだ」
伏線全てを一話で回収はしません。次でも回収していきます。それと0の内容もできるだけ取り入れようかと思っています。ちなみに今回も地味に0の内容も入れています。君に萌え萌えバッキュンキュンはプレイしていればああなるほどってなるかもしれませんw
……しなくてもわかるかw