Steins;Gate 観測者の仮想世界   作:アズマオウ

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今回は、キリトとヒースクリフとのデュエルです。なぜこんな話を書くかって?
状況整理といいますかね。それに、この話の山場において必要な御膳たての一部です。
最後までお付き合いください。
では、どうぞ。


虚実のエンターテイメント

 3日が過ぎた。

 

 

「ふぅ……大体こんな物か……」

 

 俺は剣を納めながら額をぬぐう。別に汗をかいているわけではないけれど、どこか気になるのが人としての生理的現象だ。背後を振り返ると、無数の雑魚モンスターがぐってりと地面に横たわっていて、ポリゴンの粒子と音を立てて化していく。ドロップアイテムが表示されたウィンドウが現れ、一瞥すると笑みを浮かべて隣にいる人物の肩を掴む。

 

「これでいいか、ルカ子よ」

 

 少女のように細い肩、整いすぎている顔立ちをした少年・ルカ子は穏やかに笑って頭を下げた。右手には刀が握られている。ちなみに指圧師が造り上げた代物である。

 

「はい、ありがとうございました。僕のためにわざわざお時間を割いていただいて……」

「気にすることはない。弟子の頼みを断るようでは、師匠として面目が立たないからな」

 

 俺は高笑いしながらこれまでの経緯を思い出す。

 まゆりと出掛けて三日が過ぎた今日、ルカ子からお願いされた。中間の第45層にてどうしてもクリアできないクエストがあるから、クリアしてほしいとのことだ。そこら辺で野良パーティーを組めばいいのだが、ルカ子は人一倍人見知りだ。そんなことはできない。だから師匠であるこの俺が協力したのである。

 正直攻略組最低クラスの俺にとってもここは楽勝にクリアできるものだったので、かなり生ぬるく経験値もろくに入らなかったが、いつかは攻略組を抜けてもいいかなとも考え始めている。現に紅莉栖やダルは第25層の戦いにて戦線から引いてしまっている。

 俺も第75層辺りで抜けようかなと考えていたとき、ルカ子が声をかけてきた。

 

「あの……」

「ん? どうしたのだルカ子よ?」

「これ、ドロップしたんですけど……」

 

 そういうとルカ子はおずおずとウィンドウを俺の方に見せ、アイテムを指す。名前は《武器職人の腕輪》。これは間違いなく職人業使うアイテムだ。

 

「ふむ、どうやら俺たちには不要の長物のようだな」

「ところがどうやら違うみたいです」

「何?」

 

 ルカ子は何も言わず、ウィンドウに手を触れてそのアイテムの詳細を見る。すると、テキストが表示された。俺は目を凝らして文字をおっていく。

 

「なになに……“このアイテムを指に装備することで効果は現れます。このアイテムは筋力パラメータが不足していても武器を持つことができます。只し、与えるダメージは半分になり、耐久値は100となります”……か」

 

 どうやらどんな武器でも手に持つことが可能になるアイテムらしい。けれど……正直微妙だ。何故なら威力が減少してしまう上に、耐久値が低すぎてすぐに折れてしまうからだ。使うタイミングは無いに等しい。

 

「うーん……何か微妙な気がします」

「奇遇だなルカ子よ。俺もだ」

「その……ごめんなさい」

「気にするな。そういえばまゆりが指輪を欲しがっていたからくれてやるか」

 

 まあまゆりならば絶対に武器を持たないからただの銀の指輪になる。だから別に渡しても問題ない。しかし、今更ながらまゆりが指輪を欲しがるなど、何か変わったことはあったのだろうか……? あいつは俺に似てお洒落とは無縁の存在なのに。

 

「いいですね岡部さん……じゃなかった、凶真さん」

「では今日はこの辺にして、戦士の休息といこうか」

「は、はい……」

 

 そういうと俺はポーチから転移結晶というワープアイテムを取り出した。青色に光るクリスタル状の鉱物だが、中々高価なので滅多には使わない。しかしもう歩いて帰るのも面倒くさいので使うことにした。

 

「転移!」

 

 クリスタルを天に掲げながら叫ぶ。すると、青い光が瞬く間に拡がり、俺たち二人を包む。そのまま意識とともに、ラボのある16層へと飛んで行った。

 一瞬のめまいの後、視界は回復しルカ子とともにラボに戻る。その最中にルカ子から話が振られた。

 

「あの、凶真さん。今日面白いことやるそうですよ?」

「面白いこと?」

 

 俺は聞き返す。今日は10月20日。誰かの誕生日でもないし、そもそもそんな話は聞いていない。聞いているニュースといえば、攻略組なしで第74層をクリアしたということと、新スキル・二刀流が披露されたことくらいだろう。ちなみに所有者はキリトというプレイヤーだ。

 キリトというプレイヤーは俺にも聞き覚えはある。というのも、最初に共闘している上に攻略組として何度も顔を合わせているからだ。その時はただのベータテスターでしかなくなったが、いつの間にかトップクラスの座に君臨している。今や最強と呼ばれる、血盟騎士団の団長のヒースクリフと肩を並べるほどだ。今回そんな奴が新スキルを開拓したというのだから俺はただただ驚くしかなくなった。世間では新しい、たった一人しか習得できないユニークスキルではないかと疑われている。

 閑話休題。

 ルカ子の面白い話題は、キリトと何か関係するのだろうか?

 

「はい、そうなんです。なんでも今日の午後に、75層の《コリニア》という町で決闘が行われるらしいんです」

「決闘だと? 世界の命運を賭けた男たち同士による戦いだな?」

「え、ええっと……よ、よくは分かりませんが、とにかくやるそうです」

 

 だとしたらなぜこの鳳凰院凶真を呼ばないのだ!!

 俺はきつく歯ぎしりをする。世界の命運を賭けた戦いならば、俺を呼ぶしかなかろう。まったく、何を考えているのだ。

 

「なるほどな……で、だれが戦うのだ?」

「ええっと……」

 

 ルカ子は顎に手を添えて思い出そうと必死だ。そのしぐさが何ともかわいらしい。だが、男だ。

 そんなルカ子の努力が叶ったのか、パッと顔を輝かせて答えた。

 

「思い出しました! 確か、キリトっていう人と、ヒースクリフという人ですね」

「ふむ、まさに頂上決戦だな……世界の命運がかかっている。できればこの俺も参戦したいところだがな」

 

 この二人は強い。

 まず両者ともにユニークスキルを持っている。キリトはつい最近発覚した二刀流、ヒースクリフは神聖剣を持っているが、情報屋の考察によると、どっちもどっちだという。二刀流は単純に攻撃回数が増加し、とめどないラッシュによってごり押ししていくのに対し、神聖剣は守り抜いてその隙を突いていくというバランスの取れた戦いを展開する。キリトが守りを押しきってしまえば勝ちだし、守り終えた後で攻撃したらヒースクリフの勝ちが決まる。

 要はお互いの力量次第、ということ。

 どういう経緯でこんな催しが開かれたかは知らないけれど、興味が沸いてきた。

 ということで俺とルカ子は行くことに決め、早速決闘場へと向かった。ほかのラボメンたちにも一応メールを入れたが、来るのはまゆりだけだった。

 まゆりは後から来るとのことで、しばらくはルカ子とぶらぶらすることに決めた。

 すでに75層の街《コリニア》は人が集まっていて、喧噪にあふれていた。露店もいくつか展開され、見世物なども盛んに行われていた。

 

「わぁ……すごい賑わいですね……」

「そうだな……そういえば前に俺とルカ子とまゆりで行った隅田川の花火大会の時もこんな感じだったよな」

「ああ……そういえばそうでしたね。あの時は楽しかったです」

 

 現実世界での光景にふと重ねてしまう。まゆりとルカ子が浴衣を着てきてよく似合っていたのと、まゆりが屋台の食べ物を食い尽くしていたのはよく覚えている。あとは、屋台のおじさんに二股をかけられているのだと疑惑をかけられたことくらいだろうか。無論否定した。

 不意になつかしく感じた。服装や着用品は隅田川の花火大会の時とは似つかないものだが、似ている。結局のところ人は何も変わっていないのだ。こんな異常状態にもかかわらず、お祭り騒ぎになれる。慣れという者は怖い。

 

「なあ、ルカ子はこの世界から逃げたいと思うか?」

「え?」

「元の世界に帰りたいと、今でも思っているか?」

 

 ルカ子は目を広げて俺を見る。

 俺は気になった。この世界に皆は本気で逃げたいと思っているのだろうか。元の世界へと戻ろうと今も思っているのだろうか。俺だって、どっちかわからない。帰りたいと思う部分もあれば、いつまでもここにいたいという思いもある。

 だから不安になった。

 

「ええと……僕は帰りたいです。お父さんとか、待ってるし」

「……そうだな、お父上は元気だろうか気になるな」

「岡部さんは……どう思ってますか?」

「…………」

 

 俺は黙るしかなかった。答えは見つからない。

 どっちなんだろう。ルカ子のいうとおり、家族も心配だ。ミスターブラウンにも久しく会っていないし、家賃も上げられそうで困る。

 けれど、この世界と、現実世界とではどう違うのか?

 ……本質的には何も違わないのでは?

 ラボメンがいて、俺がいて、命があって。

 俺に必要な全ては、もう全部揃っているんじゃないか?

 だとしたら、永遠にこの世界にいても、なんら問題はない。

 ……本当にそうか? 俺はこの世界での永住を望んでいるのか?

 もしくは、もう脱出なんてどうでもいいと思っているのだろうか。

 分からない。この場では、答えを出せそうにない。

 

「岡部さんは……帰りたいとは思わないんですか?」

 

 ルカ子はおずおずと言う。俺は、どう答えるべきだろうか。

 

「……分からない。どうしたいか、わからないんだ……」

 

 それしか、思いつかなかった。

 

「そうですか……すみません」

「謝ることはない」

 

 そう言って、俺達は黙り込んだ。

 痛いほどの沈黙が二人を隔てる。この感覚は、以前にも味わった。

 ルカ子が女だった世界線にいた時、俺達はかりそめの恋人関係になったのだが、話す話題が見つからず、痛い沈黙以外何もなかった。

 またこうなるのか。何とかしたかった。

 けれど、俺には何も出来ない。口を開き、喉を震わせて言葉を発した瞬間、すぐに何かが壊れそうな気がして、動けなかった。そんな訳は無いと何度も言い聞かせてはいるけれど。

 そんな時だった。

 

「オーイオカリン、ルカ君ー!」

 

 脳天気な声が聞こえる。俺は振り返る。そこには、フェイリスを連れて元気良く手を振りながら駆け寄るまゆりの姿があった。俺達二人を包む沈黙は呆気なく破壊され、ルカ子の顔に笑顔が戻る。少し、悔しくもあった。

 

「遅かったでは無いかまゆりよ」

「ゴメンねー、露店のから揚げを食べてたら遅くなっちゃったのです。ね、フェリスちゃん」

「クレープもなかなかだったニャ。ルカニャンは何か食べたかニャ?」

「いえ……あまりお腹は減っていないので」

「えー? 男の子だから食べなきゃダメだよ? オカリンもあんまり食べないけど」

「お前の基準で比べるな食いしん坊」

「まゆしぃは食いしん坊じゃないよー」

 

 まゆりの台詞を無視し、俺はコホンと咳込んだ。

 

「では、そろそろ向かうとしようか」

「ついに、ついに決戦かニャ!?」

「うむ、この戦いの結末を俺は見なくてはならんからな。奴らに眠る魔神共を封じ込まねば世界は、奴らの思いのままになってしまう!!」

 

 俺が高らかに告げると、フェイリスは大きく飛び下がり、身構える。そして震える唇で言葉を発した。

 

「で、でもどうするのニャ!? 奴らの秘められし力は絶大で世界なんて一瞬で吹き飛ばせるほどの力を持っているニャ。そのせいで……フェイリスの兄は……」

「……」

 

 なわけあるか。

 お前のアニキはこの世界にいないし、第一一人っ子。バレバレの嘘だ。

 

「だからフェイリスは、兄の仇を討つべく―――」

「では行くとするか」

「フニャ?」

 

 厨二病思想に浸るフェイリスを華麗にスルーし、ルカ子とまゆりを促した。

 今は、まだ考えなくてもいいよな。

 俺は先ほどまでの迷いを振り払うように、頭を軽く振って、彼女たちの先頭を歩いた。

 

 

 数十分後、俺たち一行は決闘場へと着いた。すでに席は一杯になりつつあったがどうにか4人分は確保できた。飲み物を買い(すべて俺の奢りだ)、込み合う観客席を縫うように進み、どうにか座ると、揃って息を吐いた。

 

「す、すごく混んでましたね……」

「ああ……コミケよりも混んでいたな……」

「そうだねー……去年のコミケもすごかったよねー」

「フ、フニャ……」

 

 全員が意気消沈していた。あれほどまでに人がごった返すなんてほとんど経験しない。いつもハイテンションなフェイリスですら、嘘みたいに萎れている。まゆりにプレゼントを渡すのは今度にしよう。

 人が混むのにも理由がある。今回は注目すべき戦いだからだ。俺のような攻略組はもちろん、まゆりやフェイリスといった低レベルプレイヤー、情報屋、商人など様々な人間が人目見ようと必死にこの場所に集うことになれば、混むのは避けられない。

 観客席はすでに賑わいを見せており、つまみや飲み物を片手に談笑に浸っていたり、くだらない前座を始めたりしている。まるでお祭りだ。

 けれど……俺は疑問を感じていた。

 なぜ、あの二人が突然戦うことになったのだろうか。

 憎み合う因縁を持っているわけでもないし、ライバルとして張り合うそぶりもない。何か事情があるのだろうか。

 考え込む俺の隣に、二人組が現れた。男だ。俺はふと視線を上にあげた。すると―――。

 

「よお、久しぶりだな」

「おう、キョウマじゃねえか」

 

 二人とも見覚えのある顔だった。しかももう一人はつい3日ほど前に会話した覚えがあるスキンヘッドのケチ男だ。

 一人はひょろっと細長く、頭に悪趣味なバンダナを巻いている。確か名前は、クラインといったはずだ。彼は攻略組に属していて、中々腕の立つ奴だ。もう一人は、エギルだ。

 

「何しに来たのだ?」

「何しに来たって……そりゃあキリトの試合見に来たに決まってんだろ」

 

 エギルが呆れたように答える。

 

「そうかならば話が早い……エギルよ。頼むからもっと買取価格をあげて欲しいのだが」

 

 俺はジト目でエギルを睨む。しかし全く怯まず―――。

 

「そいつは無理な相談だな」

 

 と、バッサリ切られた。ケチなところは変わる気配もないようだ。

 

「それはそうと、オメェ一人できたのか?」

 

 クラインが俺に聞く。クラインとはあまり話していないのだが、どうも気さくな奴のようで、分け隔てなく話している。案外そういうところは嫌いじゃない。

 

「いや、4人で来た。俺から左3人は全員連れだ」

「んなっ……!?」

 

 クラインが唖然とした表情で俺の隣を見る。尋常な視線で見つめられたまゆりたちは気づき、二人のムサイ男二人を見つめた。

 

「あ、岡部さんのお知り合いですか? こんにちは」

「あ、エギルさんだ、トゥットゥルー!」

「おっ、まゆしぃ……さんだったけか」

「コンニチニャンニャン」

 

 そして―――。

 

「ちょ……テメェ!! 女子ばっかじゃねえかよ!! 羨ましいなこのやろ!!」

 

 すぐにクラインに締め付けられた。見事に腕が首に巻き付いている。苦しかったので腕を無理矢理剥がし、クラインの顔を見る。既に、滂沱の如く顔から涙が溢れている。クラインは非リア充ということか。因みに女子と男子の数はイーブンだということは黙っておく。在らぬところで興奮されても困るからだ。疑っているわけではないけれど。

 ただ……ここに連れてきている女子は、男の娘に猫耳メイドにお花畑女と相当個性的だからクラインの好みがある確率は低いだろう。

 

「なんつーか、キリトを見てる気分だぜ……」

「何?」

 

 締め付けを解いたクラインがふと呟く。

 

「キリトはまさか、フラグ建築士だと言いたいのか?」

「ああそうだよ!! お前のようにな」

「いや待て、俺は別にモテてなど……」

 

 そこで俺は言葉を呑んだ。クラインから尋常ならざる殺気を覚えたからだ。それは、はっきりいってダルがかつて見せたそれとは比べ物にならないものだった。

 空気を変えなくては殺されそうだ。俺は咳き込んで話題を変えた。

 

「ところで……キリトは何故今日戦うんだ?」

「ん? ああ、キリの字ね。そいつは……俺もよくわからねえ」

 

 クラインは殺気を解いて答える。

 やはりか。

 クラインはキリトと友人関係にあると聞いているから、ひょっとしたら知っているのかもしれないと思ったのだが。

 知らないのならば仕方がない。そう割り切ることにする。

 

「そういやさ……3日ほど前にだな」

 

 エギルが話題を変えた。

 

「何かあるのか、ドケチ商人」

「気が変わった。そこの決闘場に突き落とすことにする」

「是非教えてください」

 

 怖っ……!!

 どこまでもミスターブラウンだ……。

 

「3日ほど前だな。お前たちがうちに来る前の話だが、……妙な奴に絡まれたんだよ」

 

 3日ほど前、といえばエギルに有り得ない裁定結果を突きつけられた日だ。

 しかし、ソロで有名なキリトが人気者のアスナとパーティーを組んでいるとは。クラインの言う通り、本当にフラグ建築士かもしれない。何故なら、アスナは男とはほとんど一緒にいようとはしないから。

 けれども俺がもっとも気になったのは、"妙な奴"だ。

 

「妙な奴だと?」

「正確には俺じゃなくてキリトなんだけどな。何でもアスナの護衛だってよ。血盟騎士団のユニフォームを来ていて、相当顔が細く、病気してるような奴だったな。名前は確か……クラディールって云う奴だった」

 

 ……クラディール?

 俺は脳の中で記憶を探る。聞き覚えがある単語。それに、病的な程に痩せ細っている顔。

 

 

 

『はぁ!? ぶつかっておいて何で俺が謝るんだよ? 大体栄光ある血盟騎士団が通ったら、道を譲るのが常識だろうが』

 

『何だと……? どうでもいい雑魚がふざけたこと抜かすな!! お前らは俺たちのような攻略ギルドのお陰で安全が保証されてんだよ!! だったら俺たちに敬意を示すのが普通だろ!!』

 

『ヤれるもんならヤってみろよ!! このバカが!!』

 

 

 数々の暴言がリフレインする。

 思い出した。まゆりにぶつかって謝ろうともしないバカだったな。しかし驚いた。あんな奴がアスナの護衛をやっているとは。

 

「ん? お前知ってるようだな」

「……ああ、ちょうどその日に絡まれたからな」

 

 エギルは俺の表情の変化にあざとく気づいたようだ。そこのところもミスターブラウンによく似ている。

 

「あー、なるほどな。あいつなんかキリトに対してすげえ敵意むき出しにしてたから、結構ヤバいやつだとは思ってたけど……無関係のお前にまで当たるとはな」

「つまり八つ当たり、ということか?」

「そういうこった」

 

 俺は呆れてものも言えなかった。

 

「まあ、そうやって市民に雁つけている割には、キリトにデュエルでぼこぼこにされて終わったらしいけどな」

 

 エギルは朗らかに笑う。威勢だけのはったり野郎、ということだろう。

 たしかに、俺とまゆりが絡まれた時も仲間に咎められるなり、すぐに引き上げてしまったしな。

 俺とエギルが話している間、隣に座るまゆりが肩をたたいてきた。

 

「あっ、オカリンオカリン! もう始まるよ」

 

 まゆりに促されて俺は決闘場を見る。すると、いつの間にか二人の人間が数メートルの距離を取って対峙しているのが見えた。左にいるのが、キリト。右にいるのがヒースクリフだろう。

 遠目からでよくわからないが、キリトが黒一色、ヒースクリフが白と赤の紅白色に装備が統一されている。こだわりでもあるのだろうかとつい思ってしまう。

 いったいこの二人には何があるのだろうか。傍目からではまるで読み取れない。ただ、余興試合ではないことだけは分かる。会場は沸いているけれど。これから戦う二人の剣士たちの空気は、極限にまで冷え切っていた。研ぎ澄まされていた。それが手に取るように感じられるのだ。

 俺はこの二人の戦いを冗談で世界の運命を分けると言った。けれどそれは冗談でも何でもないかもしれない。世界線を変えるだの、そう言ったレベルではないにせよ―――余興以上の意味を持つ、とても重要な戦いかもしれない。そう思えてたまらない。

 気づくと体が熱くなっていた。興奮しているのか。意識が二人の挙動へと向けられ、周りの声援があまりよく聞こえなくなる。

 ふと、右側の白の騎士、ヒースクリフが唇を動かした。とても小さな動き。何を言っているかはまるで分らない。そもそも俺に読唇術は使えないのだが。

 それに応じるようにキリトも唇を動かす。こちらは少し大きな動き。やはり何と言っているかはわからない。

 さらにヒースクリフが返す。

 そしてそこで途絶えた。数秒後にはすでに決闘場の上空に、デュエルウィンドウが表示された。その瞬間会場がどよめく。

 けれど、それはすぐに静まって。

 世界が止まるようで。

 上空に映るデジタル数字のカウントだけがしっかりと動いていて。

 空気の揺れすら感知できるほど、張り詰めていて。

 カウントが、5秒を切る。

 胸の鼓動と共に残りの秒数が刻まれていく。

 4……3……2……1……。

 

 軽快な音が響く。それと合致するように。

 キリトが飛び出していった。

 




シュタゲ0早く発売しろおおおおおおお!!!!!!

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