Steins;Gate 観測者の仮想世界   作:アズマオウ

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アズマオウです。

前回のタイトルを変更しました。なんか違うなって思ったのでw
では、どうぞ!


美少女コンテスト・後編

 コスプレ大会こと、第一回美少女コンテスト当日が来た。会場は第32層の主街区の大広間であり、既に多くのーーー主に男性プレイヤーが占めているーーープレイヤーがちらほらと姿を見せていた。

 俺は主催者側の男性プレイヤーに俺は声をかけた。

 

「すまない、この二人を出場させたいんだが」

 

 男性プレイヤーはこちらを振り向くと、だらしなく頬を緩ませた。恐らくフェイリスやルカ子の可愛らしい容姿に見とれているのだろう。これはいい線いっているかもしれない。

 男性プレイヤーはにこやかに分かりましたと受け付けて、フェイリスたちを案内した。フェイリスは意気揚々と男性プレイヤーについていったが、ルカ子はがくがくと緊張して震えている。まあ、今回のコスプレは¨二人はプチキュア¨というかなり恥ずかしいものだから仕方があるまいが、ラボのためだと思って耐えてくれと俺は、哀れに連れていかれたルカ子に念じた。

 俺は二人を見届けると踵を返して後ろの方でで待っている他のラボメンたちに声をかけた。

 

「受付は終わったぞ」

「お疲れさま。さて、私たちも会場に行きましょう」

「そうだな」

 

 俺たちは観客受け付け口へと向かい、そこで受付を行った。この企画を立ち上げ、実行しているのはとある中堅ギルドらしい。なんでも、ギルド結成から数ヵ月がたった記念としてこの企画を立てたようだが、その真の目的は恐らく、この世界での美少女を決めて癒しをもらおうとでも言うのだろう。まあ不純と言えば不純だが、それも娯楽の一つなので否定はできない。俺たちは、チケットをもらい、空いている席に座る。

 

「ねえオカリン。この大会に出場するプレイヤーさんの人数は分かる?」

 

 まゆりの質問に俺は、受付している際に貰ったパンフレットを眺めながら答えた。

 

「パンフレットによると、合計で8組出場するらしい」

「そう……なんだ……」

「ありがとーオカリン。でも、ルカ君にフェリスちゃんというコンボなら無敵だと思うなー」

「それを言うならコンビよまゆり。でも確かに負けることはないわね」

「禿同。負けるとかマジあり得ない」

「あまりあいつらのハードルをあげるな。まあ確かに俺も勝利は確信しているのだがな」

 

 俺たちがそう話している間にも人は埋まり始めていた。だんだんと場は騒がしくなってきて、大会の開始を急かす声も聞こえてくる。手には記録結晶が握られており、恐らく撮影するつもりなのだろう。

 会場の期待が高まるなか、開始の時刻となった。中央の簡単なステージに、ルカ子達を案内した男がたち、大声を張り上げた。

 

「はーい、大変お待たせいたしました! ではこれより、ギルド《紳士たちの会議》による《第一回美少女コンテスト》を開催しまーす! 司会のビンビンです、よろしくお願いしまーす!」

 

 大会の開始を告げられると、観客は待ってましただの、キターだのと叫びまくった。拳を振り上げて喜ぶものもいれば、指笛を高らかに鳴らすものもいて、盛り上がりは最高潮だ。

 男はどうにかそれを沈めると、再び大声を出した。

 

「えー、ではルールを簡単に説明します。ここに8組の美少女たちが来ます。彼女たちにインタビューに答えてもらったり、特技を披露してもらい、その後皆さんに投票してもらいます。一番票の多かったグループが優勝です。それと投票用紙は、インスタントメッセージでお願いします。ビンビンのスペルはBinbinです。名前さえわかれば送れるので、それでお願いします。なお、1グループ2人までですので、個人名を書いていただいて構いません。それと最後にですが、写真撮影は可能としますが、接触は禁止します。では、早速始めましょう! では、最初の組、出てきてください」

 

 司会のクラインが裏方に顔を向けて声をかけると、二人組の女の子が現れた。たしかにかわいい。だが、衣装は普通の防具だ。まあ、清楚派には受ける顔かもしれないが、残念なことに食指が動いている連中は少なかった。ということから、特殊な性癖を持っている男が多いと言える。つまりーーー男の娘であるルカ子に勝機はある。仮にルカ子を女の子と勘違いしてしまったら、自己紹介の時に男だというように言っておいた。

 さらに恥を知らない、サービス精神満載のフェイリスもいる。この特殊な環境においては無敵の組み合わせだ。勝ちは、我が手中にある。

 俺は高笑いをしたくなる衝動を堪え、最初に出てきた二人組が退場するのを見た。次は誰だろうか気になったが、結果は大したことはなかった。粒揃いだが、隣に座るダルが全く興奮していないことから大物でもないのだろう。やはり最初と同じように退場していき、やや会場のボルテージも下がってきていた。

 さらに3番目も4番目も盛り上がらず、不満と怒りの感情が徐々にステージを包みつつあった。シャッター音もほとんど聞こえなくなり、帰り始めるものも出始めた。俺も帰ろうかなと思ってきたのだが。

 

 5番目に登場した女の子が姿を現した瞬間。会場は嘘のように盛り上がった。背は低く、容姿はやはり可愛くチャーミングだが、何より目を引いたのは、彼女の肩に乗っている小竜の存在だった。

 

「わっ、あの竜かわいいよ! 水色の皮膚につぶらな瞳……、あ、今鳴いた! きゅるるって……いいなぁ……まゆしぃも欲しいなあ……」

 

 まゆりは身を乗り出してその小竜を見る。どれだけ可愛いのか見てみたが、はっきりいってそうとは思えない。どうもまゆりの好きなマスコットキャラとかには共感できない。例えば現実世界におけるキャラクターのひとつである¨うーぱ¨。丸っこい熊の頭に手足が映えたもの、と思ってくれればいい。ラボにもうーぱのぬいぐるみがあるのだが、あれもまゆりが自宅から持ち込んだものである。最初は持って帰れといったのだが、まゆりがどうしてもといったので仕方なくラボに置いたのである。あとはゲロかえるんというものも過去にあったのだが、あれも全く共感できなかった。キモかわいいということで人気を博したのだが、正直俺に言わせれば、キモい以外何者でもなかった。

 ただ、事実として彼女に注目が集まっている。しかも有名なようで、彼女の名前らしきものを観客は叫んでいた。しりか、と聞こえるのだが、俺はその名をまるで知らない。

 

「ねえねえオカリン、ここってペットとか竜とかって飼えるのかな?」

 

 まゆりが俺に聞いてくる。だが、未だに攻略組を続けている俺ですら知らない。俺は知らないといって首を振る。まゆりは残念そうに顔を伏せた。

 だが、ダルが知っていたようだった。

 

「飼えないことはないお。小さなモンスターをテイムすれば、ね」

「ていむ……? ああ、飼い慣らすって意味かぁ」

「そうだお。まあ上手くいくかはわかんないし、あの女の子が唯一成功したって話だから。彼女は今じゃこういわれているよ。ビーストテイマーって」

「それ……私も聞いたこと、ある。名前はたしかーーー」 

 

 指圧師も反応した。もはや女の子よりも小竜の話に夢中だ。まあダルはフェイリス一筋だからあまり食指が動かないのだろう。意外だと思いつつ、やはりそうかとも思った。いったい俺はどっちなんだろうかと決められない自分に呆れる。

 指圧師が女の子の名前を言いかけたその瞬間、司会の男が、インタビューを開始した。

 

「はい、よく来てくれました! じゃあ名前を教えてください!」

 

 女の子は司会の男に向かってにっこりと笑いながら質問に答えた。その笑顔は遠くからでも眩しいほどよく見える。あどけない幼さと、地味に隠れている無意識な妖艶さが光り、司会の男は早速堕ちている。

 彼女の弾ける笑みと共に名前が放たれた。

 

「ええっと、私の名前はシリカです。この子はフェザーリドラのピナです。ほらピナ、みんなにご挨拶は?」

 

 どうやらあの竜の名前はフェザーリドラというらしい。雑魚モンスターですぐに狩れるお得なモンスターとして知られているが、特殊効果が厄介だ。だから俺はそいつには嫌な印象しかない。

 だが、フェザーリドラことピナはご主人にかなり忠実らしく、きゅるると鳴いてみせた。もうすっかりまゆりは夢中である。身を乗り出して目を輝かせながらいいないいなと連呼を煩いくらいにしている。紅莉栖もまんざらではなさそうだ。指圧師など、俺に『あのかわいい竜ほしいv(*´>ω<`*)v』などというメールを何通も送ってくる。俺には何故そう羨ましたがるのか、全くわからない。

 

「さすがビーストテイマーですね! では、特技を教えてください!」

「特技ですか……。特にないですが……強いていうならピナとの芸です」

 

 司会の質問への答えに皆おおっとどよめく。まさか飼い慣らすだけではなく芸まで仕込むとは。恐ろしくテイム技術が高いのか、それとも二人の友情が強いのか、それはわからないが、とにかくすごいと言わざるを得ない。

 

「そうですか! では早速披露してもらいましょう!」

 

 司会が促すとシリカはピナに声をかけた。ピナはきゅるっと短く答える。応えてくれたことを確認すると、シリカは叫んだ。

 

「ピナ、泡を出して!!」

 

 シリカはピナにそう命じた。すると、きちんと命令をきいてピナの小さな口から泡が飛び出された。あの泡は確か幻惑作用をもつ厄介なものだが、シャボン玉のように綺麗に宙へと浮いていく。厄介なイメージしかない俺にとっては、新鮮に感じた。

 続いてシリカは腰にある短剣を手にとって地面を蹴った。きゅいいんとサウンドエフェクトが響くと、剣は黄色く光り出した。

 

「やぁっ!」

 

 掛け声があがると、シリカの小さな体はばっと宙へと駆け上がり、ふわふわと浮く泡めがけて短剣を振るった。

 パンパン、パパパン!

 小気味いい破裂音がリズムよく響き、小さな飛沫がシリカの体を包み込んだ。それはまるで絹のベールのようで、一気に美しく見えた。たかがシャボン玉なのに、どうしてこうも魅力的に見えるのだろうか。ソードスキルと泡という一旦そこまですごくないように思える組み合わせでもこんな風に美しく魅せられるとは、なかなかだ。

 シリカが着地し、一礼すると拍手喝采の嵐が巻き起こった。彼女のパフォーマンスと容姿に惹かれた奴等は少なくないと見た。これは……厄介だ。あんなに人気を集めてしまうと、こちらの勝利は遠退いてしまう。

 だが、もう今さら何が出来るというわけではない。ルカ子やフェイリスの奮闘を祈るしかない。

 拍手を受けながらシリカたちは退場し、次の組へと移った。次がルカ子達ではなかったのはラッキーだと思う。何故ならシリカの後となると要求するレベルのハードルが高くなっているからだ。ルカ子達にはそのプレッシャーは背負えない。だから次がルカ子達でなくてよかった。

 次に出てきた組はまあまあよかったとは思うが、シリカを越えることはできず、さほど興味を向けられず退場していってしまった。7組目も同様の結果だった。

 次がルカ子達だった。会場の空気は既にシリカ優勝確定だろというムードが広がっている。6、7組目のようになってしまう可能性も少なくない。でも、それでもいい。彼女たちのせいじゃない。相手が悪かっただけだ。俺が頑張って金を稼げばいいんだ。

 半ば諦めながら俺はルカ子達が出てくるところを見つめた。冷めた反応が来るかと思ったのだが……。

 再び会場のボルテージは上がっていた。いや、俺たちも驚いていた。そんな馬鹿な。目を疑っていた。だって……彼女たちの服が違うから。無論、いい意味で。

 俺はコスプレ担当のまゆりに向き直った。

 

「おいまゆりよ! これはどういうことだ?」 

 

 俺はまゆりの肩をつかむとまゆりは一瞬ビックリした顔をしてその後いつもの能天気な喋りで答えた。

 

「これは、メイド服なのです」

「そんなことを聞いているのではない! どうして¨二人はプチキュア¨からメイド服に変わっているんだ?」

 

 ああ、そういうことかとまゆりは一人呟いて、笑顔で答えた。

 

「だってフェリスちゃんがそうしたいっていったんだもん。プチキュアコスもいいけどやっぱり着慣れているものがいいんだってー」

 

 そういうことだったのか。俺は納得しながら会場の様子を見る。どうやら男どもはメイドコスに興奮しているようだった。しかもあのメイド服は、現実世界における¨メイクイーンニャン×2¨のそれとそっくりだ。頭には猫耳のカチューシャ、白のエプロンと目を引く要素がぎっしりとつまった魅力的なメイド服をもう一度見られるとは、思っていなかった。隣にいるダルは興奮していて、気持ち悪いとさえ思えるほどに鼻息を荒くしていた。指圧師は記録結晶をたくさん使って連写するようにルカ子達を撮っている。この二人はもしかしたら気が合うかもしれない。

 司会の男がルカ子達に話しかけた。

 

「はい、よく来てくれました! 名前お願いします!」

 

 最初はルカ子に振られた。ルカ子は若干動揺しながらもインタビューに答える。

 

「あ、あの……僕はうるし……じゃなかった、ルカです」

「へえ、ルカちゃんっていうんだ! ボクっこなんだね」

「え、ええ……僕は男なので」

 

 その台詞を聞いた瞬間、会場が一瞬凍りついた。これは不味い流れか……? ルカ子に男だと言えといったのは誤算だったか……?

 

「え? その顔で……男?」

「は、はい……すいません……これでも男なんです」

 

 ああ、やばい。ルカ子が泣きそうになっている。くそ、俺がフォローをいれたいのだが観客の立場である以上何もできない。

 その時、フェイリスがにっこりと司会に笑いかけ、言った。

 

「ルカニャンは男の娘なんだニャン。それでもダメかニャン?」

 

 そういいながらフェイリスは司会の男に近寄って上目使いで聞いてきた。司会の男はたじたじだ。さすがはフェイリス、魅惑的に魅せて落とそうというのだな。これで落ちる男はかなり多い。

 

「だ、ダメではないですが……」

「だったら別にいいと思うニャン。それよりもフェイリスの自己紹介をさせて欲しいのニャ」

 

 司会の男は数多くの男の例に漏れず、堕ちていった。男はこくこくと頷いて自己紹介を促した。フェイリスは元気よい声で自己紹介を始めた。

 

「名前はフェイリスだニャ! よろしくニャ!!」

 

 メイドコスに猫耳、さらに猫の言葉というトリプルコンボを一度に味わった聴衆たちは一斉に狂喜した。恐ろしい。ここは、怖い。離れたいと俺は思った。

 

「はい、短い自己紹介ありがとうございます。じゃあ特技とかありますか? まずはフェイリスさん」

 

 フェイリスはちょっと考え込む。実際特技はあるのだが、会場を引き込む特技は彼女は恐らく持ってない。存在だけで引き込めると思う。それにーーールカ子の特技ですべてを決めるつもりでもあるから、無理にやる必要がないと俺は言っておいてある。

 

「フェイリスの特技は料理とか雷ネット翔だニャ。でも今ここでは出来ニャいからフェイリスはパスするニャ」

「そうですか……。ではルカさんは?」

 

 司会は残念そうに言うと、ルカ子にふった。

 

「は、はい。ええっと……剣技とかならできます」

 

 これは俺が言えと言った言葉だ。ルカ子も実はレベル上げをしていてようやくエクストラスキルである刀スキルを覚えたばかりだ。無論今は技は少ないが、攻略集団に入ってくれれば心強いだろう。

 

「それじゃあ、お願いします!」

 

 はいとルカ子は腰に下げてある刀を鞘から抜き払う。その際メイド服を脱ぎ捨てて、見慣れている巫女服へと変わっていた。本来着替えをする際はメインメニューから操作しなくてはならないが、ルカ子の場合は二重に着ていたため、問題ない。しかも簡単に脱ぎ捨てられるようまゆりは工夫したので早着替え出来る。ルカ子の男の娘としての可愛さと、凛々しさを表現するために俺とまゆりで頭を抱えて考えたのだ。

 

 ルカ子は刀を中段に構えると、素早く腰に引いて光をためる。その後、霞むほどの速度でそれは振られ、鮮やかな軌跡を描いてみせた。続くソードスキルの嵐でライトエフェクトが弾けていくなか、ルカ子の動きは激しくなっていき、光のオーラを纏い始める。穢れのない印象と、可愛らしい容姿、凛々しい雰囲気が見事に混ざり合い、会場の皆を引き込んでいく。ルカ子の出しているソードスキルは単発技が多く、硬直が少ない。だがそれだけに連続して発動できるので、光を残したまま放つことが出来るので演出的に大きな効果を生み出すのである。

 

「えいっ!」

 

 可愛げも凛々しさもある掛け声で足を踏み込み、刀単発ソードスキル《辻風》の素早い居合いが空を切り裂き、演舞を終了させた。度肝を抜くその空打ちの一撃に、一瞬の静寂が続きーーー地球を揺るがすほどの大喝采が巻き起こった。拍手は空気を揺らし、歓声は地面をびりびりと暴れさせる。ボルテージは最高に上がっていて、俺は勝利を確信した。ルカ子は恥ずかしがりやだが、やれば出来る奴だとは知っていた。それでもーーー嬉しかった。仮にこれで優勝できなかったとしても、ルカ子が頑張ってくれたことに俺は、とっても感動した。

 ルカ子は一礼して、にっこりと俺の方を見て笑った。俺も笑い返し、よく頑張ったと口の動きだけで伝えた。あとで、ちゃんと口で言おう。

 ルカ子達の出番が終わると、結果発表へと移った。

 

「では、今大会の優勝者を決めます! 優勝したのはーーー」

 

 

 

 

***

 

 

 日は落ちていき、夜になった。光を差すものは忽として消えていき、どうしてか静かな気持ちになっていく。俺もその例に漏れず、一人¨ラボ¨のソファーに座っていた。考え事をしているわけでもなければボーッとしているわけでもない。意識ははっきりしており、眠くもない。何をしたいという欲求も起きず、すべてが停止してしまったような感覚を覚えている。俺はどうしてこんな風になるのだろうか? しかも……何故か頭が痛い。もしかしたら脳が考えたくないと主張しているのだろうか? あまりに多すぎる辛い記憶が脳を圧迫しているのだろうか? たしか脳には容量があったはずだ。タイムリープによって得た記憶は21歳の俺には、あまりにも膨大すぎるのかもしれない。だからこうして考えるのを放棄しているのかもしれない。あるいは……無理矢理やめろと言われているのかもしれない。

 

 ーーー考えすぎだな。

 俺は考えていることを放棄している、ということを考えていることに矛盾を感じ、ふっと笑う。とりあえず寝てしまおう。そう思って寝室へと足を向けたのだが。

 玄関のドアが突然開いた。風の音がわずかに聞こえ、ピタリと俺の体は止まる。何だ? 誰だそこにいるのは? 俺はウィンドウを取り出して愛用の武器を取り出す。

 慎重に足を運びながら玄関へと近づく。するとやはりドアは空いており、夜空に輝く星空が覗かせている。俺はとりあえず上着をウィンドウから取り出して羽織り外に出る。未来ガジェット研究所は一応第16層の町の圏内の小さな一軒家に位置しており、別に危険はないのだがやはり怖いものは怖い。俺は慎重に進んでいく。

 歩いていくと、噴水広場へとたどり着く。するとそこに誰かが一人で座っていた。簡素な革防具に身を包んだ小柄な体格を持ち、女の子のような顔をしている奴といえば、一人しかいない。俺は歩みより、声をかけた。

 

「こんなところで何をしている、ルカ子」

 

 俺に気づいたのか、ルカ子は顔をあげた。驚いた表情をしている。一人でいるところを見られてしまってはそうなるのは当然だ。ルカ子は言いたくなさそうにもじもじとしている。

 

「ーーー眠れないのか?」

 

 もしかしたらと思って、俺は聞いた。するとルカ子は頭を小さく縦に降った。

 

「はい……いっつも怖い夢を見ちゃうんです。死んじゃう夢、お父さんに怒られる夢、です」

「そうか……だが今日は疲れただろ? 早く寝たほうが……」

 

 俺がそういって、部屋へと帰そうとしたときだった。

 

「岡部さん。僕、邪魔ですか?」

 

 ルカ子は突然俺の話を遮った。ルカ子の顔はかなり険しくなっている。邪魔だって? そんなわけがない。ルカ子だって大事なラボメンだ。邪魔なわけがない。むしろ、いなくてはいけない。俺は苦笑した。

 

「何を言うかと思えば……そんなわけがないーーー」

「岡部さんはそういうと思ってました。でも……本当は邪魔なんでしょう?」

 

 俺は再びそんなわけがないと言おうとした。しかし、ルカ子の視線が鋭くなった瞬間、俺は口を噤んでしまった。本気で言っているんだ、本気で悩んでいるんだ。

 

「僕は戦えないですし、料理しか出来ませんし、頭悪いですし、それに今日だって……優勝できず、準優勝でしたし……本当は、岡部さんの邪魔なんです。岡部さんは優しいから僕をラボメンにしてくれているけど、僕なんて……きっといなくていいと思っているに違いないんです。牧瀬さんや橋田さんやまゆりちゃんのほうが岡部さんにとっては大事ですから。僕なんて……要らないんです……」

 

 ルカ子の弾丸のような自虐発言を俺は黙って聞いていた。ルカ子は闇の部分を滅多に吐き出さない。それ故に、俺は気づいてやれなかった。ルカ子がここまで本気で悩み、苦しんでいるんだということを、知ってやれなかったんだ。恐らくSAOに入る前から感じていたことかもしれない。だとしたら……俺はバカ野郎だ。ラボメンの長として気づくべき部分を気づけないなど、失格だ。俺はぐっと拳を握りしめる。

 二人の間に静寂が流れる。冷えた空気が二人の微妙な空気をさらに冷やしていき、見えない壁を厚くしている。だが、痛い静寂を破ったのは、取り繕った笑顔から放たれた、ルカ子の震え声だった。

 

「って……そんなこと言っても岡部さんに迷惑ですよね。岡部さんは優しいですから。ぼくはその優しさに甘えている、最低な男なんです……。ごめんなさい。ーーーじゃあ僕はこれで」

「待て、ルカ子」

 

 俺は離れようとするルカ子の肩をつかんだ。その小さな肩はビクッと激しく痙攣し、緊張している。ルカ子はきっと怖がっている。俺のことを怖いと思っている。でも、離す気はない。

 

「お前が必要じゃないラボメンだと……? 冗談もほどほどにしろ、ルカ子!」

 

 俺は声音を厳しくしていった。ルカ子は怖いのは苦手だ。だからすぐに泣いてしまうであろう。でも……俺は優しくない。大事な仲間を守るためならば、阿修羅にでも俺は落ちても構わない。だからルカ子に厳しくするのも、躊躇わない。

 

「ルカ子、俺はお前を邪魔だと思っていないし、必要だ。友達であり、仲間であり、家族同然なんだよ! そんな人間を簡単に切り捨てられない、切り捨てたくない! ルカ子は……漆原るかは……! ラボメンナンバー006として……絶対にいなきゃいけないんだよっっ!! ……それを分かってくれ」

 

 俺は、激しく呼吸しながら、るかに怒鳴った。この、女の子のような男は、小さな背中に重いものを背負っていた。そんなもの気にするなと言う言葉では振り払えないほどにガッチリと取りついた、厄介なものだ。今の言葉でルカ子は完全に悩みが払拭できたとは到底思えない。あとはルカ子次第なんだろう。

 

 わずかな静寂が流れ、震える口で、ルカ子はこう言った。泣いては、いなかった。

 

 

 

 俺はこのとき気づかなかった。ルカ子の顔は、()()()呆気にとられていたということを。

 

 

 

「岡部さん……僕、なにかやっちゃったんですか……?」

 

 

 一瞬、訳がわからなかった。ルカ子は、何をいっているんだ? なぜ、そんな呆気にとられたような顔をしているんだ?

 

 

「え……?」

 

 

 何をやっちゃった、だって? ふざけているのか? でも、ルカ子に限ってそれはないはずーーー。

 

 思考が回らない。突然のルカ子の突拍子のない発言で、俺は混乱した。しかも、ルカ子は本気でいっているのだ。本気で、自分が何を言ったのか、覚えていないのだ。どういうことなんだ? 考えられるとしたら記憶喪失か……でも、まさかーーー。

 

 回らない思考を必死に動かして、どうにかルカ子の言葉の意味を探ろうとした。だが……。

 

 ーーーあ、あれ? 何故だ……? 意識が霞んでいく……?

 

 訳がわからなさそうに俺を見つめるルカ子の顔がぶれ始めていく。眠気に近いなにかが全身を包み込み、視界が徐々に暗くなっていく。なんだこれ? 一体何がどうなっているーーー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたら、俺はベッドの上で起き上がっていた。ベッドの近くには、美少女コンテストで準優勝をしたという証拠であるメダルがおいてある。これは夢だったのか? 夢であると、思うのだが……どこか違う気がした。まるで脳に直接映像と五感を再生させられている感覚。夢であるようで、夢じゃない。

 

 

「一体……なんなんだよ?」

 

 

 俺の呟きが虚空へと浮かび上がり、力が抜けていく。あまりにもリアルすぎる夢を見たせいで気持ち悪い。そもそもこれは夢なのか? 夢であってほしい。

 俺は、激しくなる鼓動と不安の疼きをどうにか隅へとおしやり、再び横になった。するとすぐに、眠気が俺を襲い始めた。

 

 

 




最後はちょっとワケわからないと思いますが、詳細は後にわかります。一体ルカ子はどうなっているのか? いやあ、伏線回収できるか心配です。エンディングははっきりとしているんですがね。
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