風の聖痕~和麻のチート伝説~ 作:木林森
リアルが少々忙しくて中々時間が取れなかったのですがなんとか年内にできて良かったです。
都心から少し離れた公園。その公園のベンチには二人の男が座っている。和麻と武哉だ。
ホテルで会った二人だが、和麻が武哉の事を覚えてなかったため、武哉が十五分くらい説明して、ようやく和麻が思い出してから、やっと武哉は本題に入ろうとした。が、ホテルのロビーで五月蝿くした(主に武哉)ので、周りからの視線が痛かった。
それに恥ずかしさを覚えた武哉は、和麻を外に連れ出してそそくさと移動した。
別に話ができればどこでもいいと思い、適当に見つけた公園に入った。二人はベンチに腰掛けると、和麻はタバコを吸い始め、武哉は一息を吐く。そして、武哉は和麻に会いに来た理由を話始める。
「宗主からお前を連れてこいって言われてるんだ」
和麻は少し目を細めた。
「そりゃまた何で?」
タバコの煙を口から出す。
「お前少し前のニュース見たか?」
武哉は少し前のめりになって地べたを見つめる。
「どのニュース?」
和麻は武哉の言っているニュースが何なのかわかっているが、敢えてとぼけてみる。
「何人かの人が殺されたっていうニュースだよ」
武哉はぎゅっと両手を握って声を震わせながら言う。
「ああ、あのニュースか」
和麻はもう一度タバコを吸って煙を吐き出す。
「うん、見たよ」
和麻は一瞬嘘を言おうとしたが、そんなことしても大して意味無いと思ったので特に嘘は吐かずに答えた。
「あの事件、警察は犯人が日本刀のようなもので殺したって言ってるが、違う。あれは多分風術士の仕業だ」
武哉は絞り出すような声で話す。
「風術士は炎術士に勝てないんじゃ無かったっけ?」
和麻は少しおどけたように返す。
「俺もそう思ってたよ。でも、現に分家とはいえ何人か殺されている。それに宗主が死体の状況を聞いてきたらしい」
和麻は驚いたように目を見開いた。
「どうやって見てきたんだよ」
「神凪の権力使ったらしい」
「おいおい。それ大丈夫なのか?」
「知らん。だが、必要な事だったんだろ。1%でも日本刀の可能性があったんじゃないか?」
「そーいうもんか」
「そーいうもんだ」
和麻が新しいタバコを吸い始める。そして、煙を吐いた。
「何で宗主は俺を呼んでるんだ?」
理由はもう確実にわかるが一応聞く和麻。
「宗主がお前の事を疑っている」
一瞬二人の空気が張り詰める。
「意外だな。宗主は結構お人好しだったと記憶してるけど」
和麻は自分が神凪にいた頃を思い出す。
「だからこそじゃないか?」
武哉はそう返す。
「と、言うと?」
和麻は軽く聞き返す。
「俺達がいつも使っている風牙衆の奴等を疑いたく無いんだろ」
その答えに和麻は呆れた。
「そいつは何ともまあ。何と言えばいいのやら...」
武哉も同意するように苦笑する。
「いや、いいんだよ。俺達の中にも宗主に対してあまりよく思ってない奴等ってのも出てきている」
「おいおい、いいのか?部外者にそんなに神凪の現状を言ってよ」
「ああ、大丈夫だよ。どうせすぐ知るだろうからな」
「はあ?どういうことだよ」
武哉は軽く深呼吸を一回する。
「和麻。お前さ、俺が最初にニュースの話したの覚えてる?」
「あ?ああ、言ってたな」
それがなんだよ。和麻がそう言う。
「そのあと俺が、これは風術士の仕業だって言っただろ。その次お前が何て言ったか覚えてるか?」
和麻は何か言ったか?と思いながら記憶を辿ると、「あ」と言って、武哉を見る。
そんな和麻を見ながら、武哉は軽く笑う。
「そうだよ和麻。お前は殺されたのが炎術士と言ったな。俺はそんな事一言も言っていないのに。なあ、和麻。何で殺されたのが炎術士って知ってるんだ」
言った瞬間和麻は武哉の首を掴む。もちろん犯人は和麻では無い。しかし、和麻は武哉を殺そうとしている。何故か?このまま武哉がその事を言えば、神凪の大半が和麻を襲うだろうというのが容易に想像できるからだ。
別に和麻ならば傷ひとつなく相手を倒せるだろうが、果てしなく面倒くさい事この上ない。
ならば、武哉が神凪に言う前に殺す。
しかし、武哉は苦しみながらも言う。
「い、今俺をここで殺しても意味無いぞ...。どっちにしろ、分家はお前を狙い、続ける、から、な...」
意識が遠ざかりながらも武哉は言い続ける。
「こ、こで、俺を...殺して、面倒な、事に、なるくらいなら、神凪で...お前の無実を、証、明、し...ろ...」
本気で死にそうになっている武哉の言葉を聞いて、和麻は手を離した。
「っげほ!ごほっ!っはー!はー!」
武哉は咳き込みながら、和麻を見上げた。
「お前、これやって殺されるとは思わなかったわけ?」
その言葉を聞いて武哉は「ハッ!」と鼻で笑いながら言った。
「お前と会うと言われた時点で、それくらい覚悟してたよ」
和麻は大きいため息を吐いて、武哉に手を差し伸べた。
「よくやるよ、お前」
武哉は「まあな」と呟きながら、和麻の手を取った。
和麻が武哉を立ち上がらせる。
「神凪に来るって事でいいんだな?」
武哉が尋ねる。
「そんだけの覚悟見せられて行かないわけにはいかんだろ」
武哉は(和麻ってこんな性格だっけ?)と思いながらも来てくれるというならば文句は無いため、和麻の気が変わらない内にさっさと連れて行こうと決めた。多少の疑問は飲み込む事にしたのだ。
「んじゃ行こうぜ」
和麻がそう言うと、武哉ごと風で空を飛んだ。
場所は変わって神凪邸。
重悟は自分の私室に厳馬を呼び出し話し合いをしていた。
「此度の一件、風術士の仕業であった」
まず重悟が切り出した。
「そうでしたか...」
厳馬は厳しい表情のままそう答える。
「ああ。かなり強引な手段ではあったが、警察に頼んで遺体を状況を聞かせてもらった。写真等も見せてもらったが、あれは風術の切り口であったよ」
厳馬は重悟の言葉に鼻を鳴らしながら
「一々風術がどのような傷をつけるかなど覚えておりませんな」
不愉快そうに言った。
そんな厳馬に呆れながらも、重悟はとりあえず本題に入ろうと、姿勢を正した。
「犯人は風術士だとわかった。しかし、普通に考えれば風術は炎術には勝てぬ。だが、実際炎術士が殺されておる。これを可能なのは者は自ずと限られる」
重悟が本題を話したため、厳馬も先程よりも真剣に話を聞く。
「まさか風牙衆の連中がやったとでも言うつもりですか?あやつら程度が我等神凪をどうこうできるとは到底思えませんが」
しかし、やはり風術士が炎術士を殺したという事実は今でも信じられなかった。
「いや、さすがに風牙衆の者たちではない。確かに風牙衆は風術士の中ではトップレベルだが、お前の言うとおり炎術士に勝てるというわけではない。が、現場に大きな焦げ跡があったと聞いた。つまり、お互いに戦ったということだ」
そこまで聞けば、流石の厳馬でも気づいた。
「なるほど。風術士が気配を隠し、不意討ちで仕留めた訳ではないということですか」
厳馬の言葉に重悟も頷く。
「犯人は正面から堂々と殺したのだ。そして、わしはこのような事をできるであろうと思われる人物に心当たりがある」
厳馬は驚いた。少なくとも自分には心当たりなど一つも無いからだ。
「わしは恐らく和麻ではないかと考えておる」
重悟は自分の心当たりを述べた。
「何ですと?」
厳馬の顔が険しくなる。
「わしも和麻を疑いたくは無い。しかし、炎術士に勝てる風術士が和麻以外思い浮かばんのだ」
厳馬は慎治の言っていたことを思い出した。
「確か、慎治が言っておりましたな。和麻が風術士なっていたと」
厳馬の言葉に重悟は頷く。
「しかし解せませんな。あの馬鹿者が我等に牙を向く理由がわかりません」
和麻が犯人なら確かに炎術士を殺せるかもしれない。だが、それをやる理由が無い。基本的に面倒くさがりな性格をしている和麻がこんなことをするとは思えなかった。
「あいつは馬鹿ですが、頭が回らないという訳ではないございません。いくらあいつが強いと言っても神凪を敵に回せば私と宗主が出向く事は必然。あいつがそれをわからないとは思えませんが」
厳馬は自分の意見を重悟に告げる。少なくとも和麻が高校生の時まで父親をやっていたのだ。それくらいは厳馬でもわかる。
「むぅ、なるほど。厳馬はそう思うか。なら、やはり私の予想は間違っておったようだ」
厳馬の考えを聞いて、重悟は何故か嬉しそうな顔して一人で納得していた。
「何故そんなにも嬉しそうな表情をなさっているのですか?」
しかし、厳馬は重悟が嬉しそうにしている理由がわからない。
「なに、何だかんだ言ってもやはりお前が父親であったことが嬉しく思っただけよ」
重悟の言葉に厳馬は元々の仏頂面が更に仏頂面になった。
「はっはっは。照れるな照れるな」
厳馬の態度に何も言わず、むしろ面白そうに厳馬の肩をバシバシ叩いた。
「ええい!いい加減にしろ重悟!いつまでも人の肩を叩くな!」
そんな重悟に苛ついたのか、いつものような敬語ではなく昔のようなタメ口になってしまう。
重悟は一瞬驚いた顔をしたが、さっきよりも大きい声で笑いだした。
重悟がひとしきり笑ったあと、厳馬はイライラしながら話を戻す。
「ンンッ!話を戻しますぞ宗主」
「何だ?さっきのようにタメ口でも構わんぞ?」
「それを蒸し返さんでください!」
全く。と、厳馬はため息を吐いた。
未だに笑っている重悟を咎めるように睨むと、流石にしつこすぎると自覚したのか重悟も姿勢を正した。
「わかったわかった。ちゃんとするからそう睨むな」
そう言った後、咳払いをして真剣な表情のまま話し出す。
「さて、和麻ではないとなると一体誰が犯人なのかということになるが...」
重悟は悩みだす。厳馬も一緒になって悩む。
「風術士が犯人なのは間違いないのですか?」
厳馬がもう一度重悟に確認する。
「ああ。それだけは確かだ。わしが保証する」
その言葉に厳馬は重悟がそう言うのであれば本当だろうと信じる。
伊達に神凪のトップをやっているわけではない。
「ならば犯人は一体......っ!?」
ッドオオオオオオオオン!!!!
唐突に神凪邸の一部が吹き飛んだ。
「な、何ィっ!?」
あまりにも突然の出来事に厳馬も重悟も動けなかった。
だが、それも一瞬の事。禍々しい気配が感じる庭先に出ていくと、そこには黒い風を纏った男、流也がいた。
「犯人が誰かわからんと悩んでおったがその心配は無くなったようだな」
「そのようですな」
二人は神炎を出しながら流也を睨み付ける。
「お父様!!」
「父様!!」
綾乃と煉がやって来る。その時綾乃の声に流也が反応する。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
流也は叫びながら、黒い風を綾乃へと放つ。
「っ!?炎雷覇!!」
流也の風を綾乃が受け止める。が、受けきれず吹き飛ばされる。
「姉様!!」
煉が声を上げる。しかし、
「アアアアアアアアア!!」
流也は余所見をしている煉に風を放つ。
煉が気づくが、既に風が目の前に迫ってきていた。
「ぬんっ!!」
厳馬が煉の前に出て、炎で風を掻き消す。
「父様...あ、ありがとうございます」
煉がお礼を言うが厳馬は一切反応せず、流也を倒しに行く。
「ぬおおおおおおお!!」
厳馬が神炎で流也を攻撃するが圧倒的な質量を持った風の壁で防がれる。
更に重悟が炎を放つもやはり防がれてしまう。
「これは少々不味いかもしれんな」
重悟が少し顔を歪めながら呟く。
厳馬も口には出さないが、同じような考えを持っていた。
あの風の壁は360°どこからでも出せるだろう。相手が普通の風術士ならば、神炎でそのまま突き破ればいい。しかし、相手は普通ではない。神凪のツートップ二人の神炎を防ぐほどの強さだ。
本来風術は他の精霊術に比べてかなり自由度が高い術である。だからこそ力があまり強く無いという欠点が存在していたのだが、目の前の男は自由度も力も圧倒的だった。
重悟と厳馬はその事に気づいたが、だからといって退くわけにはいかない。
二人がもう一度流也に仕掛けようとした。
「裏切り者和麻!!お前はここで死ねぇ!!」
突如たくさんの炎が流也へと殺到した。
「どうだ!神凪の力を思い知ったか!」
「無能の分際で付け上がるからこうなるのだ!!」
「どれだけ身体能力が高かろうと我々神凪の前では無力なのだ!」
神凪の分家達だった。分家の者たちのほとんどが目の前の敵を和麻だと思い、そして先程の炎で倒したと思っている。
「皆の者直ぐに逃げろ!!」
それはあり得ないと分かってるからこそ重悟は叫んだ。しかし、その声に反応する前に
「え?」
分家の人間の首が十人程飛んだ。
「ガアアアアアアアアアアア!!カンナギィィィィィィ!!!!」
無傷で現れた流也は誰が見ても分かるほどブチ切れていた。
憎悪にも似た殺気がその場にいた全員に叩きつけられた。分家は勿論、煉や復活した綾乃も動けなかった。その中で動けたのは、重悟と厳馬の二人だけ。
二人は全力の神炎を流也にぶつける。が、流也はそれ以上の力で弾き返し、二人をぶっ飛ばした。
「お父様!!」
「父様!!」
綾乃と煉が叫ぶ。しかし、流也はそれだけで終わらなかった。
風が流也に向かって集まり出す。そして、今いる神凪全員に風が放たれた。
それは台風といのもおこがましいほどの風だった。この時神凪の全員が死を覚悟した。
「おーおーはしゃいでるねぇ」
その風が届く事はなかった。
代わりにどこか優しく、穏やかなそよ風が吹き抜けた。
それの発信源は気だるげで面倒臭そうで軽薄そうで、でも、とても頼りなる背中だった。少なくとも煉と綾乃はそう思った。
「久しぶりだな流也」
和麻が帰還したのだ。
次回は和麻VS流也です。
できれば早くできたらいいですけど...。
まあ、なるべく頑張りたいと思います。
では、少し早いですが良いお年を。