風の聖痕~和麻のチート伝説~   作:木林森

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今回は何か無駄話感がすごいや


予兆的な何か

「和麻を連れてこいなんて、結構無茶だよなぁ」

 

そうぼやきながら街中を歩いているのは神凪の分家の一つ、大神家の嫡男である大神武哉だ。ちなみに彼は同じ分家の一つ久我家の娘の静と結婚しており、子供もいるという人生の勝ち組である。

 

そんな彼は今、風牙衆からの情報を貰い和麻のいる所へ向かっていた。先日、神凪で会議の結論。和麻を宗主の所まで連れてくるという結論になった。他の分家は中々にやる気を見せている。が、武哉はそこまでやる気になれなかった。当たり前だ。和麻の強さは身をもって知っている。あの理不尽な強さは忘れることはできない。あの時より強くなったとは思っている。だが、和麻に勝てるだなんて一欠片も思っていなかった。

逆に何故他の分家は和麻に勝てると思っているのだろうか。それが分からない。

 

「慎吾のやつは何かもうヤバかったし...」

 

またまた同じ分家である結城家。そこの息子である結城慎吾。慎吾と武哉は二人が組めば、宗家以外には敵無しと言われるくらいには強い。だが、その片方が軽くイカれている。まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

この前殺された神凪の人間の中には慎吾の弟である慎治がいた。慎吾は慎治を可愛がっていたため、今回の事件は慎吾を狂わせるには十分だった。だから、今回は多分彼が一番やる気に満ち溢れていることだろう。やる気が殺る気に変換されるくらいには。しかし、武哉は慎吾のイカれ具合を見て、「あ、これはダメだわ」と思い、彼とは別行動をとった。

 

別に殺し合いに行くわけでは無い。確かに和麻は強いが、和麻は暴力的な性格をしているわけじゃない。面倒になって相手を殴ることはあるが、それだけだけだ。

 

「まあ、それだけでも致命傷になっちまうこともあるんだがな」

 

武哉は冷や汗を掻きながら顔をひきつらせる。

 

(やだなーやだなー。早く帰りたいよー。早く帰って嫁さんと子供の顔見て癒されたいよー)

 

心の中で泣き言を言いながら、ゆっくりと歩く。行かなきゃいけないけど行きたくないという歩きになってしまう。

 

そして、着いてしまった。武哉の目の前に建っているのは一目で豪華とわかるホテルだ。ここに和麻は宿泊しているらしい。風牙衆の情報があっているならいるはずだ。

武哉は憂鬱になりっぱなしだ。覚悟を決めないと。顔を叩いて気合いを入れる。

 

覚悟はできたか?俺はできてる。

 

武哉が今でも好きな漫画のセリフを心の中で引用して、ホテルの中に入る。

そして受付の人に話しかけようと受付に行こうとすると、正面から「ヤツ」が来た。

 

昔と変わってないテキトーという言葉が当てはまる雰囲気。それだけでわかる男がやって来た。和麻である。

武哉は急に和麻が現れたので、一瞬だけ心臓が止まった。

しかし、武哉はなんだかんだ修羅場をくぐってきた。だからなのかすぐに意識を切り替え、和麻に近づいていく。

 

「よう、久しぶりだな和麻」

「誰?お前」

 

思いだそうとする素振りくらいしろよ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ!やあっ!」

 

子供のような、しかし気合いの入った声を出しながら、蹴りや拳を繰り出す少年がいた。神凪煉である。

彼は今組み手をやっている。相手は煉の父親である厳馬だ。厳馬による修行の一環でやっているのだが、流石神凪最強と言われているだけあって、煉の攻撃を難なく捌いていく。

 

厳馬はそんな煉を見て、息子の成長を感じていた。むしろちょっと強すぎじゃないだろうか?と思っていた。しかし、やはり厳馬も父親。自分の子供が強くなっているというのはなんだかんだで嬉しく思っている厳馬だった。

 

そんな気持ちを厳馬は顔に全く出さないため、煉は自分がちゃんと出来ているのか不安になりながらも厳馬に攻撃を仕掛ける。

煉は厳馬と違い、感情がすぐに顔に出てしまうので厳馬が内心疑問を浮かべながら煉を見る。それを顔に出さないため顔が少し厳つくなる。

 

それを見て更に煉は不安な顔をする。それが繰り返されるという悪循環が出来てしまった。だけど、そんな悪循環の中でも組み手をやっている二人。端から見るとシュールだった。

端から見ている綾乃がそう思っているから間違いないかもしれない。綾乃の感性が間違っていなければだが。片や厳つい表情を浮かべる大人の男。片や不安そうな表情を浮かべる男の子、または男の娘。そんな二人は組み手をしている。やはり綾乃はシュールだとしか感じなかった。

 

そんな綾乃は今修行とかそういう自分を鍛えることは出来ない状態にあった。先日、というかつい昨日の事だが、風術を使う謎の妖魔との戦闘でかなりの負傷をしたため現在療養中の身である。

妖魔が逃げた後、和麻と再会した綾乃だったがそこまで話し合ったりはしなかった。綾乃が負傷していたからだ。

和麻は綾乃と謎の妖魔との戦いを見ていたため、それについていろいろ感想を述べて、エリクサーを綾乃に飲ませてその場を去っていった。

 

あまりにもあっさりした、かつ突然の再会だったので綾乃は「はあ...」とか「どうも...」とか、和麻と言うことに生返事ばかりで、会ったら言おうと思っていたことを何一つ言えずに飛んでいった和麻を見ているだけだった。

そして、和麻が去っていって数分ぼーっとしていたが、我に帰ると、自分が飲まされたものがかなりの価値を持つ霊薬であることに驚いていたり、和麻が空を飛んでいたことから風術士になっていることに驚いたりと、もう驚くことしか出来なかった。

 

ちなみに謎の妖魔との戦闘については既に重悟に報告してある。報告をしたというより、ボロボロになって帰ってきた綾乃に重悟が何があったのかと、質問されたから答えたというのが正しい。質問というより詰問に近い勢いであったが。

 

更に言うと、綾乃は和麻と出会ったことに関しては言わなかった。言ったら確実に面倒なことになるだろうと思ったからだ。というか、分家の者達が時々和麻を潰す的な発言をしているのを聞いたからだ。

この状況で、和麻と会ったことを話せばいろいろと質問責めにされることは目に見えている。だから和麻のことについては話さなかった。

それに、和麻なら何があっても特に問題もないだろうというある種の信頼からでもある。

 

(でも、和麻さんが風術士になっているなんてねぇ...)

 

あの妖魔も風術士だった。そして、和麻も風術士だった。これは偶然では無いと綾乃は予測していた。和麻が帰還したのもこれが関係しているだろう。

しかし、そういった予想をしても何があったのかが解らなければ、自分が割り込んでもどうしようもないだろう。和麻も謎の妖魔もはっきり言って強さの次元が違う。あれに割り込むなど命がいくつあっても足りないだろう。

それに、和麻に関しては言うまでも無いが、妖魔の方も綾乃は勝てないと思っていた。あの時の戦闘は多分本気ではない。何となくだが、あれはまだ馴染んでいないかのような雰囲気だった。

 

あの妖魔は元々人間だったのではないか。そして、妖魔の力を取り込んで妖魔になったのではないか。綾乃はそう考えた。そして綾乃は更に思考する。

 

元々は人間だった。妖魔の力を取り込んだ。なら、あの風術はなんだ?妖魔の力を取り込んだから使えるようになった?いや、あり得ない。風術は炎術に劣るとはいえ、根本は同じだ。炎なら炎の、風なら風の。それぞれの属性の精霊王から賜った力であり、精霊王の眷族である精霊の力を借りて、妖魔を滅する浄化の力を行使できる。そんな浄化の力を妖魔が使う?そんな事があってたまるか。なら、元々術士の、風術士の人間が妖魔になったということだ。

 

しかし、あれほどの強さの風術士を綾乃は知らない。風術士として一番の力を持つのは風牙衆だ。だが、その風牙衆も神凪の人間には遠く及ばない。ましてや綾乃は神凪の中でも一線を画すほどの強さだ。それと渡り合えるほどの風術士。誰だ?一体どんな敵なのか。基本神凪は日本でしか仕事をしていない。海外の術士に恨まれるとは考えれない。

だが、恨みとはどんな形で買うか分からない。もし、海外の術士だったら。いや、海外じゃなくても、敵はどういう存在なのか。個人?それとも組織?何も分からない。

 

綾乃は一旦思考を止めた。これ以上考えると頭がパンクしそうだ。情報も少ない状況で考えても仕方ない。こういうのはもっと情報が集まってから考えよう。

父親であり、宗主である重悟にはもう報告しているのだ。いずれ情報ももっと手に入るだろう。

そういえば、ふと綾乃は思い出した。神凪お抱えの風牙衆についてだ。今彼らのほとんどはここにいない。確かある噂の調査に行くと言っていた。

 

(かなりヤバイ妖魔がいるとかだっけ?)

 

綾乃が風牙衆がいない理由を重悟に尋ねたら、そのように返された。実際はもっとちゃんとした返答だったが、綾乃はそんな事細かに覚えていなかった。

 

(和麻さんの事やあの妖魔についての情報を集めてほしいと思ったけど、いないんじゃどうしようもないわね。でも、どこだったけ?風牙衆が行った所って)

 

綾乃はう~んと唸っていた。そして、思い出して風牙衆が行った場所を呟いた。

 

「そうだ、京都だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都のある山の中。そこには小さな祠があった。その祠には何人かの人数の風牙衆と綾乃と戦った妖魔がいた。

しかし、その妖魔は今は動くのが困難になっていた。綾乃との戦闘で負った火傷に苦しんでいる。そのすぐそばには風牙衆の当主、兵衛が付き添っている。

 

「大丈夫か?辛かったろう?痛かったろう?安心せよ。ここにはお前を傷つけるような輩はおらん。だからゆっくりわしの腕で休むがよい」

 

兵衛は妖魔を抱きしめ、背中を擦ったり、頭を撫でたりしている。

それを間近で見ている風牙衆の面々は汚物を見るような顔をして、気持ち悪がっている。確かに老人と妖魔に成り下がった青年が抱き合っている場面なんて見たくない。しかも、この二人親子だというのだから、なお気持ち悪い。

しかし、妖魔になっているとはいえ、また人間としての精神が残っているのか、むしろ妖魔になったことで精神が幼くなってしまったのかもしれない。あんな風に兵衛に甘えているのを見るとそう思ってしまう。

 

「大丈夫だ。大丈夫だぞ?辛かったらわしが慰めてやる。痛かったらわしが癒しやる。だから、だからな?またわしの為に動いてくれるか?」

 

いい年通り越した老いぼれが、甘い猫なで声を出すのは、耳障りでしかたない。

セリフも何だか意味深に聞こえてしまう。周りの風牙衆は風で結界を張りながら、視覚と聴覚を攻撃してくる目の前の光景に耐えていた。

 

そして、大体二十分経つと、妖魔が立ち上がり、そのまま風の結界を破って飛んでいった。

 

「頼むぞ流也。お前が我々風牙衆の悲願を成就させるのだ。そう、外法様の力を取り込んだお前が...」

 

人では無くなったたった一人の息子。その息子に願いを託して生け贄に捧げたのだ。何としても今回の計画は達成してみせる。

そんな強い決意を秘め、流也が飛んでいった方向を見続ける。

周りの風牙衆は兵衛が見ているのは何か別の意味だと勘違いして、さらに気持ち悪がっていた。

 

 

 

 

 

 

そして神凪本邸のある一室で、「BLの気配がする」と呟いて、兵衛達がいる方向を見つめていた深雪の姿があったらしい。

 

 




深雪はニュータイプだったのかもしれない...。

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