風の聖痕~和麻のチート伝説~ 作:木林森
これはまだ和麻が勘当される前の話。
神凪にある種の伝説を残した彼の過去の一部。
10月30日。和麻はある準備をしていた。自室に籠り、せっせと何かを作っている。かなり集中していたため、彼の弟――煉が部屋に入ってきたのにも気づかなかった。
「兄さま。何を作ってるんですか?」
後ろから声をかけられても対して驚かず、和麻はそのまま作業を止めることなく煉と話す。
「んー?煉か?」
「はい。そうですよ」
「何で俺の部屋に居るんだ?」
「兄さまを探してたのですが見つからなくって」
「で、部屋にいると思ったって事か?」
「はい」
「そうか。で?何か用なのか?」
「用が無いと一緒に居てはいけませんか?」
煉は和麻の素っ気ない態度に少々むくれる。
「そんな彼女みたいな事言ってんじゃねーよ」
「そんな、彼女だなんて...///」
「おい、何で頬染めてんだ?アホか?アホなのかお前は」
和麻はまさか自分の弟にそっちの気があるのか!?と戦慄した。しかも対象は自分。ホモで近親相姦。笑えない話だ。多分あの親父ですら卒倒するだろうと、和麻は思った。
とりあえず煉の性癖には深く突っ込まない方が良いだろう。
「深く突っ込む♂」
「おいゴラァ。その表記はいくら何でもキレるぞ。てか、突っ込まねぇつってんだろ。というより地の文読むなよ。つーか、そういう知識どっから仕入れた?」
色々と危ない煉の発言に軽くキレかけの和麻。まだ純粋で幼いハズの煉が何故こんな事になってしまったのか。ていうか、まだ小学生じゃん。何?最近の小学生ってここまで進んでるの?和麻は煉の将来が果てしなく心配になった。
「どこからって、母様が隠し持っていた本にそういう内容が」
「お母様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」
最近では全く関わりの持つ事ない母親のまさかの趣味に思わず叫んでしまった和麻。
「いやいやいやいや。それよりも何でお前はそれを見つけたの?てか、どうやって見つけたの?どういう経緯で見つけるに至ったの?」
「いや、ただ単に暇だったので母様の部屋を探ってたら見つけました」
あら嫌だ。この子ったら以外とやんちゃ。じゃねーよ。
「それにしてもビックリしました」
「そりゃそーだろ。母親がまさかそんな本を読んでたんだから」
「いや、それもそうなんですけど、母様って絵が上手だったんだな~って」
「え"?」
嫌な予感がする。これは聞いてはいけない気がする。和麻はそう思った。
「母様の部屋にマンガの道具がいっぱいありまして、書きかけのマンガも見つけたんですよ」
「へ、へー。そうなんだ~(汗)」
「はい。何やら父様と当主の二人が裸になってる絵が「チョップ」ッウグ」
和麻のチョップを喰らいその場で気絶する煉。
「いけない。煉、それ以上はいけない。知ってはいけないのだよ。忘れた方がいい」
神妙な顔でそう言う和麻。そして、自分も忘れようと思い、作業に戻った。
神凪は風牙衆という風術に長けた集団を従えている。神凪が現代でも栄えているのは、風牙衆の力もあったからだと言えるかもしれない。
しかし、実際のところ神凪は風牙衆を見下し、傷つけている。風牙衆の風術は神凪の炎術に劣っていると決めつけ、彼らを虐げるのだ。
確かに真っ向からやり合えば風術は炎術に負ける。しかし、ぶっちゃけて言えば、風術の方が炎術よりも殺しに向いている。そして、もしそういう目的で風牙衆が牙を剥けば、神凪に成す術は無い。
だが、現状は神凪が上で風牙衆が下となっている。
その容赦のない残酷な暴力はこんな日にも行われる。
10月31日。ハロウィンの日である。この日は子供が仮装して、大人からお菓子を貰うというイベント。その際に言う言葉は「トリック・オア・トリート」。
こういった催しは神凪や風牙衆も例外ではない。
子供達がお菓子を貰う。そして、全部貰いきったら、どうするか。普通はもう無いのだから諦める。しかし、やはり欲しいと思ってしまうもの。だが、大人からはもう貰えない。ならば、他の子供から盗ればいい。そう思った神凪の子供達が向かう場所は一つ。
子供達は無邪気に笑いながら、残酷な事をしに行く。そして、それを屋根の上から眺めている一つの影がある。神凪の子供達よりも圧倒的な暴力を持つ少年が、このハロウィンを駆け巡る。
「へっへー!風牙衆の奴らもこういう時は役に立つよなー」
「本当にな。お!このカボチャケーキ美味ぇ」
神凪の屋敷の一室。そこには神凪の子供達がハロウィンのお菓子を堪能していた。しかし、これらは自分のお菓子ではなく、風牙衆の子供達から奪ったお菓子だ。ただ奪っただけならともかく、神凪の子供達は奪う際に炎術で相手を傷つけてから奪っている。
それに罪悪感なんてものは感じない。当たり前のように奪って、傷つける。そして、彼らの他にもまだ風牙衆から奪いに行っているグループもいる。
「他の奴らちゃんと奪えてんのかな?」
「さあな。んな事どうでもいいだろ。それよりもそのカボチャケーキくれよ」
「嫌だよ。俺が取ったんだから俺のだよ」
「ケチだなお前」
「言ってろよ。てか、量はお前の方が多いだろ」
適当に喋りながらお菓子を食べていると遠くの方で悲鳴が聞こえる。
「うるせーな。また風牙衆か?」
「あいつらいつもピーピーうっせえよなー」
「でも悲鳴がねーとつまんないけどな」
「確かにな」
そう言ってゲラゲラ笑っていると、急に部屋の襖が開く。見るとそこには、中身がくりぬかれたカボチャを被っている少年がいた。
「な、何だ?おまへぐぅ!!」
カボチャを被った少年が神凪の子供を一人殴り倒す。
「て、てめぇ!何しやがるんばっ!?」
そして、もう一人もぶん殴る。
そして、カボチャの少年はお菓子を全部持っていった。
「トリック・オア・トリート」
そう言って部屋を出ていった。
残ったのは天誅を受けた少年二人だけだった。
「ふむ。こういう家系の奴らでもこういった催しをするのだな」
神凪の屋敷の塀の上。そこには、棒つきキャンディーを舐めながら、神凪のハロウィンパーティーを見ている金髪の女性がいた。
実は彼女、吸血鬼と呼ばれる西洋の化け物だ。そんな彼女が何故ここにいるのかというと、特に意味はない。ただ気まぐれにやって来ただけである。更に言うと、彼女は真祖の吸血鬼で、ほとんどの存在は太刀打ちできないぐらい強い。というか、最強レベルである。
そんな彼女は、そろそろ退屈になってきたのかゆっくりと立ち上がり伸びをする。
そして、気づく。隣にカボチャの少年がいることに。
(私が気配を察知できなかった!?)
真祖の吸血鬼である彼女ですら気づけなかった。その事実に動揺を隠せない。
冷や汗を掻きながら、少年と対峙する。二人の周りだけ緊張感が漂う。
そして、少年が口を開く。
「トリック・オア・トリート」
急に何を、と疑問を口にだす間もなく、彼女は吹っ飛ばされる。少年の容赦のない、相手を確実に仕留める全力の飛び蹴りだった。
「グガァッ!!」
真祖の彼女はそのまま受け身を取ることもできず、地面に叩きつけられた。
そして、少年は彼女の舐めていた棒つきキャンディーを手に取りもう一回言った。
「トリック・オア・トリート」
そうして、少年はこの場を去っていった。
残った吸血鬼は、飛び蹴りを喰らったお腹を擦りながら、興奮していた。
真祖の自分ですら知覚できないスピードで繰り出され、この吸血鬼の肉体にダメージを与える蹴り。
(こんな刺激初めて...)
要するに新たなる扉を開いただけだった。この出来事が後に和麻にとってかなりめんどくさい事態を引き起こすのだが、それはまた別の話。
また場所は変わって中庭。そこでは風牙衆の子供からお菓子を奪おうとしている神凪の子供達がいた。
炎を生み出し、風牙衆の子供にぶつける。衣服はボロボロになり、体は火傷だらけになっている。しかも、一人の子を複数で虐めるというまさにリンチだった。
神凪の子供達は容赦なく炎を放つ。もう、気絶寸前の状態でも関係なく。
ニヤニヤと笑っている神凪の子供達の内の一人が肩を叩かれ振り向くと、そこにはカボチャを被った少年が拳を振りかぶっている姿があった。
そして、声を上げる間もなく吹っ飛ばされる。
一人が吹っ飛ばされた事により、周りの子供達も気づいた。すぐに、カボチャを被った少年を囲む。
「何なんだお前!」
「こんな事してただで済むと思ってんじゃねーだろーな!」
「黙ってんじゃねえよ!」
大声を上げる彼らにカボチャの少年は一言。
「トリック・オア・トリート」
気絶寸前の風牙衆の子供が気絶する前に見たのは、宙を舞い、地面に叩きつけられた神凪の子供達とそれを実行したカボチャの少年の悠然とした姿だった。
「ぷはぁ!!大成功だったな!」
頭に被っていたカボチャを取った和麻は、今回の作戦が成功で終わった事に満足していた。
そう、カボチャを被った少年とは和麻の事だった。というか普通に考えてあんなこと出来るのは和麻くらいしかいないだろう。
和麻はあの後、他の神凪の子供達にも同じ事を繰り返し、そしてお菓子を奪っていった。そして、風牙衆のものはちゃんと返しにいった。
拳で吹っ飛ばしたり、蹴りをかましたり。時には頭一つ分くらいのカボチャを叩きつけたりとやりたい放題だった。
そして、決め台詞として「トリック・オア・トリート」と言って去っていく。
この和麻の行動のせいで神凪の中で「トリック・オア・トリート」という言葉は恐怖の対象となった。因みに和麻は子供からだけでなく、神凪の大人からもお菓子を強奪しに回っていった。
そして、この事件で風牙衆に対する虐めは大分減ったのだった。
この和麻の行動彼が勘当されるまで続いた。
これは和麻が勘当されるまでの三年前の話。
神凪に悪夢のハロウィンを残した彼の過去の一部。
「煉、お菓子一緒に食う?」
「はい!食べます」
「そーいえば煉、お前もうホモじゃなくなったの?」
「兄様、ホモって何ですか?」
「いや、何でもない(どうやら記憶は消えてるようだな)」
「あ、実はですね兄様。僕母様の部屋に行って凄いもの見たんですよ」
「あ(察し)」
「なんとですね、百合と呼ばれる本が母様の部屋にありまして」
「お母様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」
和麻と煉の母親には秘密がいっぱいです。
これ別に無理にハロウィンと絡めなくてなも良かったんじゃね?と思ったり思わなかったり。
そんな話ですが、前書きに書いてある通りハロウィンに間に合わなかったです。地味に悲しかったです。
次回は本編になります。
次回!黒き風が神凪を襲う!乞うご期待!!