風の聖痕~和麻のチート伝説~ 作:木林森
綾乃はちょっと調子に乗ってる設定です。
そんな感じてで第二話です。
継承の儀。それは神凪家の当主を決める神聖なる儀式。
ざっくり言うと、当主やその他の神凪宗家、分家のそれぞれの代表の前で御前試合をし、勝った方は炎雷覇という神凪家に代々伝わる神器に選ばれた者とし、当主になる。というものである。
そんな儀式が今行われようとしていた。
神凪家の屋敷の一室。
そこには宗家、分家の炎術士達が中央の二人を囲むように座っていた。
中央にいる二人。
片方は活発そうな女の子で、名前は神凪綾乃。神凪家の現当主である神凪重悟の娘であり、炎術士としてかなりの才能を秘めた少女である。
もう片方はものすごくダルそうな雰囲気を漂わせ、一切のやる気が感じられない少年。いや、もう青年に近いかもしれない。とりあえず男だ。名前は神凪和麻。神凪最強の名を持つ神凪厳馬の息子であり、炎術士としての才能は全く無い落ちこぼれである。
綾乃の方はまだ若すぎるとはいえ、炎術士としての才能はかなり高いので、継承の儀に出るのに相応しいと言える。
一方和麻はいくら異常な身体能力があるとはいえ、炎術士としての才能は無い。継承の儀に出るのはお門違いといえる。
なのに何故和麻が継承の儀にいるのか?それは、父親である厳馬が言ったからだった。
「は?今何て言いました?父上」
父親である厳馬に呼び出され、彼の部屋で彼が告げた言葉に和麻は思わず聞き返した。
「明日の継承の儀。お前も出ろ和麻」
厳馬は同じセリフを繰り返す。
ヤのつく方々も裸足で逃げ出す程の顔とプレッシャーを持つ厳馬に和麻は臆する事となく近づき、自分の額と厳馬の額に手を合わす。
「......何をしている?」
「いや、どうやら父上が正気じゃないようだから、熱でもあるんじゃないかと」
厳馬の放つプレッシャーがさらに強くなった。
「熱など無いし、私は正気だ」
「おれは しょうきに もどった。ってやつですね分かります」
「元から正気だ馬鹿者」
どこまでもふざけた態度に厳馬はイライラする。
「とにかく、明日の継承の儀、お前も出るように。拒否は認めん」
ギロリ、と厳馬は和麻を睨みながら(本人は見てるだけ)言葉を放つ。
しかし、そんな厳馬に対し和麻はダルそうに言った。
「いや、明日は撮り溜めしてるアニメを見ないといけないし、何よりメンドイので遠慮しm「い・い・か・ら・出・ろ」ちっ。ハイハイ分かりましたよ」
そんなこんなで和麻は継承の儀に出ることとなった。
(何あいつ。やる気無いの?)
神凪綾乃は苛ついていた。
今から行われる継承の儀。炎の精霊王に認められた最強にして、誇り高き神凪の次期当主を決める神聖なる儀式、と綾乃は思っている。
なのに目の前にいる男は何だ?
目が半分しか開いておらず、あくびを我慢しようともせずボーッと突っ立っている。
(継承の儀を何だと思ってるの!?)
和麻を見れば見るほど、イライラが沸き上がる。
しかし、すぐに冷静になる。
(ダメダメ落ち着かなきゃ。お父様もよく言ってるじゃない。一時の感情に身を任せれば身を滅ぼすって)
それに、と綾乃は和麻を見る。
相変わらずダルそうにしている。
(私が負けるってことは無いハズよ)
綾乃も和麻の噂は聞いていた。
神凪に、しかも直系に生まれながら炎を使役する事が出来ない落ちこぼれだと。
炎術を使える自分。炎術を使えない和麻。どっちが勝つかなど、火を見るよりも明らかだ。
綾乃はそう思っていた。実際その通りなのだが、目の前の和麻に関して言えば、それは当てはまらなかった。
綾乃は知らない。分家の者達が落ちこぼれに負けたという恥を隠したため、和麻が炎術士である彼らよりも異常な存在であるということを。
「それでは今から継承の儀を行う。二人とも、用意はいいな?」
重悟が威厳ある開幕宣言すると
「ハイっ!」
綾乃が少し緊張を含んだ、ハッキリとした声で返事をする。
「オーケーでございまーす」
対して和麻は、舐めくさってるとしか思えないほど適当に返事をする。
当主を除いたその場全員に殺気をぶつけられる和麻。
しかし、気にした様子は無い。
「うむ。ならば、始め!!」
最初に攻撃を仕掛けたのは綾乃だった。
「はあっ!」
炎の精霊達から力を借り、手に炎を生み出す。
手のひらサイズとはいえ、炎の精霊王の加護を受けていない人間ならば、すぐに燃えてしまう。
実際に
ゴウっ!!
目の前の和麻は燃えていた。
それを見た者達は色めき立った。
「おおっ!さすがは綾乃様」
「あの炎の質といい、神凪宗家として相応しいですな」
「いやはや。これで神凪も暫く安泰ですな」
「それに比べてあの男は......」
「神凪宗家の血を引いておきながらなんと情けない」
「見ろ。まだ無様に燃えておるぞ」
綾乃には賞賛を。和麻には嘲笑を。それぞれの感想述べる分家達。
綾乃はそれを聞いて気分がよくなり、勝利を確信した。
しかし、その確信はすぐに消え失せる。
ブオッ!
いきなり突風が生まれた。
厳馬、重悟以外が突然の事で驚いている中、ダルそうな声が聞こえた。
「温いなぁ。これならまだ修●の方が熱いぜ」
●造って誰だ。綾乃はそう思った。そうやって、目の前の現実を受け入れようとしなかった。
(私の炎が消された?何で?どうして?どうやって?)
綾乃は一人では無いが、既に退魔の仕事をしていた。その時にいくつもの妖魔を浄化してきた自慢の炎。それが消された。突然の風によって。
(え?あれ?風?何で?ここは室内よ。外から風が吹いてくる事はあっても、室内で急に発生するわけが無い。それに部屋だって閉めきっているから外からの風は無い)
動揺しながらも冷静に思考を回転させる綾乃。
そして思いついた一つの可能性。有り得ないがこれしか無い。
「和麻さん、あなた、風術が使えるの?」
ざわっ!
綾乃の呟いた一言に周りがざわつく。
「風術だって?」
「あの、コソコソとするしか能の無いアレか?」
「神凪に生まれながらあのような下賎な術を使うというのか」
「どこまでも恥さらしな」
周りが和麻を侮蔑する。
しかし彼は気にすることなく、
「いや、使えないけど」
と、普通に答えた。
それに驚いたのは綾乃だった。
「嘘言わないで!いきなりあなたから突風が来たのよ!どう考えてもあなたしかいない!それに風を起こすなんて、風術士しかいないじゃない!」
自分の考えが外れたのも相まって、叫ぶ綾乃。
和麻は綾乃の発言に対し、
「いや、思いっきり腕振って風圧起こしただけなんだけど......」
逆に戸惑った風に答える。
しかしそれを聞いた綾乃は
(は?)
思考停止した。
「な、何言ってるの?腕を振っただけ?そんな、たったそれだけの事で?」
たったそれだけで私の炎は消されたの?
「ふざけるな!」
綾乃は和麻に殴りかかった。
振り上げた拳は和麻の顔面を捉えた。が、和麻には効かない。
「別にふざけてねーよ。これが当主や父上の炎なら消せないだろうしな。まあ、単純にお前が弱いだけだろ」
その容赦の無い一言に綾乃の体が固まる。
弱い。それは綾乃が一番聞いた事がなく、一番縁が無いと思っていた言葉。
「お前は自分じゃ思い上がる事なく成長したと思ってたんだろうが、そんなわけ無ぇわな。ガキが天才だなんだと持て囃されたらそりゃ天狗にもなるぜ。ま、安心しな。人生が六年先輩である俺がきっちりお前の自信をへし折ってやるから。そこから這い上がれるかは、お前次第だけどな」
ドゴッ
人間から出る音とは思えないくらい鈍い音が出た。和麻が綾乃の腹を蹴ったのだ。
綾乃は吹っ飛ばず、そのまま、ぐらりと体を傾かせ倒れた。
意識を失う中で、綾乃は
(ああ、これが私とあいつとの差。全く動きが見えなかった。次戦う時は見えるようにしておかないと)
強くならないと。もがいてもがいて、あの人に、和麻に追い付かないと。
強くなるという決意を胸に綾乃は意識を失った。
周りは誰も声を挙げなかった。
誰もが綾乃が勝つと思っていた。しかし、勝ったのは和麻だった。しかも自分達ではどうしようも無い力の差を見せつけられて。
「勝者、和麻」
重悟の声が響いた。
重悟が和麻を勝者と認めた。それの意味するところは、
「和麻を次期当主とする。異論は無いな?」
尋ねるような言い方をしつつも、込められた語気は異論は認めんと言わんばかりだった。
「あー、すいません」
そんな中和麻が能天気に重悟に話しかける。
「何だ?和麻よ」
「いやー、あのですねー。ぶっちゃけ俺は次期当主の座とか要らないんですよね」
周りがまたざわつく。
重悟がそれを鎮め、和麻に聞く。
「和麻、お前は次期当主になりたくないのか?」
「ええ、まあ」
ダルそうに答える。
「だって、そんなめんどうなポジションに居たくないですし、俺は炎雷覇だって扱えませんしね。それだったら、こっちのガキを次期当主に据えて、炎雷覇を持たして強くした方がよっぽど建設的ですよ」
つらつらと、しかしやっぱりダルそうに言葉を並べる和麻。
「しかしだな、継承の儀で勝ったのはお前だ。それを覆すなど......」
重悟は少々渋る。
「はー、頭固いなー。んなもんどうだっていーじゃないですか。ここで俺が次期当主になっても誰も着いてきやしませんよ。むしろ、反発が起きて内部分裂するのが目に見えてます」
自分を次期当主に襲名した時のデメリットを語る和麻。
しかし、これは間違いなく事実だ。確実に起こりうる未来になるだろう。
百害あって一利無し。メリットがまるで無いのだ。
「分かりましたかね?当主。あなたが仰ってることの危険性が。それでは俺はこれで。もう、継承の儀も終わりましたしね」
それではー。と、自分の部屋へと帰っていく和麻。
「私も失礼する」
ずっと黙っていた厳馬も立ち上がり自室へと戻って行く。
重悟はさっさと出ていった二人を見て、ため息を吐いた。
(全く勝手な親子だ。まあ、あの親子を縛れる者などおらんだろうがな)
そう考え、重悟は苦笑する。そして、未だにどうすれば良いか分からない分家達に言った。
「此度の継承の儀は終了だ。各自戻られよ。それと、誰か綾乃を看てやってくれ」
そうして各々が行動し、部屋には重悟だけとなった。
(それにしても次期当主、どうするか)
一晩悩んだが、結局結論が出ず、本格的にどうするかと悩んでいたところに、和麻が厳馬によって神凪を追放されたと聞かされた重悟は、綾乃を次期当主にする事にした。
「和麻よ。あの場で言った事は全て本心か?」
和麻が自室に戻ってすぐに厳馬が自分の部屋に呼び出した。
「そうですが」
和麻は、俺の部屋で話せばいいのに何でわざわざ父親の部屋まで行かねばならんのか。と、心の中で愚痴をこぼしていた。
「お前は神凪家の次期当主という栄誉ある座を捨てたということだな?」
「回りくどい言い方ですね。まあ、間違ってはいませんけど」
和麻は怪訝な様子で厳馬を見る。
そして、厳馬が懐から出した物を見てさらに訝しむ。
「これが何だか分かるか?」
「どう見ても銀行のカードですね。何ですか?馬鹿にしてるんですか?股間蹴りあげるぞハゲ」
しれっと暴言を吐く和麻。
そんな暴言に青筋を額に浮かべながら、厳馬は話す。
「このカードの口座には一千万入っている。好きに使うといい」
「マジで!!?」
和麻が目の色を変える。
「でも何で急に?」
和麻が疑問を口にする。
「生活の資金だ」
厳馬は簡潔に答える。
「は?」
何言ってるんだこいつは。的な目で和麻は厳馬を見る。
「和麻、お前を勘当する」
そんな視線を意に介さずに、厳馬はさらっと言った。
厳馬が言った事を理解するのに十秒くらいかかり、そして、
「ハアアアアアアア!!??」
和麻は絶叫した。
「いやいやいやいや!何で!?何で急にそんなこと!」
「お前は前々から神凪を誇りに思っていなかった。そんなやつが神凪を名乗るなど言語道断だ。故にお前を勘当する」
厳馬はそう言うが、勿論和麻が納得いくハズもなく
「っざけんなよクソジジイ!何勝手な事抜かしてんだボケ!!んなの認められるわけねーだろーがよ!!」
最早言葉を取り繕わなくなった和麻。かなり口調が荒くなっている。
「認めようと認めまいとそんなものは関係ない。私が決めた。だからこれは決まった事だ」
「んだよそれ!何その俺様ルール!いい年したオッサンが俺様キャラとかキモいんだよ!!死ね!」
和麻の暴言にそろそろ怒りを抑えられなくなった厳馬。
「和麻、さっきから聞いていれば何だ?その暴言は。それが父に対する言葉か」
「あんたさっき自分で勘当するとか言ってだろーがよ!都合のいいときだけ父親面すんな!」
「父親で無くとも目上の者に対しての言葉遣いぐらいキチンとしたらどうだ」
「お前以外にならちゃんとした敬語使うっての!お前に敬語とか敬語が穢れるぜ」
「幼稚な事を言いおって。大体、何故この家に残りたいと思う?お前がどれだけ強かろうと、この家の者達はお前を認めようとしない。常にお前を見下し続ける。お前にとっては生き辛いだけだ。なのに何故お前はこの家に拘る?」
ポロッと溢れた厳馬の本音。
厳馬は和麻の才能を潰したく無かった。神凪という枠に入ってる限り、和麻は自分の才能を自覚しない。和麻は自分の身体能力は異常だと感じているが、それだけなのだ。誰もが出来るとは思っていない。が、それでも和麻は自分が凄いとは思ったことは一度も無かった。
厳馬はそれを見抜いていた。
だから、外に出てもっと自分の凄さを知ってほしかった。もっと自分の可能性を追求してほしかった。
「この家に拘る理由?そんなの決まってんだろ」
そんな厳馬の思いとは裏腹に和麻の答えは
「こんな金持ちの家にいれたら、働かずにずーっとぐーたら出来るからにきまってんだろぉがよおおおおおおおおおおお!!!!!!」
だった。
それを聞いて厳馬の怒りは限界を振り切れた。
「さっさと出ていけ!!!この馬鹿者がああああああああああああああ!!!!!」
こうして神凪和麻は神凪家を追放されたのだった。
こういう感じで、比較的平和(?)に勘当された和麻でした。
そして、綾乃の強化フラグみたいなのを立てたつもり。
次回の話は全然考えついて無いです。