3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第8話 3歳児は説教を垂れる

 授業も終わり、生徒たちは三々五々と散ってゆく。

 そんな中、俺は生徒のハヤト達に遊びに誘われて噴水広場まで来ていた

 時間もまだたっぷりとあるからね。仕事終わりとはいえ、いっぱい遊べるよ。

 

 俺は二つのタマゴの入った容器(強く振ってもタマゴに衝撃を与えない優れもの)をリュックから取り出して、ベンチに座る

 

 

「レンジ、何もってんだ?」

「ん、これ? ポケモンのタマゴ。」

「ブイ」

 

 ワタルからもらったポケモンのタマゴ。ミニリュウとタツベイだ。

 たまに動いているように見えるので、産まれるのはもうすぐだと思う

 それを見たハヤトが目ざとくなんなのかを聞いてくる。

 そんな中、イーブイだけはあまり話には興味ないとばかりに俺の膝の上に飛び乗った。

 

「タマゴを持ってるなんて、ズルいわよ!」

「ズルくないよ。」

「それに、二つも持ってるなんてズルい。一つちょうだい!」

「あげない。」

「レンジのケチんぼ!」

 

 サナエちゃんがそのタマゴが欲しいと強請ってくるが、こればっかりはあげるわけにはいかないんだ。

 ドラゴンタイプは育てるのに時間がかかるうえに、気性が荒い。子供に持たせるには危険であるし、高個体値でかつ、チャンピオンのワタルからもらった大事な大事なタマゴなんだ。

 

 それを簡単に人にあげてしまったら、ワタルに対するヒドイ裏切り行為だ。

 それは人として絶対に許されない。

 

 それに、子供にドラゴンタイプを持たせても、育つのに時間がかかりすぎて途中で飽きるだろう。そしたらポケモンが可哀想だ。

 

「でもいーなー。どこでもらったんだ?」

 

 うらやましそうにタマゴを見つめるのは、ハヤトの友達のケンジくん。

 

 特徴という特徴のない、いたって普通の男の子だ。

 ハヤトにいつもくっ付いているから、ハヤトを探したらこの子が見つかる。

 間違っても『素敵なハーモニー』とかいうアイツじゃないよ。

 

「これは、チャンピオンのワタルにもらったんだよ。だから、人にあげるわけにはいかないんだ」

「ワタルさんから!? いーなー! いーなー!」

「ワタルさんに会うなんて、ズルいわよ!」

「すっげー! かっこよかった?」

 

 

 

 タマゴの入った容器をベンチに置いて、撫でながら「めっちゃかっこよかった!」と言うと、三人組はさらにはしゃぐ

 うへへ、こういうちやほやされるのって、すごく気持ちがいいや。

 

 

 

「うそつけ!」

 

 

 後ろからいきなり大声で叫ばれた

 

 何事かと思って後ろを振り向くと

 

 

「マサヨシくん」

 

 マサヨシというガタイのいい少年が居た

 

 彼は俺が講師を務めているトレーナーズスクールの生徒である。

 

 成績は優秀。上昇志向が強く、常にトップを目指している。

 そんな彼は、ポッと出の俺に授業を教わるということが気に食わないという生徒の一人である。

 

 当たり前だ。今まで成績がトップに君臨していたはずなのに、いきなり3歳児が現れて、そいつが教鞭を振っているのだから。

 

 マサヨシ君は9歳。来年にはトレーナーズスクールを卒業してトレーナーとして旅に出るのだと、前任の先生に語っていた。

 

 自分がトップの成績であることを誇りに思っており、プライドが高い。

 

 そのため、3歳児でありながら自分をはるかに凌駕する知識量を持つ俺が鬱陶しくて仕方がないのだろう

 

 

「それで、うそつけってどういうこと?」

「言ったとーりの意味だ! ワタルさんがお前みたいなガキにタマゴを渡すわけがない! それにワタルさんはチャンピオンなんだぞ! そんな簡単に会えるわけがない! だいたい、毎日トレーナーズスクールに来てるのに、いつ会えるんだよ!」

 

 感情に任せて言いたい放題のマサヨシくんに、俺は嘆息する

 

「そーだそーだ!」

「もっと言ってやれー!」

 

 マサヨシの後ろから、さらに俺のことがいけ好かないのだろう、とある双子が手を繋ぎながらマサヨシに同調する。

 その双子は男の子と女の子だった。マサヨシの後ろに隠れながら声を張り上げているのは

 

 

「フゥとランも………」

 

 

 その双子というのが、あろうことか、フゥとランである。

 

 長い髪を後ろで纏めて、青いチャイナ服に身を包んだ二卵性双生児。

 ホウエン地方のトクサネシティに存在するトクサネジムのジムリーダー。『フゥとラン』そのものである。

 

 いやあ、初めて見た時はびっくりしたよ。

 まさかカントーに居るとは思わないじゃん。

 

 しかも、タマムシのトレーナーズスクールで俺の生徒になるなんてさ。

 あ、ちなみに俺の生徒の“ハヤト”の方はジョウト地方の鳥ポケモンのジムリーダーとは別人だよ。

 

 時系列がどうなっているのかはわからないけれど、フゥとランは現在7歳である。

 

 成績はマサヨシに続いて同率2位。

 将来はジムリーダーなだけあって、おそらく、マサヨシを超える才能を持っているし、マサヨシもそのことについては気付いている。だが、それでもマサヨシは現在のところ成績一位はゆるぎないため、良きライバルとして互いを高め合っていた。

 

 フゥとランは実家がホウエン地方なのだが、トクサネ宇宙センターの方でちょっとしたトラブルが起こったらしく、父方の祖父の家に旅行ついでに泊まっているらしい。

 あと数か月もしたらホウエン地方に戻ると言っていた。

 

 短い期間だが、それでも大事な生徒だ。きちんと教えられることは教えておきたい。

 

「それに、3歳のお前がポケモンを連れて歩くのはダメなんだぞ! 先生であるお前がいちばんやっちゃいけないことをやってんじゃんか!」

 

「ほーりつ無視して」

「好き勝手!」

「レンジの言うことは」

「信用できないわ!」

 

 

 マサヨシの言葉に、最近までの俺ならば痛い所を付かれたと思っていただろう。

 しかし、俺はもうトレーナーカードを持っている、正式なポケモントレーナーである。

 全く痛くもかゆくもない。

 

 交互に俺を罵倒するフゥとランの言葉もまた然り。

 

 確かにイーブイを手に入れた最初はなりふり構ってられなくて法律を無視していたが、今の俺は講師であり、ポケモンの授業をしているため、タマムシトレーナーズスクールからは許可は下りている。

 さらに、イーブイ達の所有権は、あの頃はエリカ様とおばあちゃんが代理で一時的に引き受けてくれていた。

 講師になってからは一度も違反をしたことは無いと断言できる。

 

 だからこそ、そんな言葉は柳の風と受け流せる。

 

「こいつら………」

「年上だからってちょーしのりやがって!」

「三人がかりでレンジをイジメるなんて、ズルいわよ!」

「ブイブイ!」

 

 年上だからってちょーしに乗ってたのはキミ達も同じだし、三人がかりで俺に喧嘩を吹っかけてきたキミ達も同じだよと突っ込みたくなったが、俺の為に憤ってくれているハヤトたちに、すこしほっこりだ。

 イーブイも俺の為にプンプンとお怒りの様子。

 

「へっ! 俺は本当のことを言ってるだけだぜ!」

「トレーナの資格は」

「10歳からもらえるんだから!」

 

 5歳児のハヤテたちと7歳と9歳のマサヨシ達がにらみ合う。

 一触即発とはこのことだ。

 

「それに、俺は知ってるんだぜ、お前、父ちゃんも母ちゃんもいない、捨て子だったんだろ? そんな奴に教わることなんかなんもねーよ! 俺の父ちゃんも母ちゃんも、お前には関わるなってみんな言ってたんだ!」

 

 俺を蔑むように見下したマサヨシ

 

「やーい」

「やーい」

 

 

 それに続いて挑発してくるフゥとラン。

 

 ……………。

 

 

「くくく………」

 

 いやぁ、もうほんっとうに、子供の喧嘩ってのはくだらないなぁ

 

「あん? 何笑ってんだよてめぇ!」

「気が」

「狂ったの?」

 

 

 気が狂った? ああ、そうだよ。気なんか最初から狂ってる。

 この世界に来た時からね。

 狂って道化を演じてないとやっていけない程に。

 

 といっても、俺の堪忍袋の緒はハリガネでできているからそう簡単には切れはしないさ。

 

「3歳児がポケモンを持っちゃいけないとか、くっだらねぇ」

 

 だから、まるで興味がないとばかりに吐き捨てる

 

「何言ってやがる、法律で………」

 

「僕は何の罪も犯していないさ。見るか? 僕のトレーナーカード。ポケモンリーグの承認がされている。こんな3歳児でも、立派なトレーナーだよ。」

 

 俺はマサヨシとフゥとランを軽く睨みつけながら心底不愉快そうな態度で応える

 

 リュックから出したトレーナーカードには、レンジはトレーナーであることを証明するポケモンリーグの承認印が押してある。

 

 それを確認したマサヨシやフゥとランは目を丸くしてトレーナーカードを凝視する

 

「に、偽物だ!」

「だってトレーナーカードは」

「10歳を過ぎてからじゃないと」

 

 カードを見ても信じてもらえないのは想定済み。

 

「飛び級認定試験っていうのがあるんだ。僕は10歳までなんてそんな悠長に待てないからね。努力をしたらその先を目指すのが当然。だから僕はトレーナーになった。10歳になる前にチャンピオンを倒せるくらい、強くなる気概でなくてどうする。人を貶めることをする時間があるなら、少しでも勉強するなりバトルするなりお金を稼ぐ方法を考えるなりする方がよっぽど有意義な時間の使い方だとは思わないか? 思わないよなぁ。お前ら、授業は聞かないけど成績だけはいいもんなァ!」

 

 俺は小馬鹿にしたような顔を見て、顔を真っ赤にする三人

 家では予習復習をしているのだろうが、年下の俺から教わるのはプライドが許さないのか、俺の授業の時はちっとも聞きゃしねぇ。

 

 ちなみに、飛び級試験というものは、最低でも一人、ジムリーダーからの許可がなければ受けることができないようになっている。

 当然だ。そんなにほいほいと試験を受けられるならば誰だってやっている。

 

「上を目指すなら、待つんじゃねぇよ。自分で動け。そして進め。じゃねーとどこかで躓いたときに、ずっとそこから動けないことになる。そのときに僕はおまえ達が一度たりともたどり着けない高みで、さっきまでお前たちがしていた顔でこういってやるよ。『あれ、まだそんなところに居たの?』ってよぉ」

 

 

 俺は最大限の嘲笑を顔に貼り付けてマサヨシに歩み寄る。

 きっと、今の俺の顔をエリカ様が見たら卒倒するだろう。

 

 それくらい、今までの俺の顔とかけ離れた顔のはずだ。

 

 

「能力があるからそれに見合った資格を手に入れるのは当然だろう? ならばなぜお前たちはそれをしない。10歳になれば自動的に資格を貰えるからか? そうしている間に、僕はどんどん先に行くぞ。そしたら、お前らはもっともっと惨めになるわけだ。父親も母親もいない。蔑んでいた僕に嘲り笑われる気持ちってのは、いったいどんな気持ちなんだろうね。いやはや、教えてほしいくらいだよ、“後輩くん”。」

 

 

 キヒヒッ と笑いながら近づく俺に気圧されてジリジリと後ろに下がるマサヨシ。

 それを見て、俺はさらに嘲笑する。

 

「あっれ、怖いんだ。なぁんだ、やっぱりたいしたことないじゃん。口先だけ。僕に勝てるところが何一つないから悪口を言う。でもそんなものは僕には響かないから、怖くなって逃げようとしている。あー可笑しい。滑稽すぎて笑えるよ。一生そこで燻っていろよ。その間に僕は、もっと先に行くからさ。」

 

 フンと鼻をならして、やさしくポンと彼の腕を叩く。

 ほら、どけ。

 

「だ、」

「あ?」

 

 

 マサヨシが怒りで肩を震わせながらも、俺に反論しようとしたので、威圧して黙らせようとするが、所詮は三歳児の睨みだ。たいした意味もないかもしれない。

 

「だとしても、それがお前にタマゴを渡した理由になんかならないだろ! お前がどこでタマゴを貰ったかもよくわかんないし!」

 

 まだそんなことを言ってるのか、このお子ちゃまは。

 

「このタマゴはトレーナーカードを発行してもらうためにポケモンリーグにまで行って試験を受けた時に、その時に試験官をしていたワタルさんからもらったんだ。ワタルさんはね、すっごく優しいんだよ。僕がワガママで『なんかちょーだい』て言ったら簡単にタマゴをくれたぞ。僕もまさか本当にもらえるとは思わなかったさ。臆することなく行動を起こせば、実を結ぶことだってある。いい例じゃないか。もしかしたらワタルさんに会ったらお前たちもタマゴを貰えるかもしれないね」

 

 俺はベンチに飛び乗って、ベンチに置いていた二つのタマゴを撫でる

 

「ぐ、う………」

 

 まだ何か反論を探そうとしているマサヨシ君に、ダメ押しとばかりにモンスターボールを取り出して放ると

 

「出てこいピジョット。」

 

 ピジョットを取りだす。

 

「ピジョッット―――ッ!!!」

 

 人を二人以上乗せてもびくともしなそうな大きな体だ。

 三歳児である俺を乗せたところで、重量の内に入らないかもしれない。

 

 突然現れたピジョットに怖気づいたマサヨシ達。

 そんな不安がらなくても、襲わせたりなんかしねーよ。

 

 ピジョットはうれしそうに俺に顔を擦りつけてくる。

 俺はそんなピジョットの頭をワシワシと撫でまわした。

 

「僕にはポケモンリーグに飛び級試験をしに、自力で行ける手段(チカラ)もある。ならば行くのが当然だ。行動を起こす気もない癖に、持っているものを妬んでばっかり。そんな暇があるなら自分で飛び級の申請くらい出してみたらどうなんだ、ああ?」

 

 

 リュックから取り出したポケモンフーズを俺の手から食べるピジョット。

 でかい癖に、それでも俺のことが大好きなようで、俺の手で食べさせてもらうことが大好きな甘えんぼピジョットだ。

 

 愛い奴め。

 

「こっの!」

 

「お?」

 

 

 挑発しすぎたか? マサヨシが拳を握り締めて振りかぶった

 

「調子に、乗るなー!!」

 

 バキッといい音が聞こえる。

 視界が揺れる。当然だ。殴られたのだから。

 

 ベンチから転がり落ちて足元にポケモンフーズが散らばる。

 

「ピジョ!? ピジョットー!」

「いーよいーよ。平気だから。挑発したら殴られる。当然だろ? エリカ様のピジョットに喧嘩を売ってボロ負けしたことを忘れたの?」

 

 

 痛ってぇ………首ひねったな。

 俺が殴られるという状況に戸惑ったピジョットが慌てて俺に手を出したマサヨシにくちばしでつつこうとしているのを諫める

 このピジョットはエリカ様のピジョットに喧嘩を売って、ぼろ負けして配下になった、情けないほどに戦闘力は弱いピジョットだ。エリカ様のピジョットよりもレベルは低いし個体値も全体的に低い。だが、子供相手にそのくちばしでつつけば、大けがをしてしまいそうなほどレベルは高い。それに、誤って怪我をさせてしまえば元も子もないからね。

 全てのステータスを比べたら、実際、進化をしていないイーブイよりも最終進化までしたピジョットの方が強いからね。

 

「レンジ!」

「大丈夫か!」

「な、殴るなんて、ズルいわよ!!」

「イブイー!」

 

 三人組もイーブイも、俺のことを心配して駆け寄り、立ち上がるのに手を貸してくれた

 ペッと唾を吐くと、血の混じった唾液が噴水広場の地面に付いた

 

 ふーふーと息を荒くして興奮状態のマサヨシ。

 フゥとランは、さすがにマサヨシがここまでするとは思っていなかったようで、すこし心配そうに殴られた俺を見下ろしていた。

 

 マサヨシは3歳児にコケにされて、正気じゃ居られなかったんだろう。気持ちはわかる。

 

 俺みたいな人生をやり直しているチート野郎が相手なんだ。それを知らないマサヨシのプライドがズタズタになるのは、当然だ。まさしく俺のせいなのだから。

 

「それで? 僕を殴ったら解決するのか? しねーだろ。行動を起こさなかった自分のことを棚に上げて、自分が持っていなかったものを持っているものが羨ましくて、だから癇癪を起すくらいしかできることがない。単純だな。そんなことをする暇があるなら、今すぐポケモンリーグにハガキでも送って飛び級の申請でもしろってんだ。そしたらトレーナーに一歩近づけるってのに。」

 

 

 そう言って嘆息する。俺が煽っているのは、ただ発破を掛けているだけだ。

 これで、彼が自分の間違いに気が付けばよかったんだが、むしろ3歳児の俺が言っても皮肉にしかならないかもしれない

 もしかしたら、俺がしている行動は間違っているかもしれない。

 

 だが、それでも後悔はない。俺は言いたいことは言う主義だ。

 

 そんな殴られても泣きもしない。表情も変えない俺にさらにストレスを溜めてしまった彼は、そのストレスが爆発し、発狂する

 

「あああああああ!! うぜーんだよさっきから!! お前さえいなければ、お前さえいなければ俺はこんなことで悩むことは無かったはずなのに! 全部お前のせいだ! なんでいつもおまえばっかりいい思いしてんだよ! 捨て子の癖に! ナマイキなんだよ! いつもいつも見下したように見やがって! そんなに自分のポケモンを自慢したいならもっとよそに行けよ! なんでお前ばっかり………くそがあああああああああああ!!」

 

 

 俺ばっかりいい思いをしている、だって?

 お前からしたらそうかもしれないがなぁ………。生きるのに必死な俺はまずお金を稼ぐ手段を………つっても子供にはわからん話しか。

 もういい。何言っても無駄だわ、こいつ。

 

 それに、見下したような目とか、被害妄想もいいところだ。

 俺は自分の生徒たちは平等に扱っている自身がある。

 

 俺はロリコンやショタコンじゃないからな。

 今の俺はエリカ様くらいしか興味がない。

 

「ブイ………」

 

 だから俺を心配しながら足を踏むなんて器用なことをしないでくれ、イーブイ。

 

 

「お前さえ、お前さえいなければああああ――――――ッ!!!」

 

 

 そうして、絶叫しながらマサヨシが走った先にあるのは―――

 

「おい、それはやっちゃいけねぇよ!」

「知るかよクソが!! うわあああああああああああ!!!」

 

 

 俺がベンチから転がり落ちたおかげで、ベンチの上には俺のリュックと、“二つのタマゴ”しか存在しない

 

「こんなものッ!!!」

 

 人も持っているものが羨ましくて。

 自分にないモノが妬ましくて

 それでも、年齢という超えられない壁のせいで自分のポケモンを持つことも許されず

 なのに、目の前のガキが許されている現状が認められなくて

 

 彼は、タマゴの入った容器を頭上に掲げた

 

「おい、やめろ!!」

 

「へ、ヘヘッ! ザマーみやがれ!!」

 

 

 引きつった笑みと、涙の痕の残る目元をこちらに向け、マサヨシはその腕を思い切り振りかぶり―――

 

「やめろ―――――ッ!!!」

 

 

 

―――バリン!

 

 

 

 と、容器が砕ける音が、広場に響いた

 

 

 


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