3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第26話 3歳児は心配される

 

 

 再びポケモンセンターに戻ってきた

 

「ただいまジョーイさん。結婚してください」

 

 入るや否やプロポーズすることは忘れない。

 

>結局、警察って役に立たなかったね

 

 そうだな。せっかく通報したのにな。

 

「あ、レンジくん! すぐに来てください!」

 

 いつものごとくスルーされ、ジョーイさんに呼ばれて集中治療室へ。

 

 ガラスの向こう側には、管を通されて点滴を受けるピジョットが寝台に寝ていた。

 

「生きてるんでしょ、ピジョット」

「ええ………思ったよりも冷静ですね」

「あのくらいで死ぬんじゃ僕のポケモンとしては弱すぎる。生きてるに決まってる」

「厳しいくらいに信頼しているのね」

「当然」

 

 ニンフィアがそっと俺の手に触手を巻き付ける。

 安心しろ、ニンフィア。お前も強いよ。胸を張れ

 

「ただ、しばらくは安静にしていた方がいいでしょうね。身体に残っていた弾は摘出したみたいだけど、すこし大掛かりな手術だったから、ピジョットが元気になるまで、しばらくは様子見ね」

「………わかりました。ピジョットはタマムシシティのポケモンセンターに転送しておいてもらってもいいですか? そっちが僕のホームグラウンドだから」

「わかったわ」

 

 ピジョットは一時離脱。銃撃されたのなら仕方がない。

 移動はウインディとフーディンに任せよう。

 

「僕が捕らえてきた男は?」

「それが………逃げられたみたいなの」

「は? なんで?」

 

 俺の後ろ締めが緩かった? いや、そんなことはない。

 そもそも、縛らなくたって奴はウインディの“フレドラ”の直撃をくらって大けがを負っていたんだ。

 逃げられるわけがない

 

 だったらどうして?

 

 決まってる。

 それを手引きしたやつがいるんだ

 

 

「………最後にロープを持っていた人は誰?」

「それが………わからないんです」

「はぁ? 監視カメラくらいはあるでしょ、それは?」

「………電子機器がなぜかマヒしていて、どこも記録は残っていないの」

 

 つ、つかえねえ。

 と言いたいところだけど、くそ、やられたか。

 

 ロケット団が先に一手を打って来たらしい

 

「どうしていなくなったのかはわかりますか?」

「ええ………突然、ポケモンセンターに窓からスタングレネードが入ってきて、それで………」

 

 目と耳を、ポケモンセンター内部の人たちは潰され、一部システムをダウンさせられ、そしてまんまと人質を奪われた、と。

 

 じゃあ結局、誰が最後にロープを持っていたんだ?

 

 あの場にいたのは、本当にモブとしか言いようのないおっちゃんたちだったけど………

 

 もしかして、ロープを握っていた人ごと攫った? んなアホな。リスクが高すぎる。

 

「だーもー、考えてもわからん。そんな一瞬で人質をさらえるような奴は忍者かテレポートできるやつくら、い………あ………」

 

 そうか、テレポート………。何度も俺が利用しているじゃん。

 ポケモンの世界はテレポートが可能。だったら、オレンちゃん!

 

>ロケット団だって、ズバットゴルバットやドガースアーボばっかり使うわけじゃない。 あくまでもロケット団は『ポケモントレーナー』だからね。

 

 エスパータイプのポケモンを持っているヤツだっているだろう。

 くっそ、ぬかったな………。

 

>ロケット団が乱獲するポケモンの中にはケーシィも含まれているんだし、持っていないわけがないか。

 

 ………もうこうなったら容疑者なんて、探すだけ無駄だ。

 

「あーあ。やめやめ。こりゃあ警察なんてシステム無意味だわ」

「フィーア?」

「うん、もう帰ろう。さすがに萎えた。授業する気にもならないし、こんな事件に巻き込まれるとは思わないじゃん。」

 

 俺が完全にやる気を失ったのを悟ったニンフィアが「帰るの?」と視線を上げて聞いてくる。

 だからそれに頷いて、リュックを背負いなおした。

 

「あら、レンジくん。ポケモンの言葉が判るの?」

「わかんないよ。でも、ポケモンだってバカじゃないんだから、言いたいことくらいはくみ取れる」

「そう、それはすごい才能ね」

「ま、僕は天才だからね。これくらいできなきゃ、世界最強のトレーナーにはなれないよ」

 

 

>でた、ビッグマウス。そんなレンジが嫌いじゃないよ。

 

 ありがとよ。さて、ピジョットはここから転送してもらえるみたいだし、どうやって帰ろうかな。サイクリングロードは、俺の三輪車はアボーンってなったから通れないし、しょうがないからバスに乗って帰ろうかな。

 

>レンジ、その前にピクシーを回収しないと

 

 ああ、そうだったな。

 

「ジョーイさん、僕のピクシーは?」

「傷ついたラッキーを慰めてくれていたわ。ピクシーはこっちの部屋ね」

 

 

 そういって案内されたのは、子供部屋みたいに、おもちゃが散らばる部屋だ。

 ふーん、ポケモンは元気だから、遊びたい盛りのポケモンにはいいかもしれないけれど、カウンセリングするならもっと静かな場所でもいいんじゃないかな

 

>部屋が空いてなかったんじゃない? いろいろ立て込んでたし。

 

 それもそっか。仕方ないね。

 

「ピックシー!」

「ラッキー!」

 

 

 その部屋に顔を出すと、俺に気付いたピクシーが駆け寄ってくる

 ラッキーの方も、捕らえられそうになっていた頃の怯えは消えているようだ。

 

 ピクシーに任せてよかった。

 

>さすがにわたしたちには連れ去られそうになったポケモンの気持ちはわかんないもんね

 

 うん。

 

 

「ピィ、ピクシィ」

「ん? どうしたの?」

 

 

 ピクシーが「ねえ、ちょっと聞いて」と何かを言いたげに俺を見下ろす

 

 そのままクイクイと俺の服の袖を引っ張ってラッキーに近づける

 すると

 

「ラキィ………」

 

 ぺこりとラッキーは頭を下げた。

 

「ん、どういたしまして。今度はロケット団に捕まらないようにするんだよ」

 

 

 お礼が言いたかったのね。気にしなさんなって。俺自身はクズな自覚があるけれど、ポケモンには甘いという自覚もある。目に見える範囲でポケモンのピンチには駆けつけるよ。

 

「ラキッ!」

 

 

 ラッキーはコクリと頷いて、俺のリュックを叩く

 

「え、なに?」

 

 さすがに行動の意味が理解できずに首を捻るが

 

「フィ」

 

 ニンフィアが俺のリュックの中からモンスターボールを取り出して俺に手渡す

 

>ああ、そういうことか

 

 俺もやっとわかった。ピクシーと同じだな。

 

>そうだね。救ってもらった恩や、感謝。弱い自分に対する怒り。強くなれる可能性があるのなら、それに掛けてみたいんだろうね

 

 おっけ。面倒を見てあげようじゃないの。

 

「ついて来たいの?」

「ラッキ!」

 

 力強くうなずく。

 

「強くなりたい?」

「ラッキ!」

 

 拳を握り締めて頷く。

 

「わかった、おいで。今日からキミは、僕の仲間だ」

「ラッキィ!」

 

 モンスターボールを大きくして、ラッキーに向けると、ラッキーはボールのボタンに自らの手を触れる。

 受け入れる準備が完了しているポケモンには、ボールが割れる心配はしなくていい。

 

 カチッという音と共に、ラッキーはボールの中に自らの意思で入っていった。

 

 

>うひぃ! レンジのパーティに新たなポケモン。ピンクの悪魔が参入した!

 

 オレンちゃんの桃ミニリュウとタツベイを入れ替えたら、レンジのポケモンは全部ピンクになるぞ

 

>あれ、そうなっちゃう? あ、確かにレンジのポケモンはピンクに偏ってる!!

 

 

レンジのポケモン

 ニンフィア(ピンク)

 ウインディ(赤)

 ピクシー (ピンク)

 ラッキー (ピンク)

 ピジョット(肌色)

 タツベイ (グレー)

 

オレンちゃんのポケモン

 ミニリュウ(桃色)

 ピカチュウ(黄色)

 フーディン(黄色)

 

 

>うへはー、なんかこうしてみると、タイプが偏ってるね。

 

 俺の手持ちに水タイプが居れば、旅パとしては完成するんだろうが………ほとんどが成り行きで捕まえた戦闘要員だからな。

 ピジョットとフーディンは便利なパシリになっているけど。

 

>便利だから仕方ないね。

 

 

「出てきて、ラッキー」

「ラッキラッキー!」

 

 ボールを弾いてラッキーを出す

 

「俺(・)についてくるってことは、相当な覚悟が必要だぞ。強くなるってことは危険もはらむし、ロケット団とも戦うことがあるだろう。覚悟を決めたお前に言うのも無粋だが、ついてくると決めた以上。俺ももう優しい言葉は吐かない。俺についてこい」

 

「………! ラッキ!」

 

 俺の口調が変わったことに驚きつつも、本気で接してくれていることが伝わったのか、頷いて返す。

 

「そんじゃ、後のことは警察にまかせて、拠点(タマムシ)に帰るとするか」

 

 

>あれ、セキチクジムはいいの? せっかくセキチクに来たんだから寄っていけばいいのに

 

 ジム戦するのはオレンちゃんだろ。俺はエリカ様を倒してからでいい

 

>やー、わたしも今の戦力でキョウには勝てないからやめとこうかな

 

 賢明だ。

 

 

「あら、ラッキーはゲットしちゃったの?」

 

 ジョーイさんが目を丸くしてこちらを見下ろす

 

「うん。もともとはそんなつもりじゃなかったんだけど、ラッキーがどうしても僕についていきたいって」

「………そう。ポケモンに好かれるのは、大事な才能よ。ラッキーのこと、大事にしてあげてね」

「愚問」

 

 ニッと口角を上げてラッキーの背中を叩くと、ラッキーもむんと胸を張った

 

 

                   ☆

 

 

 さすがに事件に巻き込まれた俺たちをそのまま返すわけにもいかなかったらしく、警察の方がタマムシまで送ってくれた。

 

 子供たちの自転車も運んでもらったよ。

 楽ができたけど、帰るのが怖いな

 

 

                   ☆

 

 

「レンジさん、レンジさあああん! 警察の方から話はうかがいましたよ! どうして無茶するのですか!!」

 

 

 マンションに帰ったら、プンスコと腰に手を当てて怒るエリカ様に遭遇した

 

「レンジさんになにかあったら、わたくし、わたくしは………っ!」

 

 涙をためて、俺を抱きしめるエリカ様

 ぎゅうっと力強く抱きしめられたことで、それがどれだけ心配していたのかということが伝わる

 

「おちついてエリカ様。警察の人に何を聞いたの?」

 

 胸の感触を堪能することもなく、力いっぱい抱きしめられて、少し呼吸が苦しい。

 そのままエリカ様の背中にポンポンと手を回し、エリカ様の話を聞く

 

「全部ききました。本当に、心配しました………。三輪車で無茶な乗り方をしたことも、ロケット団に立ち向かったのも、全部です。拳銃で撃たれたレンジさんのピジョットがタマムシのポケモンセンターに転送されてきたという知らせを受け取った時には、生きた心地がしませんでした………」

 

 

 そっか。そりゃあ、僕の保護者であるおばあちゃんと、エリカ様に連絡がいくのも頷ける。

 

「………ごめん。今日はいろんな人に心配をかけてばっかりだ」

「当然ですっ! 下手したら死んでしまっているのですよ! たしかにレンジさんは正しい行動をしました。勇敢で、とても素晴らしい働きをしたと警察の方からもうかがいました」

「………」

「ですが、命あっての物です! 無茶をしないでください………わたしにとっても、レンジさんはとても大きな存在なのですから、死んでしまったら、わたくしには耐えられないじゃないですか………」

 

 ボロボロと涙をこぼしながらエリカ様はギュッと俺の顔をエリカ様の頬に寄せるように抱き寄せる

 

 こんなに俺を心配して泣いているのを見ると、この人に悲しい顔はさせたくないなと思うようになるなぁ

 エリカ様に悲しい顔は似合わない。

 

「ごめんなさい」

「許しません。不安にさせた罰として、今日は一緒にお風呂に入ります」

「いつもと変わらないじゃない」

「いつもよりじっくり入ります」

「それは恐ろしい」

 

 くくっと苦笑してみせると、エリカ様も、漸く笑みを浮かべて俺を解放してくれた

 

 

「エリカ様。今回は無茶をしてごめんなさい」

「はい、しっかりと反省してください」

「でもね、それで助かった子も居るんだ。僕のピクシーのように、ロケット団に捕まって売られることのないように、この子………ラッキーを助けることができたんだ」

 

 そういって、僕はラッキーの入ったモンスターボールをエリカ様に見せる。

 

 エリカ様はそのボールを見てから目を細め

 

「レンジさんは反省するべきことはありますが………その点に関していえば、誇っていいです。よく、がんばりましたね………」

 

 最後には俺の頭を撫でてくれたのだった。

 

 

 


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