3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

23 / 28
第23話 3歳児はやらかして心配される

 

 2,4,6っと。………2,4,6。ボールホルダーよし。

 バッグの中の木の実と傷薬、すごい傷薬、なんでも直し、穴抜けの紐。技マシンケース。折り畳み三輪車。よし。

 水筒よし、酔い止め薬、よし。絆創膏よし。消毒用アルコールよし。ひじ当て、ひざ当てよし。

 

 着替えよし。ピカチュウ耳カチューシャ………なんでこんなものがバッグに入っているんだ? まぁいいや。カチューシャよし。

 

「さて、行くか………」

「ブイッ!」

 

 足元のイーブイもフンスと息を吐いて俺の隣に並ぶ。

 やる気十分だね。俺はかたゆでタマゴ風に三輪車にまたがり、サングラスを装着する。

 

 ここでタバコでもあったら最高にハードボイルドかもしれない。

 

 でも、残念ながら自分の肉体が3歳児という低スぺックなため、どんなにハードボイルドにふるまおうと頑張っても、どうあがいてもソフトマイルドにしかならない。

 ちくしょう。

 

「あら? レンジさん、三輪車にのってどこかに出かけるのですか? 本日はジムも生け花教室もお休みですから、一緒にお買い物に出かけようと思ったのですけど………。お天気もいいみたいですからお昼寝日和ですし、お買い物の後には一緒にのんびりとしようと思ったのですが………残念です」

 

 

 

 そんな悲しそうな顔しないでエリカ様。

 お買い物って言っても、オレンちゃん用の布の買い出しでしょ? 俺(・)はいかないよ

 

>えーっ! わたしも買い物に行きたいのにー!

 

 今回は俺に譲れ。オレンちゃん。

 たしかにエリカ様に抱き着いておっぱいや腰つきを堪能品がら眠るのも最高に幸せだろうけれど、本当に魅力的だけれど、それはまた後日ということで………おっぱい………くそぅ………

 

>未練たらたらじゃないの、レンジ。

 

 あたりまえや! エリカ様と一緒に昼寝だぞ。魅力的過ぎて当然だ!

 

「ブイ………」

 

 イーブイも俺の足を踏まないでっ!

 

 

>うー………でもしょうがないか。先約があるからね

 

 ああ。それを反故にするわけにもいかないからな。

 

 

「ごめんね、エリカ様。僕、今日はトレーナーズスクールの子たちとサイクリングをするって前々から決めてたんだ」

「予定が入っていたのなら仕方ありませんね………仕方がないので、今日はもうお昼寝しま………すー………すー………」

 

 あ、寝た。

 

 エリカ様も忙しい身だ。

 最近はオレンちゃんを着せ替え人形にしてストレスを発散していたらしいけど、それができなくて、たまっていた疲れが押し寄せて、姿勢よく座ったままお昼寝するということに至ったようだ。なんでやねん。

 

 エリカ様は器用だね。

 たしかFRLGでもエリカ様は主人公と戦う前にしゃべっている途中で寝ていたし、かなりマイペースなんだろう。

 

 それに振り回されるオレンちゃんはかわいそうだ。

 

>レンジもでしょ

 

 だが、そのおかげでオレンちゃんが産まれてしまったと思うとなんだかエリカ様に感謝したくなる。

 

>まぁ、たしかにね

 

 

「それじゃ、行ってきます」

 

「ふぁい………気を付けてくださいねー………すぅ………」

 

「………」

 

 うーむ。

 

>お部屋まで連れて行ってあげようか。

 

 そうすっか。

 

 

 寝落ちしてしまいそうなエリカ様をなんとか誘導してお部屋のベッドに連れていき、エリカ様の着物の帯を緩めてから、再び三輪車にまたがり待合場所へと向かった。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「「あ、レンジ!」」

「来たな、レンジ!」

「遅れてくるなんて、ズルいわよ!」

「早く来いよ!」

 

 トレーナーズスクールタマムシ支部の俺の生徒たち。

 フゥとラン。

 それにケントとサナエちゃん。そしてハヤト。

 

 フゥとラン以外は影の薄い子たちとサイクリングの約束をしていたのだ。

 

 実はこの3人組も成績は優秀。

 

 まぁ、この俺が教えているんだ。当然の結果だな。

 

>自己評価高杉ワロタ

 

 うっせぇ黙ってろ。オレンちゃんが思っているよりもレンジの肉体的にも知能的にもポテンシャルは高いんだよ。3歳児の肉体でも縄跳びで3重跳びくらい簡単にできるほどにな。

 

>前世では無理して5重跳びが限界だったらしいね。

 

 まぁ、なんだ。前世でもアウトドア派だったから、体の動かし方の基礎はわかるし運動能力は高い。普通の三歳児よりはハイスペック幼児なはずだ。

 

>そんなハイスペック幼児が三輪車にのってサイクリングに行く、と。

 

 

 3歳児用の自転車なんてねぇんだよ………しかたねーっつの

 それにほら、よく見ろ。5歳児組はみんな補助輪付きだし、フゥとランは買ってもらったばかりの新品自転車だぞ。

 そんななかで3歳児の俺が慣れた手つきで自転車をこいでたらおかしいじゃねえか。

 

>そりゃあ、たしかに。まぁ、記憶は共有しているからわたしだって同じように自転車に乗れるわけなんだけどさ。

 

 だったらオレンちゃんにとやかく言われる筋合いはねーよ。

 

 

「みんなおまたせ! それじゃ、いこっか!」

 

 

 オレンちゃんのアホは放っておいてサングラスを頭の上にずらして三輪車の上から手を振る

 

>この、心の中の声と実際に口からだす幼い子供の演技が入った声のギャップがすごい

 

 はいはい。

 

 

 

                ☆

 

 

 さて、サイクリングロードにやってまいりました。

 

「うっひゃー! すごい! ドードーが自転車と競争している!」

 

 

 サイクリングロードは17番道路。出るポケモンはオニスズメ、コラッタ、ラッタ、ドードー。

 

 コラッタはマサラタウンそばで捕まえたし、街中でもたまに見かける。

 ラッタはそのうち進化させるからおっけー。

 

 オニスズメも捕まえたし、捕まえられるときに捕まえておくか。

 

 

「課外授業だ! 行けるね、イーブイ!」

「ブーイ!」

 

 訓練を重ねに重ね、エリカ様のジムトレーナーたちとも毎日のように戦闘訓練を行い、イーブイのレベルはすでに50を超えている。

 すごく強い。

 

「わあ! レンジのイーブイが戦うところ、初めて見る!」

「いつもピカチュウとミニリュウだもんね!」

 

 そりゃあ、今鍛えないといけないのはオレンちゃんのポケモンだからね。環境は整っているから、すぐにレベルが上がるんだよね

 

 三輪車にまたがりながら、俺のリュックの中から周囲を見回していたイーブイがリュックから飛び出す

 

「ブイブーイ!」

 

「勝負の世界も野生の世界も弱肉強食! イーブイ! あの群れの中で一番足の速い奴を見繕え! そんで勝て! そしたら味方に引き入れる!」

 

「ブイ!」

 

 イーブイはドードーの群れへと突っ込み、カマーンと尻尾を振って挑発する。

 

 すると、ドードーの群れの長のような一回り体の大きな二つ頭がダシン! と地面を強く踏みしめてイーブイの前に立ちはだかった。

 

 どうやらこのドードーは珍種らしい。

 

 すでにドードリオの片りんを見せているではないか。

 二つ頭の右脳担当がキリッとした目で怒ってそう。

 左脳担当が悲しそうというか、おびえている感じ。

 

 仲悪いのかしら。

 

 ドードーの図鑑はたしか、時速100kmで走ることができるんだっけ。

 ドードリオが時速60kmで走ることができるとかなんとか。

 

 進化したのに速度落ちるんかい。という突っ込みをしたくなる鳥ポケモンだ。

 

 それなのに素早さの種族値はドードリオになると伸びるというわけのわからない図鑑説明。

 もはやなにも信じまい。

 

 

「ドー! ドドー! ドッドドー!」「ドー………」

「………ブイ」

 

 イーブイたちのほうを見てみれば、ドードーの右脳が『ワレェ、ウチのシマになんの用じゃい』左脳担当が『そうだそうだ………』

 

 とイーブイに難癖をつけていた。

 いや、ドードーのセリフは俺のアフレコだからね。適当翻訳だからあしからず

 

 イーブイも『黙って私と勝負しなさい』と強者の雰囲気を隠すことなくいかんなく発揮して口元をにやけさせる。

 

 

 イーブイは鈍足だ。

 鈍足だが、レベルはすでに50を超えている。

 この辺のドードー程度がかなうわけがない

 

 

 はい、というわけでレーススタート。

 

「GOイーブイ! 行先はセキチクの入り口まで!!」

「ブイ!!」

 

 ダッと駆け出すイーブイ。

 そして、負けじとイーブイに続いてドードーの長が長い足を高速で回転させイーブイに食らいつく

 

 

「おれたちがおもってたバトルとちがう!」

「ポケモンしょうぶしないなんて、ズルいわよ!」

 

 ズルくないです、戦略ですー。

 

「っシャアオラ!! 追うぞァ!!」

 

 キコキコと三輪車を漕いで下り坂を猛スピードで下っていく。

 

「あ、わたしもいく! ズルいわよ!」

「フゥ、イーブイを追うわよ」

「ラン、レンジを追おう」

「まてー!」

 

 ギャハハハ! せっかくの休日だ! やり居たい放題やっちゃうよ俺は!

 

「おっ おお! おおおあああああああああ!!!?」

 

 

 イーブイとドードーがデッドヒートを繰り広げているなか、俺は重大なことに気付いた。

 

 

 サイクリングロードは長い長い下り坂。

 

 

 そして俺の相棒のスーパーマシンは三輪車。

 

 

 タマムシデパートで自分のお給料で買った5,980円の子供用三輪車だ。

 素材のほとんどがプラスチックでできている。

 

 こんな安物の三輪車に乗ったことのある人ならわかるだろう。

 

 三輪車には………

 

「ちょ! レンジ早すぎ!!? ズルいわよ!!」

「レンジ! ブレーキブレーキ!」

「さすがにそのスピードは危ないよ!!」

 

 そう、三輪車には、チェーンもついていなければ、ブレーキコードもない。

 

 つまり………

 

「止まる手段がなぁぁぁあああああああああああああ!!!!!?」

 

 

 もうとっくにペダルから足は放している。

 この状態からペダルに足を掛けようとしたら、比喩でもなんでもなく、間違いなく足がもげる。

 

 前輪の回転数とまったく同じ回転数でペダルが回っているのだ。ペダルに触れた瞬間、確実に骨が折れる。

 

 伊達に3歳児ボディは丈夫ではないのだ。

 

 マシンのコントロールだけは失ってなるものかとハンドルだけは必至でに入り込んでいるものの、3歳児パワーでどれだけ持つか。

 

 いやぁ、ははは、困ったね

 

>アホ――――――――!!!!

 

 いやあ、困った困った

 

 

>困ったじゃないよ! これ大けがするか死ぬやつじゃん!! レンジが死んだらわたしまで死んじゃうんだよ!! 考えなしにこんな意味わかんないことしてんじゃないよ―――!!

 

―――ガリィ!

 

>ちょ、今の音って………

 

 あっははは、やばい、今ちょっと足を地面につけて減速を図ったのに靴底が削れた。

 しかも、スピードに耐えかねてプラスチックの部品が砕けたっぽい

 

>うそぉおおおおおお!!!?

 

 

 今の自分の時速がおよそ80km。

 

 

「ブイ!?」

「ドー!?」「ドー!?」

 

「さいならあああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・‥‥‥‥‥…………………!!」

 

 

 まだ最大加速に入っていなかったらしいドードーとイーブイを追い越し、ドップラー効果を残しながら隣を過ぎていった俺を、目を丸くしながら眺めていた2匹。

 

「イ、 イブイー!!!」

 

 『レ、レンジーーー!!』とでも言いたげなイーブイが悲壮な顔でスピードを上げて俺を追いかけるものの、さらなる加速を遂げた三輪車にまたがる俺に追いつけるわけがない

 

 

 バギン! とプラスチックの部品がまた欠けた。

 

 あかん。これ死ぬ奴や。

 

>アホタレ――――――!!!

 

 しかも三輪車はタイヤがゴムでできているわけじゃないし、もちろんチューブもない。

 

 つまり、お尻にかかる振動がものすごい。痔になりそう。

 

>問題はそこじゃなぁぁぁあぁあああああい!!

 

「よっと………おおう、おおおう、おおおおおおぁぁああああああっはははははは!!!」

 

 俺はごくごく冷静に三輪車のサドルに左足を乗せて尻を浮かせる。

 頭の中はもうドーパミンもアドレナリンもエンドルフィンもドバドバでハイになっちゃってるな

 脳内麻薬もドッパドパ。

 

 冷静もくそもないね。

 

 

 うーん、サイクリングロードはほぼまっすぐ。そして、最後は直角カーブで百メートルほど進めばセキチクシティだったような。

 

 まだまだ坂道は長いな。

 

 そのうち時速100km超えそう。

 

 

 左腕でボールホルダーに手を伸ばし、右腕一本で舵を取る。

 

 

「ピジョット! 出ておいで!!」

 

「ピジョォ!? ピッジョットォオオオオ!!!」

 

 

 出てきてそうそう大絶叫

 慌てなさんな。あんたのご主人様は無敵やで

 

 

>ちょっと! 前!! 看板!!

 

 ふぇい? オウノウ!

 舵を取ろうとしたら確実に横転するから、突っ込むよ。

 

>ぶつかるじゃん!!

 

 

 バギン!! と前輪が完全に壊れた。

 タイヤが外れてプラスチックが高速でこすれて火花が散っている。

 

 ガクンと衝撃が体を貫き、思わず浮きそうになる体をどうにかサドルを踏みしめた左足で踏ん張って耐える。

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!! ピクシー!!」

 

 おかしなテンションのまま上空にモンスターボールを投げる。

 不安定な足場から放り投げるだけだから、それほど高さはない。

 

「ピィイイイイイイイイイイイ!!!!」

「イブイ―――――――!!!」

 

 出てきて早々に大絶叫。負けじとイーブイも絶叫を上げながら必死の形相でこちらに追いついてきた。

 前輪が壊れたことでスピードが落ちたんだな。

 

 ピジョットとピクシーは俺の意を組んで、落下中のピクシーをピジョットが受け止める。

 

 

>看板! というかお得な掲示板! もう目の前!!

 

 

 オウケイ! レンジ、飛びまーす!!

 

 

「っしゃおらああああ!!!」

 

 

 サドルに両足を乗せて思い切り跳躍した。

 

「レンジィイイイ!!!」

 

「いやああああ!!!」

 

「ブイ―――――!!!」

 

 

 

 それとほぼ同時に、三輪車が看板の支柱に激突。ガシャンという破砕音とともに、子供たちの悲鳴が俺の鼓膜を打った。

 

 くるくると回転しながら宙を舞う俺。

 

 うえ、酔った。

 

「ピクシー、“サイコキネシス”!! 僕を受け止めて!!」

 

 三輪車は大破したものの、空中に居ては俺のスピードは変わるわけがない。

 

 というわけで、ピクシーのサイコキネシスで俺を受け止めてもらおうと考えましたァ!

 

 

「ピックシーィイイイ!!!!」

 

 全力のサイコキネシスで俺の体を包み込むピクシー。

 

 次第にスピードはなくなっていくけれど、風がビュンビュンと頬を打ち、見える景色がいまだに高速で流れてゆく

 

「うぐぇ!?」

 

 さらには急激な減速による強烈なGが俺の体を襲う。

 

 急停止だったら看板にぶち当たるのとまったく変わらないダメージを追うことになるから、これでもましなほうだ。

 

 

 いくらピクシーでも、全力を出しても、こんな高速で動くものをサイコキネシスで動く物体を停止させろなんて言われても無理に決まっている。

 

 まずいな。このままじゃ俺のスピードのほうが勝って地面に激突してしまうぞ。

 

>道路のシミになるなんていやああああああ!!!

 

 足が空のほうを向いている状態で未来を分析していると、オレンちゃんが絶叫を上げる。

 ガンガンと頭に響いてすごくうるさい

 

 

 でも、どうにかする手段も思い浮かばない。

 

 大けがを覚悟で受け身を取る体制に入ると、腰のあたりがなにやら細長い布のような感触につつまれた

 

>………これは………!?

 

 まさか………!

 

 

 

              ☆ フゥSIDE ☆

 

 

「レンジィイイ!!」

 

 レンジの三輪車はブレーキがついていない。

 

 ドードーとレースをしようがしまいが、遅かれ早かれこういう状況になっているはずだったのだが、こんな状況になってから気付いても時すでに遅かった。

 

 レンジはまだ自転車に乗れるような年じゃない。

 

 だから当然のように三輪車だったのだが、こんなことになるならレンジをサイクリングに誘うんじゃなかった。

 と今になって後悔している。

 

「ラン、ラン! どうしよう!」

「フゥ、わたしにもわかんないよ!」

 

 慌ててランにどうするかの確認をとればランも気が動転していて何が何だかわからない状態だった

 

「「あ!!」」

 

 そして、レンジのほうに向きなおればそこで目に入ったのは―――

 

 ガシャン! と三輪車が看板にぶつかり、その衝撃でレンジが宙に放り出されてしまったところだった!

 

「いやあああああ!」

「レンジ――――!!」

 

 

 年下のトレーナーズスクールの生徒であるサナエちゃんとハヤトがレンジの惨状に絶叫を上げる

 

 こんなときこそ年長者である僕たちが落ち着いておかないといけないのに、頭のいいレンジがあんなことをして、大けがをしているかもしれない。そう思うと、心が落ち着かなかった

 

「あ、あれ? なんかいつのまにかピジョットとピクシーがいるよ!?」

「あ、なんかレンジの体が………ピクシーのサイコキネシスだ!」

 

 

 ランの言う通り、いつのまにかピジョットとピクシーがレンジの後を追うように空中を滑空しており、宙を舞っていたレンジの体が次第に減速していくのが見えた

 

 

「イブイ――――――!!!」

 

 

 さらには、レンジの一番のパートナーであるイーブイも、必死の形相で掛けていた

 あのまま地面に激突すれば、レンジはただでは済まないだろう

 

 イーブイは、なんだかんだでレンジのことが大好きなのだ。

 よくレンジの足を踏んでいるのを見かけるけど、その時のレンジは、たいてい何かに気を取られている。

 イーブイはもっと自分にかまってほしくて、控えめにアピールをしているというのは、遠目からでも見て取れる。

 レンジもイーブイのことは大事にしているし、互いの絆も愛情も、僕らがレンジから預かったペルシアンやキュウコンとは比べ物にならないほどに。

 

 どうやったらそんなに必死に自分のことを心配してくれるようなポケモンを育てることができるだろうか

 どうやったら、僕らもペルシアンやキュウコンの心を、それだけ開かせることができるだろうか。

 レンジは、口は悪いけれど、ポケモンとの絆を産む力は一流だ。ポケモンの知識も、大人よりもある。

 

 だからこそ、こんなにもポケモンたちはレンジのために必死になれる

 

「あれ? イーブイが、なんか光ってるよ!?」

「ほんとだ! もしかして………!」

 

 

 ランの言葉でイーブイをよく見てみると、確かにイーブイの体が光って見えた

 

 ポケモンは育てていくと、進化をする。

 時には懐き具合で。時には交換で。そして、時にはピンチの時に。

 

 

「レンジのピンチを助けたい一心で、イーブイが進化しようとしているんだ!」

 

 イーブイは、レンジのことが大好きで、愛おしくて、だからこそ、必死になれる。

 レンジのためなら、イーブイは奇跡を起こせる!

 

「がんばれ、イーブイ――――!!」

 

 

 

「ブイ―――――!!」

 

 

 

 イーブイの体が強く発光し、その小さな体が徐々に形を変えてゆく

 

 放物線を描きながら宙を舞うレンジのもとへと、細長いものが伸びる

 

 

 イーブイは必死に走りながら、進化をしながら、レンジを助けることだけを考えているんだ

 

 

「ブイ………フィア――――ッ!!!」

 

 

 進化が完了したのか、桃色の体で疾走しながら触手を伸ばす、見たこともないポケモンがそこにいた

 

「ニン………フィ――――――――――!!」

 

 必死で伸ばした触手はレンジの体をガッチリと捕まえ、ピンと触手を伸ばしたそのポケモンはガリガリと土煙を上げながらブレーキをかけ、猛スピードで地面に落ちそうになっていたレンジの体の勢いを、何とか止めることに成功した

 

 

「すごい………!」

「あんなポケモン、見たことない!」

 

 

 教科書に載っているポケモンは、カントー地方にいるポケモンばっかりで、ほかの地方のポケモンは見たことない。

 ホウエン地方のポケモンだったら少しはわかるけど………

 

 

 たしか、イーブイは進化ポケモン。

 

 ほのおの石でブースターに

 みずの石でシャワーズに

 かみなりの石でサンダースに進化したはずだ。

 

 そのほかにも、夜になるとブラッキーに

 昼にはエーフィに。

 

 たしか、森の中や氷の洞窟でも進化をするって聞いたことがある。

 

 それと同じように、イーブイは新たな進化をしたんだ!

 

 イーブイの進化の可能性は無限大だ!

 

 

「ニン、フィア? おまえ、イーブイから進化したのか?」

 

 レンジはイーブイの進化したポケモンが勢いを殺してくれたおかげで、ピクシーのサイコキネシスが働くようになったようで、空中でさかさまになりながら、自分に巻き付く触手をなでる

 

「フィアンフィー! ニンフィー! アンフィーア!!」

 

 何事かをレンジに向かって叫び続けるポケモン。

 

 ようやく僕たちもレンジが宙に浮いている場所にたどり着けた。

 

 ドードーもわけがわからないとばかりに首をひねりながら、近くでおろおろとしている

 

「あう、心配かけてごめん、ニンフィア。俺が悪かったよ………」

「アンフィ――――!!」

「うわっ!」

 

 地面に降ろされたレンジは即座にそのポケモンに押し倒され、両手足を押さえて馬乗りになった

 レンジは3歳だ。

 

 イーブイの時点でレンジの腰のあたりまでだった体が、レンジと同じくらいの大きさにまで成長しているんだ。

 レンジには、その子をどかす筋力はない。

 されるがままに拘束されてしまったようだ

 

「フィアー!」

「ぶへっ!」

 

 水色の瞳を潤ませ、大粒の涙を流しながら、進化したことによって生えた触手で動けなくしたレンジの頬を容赦なくぶっ叩いた

 

「アンフィー!」

「ブバッ!」

 

 さらに往復でもう一回たたいた

 

 さらには、タシタシとレンジの胸を前足で叩く

 

「ブブッ!」

 

 その間も、その子はレンジの頬を触手でビンタを続ける

 

 大粒の涙を流すその姿に、どれだけの心配をかけたかがよく見て取れた

 

「フィア、フィア~~~~~!!」

 

 ようやくレンジをたたくことに気がすんだのか

 レンジの胸に顔をうずめ、ボロボロと涙をこぼしながらくぐもった声を、そのポケモンはずっと漏らしていた

 

「………ごめんね、ニンフィア。ありがとう。すごく助かったよ」

 

 

 レンジはそのポケモンの頭をやさしくやさしく撫でて、ボロボロと涙を流すその子を抱きしめて、しばらく横たわっていた。

 








ドードー左「レースはどうなったの?」

ドードー右「スピードではちっこいのにも負けたし、あの人間の子供に負けたぞ」

ドードー左「あの人間の子供が勝ちってこと?」

ドードー右「そうなるな」

ドードー左「じゃあ、あの子が次の親分だね………」

ドードー右「そうなるな………」

ドードー「「………スピードキングの兄貴と呼ばせてもらおう」」



レンジ「ねんでやねん!」
ニンフィア「フィ………」(レンジの足を踏みつつ)




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。