3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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第17話 3歳児はあざとく勝利を手にする

 

 というわけで、フゥとランはナツメさんから借りたユンゲラーとバリヤードで一度バトルをして、成績優秀なこの子達はすぐにユンゲラーとバリヤードの本領を発揮させることができ、なかなかにいい勝負をした後、ナツメさんからお墨付きをもらって、後は筆記試験の成績がよかったら飛び級の許可をしてもいいと言ってもらえた。

 

「よかったね、フゥ、ラン」

「うん! レンジのおかげだよ!」

「ありがとう、レンジ!」

 

 ランが俺の手を取ってぎゅるんぎゅるんとジャイアントスイングをしている。

 

 うれしいのはわかったから!

 いくら俺が3歳児体型だからって、そんな危ないことをしないでくれないかな。

 こっちだって握力があるわけじゃないんだから!

 うっぷ

 

「あ」

 

 ぴゅーん!

 

 

               ☆

 

 

 

「さて、今度はレンジ君のジム戦だったかしら」

「あ、はい………おっぷ」

「大丈夫、レンジ?」

「目ぇ回ったお………」

「ピックシー………」

 

 眼を回している俺を心配するあまり、ボールから出てきたピクシーが俺の身体を支えてくれた

 ランのジャイアントスイングで壁に激突する前に、ナツメさんのユンゲラーが念力で俺の身体を浮かしてくれてよかった。

 危うくカエルみたいに潰れるところだった。

 

 

 パンパンと顔を叩いてしっかりと正面を見る。

 なんかまだ身体が回ってるみたいだけど、なんとかなりそうだ。

 

 

「お願いします。」

「レンジ、頑張ってね!」

「応援してるね!」

 

「レンジ君の所有バッジは0個。なので、私の最初のポケモンはこの子よ!」

 

 ナツメが投げたボールから飛び出したポケモンは

 

「シィ………」

 

「ケーシィか。こりゃまたよくわからん相手が来たなぁ………」

 

 

 ケーシィの覚えている技はおそらく“めざめるパワー”

 

 個体値によって技のタイプが変動するため、どのタイプなのか、喰らってみるまでわからない。

 

 ケーシィのレベルはおそらく12前後。

 

「ミニリュウ、行ける?」

「みゅー♪」

 

 正直、今回は俺のミスもあるけれど、無謀なことをしてしまったようだ。

 

 “オレンちゃん”のカードを間違って提示してしまったがために、オレンちゃんのポケモンで立ち向かわなければならないのだから。

 

 

 いや、レンジのポケモンを使ってもいいんだよ?

 俺の手持ちは実質12匹までなんだし。

 

 それでもさ。一応筋は通そうと思うんだよね。

 ポケモントレーナーなんだもの。

 

 しかしながら、レベル差がなんぼのもんじゃい。勝ちに行くよ。俺は。

 

 日が暮れるまでトキワの森で修業を積んだおかげで、ミニリュウのレベルは9になった。

 ピカチュウも一緒に頑張ったおかげで、レベルは7だ。

 キャタピーとビードルまだ育成していない状態である。

 

 そんな状態で、ナツメさんに勝てるだろうか。

 

 

「まぁ、やって見なくちゃわからないよね」

「ええ。ポケモン勝負は何が起こるのかわからないもの。ルールは“ありあり”で、私の使用ポケモンは2体よ。貴方は好きに交代したらいいし、キズぐすりなどのアイテムの使用も許すわ。」

 

「おっけー。負ける気はさらさらないんだよね。ちょっと準備するから、待ってて。ミニリュウ、おいで。」

「みゅ!」

 

 未だに攻撃技を覚えていないミニリュウでも、アイテムがありならば、方法はあるのだよ

 

 

「ではこれより、チャレンジャー“オレン”対ジムリーダー“ナツメ”のバトルを始める!」

 

 審判役のジムトレーナーが勝負開始のゴングを鳴らす

 

「先手はもらうわ。 “めざめるパワー”よ」

「シィ………」

 

 ケーシィから放たれた“めざパ”がミニリュウに殺到し、激突

 

「みゅー!!………みゅ?」

 

 が、思ったよりもダメージは少なかったようだ

 

 

「なるほど、その“めざめるパワー”は虫タイプ対策の炎わざだったんだね」

「ご名答。でも残念ながらドラゴンタイプには今一つの効果しかないの」

 

 ならば、チャンス。ナツメさんがわざわざくれたチャンスを無駄にしたらトレーナーとしても終わっているだろう。

 

「ミニリュウ、でんじは!」

「りゅうー、みゅー!」

 

 ケーシィに電磁波がヒット。

 同時にケーシィの身体とミニリュウの身体が淡く輝く

 その瞬間、ケーシィだけではなく、ミニリュウの身体にも小さな電流がパチパチと弾けているのが見える

 

「シィ………!」

「みゅぎ………ッ!」

 

「な、なに?」

「何が起こってるの?」

 

 

 何が起きているのかわからない様子のフゥとラン

 

「落ち着いて。ケーシィの特性なんだった?」

 

 だから冷静に、フゥとランに説明する。

 

「「 あ、“シンクロ”!! 」」

「正解」

 

 こんな時でも大事な生徒に授業をしたくなるのは、職業病だろうか

 

 シンクロは自分が状態異常にかかった時、その状態異常を相手にも掛けさせるという特性だ

 なぜか自分の身体がしびれてしまうミニリュウ。初めての現象に戸惑っているようだ

 

「ミニリュウ、首元にクラボの実があるでしょ。おたべ」

 

 だが、俺はそれを予測済みであるため、ミニリュウの持ち物は“クラボの実”を選択している。

 

 ミニリュウの夢特性は“ふしぎなうろこ”

 状態異常の時に防御力が1.5倍になる特性だが、エスパータイプが相手では特性の相性が悪い。

 

 奴らはみんな特攻が高いからね。

 

 俺が冷静に指示を出したことによって、ミニリュウは自分の首元に掛けてある袋の中からクラボの実をパクリ。

 麻痺が直り、再び全力でバトルに臨むことが出来るというわけだ。

 レンジくんは準備がいいのです。

 

「みゅー!」

「なるほど、このジムの特徴をよくわかっているようですね」

「うん。まぁこっちは何の攻撃も当ていないけど、ここからはずっと僕のターンだよ。」

 

 元気になったミニリュウ。そして相手はケーシィ。しかも技はめざパのみ

 

「まきつく!」

「みゅうー!」

 

 ケーシィの身体は小さい。

 

 ミニリュウでも巻きつくことは可能だ。

 

「そのまま絞めちゃいな!」

「みゅー!!」

「シィ………ッ!」

 

 

「ケーシィ、めざめるパワーで振りほどいて!」

「シ………ィ」

 

 ナツメがケーシィの身を案じて指示をだす

 しかし、ケーシィは身体がしびれて動けない。

 

「畳み掛けろ! まきつく継続! 締め上げりゃあ!!」

「みゅうー!!」

「シィ………」

 

 苦しそうなケーシィ。だが、まだケーシィはしびれて動けない。

 

「それなら………テレポート!」

 

 テレポ!? なるほど、たしかにそれなら巻きつくから逃げることができるだろう

 仕切り直しか………!

 

「ケーシィ!?」

 

 かと思いきや

 身体が動かないのに、自分を締め付けられ続け、ケーシィは、眼を回して気絶した。

 

 レベル差があるので電磁波がなければ負けていたのはこちらである。

 運も味方をしたようだ。

 

 電磁波さまさま! ありがとう電磁波! 

 

 しかし、続いてもう一匹を倒せる自信もないや。

 まぐれが二回続くとは思えない。

 たはは、どうしよう

 

 “プラスパワー”使っちゃうか?

 そりゃあ最終手段だぁな

 

「ポケモンの特性を理解し、戦術を立てたのは見事でした。ケーシィ。お疲れ様。」

 

 

 ケーシィをボールに戻すと、ナツメさんは次のポケモンを繰り出してくる

 

「バリバーリィ!」

「今度はバリヤードか………」

 

 きびしぃ………

 きびしぃよう。

 おそらくレベル差は倍くらい。

 

 Q.レベル50のポケモンがレベル100のポケモンと戦ったらどうなりますか?

 A.アボーン

 

 いくら互いにレベルが低いと言っても、それと同じだよ。ほとんど勝ち目がない!

 しかも、ミニリュウは攻撃技を全く覚えていないんだ。

 ケーシィを倒せたのも奇跡と言っていいくらいなのだから。

 

「どうします? ポケモンを変えますか?」

 

 ナツメさんがそう言って来る

 

 

「そうさせてもらいます。ミニリュウ。こっちにおいで」

「みゅー♪」

「おう、偉いぞ、よく頑張った。あとでオレンちゃんにめいっぱい褒めてもらいな」

「みゅー♪ みゅりー♪」

 

 かぁいい………。

 ミニリュウが足元から這い上がって、俺の首に巻きついて肩の上で落ち着く。

 ぷにぷにのピンクのマフラーみたいでかわいいだろ。

 

「あ………」

「お?」

 

 ナツメさんも、あまりの可愛さにすこし頬を染めていた。

 女の子ですねぃ

 

 あ、眼を逸らされた。それも恥ずかしそうに。

 心を読んだな? 隙を見せたらいかんのですよ。

 かわいいは正義。正義を全うしてこそのかわいいモノ好きでしょうに。

 自分に蓋したらあきまへんよ。

 

「そんじゃ、つぎに行きますか。ピカチュウ! GO!」

「ピカッチュ! チュピ?」

 

 元気よく飛びだして来たピカチュウ。

 しかし、なぜ出されたのかわからないらしく、首を捻っているようだ。

 

「ピカピカ、ピッピカチュ。チュピカ?」

「ふに? オレンちゃんかえ?」

 

 というか、ピカチュウにお前は誰だ、と言った視線を向けられた

 いやあ、確かにキミを捕まえたのはレンジじゃなくてオレンちゃんだけどさぁ。

 さっきフゥとランにキミを紹介した時もレンジの姿で出したというのに。

 

「うーん、そんなに雰囲気が違うかなぁ。変装道具一式は持って来てるけど………えい」

 

 バッグから取り出した白いカチューシャ(ニャースの耳とこばん付き)を頭に付ける

 

「みゅー♪」

「ピックシー!」

「ブイ………」

「ピカッチュ! ピカァピカ!」

 

 

 ミニリュウはうれしそうに首元でくねくねと踊り

 ピクシーもわたし(・・・)が女装していることを面白そうに喜び

 イーブイは呆れてため息を吐きながらわたしをジト目で見る

 ピカチュウは実はオレンちゃんが男だったと知り、仰天してひっくり返った

 

 ピカチュウ。キミは芸人向きだ。吉本系だね。

 

「というか、なんなのよこのニャースのカチューシャ。エリカお姉さま、またわたしのバッグに変なものを入れて………まぁいいです。」

 

 ちょっと呆れながらバトルに集中しようと正面を見ると

 

「………」

「………!!」

 

 普段はクールなナツメさんがすんごい目でこっちを見ていた。

 手をわきわきさせて、今にも撫でたそうにしている。

 

 ああ、ナツメさんはかわいいモノが好きなんだなぁ。

 ほっこりだよ。

 

 バリヤードも、眼が飛びだしそうなほど眼を見開いている。

 バトルどころではなさそうだ。

 

「………」

 

 今度は無言のままフゥとランの方に振り返ってみる

 

「「 ………。 」」

 

 二人とも驚いた表情のまま固まっていた

 口をパクパクして何も言葉が出ていない状態じゃないのさ

 

「………。」

 

 わたしは顎に手を当ててしばらく考え、ナツメさんとフゥとランに見える位置に、ゆっくりと移動してみた

 

 

「「「 ………。 」」」

 

 

 無言のまま三人ともわたしの行動を目で追うと

 

 わたしは精一杯のかわいい笑顔を作り、あざとく首を傾げながら目を細め、頭の右上と左肩に猫の手を持って来て、爆弾を落とす。

 

「―――にゃあ♪」

 

 

「「「 うっ! 」」」

 

 

 その瞬間。三人の金縛りが解けたかのように、時間が動き出した。

 

 フゥは鼻血を吹きだし

 ランはくらりとよろめいて

 ナツメさんは、鼻を押さえて膝をついた。

 

 

 ………。なんだこれ。

 

 

 ちなみにバリヤードはといえば―――

 

 メロメロ状態に陥って、鼻血の海に沈んでいた。

 

「あっるえ? 勝者、ニャースwithオレン?」

 

 そんなわたしの声だけが、バトルフィールドに響き渡るのだった。

 

 

                ☆

 

 

「まさか、そんな方法でバリヤードがやられるとは思わなかったわ。」

「なんでですか! 無効試合でしょあれ! というか、わたしが納得できませんよ!」

「いえ、アレは私とバリヤードの鍛錬不足よ。」

「負けを認めないでナツメさん! 明らかにおかしいから! ポケモン勝負ですらないから!」

 

 こんなバッジの取得の仕方は色仕掛けでリーグに挑戦しようとしたくりむちゃんに顔向けできないよお!

 猫仕掛けでバッジ貰ってもうれしくないんだよ!

 

「フゥ、しっかりして、フゥ!」

「あ、うぁ………」

 

 ランはフゥを膝枕して、必死に鼻血をチッシュで拭っていた

 ナツメさんはナツメさんでわたしを膝に座らせてカチューシャを付けたオレンジ色の髪をなでなで。

 

 審判の人も「こんなナツメさん初めて見た」と表情にしがたい不思議な顔をしていた

 

「“オレンちゃん”には、この“ゴールドバッジ”を差し上げるわ」

「受け取れないよお! というか、“レンジ”でいいから!」

「受け取りなさい。そして、もう少し抱っこさせてくれたらうれしいわ、“オレンちゃん”」

「しんぱぁん! 助けて! 助けてよぉ!」

 

「………勝者、チャレンジャー“オレン”っ!!」

「ブルータス!!」

 

 

 こうして、オレンちゃんはめでたく一つ目のバッジを手に入れることができました。まる。

 

 

 

「もうすこし、もうすこしだけ!」

「はーなーしーてー!」

 

 

 めでたい………のか?

 

 

 


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