「ただーい」
「あ、レンジ!」
「待ってたわよ!」
トキワシティで捕まえられるポケモンはすべて捕まえた。
とはいえ、夕方になってしまい、ピジョットに乗って帰ってもお夕飯までに間に合わない。
ゆえに、ユンゲラーに頼んでタマムシマンションまでテレポートをしてもらった。
なんだこれ、便利すぎる。
ゲームだと野生から逃げる程度しか使い道がなかったのに、現実になるとここまで利便性が高い技もなかなかないよ
これ、バトルでも相手の背後にテレポートして奇襲を仕掛けることが出来そうだ。
ゲームではできない戦法。“テレポート戦法”いいかもしれない
マンションに戻ると、そこにはフゥとランが居た。
「お、どうしたの、二人とも」
「レンジの言った通り」
「ここでポケモンのお世話をお手伝いすることにしたの」
なるほど。
やはりいい子じゃないか。
自分にできることを把握して、将来の夢に突っ走れるならそのための努力は惜しまない。
将来の夢なんてない俺にはできない事だ。
「レンジはいっぱいポケモンを捕まえたんでしょ?」
ランが俺を抱っこしてソファに座る。
俺はそんなランの上に座る形でランの話を聞く
授業で実際にリーフの石や炎の石を使ってポケモンの進化を生徒たちに体験させたこともあるとおり、授業中に、自分が捕まえたポケモンたちを使って説明をするときがある。
だから、俺がそれなりにポケモンを捕まえていることはわかっているんだ。
「うん。それがどうしたの?」
「いろんな種類のポケモンを、見せてほしいの」
かわいい生徒がそう言うなら仕方あるまい。
というか、いつまで俺を抱っこしているつもりなのかね、幼女よ。
「いいよ。一通りのお世話の仕方も教えてあげる。なんだかんだ言っても僕も新米トレーナーだから、日々勉強しているんだよ。」
最近の俺のスケジュールは、8時~15時は仕事。それから勉強、もしくはポケモン達のお世話と特訓に当てられる。
夜も割と机にかじりついて夜中の2時までポケモンのお世話の仕方やマッサージ、食べ物の勉強に集中している。
ゲームではわからない部分も多いのだ。ならば、ゲーム知識に胡坐をかくわけにもいかないし、こちらも学ばなければならない
なにより俺はポケモンが大好きなのだから、当然だ。
レンジがただのおちゃらけた変人だと思ったら大間違い。思いのほか勤勉レンジだったんだぞ。
「それじゃ、出てきて、みんな!」
出したのはウインディとタツベイ、ピクシー、ピジョット、イーブイにユンゲラー。ついでにミニリュウとピカチュウ、キャタピーとビードルもである。
ここがマンションの1階でよかった。
重量で潰れちゃうもんね
「こんなにいっぱい………!」
「僕たちにもできるかな」
「それをチャレンジすることから始めるんだよ。この子達は意思の無い人形なんかじゃない。性格もあるし、感情だってある。もしもトレーナーがお世話を怠れば、ポケモンは簡単にトレーナーに牙をむくよ。誰だって、自分を利用しようとするやつはいけ好かないからね。」
イーブイだって、俺のことが気に食わないと思った時には足を踏んできたりするしね。
「ポケモンは、人間よりもはるかに力を持っている。でも、人間の指示に従って人間のために動いてくれるのはなぜか。ちゃんとポケモンに対して誠意をもって接しているからだと思うんだ。」
俺はランの膝から降りて、ウインディの元に歩み寄り、喉をくすぐる。
すると、ウインディは気持ちよさそうに目を細める。
これが元の世界で相手が虎だったら、こんな真似はできない。
コレができるのは、それだけポケモン達の知能が優れている証拠だ。
ウインディの“体長”ではなく、“高さ”が2mと、かなり大きいワンちゃんだ。高さだけで1.7mのリザードンよりも大きい
つまりだ。俺はウインディにパクッとやられたら簡単に死んじゃうってことだ。
むしろ乗っかられただけで死んじゃう可能性もある。
それでも、ウインディはきちんとそのことを理解して、自分の方が強いのだということも分かっていながら、トレーナーの指示に従う。
ウインディの視点では把握できないことを、全体を俯瞰しているトレーナーが補完しなければ、いい動きができないからだ。
つまり、持ちつ持たれつ。互いに信頼し合えなければ、ポケモンに食い殺されるのは、俺の方なのだ。
「ポケモンは人間の言葉をしっかりと理解している。だから返事もするし、言った通りに行動してくれる。そんな子たちはもちろん個性や性格が存在している。好きなモノや嫌いなものもある。把握するのは大変だろうけど、それがわかればちゃんと付き合い方もあるんだ。」
「ふーん」
聞いているのかいないのか、フゥはミニリュウを抱き上げてピンクの身体を撫でる
「たとえば、この“ピクシー”。この子はおそらくなんだけど、もともとはオツキミ山でロケット団に乱獲されてしまったピッピなんだ。」
「えっ!?」
俺の突然のセリフに、ギョッとしてこちらを向いたフゥ。ランも同様に目を見開いてこちらを見ていた
「この子は当初、僕に怯もえていたんだよ。」
「え、でも………この子はレンジのことがすごく好きなのに………。そんな風には見えない」
ランがピクシーの手を握って涙目で彼女を見つめる。
ピクシーはそんなランに気にするなと笑みを浮かべてランの頭を撫でる
「親元から引き離されて、一人になったこの子は、ロケットゲームコーナーの景品だったのを、僕が買ったんだ」
「買ったって………」
「買ったんだよ。言葉通り。ポケモンを売買するのも、捕まえるのも、
ロケット団じゃなくても、“ポケモンハンター”なる職業の者もいるからね。
それに、研究者だったらポケモンを解剖したり実験したり、いろいろ人道的に不味いこともあるはずだ。オーキド博士やジョーイさんだってそこは例外ないはず。
しかし、彼らの研究がなければ、この世界はもっと混沌としているのだから。
それもダメあれもダメと駄々をこねるわけにもいかないと言うのもまた事実。
「そんなピッピと仲良くなるためにも、僕がやったことって言ったら抱きしめて僕も君と同じで親とも二度と会うことは出来ない。僕は君の敵ではないと言うことだけだった。それからゆっくりと時間をかけて仲良くなったんだよ」
「そうだったんだ………」
「ピクシーはそんな弱かった自分が嫌いでね、トレーニングにも必死についてきたし技マシンでたくさんの技を覚えたんだ。だから、たぶんこの子だけでエリカ様を………つまりレインボーバッジは手に入れられると思う。」
「ピックシー!」
むんと胸を張って見せるピクシー。
すごいよ、お前は。
技マシンを覚えるのって、ポケモンに無理やり技データをインストールしているようなもので、実はポケモンにとってはかなり苦痛を伴う行為らしい。
それでも、ピクシーはそれを受け入れて、自分が強くなる方法を選んだんだ。
俺はそれを尊重したい
それでも、本気のエリカ様には敵わないだろうけどね
本気のエリカ様は水タイプも炎タイプも悪タイプ使うんだ。さすがに厳しいよ
「ポケモンそれぞれに、過去があり、事情がある。それも踏まえて、きちんとポケモンと向き合って、どう育成するかを“考える”。それがトレーナーの仕事だと思うんだ。ただ育てればいいって言うだけなら、野生のままの方が幸せだ。」
「そっか。“トレーナーになりたい”って漠然と思うだけじゃダメなんだね」
「ありがとう、レンジ」
「いやいや、お役にたてたようでなによりだよ。」
この子達が何を持ってトレーナーになりたいのか。その答えを見つける手助けになったのなら、充分だ。
「それと、飛び級のことなんだけど………」
「レンジに聞いておきたくて………」
「なに?」
この世界のホウエン地方には“塾帰り”なるトレーナーが存在していることから、飛び級の制度があることは明白。
しかし、ルビサファ時代よりも確実に3年以上はまえの時代であるこのカントー編。
それにフゥとランというロリショタジムリーダー。
そのことから考えると、今はまだ飛び級の制度が浸透していないのかもしれない。
おそらく、フゥとランがジムリーダーとして主人公たちと戦うのは9歳~11歳。
現在のフゥとランの年齢は7歳。
トレーナーとしての経験を積んで最低でも3年。ジムリーダーになりえる才能は、この子達にはあるはずだ。
主人公たちの年齢って、ORAS時代で考えると、女主人公の胸の大きさも加味して14歳くらいに見えるんだよね。
そうなると、フゥとランが11歳でもややしっくりくるかも。
ならば………カントー地方で、俺が塾帰りを量産してやればいいじゃないか!
タマムシトレーナーズスクールで飛び級の生徒が増える
↓
噂を聞きつけた父兄たちが子供を預ける
↓
更に飛び級
↓
塾帰りを量産
↓
その子たちを教えた先生は誰だ!
↓
俺だ
↓
お給料がさらにアップ
「ぐふふ」
「レンジ?」
「聞いてる?」
「聞いてない」
「「 聞いて! 」」
変な笑い方をしていたらフゥとランに心配されてしまった。
いけないいけない。
「飛び級について、お前たちの為に僕もいろいろ調べてみたんだけど、まず、年齢制限がない事。だから僕がトレーナーになることも可能だった。まぁ、だからこその飛び級なんだけどさ。」
コクリと頷くフゥとラン
「次に、ジムリーダーの承認が必要って言ったよね。それは飛ばして、ポケモンリーグに申請を送れば承認したジムリーダーが責任を持って監督を務めることによって、ジムで飛び級試験を受けることが出来る。つまりわざわざポケモンリーグにまで行かなくてもいいってことだね」
となると、ホウエン地方のジムリーダー“ツツジ”もトレーナーズスクールの講師をしながらジムリーダーをしていることからジムリーダーとしてよりも、飛び級試験の承認をたくさんすることが仕事になっているのかもしれないな。
トレーナーが増えればポケモンの管理もしやすくなる。
一石二鳥。
まぁ、レンジとオレンちゃんの場合はエリカ様がカントーのポケモンリーグ本部に連れて行ってくれたんだけどさ。
「というわけで、思い至ったら即行動。今から一緒にヤマブキシティに行くよ」
「「 え?? 」」
「実はもうお前たちの飛び級の申請はポケモンリーグに受理されているんだ。僕が勝手にやっておいた。あとはジムリーダーの許可を取ってお前たちに飛び級の意思があればいいと思っていたんだけど、問題ないみたいだからね。夕方だけどナツメさんはまだジムに居るはずだ。」
飛び級の申請に掛かる費用も、フゥとランの親御さんからトレーナーズスクール経由でいただいている。
レンジは準備がいい男なのです。ふはははは!
むむ? そんなジト目で見ないでくれイーブイ。勝手な行動をしたってのはわかってるんだから。
☆
「たのもー!」
「「 し、しつれいします 」」
というわけで、ヤマブキジム。
タクシーを捕まえてヤマブキシティまでやってきました。
タクシー代? そんなもんはトレーナズスクールの経費で落とせます。
あ、領収書ください。ってね。
「おーっす未来のチャンピオン! って、あれ? なんか小さいな。観光か?」
なんかジムの説明のあんちゃんが話しかけてきたので、ナツメさんに会いたい旨を伝える
「あ、ついでにジム戦もしてみたいな」
「ジム戦? はっはっは、バカ言っちゃいけねェよ。最低でも10歳を超えてから挑戦しな。」
「あ、僕はトレーナーだよ。はい、ID。確認してみて。」
俺から受け取ったトレーナーカードをなんかの機械に通して確認をするあんちゃん
「ふむふむ、ほほう、キミが噂の最年少トレーナーの“オレン”だね。判った。通っていいよ」
「あ!」
「「 オレン? 」」
何度も出し入れしてるせいでカード間違えた。ごちゃごちゃになっちゃってる。
ちゃんと整頓しないとダメだな
幸いにして、元からかわいい系の顔立ちにオレンジ色の頭。レンジとオレンちゃんの共通点は多いので、わりとあっさり同一人物と思われてしまった。
きっと深く確認を取ったりもしないのだろうし、まぁいいや。
「ここのジムはエスパータイプのジムだ。ナツメのポケモンは超能力を使ってお前のポケモンを惑わすぜ! 床のパネルもワープパネルになっていて簡単にはナツメにたどり着けない仕掛けになっているんだ。頑張ってみてくれ」
「おっけー。」
「レンジ、本当にジムに挑戦するの?」
「するよ。僕だってジム戦は初めてだ。でも、フゥとランをここに連れてきたついでにやっておきたいって思ってたんだよね。ジム戦がついでってのもなんか失礼だけどさ。せっかくトレーナーになったなら、ジム戦をクリアしてなんぼでしょ」
ワープパネルねぇ。
元の世界では考えられないシステムだよね。
とりあえず、フゥとランを連れて目の前のワープパネルに乗り込む。
「わ! 本当にワープした! すっげー!」
「あはは、おもしろーい!」
「レンジがはしゃいでるところ、初めて見たよ。でも面白いな」
ワープした部屋にはトレーナーが居たけれど―――
「あ、あそこに人が」
「フゥ。あの人と目を合わせたらダメだよ。眼を合わせたらバトルの合図なんだから。」
「そ、そうなの?」
「バトルを避けるなら、眼を合わせたらだめ。近くに寄ってもダメ。あの人の話しかけてくる距離は、およそ5m。その範囲に近寄らなければ、あの人が僕に対してバトルを仕掛けてくることは無い。こうして、僕はポケモン達の体力を温存したままナツメさんと戦うことが出来るんだ」
「な、なるほど」
というわけで
「北西」
「え? なに?」
「どうしたの?」
「いいから、ついてきて」
フゥとランを連れて、北西のワープパネルを踏む
「南西」
「どこ行くの?」
「同じような部屋ばっかりだけど、迷っちゃうよ!」
踏む。
「南西」
「待ってよレンジ!」
「置いてかないで!」
で、
「ほい、到着。」
「わ! あの人がナツメさん!? 美人だねー!」
「ほ、本当に着いちゃった………」
人とバトルすることなく、ナツメの部屋にたどり着きました。
「おどろいたわ。まさか一度も迷うことなくこの部屋にたどり着くなんて………」
「まぁね。僕は超能力者だからね。」
「ウソね」
「ウソだ」
「ウソよ」
「うん。ウソだよ。えーっと、僕はナツメさんにジム戦を挑むけれど、それとは関係なしに、この僕の生徒たちの飛び級試験の承認をお願いしたくてここに来たんだ」
こんなふざけた挑戦者に、クスクスと笑うナツメさん。
やばい、かわいい。結婚したい
「いいえ、結婚は無理ね。子供には興味ないし」
「心を読んであっさり振らないでくださいよ。」
「ブイ………」
「そしてイーブイも! 僕の足を踏まないで!」
いつの間にか俺の足を踏んでるんだから! もうっ!
「あなたはそのポケモンにそうとう好かれているみたいね。」
「まぁね。僕はブイズが大好きだから、この子のことが大好きだよ。相思相愛だよ、ね♪」
「………(ぷいっ)」
あらかわいい。
俺の思いは一方通行らしい。
「ジム戦の件は置いておくとして………あなたたち」
「「 はい! 」」
「そちらのレンジ君から手紙で話は聞いているわ。飛び級したいんですってね。」
一応話は通しているのです。アポなしで来たけど、話は通しているのです。
自分勝手? 知ってる。
「いいわよ。私が貴方たちをテストしてあげるわ。それで、合格点に達しているなら本部に飛び級承認の書類を送ってあげるわ。」
「本当!?」
「やったぁ!」
「今はもう夕方だから筆記試験を行うことは出来ないけれど、ポケモン勝負の舞台を整えるくらいはできるわ。私のユンゲラーとバリヤードを貸してあげる。二人でポケモンバトルをしてみなさい。それを見て、実技の判断を下すわ。レンジ君、あなたとの勝負はそれからよ」
「あい。」
そもそもついでだったからね。
さすがにナツメさんに勝てるかどうかはわからないけれど、精一杯やらせていただきます。
くりむ「レンジくーん、どこにいるのー?」
レッド「くりむ。そろそろ帰ろう。きっとさすがにこの時間まで森の中にいるとは考えづらいよ」
くりむ「そうかもしれないけど、もしも入れ違ってたら………」
レッド「やれやれ、頑固なのも考え出したら一直線なのも、レンジに説教されてもかわらないな」